説明

車載用多重通信装置

【課題】エラーフレームを送信しているECUが存在し通信異常となっているバスを検出すると共に、該バスに接続されたメッセージフレームの送信周期が異常であるECUを特定する情報処理装置を提供する。
【解決手段】多重通信用のバス12を介して接続された複数の電子制御ユニット11を中継接続ユニット20を介して接続し、該中継接続ユニット20で前記電子制御ユニット11の通信を中継している車載用の多重通信装置10であって、中継接続ユニット20は通信異常の検出手段として、バス12を介して電子制御ユニットから受信するメッセージフレームmの数を、各メッセージフレームに付されたID(識別子)毎にカウントするカウンタ21bと、カウンタ21bでのカウント数を予め設定した単位時間あたりの基準値と比較してメッセージフレームが通信異常であると判定するカウンタ値チェック手段22bとを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用多重通信装置に関し、詳しくは、多重通信用のバスを介して接続される電子制御ユニット間に通信異常が発生した場合に、該通信異常を検出するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される電装品および電機装置の数は、車両の高機能化および高性能化に伴って急増しており、車両内の配線が複雑化すると共に大規模化している。
そこで、車両内の配線の本数増加を抑制すべく、車載電装品を制御する電子制御ユニット(ECU)をシートやドアのボディ系、エンジンやスロットル等のパワートレイン系などに区分けしてグループ化し、グループ毎にグループ内に属するECUを通信線で接続すると共に、異なるECUに接続した通信線間に中継接続ユニット(ゲートウェイユニット)を介設し、該中継接続ユニットでグループ内のECU間の通信の中継を行う車載用通信システムが採用されている。
このように、車両に搭載した多数のECUをグループ別とし、かつ、各グループ内ではECUに接続した通信線を中継接続ユニットと接続するシステムとすることで、配線数の低減化を図ると共に、中継接続ユニットを介したECU間の通信の高速化を図っている。
【0003】
前記した車載用通信システムにおいては、通信線上に存在する複数のECUのうちいずれかが故障して通信異常が発生すると、車両や電装品の制御に支障をきたすこととなる。よって、通信異常を発生させているECUや該ECUが接続されているバスを早期に特定して、通信異常に対する対処を迅速に開始することが好ましい。
【0004】
そこで、特開2003−244170号公報(特許文献1)においては、多重通信用のバスの負荷率(占有率)を算出し、バス負荷率が所定値よりも高い場合にバスの異常を検出する通信異常検出装置が提案されている。
バス負荷率とはバス上で通信されるメッセージフレームの通信時間の所定期間内に占める割合であり、通信異常検出装置はバス上にメッセージフレームが送信されているか否かをサンプリングして通信時間を求め、バス負荷率を算出してバスの通信異常を判定している。
【0005】
また、特開2006−222800号公報(特許文献2)においては、1つのバスに接続されている複数のECUのうちの1つを監視用ECUに設定し、該監視用ECUがバスもしくは他のECUに生じた故障を検出する多重通信装置が提案されている。監視用ECU以外の他のECUは監視用ECUに監視用フレームを送信するが、あるECUからの監視用フレームを監視用ECUが受信できない場合、監視用ECUは該ECUまたは該ECU近傍のバスに通信異常が発生していると判定している。
【0006】
しかし、特許文献1では通信異常を発生しているECUが接続されたバスの通信異常検出を行っており、通信異常であるECUの特定までは行っていないという問題がある。
また、あるECUが正常値を超えた送信周期で多数のメッセージフレームを送信する一方、同じ多重通信線に接続された他のECUがメッセージフレームを送信できないかメッセージフレームの送信周期が長くなっているときには、見かけ上バス負荷率が正常となることがある。このような場合、特許文献1のようにバス負荷率を用いる通信異常検出装置では、バスの通信異常の判定を行うことができないという問題がある。
【0007】
さらに、車載用通信システムの通信プロトコルをCANとした場合、メッセージフレームにはデータを送受信するための通常フレームの他に、バスのエラーを検知したECUまたは中継接続ユニットが送信するエラーフレームがある。即ち、エラーフレームを送信しているECU等が存在するバスは、フォーマットエラー等を含むメッセージフレームが送受信され通信異常が発生しているバスである。しかし、特許文献1では、メッセージフレームの種類を問わずメッセージフレームの通信時間からバス負荷率を算出してバスの通信異常を判定しており、エラーフレームについては何ら記載されていない。
【0008】
さらに、特許文献2では、監視用ECUが他のECUから送信された監視用フレームを受信できるか否かで通信途絶箇所を検出しているが、監視用フレームの受信が完全に途絶してはいないが受信の周期が異常であるような場合に通信異常を検出することができないという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開2003−244170号公報
【特許文献2】特開2006−222800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、エラーフレームを送信しているECUが存在し通信異常となっているバスを検出すると共に、該バスに接続されたメッセージフレームの送信周期が異常であるECUを特定するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
多重通信用のバスを介して接続された電子制御ユニットを中継接続ユニットを介して接続し、異なる前記バスに属する前記電子制御ユニット間で送受信するメッセージフレームを前記中継接続ユニットで中継している車載用の多重通信装置であって、
前記バスを介して前記電子制御ユニットから受信する前記メッセージフレームの数を、各メッセージフレームに付されたID(識別子)毎にカウントするカウンタと、
前記カウンタでのカウント数を予め設定した単位時間あたりの基準値と比較して前記IDのメッセージフレームが通信異常であると判定するカウンタ値チェック手段と、
を備えていることを特徴とする車載用多重通信装置を提供している。
【0012】
また、第2の発明として、多重通信用のバスを介して複数の電子制御ユニット同士を接続している車載用の多重通信装置であって、前記複数の電子制御ユニットのうちの1つの電子制御ユニットは通信異常の検出手段として、
他の電子制御ユニットから受信するメッセージフレームの数を、各メッセージフレームに付されたID(識別子)毎にカウントするカウンタと、
前記カウンタでのカウント数を予め設定した単位時間あたりの基準値と比較して前記IDのメッセージフレームが通信異常であると判定するカウンタ値チェック手段と、
を備えていることを特徴とする車載用多重通信装置を提供している。
【0013】
前記構成によれば、第1の発明の中継接続ユニットまたは第2の発明の複数の電子制御ユニットのうちの1つの電子制御ユニットは、他の各電子制御ユニット(ECU)が送信するメッセージフレーム毎にカウンタを備え、該カウンタによりバスを介して受信する単位時間あたりのメッセージフレーム数を数えて基準値と比較することで、該メッセージフレームの通信異常を判定し、メッセージフレームのIDから該メッセージフレームを送信している異常ECUを特定することができる。
さらに、通信異常のメッセージフレームを検知することで、該メッセージフレームの通信異常の記録や所定のフェールセーフ処理等の通信異常に対する対処を迅速に行うことができる。
【0014】
また、多重通信線に接続されたあるECUが正常値を超えた送信周期で多数のメッセージフレームを送信する一方、他のECUがメッセージフレームを送信できないかメッセージフレームの送信周期が長くなっている場合、特許文献1のようにバス負荷率を算出するだけではバスやECUが通信異常か否かを確実に判定することはできないが、本発明の車載用多重通信装置では、第1の発明の中継接続ユニットまたは第2の発明の通信異常の検出手段を備えた電子制御ユニットに送信される各メッセージフレームの数を数えているので、メッセージフレームごとに通信異常を判定することができる。
【0015】
カウンタがメッセージフレームの数をカウントする処理は、第1の発明の中継接続ユニットまたは第2の発明の通信異常の検出手段を備えた電子制御ユニットの通常処理に組み込まれて周期的に行っている。
カウンタ値チェック手段によるECUの通信異常の判定は、前記通常処理の空き時間に行ってもよい。また、後述するバス異常検知手段によりバスの通信異常が検知された場合は、通常処理に割り込みを入れて優先的に行ってもよい。
【0016】
また、第1の発明によれば、バスが接続された中継接続ユニット(ゲートウェイユニット)に通信異常の検出手段を備えているので、ECUが接続された複数のバスから通信異常となるバスを早期に検出できると共に、該通信異常のバスに接続されたECUから送信周期通信異常のECUを特定することができる。
さらに、第2の発明によれば、複数のECUうちの1つのECUに通信異常の検出手段を備えているので、一本のバスに接続された複数のECUから送信周期通信異常のECUを特定することができる。
【0017】
前記バスに送信されたメッセージフレームからエラーフレームを検出して通信異常のバスを特定するバス異常検知手段、あるいは/および前記バスの負荷率を算出して通信異常のバスを特定するバス異常検知手段を備え、
前記カウンタ値チェック手段により、前記バス異常検知手段により通信異常と判定された前記バスを介して受信するメッセージフレームのカウント数から、前記メッセージフレームが通信異常であると判定することが好ましい。
【0018】
バスにフォーマットエラーやビットエラー等を含むメッセージフレームが送信された場合、該エラーを含んだメッセージフレームを検知したECUまたは中継接続ユニットはエラーフレームを送信する。即ち、エラーフレームを送信しているECU等が存在するバスは、フォーマットエラー等を含むメッセージフレームが送受信され通信異常が発生しているバスである。また、フォーマットエラー等を含むメッセージフレームもエラーフレームとなる。このため、バス異常検知手段は、エラーフレームを送受信したか否かを検知することで、バスに通信異常が発生しているか否かを検知することができる。
また、バス異常検知手段は、第1の発明の中継接続ユニットまたは第2の発明の通信異常の検出手段を備えた電子制御ユニットが通常フレームを各バスへ送受信する時間を計測してバス負荷率を算出し、該バス負荷率からバスに通信異常が発生しているか否かを検知することができる。
さらに、エラーを含んだメッセージフレームを受信した各ECUや中継接続ユニットが送信するメッセージフレームや、フォーマットエラー等が発生しているメッセージフレーム、IDが判別できないメッセージフレームなどをエラーフレームとして、該エラーフレームを各バスへ送受信する時間を計測してバス負荷率を算出し、該バス負荷率からバスに通信異常が発生しているか否かを検知することができる。
【0019】
バス異常検知手段により通信異常のバスを検知した場合には、カウンタ値チェック手段によって該バスに接続されたメッセージフレームの通信異常の判定を行う。このとき、カウンタ値チェック手段の処理は通常処理の空き時間ではなく、通常処理に割り込みを入れて優先的に行う。
このように、バス異常検知手段により通信異常のバスが特定された後は、該バスに接続されたECUが送信するメッセージフレームの通信異常のみを優先的に判定するので、通信異常のメッセージフレームを早期に検知することができる。また、全てのECUの通信異常を判定する場合に比べてカウンタ値チェック手段の処理を少なくすることができる。
【0020】
前記カウンタ値チェック手段で通信異常と判定されたメッセージフレームの受信周期を検知する受信周期検知手段と、
前記受信周期検知手段で検知した受信周期と予め設定した基準値を比較して、前記メッセージフレームを送信した前記電子制御ユニットの通信異常を判定する受信周期チェック手段と
を備えることが好ましい。
【0021】
受信周期チェック手段が通信異常と判定されたメッセージフレームの受信周期を検知することで、該メッセージフレームを送信するECUが送信周期通信異常であることを特定することができる。また、該メッセージフレームが所定期間を超えて受信できない場合には通信途絶であると特定することができる。
【発明の効果】
【0022】
前述したように、第1の発明の車載用多重通信装置は中継接続ユニットに通信異常の検出手段を備えており、前記検出手段であるカウンタ値チェック手段が、他の電子制御ユニット(ECU)が送信するメッセージフレーム毎にカウンタを備えて単位時間あたりのメッセージフレーム数を数え、基準値と比較することで、各メッセージフレームの送信周期が異常か否かを判定し、通信異常のECUを特定することができる。
また、第2の発明の車載用多重通信装置は複数の電子制御ユニットのうちの1つの電子制御ユニットに通信異常の検出手段を備えており、前記検出手段であるカウンタ値チェック手段が、他の電子制御ユニット(ECU)が送信するメッセージフレーム毎にカウンタを備えて単位時間あたりのメッセージフレーム数を数え、基準値と比較することで、各メッセージフレームの送信周期が異常か否かを判定し、通信異常のECUを特定することができる。
さらに、該メッセージフレームを受信する周期を受信周期チェック手段により検知しているので、ECUが送信周期異常または通信途絶であることを特定することができる。
また、バス異常検知手段がエラーフレームを受信したか否かを検知することで、バスに通信異常が発生しているか否かを検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3は本発明の第1実施形態を示す。
図1は本発明の車載用多重通信装置10の構成を示し、中継接続ユニット20(ゲートウェイユニット)は電子制御ユニット(ECU)11と接続した多重通信用のバス12同士を接続し、異なるバス12に接続されるECU11間でのメッセージフレームmの送受信の中継を行っている。
【0024】
本実施形態では、中継接続ユニット20に2本のバス12A、12Bを接続すると共に、各バス12A、12Bに夫々1つのECU11A、11Bを接続している。また、多重通信の通信プロトコルはCANを用いており、バス12上で送受信されるメッセージフレームmとして、ECU11間で送受信するデータを含む通常フレームmoと、エラーを検出したECU11または中継接続ユニット20によって送信されるエラーフレームmeの2種類のメッセージフレームmを備えている。
【0025】
中継接続ユニット20は通信異常のECU11を特定するために、図2に示す動作を行っている。
まず、ステップS10で中継接続ユニット20に接続されたバス12の異常検知を行う。後述するバス異常検知手段22aにより各バス12に通信異常が発生しているかを検知している。バス12に通信異常が発生している場合はステップS11に進み、発生していない場合はステップS10を繰り返す。
次に、ステップS11で受信した通常フレームmoのカウンタ値チェックをカウンタ値チェック手段22bにより行う。ステップS10のバス異常検知により、通信異常であるバス12が検知されると、該バス12に接続されたECU11が送信するメッセージフレームmの数をカウントし、単位時間内のメッセージフレームm数を基準値と比較して各ECU11が送信するメッセージフレームmの異常を判定する。
【0026】
ステップS12で受信周期チェック手段22cにより該メッセージフレームmの受信周期を判定する。通信異常であると特定されたECU11が送信するメッセージフレームmの受信周期を検知している。受信周期が異常である場合にはスタートに戻り、正常である場合にはステップS13に進む。
ステップS13では、メッセージフレームmは通信途絶または送信周期異常であると判定し、該メッセージフレームmを送信したECU11を通信異常のECU11と特定している。
【0027】
中継接続ユニット20はバッファ部21と、処理部22と、記憶部23と、メッセージフレームmの送受信を行う送受信部24を備えている。
バッファ部21A、21Bは中継接続ユニット20に接続されたバス12A、12B毎に設けており、通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1、通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2、エラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3、エラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の4つの時間計測カウンタ21aを備えている。
【0028】
通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1及びエラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3は、中継接続ユニット20がECU11から受信する通常フレームmo及びエラーフレームmeの受信に要する時間を計測している。また、通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2及びエラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4は中継接続ユニット20がバス12に送信する通常フレームmo及びエラーフレームmeの送信に要する時間を計測している。中継接続ユニット20が単位時間当たりに複数のメッセージフレームmの送受信を行った場合、各時間計測カウンタ21aは、複数のメッセージフレームmの送受信に要する時間の和を計測する。
これら4つの時間計測カウンタ21aは後述するバス異常検知に用いられる。
また、バッファ部21には各バス12に接続されたECU11から受信する通常フレームmoの数を数えるカウンタ21bを、各通常フレームmoのID(識別子)毎に設けている。該カウンタ21bはカウンタ値チェックに用いられる。
【0029】
処理部22はバス異常検知手段22aと、カウンタ値チェック手段22bと、受信周期チェック手段22cと、受信周期検知手段22dを備えている。また、異なるバス12に属するECU11間で送受信する通常フレームmoの中継等の通常処理を行う手段(図示せず)を備えている。
【0030】
バス異常検知手段22aは、バス負荷率算出手段22a−1と、エラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−3及びエラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4のチェック手段22a−2を備えている。
バス異常検知手段22aは2つの方法でバス12の異常を検知しており、第1の方法は、エラーフレームの時間計測カウンタ21aのチェック手段22a−2がエラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3及びエラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の計測値を読み出し、エラーフレームmeの受信時間もしくは送信時間が計測されている場合に該エラーフレームmeが送受信されたバス12を通信異常とする方法である。
第2の方法は、バス負荷率算出手段22a−1が算出するバス負荷率を、記憶部23に記憶したバス負荷率基準値23aと比較して通信異常のバス12を特定する方法である。
【0031】
カウンタ値チェック手段22bは、バス異常検知手段22aで通信異常のバス12が検知された場合に、該バス12に接続されたECU11から送信された通常フレームmoの受信カウンタ21bのカウント値と記憶部23の受信数マップ23bに記憶された各通常フレームmoの基準値とを比較して、通信異常のECU11を特定している。
受信周期検知手段22dは、メッセージフレームmの受信周期を検知している。
受信周期チェック手段22cは、カウンタ値チェック手段22bにより通信異常のECU11が特定された場合に、該ECU11が送信している通常フレームmoの受信周期を基準値と比較して、送信周期が異常であるECUを特定している。
【0032】
記憶部23には、バス負荷率基準値23aと、受信数マップ23bと、受信周期基準値23cを備えている。
バス負荷率基準値23aは、バス異常検知手段22aが用いる基準値であり、バス異常検知手段22aはバス負荷率を基準値と比較してバス12の通信異常を判定している。
受信数マップ23bは、カウンタ値チェック手段22bが用いる基準値であり、各ECU11が送信する通常フレームmoの送信周期に基づいて基準値を設定している。カウンタ値チェック手段22bは通常フレームmoの単位時間あたりの受信数を基準値と比較して通信異常のECU11を判定している。
受信周期基準値23cは受信周期チェック手段22cが用いる基準値であり、中継接続ユニット20が受信する通常フレームmoの受信周期が基準値よりも長い場合は、処理部22の受信周期チェック手段22cは該通常フレームmoを送信しているECU11を通信異常であると特定する。
【0033】
次に、本発明の中継接続ユニット20の動作について説明する。
中継接続ユニット20は、通常フレームmo、エラーフレームmeの送受信に要する時間を計測し、通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1、通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2、エラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3、エラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の4つの時間計測カウンタ21aに、それぞれ計測値を格納している。
また、受信するメッセージフレームmのID毎に設けたカウンタ21bに、受信したメッセージフレームmの数のカウント値を格納している。
前記時間計測カウンタ21a及びカウンタ21bの処理は、中継接続ユニット20の通常処理に組み込まれて周期的に行っている。
【0034】
次に、前述した図2のステップS10に示すように、バス異常検知手段22aによってバス12の異常検知を行う。
バス異常検知手段22aは2つの方法でバス異常検知を行う。
まず、エラーフレームmeを用いる第1の方法について説明する。エラーフレームmeは、通常フレームmoにビットエラーやフォーマットエラー等が発生した場合に、該エラーを検知したECU11及び中継接続ユニット20によって送信されるものであり、エラーフレームmeがバス12に送信された場合は、該バス12に通信異常が発生している。
このため、バス異常検知手段22aは、エラーフレームme時間計測カウンタ21aのチェック手段により、エラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3、エラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の計測値を読み出し、計測値がゼロでなくエラーフレームmeの受信時間もしくは送信時間が計測されている場合には、該エラーフレームmeが送受信されたバス12に通信異常が発生していると判定する。
【0035】
次に、バス負荷率を算出して基準値と比較する第2の方法について説明する。
バス負荷率算出手段22a−1は、通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1、通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2、エラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3、エラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の4つの時間計測カウンタ21aの計測値を読み出す。
【0036】
エラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3とエラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の計測値は、中継接続ユニット20がエラーフレームmeの送受信に要する時間を示しており、例えば図3に示すように、単位時間Tあたりに、エラーフレームme1とme2を受信した時間t1、t2の和t1+t2がエラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3の計測時間となり、エラーフレームme3とme4を送信した時間t3、t4の和t3+t4がエラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の計測時間となる。エラーフレーム受信時間計測カウンタ21a−3とエラーフレーム送信時間計測カウンタ21a−4の計測時間の和teはt1+t2+t3+t4となり、エラーフレームmeがバス12上に存在する時間となる。
エラーフレームmeのバス負荷率BReは、式(1)で求められる。
BRe=te/T×100 (%) ・・・式(1)
【0037】
同様に、通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1、通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2の計測値は、中継接続ユニット20が通常フレームmoの送受信に要する時間を示しており、図3に示すように、中継接続ユニット20が通常フレームmo1とmo2を受信した時間t5、t6の和t5+t6と、通常フレームmo3とmo4を送信した時間t7、t8の和t7+t8が、それぞれ通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1、通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2の計測時間となる。通常フレーム受信時間計測カウンタ21a−1と通常フレーム送信時間計測カウンタ21a−2の計測時間の和toはt5+t6+t7+t8となり、通常フレームmoがバス12上に存在する時間となる。
【0038】
メッセージフレームmがバス12上に存在する時間Taはエラーフレームmeと通常フレームmoがバス12上に存在する時間の和te+toとなり、通常フレームmoのバス負荷率BRoは、式(2)で求められる。
BRo=(Ta−te)/T×100 (%) ・・・式(2)
また、メッセージフレームmのバス負荷率BRは、式(3)で求められる。
BR=BRe+BRo ・・・式(3)
【0039】
バス異常検知手段22aは、中継接続ユニット20に接続されたバス12ごとにメッセージフレームmのバス負荷率BRを算出し、記憶部23に記憶したバス負荷率基準値23aと比較してバス負荷率が異常の場合には、該バス12に通信異常が発生していると判定する。
詳細には、バス負荷率基準値23aとしてABR、α、βの3つの値を記憶部23に記憶しており、ABRは各ECU11から送信される通常フレームmoの送信周期から算出して導き出される通常バス負荷率、αは通信途絶と判定する通常フレームmo送信周期異常値から算出される許容バス負荷率差分の下方差分であり、βはバス12負荷上限規定値から算出される許容バス負荷率差分の上方差分である。このとき、BRが式(4)を満たさない場合、バス12に通信異常が発生していると判定する。
−α<BR−ABR、BR−ABR<β ・・・式(4)
【0040】
本実施形態では、バス異常検知手段22aは第1のバス異常検知方法及び第2のバス検知方法の両方を行いるが、どちらか一方だけ行ってもよい。
また、バス異常検知手段22aはバス異常検知を第1のバス異常検知方法及び第2のバス検知方法により複数回繰り返して行っており、継続してバス12の異常を判定した場合に該バス12が通信異常を発生しているバス12であると特定している。
このように、バス異常検知手段22aは第1のバス異常検知方法と第2のバス検知方法を行い、いずれかの方法によりバス12の異常を判定した場合には、次の動作であるカウンタ値チェックを行う。
【0041】
次に、図2のステップS11に示すカウンタ値チェック手段22bの動作について説明する。
バス異常検知手段22aにより通信異常を発生しているバス12が特定されると、中継接続ユニット20の処理部22は通常処理に割り込みを入れてカウンタ値のチェックを優先的に行っている。
まず、カウンタ値チェック手段22bは、バッファ部21に設けたカウンタ21bのカウント値TRxを読み出す。
カウンタ21bは、中継接続ユニット20がバス12を介して受信するメッセージフレームmごとに設けられている。本実施形態では、図1に示すようにECU11Aから通常フレームmoA−1、moA−2の2つのメッセージフレームmが送信されており、カウンタ21bにはmoA−1カウンタとmoB−2カウンタの2つのカウンタが設けられている。各カウンタ21bには中継接続ユニット20が受信した各メッセージフレームmの数をID毎にカウントしたカウント値TRxが格納されている。
【0042】
カウンタ値チェック手段22bは記憶部23から受信数マップ23bを読み出し、バッファ部21のカウント値と比較して通信異常のメッセージフレームmを判定している。
詳細には、受信数マップ23bはメッセージフレームmのカウント値TRxの基準値IRxを、メッセージフレームm毎に示した表である。また、受信数マップ23bには、メッセージフレームmの受信周期毎に許容するフレーム数カウント値誤差γも記載されている。このとき、カウンタ値チェック手段22bはメッセージフレームm毎に式(4)を満たすか否かを判定し、式(4)を満たす場合にはメッセージフレームmのカウント値が異常であると判定する。
|TRx−IRx|≧γ ・・・式(4)
【0043】
また、カウンタ値チェック手段22bはカウンタ値チェックによる判定を複数回繰り返して行い、継続してメッセージフレームmのカウント値の異常を判定した場合に該メッセージフレームmを送信しているECU11に通信異常が発生していると判定する。
なお、ECU11に通信異常が発生しているとは、ECU11に異常が発生している場合に加え、ECU11に接続されたセンサまたは機器等の故障によりメッセージフレームmが正常に送信できない場合も含む。
【0044】
次に、受信周期チェック手段22c及び受信周期検知手段22dの動作について説明する。
受信周期検知手段22dはカウンタ値チェック手段22bで異常と判定されたIDのメッセージフレームmを検知して、受信周期Trを検知する。
受信周期チェック手段22cは記憶部23に記憶した受信周期基準値23cを読み出す。受信周期基準値23cは上限値と下限値を備えており、受信周期検知手段22dが検知した受信周期と比較し、該メッセージフレームmの受信周期が受信周期基準値23cの上限値よりも長ければ、通信途絶であると判定する。また、受信周期基準値23cの下限値よりも短ければ、受信周期異常であると判定する。
詳細には、基準値はメッセージフレームmの受信が正常な場合の受信周期をT、許容周期差分時間をtとすると、T±atと設定し、a>2T/tとする。受信周期Trが3T未満である場合にメッセージフレームmの通信が途絶していると判定するのは好ましくなく、T+at>3Tの場合にメッセージフレームmが通信途絶であると判定している。
【0045】
前記構成によれば、中継接続ユニット20にバス異常検知手段22aを設けることで、異常なメッセージフレームmを送信しているECU11が接続されたバス12を特定することができる。特に、エラーフレームmeを受信したか否かを時間計測カウンタ21aにより検知することで、バス12の通信異常を簡単に判定することができる。
さらに、カウンタ値チェック手段22bを設けることで、中継接続ユニット20は送信周期が異常なメッセージフレームmを検知することができる。また、バス異常検知手段22aにより通信異常であると判定されたバス12上で送受信されるメッセージフレームmのカウント値だけをチェックすることで、カウンタ値チェック手段22bの処理が少なくなると共に、通信異常のECU11を迅速に特定することができる。
さらにまた、受信周期チェック手段22cを設けることで、メッセージフレームmが通信途絶であるか、送信周期異常であるかを判定し、通信異常のECU11を特定することができる。
【0046】
図4は本発明の第2実施形態を示す。
第2実施形態では、第1実施形態の図2のステップS10〜S13の動作に図4のステップS20を追加している。
ステップS20では中継接続ユニット20で受信する全てのメッセージフレームmについて、カウンタ値チェック手段22bによりカウンタ21bのカウント値を読み出して基準値と比較し、各メッセージフレームmが通信異常であるか否かを判定している。また、該判定は中継接続ユニット20の通常処理の空き時間に行っている。
ステップS10のバス異常検知手段22aの処理も中継接続ユニット20の通常処理の空き時間にカウンタ値チェック手段22bの処理と並列に行っている。ステップS10でバス12の通信異常を検知するか、もしくはステップS20でカウント値の異常を検知した場合には、処理部22は通常処理に割り込みを入れて次のステップの動作を優先的に行い、通信異常のECU11を早期に特定する。
【0047】
ステップS11でもステップS20と同様にカウンタ値チェック手段22bによるメッセージフレームmの通信異常の判定を行っているが、ステップS11ではステップS10で通信異常が検知されたバス12から中継接続ユニット20が受信したメッセージフレームmに関してのみ判定を行っているのに対して、ステップS20では中継接続ユニット20で受信する全てのメッセージフレームmについて判定を行っている点が異なっている。
また、ステップS20は処理部22の通常処理の空き時間に判定を行っているが、ステップS11では、ステップS10でバス12の通信異常が検知された場合に、通常処理に割り込みを入れて優先的に行っている点が異なっている。
【0048】
前記構成によれば、多重通信線に接続されたあるECU11が正常値を超えた送信周期で多数のメッセージフレームmを送信する一方、他のECU11がメッセージフレームmを送信できないかメッセージフレームmの送信周期が長くなっている場合であっても、ステップS20のカウンタ値チェック手段22bにより中継接続ユニット20に送信される各メッセージフレームmの数を数えているので、各メッセージフレームmごとに通信異常を判定することができる。
なお、他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図5は本発明の第3実施形態を示す。
第3実施形態では1本のバス12に本発明の監視用ECU20を接続すると共に複数のECU11C、11Dを接続し、該監視用ECU20が他のECU11の通信異常の発生を監視する通信異常の検出手段を備えている。
本発明の監視用ECU20の構成は第1実施形態の中継接続ユニット20と同様であるが、1本のバス12に接続しているので、バス12と接続する送受信部24及びバッファ部21は1つとなっている。
【0050】
監視用ECU20はバス異常検知手段22aにより、自身が接続されたバス12の通信異常を検知する。該バス異常検知手段22aの処理は監視用ECU20の通常処理の余り時間に行う。
該バス異常検知手段22aでバス12の通信異常を検知すると、カウンタ値チェック手段22bにより、監視用ECU20は受信したメッセージフレームmのうち送信周期が異常なメッセージフレームmを検知する。該カウンタ値チェック手段22bの処理は通常処理に割り込みを入れて優先的に行う。
【0051】
さらに、受信周期チェック手段22cにより、メッセージフレームmが通信途絶であるか、送信周期異常であるかを判定し、通信異常のECU11を特定する。
中継接続ユニット20が接続されていない車載用多重通信装置10であっても、通信異常の検出手段を監視用ECU20に持たせることで、通信異常のECU11を特定することができる。
なお、他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の車載用多重通信装置の第1実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】車載用多重通信装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】バス負荷率算出の説明図である。
【図4】第2実施形態を示すフローチャートである。
【図5】第3実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
11(11A〜11D) ECU
12(12A、12B) 多重通信用のバス
20 中継接続ユニット、監視用ECU
21 バッファ部
21a 時間計測カウンタ
21b カウンタ
22 処理部
22a バス異常検知手段
22b カウンタ値チェック手段
22c 受信周期チェック手段
22d 受信周期検知手段
23 記憶部
23a バス負荷率基準値
23b 受信数マップ
23c 受信周期基準値
24 送受信部
m メッセージフレーム
mo 通常フレーム
me エラーフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重通信用のバスを介して接続された電子制御ユニットを中継接続ユニットを介して接続し、異なる前記バスに属する前記電子制御ユニット間で送受信するメッセージフレームを前記中継接続ユニットで中継している車載用の多重通信装置であって、
前記バスを介して前記電子制御ユニットから受信する前記メッセージフレームの数を、各メッセージフレームに付されたID(識別子)毎にカウントするカウンタと、
前記カウンタでのカウント数を予め設定した単位時間あたりの基準値と比較して前記IDのメッセージフレームが通信異常であると判定するカウンタ値チェック手段と、
を備えていることを特徴とする車載用多重通信装置。
【請求項2】
多重通信用のバスを介して複数の電子制御ユニット同士を接続している車載用の多重通信装置であって、前記複数の電子制御ユニットのうちの1つの電子制御ユニットは通信異常の検出手段として、
他の電子制御ユニットから受信するメッセージフレームの数を、各メッセージフレームに付されたID(識別子)毎にカウントするカウンタと、
前記カウンタでのカウント数を予め設定した単位時間あたりの基準値と比較して前記IDのメッセージフレームが通信異常であると判定するカウンタ値チェック手段と、
を備えていることを特徴とする車載用多重通信装置。
【請求項3】
前記バスに送信されたメッセージフレームからエラーフレームを検出して通信異常のバスを特定するバス異常検知手段あるいは/および前記バスの負荷率を算出して通信異常のバスを特定するバス異常検知手段を備え、
前記カウンタ値チェック手段により、前記バス異常検知手段により通信異常と判定された前記バスを介して受信するメッセージフレームのカウント数から、前記メッセージフレームが通信異常であると判定している請求項1または請求項2に記載の車載用多重通信装置。
【請求項4】
前記カウンタ値チェック手段で通信異常と判定されたメッセージフレームの受信周期を検知する受信周期検知手段と、
前記受信周期検知手段で検知した受信周期と予め設定した基準値を比較して、前記メッセージフレームを送信した前記電子制御ユニットの通信異常を判定する受信周期チェック手段と、
を備えた請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車載用多重通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−236408(P2008−236408A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73547(P2007−73547)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】