説明

車輪用軸受装置

【課題】シールの密封性と耐久性を高めて軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】第2世代乃至第4世代構造の車輪用軸受装置において、アウター側のシール8が、鋼板をプレス加工にて形成された芯金12と、この芯金12に加硫接着により一体に接合されたシール部材13とからなり、このシール部材13が、先端に向う程径方向外方に傾斜し、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bに所定のシメシロを介して摺接するサイドリップ13aを一体に有すると共に、外方部材2のアウター側の外周面と端面2cおよび車輪取付フランジ6のインナー側の側面6cに撥水加工A、B、Cが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置に関し、詳しくは、軸受部に装着されたシールの密封性と耐久性を高めて軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を複列の転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式が、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両方式が一般的に採用されている。また、車輪用軸受装置には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列アンギュラ玉軸受等からなる車輪用軸受を嵌合させた第1世代と称される構造から、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造、また、ハブ輪の外周に一方の内側転走面が直接形成された第3世代構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造とに大別されている。
【0003】
これらの車輪用軸受装置は泥水等がかかり易い部位に配置されるため、密封装置が装着されて外方部材と内方部材との間を密封するように構成されている。ここで、市場回収品の軸受損傷状況を検証すると、剥離等から来る本来の軸受寿命よりも、密封装置の不具合による損傷が多くを占めている。したがって、密封装置の密封性と耐久性を高めることにより、軸受寿命の向上を確実に図ることができる。一般的に、密封装置は、シールリップを備えたシール部材が固定側部材となる外方部材に装着され、シールリップが内方部材の外周面に摺接されている。
【0004】
従来から、密封性を高めたシールに関しては種々提案されているが、こうしたシールの一例を図5に示す。シール50は、外方部材51とハブ輪52との間に形成される環状空間の開口部に装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。このシール50は、芯金53と、この芯金53に加硫接着により一体に接合されたシール部材54とからなる。芯金53は、外方部材51の端部内周に内嵌される円筒状の嵌合部53aと、この嵌合部53aから径方向外方に屈曲して形成され、外方部材51の端面51aに当接される重合部53bと、この重合部53bから径方向内方に延びる内側部53cとを備えている。
【0005】
一方、シール部材54は、ニトリルゴム等の合成ゴムからなり、芯金53の重合部53bの露出した部分から内側部53cの内端部に亙る範囲に固着され、サイドリップ54aとダストリップ54bおよびグリースリップ54c、および包囲部54dを有している。車輪取付フランジ55の基部55aは断面が円弧状の曲面に形成されると共に、サイドリップ54aとダストリップ54bは、先端に向う程径方向外方に傾斜し、それぞれ異なった傾斜角と長さに形成されている。そして、基部55aにその全周が所定のシメシロを介して摺接している。また、グリースリップ54cは、先端縁を軸受内方側に向けた状態でラジアルリップを構成し、基部55aの外周面に所定のシメシロを介して摺接している。
【0006】
このように、芯金53が、嵌合部53aから径方向外方に突出した重合部53bが形成され、サイドリップ54aの最大径が芯金53の嵌合部53aの略外径に設定されているため、シール50の最大径とサイドリップ54aの最大径との間に充分なスペースを確保することができ、サイドリップ54aに干渉することなく圧入治具(図示せず)でシール50を外方部材51に容易に圧入することができる。したがって、シール50の圧入力を充分確保することができ、軸受の昇温によって内部圧力が増大した時にもシール50が抜け出すのを防止して本来のシール性能を発揮することができる。さらに、シール部材54の包囲部54dによって重合部53bの露出した部分が覆われているため、芯金53の発錆を防止すると共に、シール嵌合部の気密性を高め、シール50の密封性と耐久性を高めることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−157327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
然しながら、こうした従来のシール50では、外部から泥水が浸入することにより、リップ摺動部に付着して摩耗が促進され、所望の密封性が維持できなくなる恐れがある。特に、泥水が直接シール50にかかる場合より、路面から跳ね上がった泥水が、軸受周辺部品を伝ってきて外方部材51の外周面に付着し、それが流動してリップ摺動部に噛み込み、リップ摩耗を誘発させてシール寿命低下に至る恐れがあり、軸受寿命低下や回転調子の不良にも影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、シールの密封性と耐久性を高めて軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、この車輪取付フランジから軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合された内輪または等速自在継手の外側継手部材からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうちアウター側のシールが、鋼板をプレス加工にて形成された芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材とからなり、このシール部材が、先端に向う程径方向外方に傾斜し、前記車輪取付フランジのインナー側の基部に所定のシメシロを介して摺接するサイドリップを一体に有すると共に、前記外方部材のアウター側の外周面または/および端面に撥水加工が施されている。
【0011】
このように、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールを備えた第2世代乃至第4世代構造の車輪用軸受装置において、シールのうちアウター側のシールが、鋼板をプレス加工にて形成された芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材とからなり、このシール部材が、先端に向う程径方向外方に傾斜し、車輪取付フランジのインナー側の基部に所定のシメシロを介して摺接するサイドリップを一体に有すると共に、外方部材のアウター側の外周面または/および端面に撥水加工が施されているので、路面から跳ね上がった泥水が、軸受周辺部品を伝ってきて外方部材の外周面に付着しても、撥水効果で球状の水滴に変化するため、その泥水を外方部材の径方向下方に誘導して排水することができ、リップ摺動部に滞留して噛み込み、リップ摩耗を誘発させるのを防止してシールの密封性と耐久性を高めて軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0012】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記車輪取付フランジのインナー側の側面に前記撥水加工が施されていれば、ハブ輪の回転に伴い、浸入してきた泥水を遠心力によって外方に飛散させることができ、リップ摺動部に滞留して噛み込み、リップ摩耗を誘発させるのを防止することができる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明のように、前記撥水加工が撥水性物質をコーティングしたものでも良いし、また、請求項4に記載の発明のように、前記撥水加工が無電解ニッケルメッキ皮膜中にPTFE微粒子を分散させた複合メッキでも良い。これにより、撥水性と母材の防錆性を両立させることができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明のように、前記芯金が、前記外方部材のアウターの端部内周に内嵌される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に屈曲して形成され、前記外方部材のアウター側の端面に当接される重合部と、この重合部から径方向内方に延びる内側部とを備えると共に、前記シール部材のサイドリップの最大径が前記芯金の嵌合部の略外径に設定されると共に、前記芯金の重合部が前記外方部材のアウター側の外径よりも径方向外方に突出して形成されていれば、シールの最大径とサイドリップの最大径との間に充分なスペースを充分確保することができ、サイドリップに干渉することなく圧入治具でシールを外方部材に容易に圧入することができると共に、泥水が外方部材の外周面に沿って流動してきてもこの重合部で止め、車輪取付フランジの側面との間に流動してシールの近傍に滞留するのを防止することができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明のように、前記シール部材が前記芯金の重合部を覆う包囲部を備えていれば、芯金の発錆を防止すると共に、シール嵌合部の気密性を高め、さらにシールの密封性と耐久性を高めることができる。
【0016】
また、請求項7に記載の発明のように、前記内方部材が、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる前記小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪の小径段部に所定の径方向シメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内輪で構成されていても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車輪用軸受装置は、外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、この車輪取付フランジから軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合された内輪または等速自在継手の外側継手部材からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうちアウター側のシールが、鋼板をプレス加工にて形成された芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材とからなり、このシール部材が、先端に向う程径方向外方に傾斜し、前記車輪取付フランジのインナー側の基部に所定のシメシロを介して摺接するサイドリップを一体に有すると共に、前記外方部材のアウター側の外周面または/および端面に撥水加工が施されているので、路面から跳ね上がった泥水が、軸受周辺部品を伝ってきて外方部材の外周面に付着しても、撥水効果で球状の水滴に変化するため、その泥水を外方部材の径方向下方に誘導して排水することができ、リップ摺動部に滞留して噛み込み、リップ摩耗を誘発させるのを防止してシールの密封性と耐久性を高めて軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のシール部を示す要部拡大図である。
【図3】本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】図3のシール部を示す要部拡大図である。
【図5】従来のシール構造を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定の径方向シメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記シールのうちアウター側のシールが、鋼板をプレス加工にて形成された芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材とからなり、このシール部材が、先端に向う程径方向外方に傾斜し、前記車輪取付フランジのインナー側の基部に所定のシメシロを介して摺接するサイドリップを一体に有すると共に、前記外方部材のアウター側の外周面と端面および前記車輪取付フランジのインナー側の側面に撥水加工が施されている。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のシール部を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0021】
この車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0022】
ハブ輪4は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから軸方向に延びる円筒状の小径段部4bが形成されている。なお、車輪取付フランジ6にはハブボルト6aが周方向等配に植設されている。
【0023】
内輪5は、外周に他方(インナー側)の内側転走面5aが形成され、ハブ輪4の小径段部4bに所定のシメシロを介して圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成している。そして、内輪5は、ハブ輪4の小径段部4bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部4cによって、所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪4に対して軸方向に固定されている。なお、内輪5および転動体3はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0024】
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部4cは鍛造加工後の表面硬さのままの未焼入れ部とされている。
【0025】
外方部材2は、外周にナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ2bを一体に有し、内周にハブ輪4の内側転走面4aと内輪5の内側転走面5aに対向する複列の外側転走面2a、2aが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3、3が収容され、保持器7、7によって転動自在に保持されている。
【0026】
この外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間の両端開口部にシール8、9が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に浸入するのを防止している。
【0027】
シール8、9のうちインナー側のシール9は、固定側部材となる外方部材2のインナー側の端部内周に所定のシメシロを介して圧入された芯金10と、この芯金10に加硫接着によって一体に接合されたシール部材11とからなる一体型のシールで構成されている。
【0028】
シール9の芯金10は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系)や防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系)等、防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、全体として円環状に形成されている。芯金10がこの種の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成されていれば、長期間に亘って芯金10の発錆を抑え、耐久性と密封性を向上させることができる。
【0029】
一方、シール部材11は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金10に一体に接合されている。このシール部材11は、径方向内方に二股状に傾斜して延び、内輪5の外径に所定の径方向シメシロを介して摺接されるグリースリップ11aとダストリップ11bを一体に有している。
【0030】
なお、シール部材11の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0031】
アウター側のシール8は、図2に拡大して示すように、芯金12と、この芯金12に加硫接着により一体に接合されたシール部材13とからなる。芯金12は、オーステナイト系ステンレス鋼板や防錆処理された冷間圧延鋼板等、耐食性を有する鋼板をプレス加工にて形成されている。この芯金12は、外方部材2の端部内周に内嵌される円筒状の嵌合部12aと、この嵌合部12aから径方向内方に延びる内側部12bとを備え、断面略コの字状に、全体として円環状に形成されている。
【0032】
一方、シール部材13は、NBR等の合成ゴムからなり、芯金12の内側部12bの内端部に固着され、サイドリップ13aとダストリップ13bおよびグリースリップ13cを有している。本実施形態では、芯金12が防錆能を有する鋼板から形成されているので、芯金12自体の発錆を長期間に亘って確実に防止すると共に、シール8の密封性と耐久性を高めることができる。
【0033】
車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bは断面が円弧状の曲面に形成され、この基部6bにサイドリップ13aとダストリップ13bが所定の軸方向シメシロをもって摺接されると共に、グリースリップ13cが所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
【0034】
ここで、本実施形態では、外方部材2のアウター側の外周面と外方部材2のアウター側の端面2cおよび車輪取付フランジ6のインナー側の側面6cに撥水加工A、B、Cが施されている(図中二点鎖線にて示す)。これにより、路面から跳ね上がった泥水が、軸受周辺部品を伝ってきて外方部材2の外周面に付着しても、撥水効果で球状の水滴に変化するため、その泥水を外方部材2の径方向下方(路面方向)に誘導して排水することができると共に、ハブ輪4の回転に伴い、遠心力によって外方に飛散させることができ、リップ摺動部に滞留して噛み込み、リップ摩耗を誘発させるのを防止してシール8の密封性と耐久性を高めて軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0035】
撥水加工としては、フッ素系やシリコーン系撥水剤あるいはアクリル系撥水剤、シリカ系撥水剤を例示することができる。特に、PTFE系の撥水剤は撥水性が高いので有効である。この撥水加工は、メトキシシランを含む界面活性剤を使用し、これをアルコールに0.01wt%を溶かし、その液を塗布させた後、熱風で乾燥することによって得られる。メトキシシランは、加水分解して得られるOH基が水素結合し、ガラス状の光沢のある表面を呈する。
【0036】
また、こうしたコーティングの代わりに、無電解ニッケルメッキ皮膜中にPTFE微粒子を分散させた複合メッキを施せば、撥水性と母材の防錆性を両立させることができるため好ましい。
【実施例2】
【0037】
図3は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。図4は、図3のシール部を示す要部拡大図である。なお、この実施形態は前述した第1の実施形態(図1)と基本的には軸受構造が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0038】
この車輪用軸受装置は第3世代と呼称される駆動輪用であって、内方部材14と外方部材15、および両部材14、15間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材14は、ハブ輪16と、このハブ輪16に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0039】
ハブ輪16は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから軸方向に延びる円筒状の小径段部4bが形成され、内周にはトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)4dが形成されている。
【0040】
ハブ輪16はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0041】
外方部材15はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、外周に車体取付フランジ2bを一体に有し、内周に複列の外側転走面2a、2aが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3、3が収容され、保持器7、7によって転動自在に保持されている。
【0042】
また、外方部材15と内方部材14との間に形成される環状空間の開口部にはシール17、18が装着されている。インナー側のシール18は、スリンガ19と環状のシール板20とからなる、所謂パックシールを構成している。そして、後述するアウター側のシール17と共に、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0043】
ここで、アウター側のシール17は、図4に拡大して示すように、芯金21と、この芯金21に加硫接着により一体に接合されたシール部材22とからなる。芯金21は、冷間圧延鋼板等の鋼板をプレス加工にて形成されている。この芯金21は、外方部材15の端部内周に内嵌される円筒状の嵌合部21aと、この嵌合部21aから径方向外方に屈曲して形成され、外方部材15の端面2cに当接される重合部21bと、この重合部21bから径方向内方に延びる内側部21cとを備えている。
【0044】
一方、シール部材22は、NBR等の合成ゴムからなり、芯金21の重合部21bの露出した部分から内側部21cの内端部に亙る範囲に固着され、サイドリップ22aとダストリップ22bおよびグリースリップ22c、および包囲部22dを有している。サイドリップ22aとダストリップ22bが、先端に向う程径方向外方に傾斜し、それぞれ異なった傾斜角と長さに形成されている。そして、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bにその全周が所定のシメシロを介して摺接している。また、グリースリップ22cは、先端縁を軸受内方側に向けた状態でラジアルリップを構成し、基部6bの外周面に所定のシメシロを介して摺接している。
【0045】
本実施形態では、サイドリップ22aの最大径が芯金21の嵌合部21aの略外径と同径に設定されていると共に、芯金21の重合部21bが外方部材15のアウター側の外径よりも径方向外方に突出して形成されているため、シール17の最大径とサイドリップ22aの最大径との間に充分なスペースを充分確保することができ、サイドリップ22aに干渉することなく圧入治具(図示せず)でシール17を外方部材15に容易に圧入することができる。したがって、シール17の圧入力を充分確保することができ、軸受の昇温によって内部圧力が増大した時にもシール17が抜け出すのを防止して本来のシール性能を発揮することができる。また、泥水が外方部材15の外周面に沿って流動してきてもこの重合部21bで止め、泥水を外方部材15の径方向下方(路面方向)に誘導して排水することができると共に、車両の走行中に泥水が外方部材15の外周面を伝って車輪取付フランジ6の側面6cとの間に流動してシール17の近傍に滞留するのを防止することができ、長期間に亘ってシール17の耐久性と密封性能の向上を図ることができる。
【0046】
さらに、外方部材15のアウター側の外周面と車輪取付フランジ6のインナー側の側面6cに撥水加工A、Cが施されている(図中二点鎖線にて示す)ため、路面から跳ね上がった泥水が、軸受周辺部品を伝ってきて外方部材15の外周面に付着しても、撥水効果で球状の水滴に変化するため、その泥水を外方部材15の径方向下方(路面方向)に効果的に誘導して排水することができると共に、ハブ輪16の回転に伴い、遠心力によって外方に飛散させることができ、リップ摺動部に滞留して噛み込み、リップ摩耗を誘発させるのを防止することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る車輪用軸受装置は、外周に車体取付フランジを一体に有する外方部材と、この外方部材に複列の転動体を介して回転自在に内挿された内方部材とを備え、両部材間に形成される環状空間の両端開口部にシールが装着された第2世代乃至第4世代構造の車輪用軸受装置に適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1、14 内方部材
2、15 外方部材
2a 外側転走面
2b 車体取付フランジ
2c 外方部材のアウター側の端面
3 転動体
4、16 ハブ輪
4a、5a 内側転走面
4b 小径段部
4c 加締部
4d セレーション
5 内輪
6 車輪取付フランジ
6a ハブボルト
6b 車輪取付フランジのインナー側の基部
6c 車輪取付フランジのインナー側の側面
7 保持器
8、9、17、18 シール
10、12、21 芯金
11、13、22 シール部材
11a、13c、22c グリースリップ
11b、13b、22b ダストリップ
13a、22a サイドリップ
19 スリンガ
20 シール板
50 シール
51 外方部材
51a 外方部材の端面
52 ハブ輪
53 芯金
53a 嵌合部
53b 重合部
53c 内側部
54 シール部材
54a サイドリップ
54b ダストリップ
54c グリースリップ
54d 包囲部
55 車輪取付フランジ
55a 車輪取付フランジの基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、この車輪取付フランジから軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合された内輪または等速自在継手の外側継手部材からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
前記シールのうちアウター側のシールが、鋼板をプレス加工にて形成された芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合されたシール部材とからなり、このシール部材が、先端に向う程径方向外方に傾斜し、前記車輪取付フランジのインナー側の基部に所定のシメシロを介して摺接するサイドリップを一体に有すると共に、前記外方部材のアウター側の外周面または/および端面に撥水加工が施されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記車輪取付フランジのインナー側の側面に前記撥水加工が施されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記撥水加工が撥水性物質をコーティングしたものである請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記撥水加工が無電解ニッケルメッキ皮膜中にPTFE微粒子を分散させた複合メッキである請求項1または2に記載された車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記芯金が、前記外方部材のアウターの端部内周に内嵌される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に屈曲して形成され、前記外方部材のアウター側の端面に当接される重合部と、この重合部から径方向内方に延びる内側部とを備えると共に、前記シール部材のサイドリップの最大径が前記芯金の嵌合部の略外径に設定されると共に、前記芯金の重合部が前記外方部材のアウター側の外径よりも径方向外方に突出して形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記シール部材が前記芯金の重合部を覆う包囲部を備えている請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記内方部材が、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる前記小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪の小径段部に所定の径方向シメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内輪で構成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−180922(P2012−180922A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45961(P2011−45961)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】