車輪用軸受および軸受装置
【課題】車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止する。
【解決手段】内周に複列の外側軌道面13,14が形成された外輪5と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面7,8を有し、ハブ輪1および内輪2と、外輪の外側軌道面とハブ輪および内輪の内側軌道面との間に介装された複列の転動体3,4とからなる車輪用軸受20を備え、ハブ輪の内径に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を嵌合することにより車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部37を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部39が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成する。
【解決手段】内周に複列の外側軌道面13,14が形成された外輪5と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面7,8を有し、ハブ輪1および内輪2と、外輪の外側軌道面とハブ輪および内輪の内側軌道面との間に介装された複列の転動体3,4とからなる車輪用軸受20を備え、ハブ輪の内径に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を嵌合することにより車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部37を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部39が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の懸架装置に対して駆動車輪(FF車の前輪、FR車の後輪、4WD車の全輪)を回転自在に支持する車輪用軸受および軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車輪用軸受装置として、例えば、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との分離を可能としてメンテナンス性に優れた車輪用軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された車輪用軸受装置は、図20に示すように、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と固定式等速自在継手106とで主要部が構成されている。
【0003】
ハブ輪101は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面107が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ109を備えている。この車輪取付フランジ109の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト110が植設されている。このハブ輪101のインボード側外周面に形成された小径段部112に内輪102を嵌合させ、この内輪102の外周面にインボード側の内側軌道面108が形成されている。
【0004】
内輪102は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪101の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面107と、内輪102の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面108とで複列の軌道面を構成する。この内輪102をハブ輪101の小径段部112に圧入し、その小径段部112の端部を外側に加締めることにより、加締め部111でもって内輪102を抜け止めしてハブ輪101と一体化し、車輪用軸受120に予圧を付与している。
【0005】
外輪105は、内周面にハブ輪101および内輪102の内側軌道面107,108と対向する複列の外側軌道面113,114が形成されている。この外輪105の外周面を車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルに嵌合させて固定することにより、車輪用軸受装置を車体に取り付けるようにしている。
【0006】
車輪用軸受120は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪101および内輪102の外周面に形成された内側軌道面107,108と外輪105の内周面に形成された外側軌道面113,114との間に転動体103,104を介在させ、各列の転動体103,104を保持器115,116により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0007】
車輪用軸受120の両端開口部には、ハブ輪101と内輪102の外周面に摺接するように、外輪105とハブ輪101および内輪102との環状空間を密封する一対のシール117,118が外輪105の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0008】
等速自在継手106は、ドライブシャフト121を構成する中間シャフト122の一端に設けられ、内周面にトラック溝123が形成された外側継手部材124と、その外側継手部材124のトラック溝123と対向するトラック溝125が外周面に形成された内側継手部材126と、外側継手部材124のトラック溝123と内側継手部材126のトラック溝125との間に組み込まれたボール127と、外側継手部材124の内周面と内側継手部材126の外周面との間に介在してボール127を保持するケージ128とで構成されている。
【0009】
外側継手部材124は、内側継手部材126、ボール127およびケージ128からなる内部部品を収容したマウス部129と、マウス部129から軸方向に一体的に延びるステム部130とで構成されている。内側継手部材126は、中間シャフト122の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。
【0010】
等速自在継手106の外側継手部材124と中間シャフト122との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ131を装着して、外側継手部材124の開口部をブーツ131で閉塞した構造としている。
【0011】
このブーツ131は、外側継手部材124の外周面にブーツバンド132により締め付け固定された大径端部133と、中間シャフト122の外周面にブーツバンド134により締め付け固定された小径端部135と、大径端部133と小径端部135とを繋ぎ、その大径端部133から小径端部135へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部136とで構成されている。
【0012】
図21は、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入する前の状態を示す。同図に示すように、外側継手部材124のステム部130は、その外周面に軸方向に延びる複数の凸部137からなる雄スプラインが形成されている。これに対して、ハブ輪101の軸孔138は、その内周面に雌スプラインが形成されていない単純な円筒部139をなす。
【0013】
図22は、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入した後の状態を示す。この外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入し、そのステム部130の凸部137をハブ輪101の軸孔138の内周面に転写することにより、同図に示すように、ハブ輪101の軸孔138の内周面に凸部137と締め代をもって密着する凹部140を形成し、この凸部137と凹部140との嵌合接触部位全域で密着する凹凸嵌合構造を構成することで、外側継手部材124とハブ輪101とをトルク伝達可能に結合させている。
【0014】
このようにして、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入した上で、図20に示すように、外側継手部材124のステム部130の軸端に形成された雌ねじ141にボルト142を螺合させることにより、そのボルト142をハブ輪101の端面に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手106をハブ輪101に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−97557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、前述した車輪用軸受装置において、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と結合される固定式等速自在継手106がドライブシャフト121の一部を構成している。自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフト121は、図23に示すように、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手151を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手106をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手106,151を中間シャフト122で連結した構造を具備する。
【0017】
ここで、従来の車輪用軸受装置では、図21に示すように、ハブ輪101の軸孔138の内周面は雌スプラインが形成されていない単純な円筒部139をなすことから、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入するに際して、そのステム部130の凸部137を軸孔138の内周面に転写するために大きな圧入荷重が必要であり、プレス機などを用いる必要があった。そのため、車輪用軸受120にドライブシャフト121の等速自在継手106を組み付けた状態で車輪用軸受装置を車体に組み付けなければならないというのが現状であった。
【0018】
その結果、自動車メーカでの車両組み立て時には、車輪用軸受120とドライブシャフト121の等速自在継手106とを結合させた状態、つまり、車輪用軸受120とドライブシャフト121の二つの等速自在継手106,151とが一体化した状態で取り扱われる。車体の懸架装置から延びるナックル152(図23参照)の最小内径寸法を等速自在継手106,151の最大外径寸法よりも大きくしていることから、この車体への組み付けは、図24に示すように、ドライブシャフト121の摺動式等速自在継手151と固定式等速自在継手106とを、車体の懸架装置から延びるナックル152に順次通した上で、車輪用軸受120の外輪105をナックル152に嵌合させて固定するようにしていた。
【0019】
このドライブシャフト121は車輪側とエンジン側とを繋ぐ長尺なアッセンブリ体であることから、前述したようにドライブシャフト121の摺動式等速自在継手151と固定式等速自在継手106とをナックル152に順次通す車体への組み付け方法では作業性が悪く、その組み付け時にドライブシャフト121を構成する部品を損傷させたりする可能性がある。
【0020】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止し得る車輪用軸受および軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明では、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に軸方向に延びる複数の凸部を形成すると共に他方に凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成しておく。ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成する。
【0023】
この際、凸部が塑性変形および切削加工を伴いながら、相手側の凹部形成面に凸部の形状を転写する。この時、凸部が相手側の凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部の軸方向の相対的移動が許容される。凸部の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着し、外側継手部材とハブ輪を強固に結合一体化することができる。
【0024】
ここで、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、従来のように凸部を単純な円筒部に転写する場合よりも、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着する際の圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となる。
【0025】
本発明では、ねじ締め付け構造により発生する軸力以下でハブ輪に対して外側継手部材を圧入可能とすることが望ましい。このようにすれば、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるねじ締め付け構造でもって等速自在継手を簡易に車輪用軸受に結合させることができる。
【0026】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、その雌ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雌ねじ部に雄ねじ部を螺合させることによりその雄ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【0027】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、その雄ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雄ねじ部に雌ねじ部を螺合させることによりその雌ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【0028】
本発明における凸部は外側継手部材のステム部に設けられ、凹部はハブ輪に設けられた構造が望ましい。このようにすれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を容易に構成することできる。
【0029】
本発明において、凸部に対して締め代を有する凹部は、凸部よりも小さく設定されていることが望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に容易に圧入することができ、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を確実に構成することができる。
【0030】
本発明では、凸部の表面硬度を凹部の表面硬度よりも大きくすることが望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入するに際して、塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部の形状を容易に転写することができる。
【0031】
本発明における凹凸嵌合構造は、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部を収容する収容部を有する構造が望ましい。このようにすれば、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部を収容部に保持することができ、その食み出し部が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。
【0032】
本発明における凹凸嵌合構造は、圧入の開始をガイドするガイド部を有する構造が望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入するに際して、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0033】
また、本発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受であって、ハブ輪の内周面のアウトボード側に凹部を設け、その凹部のインボード側にガイド部を有し、そのガイド部は凹部よりも大きい凹部からなることを特徴とする。
【0034】
本発明では、このガイド部により、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入するに際して、ステム部の凸部がハブ輪の凹部に確実に圧入するように誘導することができるので、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0035】
本発明では、ガイド部のインボード側に円筒形状の嵌合面を形成した構造が望ましい。このようにすれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入するに先立って、ハブ輪の嵌合面にステム部を嵌合させることで、ハブ輪に対するステム部の軸芯合わせを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することで凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことにより、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着する際の圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となり、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置(第三世代)の実施形態で、加締め構造の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける前の状態を示す縦断面図である。
【図2】図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す縦断面図である。
【図3】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図4】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付ける途中の状態を示す断面図である。
【図5】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図6】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する前の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のA−A線に沿う断面図である。
【図7】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図8】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入した後の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。
【図9】本発明に係る車輪用軸受装置の他の実施形態で、ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図10】本発明に係る車輪用軸受装置(第三世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された非加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図11】図10の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図12】本発明に係る車輪用軸受装置(第一世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図13】図12の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図14】本発明に係る車輪用軸受装置(第一世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された非加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図15】図14の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図16】本発明に係る車輪用軸受装置(第二世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図17】図16の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図18】本発明に係る車輪用軸受装置(第二世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された非加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図19】図18の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図20】従来の車輪用軸受装置の全体構成を示す縦断面図である。
【図21】図20の車輪用軸受装置において、外側継手部材のステム部をハブ輪の軸孔に圧入する前の状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図22】図20の車輪用軸受装置において、外側継手部材のステム部をハブ輪の軸孔に圧入した後の状態を示す要部拡大横断面図である。
【図23】ドライブシャフトが組み付けられた車輪用軸受装置をナックルに装着する前の状態を示す断面図である。
【図24】ドライブシャフトが組み付けられた車輪用軸受装置をナックルに装着した後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態を以下に詳述する。図1および図2に示す車輪用軸受装置は、内方部材であるハブ輪1および内輪2、複列の転動体3,4、外輪5からなる車輪用軸受20と等速自在継手6とで主要部が構成されている。図1は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図2は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。なお、以下の説明では、車体に組み付けた状態で、車体の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りとなる側をインボード側(図面右側)と呼ぶ。
【0039】
ハブ輪1は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面7が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ9を備えている。この車輪取付フランジ9の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト10が植設されている。このハブ輪1のインボード側外周面に形成された小径段部12に内輪2を嵌合させ、この内輪2の外周面にインボード側の内側軌道面8が形成されている。
【0040】
内輪2は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪1の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面7と、内輪2の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面8とで複列の軌道面を構成する。この内輪2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、その小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与している。
【0041】
外輪5は、内周面にハブ輪1および内輪2の内側軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14が形成され、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックルに取り付けるための車体取付フランジ19を備えている。後述するように、この車体取付フランジ19は、前述のナックル52に嵌合されてボルト63により固定される(図3参照)。
【0042】
車輪用軸受20は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪1および内輪2の外周面に形成された内側軌道面7,8と外輪5の内周面に形成された外側軌道面13,14との間に転動体3,4を介在させ、各列の転動体3,4を保持器15,16により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0043】
車輪用軸受20の両端開口部には、ハブ輪1と内輪2の外周面に摺接するように、外輪5とハブ輪1および内輪2との環状空間を密封する一対のシール17,18が外輪5の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0044】
等速自在継手6は、ドライブシャフト21を構成する中間シャフト22の一端に設けられ、内周面にトラック溝23が形成された外側継手部材24と、その外側継手部材24のトラック溝23と対向するトラック溝25が外周面に形成された内側継手部材26と、外側継手部材24のトラック溝23と内側継手部材26のトラック溝25との間に組み込まれたボール27と、外側継手部材24の内周面と内側継手部材26の外周面との間に介在してボール27を保持するケージ28とで構成されている。
【0045】
外側継手部材24は、内側継手部材26、ボール27およびケージ28からなる内部部品を収容したマウス部29と、マウス部29から軸方向に一体的に延びるステム部30とで構成されている。内側継手部材26は、中間シャフト22の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。
【0046】
等速自在継手6の外側継手部材24と中間シャフト22との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ31を装着して、外側継手部材24の開口部をブーツ31で閉塞した構造としている。
【0047】
このブーツ31は、外側継手部材24の外周面にブーツバンド32により締め付け固定された大径端部33と、中間シャフト22の外周面にブーツバンド34により締め付け固定された小径端部35と、大径端部33と小径端部35とを繋ぎ、その大径端部33から小径端部35へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部36とで構成されている。
【0048】
この車輪用軸受装置は、外側継手部材24のステム部30のインボード側外周面に円柱形状の嵌合面61を形成すると共に、ステム部30のアウトボード側外周面に軸方向に延びる複数の凸部37からなる雄スプラインを形成する。これに対して、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒形状の嵌合面62を形成すると共に、その軸孔38のアウトボード側内周面に前述の凸部37に対して締め代を有する複数の凹部39を形成する(図1参照)。
【0049】
この車輪用軸受装置では、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入し、相手側の凹部形成面であるハブ輪1の軸孔38に凸部37の形状を転写することにより凹部40を形成し、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xが密着する凹凸嵌合構造Mを構成する(図2参照)。
【0050】
この車輪用軸受装置は、以下のようなねじ締め付け構造N(図2参照)を具備する。このねじ締め付け構造Nは、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雌ねじ部41と、その雌ねじ部41に螺合した状態でハブ輪1に係止される雄ねじ部であるボルト42とで構成されている。この構造では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定する。なお、車輪用軸受20は、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化した構造となっていることから、等速自在継手6の外側継手部材24と分離可能となっている。
【0051】
この車輪用軸受装置において、ハブ輪1、内輪2、複列の転動体3,4および外輪5からなる車輪用軸受20と結合される固定式等速自在継手6はドライブシャフト21の一部を構成している。自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフト21は、図3に示すように、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手51を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手6をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手6,51を中間シャフト22で連結した構造を具備する。
【0052】
この車輪用軸受装置の場合、凸部37に対して締め代を有する凹部39を予め形成していることから、従来のように凸部137を円筒部139に転写する場合(図21参照)よりも、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着する際の圧入荷重を下げることができる。その結果、自動車メーカでの車両組み立て時、車輪用軸受20を車体の懸架装置から延びるナックル52にボルト63で固定した後、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、車輪用軸受20のハブ輪1の軸孔38に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を圧入することができ、車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を簡易に組み付けることが可能となる。
【0053】
なお、図4に示すように、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに先立って、ステム部30のインボード側外周面に円柱形状の嵌合面61を形成すると共に、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒形状の嵌合面62を形成していることから、ハブ輪1の軸孔38の嵌合面62にステム部30の嵌合面61を嵌合させることで、ハブ輪1に対するステム部30の軸芯合わせを容易に行うことができる。
【0054】
また、図6(A)(B)に示すように、ハブ輪1のインボード側に位置する嵌合面62とアウトボード側に位置する凹部39との間に、圧入の開始をガイドするガイド部64を設けている。このガイド部64はステム部30の凸部37よりも大きめの凹部65が形成されている(図1の拡大部分参照)。つまり、凸部37と凹部65との間に隙間mが形成されている〔図6(B)参照〕。このガイド部64により、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1に圧入するに際して、ステム部30の凸部37がハブ輪1の凹部39に確実に圧入するように誘導することができるので、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0055】
ここで、図7(A)(B)に示すように、前述の凹部39が凸部37に対して締め代n〔図7(B)参照〕を有するように、その凹部39を凸部37よりも小さく設定している。このように、凹部39を凸部37よりも小さく設定するには、凹部39の径方向寸法と周方向寸法を凸部37よりも小さくすればよい〔図7(B)参照〕。
【0056】
図8(A)(B)に示すように、ステム部30のハブ輪1への圧入時、ハブ輪1の軸孔38に凸部37の形状を転写することにより凹部40を形成した場合、凸部37に対して締め代nを有する凹部39、つまり、凸部37よりも小さく設定された凹部39を予め形成していることから、従来のように凸部137を円筒部139に転写する場合(図21参照)よりも、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域X(図2参照)で密着する際の圧入荷重を下げることができる。
【0057】
その結果、図5に示すように、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪1に対して外側継手部材24を圧入可能とすることができる。つまり、車輪用軸受20を車体のナックル52に取り付けた後にボルト42の引き込み力でもって車輪用軸受20のハブ輪1に外側継手部材24を圧入して等速自在継手6を車輪用軸受20に結合させることが容易となり、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【0058】
このように、車輪用軸受20を車体のナックル52に取り付けた後にその車輪用軸受20のハブ輪1に外側継手部材24を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるボルト42でもって等速自在継手6を簡易に車輪用軸受20に結合させることができる。また、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下という比較的小さな引き込み力の付与で圧入することができるので、ボルト42による引き込み作業性の向上が図れる。さらに、大きな圧入荷重を付与しないので済むことから、凹凸嵌合構造Mでの凹凸が損傷する(むしれる)ことを防止でき、高品質で長寿命の凹凸嵌合構造Mを実現できる。
【0059】
この外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37による凹部形成面の塑性変形および切削加工を伴いながら、その凹部形成面に凸部37の形状を転写することになる。この時、凸部37が凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪1の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部37の軸方向の相対的移動が許容される。この凸部37の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪1の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着し、外側継手部材24とハブ輪1を強固に結合一体化することができる。
【0060】
このような低コストで信頼性の高い結合により、ステム部30とハブ輪1の嵌合部分の径方向および周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合接触部位全域Xが回転トルク伝達に寄与して安定したトルク伝達が可能であり、耳障りな歯打ち音を長期に亘り防止できる。このように嵌合接触部位全域Xで密着していることから、トルク伝達部位の強度が向上するため、車両用軸受装置の軽量コンパクト化が図れる。
【0061】
外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37の表面硬度を凹部39の表面硬度よりも大きくする。その場合、凸部37の表面硬度と凹部39の表面硬度との差をHRCで20以上とする。これにより、圧入時における塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部37の形状を容易に転写することができる。
【0062】
ハブ輪1の軸孔38と外側継手部材24のステム部30との間に、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容する収容部67を設けている〔図7(A)および図8(A)参照〕。これにより、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容部67に保持することができ、その食み出し部66が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。その食み出し部66を収容部67に保持することで、食み出し部66の除去処理が不要となり、作業工数の削減を図ることができ、作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0063】
なお、図5に示す実施形態では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1の端面に係止させた状態で締め付ける構造を例示したが、他のねじ締め付け構造として、図9に示すように、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雄ねじ部68と、その雄ねじ部68に螺合した状態でハブ輪1の端面に係止される雌ねじ部であるナット69とで構成することも可能である。この構造では、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させることによりそのナット69をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定することになる。なお、図9の実施形態における他の構成部分については、図5の実施形態の場合と同様であるため、図5と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0064】
図1および図2に示す実施形態では、ハブ輪1の小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与する加締め構造を例示したが、図10および図11に示すような非加締め構造であってもよい。図10はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図11は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態では、内輪2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、内輪2の端面を外側継手部材24の肩部81の端面に当接させた構造としている。この構造を採用することにより、加締め部11(図1および図2参照)がないことから軽量化が図れ、また、揺動加締めによる加工が不要となることから低コスト化が図れる。
【0065】
この非加締め構造では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることにより、ボルト42の締め付けにより発生する軸力でもって車輪用軸受20に予圧を付与することになる。このことから、軸力安定剤で表面処理したボルト42を使用することが、ボルト42の締め付けトルクに対する軸力のばらつきを小さくすることができる点で有効である。この軸力安定化処理したボルト42は、図1および図2に示す実施形態においても使用可能である。また、この非加締め構造においても、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0066】
なお、図10および図11の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0067】
また、以上の実施形態では、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材に形成された複列の内側軌道面7,8の一方、つまり、アウトボード側の内側軌道面7をハブ輪1の外周に形成した(第三世代と称される)タイプの車輪用軸受装置に適用した場合を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、ハブ輪の外周に一対の内輪を圧入し、アウトボード側の軌道面7を一方の内輪の外周に形成すると共にインボード側の軌道面8を他方の内輪の外周に形成した(第一、第二世代と称される)タイプの車輪用軸受装置にも適用可能である。
【0068】
図12および図13は第一世代の車輪用軸受装置を例示し、図12はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図13は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態における車輪用軸受20は、ハブ輪1の外周に一対の内輪82,2を圧入し、アウトボード側の内側軌道面7を一方の内輪82の外周に形成すると共にインボード側の内側軌道面8を他方の内輪2の外周に形成すると共に、内輪82,2の内側軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14を外輪5の内周に形成した構造を具備する。この車輪用軸受20は、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックル52に外輪5を圧入して止め輪83により固定される。
【0069】
この実施形態では、ハブ輪1の小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪82,2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与する加締め構造を具備する。この加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0070】
なお、図12および図13の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0071】
また、図12および図13に示す実施形態では加締め構造を例示したが、図14および図15に示す非加締め構造であってもよい。図14はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図15は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態の非加締め構造では、一対の内輪82,2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、内輪2の端面を外側継手部材24の肩部81の端面に当接させた構造としている。この構造を採用することにより、加締め部11(図1および図2参照)がないことから軽量化が図れ、また、揺動加締めによる加工が不要となることから低コスト化が図れる。
【0072】
このような非加締め構造の場合、ボルト42の締め付けにより発生する軸力でもって車輪用軸受20に予圧を付与することから、軸力安定化処理したボルト42を使用することにより、ボルト42の締め付けトルクに対する軸力のばらつきを小さくすることができる。この非加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0073】
なお、図14および図15の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態の場合と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0074】
図16および図17は第二世代の車輪用軸受装置を例示し、図16はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図17は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態における車輪用軸受20は、ハブ輪1の外周に一対の内輪82,2を圧入し、アウトボード側の内側軌道面7を一方の内輪82の外周に形成すると共にインボード側の内側軌道面8を他方の内輪2の外周に形成すると共に、内輪82,2の内側軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14を外輪5の内周に形成した構造を具備する。この車輪用軸受20は、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックル52に外輪5の車体取付フランジ19をボルト63により固定している。
【0075】
この実施形態では、ハブ輪1の小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪82,2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与する加締め構造を具備する。この加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0076】
なお、図16および図17の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態の場合と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0077】
また、図16および図17に示す実施形態では加締め構造を例示したが、図18および図19に示す非加締め構造であってもよい。図18はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図19は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態の非加締め構造では、一対の内輪82,2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、その内輪2の端面を外側継手部材24の肩部81の端面に当接させた構造としている。この構造を採用することにより、加締め部11(図1および図2参照)がないことから軽量化が図れ、また、揺動加締めによる加工が不要となることから低コスト化が図れる。
【0078】
このような非加締め構造の場合、ボルト42の締め付けにより発生する軸力でもって車輪用軸受20に予圧を付与することから、軸力安定化処理したボルト42を使用することにより、ボルト42の締め付けトルクに対する軸力のばらつきを小さくすることができる。この非加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0079】
なお、図18および図19の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態の場合と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0080】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0081】
1 内方部材(ハブ輪)
2,82 内方部材(内輪)
3,4 転動体
5 外方部材(外輪)
6 等速自在継手
7,8 内側軌道面
13,14 外側軌道面
20 車輪用軸受
24 外側継手部材
30 ステム部
37 凸部(雄スプライン)
39,40,65 凹部
41 雌ねじ部
42 雄ねじ部(ボルト)
64 ガイド部
66 食み出し部
67 収容部
68 雄ねじ部
69 雌ねじ部(ナット)
n 締め代
M 凹凸嵌合構造
N ねじ締め付け構造
X 嵌合接触部位全域
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の懸架装置に対して駆動車輪(FF車の前輪、FR車の後輪、4WD車の全輪)を回転自在に支持する車輪用軸受および軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車輪用軸受装置として、例えば、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との分離を可能としてメンテナンス性に優れた車輪用軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された車輪用軸受装置は、図20に示すように、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と固定式等速自在継手106とで主要部が構成されている。
【0003】
ハブ輪101は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面107が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ109を備えている。この車輪取付フランジ109の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト110が植設されている。このハブ輪101のインボード側外周面に形成された小径段部112に内輪102を嵌合させ、この内輪102の外周面にインボード側の内側軌道面108が形成されている。
【0004】
内輪102は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪101の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面107と、内輪102の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面108とで複列の軌道面を構成する。この内輪102をハブ輪101の小径段部112に圧入し、その小径段部112の端部を外側に加締めることにより、加締め部111でもって内輪102を抜け止めしてハブ輪101と一体化し、車輪用軸受120に予圧を付与している。
【0005】
外輪105は、内周面にハブ輪101および内輪102の内側軌道面107,108と対向する複列の外側軌道面113,114が形成されている。この外輪105の外周面を車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルに嵌合させて固定することにより、車輪用軸受装置を車体に取り付けるようにしている。
【0006】
車輪用軸受120は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪101および内輪102の外周面に形成された内側軌道面107,108と外輪105の内周面に形成された外側軌道面113,114との間に転動体103,104を介在させ、各列の転動体103,104を保持器115,116により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0007】
車輪用軸受120の両端開口部には、ハブ輪101と内輪102の外周面に摺接するように、外輪105とハブ輪101および内輪102との環状空間を密封する一対のシール117,118が外輪105の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0008】
等速自在継手106は、ドライブシャフト121を構成する中間シャフト122の一端に設けられ、内周面にトラック溝123が形成された外側継手部材124と、その外側継手部材124のトラック溝123と対向するトラック溝125が外周面に形成された内側継手部材126と、外側継手部材124のトラック溝123と内側継手部材126のトラック溝125との間に組み込まれたボール127と、外側継手部材124の内周面と内側継手部材126の外周面との間に介在してボール127を保持するケージ128とで構成されている。
【0009】
外側継手部材124は、内側継手部材126、ボール127およびケージ128からなる内部部品を収容したマウス部129と、マウス部129から軸方向に一体的に延びるステム部130とで構成されている。内側継手部材126は、中間シャフト122の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。
【0010】
等速自在継手106の外側継手部材124と中間シャフト122との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ131を装着して、外側継手部材124の開口部をブーツ131で閉塞した構造としている。
【0011】
このブーツ131は、外側継手部材124の外周面にブーツバンド132により締め付け固定された大径端部133と、中間シャフト122の外周面にブーツバンド134により締め付け固定された小径端部135と、大径端部133と小径端部135とを繋ぎ、その大径端部133から小径端部135へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部136とで構成されている。
【0012】
図21は、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入する前の状態を示す。同図に示すように、外側継手部材124のステム部130は、その外周面に軸方向に延びる複数の凸部137からなる雄スプラインが形成されている。これに対して、ハブ輪101の軸孔138は、その内周面に雌スプラインが形成されていない単純な円筒部139をなす。
【0013】
図22は、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入した後の状態を示す。この外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入し、そのステム部130の凸部137をハブ輪101の軸孔138の内周面に転写することにより、同図に示すように、ハブ輪101の軸孔138の内周面に凸部137と締め代をもって密着する凹部140を形成し、この凸部137と凹部140との嵌合接触部位全域で密着する凹凸嵌合構造を構成することで、外側継手部材124とハブ輪101とをトルク伝達可能に結合させている。
【0014】
このようにして、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入した上で、図20に示すように、外側継手部材124のステム部130の軸端に形成された雌ねじ141にボルト142を螺合させることにより、そのボルト142をハブ輪101の端面に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手106をハブ輪101に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−97557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、前述した車輪用軸受装置において、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と結合される固定式等速自在継手106がドライブシャフト121の一部を構成している。自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフト121は、図23に示すように、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手151を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手106をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手106,151を中間シャフト122で連結した構造を具備する。
【0017】
ここで、従来の車輪用軸受装置では、図21に示すように、ハブ輪101の軸孔138の内周面は雌スプラインが形成されていない単純な円筒部139をなすことから、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入するに際して、そのステム部130の凸部137を軸孔138の内周面に転写するために大きな圧入荷重が必要であり、プレス機などを用いる必要があった。そのため、車輪用軸受120にドライブシャフト121の等速自在継手106を組み付けた状態で車輪用軸受装置を車体に組み付けなければならないというのが現状であった。
【0018】
その結果、自動車メーカでの車両組み立て時には、車輪用軸受120とドライブシャフト121の等速自在継手106とを結合させた状態、つまり、車輪用軸受120とドライブシャフト121の二つの等速自在継手106,151とが一体化した状態で取り扱われる。車体の懸架装置から延びるナックル152(図23参照)の最小内径寸法を等速自在継手106,151の最大外径寸法よりも大きくしていることから、この車体への組み付けは、図24に示すように、ドライブシャフト121の摺動式等速自在継手151と固定式等速自在継手106とを、車体の懸架装置から延びるナックル152に順次通した上で、車輪用軸受120の外輪105をナックル152に嵌合させて固定するようにしていた。
【0019】
このドライブシャフト121は車輪側とエンジン側とを繋ぐ長尺なアッセンブリ体であることから、前述したようにドライブシャフト121の摺動式等速自在継手151と固定式等速自在継手106とをナックル152に順次通す車体への組み付け方法では作業性が悪く、その組み付け時にドライブシャフト121を構成する部品を損傷させたりする可能性がある。
【0020】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止し得る車輪用軸受および軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明では、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に軸方向に延びる複数の凸部を形成すると共に他方に凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成しておく。ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成する。
【0023】
この際、凸部が塑性変形および切削加工を伴いながら、相手側の凹部形成面に凸部の形状を転写する。この時、凸部が相手側の凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部の軸方向の相対的移動が許容される。凸部の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着し、外側継手部材とハブ輪を強固に結合一体化することができる。
【0024】
ここで、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、従来のように凸部を単純な円筒部に転写する場合よりも、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着する際の圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となる。
【0025】
本発明では、ねじ締め付け構造により発生する軸力以下でハブ輪に対して外側継手部材を圧入可能とすることが望ましい。このようにすれば、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるねじ締め付け構造でもって等速自在継手を簡易に車輪用軸受に結合させることができる。
【0026】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、その雌ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雌ねじ部に雄ねじ部を螺合させることによりその雄ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【0027】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、その雄ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雄ねじ部に雌ねじ部を螺合させることによりその雌ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【0028】
本発明における凸部は外側継手部材のステム部に設けられ、凹部はハブ輪に設けられた構造が望ましい。このようにすれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を容易に構成することできる。
【0029】
本発明において、凸部に対して締め代を有する凹部は、凸部よりも小さく設定されていることが望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に容易に圧入することができ、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を確実に構成することができる。
【0030】
本発明では、凸部の表面硬度を凹部の表面硬度よりも大きくすることが望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入するに際して、塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部の形状を容易に転写することができる。
【0031】
本発明における凹凸嵌合構造は、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部を収容する収容部を有する構造が望ましい。このようにすれば、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部を収容部に保持することができ、その食み出し部が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。
【0032】
本発明における凹凸嵌合構造は、圧入の開始をガイドするガイド部を有する構造が望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入するに際して、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0033】
また、本発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受であって、ハブ輪の内周面のアウトボード側に凹部を設け、その凹部のインボード側にガイド部を有し、そのガイド部は凹部よりも大きい凹部からなることを特徴とする。
【0034】
本発明では、このガイド部により、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入するに際して、ステム部の凸部がハブ輪の凹部に確実に圧入するように誘導することができるので、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0035】
本発明では、ガイド部のインボード側に円筒形状の嵌合面を形成した構造が望ましい。このようにすれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入するに先立って、ハブ輪の嵌合面にステム部を嵌合させることで、ハブ輪に対するステム部の軸芯合わせを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することで凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことにより、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着する際の圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となり、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置(第三世代)の実施形態で、加締め構造の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける前の状態を示す縦断面図である。
【図2】図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す縦断面図である。
【図3】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図4】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付ける途中の状態を示す断面図である。
【図5】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図6】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する前の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のA−A線に沿う断面図である。
【図7】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図8】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入した後の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。
【図9】本発明に係る車輪用軸受装置の他の実施形態で、ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図10】本発明に係る車輪用軸受装置(第三世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された非加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図11】図10の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図12】本発明に係る車輪用軸受装置(第一世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図13】図12の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図14】本発明に係る車輪用軸受装置(第一世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された非加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図15】図14の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図16】本発明に係る車輪用軸受装置(第二世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図17】図16の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図18】本発明に係る車輪用軸受装置(第二世代)の他の実施形態で、ナックルに装着された非加締め構造の車輪用軸受に、等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【図19】図18の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【図20】従来の車輪用軸受装置の全体構成を示す縦断面図である。
【図21】図20の車輪用軸受装置において、外側継手部材のステム部をハブ輪の軸孔に圧入する前の状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図22】図20の車輪用軸受装置において、外側継手部材のステム部をハブ輪の軸孔に圧入した後の状態を示す要部拡大横断面図である。
【図23】ドライブシャフトが組み付けられた車輪用軸受装置をナックルに装着する前の状態を示す断面図である。
【図24】ドライブシャフトが組み付けられた車輪用軸受装置をナックルに装着した後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態を以下に詳述する。図1および図2に示す車輪用軸受装置は、内方部材であるハブ輪1および内輪2、複列の転動体3,4、外輪5からなる車輪用軸受20と等速自在継手6とで主要部が構成されている。図1は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図2は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。なお、以下の説明では、車体に組み付けた状態で、車体の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りとなる側をインボード側(図面右側)と呼ぶ。
【0039】
ハブ輪1は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面7が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ9を備えている。この車輪取付フランジ9の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト10が植設されている。このハブ輪1のインボード側外周面に形成された小径段部12に内輪2を嵌合させ、この内輪2の外周面にインボード側の内側軌道面8が形成されている。
【0040】
内輪2は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪1の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面7と、内輪2の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面8とで複列の軌道面を構成する。この内輪2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、その小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与している。
【0041】
外輪5は、内周面にハブ輪1および内輪2の内側軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14が形成され、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックルに取り付けるための車体取付フランジ19を備えている。後述するように、この車体取付フランジ19は、前述のナックル52に嵌合されてボルト63により固定される(図3参照)。
【0042】
車輪用軸受20は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪1および内輪2の外周面に形成された内側軌道面7,8と外輪5の内周面に形成された外側軌道面13,14との間に転動体3,4を介在させ、各列の転動体3,4を保持器15,16により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0043】
車輪用軸受20の両端開口部には、ハブ輪1と内輪2の外周面に摺接するように、外輪5とハブ輪1および内輪2との環状空間を密封する一対のシール17,18が外輪5の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0044】
等速自在継手6は、ドライブシャフト21を構成する中間シャフト22の一端に設けられ、内周面にトラック溝23が形成された外側継手部材24と、その外側継手部材24のトラック溝23と対向するトラック溝25が外周面に形成された内側継手部材26と、外側継手部材24のトラック溝23と内側継手部材26のトラック溝25との間に組み込まれたボール27と、外側継手部材24の内周面と内側継手部材26の外周面との間に介在してボール27を保持するケージ28とで構成されている。
【0045】
外側継手部材24は、内側継手部材26、ボール27およびケージ28からなる内部部品を収容したマウス部29と、マウス部29から軸方向に一体的に延びるステム部30とで構成されている。内側継手部材26は、中間シャフト22の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。
【0046】
等速自在継手6の外側継手部材24と中間シャフト22との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ31を装着して、外側継手部材24の開口部をブーツ31で閉塞した構造としている。
【0047】
このブーツ31は、外側継手部材24の外周面にブーツバンド32により締め付け固定された大径端部33と、中間シャフト22の外周面にブーツバンド34により締め付け固定された小径端部35と、大径端部33と小径端部35とを繋ぎ、その大径端部33から小径端部35へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部36とで構成されている。
【0048】
この車輪用軸受装置は、外側継手部材24のステム部30のインボード側外周面に円柱形状の嵌合面61を形成すると共に、ステム部30のアウトボード側外周面に軸方向に延びる複数の凸部37からなる雄スプラインを形成する。これに対して、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒形状の嵌合面62を形成すると共に、その軸孔38のアウトボード側内周面に前述の凸部37に対して締め代を有する複数の凹部39を形成する(図1参照)。
【0049】
この車輪用軸受装置では、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入し、相手側の凹部形成面であるハブ輪1の軸孔38に凸部37の形状を転写することにより凹部40を形成し、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xが密着する凹凸嵌合構造Mを構成する(図2参照)。
【0050】
この車輪用軸受装置は、以下のようなねじ締め付け構造N(図2参照)を具備する。このねじ締め付け構造Nは、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雌ねじ部41と、その雌ねじ部41に螺合した状態でハブ輪1に係止される雄ねじ部であるボルト42とで構成されている。この構造では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定する。なお、車輪用軸受20は、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化した構造となっていることから、等速自在継手6の外側継手部材24と分離可能となっている。
【0051】
この車輪用軸受装置において、ハブ輪1、内輪2、複列の転動体3,4および外輪5からなる車輪用軸受20と結合される固定式等速自在継手6はドライブシャフト21の一部を構成している。自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフト21は、図3に示すように、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手51を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手6をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手6,51を中間シャフト22で連結した構造を具備する。
【0052】
この車輪用軸受装置の場合、凸部37に対して締め代を有する凹部39を予め形成していることから、従来のように凸部137を円筒部139に転写する場合(図21参照)よりも、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着する際の圧入荷重を下げることができる。その結果、自動車メーカでの車両組み立て時、車輪用軸受20を車体の懸架装置から延びるナックル52にボルト63で固定した後、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、車輪用軸受20のハブ輪1の軸孔38に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を圧入することができ、車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を簡易に組み付けることが可能となる。
【0053】
なお、図4に示すように、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに先立って、ステム部30のインボード側外周面に円柱形状の嵌合面61を形成すると共に、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒形状の嵌合面62を形成していることから、ハブ輪1の軸孔38の嵌合面62にステム部30の嵌合面61を嵌合させることで、ハブ輪1に対するステム部30の軸芯合わせを容易に行うことができる。
【0054】
また、図6(A)(B)に示すように、ハブ輪1のインボード側に位置する嵌合面62とアウトボード側に位置する凹部39との間に、圧入の開始をガイドするガイド部64を設けている。このガイド部64はステム部30の凸部37よりも大きめの凹部65が形成されている(図1の拡大部分参照)。つまり、凸部37と凹部65との間に隙間mが形成されている〔図6(B)参照〕。このガイド部64により、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1に圧入するに際して、ステム部30の凸部37がハブ輪1の凹部39に確実に圧入するように誘導することができるので、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0055】
ここで、図7(A)(B)に示すように、前述の凹部39が凸部37に対して締め代n〔図7(B)参照〕を有するように、その凹部39を凸部37よりも小さく設定している。このように、凹部39を凸部37よりも小さく設定するには、凹部39の径方向寸法と周方向寸法を凸部37よりも小さくすればよい〔図7(B)参照〕。
【0056】
図8(A)(B)に示すように、ステム部30のハブ輪1への圧入時、ハブ輪1の軸孔38に凸部37の形状を転写することにより凹部40を形成した場合、凸部37に対して締め代nを有する凹部39、つまり、凸部37よりも小さく設定された凹部39を予め形成していることから、従来のように凸部137を円筒部139に転写する場合(図21参照)よりも、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域X(図2参照)で密着する際の圧入荷重を下げることができる。
【0057】
その結果、図5に示すように、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪1に対して外側継手部材24を圧入可能とすることができる。つまり、車輪用軸受20を車体のナックル52に取り付けた後にボルト42の引き込み力でもって車輪用軸受20のハブ輪1に外側継手部材24を圧入して等速自在継手6を車輪用軸受20に結合させることが容易となり、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【0058】
このように、車輪用軸受20を車体のナックル52に取り付けた後にその車輪用軸受20のハブ輪1に外側継手部材24を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるボルト42でもって等速自在継手6を簡易に車輪用軸受20に結合させることができる。また、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下という比較的小さな引き込み力の付与で圧入することができるので、ボルト42による引き込み作業性の向上が図れる。さらに、大きな圧入荷重を付与しないので済むことから、凹凸嵌合構造Mでの凹凸が損傷する(むしれる)ことを防止でき、高品質で長寿命の凹凸嵌合構造Mを実現できる。
【0059】
この外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37による凹部形成面の塑性変形および切削加工を伴いながら、その凹部形成面に凸部37の形状を転写することになる。この時、凸部37が凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪1の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部37の軸方向の相対的移動が許容される。この凸部37の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪1の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着し、外側継手部材24とハブ輪1を強固に結合一体化することができる。
【0060】
このような低コストで信頼性の高い結合により、ステム部30とハブ輪1の嵌合部分の径方向および周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合接触部位全域Xが回転トルク伝達に寄与して安定したトルク伝達が可能であり、耳障りな歯打ち音を長期に亘り防止できる。このように嵌合接触部位全域Xで密着していることから、トルク伝達部位の強度が向上するため、車両用軸受装置の軽量コンパクト化が図れる。
【0061】
外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37の表面硬度を凹部39の表面硬度よりも大きくする。その場合、凸部37の表面硬度と凹部39の表面硬度との差をHRCで20以上とする。これにより、圧入時における塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部37の形状を容易に転写することができる。
【0062】
ハブ輪1の軸孔38と外側継手部材24のステム部30との間に、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容する収容部67を設けている〔図7(A)および図8(A)参照〕。これにより、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容部67に保持することができ、その食み出し部66が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。その食み出し部66を収容部67に保持することで、食み出し部66の除去処理が不要となり、作業工数の削減を図ることができ、作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0063】
なお、図5に示す実施形態では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1の端面に係止させた状態で締め付ける構造を例示したが、他のねじ締め付け構造として、図9に示すように、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雄ねじ部68と、その雄ねじ部68に螺合した状態でハブ輪1の端面に係止される雌ねじ部であるナット69とで構成することも可能である。この構造では、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させることによりそのナット69をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定することになる。なお、図9の実施形態における他の構成部分については、図5の実施形態の場合と同様であるため、図5と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0064】
図1および図2に示す実施形態では、ハブ輪1の小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与する加締め構造を例示したが、図10および図11に示すような非加締め構造であってもよい。図10はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図11は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態では、内輪2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、内輪2の端面を外側継手部材24の肩部81の端面に当接させた構造としている。この構造を採用することにより、加締め部11(図1および図2参照)がないことから軽量化が図れ、また、揺動加締めによる加工が不要となることから低コスト化が図れる。
【0065】
この非加締め構造では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることにより、ボルト42の締め付けにより発生する軸力でもって車輪用軸受20に予圧を付与することになる。このことから、軸力安定剤で表面処理したボルト42を使用することが、ボルト42の締め付けトルクに対する軸力のばらつきを小さくすることができる点で有効である。この軸力安定化処理したボルト42は、図1および図2に示す実施形態においても使用可能である。また、この非加締め構造においても、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0066】
なお、図10および図11の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0067】
また、以上の実施形態では、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材に形成された複列の内側軌道面7,8の一方、つまり、アウトボード側の内側軌道面7をハブ輪1の外周に形成した(第三世代と称される)タイプの車輪用軸受装置に適用した場合を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、ハブ輪の外周に一対の内輪を圧入し、アウトボード側の軌道面7を一方の内輪の外周に形成すると共にインボード側の軌道面8を他方の内輪の外周に形成した(第一、第二世代と称される)タイプの車輪用軸受装置にも適用可能である。
【0068】
図12および図13は第一世代の車輪用軸受装置を例示し、図12はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図13は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態における車輪用軸受20は、ハブ輪1の外周に一対の内輪82,2を圧入し、アウトボード側の内側軌道面7を一方の内輪82の外周に形成すると共にインボード側の内側軌道面8を他方の内輪2の外周に形成すると共に、内輪82,2の内側軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14を外輪5の内周に形成した構造を具備する。この車輪用軸受20は、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックル52に外輪5を圧入して止め輪83により固定される。
【0069】
この実施形態では、ハブ輪1の小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪82,2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与する加締め構造を具備する。この加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0070】
なお、図12および図13の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0071】
また、図12および図13に示す実施形態では加締め構造を例示したが、図14および図15に示す非加締め構造であってもよい。図14はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図15は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態の非加締め構造では、一対の内輪82,2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、内輪2の端面を外側継手部材24の肩部81の端面に当接させた構造としている。この構造を採用することにより、加締め部11(図1および図2参照)がないことから軽量化が図れ、また、揺動加締めによる加工が不要となることから低コスト化が図れる。
【0072】
このような非加締め構造の場合、ボルト42の締め付けにより発生する軸力でもって車輪用軸受20に予圧を付与することから、軸力安定化処理したボルト42を使用することにより、ボルト42の締め付けトルクに対する軸力のばらつきを小さくすることができる。この非加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0073】
なお、図14および図15の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態の場合と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0074】
図16および図17は第二世代の車輪用軸受装置を例示し、図16はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図17は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態における車輪用軸受20は、ハブ輪1の外周に一対の内輪82,2を圧入し、アウトボード側の内側軌道面7を一方の内輪82の外周に形成すると共にインボード側の内側軌道面8を他方の内輪2の外周に形成すると共に、内輪82,2の内側軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14を外輪5の内周に形成した構造を具備する。この車輪用軸受20は、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックル52に外輪5の車体取付フランジ19をボルト63により固定している。
【0075】
この実施形態では、ハブ輪1の小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪82,2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与する加締め構造を具備する。この加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0076】
なお、図16および図17の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態の場合と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0077】
また、図16および図17に示す実施形態では加締め構造を例示したが、図18および図19に示す非加締め構造であってもよい。図18はナックル52に装着された車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、図19は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。この実施形態の非加締め構造では、一対の内輪82,2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、その内輪2の端面を外側継手部材24の肩部81の端面に当接させた構造としている。この構造を採用することにより、加締め部11(図1および図2参照)がないことから軽量化が図れ、また、揺動加締めによる加工が不要となることから低コスト化が図れる。
【0078】
このような非加締め構造の場合、ボルト42の締め付けにより発生する軸力でもって車輪用軸受20に予圧を付与することから、軸力安定化処理したボルト42を使用することにより、ボルト42の締め付けトルクに対する軸力のばらつきを小さくすることができる。この非加締め構造においては、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させるねじ締め付け構造を例示するが、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させるねじ締め付け構造とすることも可能である(図9参照)。
【0079】
なお、図18および図19の実施形態における他の構成部分や、車輪用軸受20を車体の懸架装置へ組み付ける要領、および車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を組み付ける要領については、図1および図2の実施形態の場合と同様であるため、図1および図2と同一または相当部分に同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0080】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0081】
1 内方部材(ハブ輪)
2,82 内方部材(内輪)
3,4 転動体
5 外方部材(外輪)
6 等速自在継手
7,8 内側軌道面
13,14 外側軌道面
20 車輪用軸受
24 外側継手部材
30 ステム部
37 凸部(雄スプライン)
39,40,65 凹部
41 雌ねじ部
42 雄ねじ部(ボルト)
64 ガイド部
66 食み出し部
67 収容部
68 雄ねじ部
69 雌ねじ部(ナット)
n 締め代
M 凹凸嵌合構造
N ねじ締め付け構造
X 嵌合接触部位全域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、前記ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより前記車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪と前記外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、前記凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することにより、前記凸部と前記凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記ねじ締め付け構造により発生する軸力以下で前記ハブ輪に対して前記外側継手部材を圧入可能とした請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、前記雌ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成されている請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、前記雄ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成されている請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記凸部は前記外側継手部材のステム部に設けられ、前記凹部は前記ハブ輪に設けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記凸部に対して締め代を有する凹部は、前記凸部よりも小さく設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記凸部の表面硬度を前記凹部の表面硬度よりも大きくした請求項1〜6のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記凹凸嵌合構造は、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部を収容する収容部を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記凹凸嵌合構造は、圧入の開始をガイドするガイド部を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受であって、
前記ハブ輪の内周面のアウトボード側に凹部を設け、前記凹部のインボード側にガイド部を有し、前記ガイド部は前記凹部よりも大きい凹部からなることを特徴とする車輪用軸受。
【請求項11】
前記ガイド部のインボード側に円筒形状の嵌合面を形成した請求項10に記載の車輪用軸受。
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、前記ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより前記車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪と前記外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、前記凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することにより、前記凸部と前記凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記ねじ締め付け構造により発生する軸力以下で前記ハブ輪に対して前記外側継手部材を圧入可能とした請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、前記雌ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成されている請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、前記雄ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成されている請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記凸部は前記外側継手部材のステム部に設けられ、前記凹部は前記ハブ輪に設けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記凸部に対して締め代を有する凹部は、前記凸部よりも小さく設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記凸部の表面硬度を前記凹部の表面硬度よりも大きくした請求項1〜6のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記凹凸嵌合構造は、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部を収容する収容部を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記凹凸嵌合構造は、圧入の開始をガイドするガイド部を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受であって、
前記ハブ輪の内周面のアウトボード側に凹部を設け、前記凹部のインボード側にガイド部を有し、前記ガイド部は前記凹部よりも大きい凹部からなることを特徴とする車輪用軸受。
【請求項11】
前記ガイド部のインボード側に円筒形状の嵌合面を形成した請求項10に記載の車輪用軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−79063(P2013−79063A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196325(P2012−196325)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]