説明

車載用角速度検出装置

【課題】GPSとの通信が不可能である状況下でも、ジャイロセンサの出力値と車両速度値との相関関係から、周囲温度の変化によって出力値が変化してしまういわゆる温度ドリフトを軽減すること。
【解決手段】車載用角速度検出装置1の角速度補正部14が、ヨーレート値γと車両速度値Vとの相関関係に基づいて温度ドリフト値γdを算出することから、GPSとの通信状態によらずに、温度ドリフト値γdを算出可能である。したがって、GPSとの通信が不可能である状況下でも、ジャイロセンサの出力値と車輪速度の関係から、上述の温度ドリフトを軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPSとの通信が不可能である状況下でも、ジャイロセンサの出力値と車輪速度の関係から、周囲温度の変化によって出力値が変化してしまういわゆる温度ドリフトを軽減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヨーレートセンサは種々の目的で利用されており、例えば自動車においても、走行中のヨーレートを検出して各種走行制御やボデー制御、安全対策等に利用されている。このように自動車に搭載されるヨーレートセンサとしては、比較的小型でローコスト化可能であるピエゾ素子を用いたヨーレートセンサが主流となっており、特に、加速度に応じた電気信号を出力する半導体センサ素子とその電気信号のうち所定の周波数成分を抽出するフィルタとフィルタを通過した電気信号を増幅するアンプとがパッケージ内に一体収納された構成のピエゾ素子を用いたヨーレートセンサが従来から多く利用されてきた。
【0003】
また、上述のようなピエゾ素子を用いたヨーレートセンサを構成するセンサ素子は、ピエゾ素子による振動部分が形成され、コリオリ力による可動部の変位に応じた電気信号(つまり加速度に応じた電気信号、例えば電圧信号)が出力されるよう構成されたものであり、ピエゾ抵抗型或いは静電容量型など種々の検出方式のものを適用できる。
【0004】
ところで、上述のピエゾ振動素子センサ素子については、周囲温度の変化によって出力値が変化してしまういわゆる温度ドリフトが生じることがある。そこで、上述の温度ドリフトを極力小さくするため、(1)上述の温度ドリフトを補償するための温度補償回路を追加したり、(2)GPSからの信号を受信できる場合には、受信した位置信号に基づいて補正を行ったりすることが行われている。
【0005】
なお、(3)GPSからの信号を受信できない場合には、(3−1)ローパスフィルタを用いて温度ドリフトを除去することや(例えば、特許文献1参照。)、(3−2)直線走行状態を判別して温度補正を加えることで温度ドリフトを除去することがすることが行われている(例えば、特許文献2,3参照。)。
【特許文献1】特開平7−324941号公報
【特許文献2】特開平9−5093号公報
【特許文献3】特開平7−71964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようなジャイロセンサにおいては、次のような問題があった。すなわち、(3−1)のようにローパスフィルタを用いた場合には、左右へ操舵した際のヨーレート信号の変化周期が温度ドリフト値の変化周期に近いときがあり、そのときには両者の分離が困難できないことがあるという問題があった。また、(3−2)のように直線走行状態を判別する場合には、カーブが多い箇所を走行する際に温度ドリフト値の補正が為されにくいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、GPSとの通信が不可能である状況下でも、ジャイロセンサの出力値と車両速度値との相関関係から、周囲温度の変化によって出力値が変化してしまういわゆる温度ドリフトを軽減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る車載用角速度検出装置は、車両のヨーレート値と車両速度値との相関関係に基づいて温度ドリフト値を算出することを特徴とする。
【0009】
具体的には、上述の車載用角速度検出装置(1:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄で用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)においては、ヨーレート値取得手段(3)が、車両が旋回する際のヨーレート値(旋回角速度)を取得し、車両速度値取得手段(11)が、車両の車両速度値を取得する。相関関係算出手段(14)が、ヨーレート値取得手段によって取得された車両の「ヨーレート値」と車両速度値取得手段によって取得された車両の「車両速度値」との相関関係を算出する。そして、温度ドリフト値算出手段(14)が、相関関係算出手段によって算出された相関関係に基づいて温度ドリフト値を算出する。さらに、温度ドリフト値除去手段(14)が、温度ドリフト値算出手段によって算出された温度ドリフト値を、ヨーレート値取得手段によって取得されたヨーレート値から除去する。
【0010】
なお、温度ドリフトとは、周囲温度の変化によって出力値が変化する状況を云い、温度ドリフト値とは、ヨーレート値取得手段によって取得されたヨーレート値が周囲温度の変化によって本来のヨーレート値から変化した値を云う。
【0011】
このように構成された本発明の車載用角速度検出装置によれば、ヨーレート値と車両速度値との相関関係に基づいて温度ドリフト値を算出することから、GPSとの通信状態によらずに、温度ドリフト値を算出可能である。したがって、GPSとの通信が不可能である状況下でも、ジャイロセンサの出力値であるヨーレート値と車輪速度の関係から、上述の温度ドリフトを軽減することができる。
【0012】
なお、上述の相関関係算出手段によるヨーレート値と車両速度値との相関関係の算出手法としては、次のような手法が考えられる。
(イ)まず、相関関係算出手段が、最小2乗法を用いてヨーレート値と車両速度値との相関関係を算出することが考えられる(請求項2)。
【0013】
(ロ)また、相関関係算出手段が、ヨーレート値取得手段によって取得されたヨーレート値からヨーレート変化の一定時間の差分を算出するとともに、車両速度値取得手段によって取得された車両速度値から車両速度の同一の時間間隔の差分を算出し、さらに、算出したヨーレート変化の一定時間の差分および車両速度の同一の時間間隔の差分から前記ヨーレート値と前記車両速度値との相関関係を算出することが考えられる(請求項3)。
【0014】
このようにすれば、ヨーレート値や車両速度値から信号成分を容易に取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1は、本実施形態の車載用角速度検出装置1の構成を表すブロック図である。また、図2は、車載用角速度検出装置1を構成する各部の配置状況を表す説明図である。
【0016】
[車載用角速度検出装置1の構成の説明]
図2に示すように、本実施形態の車載用角速度検出装置1は、検出軸P回りの角速度を検出するヨーレート値取得手段としての角速度検出部3と、検出軸Pに直交した方向Qの加速度を検出する加速度検出部5と、角速度検出部3および加速度検出部5からの出力や外部から入力される車速信号に基づいて、各種データの生成を行う演算処理部7とを備えている。
【0017】
なお、角速度検出部3は、ピエゾ振動素子を用いて構成された周知のジャイロセンサからなり、加速度検出部5も、同様に半導体ウエハー上に形成された周知の加速度センサからなる。これら角速度検出部3および加速度検出部5は、いずれも、その検出信号を一定時間間隔でサンプリングし数値化したデジタル信号を演算処理部7に供給するように構成されている。また、演算処理部7は、ASIC(特定用途向けIC)として作成されたものであり1チップの半導体ウエハー上に構成されている。
【0018】
また、これら角速度検出部3,加速度検出部5,演算処理部7は、必要な信号を入出力するための端子(図示せず)が設けられた端子部9と共に1つのパッケージPKに収納されており、これら各部3,5,7,9はワイヤボンディングにより相互に接続されている。なお、パッケージPK内において、角速度検出部3,加速度検出部5,演算処理部7が形成された各半導体ウエハーは、ワイヤボンディングを容易にするため、同一平面上に配置されている。また、端子部9を構成する各端子は、それぞれ、当該装置を回路基板に表面実装するためにパッケージPKの外壁に設けられた各電極Tに電気的に接続されている。
【0019】
[演算処理部7の構成の説明]
ここで、演算処理部7は、図1に示すように、電極Tを介して入力されるパルス状の車速信号Svに基づいて、車速Vを求める車両速度値取得手段としての車速信号処理部11と、車速信号処理部11にて求められた車速Vを積分して走行距離Xを求める積分器12と、角速度検出部3の出力ωおよび車速信号処理部11からの車速Vに基づいて補正された角速度ωy を求める角速度補正部14と、角速度補正部14からの角速度ωy を積分して水平面内における方位角θy を求める積分器15と、当該装置の出力を利用する外部装置(例えばCPU)との通信を可能とする割込/通信処理部16と、を備えている。なお、角速度検出部3の出力ωが特許請求の範囲におけるヨーレート値に該当し、車速信号処理部11からの車速Vが特許請求の範囲における車両速度値に該当する。
【0020】
そして、演算処理部7は、電極Tを介して車速信号Sv,照合誤差ΔX,Δθy (後述する),車速V,走行距離X,角速度ωy ,方位角θy 等の各種データの他、割込/通信処理部16での通信に使用する各種信号,同期クロック,割込信号等を入出力するように構成されている。
【0021】
[角速度補正部14の構成の説明]
角速度補正部14は、角速度検出部3からの出力ωに、内蔵する係数器が換算ゲインK1を乗じ、その算出結果と車速Vとの相関関係を算出し、その算出された相関関係に基づいて温度ドリフト値を算出し、その算出された温度ドリフト値を、角速度検出部3からの出力ωから除去することにより、補正(鉛直方向に沿った軸の回りの角速度に変換)された角速度ωy を算出するように構成されている。なお、角速度補正部14は、角速度補正処理(1)を実行することにより、補正された角速度ωy を算出するが、補正された角速度ωy を算出する具体的な手法および角速度補正処理(1)については後述する。
【0022】
また、角速度補正部14は、角速度ωy を積分器15にて積分することで求められた方位角θy とGPS受信データ或いは地図データ等から求められた方位角(照合データ)θy*との照合誤差Δθy を入力し、内蔵する学習器が、この照合誤差Δθy から適当なパラメータ調整則に従って導出した補正量ΔK1(=f(Δθy ))により、照合誤差Δθy が最小となるような定数K1を学習し、係数器にて使用される換算ゲインK1の設定値を調整するように構成されている。なお、パラメータ調整則としては例えばスライディングモード制御等の周知の学習方法が用いられる。
【0023】
なお、演算処理部7の角速度補正部14は、相関関係算出手段、温度ドリフト値算出手段、および温度ドリフト値除去手段に該当する。
[車速信号処理部11の構成の説明]
車速信号処理部11は、角速度補正部14と同様に、車速信号のパルス間隔を測定し、その測定結果に予め設定された換算ゲインを乗じることで車速Vを求めるように構成されている。また、車速信号処理部11は、車速Vを積分器12にて積分することで求められた走行距離Xと、GPS受信データ或いは地図データ等から求められた走行距離(照合データ)X* との照合誤差ΔXを入力し、この照合誤差ΔXに基づいて、照合誤差ΔXが小さくなるように換算ゲインの設定値を調整するように構成されている。
【0024】
[割込/通信処理部16の構成の説明]
割込/通信処理部16は、図3に示すように、外部装置との間で双方向のシリアル通信を行う通信回路51と、演算処理部7を構成する各部の設定パラメータを通信回路51を介して受信した場合に、各部の設定パラメータの初期化,更新を行うパラメータ設定回路52と、演算処理部7内で繰り返し生成される各種生成データ(車速V,走行距離X,角速度ωy ,方位角θy など)を読み込み、この読み込んだ生成データに、同期クロックCKを用いて計時した送信時刻を付加したもの送信データとして、通信回路51を介して外部に送信するデータ送信回路53と、生成データを常時監視し、生成データが予め設定された判定値を超えると、外部装置に対する割込信号を出力するか、或いはデータ送信回路53を起動することにより、外部装置への通知を行う監視回路54とを備えている。
【0025】
なお、データ送信回路53は、通信回路51を介して外部から要求を受け付けることによっても、起動することが可能なように構成されている。
また、パラメータ設定回路52が扱う設定パラメータとしては、監視回路54が使用する判定値、車速信号処理部11,角速度補正部14が使用する換算ゲインの初期値などがある。
【0026】
[角速度補正部14による補正された角速度ωyの算出手法の説明]
ここで、角速度補正部14による「補正された角速度ωy」の算出手法について図4に例示する車両の二輪モデルを例により具体的に説明する。
【0027】
まず、一定のヨーレート値γでカーブを旋回中に速度が変化した時の事象を考えると以下の式(1)が成立する。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、式(1)において、式(2)および式(3)のように、車両の前輪と後輪とが同じ緒元を同一と仮定すると式(4)となる。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、式(5)のように、車速VがΔVだけ変化し、このΔVが充分小さいとすると
、式(4)は式(6)のようになる。
【0032】
【数3】

【0033】
なお、式(6)の右辺の第二項は車速Vの変化により出力される成分である。また、同じく第三項はステアリング角δによるモーメントを示し、ステアリング角δを変化させなければ一定値となる。
【0034】
ところで、ヨーレート値γ、ジャイロセンサ値γsおよび温度ドリフト値γdとの間には、次の式(7)のような関係が成立し、式(4)は式(8)のようになる。
【0035】
【数4】

【0036】
ここで、次の式(9)のように仮定すると、式(8)は式(10)のようになる。
【0037】
【数5】

【0038】
ここで、dγ/dtをΔγs/tsと近似し、さらに、速度(1/V)に同調しないス
テアリング角による変化dを最小とする定数Kおよび温度ドリフト値γdを最小2乗法によって算出する。すなわち、次の式(11)のように仮定すると、式(10)は式(12)のようになる。
【0039】
【数6】

【0040】
ここで、式(12)より変数yに関する最小2乗法の極小値の条件に基づいて式(13)を求める。
【0041】
【数7】

【0042】
さらに、式(13)において定数Mが逆行列を持つ場合(ノルムが2となる場合)のみを計算して、式(14)のように係数a1および係数a2を求める。そして、式(12)、式(14)に基づき、係数a1>0である場合に、逆算して温度ドリフト値γdを式(15)のように計算する。
【0043】
【数8】

【0044】
[角速度補正処理(1)の説明]
次に、角速度補正部14が実行する角速度補正処理(1)を、図5〜図7のフローチャートを参照して説明する。この処理は、車載用角速度検出装置1の電源が投入された際に繰り返し実行される。
【0045】
まず、式(11)を用いて車両速度値の逆数を計算する(S110)。
続いて、同じく式(11)を用いてヨーレート値の微分近似値を計算する(S120)。
【0046】
続いて、最小2乗法を用いて係数a1および係数a2を計算するサブルーチン処理である「係数計算処理」を実行する(S130、式(12)参照)。具体的には、図6に示すように、最小2乗法を用いてY配列を演算し(S210)、最小2乗法を用いてM行列を演算する(S220、式(13)参照)。ここで、逆行列を判定し(S230)、「2=M」のノルムである場合には、最小2乗法を用いてM逆行列を演算し(S240、式(14)参照)、係数a1および係数a2を取得する(S250)。そして、本サブルーチン処理を終了する。一方、「2=M」のノルムではない場合には、そのまま本サブルーチン処理を終了する。
【0047】
角速度補正処理(1)に戻り、温度ドリフト量を計算するサブルーチン処理である「温度ドリフト量計算処理」を実行する(S140)。具体的には、図7に示すように、係数a1の値がL1以上またはL2以下であるか否かを判断し(S310)、係数a1の値がL1以上またはL2以下である場合には、そのまま本サブルーチンを終了する。一方、係数a1の値がL1より大きく且つL2よりも小さい場合には、式(15)を用いて温度ドリフト量γdを計算し(S320)、式(16)を用いて温度ドリフト量ガードを計算する(S330)。
【0048】
【数9】

【0049】
但し、MEDは中間値を算出する関数であり、Krdはドリフト変化の上限および下限を示す定数である。そして、本サブルーチンを終了する。
角速度補正処理(1)に戻り、本処理を終了する。
【0050】
[車載用角速度検出装置1の動作の説明]
このように構成された本実施形態の車載用角速度検出装置1は、例えば、ナビゲーション装置に内蔵され、加速度検出部5の検出方向Qが車両の進行方向と一致するか、或いは、検出方向Qおよび進行方向を水平面に投影した方向が互いに一致するようにして車両内に設置される。この時、進行方向に対する検出方向Qの傾斜角度を、取付角度(又は固定傾斜角度)αo とよび、更に、車両が傾斜した路面を走行している場合にその路面傾斜角度Δαを加えたものを全傾斜角度α(=αo +Δα)とよび、この全傾斜角度αが、鉛直方向に対する角速度検出部3の検出軸Pの傾斜角度となる。
【0051】
そして、角速度検出部3が、検出軸Pの回りの角速度ωを検出し、加速度検出部5が、検出軸Pに直交した検出方向Qの加速度aを検出する。また、車速信号処理部11が、外部からの入力である車速信号から車速Vを生成し、これを積分器12が積分することにより走行距離Xを生成する。
【0052】
すると、角速度補正部14が、角速度検出部3にて検出された角速度ωと、車速信号処理部11からの車速Vとに基づき、鉛直方向に沿った軸R回りの補正された角速度ωy を生成し、これを積分器15が積分することにより水平面内における方位角θy を生成する。
【0053】
また、角速度補正部14では、電極T或いは割込/通信処理部16を介して外部から供給される方位角の照合誤差Δθy に基づいて、換算ゲインK1の学習を行い、これと同様に、車速信号処理部11では、電極T或いは割込/通信処理部16を介して供給される走行距離の照合誤差ΔXに基づいて、換算ゲインの学習を行う。
【0054】
そして、車速V,走行距離X,角速度ωy ,方位角θy は、電極Tを介して外部に出力されると共に、割込/通信処理部16にも生成データとして供給される。
なお、生成データが予め設定された判定値を超えた場合、割込/通信処理部16は割込信号を出力する。また、シリアル通信を介して、生成データの送信要求を受信した場合、生成データに送信時刻データを付加したものを送信データとして、シリアル通信による送信を行う。但し、設定によって、割込信号を出力する代わりに、自発的に生成データの送信を行わせることも可能である。
【0055】
また、シリアル通信を介して設定パラメータを受信した場合に、割込/通信処理部16は、その受信内容に従って、対応する各部の設定パラメータの初期化,更新を行うように構成されている。
【0056】
つまり、本実施形態の車載用角速度検出装置1からの生成データを利用する外部装置は、割込信号の通知を受けてから、常時出力されている生成データを取り込むようにしてもよいし、シリアル通信を介して生成データの送信を要求することにより、シリアル通信を介して生成データを獲得してもよい。また、割込信号を通知することなく、シリアル通信を介して生成データが直ちに送信される設定にして使用してもよい。更に、シリアル通信を介して、生成データの送信を定期的に要求するように使用してもよい。このように本実施形態の車載用角速度検出装置1は、様々な使用方法に対応することができる。
【0057】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の車載用角速度検出装置1によれば、角速度補正部14が、ヨーレート値γと車両速度値Vとの相関関係に基づいて温度ドリフト値γdを算出することから、GPSとの通信状態によらずに、温度ドリフト値γdを算出可能である。したがって、GPSとの通信が不可能である状況下でも、ジャイロセンサの出力値と車輪速度の関係から、上述の温度ドリフトを軽減することができる。
【0058】
(2)また、第一実施形態の車載用角速度検出装置1によれば、最小2乗法を用いてヨーレート値γと車両速度値Vとの相関関係に基づいて温度ドリフト値γdを算出するので、ヨーレート値γや車両速度値Vから信号成分を容易に取り出すことができる。
【0059】
また、自動車用ナビゲーションシステムにおいては、ヨーレートセンサ、車速信号、加速度(車輪速度の微分として演算した場合も含む)の入力をすべてもち、内部CPUである演算処理部7が処理を実施することによりナビゲーション装置にて補正された信号を得ることができる。
【0060】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
【0061】
(1)上記実施形態では、ヨーレート値γと車両速度値Vとの相関関係に基づいて温度ドリフト値γdを算出するが、これには限られず、ヨーレート値γからヨーレート変化の一定時間の差分を算出するとともに、車両速度値Vから車両速度の同一の時間間隔の差分を算出し、さらに、算出したヨーレート変化の一定時間の差分および車両速度の同一の時間間隔の差分からヨーレート値γと車両速度値Vとの相関関係を算出するようにしてもよい。
【0062】
具体的には、角速度補正部14が、図8に示す角速度補正処理(2)を実行することで、「補正された角速度ωy」を算出する。この角速度補正処理(2)は、車載用角速度検出装置1の電源が投入された際に繰り返し実行される。
【0063】
まず、式(11)を用いて車両速度値の逆数を計算する(S410)。なお、本S410の処理内容は上述の角速度補正処理(1)のS110の処理内容と同様である。
続いて、同じく式(11)を用いてヨーレート値の微分近似値を計算する(S420)。なお、本S420の処理内容は上述の角速度補正処理(1)のS120の処理内容と同様である。
【0064】
続いて、次の式(17)を用いて車両速度値の逆数の差分を計算し(S430)、次の式(18)を用いてヨーレート値γの微分値の差分を計算する(S440)。但し、nは数値「2」以上の整数である。
【0065】
【数10】

【0066】
続いて、最小2乗法を用いて係数a1および係数a2を計算するサブルーチン処理である「係数計算処理」を実行する(S450)。なお、本S450の処理内容は上述の角速度補正処理(1)のS130の処理内容と同様であるが、式(12)の右辺の第二項において変数xの代わりに変数Δxを用いる点のみが異なる。
【0067】
続いて、温度ドリフト量を計算するサブルーチン処理である「温度ドリフト量計算処理」を実行する(S460)。なお、本S460の処理内容は上述の角速度補正処理(1)のS140の処理内容と同様である。
【0068】
そして、本処理を終了する。
このようにすれば、ヨーレート値γや車両速度値Vから信号成分を容易に取り出すことができる。
【0069】
(2)また、漸化式を用いて「補正された角速度ωy」を算出するようにしてもよい。具体的には、角速度補正部14が、図9に示す角速度補正処理(3)を実行することで、「補正された角速度ωy」を算出する。この角速度補正処理(3)は、車載用角速度検出装置1の電源が投入された際に繰り返し実行される。
【0070】
まず、式(11)を用いて車両速度値の逆数を計算する(S510)。なお、本S510の処理内容は上述の角速度補正処理(1)のS110の処理内容と同様である。
続いて、同じく式(11)を用いてヨーレート値の微分近似値を計算する(S520)。なお、本S520の処理内容は上述の角速度補正処理(1)のS120の処理内容と同様である。
【0071】
続いて、次の式(19)を用いてζ配列を計算し(S530)、次の式(20)を用いてエラー値e(k)を計算する(S540)。さらに、次の式(21)を用いて推定量(1)の計算を行い(S550)、次の式(22)を用いて推定量(2)の計算を行う(S560)。そして、次の式(23)を用いて温度ドリフト量を計算する(S570)。
【0072】
【数11】

【0073】
そして、本処理を終了する。
このようにすれば、ヨーレート値γや車両速度値Vから信号成分を容易に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第一実施形態の車載用角速度検出装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】第一実施形態の車載用角速度検出装置1においてパッケージ内の各部の配置状況を表す説明図である。
【図3】割込/通信処理部16の構成を表すブロック図である。
【図4】(a)は車両の二輪モデルを示す説明図(1)であり、(b)は車両の二輪モデルを示す説明図(2)である。
【図5】角速度補正処理(1)を示すフローチャートである。
【図6】係数計算処理を示すフローチャートである。
【図7】温度ドリフト量計算処理を示すフローチャートである。
【図8】角速度補正処理(2)を示すフローチャートである。
【図9】角速度補正処理(3)を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1…車載用角速度検出装置、3…角速度検出部、5…加速度検出部、7…演算処理部、9…端子部、11…車速信号処理部、12,15…積分器、14…角速度補正部、16…割込/通信処理部、51…通信回路、52…パラメータ設定回路、53…データ送信回路、54…監視回路、PK…パッケージ、T…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が旋回する際のヨーレート値を取得するヨーレート値取得手段と、
前記車両の車両速度値を取得する車両速度値取得手段と、
前記ヨーレート値取得手段によって取得されたヨーレート値と前記車両速度値取得手段によって取得された車両速度値との相関関係を算出する相関関係算出手段と、
前記相関関係算出手段によって算出された相関関係に基づいて温度ドリフト値を算出する温度ドリフト値算出手段と、
前記温度ドリフト値算出手段によって算出された温度ドリフト値を、前記ヨーレート値取得手段によって取得されたヨーレート値から除去する温度ドリフト値除去手段と、
を備えることを特徴とする車載用角速度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用角速度検出装置において、
前記相関関係算出手段は、最小2乗法を用いて前記ヨーレート値と前記車両速度値との相関関係を算出することを特徴とする車載用角速度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車載用角速度検出装置において、
前記相関関係算出手段は、前記ヨーレート値取得手段によって取得されたヨーレート値からヨーレート変化の一定時間の差分を算出するとともに、前記車両速度値取得手段によって取得された車両速度値から車両速度の同一の時間間隔の差分を算出し、さらに、算出したヨーレート変化の一定時間の差分および車両速度の同一の時間間隔の差分から前記ヨーレート値と前記車両速度値との相関関係を算出すること
を特徴とする車載用角速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−292247(P2008−292247A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136831(P2007−136831)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】