説明

車輌用シミュレーション装置

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、車輌用自動変速装置の変速時のシミュレーションを行なうことができる車輌用シミュレーション装置に関するものである。
(従来の技術)
従来から、電子的あるいは機械的構成により変速機の操作を自動化した自動変速装置を搭載した車輌が広く実用化されている。この種の車輌にあっては、車輌に搭載される自動変速装置に対する、発進、変速の場合の制御方法を検討する場合、実際の車輌を用いて実際に生じるフィーリングを評価し、最適と思われる制御方法を決定するという手段が採用されている。
(発明が解決しようとする課題)
したがって、従来の方法では、人間の感覚にたよるものであるから評価にばらつきが生じる上に採取できるデータにも制約が生じるなどの理由により、その最適制御方法の決定のために必要な工数が多大となるという問題点を有している。
本発明の目的は、このような制御方法の決定を実車輌を用いずに行なうことを可能とする、車輌用シミュレーション装置を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するための本発明の特徴は、内燃機関と車輪駆動軸との間に配設された変速系統の作動を電気的にシミュレーションするための車輌用シミュレーション装置において、上記内燃機関への燃料供給量を示す燃料信号とその時の機関速度を示す速度信号とに応答し上記内燃機関の出力トルク値を計算する第1手段と、該第1手段により得られた出力トルク値に応答し上記変速系統に含まれるクラッチの所要の操作量及び所要の車輌吸収トルクに応じた機関速度及び上記クラッチのカウンターシャフトの回転速度を計算する第2手段とを備えた点にある。
(作用)
第2手段では、車輌の変速系統のシミュレーションモデルを表現するブロック線図に従って、第2手段に与えられる入力データの内容に応じた機関速度値及びカウンターシャフト回転速度値が少なくとも得られる。したがって、第2手段に与える入力データの値を種々変化させることにより、発進時、変速時等における変速系統の動作のシミュレーションが容易に行なえ、より少ない工数でその制御仕様を決定することができる。
(実施例)
以下、図面を参照して本発明の一実施例につき詳細に説明する。
第1図には、本発明による車輌用シミュレーション装置の一実施例を示すブロック図が示されている。車輌用シミュレーション装置1は、図示の実施例では、ディーゼル機関車輌に搭載される、歯車式変速機と摩擦式クラッチとを用いた変速系統の作動をシミュレーションするための装置であり、燃料噴射ポンプの燃料調節用のラックの位置を設定する設定ラック位置信号RSを出力する第1信号発生器2、車輌吸収トルクすなわち車輌の走行抵抗を設定する設定吸収トルク信号ATを出力する第2信号発生器3、変速系統に含まれている摩擦式クラッチの操作量(クラッチ位置)を設定する設定クラッチ信号CSを出力する第3信号発生器4からの各出力信号に応答して動作する。
第1信号発生器2乃至第3信号発生器4は、夫夫、図示しない設定部材を備えており、これらの設定部材を操作することにより、この車輌シミュレーション装置1においてシミュレートするための、ラック位置、車輌吸収トルク及びクラッチ位置の各条件を相互に独して任意に設定することができる。
トルク計算部5は、設定ラック位置信号RS及び後述するデータ計算部6において計算された機関速度を示す速度信号NEに応答し、所要の計算式に従ってこのときの内燃機関の出力トルクがトルク計算部5において計算される。この計算結果を示す機関トルク信号ETは、設定吸収トルク信号AT及び設定クラッチ信号CSが入力されているデータ計算部6に与えられる。
データ計算部6は、第2図に示されるシミュレーション用車輌モデルにおける変速系統の作動パラメータを各入力信号に基づいて計算するためのものである。データ計算部6において上述の計算を行なわせるための計算式を確立するため、第2図に示される車輌モデルにおける力の伝達を表現するためのブロック線図が第3図に示すように用意されている。
第2図において、I1は内燃機関11の慣性モーメント、I2は変速機12の慣性モーメント、I3は車輌13の慣性モーメント、K1はクラッチの伝達係数、K2は変速機の伝達係数を夫々示している。
第3図に示されるブロック線図は、第2図の車輌モデルにおいて定められた各パラメータを用いて示されたそれと等価な系統図である。第3図では、伝達要素21乃至30、加合せ点31乃至35及び引出し点36乃至40から構成されている。なお、第2図に示されるような車輌モデルを第3図に示すブロック図として表現することはエンジニアリングアナリシスの教えるところであるから、その詳細な説明は省略する。
加合せ点31には機関トルク信号ETにより示されるトルク値が与えられ、加合せ点33には設定吸収トルク信号ATにより示されるトルク値が与えられる。設定クラッチ信号CSは、クラッチの伝達係数K1の値を定めるための信号として使用されており、設定クラッチ信号CSに応じて伝達要素23の特性が決定される。
データ計算部6では、第3図に示したブロック線図に基づいて、伝達要素22から得られる機関角速度のデータ、伝達要素26から得られるカウンタシャフトの回転角速度データ及び伝達要素30から得られる車輌角速度データが計算され、これらのデータE,M,を夫々示す出力信号として、速度信号NE、シャフト速度信号NC及び車輌信号VCがデータ計算部6より出力される。これらの信号のうち、速度信号NEは、機関出力トルクの計算のためにトルク計算部5に入力されている。
第1図に示した車輌用シミュレーション装置1によれば、第1乃至第3信号発生器2,3,4によって所要の条件を設定するだけで、その時の変速系の動作をシミュレーションしてその結果を直ちに得ることができる。
第4図には、第1図に示した装置を用いて自動変速車輌の制御仕様の決定を、人間の感にたよらず、迅速に行なうことができるようにした構成が示されている。第4図R>図において、第1図に示した車輌用シミュレーション装置1が単一のブロックで示されており、該車輌用シミュレーション装置1には、第2図に示した車輌用モデルに含まれる変速系統を電子的に制御して所要の変速操作を自動的に行なうための制御ユニット41が接続されている。
第4図の構成では、設定クラッチ信号CS及び設定ラック位置信号RSに代えて、クラッチの位置を示すクラッチ信号S1及びラック位置を示すラック位置信号S2が制御ユニット41から車輌用シミュレーション装置1に与えられており、車輌吸収トルクを示す信号は第1図の場合と同様にして第2信号発生器3から与えられる構成となっている。車輌用シミュレーション装置1からの出力信号NC,VC,NEは車輌の運転条件を示す信号として制御ユニット41に供給されており、制御ユニット41には、その外、アクセル操作量を示すアクセル信号AC及び変速機のギヤ位置を示すギヤ位置信号GPが与えられている。なお、ギヤ位置信号GPは車輌用シミュレーション装置1にも与えられており、このギヤ位置信号GPに応じて第2図に示す変速機の伝達係数が定められる。
第4図の構成によれば、クラッチ位置信号S1及びギヤ位置信号GPにより変速系の伝達係数K1,K2が変化し、これにより自動変速機の変速時のシミュレーションが可能であり、車速、機関速度、シャフト速度などがどのように変化するのかを机上で計測することができる。この結果、自動変速車輌の制御仕様の決定を人間の感にたよらず迅速に行なうことができ、そのための工数を著しく低減させることができる。
なお、上記実施例では、摩擦式クラッチと歯車式変速機とを含んで成る変速系についてのシミュレーションの場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば油圧式トルクコンバータを用いた変速系の場合においても、クラッチ位置の代りにエンジン速度をパラメータとして係数K1を変えることにより、同様にして本発明による車輌用シミュレーション装置を構成することができるものである。
(発明の効果)
本発明によれば、任意の条件下における車輌の変速系の動作を机上において簡単に計測することができるので、特に自動変速のための制御の仕様を従来に比べて少ない工数で決定することができ便利である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例を示すブロック図、第2図はシミュレーション用の車輌モデルを示す図、第3図は第2図2図の車輌モデルの変速系統のブロック線図、第4図は第1図に示した装置を用いて構成された、変速制御用ユニットのマッチングデータを得るための測定系を示すブロック図である。
1……車輌用シミュレーション装置、5……トルク計算部、6……データ計算部、11……内燃機関、12……変速機、13……車輌、RS……設定ラック位置信号、AT……設定吸収トルク信号、CS……設定クラッチ信号、NE……変速信号、NC……シャフト速度信号、VC……車速信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】内燃機関と車輪駆動軸との間に配設された変速系統の作動を電気的にシミュレーションするための車輌用シミュレーション装置において、前記内燃機関への燃料供給量を示す燃料信号とその時の機関速度を示す速度信号とに応答し上記内燃機関の出力トルク値を計算する第1手段と、該第1手段により得られた出力トルク値に応答し前記変速系統に含まれるクラッチの所要の操作量及び所要の車輌吸収トルクに応じた機関速度及び前記クラッチのカウンターシャフトの回転速度を計算する第2手段とを備えたことを特徴とする車輌用シミュレーション装置。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2753728号
【登録日】平成10年(1998)3月6日
【発行日】平成10年(1998)5月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−71803
【出願日】平成1年(1989)3月27日
【公開番号】特開平2−251731
【公開日】平成2年(1990)10月9日
【審査請求日】平成7年(1995)10月13日
【出願人】(999999999)株式会社ゼクセル