車載端末および安全運転支援システム
【課題】路車間通信および車車間通信を実行する車載端末が、通信の対象に応じて適切に受信感度を設定するための技術を提供する。
【解決手段】路側機との路車間通信、および、他の車両との車車間通信を行う通信部と、前記通信部が路車間通信と車車間通信のいずれを行うかを切替える制御、および、前記通信部の受信感度を設定する制御を行う制御部とを有し、前記制御部は、前記通信部が路車間通信を行う受信感度よりも、車車間通信を行う受信感度が高くなるように受信感度を設定することを特徴とする車載端末を用いる。
【解決手段】路側機との路車間通信、および、他の車両との車車間通信を行う通信部と、前記通信部が路車間通信と車車間通信のいずれを行うかを切替える制御、および、前記通信部の受信感度を設定する制御を行う制御部とを有し、前記制御部は、前記通信部が路車間通信を行う受信感度よりも、車車間通信を行う受信感度が高くなるように受信感度を設定することを特徴とする車載端末を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路車間通信と車車間通信を行う車載端末および安全運転支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両や道路に関する情報を無線通信により送受信してユーザに安全性や利便性を提供するために、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)の研究開
発が進められている(非特許文献1を参照)。ITSのうち安全運転支援システムは、路側機や他の車両等のインフラ機器と車両との無線通信により、車両から直接見えない範囲の交通情報などを入手し、必要に応じて運転者に情報提供を行うことにより、交通事故の削減を図るものである。安全運転支援システムに分類される無線システムとして、車車間通信システムと路車間通信システムがある。
【0003】
車車間通信システムは、車載端末が他の車両と無線通信を行い、周囲の車両の情報(位置、速度、車両制御情報等)を入手し、必要に応じてユーザに安全運転支援を行うシステムである。一方、路車間通信システムは、車載端末が路側機と無線通信を行って情報(信号情報、規制情報、道路情報等)を入手し、必要に応じてユーザに安全運転支援を行うシステムである。安全運転支援の方法としては、入手した情報に基づいて衝突回避や制動など車両の運転制御を行うことや、画面表示や音声などユーザに理解しやすい形での情報提供を行って注意喚起することが考えられる。
【0004】
安全運転支援に用いられる情報が車車間通信と路車間通信のいずれで得られたものであるかは、サービスを受けるユーザにとっては関わりのないことであり、その違いは意識されない。逆に、車車間通信と路車間通信で得た情報を区別することなく提供することにより、ユーザがサービスを受ける機会が増大する。さらに、システム構成の観点からすると、一つの車載端末を車車間通信と路車間通信の両方に利用できればコストパフォーマンスが増大する。そのため、安全運転支援システムにおいては、ユーザへの情報提供および構成の合理化という観点から、車車間通信と路車間通信で車載端末を共用することが望まれる。
【0005】
特許文献1には、路車間通信および車車間通信を行う車両無線通信システムが記載されている。この車両無線通信システムを構成する車載器は、路車間通信を行う無線装置と、車車間通信を行う無線装置とを含んでおり、車載制御装置が両者のうちいずれで情報を受け取るかの切り替えを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−128976号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】総務省「ITS無線システムの高度化に関する研究会」報告書、平成21年6月公表
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように車車間通信と路車間通信で車載端末を共用することが望ましいものの、双方の通信環境の違いに起因して、それぞれに好適な受信感度設定が異なる。従って実際
に装置を共用する際には注意を要する。以下、例を挙げて説明する。
【0009】
路車間通信の際に行われる通信の特徴を、図1の例を用いて説明する。路車間通信のサービスは、路側機がある場所において、その装置と通信可能な範囲内に限定して提供される。例えば信号情報を提供する場合、交差点付近の見通しの良い場所に背の高い通信装置を設置して車両との通信を行う。
【0010】
図1(a)は、ある交差点の平面図である。図中、車両1が路側機2と通信可能な範囲である路車間通信エリア20を点線で示している。なお、路車間通信エリアの広さは、路側機の送信電力と車両側の受信感度によって変化する。
図1(b)は、図1(a)の道路を左から右へ走行する車両1が、路側機2との間で無線通信をする際の受信電力を示した図である。横軸は道路上での位置と対応しており、縦軸は受信電力を示す。また、車両に提供した情報を安全運転支援に間に合わせるための時間的余裕を見込んだ上で、車両と路側機との通信を成立させるべき範囲を、想定通信エリアとして示している。
【0011】
この図から分かるように、路車間通信での受信電力は、路側機の直下をピークとして(図1(a)と図1(b)を結んだ点線で示す)、送信部からの距離に応じて滑らかに変化するので、値を予測しやすい。また、路側機が見通しの良い高い位置に設置されているため、後述する車車間通信と比べて受信電力が大きくなる。そのため、車載端末の受信感度を車車間通信よりも低く設定できる。例えば図中の想定通信エリアの全てで路側機との通信を可能とし、かつ多少の余裕を持たせた受信感度を設定する場合、受信電力P1を閾値として設定し、それ以下の信号を無視すれば良い。
【0012】
車車間通信の際に行われる通信の特徴を、図2の例を用いて説明する。車車間通信では車両同士の情報交換によりサービス提供がなされるので、自車両のみならず他の車両も車載端末を有している必要がある。以下の記述に出る車両は、車車間通信に必要な装備を有しているものとする。
【0013】
図2(a)は、ある交差点の平面図である。この交差点には路側機は設置されていない。図中、自車両1は、他の車両3と車車間通信を行う。なお、ここでは他の車両3は交差点の手前で停止していると考える。また、この交差点の左下ブロックには建物があり、自車両と他の車両の間の無線通信の電波を遮蔽する。
図2(b)は、図2(a)の道路を左から右に走行する自車両1が、他の車両3との間で無線通信をする際の受信電力を示した図である。横軸は道路上での位置と対応しており、縦軸は受信電力を示す。グラフのスケールは図1と同じである。また、車両に提供した情報を安全運転支援に間に合わせるための時間的余裕を見込んだ上で、他の車両との通信を成立させるべき範囲を、想定通信エリアとして示している。
【0014】
この図から分かるように、車車間通信において双方の車両の間に遮蔽物がある見通し外通信の期間は、回り込み等によってしか電波が届かないため、受信電力が低い状態となっている。そして、遮蔽物の影響を受けずに直線的に双方の車両が通信できる見通し内通信の期間になると(図2(a)と図2(b)を結んだ点線で示す)、急に受信電力が高くなる。その後は車両同士の距離が開くにつれて徐々に強度が低下していく。また、上述した路車間通信に比べて送信機の位置が低くにあるため、受信電力は全体的に低くなる。
【0015】
しかし、周囲の他の車両の情報を入手して、出会い頭事故の防止などユーザの安全運転を支援するという車車間通信の目的から考えると、ユーザが相手車両を直接視認できない見通し外通信の期間こそ、通信を成立させることが求められる。そのため、図中の想定通信エリアの全てで他の車両との通信を可能にするように、路車間通信よりも低い受信電力
P2を閾値として設定することになる。
【0016】
路車間通信と車車間通信での上述したような通信環境の違いを踏まえて、車載端末を共用する際の課題について検討する。車載端末の受信感度を設定する際に、路車間通信においては、上述したように受信感度を比較的低く設定することが可能と言える。一方、車車間通信では、特に建物などの遮蔽物がある場合などに、受信感度を高めることが必要だと言える。
【0017】
しかし、従来提案されていた路車間通信と車車間通信で共用する車載端末では、受信感度は単一であり、路車間・車車間ともに同じ値に設定されていた。図3に、従来の車載端末で設定される受信感度を示す。図3(a)は、車両が路車間通信エリアにいる時の、車載端末の通信相手および受信感度を示す図である。図から分かるように、時分割により路車間通信期間と車車間通信期間が設けられている。時分割の方法は様々に決定できるが、路側機からの同期タイミングに従って、路車間と車車間を合わせた通信期間(例えば100msec)を繰り返す方法によっても良い。この場合、ヘッダに路車間と車車間の比率を指定しておけば、状況に応じて通信期間の割当てを変更することができる。そして、受信感度は、車車間通信に合わせた値となっている。
一方、車両が路車間通信エリアにいない場合は常に車車間通信を行うので、図3(b)のように車車間通信に適した受信感度が設定される。
【0018】
このように、従来の車載端末を用いると、車車間通信の側に合わせて受信感度を高く設定する必要があった。一方、路車間通信では本来、受信感度を低く設定できるのに、車車間通信の要件に合わせた高い受信感度で、過剰な性能により通信を行うことになる。その結果、車載端末が路側機のサービス提供エリア(路車間通信エリア)以上の範囲からの電波を受信し、通信効率が低下する恐れがある。また消費電力やノイズの増大にもつながっている。
【0019】
この問題への対応の一例として、路側機からの送信電力を下げることが考えられる。これにより、車載端末の受信感度を車車間通信のレベルで一定としたままでも、路車間通信の際の効率低下をある程度抑えることができる。しかし、路車間通信においても、シャドウイングの発生、すなわち大型車両や建物等の存在により通信時の電波が遮蔽される可能性はあるので、必ずしも送信電力を下げられるとは限らない。
【0020】
また、特許文献1では、車車間通信と路車間通信で用いる無線機を切り替えるので、それぞれの特徴に合った無線通信を行うことができる。しかし、装置の規模が大きくなるため、大きなスペースを占めて設計を制約される上、構成の無駄も多くなる。
【0021】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、路車間通信および車車間通信を実行する車載端末が、通信の対象に応じて適切に受信感度を設定するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
路側機との路車間通信、および、他の車両との車車間通信を行う通信部と、
前記通信部が路車間通信と車車間通信のいずれを行うかを切替える制御、および、前記通信部の受信感度を設定する制御を行う制御部とを有し、
前記制御部は、前記通信部が路車間通信を行う受信感度よりも、車車間通信を行う受信感度が高くなるように受信感度を設定することを特徴とする車載端末である。
【0023】
このような構成を取る車載端末では、制御部が、車車間通信を行う時の受信感度が路車
間通信の時よりも高くなるように制御を行う。その結果、車車間通信を行っている間は、見通し外にいる他の車両との通信が成立する確率が高くなるので、ユーザに情報を提供したり車両を適切に制御したりすることが可能になり、安全運転支援が良好に行われる。また、路車間通信を行っている間は、路側機と通信を成立させるのに必要な受信感度に設定されるので、効率的な車載端末の運用が可能になる。
【0024】
車載端末の前記制御部は、設定した受信感度により路側機からのデータを受信できる路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、路車間通信と車車間通信の切り替えを繰り返すように前記通信部を制御し、自車両が路車間通信エリア外にいる場合は、車車間通信のみを行うように前記通信部を制御するように構成されても良い。
このような構成を取る車載端末においては、路側機との通信ができる範囲では路車間通信と車車間通信が交互に繰り返され、他の車両からの情報および路側機からの情報を受信できる。その結果、安全運転支援に使用できる情報量が増えることになる。また、路側機と通信ができない範囲では車車間通信のみを行うので、他の車両の情報を多く収集できるようになり、安全運転支援の精度が向上する。
【0025】
車載端末の前記制御部は、路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、それぞれ所定時間の路車間通信期間および車車間通信期間を繰り返すことにより前記通信部を制御するように構成されても良い。
このような構成を取ることにより、制御部が路車間通信と車車間通信の期間の切り替えを規則的に行うことができ、効率的に路側機および他の車両からの情報を取得できるようになる。
【0026】
前記通信部は、路側機と通信が成立するかを試行し、
前記制御部は、試行の結果に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断するように構成されても良い。
あるいは、車載端末は、自車両の位置情報を取得する位置取得部をさらに有し、
前記制御部は、取得した位置情報に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断するように構成されても良い。
このような構成を取る車載端末においては、通信の試行結果または自車両の位置情報に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを制御部が把握できるので、路車間通信期間と車車間通信期間の切り替えを適切に実行可能になる。
【0027】
本発明は、上記の車載端末を備える車両と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機とを含み、
前記路側機は、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度を配信し、
前記制御部は、前記配信された受信感度を受け取って以降は、当該配信された受信感度を路車間通信の受信感度として設定することを特徴とする安全運転支援システムとしてとらえることもできる。
このような構成の安全運転支援システムにおいては、車両のユーザは、上記の車載端末を用いたことによる受信感度の適切な設定と言う利益をそのまま享受できる。また、路車間通信を行う際の受信感度が路側機に対して最適な値に設定されるので、通信資源の効率的な利用が可能になる。
【0028】
上記の安全運転支援システムにおいて、前記車載端末は、路側機と配信された受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記制御部は、前記記憶手段にエントリーが存在する路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御するように構成されても良い。
このような構成の車載端末は、一度路車間通信を行った路側機との間では適切な受信感
度を記憶しているので、再度その路側機の通信エリアに入った際に効率的に路車間通信を実行することができる。
【0029】
上記の安全運転支援システムには、複数の路側機を含めうる。その場合、車載端末は、路車間通信期間を時分割して複数の路側機と、それぞれに適した受信感度で路車間通信を行う。
このような構成の安全運転支援システムによれば、車載端末が複数の路側機から交通情報を得ることができるので、ユーザに情報を提供する際に情報源としてカバーする領域が広がる。その結果判断の基礎となる情報の量が増加して、より安全性を高めることが可能になる。
【0030】
本発明は、上記の車載端末と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機と、
路側機と、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する管理装置とを含み、
前記管理装置は、前記エントリーを車載端末に配信し、
前記制御部は、エントリーを受信した路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御することを特徴とする安全運転支援システムとしてとらえることもできる。
このような管理装置を設けることによって、路側機ごとに設定すべき最適な受信感度を記憶し、車両に配信することができる。その結果各車両は効率的な路車間通信を行うことができるようになる。
【0031】
上記の安全運転支援システムにおいて、前記車載端末は、路側機と通信する際の最適な受信感度を推定して受信感度として設定して、前記管理装置にアップロードし、前記管理装置は、アップロードされた受信感度を路側機と対応付けたエントリーとして記憶することもできる。
このような構成の安全運転支援システムによれば、管理装置には路側機について設定すべき最適な受信感度を各車両から収集できるので、他の車両に対してそれを配信することにより効率的な路車間通信を実現できる。
【0032】
上記の安全運転支援システムにおいて、路車間通信を行う期間においては、路側機からの送信電力を低下させることができる。
このような路側機であれば、車載端末が路車間通信時に受信感度を低くするのに加えて、情報が配信される際の送信電力が低下することから、路側機の側では通信資源の効率的な活用ができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、路車間通信および車車間通信を実行する車載端末が、通信の対象に応じて適切に受信感度を設定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】路車間通信における受信電力の変化を示す図である。
【図2】車車間通信における受信電力の変化を示す図である。
【図3】従来の路車間通信と車車間通信における受信感度を示す図である。
【図4】実施形態1の車載端末の構成を示す図である。
【図5】実施形態1の処理全体を示すフローチャートである。
【図6】実施形態1の路車間通信の受信感度設定を示すフローチャートである。
【図7】実施形態1の路車間通信と車車間通信における受信感度を示す図である。
【図8】複数の路側機と通信を行う路側通信期間を示す図である。
【図9】路側機が受信感度を配信する様子を示す図である。
【図10】管理装置に路側機の受信感度を記憶する様子を示す図である。
【図11】実施形態3の処理全体を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<実施形態1>
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。以下に述べる安全運転支援システムの主な構成要素として、自車両1、路側機2、他の車両3がある。
【0036】
(車載端末の構成)
図4は、自車両1に搭載される車載通信端末の構成を示すブロック図である。制御部101は、各ブロックに指示を与えて処理の内容や順序を制御する装置であり、例えばECUで動作するプログラムにより構成される。通信部102は、路車間通信および車車間通信を行う無線通信装置である。記憶手段103は、路側機と、その路側機に設定すべき受信感度を関連付けたエントリーを記憶するデータベースであり、HDDや半導体不揮発メモリなどを利用できる。位置データ取得部102は、自車両の現在位置を位置データとして取得する装置であり、例えばGPS衛星からの信号を受信して現在位置を特定する装置を用いる。またGPSに加えて自律測位機能を持つようにしても良い。
【0037】
ここで、通信部が路側機や他の車両から送信されたデータをどの程度の受信感度で受信するかは、通信部側で設定する受信電力の閾値により決定される。例えば図1(b)では、閾値として設定されたP1より小さい電力値は無視され、それ以上の部分のみが路側機からのデータとして制御部に処理される。一方、図2(b)では、閾値としてP2が設定されているので、図1(b)と比べてより受信電力の低い部分も、路側機からのデータとして制御部によって処理される。このように閾値の設定により受信感度を高くすることができるが、その反面、ノイズが混入する割合が大きくなる。
【0038】
また本実施形態においては、路側機は送信電力を変更せずに通信を行う。従って、路車間通信が成立する範囲は、通信部の受信感度の設定に依存する。また、他の車両の無線通信の能力は車車間通信の仕様に準じて統一されており、車両を問わず送信電力は一定であるとして説明を行う。従って車車間通信が成立する範囲は、基本的には通信部の受信感度の設定に依存し、遮蔽物の有無によって変化する。
なお、実際の交通状況下では、送信側の電力のばらつきや、受信側の通信装置の能力の違いがあり得る。その場合であっても、装置ごとの違いを係数等により吸収して受信感度の設定を統一的に取り扱うことは可能である。
【0039】
(処理フロー)
図5は、本実施形態の処理の概略を示すフローチャートである。このフローは、車両のエンジンスタート等によりシステムが起動した時点から開始する。
ステップS101において、位置データ取得部は、GPS衛星からの信号を受信して現在位置を取得し、自車両の位置データとする。そして通信部102は、路側機との通信を試行する。
ステップS102において、制御部は、自車両が路側機と通信できる路車間通信エリアにいるかどうかを判断する。ここでの判断は、通信部の試行結果に基づき、路側機が配信したデータパケットを受信できているかどうかを判断することにより行われる。路車間通信エリアにいる場合にはS103に進み、いない場合にはS105に進む。
ステップS103では、制御部は、現在路車間通信期間であるかどうかを判断する。この判断は、前のステップで路側機のデータパケットを受信できているので、そのヘッダに含まれる制御データを参照して行われる。現在路車間通信期間であればS104に進み、
そうでなければS105に進む。このとき通信が成立した路側機をID等により特定しておく。
ステップS104では、制御部は、路車間通信時の受信感度を設定する。この処理については後述する。
ステップS105では、制御部は、車車間通信時の受信感度を設定する。車車間通信時の受信感度は、車車間通信の仕様などに基づいて予めデフォルト値が定められている。
ステップS106では、通信部は、S104またはS105で設定された受信感度に従って無線通信を実行する。路車間通信であれば路側機からインフラ情報を入手することができ、また、必要に応じて車両側が持つ情報をアップロードすることもあり得る。車車間通信期間であれば通信部が車両同士で通信を行い、情報を交換する。
ステップS107では、制御部は、前のステップで入手した情報に基づいて各種の安全運転支援動作を行う。
上記のS106〜S107の処理を実行する回数やタイミングは様々に設定することができる。例えばフローチャート中でループさせた矢印で示したように、毎回路側機との通信を試行しても良い。あるいは、S104およびS105で一旦設定した受信感度で複数回の通信を行い、所定の回数や時間が経過したら、S101に戻るようにしても良い。
【0040】
上記のステップS104における、路車間通信の受信感度設定処理についてさらに述べる。図6は、この処理を説明するためのフローチャートである。
ステップS201において、制御部は、記憶手段を参照する。記憶手段には、路側機ごとに、設定すべき受信感度がエントリーとして記憶されている。そこで制御部は、通信が成立した路側機のIDをキーとしてエントリーを探す(S202)。
エントリーが存在すればステップS204に進み、記憶された値を受信感度として設定する。一方、エントリーが存在しなければステップS203に進み、予め定められた、車車間通信に通常用いられる値よりも低い、デフォルトの受信感度が設定される。
【0041】
自車両の車載端末が上記の図5、図6に示すフローチャートに沿って受信感度を設定した結果を図7に示す。図7(a)は、車両が路車間通信エリアにいる時の、路車間および車車間通信それぞれの通信期間と受信感度を示す図である。各通信期間については従来の方法と同様、路車間および車車間の通信期間に時分割されている。受信感度について見ると、路車間通信期間では比較的低い受信感度が設定され、車車間通信期間ではそれよりも高い受信感度が設定されている。一方、車両が路車間通信エリアにいない場合は、図7(b)に示したように、常に車車間通信に適した高い受信感度が設定される。
【0042】
このように、本実施形態の車載端末によれば、車両のいる位置(路側機と通信できる範囲内か)、および、通信の時間帯(路車間と車車間いずれの通信期間か)によって通信部の受信感度が制御される。その結果、ユーザの安全運転支援のために必要な情報を取得しつつ、通信の対象に応じた受信感度を設定することで通信資源の使用効率を向上させることが可能になる。
【0043】
<変形例1>
以上具体的な例を挙げて受信感度の設定方法を述べたが、本発明を実施するに当たっては、上記のフローの一部を変更することができる。
例えば、実施形態1とは異なる方法により、路車間通信エリアにいるかどうかの判断を行う変形例が考えられる。図5のフローのステップS102においてはこの判断を、路側機との通信の試行が成立したかどうかに基づいて行っている。
【0044】
ここで車載端末が、記憶手段に、地図上の位置データをキーとして、その地点が路車間通信エリアに含まれるかどうかを記憶しておく構成が考えられる。そして、制御部はS101で取得した自車両の位置データに基づいて記憶手段を参照することにより、路車間通
信にいるかどうかの判断を行うことができる。
【0045】
<変形例2>
また、自車両が複数の路側機と通信可能である場合が考えられる。言い換えると、複数の路側機の路車間通信エリアが重なる領域に車両が存在する場合である。このような場合に従来から、路車間通信期間を時分割する方法があった。この様子を図8(a)に示す。2つの路側機2Aと2Bが車両の通信可能範囲内にあるとき、制御部は1回の路車間通信期間を時分割して、それぞれの路側機と無線通信を行う。
【0046】
図8(a)の方法によれば、車載端末は複数の路側機からの情報を収集できる。しかしながら、路車間・車車間通信期間ともに、車車間通信期間に合わせた高い受信感度が設定されているために、路車間通信期間においては通信性能が過剰になっていた。また、地形や遮蔽物等の影響によって路側機2Aおよび2Bに適した受信感度が異なる場合であっても、受信感度は一様に設定されてしまっていた。
【0047】
この問題に対応するために、図8(b)に示したように路車間通信期間の受信感度を設定する。すなわち、路側機2Aおよび2Bとの通信を時分割で行い、かつ、分割されたそれぞれの期間において、通信相手の路側機に適した受信感度を設定する。
以上述べたように、路車間通信期間を路側機ごとに時分割し、各々に適した受信感度を設定するようにすれば、路側機のそれぞれが配信する情報をいずれも受信することができるので、ユーザの安全運転支援に用いる情報の基盤が増えて、車両制御や情報提供の正確性が向上するようになる。さらに、路車間通信期間の受信感度は全般的に車車間通信期間よりも低く設定されているので、通信資源の効率的な利用が可能になる。
【0048】
<実施形態2>
本発明の別の実施形態について説明する。この実施形態では、制御部が路車間通信期間に設定する受信感度を、路側機から配信された指示値に従って決定する点が上述の例と異なる。
【0049】
図9を用いて、本実施形態における受信感度設定の概念を説明する。自車両1は、交差点に設置された路側機2に近づく向きに走行している。エリア20Aは、車載端末が受信電力PAを閾値として受信感度を設定されている場合に、路側機と車両が通信可能な範囲である。以下この状態を、受信感度をPAとして設定した状態とも呼ぶ。エリア20Bは、PAよりも低い受信電力PBを閾値として受信感度を設定されている場合に通信可能な範囲である。
【0050】
車載端末はまず、実施形態1と同様に、路側機2からのパケット受信を試行する。この時の受信感度はPAだとする。すると、車両がエリア20Aの中に入った時点で、両者の間の通信が初めて成立する(丸数字1)。
【0051】
本実施形態では、パケットの中の所定のデータエリアに、車載端末が路側機2と通信する際の適切な受信感度としてPBが格納されている。そこで制御部は、受信感度をPAからPBに変更する。この時点で一旦、車両側は路側機からの情報を取得できなくなる。そして車両は、車載端末の受信感度PBで定期的に通信を試行しながら、図面右側へと走行する(丸数字2)。
車両がエリア20Bの中に入ると、路側機との通信が成立する(丸数字3)。以降、通信部はこの受信感度で配信情報を取得する。
【0052】
このような安全運転支援システムによれば、車載通信端末は路側機から適切な受信感度を指示され、その受信感度に従って受信感度を下げて通信を行うので、通信資源の効率的
な利用が可能となる。また、受信感度を変更してから再度路車間通信が成立する範囲(エリア20B)に入るまでは路車間通信を行わないので(丸数字2に相当する期間)、その間は車車間通信に時間を割り当てることが可能になり、他の車両に関する情報を取得しやすくなる。
【0053】
なお、本実施形態において、配信された受信感度PBを、路側機2と対応させて車載端末の記憶手段に格納する構成を取っても良い。その結果、車両が再度路側機2のある交差点に進入しようとする場合、最初から受信感度PBを設定しておくことにより通信の効率化を図ることが可能になる。
【0054】
本実施形態のように路側機の指示に従って受信感度を設定する方法は、例えば、車載端末の記憶手段に、その路側機に対応したエントリーが無い場合に有効である。すなわち、デフォルトの受信感度がPAであり、路側機に最適な受信感度がPBだとすると、路側機からの指示により最適な受信感度PBを設定することができるし、また、記憶手段にPBを格納して以後の通信に用いることができる。
【0055】
本実施形態の方法はまた、交通量の増大などに伴い路側機を増設したときに、2つの路側機の路車間通信エリアを重複させないようにする際にも有効である。すなわち、車載端末の記憶手段には増設前の高い受信感度が格納されている場合に、路側機からの受信感度変更指示に応じて受信感度を低くすることにより、適切な受信感度で路車間通信を行い、その受信感度を格納し直すことができる。
【0056】
<実施形態3>
本発明の別の実施形態について説明する。ここでは、路車間および車車間通信に加え、車両と、ネットワークで接続された管理装置の間で通信が行われ、管理装置に受信感度情報が蓄積される。
【0057】
本実施形態の構成要素を図10に示す。自車両1の車載端末は、図4を用いて説明したものと同様の構成であり、路側機2と路車間通信を行う。また不図示の他の車両と車車間通信を行う。管理装置4は通信装置401によりネットワークに接続して、車両との間で情報を送受信する。管理装置の受信感度DB402には、路側機と、その路側機に適切な受信感度とを対応付けたエントリーが格納されている。
【0058】
本実施形態の処理の流れの概要は、図11に示したようになる。
ステップS301−S302は、車両1が行う処理であり、図10の左下の部分に相当する。S301において、車両1の車載端末は、実際の路側機2との通信結果に基づいて通信品質を評価し、最適な受信感度を推定する。S302において、車両1の車載端末は、推定した受信感度を管理装置4に送信する。
ステップS303−S304は、管理装置4が行う処理であり、図10の上側の部分に相当する。S303において、管理装置は、路側機と最適な受信感度のエントリーを、受信感度DBに格納する。S304において、管理装置は、路側機2のエリアに進入する車両3に対して、受信感度DBのエントリーを配信する。
ステップS305は、車両3が行う処理であり、図10の右下の部分に相当する。S305において、車両3は、配信された受信感度を車載端末に設定し、以後の路車間通信で使用する。
【0059】
なお、車載端末の通信部は、本実施形態においては管理装置との通信も行う。その際には、路車間・車車間通信と同じ装置で通信しても良い。あるいは管理装置との通信に適した通信機として、セルラー系データ通信システム(携帯電話、PHS、WiMAX等)、ホットスポット的な通信システム(無線LAN等)を用いても良い。
また、管理装置の受信感度DBから車両に情報を配信する際には、車両からの問い合わせに応じたオンデマンド形式でも良いし、所定のエリア内にブロードキャストしても良い。その場合、車載ラジオの1チャンネルや、TV放送システムの文字放送などのデータ通信チャンネルが利用できる。
【0060】
車両1の車載端末が受信感度を設定する方法について説明する。車載端末はまず、デフォルトの受信感度PAを設定しておく。そして、路側機2の路車間通信エリアを通過する際、通信品質を分析し、設定すべき最適な受信感度を推定する。
この受信感度推定について、交差点に設置されている路側機2から車両に対して信号情報を送信する場合を例に挙げて説明する。ここで、通信品質の基準として、「交差点から200m手前で、路側機から送信された信号情報のデータパケットを受信できること」という条件が設定されているとする。
【0061】
車載端末は、受信感度PAを設定して定期的に路側機との通信を試行する。通信が成立しデータパケットを受信できた時点で、位置データ取得部により現在位置を取得する。そして、予めROM等の記憶装置に持っている不図示の地図データと比較することにより、通信が成立した現在位置が、交差点からどの程度離れているのかを求める。
通信成立地点と交差点の距離が200mより大きい場合、受信感度をPAよりも低い値に設定しても通信品質の基準は満たされる。そこで、交差点と通信成立地点との距離に基づく計算を行って最適な受信感度を推定し、通信部を経由して管理装置にアップロードする。一方、通信成立地点と交差点の距離が200mより小さい場合、受信感度をPAよりも高い値に変更し、管理装置にアップロードする。
【0062】
以上のような方法によれば、車両が実際に路車間通信を行った結果に基づいて通信品質が評価される。その評価結果に基づき推定された受信感度を管理装置が各車両に配信することにより、各車両の通信効率が向上する。
例えば安全運転支援システムの実運用が始まって間がない時や、路側機を増設した時に、実際に路車間通信を行った車両から通信品質を取得することにより、デフォルトの設定値を修正してエリアの実情に沿った運用が可能になる。また、建物等の遮蔽物や交通状況の変化に応じて受信感度を更新や微調整することができる。また、運用期間が長くなり、多くの車両からの情報が集まるほどに、受信感度の推定精度が向上する。
なお、車載端末の記憶手段に既に受信感度が格納されていても、上記の受信感度推定方法により、最新の状況に合うように微調整することができる。
【0063】
上記の各実施形態では、路車間通信の期間は車載端末の受信感度を低くすることにより通信の効率化を図っている。それに組み合わせて、路側機側の送信電力を下げるような構成を取ることもできる。例えば、各車両から管理装置にアップロードされた最適な受信感度が、現在の受信感度DBに最適値としてエントリーされている値よりも著しく低かった場合、受信感度を低くすることに加えて、路側機側の送信電力を下げてしまっても問題ないと考えられる。このように送信電力を下げることによって、消費電力の削減が可能になる。また、装置を更新する際の小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0064】
1 :自車両
100:車載端末
101:制御部
102:通信部
2 :路側機
【技術分野】
【0001】
本発明は、路車間通信と車車間通信を行う車載端末および安全運転支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両や道路に関する情報を無線通信により送受信してユーザに安全性や利便性を提供するために、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)の研究開
発が進められている(非特許文献1を参照)。ITSのうち安全運転支援システムは、路側機や他の車両等のインフラ機器と車両との無線通信により、車両から直接見えない範囲の交通情報などを入手し、必要に応じて運転者に情報提供を行うことにより、交通事故の削減を図るものである。安全運転支援システムに分類される無線システムとして、車車間通信システムと路車間通信システムがある。
【0003】
車車間通信システムは、車載端末が他の車両と無線通信を行い、周囲の車両の情報(位置、速度、車両制御情報等)を入手し、必要に応じてユーザに安全運転支援を行うシステムである。一方、路車間通信システムは、車載端末が路側機と無線通信を行って情報(信号情報、規制情報、道路情報等)を入手し、必要に応じてユーザに安全運転支援を行うシステムである。安全運転支援の方法としては、入手した情報に基づいて衝突回避や制動など車両の運転制御を行うことや、画面表示や音声などユーザに理解しやすい形での情報提供を行って注意喚起することが考えられる。
【0004】
安全運転支援に用いられる情報が車車間通信と路車間通信のいずれで得られたものであるかは、サービスを受けるユーザにとっては関わりのないことであり、その違いは意識されない。逆に、車車間通信と路車間通信で得た情報を区別することなく提供することにより、ユーザがサービスを受ける機会が増大する。さらに、システム構成の観点からすると、一つの車載端末を車車間通信と路車間通信の両方に利用できればコストパフォーマンスが増大する。そのため、安全運転支援システムにおいては、ユーザへの情報提供および構成の合理化という観点から、車車間通信と路車間通信で車載端末を共用することが望まれる。
【0005】
特許文献1には、路車間通信および車車間通信を行う車両無線通信システムが記載されている。この車両無線通信システムを構成する車載器は、路車間通信を行う無線装置と、車車間通信を行う無線装置とを含んでおり、車載制御装置が両者のうちいずれで情報を受け取るかの切り替えを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−128976号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】総務省「ITS無線システムの高度化に関する研究会」報告書、平成21年6月公表
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように車車間通信と路車間通信で車載端末を共用することが望ましいものの、双方の通信環境の違いに起因して、それぞれに好適な受信感度設定が異なる。従って実際
に装置を共用する際には注意を要する。以下、例を挙げて説明する。
【0009】
路車間通信の際に行われる通信の特徴を、図1の例を用いて説明する。路車間通信のサービスは、路側機がある場所において、その装置と通信可能な範囲内に限定して提供される。例えば信号情報を提供する場合、交差点付近の見通しの良い場所に背の高い通信装置を設置して車両との通信を行う。
【0010】
図1(a)は、ある交差点の平面図である。図中、車両1が路側機2と通信可能な範囲である路車間通信エリア20を点線で示している。なお、路車間通信エリアの広さは、路側機の送信電力と車両側の受信感度によって変化する。
図1(b)は、図1(a)の道路を左から右へ走行する車両1が、路側機2との間で無線通信をする際の受信電力を示した図である。横軸は道路上での位置と対応しており、縦軸は受信電力を示す。また、車両に提供した情報を安全運転支援に間に合わせるための時間的余裕を見込んだ上で、車両と路側機との通信を成立させるべき範囲を、想定通信エリアとして示している。
【0011】
この図から分かるように、路車間通信での受信電力は、路側機の直下をピークとして(図1(a)と図1(b)を結んだ点線で示す)、送信部からの距離に応じて滑らかに変化するので、値を予測しやすい。また、路側機が見通しの良い高い位置に設置されているため、後述する車車間通信と比べて受信電力が大きくなる。そのため、車載端末の受信感度を車車間通信よりも低く設定できる。例えば図中の想定通信エリアの全てで路側機との通信を可能とし、かつ多少の余裕を持たせた受信感度を設定する場合、受信電力P1を閾値として設定し、それ以下の信号を無視すれば良い。
【0012】
車車間通信の際に行われる通信の特徴を、図2の例を用いて説明する。車車間通信では車両同士の情報交換によりサービス提供がなされるので、自車両のみならず他の車両も車載端末を有している必要がある。以下の記述に出る車両は、車車間通信に必要な装備を有しているものとする。
【0013】
図2(a)は、ある交差点の平面図である。この交差点には路側機は設置されていない。図中、自車両1は、他の車両3と車車間通信を行う。なお、ここでは他の車両3は交差点の手前で停止していると考える。また、この交差点の左下ブロックには建物があり、自車両と他の車両の間の無線通信の電波を遮蔽する。
図2(b)は、図2(a)の道路を左から右に走行する自車両1が、他の車両3との間で無線通信をする際の受信電力を示した図である。横軸は道路上での位置と対応しており、縦軸は受信電力を示す。グラフのスケールは図1と同じである。また、車両に提供した情報を安全運転支援に間に合わせるための時間的余裕を見込んだ上で、他の車両との通信を成立させるべき範囲を、想定通信エリアとして示している。
【0014】
この図から分かるように、車車間通信において双方の車両の間に遮蔽物がある見通し外通信の期間は、回り込み等によってしか電波が届かないため、受信電力が低い状態となっている。そして、遮蔽物の影響を受けずに直線的に双方の車両が通信できる見通し内通信の期間になると(図2(a)と図2(b)を結んだ点線で示す)、急に受信電力が高くなる。その後は車両同士の距離が開くにつれて徐々に強度が低下していく。また、上述した路車間通信に比べて送信機の位置が低くにあるため、受信電力は全体的に低くなる。
【0015】
しかし、周囲の他の車両の情報を入手して、出会い頭事故の防止などユーザの安全運転を支援するという車車間通信の目的から考えると、ユーザが相手車両を直接視認できない見通し外通信の期間こそ、通信を成立させることが求められる。そのため、図中の想定通信エリアの全てで他の車両との通信を可能にするように、路車間通信よりも低い受信電力
P2を閾値として設定することになる。
【0016】
路車間通信と車車間通信での上述したような通信環境の違いを踏まえて、車載端末を共用する際の課題について検討する。車載端末の受信感度を設定する際に、路車間通信においては、上述したように受信感度を比較的低く設定することが可能と言える。一方、車車間通信では、特に建物などの遮蔽物がある場合などに、受信感度を高めることが必要だと言える。
【0017】
しかし、従来提案されていた路車間通信と車車間通信で共用する車載端末では、受信感度は単一であり、路車間・車車間ともに同じ値に設定されていた。図3に、従来の車載端末で設定される受信感度を示す。図3(a)は、車両が路車間通信エリアにいる時の、車載端末の通信相手および受信感度を示す図である。図から分かるように、時分割により路車間通信期間と車車間通信期間が設けられている。時分割の方法は様々に決定できるが、路側機からの同期タイミングに従って、路車間と車車間を合わせた通信期間(例えば100msec)を繰り返す方法によっても良い。この場合、ヘッダに路車間と車車間の比率を指定しておけば、状況に応じて通信期間の割当てを変更することができる。そして、受信感度は、車車間通信に合わせた値となっている。
一方、車両が路車間通信エリアにいない場合は常に車車間通信を行うので、図3(b)のように車車間通信に適した受信感度が設定される。
【0018】
このように、従来の車載端末を用いると、車車間通信の側に合わせて受信感度を高く設定する必要があった。一方、路車間通信では本来、受信感度を低く設定できるのに、車車間通信の要件に合わせた高い受信感度で、過剰な性能により通信を行うことになる。その結果、車載端末が路側機のサービス提供エリア(路車間通信エリア)以上の範囲からの電波を受信し、通信効率が低下する恐れがある。また消費電力やノイズの増大にもつながっている。
【0019】
この問題への対応の一例として、路側機からの送信電力を下げることが考えられる。これにより、車載端末の受信感度を車車間通信のレベルで一定としたままでも、路車間通信の際の効率低下をある程度抑えることができる。しかし、路車間通信においても、シャドウイングの発生、すなわち大型車両や建物等の存在により通信時の電波が遮蔽される可能性はあるので、必ずしも送信電力を下げられるとは限らない。
【0020】
また、特許文献1では、車車間通信と路車間通信で用いる無線機を切り替えるので、それぞれの特徴に合った無線通信を行うことができる。しかし、装置の規模が大きくなるため、大きなスペースを占めて設計を制約される上、構成の無駄も多くなる。
【0021】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、路車間通信および車車間通信を実行する車載端末が、通信の対象に応じて適切に受信感度を設定するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
路側機との路車間通信、および、他の車両との車車間通信を行う通信部と、
前記通信部が路車間通信と車車間通信のいずれを行うかを切替える制御、および、前記通信部の受信感度を設定する制御を行う制御部とを有し、
前記制御部は、前記通信部が路車間通信を行う受信感度よりも、車車間通信を行う受信感度が高くなるように受信感度を設定することを特徴とする車載端末である。
【0023】
このような構成を取る車載端末では、制御部が、車車間通信を行う時の受信感度が路車
間通信の時よりも高くなるように制御を行う。その結果、車車間通信を行っている間は、見通し外にいる他の車両との通信が成立する確率が高くなるので、ユーザに情報を提供したり車両を適切に制御したりすることが可能になり、安全運転支援が良好に行われる。また、路車間通信を行っている間は、路側機と通信を成立させるのに必要な受信感度に設定されるので、効率的な車載端末の運用が可能になる。
【0024】
車載端末の前記制御部は、設定した受信感度により路側機からのデータを受信できる路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、路車間通信と車車間通信の切り替えを繰り返すように前記通信部を制御し、自車両が路車間通信エリア外にいる場合は、車車間通信のみを行うように前記通信部を制御するように構成されても良い。
このような構成を取る車載端末においては、路側機との通信ができる範囲では路車間通信と車車間通信が交互に繰り返され、他の車両からの情報および路側機からの情報を受信できる。その結果、安全運転支援に使用できる情報量が増えることになる。また、路側機と通信ができない範囲では車車間通信のみを行うので、他の車両の情報を多く収集できるようになり、安全運転支援の精度が向上する。
【0025】
車載端末の前記制御部は、路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、それぞれ所定時間の路車間通信期間および車車間通信期間を繰り返すことにより前記通信部を制御するように構成されても良い。
このような構成を取ることにより、制御部が路車間通信と車車間通信の期間の切り替えを規則的に行うことができ、効率的に路側機および他の車両からの情報を取得できるようになる。
【0026】
前記通信部は、路側機と通信が成立するかを試行し、
前記制御部は、試行の結果に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断するように構成されても良い。
あるいは、車載端末は、自車両の位置情報を取得する位置取得部をさらに有し、
前記制御部は、取得した位置情報に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断するように構成されても良い。
このような構成を取る車載端末においては、通信の試行結果または自車両の位置情報に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを制御部が把握できるので、路車間通信期間と車車間通信期間の切り替えを適切に実行可能になる。
【0027】
本発明は、上記の車載端末を備える車両と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機とを含み、
前記路側機は、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度を配信し、
前記制御部は、前記配信された受信感度を受け取って以降は、当該配信された受信感度を路車間通信の受信感度として設定することを特徴とする安全運転支援システムとしてとらえることもできる。
このような構成の安全運転支援システムにおいては、車両のユーザは、上記の車載端末を用いたことによる受信感度の適切な設定と言う利益をそのまま享受できる。また、路車間通信を行う際の受信感度が路側機に対して最適な値に設定されるので、通信資源の効率的な利用が可能になる。
【0028】
上記の安全運転支援システムにおいて、前記車載端末は、路側機と配信された受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記制御部は、前記記憶手段にエントリーが存在する路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御するように構成されても良い。
このような構成の車載端末は、一度路車間通信を行った路側機との間では適切な受信感
度を記憶しているので、再度その路側機の通信エリアに入った際に効率的に路車間通信を実行することができる。
【0029】
上記の安全運転支援システムには、複数の路側機を含めうる。その場合、車載端末は、路車間通信期間を時分割して複数の路側機と、それぞれに適した受信感度で路車間通信を行う。
このような構成の安全運転支援システムによれば、車載端末が複数の路側機から交通情報を得ることができるので、ユーザに情報を提供する際に情報源としてカバーする領域が広がる。その結果判断の基礎となる情報の量が増加して、より安全性を高めることが可能になる。
【0030】
本発明は、上記の車載端末と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機と、
路側機と、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する管理装置とを含み、
前記管理装置は、前記エントリーを車載端末に配信し、
前記制御部は、エントリーを受信した路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御することを特徴とする安全運転支援システムとしてとらえることもできる。
このような管理装置を設けることによって、路側機ごとに設定すべき最適な受信感度を記憶し、車両に配信することができる。その結果各車両は効率的な路車間通信を行うことができるようになる。
【0031】
上記の安全運転支援システムにおいて、前記車載端末は、路側機と通信する際の最適な受信感度を推定して受信感度として設定して、前記管理装置にアップロードし、前記管理装置は、アップロードされた受信感度を路側機と対応付けたエントリーとして記憶することもできる。
このような構成の安全運転支援システムによれば、管理装置には路側機について設定すべき最適な受信感度を各車両から収集できるので、他の車両に対してそれを配信することにより効率的な路車間通信を実現できる。
【0032】
上記の安全運転支援システムにおいて、路車間通信を行う期間においては、路側機からの送信電力を低下させることができる。
このような路側機であれば、車載端末が路車間通信時に受信感度を低くするのに加えて、情報が配信される際の送信電力が低下することから、路側機の側では通信資源の効率的な活用ができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、路車間通信および車車間通信を実行する車載端末が、通信の対象に応じて適切に受信感度を設定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】路車間通信における受信電力の変化を示す図である。
【図2】車車間通信における受信電力の変化を示す図である。
【図3】従来の路車間通信と車車間通信における受信感度を示す図である。
【図4】実施形態1の車載端末の構成を示す図である。
【図5】実施形態1の処理全体を示すフローチャートである。
【図6】実施形態1の路車間通信の受信感度設定を示すフローチャートである。
【図7】実施形態1の路車間通信と車車間通信における受信感度を示す図である。
【図8】複数の路側機と通信を行う路側通信期間を示す図である。
【図9】路側機が受信感度を配信する様子を示す図である。
【図10】管理装置に路側機の受信感度を記憶する様子を示す図である。
【図11】実施形態3の処理全体を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<実施形態1>
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。以下に述べる安全運転支援システムの主な構成要素として、自車両1、路側機2、他の車両3がある。
【0036】
(車載端末の構成)
図4は、自車両1に搭載される車載通信端末の構成を示すブロック図である。制御部101は、各ブロックに指示を与えて処理の内容や順序を制御する装置であり、例えばECUで動作するプログラムにより構成される。通信部102は、路車間通信および車車間通信を行う無線通信装置である。記憶手段103は、路側機と、その路側機に設定すべき受信感度を関連付けたエントリーを記憶するデータベースであり、HDDや半導体不揮発メモリなどを利用できる。位置データ取得部102は、自車両の現在位置を位置データとして取得する装置であり、例えばGPS衛星からの信号を受信して現在位置を特定する装置を用いる。またGPSに加えて自律測位機能を持つようにしても良い。
【0037】
ここで、通信部が路側機や他の車両から送信されたデータをどの程度の受信感度で受信するかは、通信部側で設定する受信電力の閾値により決定される。例えば図1(b)では、閾値として設定されたP1より小さい電力値は無視され、それ以上の部分のみが路側機からのデータとして制御部に処理される。一方、図2(b)では、閾値としてP2が設定されているので、図1(b)と比べてより受信電力の低い部分も、路側機からのデータとして制御部によって処理される。このように閾値の設定により受信感度を高くすることができるが、その反面、ノイズが混入する割合が大きくなる。
【0038】
また本実施形態においては、路側機は送信電力を変更せずに通信を行う。従って、路車間通信が成立する範囲は、通信部の受信感度の設定に依存する。また、他の車両の無線通信の能力は車車間通信の仕様に準じて統一されており、車両を問わず送信電力は一定であるとして説明を行う。従って車車間通信が成立する範囲は、基本的には通信部の受信感度の設定に依存し、遮蔽物の有無によって変化する。
なお、実際の交通状況下では、送信側の電力のばらつきや、受信側の通信装置の能力の違いがあり得る。その場合であっても、装置ごとの違いを係数等により吸収して受信感度の設定を統一的に取り扱うことは可能である。
【0039】
(処理フロー)
図5は、本実施形態の処理の概略を示すフローチャートである。このフローは、車両のエンジンスタート等によりシステムが起動した時点から開始する。
ステップS101において、位置データ取得部は、GPS衛星からの信号を受信して現在位置を取得し、自車両の位置データとする。そして通信部102は、路側機との通信を試行する。
ステップS102において、制御部は、自車両が路側機と通信できる路車間通信エリアにいるかどうかを判断する。ここでの判断は、通信部の試行結果に基づき、路側機が配信したデータパケットを受信できているかどうかを判断することにより行われる。路車間通信エリアにいる場合にはS103に進み、いない場合にはS105に進む。
ステップS103では、制御部は、現在路車間通信期間であるかどうかを判断する。この判断は、前のステップで路側機のデータパケットを受信できているので、そのヘッダに含まれる制御データを参照して行われる。現在路車間通信期間であればS104に進み、
そうでなければS105に進む。このとき通信が成立した路側機をID等により特定しておく。
ステップS104では、制御部は、路車間通信時の受信感度を設定する。この処理については後述する。
ステップS105では、制御部は、車車間通信時の受信感度を設定する。車車間通信時の受信感度は、車車間通信の仕様などに基づいて予めデフォルト値が定められている。
ステップS106では、通信部は、S104またはS105で設定された受信感度に従って無線通信を実行する。路車間通信であれば路側機からインフラ情報を入手することができ、また、必要に応じて車両側が持つ情報をアップロードすることもあり得る。車車間通信期間であれば通信部が車両同士で通信を行い、情報を交換する。
ステップS107では、制御部は、前のステップで入手した情報に基づいて各種の安全運転支援動作を行う。
上記のS106〜S107の処理を実行する回数やタイミングは様々に設定することができる。例えばフローチャート中でループさせた矢印で示したように、毎回路側機との通信を試行しても良い。あるいは、S104およびS105で一旦設定した受信感度で複数回の通信を行い、所定の回数や時間が経過したら、S101に戻るようにしても良い。
【0040】
上記のステップS104における、路車間通信の受信感度設定処理についてさらに述べる。図6は、この処理を説明するためのフローチャートである。
ステップS201において、制御部は、記憶手段を参照する。記憶手段には、路側機ごとに、設定すべき受信感度がエントリーとして記憶されている。そこで制御部は、通信が成立した路側機のIDをキーとしてエントリーを探す(S202)。
エントリーが存在すればステップS204に進み、記憶された値を受信感度として設定する。一方、エントリーが存在しなければステップS203に進み、予め定められた、車車間通信に通常用いられる値よりも低い、デフォルトの受信感度が設定される。
【0041】
自車両の車載端末が上記の図5、図6に示すフローチャートに沿って受信感度を設定した結果を図7に示す。図7(a)は、車両が路車間通信エリアにいる時の、路車間および車車間通信それぞれの通信期間と受信感度を示す図である。各通信期間については従来の方法と同様、路車間および車車間の通信期間に時分割されている。受信感度について見ると、路車間通信期間では比較的低い受信感度が設定され、車車間通信期間ではそれよりも高い受信感度が設定されている。一方、車両が路車間通信エリアにいない場合は、図7(b)に示したように、常に車車間通信に適した高い受信感度が設定される。
【0042】
このように、本実施形態の車載端末によれば、車両のいる位置(路側機と通信できる範囲内か)、および、通信の時間帯(路車間と車車間いずれの通信期間か)によって通信部の受信感度が制御される。その結果、ユーザの安全運転支援のために必要な情報を取得しつつ、通信の対象に応じた受信感度を設定することで通信資源の使用効率を向上させることが可能になる。
【0043】
<変形例1>
以上具体的な例を挙げて受信感度の設定方法を述べたが、本発明を実施するに当たっては、上記のフローの一部を変更することができる。
例えば、実施形態1とは異なる方法により、路車間通信エリアにいるかどうかの判断を行う変形例が考えられる。図5のフローのステップS102においてはこの判断を、路側機との通信の試行が成立したかどうかに基づいて行っている。
【0044】
ここで車載端末が、記憶手段に、地図上の位置データをキーとして、その地点が路車間通信エリアに含まれるかどうかを記憶しておく構成が考えられる。そして、制御部はS101で取得した自車両の位置データに基づいて記憶手段を参照することにより、路車間通
信にいるかどうかの判断を行うことができる。
【0045】
<変形例2>
また、自車両が複数の路側機と通信可能である場合が考えられる。言い換えると、複数の路側機の路車間通信エリアが重なる領域に車両が存在する場合である。このような場合に従来から、路車間通信期間を時分割する方法があった。この様子を図8(a)に示す。2つの路側機2Aと2Bが車両の通信可能範囲内にあるとき、制御部は1回の路車間通信期間を時分割して、それぞれの路側機と無線通信を行う。
【0046】
図8(a)の方法によれば、車載端末は複数の路側機からの情報を収集できる。しかしながら、路車間・車車間通信期間ともに、車車間通信期間に合わせた高い受信感度が設定されているために、路車間通信期間においては通信性能が過剰になっていた。また、地形や遮蔽物等の影響によって路側機2Aおよび2Bに適した受信感度が異なる場合であっても、受信感度は一様に設定されてしまっていた。
【0047】
この問題に対応するために、図8(b)に示したように路車間通信期間の受信感度を設定する。すなわち、路側機2Aおよび2Bとの通信を時分割で行い、かつ、分割されたそれぞれの期間において、通信相手の路側機に適した受信感度を設定する。
以上述べたように、路車間通信期間を路側機ごとに時分割し、各々に適した受信感度を設定するようにすれば、路側機のそれぞれが配信する情報をいずれも受信することができるので、ユーザの安全運転支援に用いる情報の基盤が増えて、車両制御や情報提供の正確性が向上するようになる。さらに、路車間通信期間の受信感度は全般的に車車間通信期間よりも低く設定されているので、通信資源の効率的な利用が可能になる。
【0048】
<実施形態2>
本発明の別の実施形態について説明する。この実施形態では、制御部が路車間通信期間に設定する受信感度を、路側機から配信された指示値に従って決定する点が上述の例と異なる。
【0049】
図9を用いて、本実施形態における受信感度設定の概念を説明する。自車両1は、交差点に設置された路側機2に近づく向きに走行している。エリア20Aは、車載端末が受信電力PAを閾値として受信感度を設定されている場合に、路側機と車両が通信可能な範囲である。以下この状態を、受信感度をPAとして設定した状態とも呼ぶ。エリア20Bは、PAよりも低い受信電力PBを閾値として受信感度を設定されている場合に通信可能な範囲である。
【0050】
車載端末はまず、実施形態1と同様に、路側機2からのパケット受信を試行する。この時の受信感度はPAだとする。すると、車両がエリア20Aの中に入った時点で、両者の間の通信が初めて成立する(丸数字1)。
【0051】
本実施形態では、パケットの中の所定のデータエリアに、車載端末が路側機2と通信する際の適切な受信感度としてPBが格納されている。そこで制御部は、受信感度をPAからPBに変更する。この時点で一旦、車両側は路側機からの情報を取得できなくなる。そして車両は、車載端末の受信感度PBで定期的に通信を試行しながら、図面右側へと走行する(丸数字2)。
車両がエリア20Bの中に入ると、路側機との通信が成立する(丸数字3)。以降、通信部はこの受信感度で配信情報を取得する。
【0052】
このような安全運転支援システムによれば、車載通信端末は路側機から適切な受信感度を指示され、その受信感度に従って受信感度を下げて通信を行うので、通信資源の効率的
な利用が可能となる。また、受信感度を変更してから再度路車間通信が成立する範囲(エリア20B)に入るまでは路車間通信を行わないので(丸数字2に相当する期間)、その間は車車間通信に時間を割り当てることが可能になり、他の車両に関する情報を取得しやすくなる。
【0053】
なお、本実施形態において、配信された受信感度PBを、路側機2と対応させて車載端末の記憶手段に格納する構成を取っても良い。その結果、車両が再度路側機2のある交差点に進入しようとする場合、最初から受信感度PBを設定しておくことにより通信の効率化を図ることが可能になる。
【0054】
本実施形態のように路側機の指示に従って受信感度を設定する方法は、例えば、車載端末の記憶手段に、その路側機に対応したエントリーが無い場合に有効である。すなわち、デフォルトの受信感度がPAであり、路側機に最適な受信感度がPBだとすると、路側機からの指示により最適な受信感度PBを設定することができるし、また、記憶手段にPBを格納して以後の通信に用いることができる。
【0055】
本実施形態の方法はまた、交通量の増大などに伴い路側機を増設したときに、2つの路側機の路車間通信エリアを重複させないようにする際にも有効である。すなわち、車載端末の記憶手段には増設前の高い受信感度が格納されている場合に、路側機からの受信感度変更指示に応じて受信感度を低くすることにより、適切な受信感度で路車間通信を行い、その受信感度を格納し直すことができる。
【0056】
<実施形態3>
本発明の別の実施形態について説明する。ここでは、路車間および車車間通信に加え、車両と、ネットワークで接続された管理装置の間で通信が行われ、管理装置に受信感度情報が蓄積される。
【0057】
本実施形態の構成要素を図10に示す。自車両1の車載端末は、図4を用いて説明したものと同様の構成であり、路側機2と路車間通信を行う。また不図示の他の車両と車車間通信を行う。管理装置4は通信装置401によりネットワークに接続して、車両との間で情報を送受信する。管理装置の受信感度DB402には、路側機と、その路側機に適切な受信感度とを対応付けたエントリーが格納されている。
【0058】
本実施形態の処理の流れの概要は、図11に示したようになる。
ステップS301−S302は、車両1が行う処理であり、図10の左下の部分に相当する。S301において、車両1の車載端末は、実際の路側機2との通信結果に基づいて通信品質を評価し、最適な受信感度を推定する。S302において、車両1の車載端末は、推定した受信感度を管理装置4に送信する。
ステップS303−S304は、管理装置4が行う処理であり、図10の上側の部分に相当する。S303において、管理装置は、路側機と最適な受信感度のエントリーを、受信感度DBに格納する。S304において、管理装置は、路側機2のエリアに進入する車両3に対して、受信感度DBのエントリーを配信する。
ステップS305は、車両3が行う処理であり、図10の右下の部分に相当する。S305において、車両3は、配信された受信感度を車載端末に設定し、以後の路車間通信で使用する。
【0059】
なお、車載端末の通信部は、本実施形態においては管理装置との通信も行う。その際には、路車間・車車間通信と同じ装置で通信しても良い。あるいは管理装置との通信に適した通信機として、セルラー系データ通信システム(携帯電話、PHS、WiMAX等)、ホットスポット的な通信システム(無線LAN等)を用いても良い。
また、管理装置の受信感度DBから車両に情報を配信する際には、車両からの問い合わせに応じたオンデマンド形式でも良いし、所定のエリア内にブロードキャストしても良い。その場合、車載ラジオの1チャンネルや、TV放送システムの文字放送などのデータ通信チャンネルが利用できる。
【0060】
車両1の車載端末が受信感度を設定する方法について説明する。車載端末はまず、デフォルトの受信感度PAを設定しておく。そして、路側機2の路車間通信エリアを通過する際、通信品質を分析し、設定すべき最適な受信感度を推定する。
この受信感度推定について、交差点に設置されている路側機2から車両に対して信号情報を送信する場合を例に挙げて説明する。ここで、通信品質の基準として、「交差点から200m手前で、路側機から送信された信号情報のデータパケットを受信できること」という条件が設定されているとする。
【0061】
車載端末は、受信感度PAを設定して定期的に路側機との通信を試行する。通信が成立しデータパケットを受信できた時点で、位置データ取得部により現在位置を取得する。そして、予めROM等の記憶装置に持っている不図示の地図データと比較することにより、通信が成立した現在位置が、交差点からどの程度離れているのかを求める。
通信成立地点と交差点の距離が200mより大きい場合、受信感度をPAよりも低い値に設定しても通信品質の基準は満たされる。そこで、交差点と通信成立地点との距離に基づく計算を行って最適な受信感度を推定し、通信部を経由して管理装置にアップロードする。一方、通信成立地点と交差点の距離が200mより小さい場合、受信感度をPAよりも高い値に変更し、管理装置にアップロードする。
【0062】
以上のような方法によれば、車両が実際に路車間通信を行った結果に基づいて通信品質が評価される。その評価結果に基づき推定された受信感度を管理装置が各車両に配信することにより、各車両の通信効率が向上する。
例えば安全運転支援システムの実運用が始まって間がない時や、路側機を増設した時に、実際に路車間通信を行った車両から通信品質を取得することにより、デフォルトの設定値を修正してエリアの実情に沿った運用が可能になる。また、建物等の遮蔽物や交通状況の変化に応じて受信感度を更新や微調整することができる。また、運用期間が長くなり、多くの車両からの情報が集まるほどに、受信感度の推定精度が向上する。
なお、車載端末の記憶手段に既に受信感度が格納されていても、上記の受信感度推定方法により、最新の状況に合うように微調整することができる。
【0063】
上記の各実施形態では、路車間通信の期間は車載端末の受信感度を低くすることにより通信の効率化を図っている。それに組み合わせて、路側機側の送信電力を下げるような構成を取ることもできる。例えば、各車両から管理装置にアップロードされた最適な受信感度が、現在の受信感度DBに最適値としてエントリーされている値よりも著しく低かった場合、受信感度を低くすることに加えて、路側機側の送信電力を下げてしまっても問題ないと考えられる。このように送信電力を下げることによって、消費電力の削減が可能になる。また、装置を更新する際の小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0064】
1 :自車両
100:車載端末
101:制御部
102:通信部
2 :路側機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路側機との路車間通信、および、他の車両との車車間通信を行う通信部と、
前記通信部が路車間通信と車車間通信のいずれを行うかを切替える制御、および、前記通信部の受信感度を設定する制御を行う制御部と
を有し、
前記制御部は、前記通信部が路車間通信を行う受信感度よりも、車車間通信を行う受信感度が高くなるように受信感度を設定する
ことを特徴とする車載端末。
【請求項2】
前記制御部は、設定した受信感度により路側機からのデータを受信できる路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、路車間通信と車車間通信の切り替えを繰り返すように前記通信部を制御し、自車両が路車間通信エリア外にいる場合は、車車間通信のみを行うように前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載端末。
【請求項3】
前記制御部は、路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、それぞれ所定時間の路車間通信期間および車車間通信期間を繰り返すことにより前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の車載端末。
【請求項4】
前記通信部は、路側機と通信が成立するかを試行し、
前記制御部は、試行の結果に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の車載端末。
【請求項5】
自車両の位置情報を取得する位置取得部をさらに有し、
前記制御部は、取得した位置情報に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の車載端末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車載端末を備える車両と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機と
を含み、
前記路側機は、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度を配信し、
前記制御部は、前記配信された受信感度を受け取って以降は、当該配信された受信感度を路車間通信の受信感度として設定する
ことを特徴とする安全運転支援システム。
【請求項7】
前記車載端末は、路側機と配信された受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記制御部は、前記記憶手段にエントリーが存在する路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項6に記載の安全運転支援システム。
【請求項8】
複数の路側機を含み、
車載端末の制御部は、路車間通信期間においては、前記複数の路側機と時分割で路車間通信を行い、かつ、路側機ごとに受信感度を設定するように前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項6または7に記載の安全運転支援システム。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車載端末を備える車両と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機と、
路側機と、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する管理装置と
を含み、
前記管理装置は、前記エントリーを車載端末に配信し、
前記制御部は、エントリーを受信した路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御する
ことを特徴とする安全運転支援システム。
【請求項10】
前記車載端末は、路側機と通信する際の最適な受信感度を推定して受信感度として設定して、前記管理装置にアップロードし、
前記管理装置は、アップロードされた受信感度を路側機と対応付けたエントリーとして記憶する
ことを特徴とする請求項9に記載の安全運転支援システム。
【請求項11】
路車間通信を行う期間においては、路側機からの送信電力を低下させる
ことを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の安全運転支援システム。
【請求項1】
路側機との路車間通信、および、他の車両との車車間通信を行う通信部と、
前記通信部が路車間通信と車車間通信のいずれを行うかを切替える制御、および、前記通信部の受信感度を設定する制御を行う制御部と
を有し、
前記制御部は、前記通信部が路車間通信を行う受信感度よりも、車車間通信を行う受信感度が高くなるように受信感度を設定する
ことを特徴とする車載端末。
【請求項2】
前記制御部は、設定した受信感度により路側機からのデータを受信できる路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、路車間通信と車車間通信の切り替えを繰り返すように前記通信部を制御し、自車両が路車間通信エリア外にいる場合は、車車間通信のみを行うように前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載端末。
【請求項3】
前記制御部は、路車間通信エリア内に自車両がいる場合は、それぞれ所定時間の路車間通信期間および車車間通信期間を繰り返すことにより前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の車載端末。
【請求項4】
前記通信部は、路側機と通信が成立するかを試行し、
前記制御部は、試行の結果に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の車載端末。
【請求項5】
自車両の位置情報を取得する位置取得部をさらに有し、
前記制御部は、取得した位置情報に基づいて、自車両が路車間通信エリアにいるかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の車載端末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車載端末を備える車両と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機と
を含み、
前記路側機は、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度を配信し、
前記制御部は、前記配信された受信感度を受け取って以降は、当該配信された受信感度を路車間通信の受信感度として設定する
ことを特徴とする安全運転支援システム。
【請求項7】
前記車載端末は、路側機と配信された受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記制御部は、前記記憶手段にエントリーが存在する路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項6に記載の安全運転支援システム。
【請求項8】
複数の路側機を含み、
車載端末の制御部は、路車間通信期間においては、前記複数の路側機と時分割で路車間通信を行い、かつ、路側機ごとに受信感度を設定するように前記通信部を制御する
ことを特徴とする請求項6または7に記載の安全運転支援システム。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車載端末を備える車両と、
路車間通信エリア内の車両と路車間通信を行う路側機と、
路側機と、当該路側機と通信を行う際に車載端末が設定すべき受信感度とを対応付けたエントリーを記憶する管理装置と
を含み、
前記管理装置は、前記エントリーを車載端末に配信し、
前記制御部は、エントリーを受信した路側機と通信を行う際は、エントリーの受信感度で路車間通信を行うように前記通信部を制御する
ことを特徴とする安全運転支援システム。
【請求項10】
前記車載端末は、路側機と通信する際の最適な受信感度を推定して受信感度として設定して、前記管理装置にアップロードし、
前記管理装置は、アップロードされた受信感度を路側機と対応付けたエントリーとして記憶する
ことを特徴とする請求項9に記載の安全運転支援システム。
【請求項11】
路車間通信を行う期間においては、路側機からの送信電力を低下させる
ことを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の安全運転支援システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−227724(P2011−227724A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97129(P2010−97129)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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