説明

車載電波パルスレーダ装置

【課題】RF送受信回路の異常状態を安価で且つ小型な回路を用いて高い信頼性で検出可能な車載電波パルスレーダ装置を得る。
【解決手段】送受信信号W1、W2に基づいて被検出物体7までの距離dを算出する信号処理装置14Aは、送信信号W1の周波数可変手段17と、RF送受信回路15Aの異常判定手段とを含み、周波数可変手段17は、送信信号W1の周波数を所定範囲内で変化させて、RF送受信回路15A内の漏れ波の位相状態を強制的に変化させ、異常判定手段は、通常時の受信信号に基づいて学習された正常レベル変動幅と、漏れ波の位相状態が変化したときにIF受信信号のDC成分として観測される漏れ込みレベル変動幅とを比較し、正常レベル変動幅と漏れ込みレベル変動幅との差分に基づいて、RF送受信回路15Aの異常信号Eを生成し、車両の制御システムに対して異常通知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダビーム(電波パルス)を送受信して、車両から所定範囲内の被検出物体7(障害物)までの距離を検出する車載電波パルスレーダ装置に関し、特にRF送受信回路の感度低下や故障などの異常状態を、安価で且つ小型な回路を用いて高い信頼性で検出することのできる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車載電波パルスレーダ装置においては、RF送受信回路の故障や劣化により回路機能が不安定になると、ACC制御、プリクラッシュ制御、停車および発進制御などに対して非安全側へ影響を及ぼすうえ、被検出物体を検知することができなくなるので、RF送受信回路の異常状態(特性変化や故障)を速やかに検出することが重要である。
また、同時にコストダウンや小型化などの要求もあるため、できるだけ簡便に異常検出することが要求されている。
【0003】
この種の車載電波パルスレーダ装置の従来技術としては、RF送受信回路内の各種アンプ系のバイアス電流および電圧などをモニタすることで、RF送受信回路の異常を検出する手段を備えたものを提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−59023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車載電波パルスレーダ装置では、RF送受信回路の故障または劣化を検出する手段として、RF送受信回路の内部の電流および電圧をモニタしているので、モニタ用の配線を引き回す必要があるうえ、部品追加などが必要となるので、RF送受信回路の性能に対して悪影響を与えるとともに、コストアップや部品設置面積の増加を招くという課題があった。
【0006】
また、各部品を個々にモニタせずに、電気系全体のバイアス電流でRF送受信回路を一括してモニタする場合には、個別部品のばらつきを積み上げると、異常判定用の閾値の設定が困難になり、結局、RF送受信回路の部品全体をモニタすることができないという課題があった。
また、AD変換器などの信号処理回路を含む回路系の異常判定を実現するためには、さらに付加回路が必要になるという課題があった。
【0007】
この発明は、異常判定用の付加回路をできるだけ簡便な回路とし、安価で且つ小形な構成として、RF送受信回路の感度低下や故障などの異常状態を高い信頼性で検出することのできる車載電波パルスレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による車載電波パルスレーダ装置は、車両に搭載されて使用される車載電波パルスレーダ装置であって、レーダビームを送信信号として放射するビーム送信手段と、レーダビームの放射範囲内にある被検出物体からの反射ビームを受信信号として受信するビーム受信手段と、送信信号および受信信号に基づいて車両から被検出物体までの距離を算出する信号処理装置と、備え、ビーム送信手段およびビーム受信手段は、RF送受信回路および送受信アンテナにより構成され、信号処理装置は、送信信号の周波数を変化させる周波数可変手段と、RF送受信回路の異常発生状態を判定する異常判定手段と、を含み、周波数可変手段は、送信信号の周波数を所定範囲内で変化させて、RF送受信回路内または送受信アンテナ間に存在する漏れ波の位相状態を強制的に変化させ、異常判定手段は、通常時の受信信号に基づいて学習された正常レベル変動幅と、漏れ波の位相状態が変化したときにIF受信信号のDC成分として観測される漏れ込みレベル変動幅とを比較し、正常レベル変動幅と漏れ込みレベル変動幅との差分に基づいて、RF送受信回路の感度低下または故障を異常発生状態として判定し、異常発生状態が判定されたときに、車両の制御システムに対して異常通知を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、RF送受信回路の異常状態を、安価で且つ小型な回路を用いて高い信頼性で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に関連した基本的な車載電波パルスレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0011】
図1において、車両(図示せず)に搭載された車載電波パルスレーダ装置は、発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)1と、パワーデバイダ2と、送信アンプ3と、開閉スイッチ4と、送信アンテナ5と、レドーム6と、受信アンテナ8と、受信アンプ9と、受信ミキサ10と、ローパスフィルタ(高域カットフィルタ)11と、IF(中間周波数:Intermidiate Frequency)アンプ12と、AD変換器13と、信号処理回路14と、を備えている。
【0012】
発振器1、パワーデバイダ2、送信アンプ3、開閉スイッチ4、受信アンプ9、受信ミキサ10、ローパスフィルタ11、および、IFアンプ12は、RF送受信回路15を構成している。
また、RF送受信回路15および送受信アンテナ5、8は、ビーム送信手段およびビーム受信手段を構成している。
【0013】
発振器1は、所定周波数のローカル用(送信)電波を生成し、パワーデバイダ2は、ローカル用電波を分割して、送信アンプ3および受信ミキサ10に入力する。
送信アンプ3は、ローカル用電波を増幅して、送信用のレーダビーム信号を生成する。
開閉スイッチ4は、信号処理装置14の制御下で送信信号W1のON/OFFを切り換えて、送信アンプ3の出力信号をパルス信号に変換する。
【0014】
送信アンテナ5は、レーダビームを送信信号W1として車両前方に放射し、レドーム6を通して、レーダビームの放射範囲内にある被検出物体7に照射する。
受信アンテナ8は、被検出物体7からの反射ビームを受信信号W2として受信する。
レドーム6は、たとえば車両のバンパなどと一体化されており、各アンテナ5、8の表面を保護している。
【0015】
受信アンプ9は、受信信号W2を増幅し、受信ミキサ10は、増幅された受信信号とパワーデバイダ2からのローカル用電波とを混合して、ビート信号を生成する。
ローパスフィルタ11は、受信ミキサ10から出力されるビート信号のうちの低周波信号を通過させ、IFアンプ12は、ローパスフィルタ11を通過したビート信号を増幅する。
【0016】
AD変換器13は、IFアンプ12の出力信号(IF受信信号)をデジタル信号に変換し、信号処理装置14は、AD変換器13から入力されるデジタル信号を処理し、送信信号W1および受信信号W2に基づいて、車両から被検出物体7までの距離Rを算出する。
【0017】
次に、図2〜図4を参照しながら、図1に示した車載電波パルスレーダ装置によるレーダビーム(電波)の送受信動作について説明する。
図2は送信信号W1(送信パルス)、受信信号W2(受信パルス)およびビート信号の各波形を示す説明図であり、それぞれ、距離Rに依存した遅延時間Δt、距離ゲート時間幅tgおよび距離ゲート番号0〜nと関連させて示している。
【0018】
図3は被検出物体7(ターゲット)の検出動作を示す説明図であり、n個のパルス信号に基づく各ビート信号とサンプリングタイミングとの関係を示している。
図4はFFT(高速フーリエ変換)結果を用いたターゲット検出処理の一例を示す説明図であり、ローカル用電波からドップラシフトされた周波数成分fbを示している。
【0019】
まず、発振器1は、所定の送信周波数ftx(たとえば、24.125GHz)のローカル用電波を出力する。ローカル用電波は、パワーデバイダ2および送信アンプ3を通過し、さらに開閉スイッチ4を介してパルス変調される。
パルス変調された電波は、送信信号W1として、送信アンテナ5からレドーム6を通過して、空間に放射される。
【0020】
送信アンテナ5から出力された送信信号W1は、続いて、車両から距離Rだけ離れて存在する被検出物体7で反射され、図2のように、距離Rに依存した遅延時間Δtをもって、再びレドーム6を通過して受信アンテナ8に入力される。
このとき、目標となる被検出物体7が、車両に対して相対速度Vを有する場合、受信信号W2の周波数は、送信電波W1の周波数ftxに対して、周波数成分fb(図2参照)だけドップラシフトする。
【0021】
受信アンテナ8に入力された電波は、受信アンプ9で増幅された後、受信ミキサ10において、パワーデバイダ2からのローカル用電波と混合され、ビート信号となって出力される。
受信ミキサ10から生成されたビート信号は、ローパスフィルタ11でろ波された後、IFアンプ12で増幅され、AD変換器13を介して信号処理装置14に入力される。
【0022】
信号処理装置14においては、観測された受信信号W2の距離ゲート(図2参照)に基づいて、被検出物体7までの距離Rを算出する。
また、図3のように、AD変換器13の入力データをパルスn発分だけ観測し、各ビート信号をサンプリングして、信号処理装置14でFFT処理を施すことにより、図4のように、ドップラシフト周波数fbが求まる。したがって、ドップラシフト周波数fbに基づいて、被検出物体7の相対速度Vを求めることができる。
ここで、距離R、相対速度Vは、以下の式(1)のように算出される。
【0023】
R=(tg×n×C)/2
V=(fb×C)/(2×fo) ・・・(1)
【0024】
ただし、式(1)において、tgは距離ゲート時間幅、nは距離ゲート番号、Cは光速、fbはビート周波数、foは送信周波数である。
【0025】
ところで、図1に示した車載電波パルスレーダ装置においては、実際にRF送受信回路15を動作させた結果として漏れ波が発生し、RF送受信回路15の特性が変化することが知られている。
また、車載電波パルスレーダ装置の用途を考慮すれば、乗客の安全を確保するために、RF送受信回路15の特性変化および故障の発生を診断することは、最重要の要求課題である。
【0026】
ここで、図5の説明図を参照しながら、図1の車載電波パルスレーダ装置で発生する漏れ波について説明する。
図5において、漏れ波16aは、RF送受信回路15内の開閉スイッチ4と受信アンプ9との間に発生する。
また、漏れ波16bは、送受信アンテナ5、8間の空間結合により発生する。
さらに、漏れ波16cは、レドーム6(または、車両バンパ)などの極近距離にある物体からの反射波として発生する。
これらの漏れ波16a〜16cは、全体的に「漏れ波」と総称される。
【0027】
ところで、実際に車載電波パルスレーダ装置を車両に取り付ける初期状態においては、電波パルスレーダとしての本来の検出性能に影響を与えないように、漏れ波が十分小さくなるように設計されているものと考えられる。
したがって、漏れ波のレベル変化をそのまま観測して、異常判定(故障検出)することは容易ではない。
【0028】
ただし、IFアンプ9の受信信号における漏れ波レベルが十分小さいという初期安定状態は、送信周波数ftxにおける各種の漏れ波16a〜16cが合成された結果であり、送信周波数ftxが変化すれば、各漏れ波16a〜16cの位相状態も変化し、その合成波のレベルも変化すると考えられる。
【0029】
この発明の実施の形態1においては、RF送受信回路15の動作時に発生する漏れ波のレベルが基本的に固定値であること、に着目してRF送受信回路15の異常発生を検出する。
このため、異常判定期間のみにおいて、送信周波数ftxを、観測受信信号における漏れ波レベルが識別できる範囲まで変動させて、送信周波数ftxの操作量と同一条件であらかじめ学習しておいた正常時の受信信号レベルと比較する。
これにより、RF送受信回路15の特性変化を含めた電波パルスレーダとしての機能全体の異常判定を実現することができる。
【0030】
ただし、車両の周辺近傍に被検出物体7が存在する場合には、被検出物体7からの反射波がノイズとして観測されるので、電波パルスレーダ機能が正常であっても、上記受信信号レベルの比較結果に差が生じる可能性がある。
これを回避するために、異常判定処理を実行する期間は、周辺に被検出物体7が存在しないと判定された場合に限られており、これにより、誤判定を抑制または防止することができる。
【0031】
図6はこの発明の実施の形態1に係る車載電波パルスレーダ装置の構成を示すブロック図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「A」を付して詳述を省略する。
図6において、車載電波パルスレーダ装置は、基本的概念の一例として、バイアス調整回路17を備えている。
【0032】
バイアス調整回路17は、信号処理装置14Aと関連して送信信号W1の周波数ftxを変化させる周波数可変手段を構成しており、信号処理装置14Aの制御下で、RF送受信回路15A内の発振器1Aの発振周波数を調整する。
また、信号処理装置14Aは、RF送受信回路15Aの異常発生状態を判定する異常判定手段を含む。
【0033】
信号処理装置14Aおよびバイアス調整回路17により構成される周波数可変手段は、送信信号W1の周波数ftxを所定範囲内で変化させて、RF送受信回路15内または送受信アンテナ5、8間に存在する漏れ波16a、16bの位相状態を強制的に変化させるようになっている。
【0034】
また、信号処理装置14A内の異常判定手段は、通常時の受信信号W2に基づいて学習された正常レベル変動幅と、漏れ波の位相状態が変化したときにIFアンプ9の受信信号のDC成分として観測される漏れ込みレベル変動幅とを比較し、正常レベル変動幅と漏れ込みレベル変動幅との差分に基づいて、RF送受信回路15Aの感度低下または故障を異常発生状態として判定し、異常発生状態が判定されたときに異常信号Eを出力し、車両の制御システム(図示せず)に対して異常通知を行う。
【0035】
次に、図6に示したこの発明の実施の形態1による車載電波パルスレーダ装置の動作について説明する。
まず、漏れ波は、送信信号W1(電波)に対して、漏れ経路dに相当した遅れ時間Δtを有しており、漏れ経路dによる漏れ波の位相ΔΦは、以下の式(2)のように算出される。
【0036】
ΔΦ=2πΔd/λ ・・・(2)
【0037】
ただし、式(2)において、πは円周率、Δdは漏れ経路の長さ、λは発振器1Aからのローカル用電波の波長である。
ここで、信号処理回路14Aは、バイアス調整回路17を制御することにより、発振器1Aのバイアスを調整して、発振器1Aからのローカル用電波の送信周波数ftxを変化させる。
【0038】
送信周波数ftxの変化は、式(2)内の発振器1Aの波長λの変化を意味するので、位相差ΔΦを制御することになる。
また、受信ミキサ10からの検波出力電圧e(ビート信号)は、ローパスフィルタ11によって除去される成分cos(ωt+ωt+Φ)を考慮すれば、以下の式(3)のように算出される。
【0039】
e=Asinωt×Bsin(ωt+Φ)
=(A×B/2)cos(ωt−ωt−Φ)−(A×B/2)cos(ωt+ωt+Φ)
=(A×B/2)cos(−Φ)
=(A×B/2)cosΦ ・・・(3)
【0040】
ただし、式(3)において、Aはローカル用電波の振幅、Bは受信アンテナ8による受信波(受信信号W2)の振幅、ωは各電波の周波数に対応した角速度、Φは各電波の位相、tは時間である。
【0041】
A/D変換器13は、式(3)のように得られた受信ミキサ10の出力電圧eを量子化してデジタル値とし、信号処理回路14Aは、デジタル値を用いて、被検出物体7を検出する。
ここで、式(3)に式(2)を代入すると、受信ミキサ10の出力電圧eは、以下の式(4)のように表される。
【0042】
e=(A×B/2)cos(2πΔd/λ) ・・・(4)
【0043】
式(4)から明らかなように、信号処理回路14Aから発振器1Aの周波数ftxを操作して、波長λを変化させれば、受信ミキサ10の出力電圧eが変化することが分かる。
したがって、この現象を利用すれば、或る規定の幅をもって発振器1Aの周波数ftxを操作し、このときの受信ミキサ10の出力電圧eの変化幅を観測することで、RF送受信回路15Aの動作状態を確認することができる。
【0044】
また、周波数ftxの操作時の出力電圧eの変化幅を、周波数ftxの操作量と同一条件であらかじめ学習された初期値と比較することにより、RF送受信回路15Aの特性変化および故障を判定することができる。
この結果、故障と判定された場合には、信号処理装置14Aは、異常信号Eを出力し、車両の制御システムに対して電波パルスレーダ装置の異常を通知する。
【0045】
以上のようにこの発明の実施の形態1によれば、RF送受信回路15A内の部品ごとに特別な故障検出回路を設けることなく、RF送受信回路15Aの特性変化または故障を高精度に検出することができる。
【0046】
また、送信信号W1のパルスタイミングを生成する開閉スイッチ4を含む回路機能と、A/D変換器13よりも後段の信号処理回路14Aとによるレーダ機能全体の異常判定処理をも実行することができる。
したがって、安価で且つ小型な回路構成で、高信頼性の車載電波パルスレーダ装置を得ることができる。
【0047】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図6参照)では、異常判定処理の実行条件として車両の速度(以下、「車速」という)を考慮しなかったが、車速が所定速度以上を示し、且つ目標となる被検出物体7が存在しないと判定された場合のみに異常判定処理を実行し、車両の近傍に存在する被検出物体7による異常判定処理への影響を排除してもよい。
【0048】
図7は車速を異常判定処理の実行条件として考慮したこの発明の実施の形態2に係る車載電波パルスレーダ装置を示すブロック図であり、前述(図6参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「B」を付して詳述を省略する。
【0049】
図7において、信号処理装置14Bには、車輪速センサ20および車速センサ21からの検出信号が入力されている。
ここでは、車両の速度情報を検出する手段として、車輪速センサ20および車速センサ21を設けたが、車輪速センサ20または車速センサ21のいずれか一方のみを設けてもよく、また、速度情報を検出可能であれば、他のセンサ手段を設けてもよい。
【0050】
上記実施の形態1においては、RF送受信回路15Aの異常判定処理の実行時(漏れ波の観測時)に、わずかな漏れ波の変化量を観測しているので、車両の周辺近傍に被検出物体7(たとえば、停車中の車両周辺で遊んでいる子供、または電波的に大きな反射物など)が存在する場合には、被検出物体7(障害物)によるノイズが観測され、これにより異常発生を誤判定する可能性がある。
【0051】
そこで、この発明の実施の形態2においては、図7に示すように、車載センサとして車輪速センサ20または車速センサ21を設け、信号処理装置14Bに対して、車速(または、車輪速)などの自車両の速度情報を入力する。ここでは、車速および車輪速の2つの速度情報により冗長性をもたせている。
【0052】
信号処理装置14Bは、車速が所定速度(たとえば、60km/h)以上を示し、且つ目標となる被検出物体7が存在しないと判定された場合のみに異常判定処理を実行する。
所定速度(たとえば、60km/h)は、子供などが車両周辺に存在し得ない速度値に設定されている。
【0053】
これにより、自車両の直近に被検出物体7(障害物)が存在しないと考えられる所定速度以上の状態にあり、且つ周辺に被検出物体7が存在しないと判定された場合に限って、異常判定処理を実行することになり、車両の近傍に存在する被検出物体7による異常判定処理への影響を排除して、精度の高い異常判定処理を実行することができる。
【0054】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2では、異常判定処理の実行条件として車速情報のみを用いたが、ナビゲーションシステム情報を追加してもよい。
図8は異常判定処理の実行条件としてナビゲーションシステム情報を追加したこの発明の実施の形態3に係る車載電波パルスレーダ装置を示すブロック図である。
【0055】
図8において、前述(図4参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「C」を付して詳述を省略する。
この場合、車両は、車両の位置情報を認識するためのナビゲーションシステム22を備えている。
【0056】
また、信号処理装置14Cには、車輪速センサ20および車速センサ21からの検出信号のみならず、ナビゲーションシステム22からの情報が入力されている。
また、信号処理装置14C内の異常判定手段は、ナビゲーションシステム22により認識された車両の走行道路情報に基づいて、周辺環境のノイズが少ないと考えられる条件下で異常判定処理を実行するようになっている。
【0057】
図8に示すように、ナビゲーションシステム22から自車両が走行している位置(道路状態)を示す情報を得ることにより、たとえば、車両専用道路を走行中であることを異常判定処理の実行条件に加えることができる。
【0058】
すなわち、車両専用道路を所定速度以上で走行中であって、且つ被検出物体7が存在しないと判定される場合に限って、実行条件が成立したものと見なして異常判定処理を実行する。
これにより、一般道のように周辺環境(ノイズ)を予測しがたい状態では、異常判定処理を禁止して誤判定を回避することができ、精度の高い異常判定処理を実行することができる。
【0059】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1〜3(図6〜図8)では、特に言及しなかったが、所定のレーダ観測周期内の空き時間に分割して異常判定処理を実行するか、または観測処理の休止期間に異常判定処理を実行し、被検出物体の観測処理を妨げることなく異常判定処理を実行してもよい。
【0060】
図9はレーダ観測の空き時間または休止期間に異常判定処理を実行したこの発明の実施の形態4に係る車載電波パルスレーダ装置の動作を示すタイミングチャートである。
図9においては、所定のレーダ観測周期To内に、送信アンテナ5からの送信信号W1(観測用のレーダビーム)のスキャン方向(左、中央、右)を時系列的に示している。
【0061】
各スキャン方向に対する観測期間TL、TC、TRの間には、空き時間τが存在する。
また、信号処理装置14A〜14Cの制御下で、レーダ観測周期Toを間引くことにより、観測期間TL、TC、TRを削除され(図9内の破線参照)、休止期間TSが得られる。
【0062】
したがって、レーダ観測周期To内の各空き時間τにおいて、分割して異常判定処理を実行することにより、被検出物体7の観測処理を妨げることなく、異常判定処理を実行することができる。
同様に、休止期間TSの間に異常判定処理を実行することにより、本来のレーダ機能に影響を与えることなく、安全に異常判定処理を実行することができる。
【0063】
このように、レーダとしての観測機能を妨げることなく異常判定処理を実行することにより、異常判定処理による制御システムへの影響を回避することができる。
ただし、レーダ観測周期Toを間引く場合は、被検出物体7が存在しない状態に限るなどの安全上の制約を設ける必要がある。
【0064】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態1〜4では、異常信号Eをそのまま車両制御システムに入力したが、異常信号Eが所定回数だけ生成された場合に最終的な異常発生状態と見なすことにより、冗長性をもたせてノイズなどによる誤判定を抑制してもよい。
【0065】
図10は異常信号Eに冗長性をもたせたこの発明の実施の形態5に係る車載電波パルスレーダ装置の要部を示す回路構成図である。
図10において、信号処理装置14A〜14Cの出力部と車両制御システム40との間には、故障診断回路30が挿入されている。
【0066】
故障診断回路30は、故障検出部31と、シフトレジスタ32と、ANDゲート33とにより構成され、故障診断結果が異常状態を示す場合に、最終的な異常信号Fを車両制御システム40に入力する。
【0067】
故障検出部31は、信号処理装置14A〜14Cに含まれており、信号処理装置14A〜14Cの処理結果に応答して最初の異常信号Eを生成し、シフトレジスタ32に入力する。
なお、故障診断回路30は、信号処理装置14A〜14C内の異常判定手段に含まれてもよい。
【0068】
シフトレジスタ32は、異常信号Eを所定数だけ保持し所定ビットの出力信号をANDゲート33に入力している。
シフトレジスタ32の出力信号は、異常信号Eが所定回数(たとえば、4回)だけ連続的に入力された場合に、すべてのビットが「1」レベルとなる。
【0069】
ANDゲート33は、シフトレジスタ32のすべての出力信号が「1」レベルを示す場合のみに、最終的な異常信号Fを生成して車両制御システム40に入力し、異常判定の通知を行う。
【0070】
すなわち、RF送受信回路15A(図6〜図8)に異常発生した場合、1回の判定結果による異常信号Eのみで真の異常状態と判定するのではなく、たとえば連続4回にわたる判定結果によって異常信号Eが連続的に生成された場合のみに、真の異常発生状態と見なし、車両制御システム40に対して最終的な異常信号Fを入力する。
これにより、真の異常状態のみにおいて、車両制御システム40に対して車載電波パルスレーダ装置の異常が通知され、種々のノイズなどによる異常状態の誤判定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の実施の形態1に関連した基本的な車載電波パルスレーダ装置を示すブロック図である。
【図2】図1の車載電波パルスレーダ装置による一般的な送受信動作を示す説明図である。
【図3】図1の車載電波パルスレーダ装置による一般的な被検出物体の検出処理を示す説明図である。
【図4】図1の車載電波パルスレーダ装置による一般的な被検出物体のFFT結果による検出処理を示す説明図である。
【図5】図1の車載電波パルスレーダ装置による漏れ波の例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る車載電波パルスレーダ装置を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る車載電波パルスレーダ装置を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る車載電波パルスレーダ装置を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態4に係る車載電波パルスレーダ装置の異常判定処理を示すタイミングチャートである。 この発明に係る異常判定処理の実行タイミングの例を示す説明図。
【図10】この発明の実施の形態5に係る車載電波パルスレーダ装置の要部を示す回路構成図である。
【符号の説明】
【0072】
1A 発振器、2 パワーデバイダ、3 送信アンプ、4 開閉スイッチ、5 送信アンテナ、6 レドーム、7 被検出物体、8 受信アンテナ、9 受信アンプ、10 受信ミキサ、11 ローパスフィルタ、12 IFアンプ、13 AD変換器、14A、14B、14C 信号処理回路、15A RF送受信回路、16a〜16c 漏れ波、17 バイアス調整回路、20 車輪速センサ、21 車速センサ、22 ナビゲーションシステム、30 故障診断回路、31 故障検出部、32 シフトレジスタ、33 ANDゲート、40 車両制御システム、d 距離、TL、TC、TR 観測期間、To 観測周期、TS 休止期間、τ 空き時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて使用される車載電波パルスレーダ装置であって、
レーダビームを送信信号として放射するビーム送信手段と、
前記レーダビームの放射範囲内にある被検出物体からの反射ビームを受信信号として受信するビーム受信手段と、
前記送信信号および前記受信信号に基づいて前記車両から前記被検出物体までの距離を算出する信号処理装置と、備え、
前記ビーム送信手段および前記ビーム受信手段は、RF送受信回路および送受信アンテナにより構成された車載電波パルスレーダ装置において、
前記信号処理装置は、
前記送信信号の周波数を変化させる周波数可変手段と、
前記RF送受信回路の異常発生状態を判定する異常判定手段と、を含み、
前記周波数可変手段は、前記送信信号の周波数を所定範囲内で変化させて、前記RF送受信回路内または前記送受信アンテナ間に存在する漏れ波の位相状態を強制的に変化させ、
前記異常判定手段は、
通常時の受信信号に基づいて学習された正常レベル変動幅と、前記漏れ波の位相状態が変化したときにIF受信信号のDC成分として観測される漏れ込みレベル変動幅とを比較し、
前記正常レベル変動幅と前記漏れ込みレベル変動幅との差分に基づいて、前記RF送受信回路の感度低下または故障を前記異常発生状態として判定し、
前記異常発生状態が判定されたときに、前記車両の制御システムに対して異常通知を行うことを特徴とする車載電波パルスレーダ装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、
前記車両の速度が所定速度以上を示し、且つ目標となる被検出物体が存在しないと判定された場合のみに異常判定処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の車載電波パルスレーダ装置。
【請求項3】
前記車両は、前記車両の位置情報を認識するためのナビゲーションシステムを備え、
前記異常判定手段は、前記ナビゲーションシステムにより認識された前記車両の走行道路情報に基づいて異常判定処理を実行することを特徴とする請求項2に記載の車載電波パルスレーダ装置。
【請求項4】
前記異常判定手段は、所定のレーダ観測周期内の空き時間において、分割して異常判定処理を実行することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車載電波パルスレーダ装置。
【請求項5】
前記異常判定手段は、異常判定処理の実行時に前記被検出物体の観測処理の実行を休止し、前記観測処理の休止期間において前記異常判定処理を実行することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車載電波パルスレーダ装置。
【請求項6】
前記異常判定手段は、
異常判定処理を一定周期で繰り返し実行し、
異常発生状態が所定回数だけ連続して判定された場合のみに、前記RF送受信回路の真の異常発生状態として判定し、
前記真の異常発生状態が判定されたときに、前記制御システムに対して前記異常通知を行うことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車載電波パルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−17625(P2006−17625A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196939(P2004−196939)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】