説明

車載用レーダ装置、および車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法

【課題】ノイズレベルの変化や器差があっても、精度よく他のレーダ等からの電波干渉の発生を検知する。
【解決手段】上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波を送信する送信部(10)と、変調波が対象物で反射した反射波を受信する受信部(20)と、送信波と反射波の周波数差を持つビート信号を周波数解析し、周波数上昇時/下降時それぞれの周波数解析結果からピーク周波数を算出し、両ピーク周波数から対象物の距離と相対速度を算出する信号処理部(30)とを備え、信号処理部は、周波数上昇時/下降時のそれぞれのビート信号の周波数解析における上昇時ノイズレベルと下降時ノイズレベルとを比較し、一方のノイズレベルが他方のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する干渉検知部(34)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外乱電波による干渉発生を精度よく検出することのできる車載用レーダ装置、および車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載される車載用レーダ装置は、他車との車間距離や相対速度を計測する機能を有し、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、あるいは先行車との衝突軽減・防止装置などの車両制御装置に利用されている。
【0003】
このような用途の車載用レーダ装置には、周波数変調連続波(FMCW:Frequency Modulated Continuous Wave)が多く利用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ここで、車載用レーダ装置の問題点の1つとして、他のレーダやその他電波を発信する装置からの電波を受けた場合に、その外乱電波によりビート信号にある特定の周波数の信号やスパイク上のノイズが重畳する点が挙げられる。FMCW方式のレーダ装置の場合には、外乱電波と送信周波数が近接している瞬間だけ外乱電波の影響を受け、ビート信号となることが多い(例えば、後に詳述する図2参照)。
【0005】
この外乱電波の影響を受けたビート信号を周波数解析した場合には、外乱電波の影響は、特定の周波数だけではなく、あらゆる周波数において、受信レベルが上昇する形として現れる(例えば、後に詳述する図3参照)。すなわち、ノイズレベルがあらゆる周波数において上昇することとなる。このように、あらゆる周波数においてノイズレベルが上昇すると、本来検知すべき対象物による反射波に対応するビート周波数のピークが、ノイズレベルに埋もれて検知できなくなることがある。
【0006】
この状態を、以下の説明では、「干渉が発生した状態」と呼ぶこととする。干渉が発生した状態が継続すると、正常な車載用レーダ装置の動作は期待できない。このため、干渉が発生した場合には、この状態を車載用レーダ装置から車両制御装置に通知し、干渉がなくなるまで動作をキャンセルする、あるいは運転手に通知する必要がある。
【0007】
そこで、受信レベルを毎回計測し、前回までの計測時の受信レベルに対し、今回の受信レベルが閾値以上に変化した場合に、干渉が発生したと判断する従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−225602号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】レーダ技術 電子情報通信学会 ISBN4−88552−049−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
ビート信号を周波数解析したときの受信レベルのうち、ノイズレベルについては、車載用レーダ装置の回路内で発生するものである。そして、特に、高周波回路では、熱によりノイズレベルが増減する。また、車載用レーダ装置の器差も存在し、個々の車載用レーダ装置ごとに、ノイズレベルの大きさは異なる。これらのノイズレベルの変化や器差が大きいと、干渉が発生したと判断する際の閾値の決定が困難となる。一方、ノイズレベルの変化・器差をできるだけ減らすためには、コストアップとなる問題がある。
【0011】
また、この従来技術は、干渉が発生していない状態から干渉が発生した状態への変化により、干渉の発生を検知するものであり、観測開始直後からすでに干渉が発生している場合には、この変化を捉えることができない。
【0012】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、ノイズレベルの変化や器差があっても、また、観測開始直後から干渉が発生していたとしても、精度よく他のレーダ等からの電波干渉の発生を検知することができるFMCW方式の車載用レーダ装置、および車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る車載用レーダ装置は、上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波を送信する送信部と、送信された変調波が、距離および相対速度の検出対象である対象物で反射した反射波を受信する受信部と、送信波の周波数と反射波との周波数差を持つビート信号を周波数解析し、周波数上昇時および下降時それぞれの周波数解析結果からピーク周波数を算出し、周波数上昇時のピーク周波数と周波数下降時のピーク周波数から対象物の距離と相対速度を算出する信号処理部とを備えたFMCW方式の車載用レーダ装置において、信号処理部は、周波数上昇時のビート信号の周波数解析における上昇時ノイズレベルと、周波数下降時のビート信号の周波数解析における下降時ノイズレベルとを比較し、上昇時ノイズレベルまたは下降時ノイズレベルのいずれか一方のノイズレベルが、他方のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する干渉検知部を有するものである。
【0014】
また、本発明に係る車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法は、上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波を送信する送信ステップと、送信された変調波が、距離および相対速度の検出対象である対象物で反射した反射波を受信する受信ステップと、送信波の周波数と反射波の周波数との周波数差を持つビート信号を周波数解析し、周波数上昇時および下降時それぞれの周波数解析結果からピーク周波数を算出し、周波数上昇時のピーク周波数と周波数下降時のピーク周波数から対象物の距離と相対速度を算出する信号処理ステップとを備えたFMCW方式の車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法において、信号処理ステップは、周波数上昇時のビート信号の周波数解析における上昇時ノイズレベルと、周波数下降時のビート信号の周波数解析における下降時ノイズレベルとを比較し、上昇時ノイズレベルまたは下降時ノイズレベルのいずれか一方のノイズレベルが、他方のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する干渉検知ステップを有するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車載用レーダ装置、および車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法によれば、1または複数の送信周波数における周波数上昇時と周波数下降時のイズレベルを比較することで、干渉の発生を検知することにより、ノイズレベルの変化や器差があっても、また、観測開始直後から干渉が発生していたとしても、精度よく他のレーダ等からの電波干渉の発生を検知することができるFMCW方式の車載用レーダ装置、および車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1における車載用レーダ装置を利用したACCシステムの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース1の図である。
【図3】本発明の実施の形態1における先の図2のケース1の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース2の図である。
【図5】本発明の実施の形態1における先の図4のケース2の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態1における窓関数として使用されるハニング窓を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態1の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース3の図である。
【図8】本発明の実施の形態1における先の図7のケース3の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。
【図9】本発明の実施の形態1の信号処理部内の干渉検知部の一連処理を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態2の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース4の図である。
【図11】本発明の実施の形態2における先の図10のケース4の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。
【図12】本発明の実施の形態2の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース5の図である。
【図13】本発明の実施の形態2における先の図12のケース5の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。
【図14】本発明の実施の形態2の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース6の図である。
【図15】本発明の実施の形態2における先の図14のケース6の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。
【図16】本発明の実施の形態2の信号処理部内の干渉検知部の一連処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の車載用レーダ装置、および車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における車載用レーダ装置を利用したACCシステムの構成図である。本実施の形態1では、周波数上昇、下降の2種類の変調で計測を行う。
【0019】
図1に示したACCシステムは、車載用レーダ装置1、ユーザーインターフェース装置101、エンジン制御ECU102、およびブレーキ制御ECU103で構成されており、社内LAN110を介して相互に接続されている。
【0020】
車載用レーダ装置1は、送信部10、受信部20、および信号処理部30で構成されている。そこで、本発明の車載用レーダ装置1の内部構成および動作について、送信部10、受信部20、信号処理部30の順に、詳細に説明する。
【0021】
送信部10は、VOC11、分配器12、および送信アンテナ13で構成されている。VOC11は、信号処理部30からの指令に基づいて、送信信号の周波数の上昇、下降を制御する。分配器12は、VCO11が発生した送信信号を送信アンテナ13と、後述する受信部20内のミキサ22へ分配する。また、送信アンテナ13は、送信波を車載用レーダ装置外部に放射する。
【0022】
また、受信部20は、受信アンテナ21、ミキサ22、アンプ23、ローパスフィルタ24、およびA/D変換器25で構成されている。受信アンテナ21は、送信波が、車載用レーダ装置1が検出する対象物120で反射した反射波を、受信信号として受信する。本実施の形態1では、2つの受信アンテナを持つ場合を例示している。
【0023】
ミキサ22は、受信アンテナ21で受信した受信信号を、分配器12で分配された送信信号とミキシングし、対象物120の距離、速度、方位に応じたビート信号を発生する。アンプ23は、ミキサ22が発生したビート信号を増幅する。ローパスフィルタ24は、増幅後の信号から、不要な高周波成分を除去する。また、A/D変換器25は、ローパスフィルタの出力信号をアナログ信号からディジタル信号に変換する。
【0024】
さらに、信号処理部30は、信号処理を行うCPUに相当し、窓関数処理部31、FFT処理部32、対象物算出部33、干渉検知部34、およびACC処理部35で構成されている。窓関数処理部31は、各受信アンテナ21に対応するビート信号をA/D変換したディジタル信号に窓関数をかける。FFT処理部32は、窓関数処理部31が出力した信号に対し高速フーリエ変換(FFT)を行う。
【0025】
対象物算出部33は、FFT処理部32が出力する、送信周波数上昇時のビート信号と送信周波数下降時のビート信号のそれぞれのFFT結果からピーク検知を行う。さらに、対象物算出部33は、送信周波数上昇時のピーク周波数成分と送信周波数下降時ピーク周波数成分の位相差若しくは振幅の和、差から対象物120の距離、速度、方位を算出する。なお、距離、速度、方位の具体的な算出方法については、上述した非特許文献1、特許文献1等に記載されている。
【0026】
干渉検知部34は、FFT処理部32が出力するFFT結果から干渉検知処理を行う。この干渉検知部34の機能は、本発明の技術的特徴部分であり、具体的には、後で、図9のフローチャートを用いて、詳細に説明する。
【0027】
また、ACC処理部35は、対象物算出部33および干渉検知部34の処理結果を元にACC制御信号を演算する。具体的には、車内LAN110を通じて情報がACC処理部35から送信され、ユーザーインターフェース装置101、エンジン制御ECU102、およびブレーキ制御ECU103が動作し、加減速制御等が行われる。この際、干渉検知部34において、干渉の発生が検知された場合には、ACC処理部35は、ACC制御を中断したり、ユーザーインターフェース装置101を介して、ACC制御が中断したことをユーザーに通知したりする。
【0028】
また、車内LAN110を介して車載用レーダ装置1と接続されている各機器は、以下の機能を有している。ユーザーインターフェース装置101は、車載用レーダ装置1からの情報に応じて、ユーザーへ情報を通知する。エンジン制御ECU102は、ACC処理部35が算出した処理結果に基づき、エンジン制御を行う。また、ブレーキ制御ECU103は、ACC処理部35が算出した処理結果に基づき、ブレーキ制御を行う。
【0029】
本発明は、「干渉が発生した状態」をいかにして検出するかがポイントであり、本発明の技術的特徴である干渉検知部34の機能を中心に、以下に説明する。
【0030】
車載用レーダ装置に干渉が発生する場合としては、他の車両に搭載された車載用レーダ装置による電波を受信した場合などが考えられる。一般的に、車載用レーダ装置の送信波は、FMCW方式、CW方式、パルス方式などがある。このうち、パルス方式は、ごく短いパルス間隔でしか電波を送信しないため、他のレーダに与える影響は少ないと考えられる。
【0031】
そこで、FMCW方式の外乱電波を受信した場合について、ケース1〜ケース3として、本実施の形態1にまとめて説明する。
また、CW方式の外乱電波を受信した場合については、ケース4〜ケース6として、実施の形態2で、後述することとする。
【0032】
[ケース1]
図2は、本発明の実施の形態1の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース1の図である。具体的には、この図2は、ある距離y[m]、相対速度0[m/s]の対象物による反射波を受信している状態において、他のFMCWレーダの送信波を外乱電波として受信した際に、周波数下降時のみ外乱電波の周波数と干渉が発生したケースを示している。
【0033】
このときの対象物の反射波によるビート信号の周波数は、相対速度0のため、周波数上昇時、下降時で同じ周波数となっている。ここでは、模式的にsin波にごく小さいランダムなノイズが重畳された信号としている。FMCW方式の車載用レーダ装置では、ビート信号をローパスフィルタで必要な低周波領域のみを抽出する。このため、送信周波数と外乱電波の周波数が近い部分でのみ、外乱電波の影響が現れる。
【0034】
図3は、本発明の実施の形態1における先の図2のケース1の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。先の図2で示す状況の場合には、周波数下降時のみ外乱電波の周波数と干渉が発生している。したがって、図3のように、周波数上昇時は、外乱電波の影響はなく、周波数下降時のみ外乱電波の影響でノイズレベルが上昇する結果となる。
【0035】
[ケース2]
図4は、本発明の実施の形態1の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース2の図である。具体的には、この図4は、ある距離y[m]、相対速度0[m/s]の対象物による反射波を受信している状態において、ケース1と同様に他のFMCWレーダの送信波を外乱電波として受信した際に、周波数上昇時と周波数下降時の両方で、外乱電波の周波数と干渉が発生したケースを示している。
【0036】
図5は、本発明の実施の形態1における先の図4のケース2の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。先の図4で示す状況の場合には、周波数上昇時、下降時ともに送信周波数と外乱電波の周波数が近い部分でビート信号の波形が乱れる。このため、周波数上昇時、周波数下降時ともに、ビート信号のFFT結果のノイズレベルは上昇する。
【0037】
しかしながら、図4のビート信号の図に示すように、ビート信号に現れるノイズの位置が、周波数上昇時と周波数下降時で異なると、窓関数によってノイズの大きさが変化する。このため、図5に示すように、周波数上昇時と周波数下降時のノイズレベルに差が生じる結果となる。なお、図6は、本発明の実施の形態1における窓関数として使用されるハニング窓を示した図である。
【0038】
[ケース3]
図7は、本発明の実施の形態1の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース3の図である。具体的には、この図7は、ある距離y[m]、相対速度0[m/s]の対象物による反射波を受信している状態において、ケース1、2と同様に他のFMCWレーダの送信波を外乱電波として受信した際に、周波数上昇時と周波数下降時の両方で、外乱電波の周波数と干渉が発生したケースを示している。
【0039】
ただし、先の図4に示したケース2とは異なり、図7においては、周波数上昇時と周波数下降時でほぼ同様の周波数帯で干渉が発生している場合を示している。図8は、本発明の実施の形態1における先の図7のケース3の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。ケース3の場合には、図8に示すように、周波数上昇時、下降時ともにビート信号のFFT結果のノイズレベルは、同じだけ上昇する。しかしながら、このような干渉の発生頻度は、非常に少ないと考えられる。
【0040】
以上のように、外乱電波がFMCWの場合の本実施の形態1では、次のような条件を検知することで、干渉の発生を検知することが可能となる。
[干渉判定条件A]周波数上昇時と周波数下降時のビート信号のFFT結果のノイズレベルの差や比率が、所定値以上大きくなること
【0041】
そこで、次に、本実施の形態1における車載用レーダ装置を利用したACCシステムにおいて、干渉を検知するための一連動作について、フローチャートを用いて説明する。図9は、本発明の実施の形態1の信号処理部内の干渉検知部34の一連処理を示すフローチャートである。
【0042】
まず始めに、ステップS101において、干渉検知部34は、FFT処理部32が出力した周波数上昇時のビート信号のFFT結果からノイズレベルを算出する。以後、これを周波数上昇時のノイズレベルと呼ぶ。
【0043】
ノイズレベルの算出方法としては、FFT結果の全データの平均、一定の受信レベル以上のピーク部分を除去した後のデータの平均、対象物120の検知距離・速度範囲外の周波数領域部分のデータの平均(例えば、特開2008−107280号公報参照)などが挙げられる。
【0044】
次に、ステップS102において、干渉検知部34は、ステップS101と同様に、FFT処理部32が出力した周波数下降時のビート信号のFFT結果からノイズレベルを算出する。以後、これを周波数下降時のノイズレベルと呼ぶ。
【0045】
次に、ステップS103において、干渉検知部34は、周波数上昇時のノイズレベルと周波数下降時のノイズレベルについて、上述した干渉判定条件Aの比較を行う。そして、干渉検知部34は、いずれか一方がもう一方の所定倍以上とはならない場合には、ステップS104に進み、干渉は発生していないと判断し、ACC処理部35に干渉なしと通知し、干渉検知回数を0にリセットし、一連の干渉検知処理を終了させる。
【0046】
一方、干渉検知部34は、先のステップS103において、周波数上昇時のノイズレベルと周波数下降時のノイズレベルのいずれか一方がもう一方の所定倍以上となる場合には、ステップS105に進み、干渉が発生したと判断し、干渉検知回数を+1とする。
【0047】
次に、ステップS106において、干渉検知部34は、干渉検知回数が所定値n回を超えたか否かを判定する。そして、越えている場合には、ステップS107において、干渉検知部34は、ACCをキャンセルするようにACC処理部35に通知し、一連の干渉検知処理を終了させる。
【0048】
一方、先のステップS106において、干渉検知回数がn回以下の場合には、ステップS108において、干渉検知部34は、まだ干渉が発生した状態が確定していないとして、過去の計測結果を維持してACCを継続するようにACC処理部35に通知し、一連の干渉検知処理を終了させる。
【0049】
以上のように、実施の形態1によれば、周波数上昇時と周波数下降時のイズレベルを比較することで、干渉の発生を検知している。そして、干渉発生の検知状態が継続することで、レーダ動作に一時的な異常が発生し、ACC動作に不都合が生じる可能性があると判断した場合には、ACC動作をキャンセルし、運転手に通知することができる。
【0050】
この結果、ノイズレベルの変化や器差があっても、また、観測開始直後から干渉が発生していたとしても、精度よく他のレーダ等からの電波干渉の発生を検知することができるFMCW方式の車載用レーダ装置を得ることができる。
【0051】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、FMCW方式の外乱電波を受信した場合について、ケース1〜ケース3の3ケースを説明した。これに対して、本実施の形態2では、CW方式の外乱電波を受信した場合について、ケース4〜ケース6の3ケースを説明する。なお、本実施の形態2における全体構成は、先の実施の形態1における図1の構成と同様であり、説明を省略する。
【0052】
[ケース4]
図10は、本発明の実施の形態2の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース4の図である。具体的には、この図10は、ある距離y[m]、相対速度0[m/s]の対象物による反射波を受信している状態において、FM変調なしのCW波を外乱電波として受信した際に、周波数上昇時と周波数下降時の両方で、外乱電波の周波数と干渉が発生したケースを示している。
【0053】
図11は、本発明の実施の形態2における先の図10のケース4の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。先の図10で示す状況の場合には、周波数上昇時、下降時ともに、同様の周波数帯において、送信周波数と外乱電波の周波数が近い部分でビート信号の波形が乱れる。このため、周波数上昇時、周波数下降時ともに、ビート信号のFFT結果のノイズレベルは、同じだけ上昇する。従って、この結果だけからは、干渉の有無を検知できないこととなる。
【0054】
[ケース5]
図12は、本発明の実施の形態2の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース5の図である。具体的には、この図12は、ある距離y[m]、相対速度0[m/s]の対象物による反射波を受信している状態において、FM変調なしのCW波を外乱電波として受信した際に、変調帯域のことなる2種類(第1パターンおよび第2パターン)の送信周波数を使用することで、一方の送信周波数でのみ外乱電波の周波数と干渉が発生したケースを示している。
【0055】
図13は、本発明の実施の形態2における先の図12のケース5の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。先の図12で示す状況の場合には、第1の周波数上昇時、第1の周波数下降時では、同様の周波数帯において、送信周波数と外乱電波の周波数が近い部分でビート信号の波形が乱れ、ビート信号のFFT結果のノイズレベルは同じだけ上昇する。一方、第2の周波数上昇時、第2の周波数下降時では、干渉が生じないため、周波数上昇時、周波数下降時ともに、ビート信号のFFT結果のノイズレベルは上昇しない。
【0056】
従って、図12に示したように、変調帯域の異なる2種類の送信周波数を使用し、一方の送信周波数でのみ干渉が発生する状況とすることで、FM変調なしのCW波を外乱電波として受信した際の干渉の有無も、確実に検出できることとなる。
【0057】
[ケース6]
図14は、本発明の実施の形態2の車載用レーダ装置において、外乱電波を受信した際の、送信周波数と外乱電波の周波数の時間変化、およびそのときのビート信号を示したケース6の図である。具体的には、この図14は、ある距離y[m]、相対速度0[m/s]の対象物による反射波を受信している状態において、FM変調なしのCW波を外乱電波として受信した際に、変調幅のことなる2種類(第1パターンおよび第2パターン)の送信周波数を使用することで、一方の送信周波数でのみ外乱電波の周波数と干渉が発生したケースを示している。
【0058】
図15は、本発明の実施の形態2における先の図14のケース6の状況でのビート信号のFFT結果を示した図である。先の図14で示す状況の場合には、第1の周波数上昇時、第1の周波数下降時では、同様の周波数帯において、送信周波数と外乱電波の周波数が近い部分でビート信号の波形が乱れ、ビート信号のFFT結果のノイズレベルは同じだけ上昇する。一方、第2の周波数上昇時、第2の周波数下降時では、干渉が生じないため、周波数上昇時、周波数下降時ともに、ビート信号のFFT結果のノイズレベルは上昇しない。
【0059】
従って、図14で示したように、変調幅の異なる2種類の送信周波数を使用し、一方の送信周波数でのみ干渉が発生する状況となった場合には、変調帯域のことなる2種類の送信周波数を使用した先のケース5と同様に、FM変調なしのCW波を外乱電波として受信した際の干渉の有無も、確実に検出できることとなる。
【0060】
なお、先の図14で示したように、変調幅を異ならせた場合には、変調帯域が重なっている部分に外乱電波の周波数がある際には、4つの全てのビート信号のFFT結果のノイズレベルは上昇することとなる。しかしながら、ビート信号上で外乱電波により波形が乱れる箇所は、異なる変調帯域間で異なるため、図15に示したと同様に、ノイズレベルに差が発生することとなる。従って、このような外乱電波による干渉も、確実に検出できることとなる。
【0061】
従って、先の実施の形態1のようにFMCW方式の外乱電波を受信した場合と、本実施の形態2のようにFM変調なしのCW波の外乱電波を受信した場合の両方を考慮すると、次のような条件を検知することで、いずれの場合の干渉の発生も検知することが可能となる。
[干渉発生条件B]異なる変調幅や変調帯域において、第1パターンの第1の周波数上昇時と第1の周波数下降時のビート信号のFFT結果のノイズレベルの差や比率が、所定値以上大きくなるか、または、第2パターンの第2の周波数上昇時と第2の周波数下降時のビート信号のFFT結果のノイズレベルの差や比率が、所定値以上大きくなること
[干渉発生条件C]異なる変調幅や変調帯域において、第1パターンの第1の周波数上昇時と第2パターンの第2の周波数上昇時のビート信号のFFT結果のノイズレベルの差や比率が、所定値以上大きくなるか、または、第1パターンの第1の周波数下降時と第2パターンの第2の周波数下降時のビート信号のFFT結果のノイズレベルの差や比率が、所定値以上大きくなること
【0062】
すなわち、干渉発生条件Bを判定することで、先の実施の形態1のようにFMCW方式の外乱電波を受信した場合における干渉の有無を検知でき、干渉発生条件Cを判定することで、本実施の形態2のようにFM変調なしのCW波の外乱電波を受信した場合における干渉の有無を検知できることとなる。
【0063】
そこで、次に、本実施の形態2における車載用レーダ装置を利用したACCシステムにおいて、干渉を検知するための一連動作について、フローチャートを用いて説明する。図16は、本発明の実施の形態2の信号処理部内の干渉検知部34の一連処理を示すフローチャートである。
【0064】
なお、図16のフローチャートでは、先の図12に示すような変調帯域の異なる周波数上昇、下降の4種類の変調、あるいは、先の図14に示すような変調幅の異なる周波数上昇、下降の4種類の変調で計測を行うこととなる。ここでは、変調の順番を、図12あるいは図14に示したように、第1の周波数上昇、第1の周波数下降、第2の周波数上昇、第2の周波数下降とする。
【0065】
まず始めに、ステップS201において、干渉検知部34は、FFT処理部32が出力した第1の周波数上昇時のビート信号のFFT結果からノイズレベルを算出する。以後、これを第1の周波数上昇時のノイズレベルと呼ぶ。
【0066】
次に、ステップS202において、干渉検知部34は、FFT処理部32が出力した第1の周波数下降時のビート信号のFFT結果からノイズレベルを算出する。以後、これを第1の周波数下降時のノイズレベルと呼ぶ。
【0067】
次に、ステップS203において、干渉検知部34は、FFT処理部32が出力した第2の周波数上昇時のビート信号のFFT結果からノイズレベルを算出する。以後、これを第2の周波数上昇時のノイズレベルと呼ぶ。
【0068】
次に、ステップS204において、干渉検知部34は、FFT処理部32が出力した第2の周波数下降時のビート信号のFFT結果からノイズレベルを算出する。以後、これを第2の周波数下降時のノイズレベルと呼ぶ。
【0069】
次に、ステップS205において、干渉検知部34は、第1の周波数上昇時のノイズレベル、第1の周波数下降時のノイズレベル、第2の周波数上昇時のノイズレベル、第2の周波数下降時のノイズレベルについて、上述した干渉判定条件Bの比較を行う。そして、干渉検知部34は、干渉判定条件Bが成立しない場合には、ステップS206に進む。
【0070】
そして、ステップS206において、干渉検知部34は、第1の周波数上昇時のノイズレベル、第1の周波数下降時のノイズレベル、第2の周波数上昇時のノイズレベル、第2の周波数下降時のノイズレベルについて、上述した干渉判定条件Cの比較を行う。そして、干渉検知部34は、干渉判定条件Cが成立しない場合には、ステップS207に進み、干渉は発生していないと判断し、ACC処理部35に干渉なしと通知し、干渉検知回数を0にリセットし、一連の干渉検知処理を終了させる。
【0071】
一方、干渉検知部34は、先のステップS205において、干渉判定条件Bが成立した場合、あるいは、先のステップS206において、干渉判定条件Cが成立した場合には、ステップS208に進み、干渉が発生したと判断し、干渉検知回数を+1とする。
【0072】
次に、ステップS209において、干渉検知部34は、干渉検知回数が所定値n回を超えたか否かを判定する。そして、越えている場合には、ステップS210において、干渉検知部34は、ACCをキャンセルするようにACC処理部35に通知し、一連の干渉検知処理を終了させる。
【0073】
一方、先のステップS209において、干渉検知回数がn回以下の場合には、ステップS211において、干渉検知部34は、まだ干渉が発生した状態が確定していないとして、過去の計測結果を維持してACCを継続するようにACC処理部35に通知し、一連の干渉検知処理を終了させる。
【0074】
以上のように、実施の形態2によれば、周波数上昇時と周波数下降時のビート信号のFFT結果のノイズレベルを比較するだけでなく、変調幅の異なる第1と第2の周波数上昇時と、第1と第2の周波数下降時のノイズレベルを比較することで、先の実施の形態1では判別できなかったCW波による干渉の発生も検知することができる。
【0075】
なお、図16に示したような干渉判定条件B、および干渉判定条件Cの成立を判定する代わりに、第1パターンにおける上昇時ノイズレベル、下降時ノイズレベル、および第2パターンにおける上昇時ノイズレベル、下降時ノイズレベルの4つのノイズレベルを比較し、いずれか1つ以上のノイズレベルが、その他のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定することも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 車載用レーダ装置、10 送信部、11 VCO、12 分配器、13 送信アンテナ、20 受信部、21 受信アンテナ、22 ミキサ、23 アンプ、24 ローパスフィルタ、25 A/D変換器、30 信号処理部、31 窓関数処理部、32 FFT処理部、33 対象物算出部、34 干渉検知部、35 ACC処理部、101 ユーザーインターフェース装置、102 エンジン制御ECU、103 ブレーキ制御ECU、110 車内LAN、120 対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波を送信する送信部と、
送信された前記変調波が、距離および相対速度の検出対象である対象物で反射した反射波を受信する受信部と、
前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との周波数差を持つビート信号を周波数解析し、周波数上昇時および下降時それぞれの周波数解析結果からピーク周波数を算出し、周波数上昇時のピーク周波数と周波数下降時のピーク周波数から前記対象物の距離と相対速度を算出する信号処理部と
を備えたFMCW方式の車載用レーダ装置において、
前記信号処理部は、周波数上昇時のビート信号の周波数解析における上昇時ノイズレベルと、周波数下降時のビート信号の周波数解析における下降時ノイズレベルとを比較し、上昇時ノイズレベルまたは下降時ノイズレベルのいずれか一方のノイズレベルが、他方のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する干渉検知部を有する
ことを特徴とする車載用レーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用レーダ装置において、
前記送信部は、周波数上昇時および周波数下降時において異なる周波数変調幅もしくは異なる周波数変調帯域で構成される第1パターンおよび第2パターンを含む変調波を送信し、
前記干渉検知部は、前記第1パターンにおける上昇時ノイズレベル、下降時ノイズレベル、および前記第2パターンにおける上昇時ノイズレベル、下降時ノイズレベルの4つのノイズレベルを比較し、いずれか1つ以上のノイズレベルが、その他のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する
ことを特徴とする車載用レーダ装置。
【請求項3】
上昇・下降を繰り返す周波数をもった変調波を送信する送信ステップと、
送信された前記変調波が、距離および相対速度の検出対象である対象物で反射した反射波を受信する受信ステップと、
前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との周波数差を持つビート信号を周波数解析し、周波数上昇時および下降時それぞれの周波数解析結果からピーク周波数を算出し、周波数上昇時のピーク周波数と周波数下降時のピーク周波数から前記対象物の距離と相対速度を算出する信号処理ステップと
を備えたFMCW方式の車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法において、
前記信号処理ステップは、周波数上昇時のビート信号の周波数解析における上昇時ノイズレベルと、周波数下降時のビート信号の周波数解析における下降時ノイズレベルとを比較し、上昇時ノイズレベルまたは下降時ノイズレベルのいずれか一方のノイズレベルが、他方のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する干渉検知ステップを有する
ことを特徴とする車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法において、
前記送信ステップは、周波数上昇時および周波数下降時において異なる周波数変調幅もしくは異なる周波数変調帯域で構成される第1パターンおよび第2パターンを含む変調波を送信し、
前記干渉検知ステップは、前記第1パターンにおける上昇時ノイズレベル、下降時ノイズレベル、および前記第2パターンにおける上昇時ノイズレベル、下降時ノイズレベルの4つのノイズレベルを比較し、いずれか1つ以上のノイズレベルが、その他のノイズレベルに対して所定値以上の差がある場合には、レーダ外部からの外乱電波による干渉が発生したと判定し、干渉検知信号として出力する
ことを特徴とする車載用レーダ装置用の電波干渉検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−88238(P2012−88238A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236709(P2010−236709)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】