説明

車載用防振装置の異音検査方法

【課題】車体側に連結される車体側取付部12と被支持体側に連結される被支持体側取付部15とを有する車載用の防振装置1に起因する異音の発生の有無を簡易に判定する。
【解決手段】車両に組み付ける前の防振装置1を加振装置3に取り付けて、防振装置1の被支持体側取付部15に、予め設定したパターンの振動を入力する入力ステップと、入力の最中に、防振装置1の車体側取付部12から出力される伝達力を計測する計測ステップと、計測した伝達力の時系列データを周波数分析することによって、伝達力パワースペクトルを得る分析ステップと、伝達力パワースペクトルに基づき、予め設定した評価基準に従って、防振装置1を車両に搭載したときに車室内に異音が発生するか否かを推定する判定ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用の防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用の防振装置(例えばエンジンマウント等)に起因して車室内に異音が発生するか否かの検査として、従来より、完成車を実際に走行させたり、例えば特許文献1,2に示すように完成車を擬似的に走行させたりしながら、車室内に居る検査員が異音の発生の有無を判定する実車官能検査や、車室内の音をマイクロフォンによって検出して異音の発生の有無を判定する検査が行われている。つまり、車載用の防振装置に起因する異音の発生を検査する場合、従来においては、その防振装置を車両に組み付けた完成車に対する検査を行うことしかできなかった。
【特許文献1】特許第2623884号公報
【特許文献2】特開2006−329879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、完成車に対して異音の発生の有無を検査していたのでは検査効率が悪い上に、例えば異音の発生が確認されたときには、その異音の発生原因である防振装置を交換しなければならず、費用がかかってしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車載用の防振装置に起因する車室内異音の発生の有無を簡易に検査することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために、本発明では、以下に述べる知見に基づいて、車両に組み付ける前の防振装置に対して異音発生の検査を行うようにした。
【0006】
つまり、防振装置に起因する異音発生のメカニズムは、次のように考えられる。先ず、車体と被支持体との相対変位によって防振装置内において異音の原因となる現象が発生(例えば防振装置内部の部品同士の衝突等)し、それに起因する力が防振装置内を伝達する。その力は、防振装置と車体側との連結部分である車体側取付部を介して車体に伝達されると共に、その車体内を伝達することによって、最終的に車室内に異音として現れると考えられる。従って、車室内で発生する異音の音圧レベルは、
「車室内の音圧レベル」=「車体感度」×「伝達力」
で表すことができる。ここで、「伝達力」は、防振装置から車体に対して伝達される力、「車体感度」は、車体における力の伝達のし易さを意味する。これによると、伝達力が相対的に大きいときには音圧レベルが高くなって室内に異音が発生することになり、伝達力が相対的に小さいときには音圧レベルが低くなって室内に異音が発生しないことになる。
【0007】
そこで、本発明では、車両に組み付ける前の防振装置単体で、伝達力の大きさを計測すると共に、それを評価することによって、防振装置を車両に組み付けなくても車室内に異音が発生するか否かを推定可能にした。
【0008】
本発明の一側面によると、車載用防振装置の異音検査方法は、車体側に連結される車体側取付部と被支持体側に連結される被支持体側取付部とを有する防振装置によって前記被支持体が前記車体に支持された車両の走行中に、前記防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを判定する方法である。
【0009】
この検査方法は、前記車両に組み付ける前の防振装置を加振装置に取り付けて、当該防振装置の前記被支持体側取付部に、予め設定したパターンの振動を入力する入力ステップと、前記入力の最中に、前記防振装置の車体側取付部から出力される伝達力を計測する計測ステップと、前記計測した伝達力の時系列データを周波数分析することによって、伝達力パワースペクトルを得る分析ステップと、前記伝達力パワースペクトルに基づき、予め設定した評価基準に従って、前記防振装置を車両に搭載したときに当該防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを推定する判定ステップと、を含む。
【0010】
この構成によると、車両に組み付ける前の防振装置を加振装置に取り付けて、その防振装置の被支持体側取付部に、予め設定したパターンの振動を入力する。このことによって、その防振装置の車体側取付部からは、力が出力されることになる。その力は、防振装置を車両に組み付けた場合に防振装置から車体に伝達される伝達力に相当するため、車体側取付部から出力される力を計測することによって、当該防振装置の伝達力が計測されることになる。
【0011】
計測した伝達力の時系列データを周波数分析することにより、伝達力パワースペクトルが得られるため、その伝達力パワースペクトル(つまり、伝達力のパワー)に基づいて、前述したように、防振装置を車両に搭載したときに当該防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを推定することが可能になる。
【0012】
このように本構成では、防振装置単体で、車室内に異音が発生するか否かを事前に推定することができるため、従来の完成車検査に比べて検査効率を大幅に向上させることができると共に、異音が発生すると推定されたときに防振装置を交換する等の作業は必要ないから、費用を大幅に低減することができる。
【0013】
ここで、前述した異音の発生メカニズムにおいて、車体感度は、車体側の構造ばらつき等によってばらつくため、伝達力が同じであっても車体感度の大きさによっては、異音が発生したり発生しなかったりする。このように、異音の発生の有無には車体感度のばらつきも関係するため、本構成の如く防振装置単体で異音の発生の有無を推定する場合には、車体感度のばらつきをも考慮することが望ましい。
【0014】
そこで、前記分析ステップでは、前記伝達力パワースペクトルを用いて、前記車室内に発生する異音の周波数を含む特定区間のオーバーオール値を演算し、前記判定ステップでは、前記演算したオーバーオール値が予め設定した評価しきい値を超えるか否かに基づいて、前記異音が発生するか否かを推定する、ことが望ましい。
【0015】
つまり、特定周波数のパワーではなく、特定区間のオーバーオール値(いわゆる、パーシャルオーバーオール値)に基づいて、異音の発生の有無を推定することによって、車体感度のばらつき要因を考慮に入れた、異音発生の有無の推定を行うことができる。
【0016】
前記入力ステップでは、一定の振幅及び周波数の正弦波振動を前記防振装置の被支持体側取付部に入力する、としてもよい。
【0017】
このような定常振動を防振装置に入力することで、入力振動に同期して発生する定常的な異音が発生するか否かを検査することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によると、防振装置を車両に組み付ける前に、防振装置に起因して車室内で異音が発生するか否かを推定することができるから、従来のように完成車に対し異音発生の検査を行う場合に比べて、その検査効率を大幅に向上させることができると共に、費用を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
(エンジンマウントの構成)
図1は、本実施形態において異音の発生の有無を検査する対象である、車載用防振装置としてのエンジンマウント1を示している。
【0021】
このエンジンマウント1は、エンジン側に連結される連結部15(被支持体側取付部)が一体形成された略円筒状のケース11内に、車体側に連結される連結金具12(車体側取付部)を備えたマウント本体部10が収納されて構成されている。
【0022】
前記マウント本体部10は、後述するように、ケース11のかしめ部11aにかしめられることによってケース11に対し固定される金属製の固定部材14と前記連結金具12とがゴム弾性体13によって互いに連結されて構成されている。
【0023】
前記連結金具12は、径方向の外方に膨出する中間部を挟んだ上部が上方に向かって縮径する略円錐形状に、その下部が略円柱形状にそれぞれ形成されており、その円錐形状の上部に対して、前記ゴム弾性体13の下端部が連結されている一方、円柱形状の下部は、ケース11の底部に形成された穴部11bに内挿されている。この連結金具12には、その下端面に開口するボルト孔が形成されており、図示は省略するが、このボルト孔内にボルトが挿通することによって、連結金具12が車体側に固定されることになる。尚、前記連結金具12の中間部には、前記ゴム弾性体13と連続するストッパゴム13aが中間部を覆うように設けられている。
【0024】
前記ゴム弾性体13は、前述したように、前記連結金具12の円錐状側面部に接着された下部から上方に向かって径方向の外方に放射状に拡がっており、その上端は上方に向かって開口している。
【0025】
そして、前記ゴム弾性体13の上側部分に、前記固定部材14が埋設されている。この固定部材14の上端部は、前記ゴム弾性体13の外周面から径方向外方に突出しており、この円筒部材の突出部分が、前記ケース11の上端部に設けられたかしめ部11aにかしめられることによって、ゴム弾性体13の上側部分が、ケース11に対して固定されるようになっている。
【0026】
前記マウント本体部10の上部には、ゴム弾性体13の上端開口を覆うように、ゴム製のダイヤフラム16が配設されており、このダイヤフラム16と前記ゴム弾性体13とによって、緩衝液の封入される液室17が構成されている。
【0027】
また、前記ダイヤフラム16には、金属製のオリフィス盤18が内嵌されており、このオリフィス盤18によって前記液室17は、オリフィス盤18を挟んだゴム弾性体13側の受圧室17aと、ダイヤフラム16側の平衡室17bと、に区画されている。
【0028】
前記ダイヤフラム16の外周部には、環状金具19が外嵌されており、この環状金具19の下端部が前記ケース11のかしめ部11aに、前記マウント本体部10の固定部材14と共にかしめられることによって、ダイヤフラム16がケース11に対して固定されている。尚、符号22は、ダイヤフラム16を保護するために、このダイヤフラム16に対して外嵌される保護カバーである。
【0029】
前記オリフィス盤18は、その外周部に螺旋状のオリフィス通路21が形成された本体部18aと、該本体部18aの上面に当接して配設される円盤状の蓋部18bとからなり、本体部18aと蓋部18bとが上下に重なった状態で、ダイヤフラム16とゴム弾性体13とによって挟持されることにより、前記オリフィス盤18は、マウント本体部10内で弾性支持されている。
【0030】
前記本体部18aにはまた、その上面側の中央部分に、ゴム製の可動板20を収容するための凹部18cが形成されており、この凹部18c内の底壁には、上下方向に貫通する複数の貫通孔が形成されている。また、前記蓋部18bにおいて、前記凹部18cの位置に対応する中央部分にも、凹部18cの底壁と同様に、上下方向に貫通する複数の貫通孔が形成されている。
【0031】
前記オリフィス盤18によって区画される前記両液室17a,17bは、該オリフィス盤18の周縁に螺旋状に形成されたオリフィス通路21によって互いに連通しており、このエンジンマウント1では、受圧室17a及び平衡室17bの緩衝液がオリフィス通路21を介して相互に流通することによって、ゴム弾性体13から受圧室17aに作用する低周波・大振幅の振動が減衰されるようになっている。このとき、前記ダイヤフラム16は、緩衝液の流通に伴う平衡室17bの容積変化を吸収するように変形する。つまり、前記ダイヤフラム16は、平衡室17bの容積が大きくなったときには外方に向かって膨張する一方、該平衡室17bの容積が小さくなったときには縮んで小さくなる。
【0032】
また、ゴム弾性体13から受圧室17aに作用する高周波・小振幅の振動は、凹部18c内に収容された可動板20が、その空間内で動くことによって、減衰されるようになっている。
【0033】
尚、図1は、マウント本体部10に静荷重が作用していない無荷重状態を示しており、この状態では該マウント本体部10のストッパゴム13aとケース11の底部とが近接している。一方、図示は省略するが、エンジンマウント1が車体に取り付けられて、マウント本体部10にエンジンの静荷重が加わる1G状態では、ゴム弾性体13が撓んでケース11が相対的に下方に変位することで、その底部と前記ストッパゴム13aとの間には所定の間隔が形成されることになる。
【0034】
(エンジンマウントに起因する異音の発生メカニズム)
図2は、前記のエンジンマウント1に起因して車室内に異音が発生するときのメカニズムを示している。例えば悪路走行時等においてエンジンマウント1に大変位が動的に入力されたときには、エンジンマウント1内に大きな液圧変動が生じる。このときに、オリフィス盤18の本体部18aにおける凹部18cと蓋部18bとの間に収容された可動板20が、その本体部18aや蓋部18bと衝突する場合がある。
【0035】
この衝突に伴い発生した力は、エンジンマウント1のゴム弾性体13及びケース11を介して連結金具12に伝達される。そうして、その連結金具12から車体に力が伝達されると共に、その車体内を伝達することによって、車室内で「ボコボコ」又は「ポコポコ」等の異音が発生することになる。
【0036】
このように、エンジンマウント1から車体に力が伝達する(以下、その力を伝達力という)と共に、その力が車体を介して伝達することによって車室内に異音が発生することから、車室内で発生する異音の音圧レベルは、
「車室内の音圧レベル」=「車体感度」×「伝達力」
で表すことができる。上式より、伝達力が大きいときには車室内の音圧レベルが高くなって異音として認識されることになると共に、伝達力が小さいときには車室内の音圧レベルが低くなって異音として認識されなくなる。従って、エンジンマウント1の伝達力の大きさを計測することによって、車室内において異音が発生するか否かを予測することが可能であり、この伝達力の大きさは、エンジンマウント1を車両に組み付けなくても、エンジンマウント1単体で計測することが可能である。
【0037】
そこで、本実施形態では、加振装置を用いることによって、エンジンマウント1の伝達力の大きさを計測するようにして、車室内に異音が発生するか否かを、事前に検査する。
【0038】
ここで、上式によると、伝達力の大きさが同じであっても、前記車体感度のばらつきによっては車室内で異音が発生する場合と異音が発生しない場合とが起こり得る。従って、エンジンマウント1の伝達力の大きさを計測することで、エンジンマウント1の伝達力が比較的小さいことが判明したとしても、そのエンジンマウント1を組み付けた車両の車体感度が大きいときには車室内に異音が発生することにもなる。従って、車室内に異音が発生するか否かを判定する上では、車体感度のばらつきを考慮することが必要である。
【0039】
本実施形態では、その車体感度のばらつきを吸収するために、詳しくは後述するが、計測した伝達力のパワースペクトルを用い、特定区間のオーバーオール値の大きさに基づいて、車室内に異音が発生するか否かを判定するようにする。
【0040】
(異音検査システムの構成)
図3は、本実施形態に係る異音検査方法を実施する際に用いられる、異音検査システムのブロック図を示している。このシステムは、エンジンマウント1に対して振動を入力すると共に、出力される伝達力を計測する加振装置3と、加振装置3に対し振動入力のための油圧を供給する油圧ユニット41と、加振装置3及び油圧ユニット41の制御を行う主制御盤42と、計測した伝達力のデータに対して所定の処理を行うことにより、エンジンマウント1に起因する異音の発生の有無を推定するコンピュータ5と、を備えて構成される。
【0041】
前記加振装置3は、本体部31と、本体部31に対し相対的に、上下方向に移動可能なクロスヘッド部32と、を備えて構成されている。本体部31には、エンジンマウント1に対して振動を入力するための油圧シリンダ33が設けられていると共に、クロスヘッド部32には、エンジンマウント1から出力される伝達力を計測するための計測部34が設けられている。
【0042】
前記油圧シリンダ33は、上下方向に変位するステージ35を備えており、このステージ35は、主制御盤42によりサーボバルブ36が制御されることに伴い、油圧シリンダ33に供給される油圧が制御されることによって所定のパターンで上下動する。
【0043】
前記クロスヘッド部32は、図示省略の昇降シリンダによって上下方向に移動可能に構成されている。前記計測部34は、クロスヘッド部32の下面に対して固定されていて、エンジンマウント1の連結金具12が固定される固定部分を備えていると共に、当該固定部分に作用する荷重を計測するためのロードセルを備えている。ロードセルの検出信号は主制御盤42を介してコンピュータ5に入力されるように構成されている。
【0044】
この加振装置3には、前記のエンジンマウント1が天地を逆転させた姿勢で取り付けられるようになっている。つまり、前記本体部31のステージ35にはケース11が固定される一方、前記クロスヘッド部32の計測部34には連結金具12が固定される。
【0045】
そうして、エンジンマウント1に対し振動入力を行う検査時には、前記クロスヘッド部32を下方に移動させて、エンジンマウント1が前記の1G状態となるように、このエンジンマウント1に静荷重を加えた状態で、主制御盤42からの制御信号に応じて油圧シリンダ33を駆動させる。それによって、ステージ35が所定のパターンで上下に変位することにより、エンジンマウント1のケース11に対して、所定パターンの振動が入力されるようになる。
【0046】
そうしてケース11に対して振動を入力している最中に連結金具12に作用する荷重が計測部34のロードセルによって検出され、その検出信号が主制御盤42を介してコンピュータ5に入力される。そのようにして、エンジンマウント1の伝達力が計測されることになる。
【0047】
次に、前記加振装置3においてエンジンマウント1に入力する振動条件の決定について、図4を参照しながら説明する。この入力振動条件の決定は、実車の走行試験の結果に基づいて行われる。
【0048】
先ず、前記のエンジンマウント1によってエンジンが支持された車両において、そのエンジンマウント1の入力変位(車体とのエンジンとの相対変位に係りケース11に入力される変位)を計測可能にすると共に、車室内にマイクロフォンを設置する。そうして、前記車両を所定の条件で走行させ(例えば悪路走行等の所定路面の走行や、定速走行及び加速走行等)、エンジンマウント1の入力変位の時系列データと、車内音の時系列データとをそれぞれ取得する。
【0049】
取得した車内音の時系列データにおいて、その音データを再生することにより異音が発生したタイミングを特定する(点線の囲み参照)。そして、特定した範囲の時系列データに対して周波数分析を行うことにより異音の周波数を特定する。ここで特定した異音の周波数に基づいて、後述する伝達力のオーバーオール値を演算する特定区間が決定される。つまり、当該異音の周波数を含むように特定区間を決定すると共に、決定した特定区間を、後述するオーバーオール計算部に記憶させる。
【0050】
一方、エンジンマウント1の入力変位の時系列データにおいて、前記異音の発生タイミングと同じ範囲(点線の囲み参照)に対し周波数分析を行う。これによって、車室内に異音が発生するときのエンジンマウント1の入力変位が特定されるため、これに基づいて、加振装置3の入力振動条件である周波数及び振幅をそれぞれ決定する。尚、加振装置3による入力振動は正弦波振動とする。
【0051】
図5は、前記のコンピュータ5において所定のプログラムが実行されることにより、当該コンピュータ5において実現される処理ブロックの構成を示している。
【0052】
時系列データ取得部51では、前述した加振装置3の計測部34(ロードセル)から出力されたエンジンマウント1の伝達力の時系列データを、主制御盤42を介して取得する。
【0053】
データサンプリング部52は、前記取得した時系列データに対し所定周波数でサンプリングを行う。
【0054】
周波数分析部53は、前記データサンプリング部52でサンプリングされた、伝達力の時系列データに対しフーリエ変換を実行することによって、伝達力のパワースペクトルを演算する。尚、このときに、例えば加算平均による平均化処理を実行してもよい。
【0055】
オーバーオール計算部54は、前述したように、予め設定された特定区間を記憶しており、図6に斜線で示すように、その特定区間におけるオーバーオール値(いわゆる、パーシャルオーバーオール値)を計算する。
【0056】
判定部55は、後述するように、予め設定された評価しきい値を記憶しており、オーバーオール計算部54において計算されたオーバーオール値が、その評価しきい値よりも大きいか否かを判定し、結果出力部56は、その判定結果を例えば表示として出力する。
【0057】
次に、前記判定部55での判定に係る評価しきい値の決定方法について説明する。先ず、伝達力が互いに異なる複数個のエンジンマウント1を用意すると共に、各エンジンマウント1を車両に組み付けることによって、複数のエンジンマウント1それぞれによってエンジンを支持した車両を用意する。そうして、その完成車を実際に走行させながら、車室内の異音レベルを測定すると共に、検査員による異音発生の官能評価を行う。
【0058】
このことによって、例えば図7に示すように、伝達力の大きさに対する官能評価点及び異音レベルの関係(例えば図7に示すように直線によって示される比例関係)が得られる。また、前記の官能評価又は計測した異音のレベルによって、車室内に異音が発生したか否かのしきい値が決定される。
【0059】
従って、決定されたしきい値と前記直線との交点から、前記判定部55での判定に係る評価しきい値が決定され、その決定された評価しきい値が判定部55に記憶されることになる。
【0060】
(エンジンマウントの異音検査手順)
次に、図8に示すフローチャートを参照しながら、この異音検査システムにおけるエンジンマウント1の検査手順を説明する。先ずステップS1では、加振装置3に取り付けたエンジンマウント1に対する振動入力が開始され、続くステップS2において、その加振が安定したか否かが判定される。安定していないのNOときにはステップS2を繰り返す一方、安定したときのYESにはステップS3に移行する。
【0061】
ステップS3では、ロードセルにより伝達力が計測され、続くステップS4でその計測データ(伝達力の時系列データ)が主制御盤42からコンピュータ5に転送される。
【0062】
ステップS5では、前述したように、コンピュータ5において、伝達力の時系列データの周波数分析を行うと共にオーバーオール値を演算し、ステップS6において、演算したオーバーオール値と評価しきい値との大小比較により、異音の発生の有無を判定する。判定結果がOK、つまり異音が発生しないという判定のときにはステップS7に移行して、所定の表示器(図示省略)にOK表示をする一方、判定結果がNG、つまり異音が発生するという判定のときにはステップS8に移行して、前記表示器にNG表示をする。そうして、ステップS9において振動入力を終了して、検査が終了する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の検査方法によると、エンジンマウント1単体で検査を行い、エンジンマウント1を車両に組み付けなくても異音の発生の有無が推定されるため、検査効率が向上すると共に、エンジンマウント1の交換等が生じることはないため、費用が大幅に低減する。
【0064】
また、異音の発生の有無は、前述したように、伝達力のオーバーオール値に基づいて推定するため、エンジンマウント1単体で検査しているものの、そのエンジンマウント1が組み付けられる車体の感度のばらつきを吸収することができ、判定精度を向上させることができる。
【0065】
尚、伝達力のオーバーオール値ではなく、例えば所定の周波数の伝達力のパワーに基づいても、異音の発生の有無を判定することは可能である。但しこの場合は、前述したように車体感度のばらつきを考慮することにはならないため、判定精度は低下する。
【0066】
また、前記実施形態では、異音検査対象を、車体側の取付部とエンジン側の取付部とが略上下に配置されたエンジンマウント1を対象としているが、例えばエンジン側の取付部が内側で車体側の取付部が外側となった、いわゆるブッシュタイプのエンジンマウント1を検査対象とすることもできる。
【0067】
また、検査対象は、液体封入式のマウントに限るものではない。さらに、本発明において検査対象となり得るものはエンジンマウント1に限らず、本発明は、その他、サスペンション、排気管等の支持に使用される、車載用の防振装置に対して広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明は、防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを、その防振装置を車両に組み付ける前に検査することができるため、各種の車載用防振装置の異音検査方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態に係る異音検査方法の検査対象となるエンジンマウントを示す断面図である。
【図2】異音発生のメカニズムを説明する図である。
【図3】異音検査方法の実施に用いられる検査システムのブロック図である。
【図4】エンジンマウントに対する入力振動条件を決定する手順を説明する図である。
【図5】コンピュータにおいて実行される各処理を示す処理ブロック図である。
【図6】特定区間のオーバーオール値の概念図である。
【図7】伝達力に対する官能評価点及び異音レベルの関係を示す図である。
【図8】エンジンマウントの検査手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジンマウント(防振装置)
12 連結金具(車体側取付部)
14 連結部(被支持体側取付部)
3 加振装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に連結される車体側取付部と被支持体側に連結される被支持体側取付部とを有する防振装置によって前記被支持体が前記車体に支持された車両の走行中に、前記防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを判定する異音検査方法であって、
前記車両に組み付ける前の防振装置を加振装置に取り付けて、当該防振装置の前記被支持体側取付部に、予め設定したパターンの振動を入力する入力ステップと、
前記入力の最中に、前記防振装置の車体側取付部から出力される伝達力を計測する計測ステップと、
前記計測した伝達力の時系列データを周波数分析することによって、伝達力パワースペクトルを得る分析ステップと、
前記伝達力パワースペクトルに基づき、予め設定した評価基準に従って、前記防振装置を車両に搭載したときに当該防振装置に起因して車室内に異音が発生するか否かを推定する判定ステップと、を含む車載用防振装置の異音検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の異音検査方法において、
前記分析ステップでは、前記伝達力パワースペクトルを用いて、前記車室内に発生する異音の周波数を含む特定区間のオーバーオール値を演算し、
前記判定ステップでは、前記演算したオーバーオール値が予め設定した評価しきい値を超えるか否かに基づいて、前記異音が発生するか否かを推定する車載用防振装置の異音検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異音検査方法において、
前記入力ステップでは、一定の振幅及び周波数の正弦波振動を前記防振装置の被支持体側取付部に入力する車載用防振装置の異音検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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