説明

車輌の制動制御装置

【課題】前後輪制動力配分制御中にアンチスキッド制御が行われる場合に後輪の制動圧が不必要に高くなることを防止して車輌の走行安定性を向上させる。
【解決手段】車速V及び車輌の減速度Gxbに基づき後輪の保持圧力Pcが演算され(S50〜70)、前後輪の制動力配分制御の開始条件が成立すると(S60、70)、マスタシリンダ圧力Pmと後輪の保持圧力Pcとの偏差Pm−Pcに基づき前輪の制動圧の増加圧力ΔPfが演算され(S150、160)、前輪の制動圧がマスタシリンダ圧力Pmと増加圧力ΔPfとの和になるよう制御され(S170)、後輪の制動圧が保持圧力Pcになるよう制御される(S190)、前後輪制動力配分制御中にアンチスキッド制御が開始されると(S90)、前輪の制動圧の増加圧力ΔPfが漸減され(S100、130)、後輪の制動圧の保持圧力Pcが漸増される(S180、200)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車輌の制動制御装置に係り、更に詳細には前後輪の制動力配分制御を行う車輌の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌の制動制御装置の一つとして、車輌の制動時に後輪がロックすることを防止して車輌の走行安定性を向上させるべく、車輌の運転状態が所定の状態になると後輪の制動圧を保持又は減圧し或いはパルス増圧して後輪の制動力の上昇を抑制する前後輪制動力配分制御を行うよう構成された制動制御装置が従来より知られている。
【0003】
この種の制動制御装置によれば、前後輪制動力配分制御が行われない場合に比して、後輪が前輪よりも先行してロック状態になること及びこれに起因して車輌の安定性が悪化することを防止して車輌の走行安定性を向上させることができるが、前後輪制動力配分制御が実行されると後輪の制動力の上昇が抑制されるため、運転者が制動力を高くしようとして制動操作量を増大させても車輌全体としての制動力が十分に上昇せず、運転者が制動操作に違和感を感じることがある。
【0004】
かかる問題を解消すべく、例えば本願出願人の出願にかかる下記の特許文献1には、マスタシリンダの作動液圧を各車輪に対応して設けられた制動力発生装置のホイールシリンダへ供給することにより制動力を発生し、車輌の運転状態が所定の状態になると後輪の制動力の上昇を抑制する前後輪制動力配分制御を行う車輌の制動制御装置であって、前後輪制動力配分制御が行われているときには後輪の制動力の上昇抑制量に応じて前輪の制動力を増加させるよう構成された制動制御装置が記載されている。
【特許文献1】
特願2001−360510号明細書及び図面
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記先の出願にかかる制動制御装置によれば、前後輪制動力配分制御が行われているときには後輪の制動力の上昇抑制量に応じて前輪の制動力が増加されるので、前後輪制動力配分制御が行われ後輪の制動力の上昇が抑制されることによる後輪の制動力の不足分を確実に前輪の制動力の増大によって補填することができ、従って後輪が前輪よりも先行してロック状態になること及びこれに起因して車輌の安定性が悪化することを確実に防止しつつ車輌全体としての制動力を効果的に運転者の制動操作量に応じた制動力に制御することができる。
【0006】
しかし制動圧(ホイールシリンダ圧力)を制御する増減圧制御弁を各車輪毎に有し、前輪及び後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する制動装置を備えた車輌に於いては、前後輪制動力配分制御が行われている状況に於いて運転者の制動操作量が増大され何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われると、後輪の制動圧が過剰になり易いという問題がある。
【0007】
即ち、上述の如き制動装置の場合には、運転者の制動操作量が増大され何れかの車輪についてアンチスキッド制御が開始されると、運転者の制動要求に答えるべく後輪制動力の上昇抑制が解除され後輪の制動圧が増大されるので、アンチスキッド制御の終了時に後輪の制動圧が高い状態になると共に、前輪及び後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力が高い状況にて前輪の増減圧制御弁が制御されることにより前後輪制動力配分制御による前輪の制動圧が増圧され、前輪の制動圧も高くなり、そのためアンチスキッド制御終了時のブレーキの効きが高くなりすぎ、車輌コントロール性が低下し易い。
【0008】
また制動装置が各車輪毎に設けられ対応する車輪の制動圧を制御する増減圧制御弁と、左右前輪の一方及び左右後輪の一方の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第一の共通の制御弁と、左右前輪の他方及び左右後輪の他方の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第二の共通の制御弁とを有する制動装置である場合には、後輪の制動力の上昇抑制量に応じて前輪の制動力を増加させるべく前輪の制動圧を増加させると、後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力も高くなる。また上述の如く運転者の制動操作量が増大され何れかの車輪についてアンチスキッド制御が開始されると、運転者の制動要求に答えるべく後輪制動力の上昇抑制が解除され後輪の制動圧が増大される。そのため増減圧制御弁より上流側の圧力が高い状況にて後輪制動圧の増圧が行われ、アンチスキッド制御の開始後に後輪の制動圧が急激に高くなって車輌が不安定になり易い。
【0009】
本発明は、各車輪毎に設けられ対応する車輪の制動圧を制御する増減圧制御弁と、増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する共通の制御弁とを有する制動装置を備えた車輌の制動制御装置であって、車輌の運転状態が所定の状態になると後輪の制動力の上昇を抑制すると共に後輪の制動力の上昇抑制量に応じて前輪の制動力を増加させる前後輪制動力配分制御を行うよう構成された従来の制動制御装置に於ける上述の問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、前後輪制動力配分制御が行われている状況に於いて運転者の制動操作量が増大され何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われる場合に後輪の制動圧が不必要に高くなることを防止することにより、車輌全体の制動力が過剰になることを防止して車輌の走行安定性を向上させることである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち各車輪毎に設けられ対応する車輪の制動圧を制御する増減圧制御弁と、前記増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する共通の制御弁とを有する制動装置を備えた車輌の制動制御装置であって、車輌の運転状態が所定の状態になると後輪の制動圧を前輪の制動圧よりも低くする前後輪制動力配分制御を行い、前記前後輪制動力配分制御の開始後に運転者による制動操作量が増大されたときには制動操作量の増大量に応じて前輪の制動圧を増大させる車輌の制動制御装置に於いて、前記前後輪制動力配分制御の実行中に何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているときには前輪の制動圧の増大量を漸減することを特徴とする車輌の制動制御装置によって達成される。
【0011】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記前後輪制動力配分制御が終了したときには前記前後輪制動力配分制御の実行中にアンチスキッド制御が行われているときの漸減速度よりも大きい漸減速度にて前輪の制動圧の増大量を漸減するよう構成される(請求項2の構成)。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記前輪の制動圧の増大量を漸減することは前記前輪の制動圧の増大量がゼロになるまで継続されるよう構成される(請求項3の構成)。
【0013】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、前記前後輪制動力配分制御の実行中にアンチスキッド制御が終了したときには前輪の制動圧の増大量の漸減を終了するよう構成される(請求項4の構成)。
【0014】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1の構成によれば、前後輪制動力配分制御が行われているときには後輪の制動力の上昇抑制量に応じて前輪の制動力が増加されるので、前後輪制動力配分制御が行われ後輪の制動力の上昇が抑制されることによる後輪の制動力の不足分を確実に前輪の制動力の増大によって補填することができ、従って後輪が前輪よりも先行してロック状態になること及びこれに起因して車輌の安定性が悪化することを確実に防止しつつ車輌全体としての制動力を効果的に運転者の制動操作量に応じた制動力に制御することができると共に、前後輪制動力配分制御の実行中に何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているときには前輪の制動圧の増大量が漸減されるので、前輪及び後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力が高い状況にて前輪の増減圧制御弁が制御されることにより前後輪制動力配分制御による前輪の制動圧が増圧され過大になることを確実に防止することができ、これにより車輌の走行安定性を向上させることができる。
【0015】
また上記請求項1の構成によれば、前後輪制動力配分制御の実行中に何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているときには前輪の制動圧の増大量が漸減されるので、制動装置が各車輪毎に設けられ対応する車輪の制動圧を制御する増減圧制御弁と、左右前輪の一方及び左右後輪の一方の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第一の共通の制御弁と、左右前輪の他方及び左右後輪の他方の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第二の共通の制御弁とを有する制動装置である場合にも、前輪及び後輪の前記増減圧制御弁より上流側の圧力が高くなることに起因してアンチスキッド制御の開始後に後輪の制動圧が急激に高くなって車輌が不安定になることを確実に防止することができ、これにより車輌の走行安定性を向上させることができる。
【0016】
また上記請求項2の構成によれば、前後輪制動力配分制御が終了したときには前後輪制動力配分制御の実行中にアンチスキッド制御が行われているときの漸減速度よりも大きい漸減速度にて前輪の制動圧の増大量が漸減されるので、アンチスキッド制御が行われている際の前輪の制動圧の増大量の漸減速度が過大になることを回避しつつ、前後輪制動力配分制御の終了時に前輪の制動圧を速やかに低下させることができる。
【0017】
上記請求項3の構成によれば、前輪の制動圧の増大量を漸減することは前輪の制動圧の増大量がゼロになるまで継続されるので、前後輪制動力配分制御の実行中に何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているときには前輪の制動圧の増大量を確実にゼロになるまで漸減することができる。
【0018】
上記請求項4の構成によれば、前後輪制動力配分制御の実行中にアンチスキッド制御が終了したときには前輪の制動圧の増大量の漸減が終了されるので、アンチスキッド制御が終了したにも拘らず前輪の制動圧の増大量の漸減が不必要に継続されることを確実に防止することができる。
【0019】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の構成に於いて、車輌の運転状態が所定の状態になると後輪の制動圧の上昇を抑制し、前後輪制動力配分制御が行われているときには後輪の制動圧の上昇抑制量に応じて前輪の制動圧を増大させるよう構成される(好ましい態様1)。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、前後輪制動力配分制御は後輪のホイールシリンダ圧力の上昇を抑制することにより行われ、前輪の制動圧の増大は運転者による制動操作量と、後輪のホイールシリンダ圧力と、前輪及び後輪の制動力発生装置の制動性能を表わすパラメータとに基づき前輪のホイールシリンダ圧力増加量が演算され、該増加量に基づき前輪のホイールシリンダ圧力が増加されることにより行われるよう構成される(好ましい態様2)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、前記パラメータは車速が高いほど制動性能を低く表わすパラメータであるよう構成される(好ましい態様3)。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、制動制御装置は車輌の運転状態が所定の状態になった時点に於ける車速に応じて後輪の制動圧の上昇抑制量が可変設定されるよう構成される(好ましい態様4)。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、制動制御装置は車輌の運転状態が所定の状態になった時点に於ける車輌の減速度に応じて後輪の制動力の上昇抑制量を可変設定するよう構成される(好ましい態様5)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、補助制動制御が行われていないときには、マスタシリンダ圧力と後輪のホイールシリンダ圧力との偏差と、前輪及び後輪の制動力発生装置の制動性能を表わすパラメータとに基づき前輪のホイールシリンダ圧力増加量が演算され、補助制動制御が行われているときには、マスタシリンダ圧力+補助制動制御による制動圧の増大量と後輪のホイールシリンダ圧力との偏差と、前輪及び後輪の制動力発生装置の制動性能を表わすパラメータとに基づき前輪のホイールシリンダ圧力増加量が演算されるよう構成される(好ましい態様6)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、車輌の運転状態が所定の状態になった時点に於ける車輌の走行状態に応じて後輪の保持圧力が設定され、後輪の制動圧が保持圧力に維持されるよう構成される(好ましい態様7)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、車輌の運転状態が所定の状態になった時点に於けるマスタシリンダ圧力が後輪の保持圧力に設定され、後輪の制動圧が保持圧力に維持されるよう構成される(好ましい態様8)。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、パラメータは制動力発生装置のブレーキ効き係数を含むよう構成される(好ましい態様9)。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、ブレーキ効き係数は車速に基づき推定されるよう構成される(好ましい態様10)。
【0029】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の構成に於いて、制動装置は左前輪及び右後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第一の共通の制御弁と、右前輪及び左後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第二の共通の制御弁とを有するよう構成される(好ましい態様11)。
【0030】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の構成に於いて、制動装置は左右前輪の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第一の共通の制御弁と、左右後輪の増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する第二の共通の制御弁とを有するよう構成される(好ましい態様12)。
【0031】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11の構成に於いて、第一及び第二の共通の制御弁はリニアソレノイド弁であるよう構成される(好ましい態様13)。
【0032】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11の構成に於いて、増減圧制御弁は常開の増圧用電磁開閉弁と常閉の減圧用電磁開閉弁とよりなるよう構成される(好ましい態様14)。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面を参照して本発明を好ましい実施の形態(以下単に実施形態という)について詳細に説明する。
【0034】
図1は本発明による制動制御装置の一つの実施形態の油圧回路及び電子制御装置を示す概略構成図、図2は図1に示された前輪用の連通制御弁を示す解図的断面図である。尚図1に於いては、電磁的に駆動される各弁のソレノイドの図示は省略されている。
【0035】
図1に於いて、10は油圧式の制動装置を示しており、制動装置10は運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスタシリンダ14を有している。マスタシリンダ14はその両側の圧縮コイルばねにより所定の位置に付勢されたフリーピストン16により画成された第一のマスタシリンダ室14Aと第二のマスタシリンダ室14Bとを有している。
【0036】
第一のマスタシリンダ室14Aには第一のブレーキ油圧制御導管18Aの一端が接続され、ブレーキ油圧制御導管18Aの他端には左前輪用のブレーキ油圧制御導管20FL及び右後輪用のブレーキ油圧制御導管20RRの一端が接続されている。ブレーキ油圧制御導管18Aの途中には第一の連通制御弁22Aが設けられており、連通制御弁22Aは図示の実施形態に於いては常開型のリニアソレノイド弁である。連通制御弁22Aの両側のブレーキ油圧制御導管18Aには第一のマスタシリンダ室14Aよりブレーキ油圧制御導管20FL又はブレーキ油圧制御導管20RRへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管24Aが接続されている。
【0037】
図2に解図的に図示されている如く、連通制御弁22Aは内部に弁室70を郭定するハウジング72を有し、弁室70には弁要素74が往復動可能に配置されている。弁室70にはブレーキ油圧制御導管18Aのマスタシリンダ14の側の部分18AAが内部通路76を介して常時連通接続され、またブレーキ油圧制御導管18Aのマスタシリンダ14とは反対側の部分18ABが内部通路78及びポート80を介して連通接続されている。
【0038】
図示の如く、弁要素74の周りにはソレノイド82が配設されており、弁要素74は圧縮コイルばね84により図2に示された開弁位置へ付勢されている。弁要素74はソレノイド82に駆動電圧が印加されると、圧縮コイルばね84のばね力に抗してポート80に対し付勢され、これによりポート80を閉ざすことによって閉弁する。
【0039】
また連通制御弁22Aが閉弁位置にある状況に於いて、ブレーキ油圧制御導管18Aのマスタシリンダ14とは反対側の部分18AB内の圧力による力と圧縮コイルばね84のばね力との合計がソレノイド82による電磁力よりも高くなると、弁要素74はポート80より離れて該ポートを開き、部分18AB内のオイルが内部通路78、ポート80、弁室70、内部通路76を経てブレーキ油圧制御導管18Aの部分18AAへ流れる。そしてこのオイルの流動により部分18AB内のオイルの圧力が低下すると、その圧力による力と圧縮コイルばね84のばね力との合計がソレノイド82による電磁力よりも低くなり、弁要素74はポート80を再度閉ざす。
【0040】
かくして連通制御弁22Aはそのソレノイド82に対する印加電圧に応じてブレーキ油圧制御導管18Aの部分18AB内の圧力を制御するので、ソレノイド82に対する駆動電圧を制御することによって連通制御弁22Aにより部分18AB内の圧力(本明細書に於いては「上流圧」という)を所望の圧力に制御することができる。
【0041】
尚図示の実施形態に於いては、図1に示された逆止バイパス導管24Aは連通制御弁22Aに内蔵されており、内部通路86と、該内部通路の途中に設けられ弁室70より部分18ABへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁88とよりなっている。
【0042】
左前輪用のブレーキ油圧制御導管20FL及び右後輪用のブレーキ油圧制御導管20RRの他端にはそれぞれ左前輪及び右後輪の制動力を発生する図1には示されていない制動力発生装置のホイールシリンダ26FL及び26RRが接続されており、左前輪用のブレーキ油圧制御導管20FL及び右後輪用のブレーキ油圧制御導管20RRの途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁28FL及び28RRが設けられている。電磁開閉弁28FL及び28RRの両側のブレーキ油圧制御導管20FL及び20RRにはそれぞれホイールシリンダ26FL及び26RRよりブレーキ油圧制御導管18Aへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管30FL及び30RRが接続されている。
【0043】
電磁開閉弁28FLとホイールシリンダ26FLとの間のブレーキ油圧制御導管20FLにはオイル排出導管32FLの一端が接続され、電磁開閉弁28RRとホイールシリンダ26RRとの間のブレーキ油圧制御導管20RRにはオイル排出導管32RRの一端が接続されている。オイル排出導管32FL及び32RRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁開閉弁34FL及び34RRが設けられており、オイル排出導管32FL及び32RRの他端は接続導管36Aにより前輪用のバッファリザーバ38Aに接続されている。
【0044】
以上の説明より解る如く、電磁開閉弁28FL及び28RRはそれぞれホイールシリンダ26FL及び26RR内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、電磁開閉弁34FL及び34RRはそれぞれホイールシリンダ26FL及び26RR内の圧力を減圧するための減圧弁であり、従って電磁開閉弁28FL及び34FLは互いに共働して左前輪のホイールシリンダ26FL内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定しており、電磁開閉弁28RR及び34RRは互いに共働して右後輪のホイールシリンダ26RR内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定している。
【0045】
接続導管36Aは接続導管40Aによりポンプ42Aの吸入側に接続されており、接続導管40Aの途中には接続導管36Aよりポンプ42Aへ向かうオイルの流れのみを許す二つの逆止弁44A及び46Aが設けられている。ポンプ42Aの吐出側は途中にダンパ48Aを有する接続導管50Aによりブレーキ油圧制御導管18Aに接続されている。ポンプ42Aとダンパ48Aとの間の接続導管50Aにはポンプ42Aよりダンパ48Aへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁52Aが設けられている。
【0046】
二つの逆止弁44A及び46Aの間の接続導管40Aには接続導管54Aの一端が接続されており、接続導管54Aの他端は第一のマスタシリンダ室14Aと制御弁22Aとの間のブレーキ油圧制御導管18Aに接続されている。接続導管54Aの途中には常閉型の電磁開閉弁60Aが設けられている。この電磁開閉弁60Aはマスタシリンダ14と制御弁22Aとの間のブレーキ油圧制御導管18Aとポンプ42Aの吸入側との連通を制御する吸入制御弁として機能する。
【0047】
同様に、第二のマスタシリンダ室14Bには第二のブレーキ油圧制御導管18Bの一端が接続され、ブレーキ油圧制御導管18Bの他端には左後輪用のブレーキ油圧制御導管20RL及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20FRの一端が接続されている。ブレーキ油圧制御導管18Bの途中には常開型のリニアソレノイド弁である後輪用の連通制御弁22Bが設けられている。
【0048】
連通制御弁22Bは第一の連通制御弁22Aについて図2に示された構造と同一の構造を有しており、従って図には示されていないソレノイドに対する駆動電圧を制御することにより、連通制御弁22Bより下流側のブレーキ油圧制御導管18B内の圧力(上流圧)を所望の圧力に制御することができる。更に連通制御弁22Bの両側のブレーキ油圧制御導管18Bには第二のマスタシリンダ室14Bよりブレーキ油圧制御導管20RL又はブレーキ油圧制御導管20FRへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管24Bが接続されている。
【0049】
左後輪用のブレーキ油圧制御導管20RL及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20FRの他端にはそれぞれ左後輪及び右後輪の制動力を発生する図1には示されていない制動力発生装置のホイールシリンダ26RL及び26FRが接続されており、左後輪用のブレーキ油圧制御導管20RL及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20FRの途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁28RL及び28FRが設けられている。電磁開閉弁28RL及び28FRの両側のブレーキ油圧制御導管20RL及び20FRにはそれぞれホイールシリンダ26RL及び26FRよりブレーキ油圧制御導管18Bへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管30RL及び30FRが接続されている。
【0050】
電磁開閉弁28RLとホイールシリンダ26RLとの間のブレーキ油圧制御導管20RLにはオイル排出導管32RLの一端が接続され、電磁開閉弁28FRとホイールシリンダ26FRとの間のブレーキ油圧制御導管20FRにはオイル排出導管32FRの一端が接続されている。オイル排出導管32RL及び32FRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁開閉弁34RL及び34FRが設けられており、オイル排出導管32RL及び32FRの他端は接続導管36Bより後輪用のバッファリザーバ38Bに接続されている。
【0051】
第一の側の場合と同様、電磁開閉弁28RL及び28FRはそれぞれホイールシリンダ26RL及び26FR内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、電磁開閉弁34RL及び34FRはそれぞれホイールシリンダ26RL及び26FR内の圧力を減圧するための減圧弁であり、従って電磁開閉弁28RL及び34RLは互いに共働して左後輪のホイールシリンダ26RL内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定しており、電磁開閉弁28RR及び34FRは互いに共働して右前輪のホイールシリンダ26FR内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を郭定している。
【0052】
接続導管36Bは接続導管40Bによりポンプ42Bの吸入側に接続されており、接続導管40Bの途中には接続導管36Bよりポンプ42Bへ向かうオイルの流れのみを許す二つの逆止弁44B及び46Bが設けられている。ポンプ42Bの吐出側は途中にダンパ48Bを有する接続導管50Bによりブレーキ油圧制御導管18Bに接続されている。ポンプ42Bとダンパ48Bとの間の接続導管50Bにはポンプ42Bよりダンパ48Bへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁52Bが設けられている。尚ポンプ42A及び42Bは図1には示されていない共通の電動機により駆動される。
【0053】
二つの逆止弁44B及び46Bの間の接続導管40Bには接続導管54Bの一端が接続されており、接続導管54Bの他端は第二のマスタシリンダ室14Bと制御弁22Bとの間のブレーキ油圧制御導管18Bに接続されている。接続導管54Bの途中には常閉型の電磁開閉弁60Bが設けられている。この電磁開閉弁60Bもマスタシリンダ14と制御弁22Bとの間のブレーキ油圧制御導管18Bとポンプ42Bの吸入側との連通を制御する吸入制御弁として機能する。
【0054】
図示の実施形態に於いては、各制御弁及び各開閉弁は対応するソレノイドに駆動電流が通電されていないときには図1に示された非制御位置に設定され、これによりホイールシリンダ26FL及び26RRには第一のマスタシリンダ室14A内の圧力が供給され、ホイールシリンダ26RL及び26FRには第二のマスタシリンダ室14B内の圧力が供給される。従って通常時には各車輪のホイールシリンダ内の圧力、即ち制動力はブレーキペダル12の踏力に応じて増減される。
【0055】
これに対し連通制御弁22A、22Bが閉弁位置に切り換えられ、開閉弁60A、60Bが開弁され、各車輪の開閉弁が図1に示された位置にある状態にてポンプ42A、42Bが駆動されると、マスタシリンダ14内のオイルがポンプによって汲み上げられ、ホイールシリンダ26FL、26RRにはポンプ42Aによりポンプアップされた圧力が供給され、ホイールシリンダ26RL、26FRにはポンプ42Bによりポンプアップされた圧力が供給されるようになるので、各車輪の制動圧はブレーキペダル12の踏力に関係なく連通制御弁22A、22B及び各車輪の開閉弁(増減圧弁)の開閉により増減される。
【0056】
この場合、ホイールシリンダ内の圧力は、開閉弁28FL〜28RR及び開閉弁34FL〜34RRが図1に示された非制御位置にあるときには増圧され(増圧モード)、開閉弁28FL〜28RRが閉弁位置に切り換えられ且つ開閉弁34FL〜34RRが図1に示された非制御位置にあるときには保持され(保持モード)、開閉弁28FL〜28RR及び開閉弁34FL〜34RRが開弁位置に切り換えられると減圧される(減圧モード)。
【0057】
連通制御弁22A及び22B、開閉弁28FL〜28RR、開閉弁34FL〜34RR、開閉弁60A及び60Bは、後に説明する如く電子制御装置90により制御される。電子制御装置90はマイクロコンピュータ92と駆動回路94とよりなっており、マイクロコンピュータ92は当技術分野に於いて周知の一般的な構成のものであってよい。
【0058】
マイクロコンピュータ92には圧力センサ96よりマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、車速センサ98より車速Vを示す信号、前後加速度センサ100より車輌の前後加速度Gxを示す信号、車輪速度センサ102FL〜102RRにより検出された左右前輪及び左右後輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力されるようになっている。またマイクロコンピュータ92は後述の制動制御フローを記憶しており、制動制御フローに従って左右前輪及び左右後輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算すると共に、連通制御弁22A等を制御することにより各車輪の制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)をそれぞれ対応する目標制動圧Ptiに制御する。
【0059】
特に図示の実施形態に於いては、運転者による制動操作量が小さく制動力の前後配分制御が不要であるときには、連通制御弁22A等は図示の標準位置に維持されポンプ42A及び42Bは駆動されず、これにより各車輪の制動圧、即ちホイールシリンダ26FL〜26RR内の圧力はマスタシリンダ圧力Pmにより制御される。
【0060】
これに対し運転者による制動操作量が大きく制動力の前後配分制御が必要であるときには、まず連通制御弁22A及び22Bが閉弁され、次いで吸入制御弁60A及び60Bが開弁され、しかる後ポンプ42A及び42Bの駆動が開始され、後に詳細に説明する如く車速V及び車輌の減速度Gxb(=−Gx)に基づき後輪の保持圧力Pcが演算されると共に、マスタシリンダ圧力Pm及び後輪の保持圧力Pc等に基づき前輪の増加圧力ΔPfが演算され、連通制御弁22A等が制御されることにより前輪側の上流圧がPm+ΔPfの目標制動圧になるよう制御されることにより左右前輪制動圧が制御され、左右後輪の開閉弁28RL及び28RRが閉弁されることにより左右後輪の制動圧が保持圧力Pcになるよう制御される。
【0061】
またマイクロコンピュータ92は、フローチャートとしては示されていないが、各車輪の車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vb及び各車輪の制動スリップ量SBi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、何れかの車輪の制動スリップ量SBiがアンチスキッド制御(ABS制御)開始の基準値よりも大きくなり、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、アンチスキッド制御の終了条件が成立するまで、上記制動力の前後配分制御に凌駕して当該車輪について制動スリップ量が所定の範囲内になるようホイールシリンダ内の圧力を増減するアンチスキッド制御を行う。
【0062】
更にマイクロコンピュータ92は、後述の制動制御フローに従って制動力の前後配分制御中に何れかの車輪についてアンチスキッド制御が開始されると、前輪の増加圧力ΔPfを漸減すると共に後輪の制動圧が保持圧力Pcを漸増し、これにより車輌全体の制動力が過大になることを防止して車輌の走行安定性を向上させる。
【0063】
尚図には示されていないが、電磁開閉弁28FL〜28RR及び開閉弁34FL〜34RRは例えば各車輪の制動力を個別に制御することにより車輌の挙動を安定化させる場合に制御される。
【0064】
次に図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施形態に於ける制動制御ルーチンについて説明する。尚図3に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0065】
まずステップ10に於いては圧力センサ96により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては前後輪の制動力配分制御中であるか否かの判別、即ち後述のステップ30に於いて肯定判別が行われた後であってステップ100に於いて肯定判別が行われていない状況であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ90へ進み、否定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
【0066】
ステップ30に於いては車速Vに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより後輪の基本保持圧力Pcsが演算され、ステップ40に於いては車輌の減速度Gxbに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより基本保持圧力Pcsに対する補正圧力ΔPcが演算され、ステップ50に於いては後輪の保持圧力Pcが基本保持圧力Pcsと補正圧力ΔPcとの和として演算される。尚図5のGxboは車輌の制動時に於ける標準的な車輌の減速度である。
【0067】
ステップ60に於いてはマスタシリンダ圧力Pmが後輪の保持圧力Pcを越えているか否かの判別、即ち後輪の制動圧を保持すると共に前輪の制動圧を増加する必要があるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ70へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ150へ進む。
【0068】
ステップ70に於いては当技術分野に於いて公知の任意の要領にて前後輪の制動力配分制御の他の開始条件が成立したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図3に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ80に於いて後輪の保持圧力Pcがその時のマスタシリンダ圧力Pmに設定され、しかる後ステップ150へ進む。
【0069】
尚前後輪の制動力配分制御の他の開始条件が成立したか否かの判別は、例えば(A)左右前輪の車輪速度の平均値Vwfに対する左右後輪の車輪速度の平均値Vwrの偏差ΔVwが制御開始基準値Vws(正の定数)を超えているか否かの判別、又は(B)車輌の減速度Gxbが制御開始基準値Gxs(正の定数)を超えているか否かの判別により行われてよく、また上記(A)及び(B)の組合せにより行われてもよい。また上記ステップ60及び70の制御開始条件が成立しているか否かが同時に判別され、最初に肯定判別が行われたときにはステップ80へ進み、二回目以降に肯定判別が行われたときにはステップ150へ進み、否定判別が行われたときには図3に示されたルーチンによる制御を終了するよう修正されてもよい。
【0070】
ステップ90に於いては例えばマスタシリンダ圧力Pmが制御終了の基準値Pme(Pcよりも小さい正の定数)以下になったか否かの判別により、前後輪の制動力配分制御の終了条件が成立したか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ110に於いて前輪の制動圧の増加圧力ΔPfの漸減量ΔPがΔP1(正の定数)に設定され、しかる後ステップ130へ進む。
【0071】
尚前後輪の制動力配分制御の終了条件が成立したか否かの判別も当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよく、例えば制御開始条件の成立判定が車輪速度の偏差ΔVwに基づいて行われた場合には、車輪速度の偏差ΔVwが制御終了基準値Vwe(Vwsよりも小さい正の定数)以下になったか否かの判別により行われてよく、また制御開始条件の成立判定が車輌の減速度Gxbに基づいて行われた場合には車輌の減速度Gxbが制御終了基準値Gxe(Gxsよりも小さい正の定数)以下になったか否かの判別により行われてよく、更には両者の条件が成立したときに制御終了条件が成立したと判定されてもよい。
【0072】
ステップ100に於いては何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ150へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ120に於いて前輪の制動圧の増加圧力ΔPfの漸減量ΔPがΔP2(ΔP1よりも小さい正の定数)に設定され、しかる後ステップ130へ進む。
【0073】
ステップ130に於いては前輪の制動圧の増加圧力ΔPfの前回値をΔPffとして、前輪の制動圧の増加圧力ΔPfがΔPff−ΔPに設定され、ステップ140に於いては増加圧力ΔPfが0以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ150へ進み、肯定判別が行われたときにはそのまま図3に示されたルーチンによる制御を一旦終了する。
【0074】
ステップ150に於いては前輪及び後輪のホイールシリンダ断面積をそれぞれSf、Sr(正の定数)とし、前輪及び後輪の制動有効半径をそれぞれRf、Rr(正の定数)とし、前輪及び後輪のブレーキ効き係数をそれぞれBEFf、BEFr(正の定数)として下記の式1に従って係数Kbが演算されると共に、下記の式2に従って前輪の制動圧の基本増加圧力ΔPfoが演算される。尚ホイールシリンダ断面積Sf、Sr及び制動有効半径Rf、Rrは制動力発生装置の仕様により定まる値であり、ブレーキ効き係数BEFf、BEFrは例えば実験的に予め求められる。
Kb=(Sr×Rr×BEFr)/(Sf×Rf×BEFf) ……(1)
ΔPfo=(Pm−Pc)Kb ……(2)
【0075】
ステップ160に於いては車速Vに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより現在の車速に対応するブレーキ効き係数BEFvが演算され、標準のブレーキ効き係数BEFoと現在のブレーキ効き係数BEFvとの偏差ΔBEF(=BEFo−BEFv)が演算され、更に下記の式3に従って前輪の制動圧の増加圧力ΔPfが演算される。尚図6に示されたグラフに対応するマップも例えば実験的に予め求められる。
ΔPf=ΔPfo(1+ΔBEF/BEFo) ……(3)
【0076】
ステップ170に於いては左右前輪の目標制動圧Ptfl及びPtfrがマスタシリンダ圧力Pmと増加圧力ΔPfとの和として演算されると共に、左右前輪の制動圧がそれぞれ目標制動圧Ptfl及びPtfrになるよう制動装置10が制御される。
【0077】
ステップ180に於いては何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにステップ190に於いて左右後輪の目標制動圧Ptrl及びPtrrが保持圧力Pcに設定されると共に、左右後輪の制動圧がそれぞれ目標制動圧Ptrl及びPtrrになるよう制動装置10が制御され、肯定判別が行われたときにはステップ200に於いてアンチスキッド制御中の後輪の制動圧の増圧量をΔPcabs(正の定数)として左右後輪の目標制動圧Ptrl及びPtrrが保持圧力Pc+ΔPcabsに設定されると共に、左右後輪の制動圧がそれぞれ目標制動圧Ptrl及びPtrrになるよう制動装置10が制御される。
【0078】
尚図3には示されていないが、上述のステップ70に於いて否定判別が行われた場合及びステップ140に於いて肯定判別が行われた場合には、連通制御弁22F等が図1に示された標準位置に設定され、これにより各車輪のホイールシリンダ26FR〜26RRにはマスタシリンダ14の圧力Pmが直接供給され、これにより各車輪の制動圧が運転者の制動操作量に応じて増減される。
【0079】
かくして図示の実施形態によれば、前後輪の制動力配分制御が実行されていないときには、ステップ20に於いて否定判別が行われ、ステップ30に於いて車速Vに基づき後輪の基本保持圧力Pcsが演算され、ステップ40に於いて車輌の減速度Gxbに基づき基本保持圧力Pcsに対する補正圧力ΔPcが演算され、ステップ50に於いて後輪の保持圧力Pcが基本保持圧力Pcsと補正圧力ΔPcとの和として演算される。
【0080】
マスタシリンダ圧力Pmが後輪の保持圧力Pc以下であり前後輪の制動力配分制御の他の開始条件が成立していないときには、後輪の制動力の抑制は不要であるので、ステップ60及び70に於いて否定判別が行われ、前輪及び後輪のホイールシリンダ26FL〜26RRにはマスタシリンダ14内の圧力が供給され、従って後輪の制動圧の抑制制御及び前輪の制動圧の増加制御は行われない。
【0081】
これに対し運転者による制動操作量が更に増大され、マスタシリンダ圧力Pmが後輪の保持圧力Pcを越えているときには、ステップ60に於いて肯定判別が行われ、マスタシリンダ圧力Pmが後輪の保持圧力Pcを越えていなくても前後輪の制動力配分制御の他の開始条件が成立しているときには、ステップ70に於いて肯定判別が行われ、ステップ80に於いて後輪の保持圧力Pcがその時のマスタシリンダ圧力Pmに設定され、ステップ150に於いてマスタシリンダ圧力Pmと後輪の保持圧力Pcとの偏差Pm−Pcに基づき上記式2に従って前輪の制動圧の基本増加圧力ΔPfoが演算され、ステップ160に於いて車速Vに基づき現在の車速に対応するブレーキ効き係数BEFvが演算され、標準のブレーキ効き係数BEFoと現在のブレーキ効き係数BEFvとの偏差ΔBEFが演算され、上記式3に従って前輪の制動圧の増加圧力ΔPfが演算される。
【0082】
更にステップ170に於いて左右前輪の制動圧がマスタシリンダ圧力Pmと増加圧力ΔPfとの和として演算される目標制動圧Ptfl及びPtfrになるよう制動装置10が制御され、ステップ190に於いて左右後輪の制動圧が左右後輪の目標制動圧Ptrl及びPtrr=保持圧力Pcになるよう制動装置10が制御される。
【0083】
従って図示の実施形態によれば、前後輪制動力配分制御の開始条件が成立すると、前後輪制動力配分制御の終了条件が成立するまで、マスタシリンダ圧力Pmが後輪の保持圧力Pcを越えている状況に於いて、後輪の制動圧が保持圧力Pcに維持されるので、前輪に先行して後輪がロックすることを確実に防止することができ、また後輪の制動圧が保持圧力Pcに維持されることによる制動力の不足分に対応する前輪の制動圧の増加量ΔPfが演算され、前輪の制動圧がΔPf増圧されるので、後輪の制動圧が保持されることによる車輌全体としての制動力の不足を前輪の制動力の増大によって補填し、これにより前後輪制動力配分制御実行中にも車輌全体としての制動力を確実に運転者の制動操作量に対応する制動力に制御することができる。
【0084】
図7は図示の実施形態に於ける前輪の制動力Fbfと後輪の制動力Fbrとの間の関係を示しており、特に二点鎖線は理想前後配分線を示し、実線は実施形態に於ける前後配分線を示している。図示の如く、前輪の制動力Fbfが後輪の保持圧力Pcに対応する制動力Fbfc以下の範囲に於いては、前輪の制動力Fbf及び後輪の制動力Fbrはマスタシリンダ圧力Pmの増大につれて互いに他に対し一定の割合にて増大するが、前輪の制動力Fbfが後輪の保持圧力Pcに対応する制動力Fbfcを越える範囲に於いては、制動力の実際の前後配分線が理想前後配分線を越えないよう、後輪の制動力Fbrが保持圧力Pcに対応する制動力Fbrcに維持される。
【0085】
また図8の実線は図示の実施形態に於けるマスタシリンダ圧力Pmと前輪の制動圧Pf及び後輪の制動圧Prとの間の関係を示しており、二点鎖線は前後輪制動力配分制御が行われない場合のマスタシリンダ圧力Pmと前輪の制動圧Pf及び後輪の制動圧Prとの間の関係を示している。
【0086】
図8に示されている如く、マスタシリンダ圧力Pmが保持圧力Pc以下の範囲に於いては前輪の制動圧Pf及び後輪の制動圧Prはマスタシリンダ圧力Pmであり互いに同一であるが、マスタシリンダ圧力Pmが保持圧力Pcを越える範囲に於いては後輪の制動圧Prは保持圧力Pc(一定)であり、現在のマスタシリンダ圧力PmがPmaであるとすると、後輪の制動圧の抑制量ΔPr(=Pma−Pc)に対応する後輪の制動力の抑制量に相当する前輪の制動圧の増加量ΔPfが演算され、前輪の制動圧PfがPma+ΔPfに制御される。
【0087】
また図示の実施形態によれば、前後輪制動力配分制御中にアンチスキッド制御が開始されると、ステップ20、90、100に於いてそれぞれ肯定判別、否定判別、肯定判別が行われ、ステップ120及び130に於いて前輪の制動圧の増加量ΔPfが1サイクル毎にΔP2漸減されるので、連通制御弁22Aによりブレーキ油圧制御導管20FL及び20RR内の圧力が漸減されると共に、連通制御弁22Bによりブレーキ油圧制御導管20FR及び20RL内の圧力が漸減されるので、アンチスキッド制御の開始後に後輪の制動圧が急激に高くなって車輌が不安定になったり、ブレーキ油圧制御導管20FL、20RR、20FR及び20RL内の圧力が高い状況にて前輪の電磁開閉弁28FL及び34FL等が制御されることにより前後輪制動力配分制御による前輪の制動圧が過大に増圧されたりすることを確実に防止することができ、これにより車輌の走行安定性を向上させることができる。
【0088】
また図示の実施形態によれば、前後輪制動力配分制御の終了条件が成立すると、ステップ90に於いて肯定判別が行われ、ステップ110に於いて前輪の制動圧の増加量ΔPfが1サイクル毎にΔP1漸減されることによりアンチスキッド制御が開始された場合よりも速い漸減速度にて漸減されるので、アンチスキッド制御が行われている際の前輪の制動圧の増大量の漸減速度が過大になることを回避しつつ、前後輪制動力配分制御の終了時に前輪の制動圧を速やかに低下させることができる。
【0089】
また図示の実施形態によれば、前後輪制動力配分制御中にアンチスキッド制御が開始された場合及び前後輪制動力配分制御の終了条件が成立した場合の何れの場合にも、ステップ140に於いて肯定判別が行われるまで、換言すれば前輪の制動圧の増加量ΔPfが0になるまで継続されるので、前輪の制動圧の増大量を確実にゼロになるまで漸減することができる。
【0090】
また図示の実施形態によれば、前後輪制動力配分制御中にアンチスキッド制御が終了したときには、ステップ90及び100に於いて否定判別が行われ、前輪の制動圧の増大量の漸減が中止され、ステップ150以降が実行されるので、アンチスキッド制御が終了したにも拘らず前輪の制動圧の増大量の漸減が不必要に継続されることを確実に防止することができる。
【0091】
特に図示の実施形態によれば、前輪の制動圧の増加量ΔPfは単純に後輪の制動圧の抑制量ΔPrに設定される訳ではなく、後輪の制動圧の抑制による後輪の制動力の不足分に対応する制動力を前輪の制動力に加算するための値として演算されるので、前輪の制動圧がマスタシリンダ圧力Pma+後輪の制動圧の抑制量ΔPrに設定される場合に比して、確実に且つ正確に車輌全体の制動力が運転者の制動操作量に対応する値になるよう制御することができる。
【0092】
また一般に、車速Vが高くなるにつれて後輪に比して前輪のブレーキの効きが低下し、結果的に制動力の前後配分が後輪寄りになるので、車速Vが高いほど後輪の保持圧力Pcは低く設定されることが好ましい。また一般に、車輌の積載荷重が高いほど制動力の理想前後配分線は後輪寄りになり、車輌の積載荷重が高いほど車輌の減速度が低くなると共に車輌の制動に関する前輪の負担が増大するので、制動力前後配分制御開始時に於ける車輌の減速度が低いほど後輪の保持圧力Pcは高く設定されることが好ましい。
【0093】
図示の実施形態によれば、保持圧力Pcが一定の値に設定される訳ではなく、ステップ30〜50に於いて車速Vが高いほど小さくなり車輌の減速度Gxbが高いほど小さくなるよう車速V及び車輌の減速度Gxbに応じて後輪の保持圧力Pcが可変設定されるので、車速Vや車輌の減速度Gxbが考慮されない場合に比して後輪の保持圧力Pcを適正に設定することができ、これにより車輌の状況に応じて適正に前後輪制動力配分制御を実行することができる。
【0094】
また図示の実施形態によれば、ステップ110に於いて前輪の制動圧の増加圧力ΔPfは車速Vが高いほどブレーキ効き係数BEFが低下することを考慮して演算されるので、ブレーキ効き係数BEFの変動が考慮されない場合に比して前輪の制動圧の増加圧力ΔPfを後輪の制動力の不足分に正確に対応する値に演算することができ、これにより前輪の制動圧を過不足なく適正に制御することができる。
【0095】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0096】
例えば図示の実施形態に於いては、後輪の保持圧力Pcは制動力の前後輪配分制御の終了条件が成立するまで一定の値に設定されるようになっているが、例えば前後輪のスリップ状態に応じて後輪の保持圧力Pcが漸減又は漸増されることにより後輪の制動圧が漸減又はパルス増圧により漸増されてもよい。
【0097】
また上述の実施形態に於いては、ステップ30及び40に於いて車速V及び車輌の減速度Gxbに応じて後輪の保持圧力Pcが可変設定されるようになっているが、後輪の保持圧力Pcは車速V及び車輌の減速度Gxbの一方に応じてのみ可変設定されるよう修正されてもよく、更には後輪の保持圧力Pcは車速V及び車輌の減速度Gxbに応じて可変設定されることなく一定の値に設定されてもよい。
【0098】
また上述の実施形態に於いては、後輪の保持圧力Pcはステップ150及び160に於いて車速Vに基づき制動力発生装置のブレーキ効き係数の変化を考慮して演算されるようになっているが、このブレーキ効き係数の変化に基づく後輪の保持圧力Pcの補正が省略されてもよい。
【0099】
また上述の実施形態に於いては、制動力の前後輪配分制御中には左右前輪及び左右後輪はそれぞれ互いに同一の圧力に制御されるようになっているが、例えば車輌の旋回状況や車輌の挙動に応じて左右前輪の制動圧若しくは左右後輪の制動圧が相互に異なる値に制御されるよう修正されてもよい。
【0100】
更に上述の実施形態に於いては、左前輪及び右後輪、右前輪及び左後輪がそれぞれ1系統をなし各系統の制動圧が主として連通制御弁22A、22Bにより制御される制動装置であるが、本発明の制動制御装置が適用される制動装置は各車輪毎に設けられ対応する車輪の制動圧を制御する増減圧制御弁と、前輪及び後輪の前記増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する共通の制御弁とを有し、前輪の制動圧をマスタシリンダ圧力よりも高い値に制御することができ、後輪の制動圧をマスタシリンダ圧力よりも低い値に制御することができるものである限り、当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよく、例えば制動装置は、左右前輪及び左右後輪がそれぞれ1系統をなし各系統の制動圧がそれぞれ連通制御弁により制御される制動装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による制動制御装置の一つの実施形態の油圧回路及び電子制御装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示された前輪用の連通制御弁を示す解図的断面図である。
【図3】図示の実施形態に於ける前後輪の制動力配分制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】車速Vと後輪の基本保持圧力Pcsとの間の関係を示すグラフである。
【図5】車輌の減速度Gxbと基本保持圧力Pcsに対する補正圧力ΔPcの間の関係を示すグラフである。
【図6】車速Vとブレーキ効き係数BEFの間の関係を示すグラフである。
【図7】理想前後配分線及び図示の実施形態に於ける前輪の制動圧Pfと後輪の制動圧Prとの関係を示すグラフである。
【図8】図示の実施形態に於けるマスタシリンダ圧力Pmと前輪の制動圧Pf及び後輪の制動圧Prとの間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10…制動装置
14…マスタシリンダ
22F、22R…連通制御弁
26FL、26FR、26RL、26RR…ホイールシリンダ
42F、42R…オイルポンプ
28FL〜28RR、34FL〜34RR…開閉弁
42F、42R…ポンプ
60F、60R…吸入制御弁
70…弁室
74…弁要素
84…圧縮コイルばね
88…逆止弁
90…電子制御装置
96…圧力センサ
98…車速センサ
100…前後加速度センサ
102FL〜102RR…車輪速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各車輪毎に設けられ対応する車輪の制動圧を制御する増減圧制御弁と、前記増減圧制御弁より上流側の圧力を同一の圧力に制御する共通の制御弁とを有する制動装置を備えた車輌の制動制御装置であって、車輌の運転状態が所定の状態になると後輪の制動圧を前輪の制動圧よりも低くする前後輪制動力配分制御を行い、前記前後輪制動力配分制御の開始後に運転者による制動操作量が増大されたときには制動操作量の増大量に応じて前輪の制動圧を増大させる車輌の制動制御装置に於いて、前記前後輪制動力配分制御の実行中に何れかの車輪についてアンチスキッド制御が行われているときには前輪の制動圧の増大量を漸減することを特徴とする車輌の制動制御装置。
【請求項2】
前記前後輪制動力配分制御が終了したときには前記前後輪制動力配分制御の実行中にアンチスキッド制御が行われているときの漸減速度よりも大きい漸減速度にて前輪の制動圧の増大量を漸減することを特徴とする請求項1に記載の車輌の制動制御装置。
【請求項3】
前記前輪の制動圧の増大量を漸減することは前記前輪の制動圧の増大量がゼロになるまで継続されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車輌の制動制御装置。
【請求項4】
前記前後輪制動力配分制御の実行中にアンチスキッド制御が終了したときには前輪の制動圧の増大量の漸減を終了することを特徴とする請求項1乃至3に記載の車輌の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2004−306784(P2004−306784A)
【公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−103127(P2003−103127)
【出願日】平成15年4月7日(2003.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】