説明

軌条車両

【課題】火災時に点検蓋の気密性を確保できる点検蓋を備える軌条車両を提供する。
【解決手段】軌条車両の台枠30には、台枠30の下側に設けられた床下機器室に備わる機器を点検するため、点検蓋100が開閉可能に備わっている。点検蓋100の周縁部が台枠30の点検蓋受40に対向することとなる点検蓋100の台枠30に対する閉じ状態で、点検蓋100の周縁部と点検蓋受40との間に、所定の温度以上になると膨張する膨張材190が備えられている。点検蓋100には、配線が接続された膨張体や、これら配線に接続される制御装置を必要とせずに、簡便に点検蓋の気密性を確保して有毒ガス等が車内に侵入することを防止できる。膨張材190は、鉄道車両の客室内に備わる機器室を構成する仕切り壁に備わる点検蓋にも適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、客室と、その床下や機器室のような機器が配設されるエリアとを隔てる部位に備えられる点検蓋を有する軌条車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軌条車両においては、客室の床下に備えられる機器を客室側から点検するために軌条車両の床に点検蓋が備えられており、或いは軌条車両の客室に備えられる機器室の壁には機器を点検するための点検窓が備えられている。
【0003】
機器又はその周囲から生じた火災に起因する有毒ガスなどが通過・侵入しないように隙間を遮断し、閉鎖時に気密性の確保を図ろうとする防火扉が提案されている(特許文献1参照)。これによれば、開閉自在に形成されるとともに対向動作により閉じる防火扉の対向面に、発熱抵抗体を内在する加熱膨張体が備えられており、火災検知器が火災と判断した際に、前述の発熱抵抗体に通電することによって、加熱膨張体を膨張させ、防火扉の対向面に生じる隙間を閉鎖して、火災に伴う煙及び有毒ガスが建物内に拡散することを防止する。
【0004】
上述した火災に伴う煙及び有毒ガスが建物内に拡散することを防止する技術は、発熱抵抗体を内在する加熱膨張体を防火扉の対向面に配設するものであり、この発熱抵抗体には電気を供給する配線が接続されるとともに、この配線には更に制御部などが接続される。制御部が火災と判断した場合など、防火扉に火炎が迫る前に防火扉を閉じるとともに、防火扉の対向面に備えられる加熱膨張体を膨らませて扉間の隙間を閉鎖する。この加熱膨張体の膨張による隙間の閉鎖によって気密性を確保して、火災に起因する一酸化炭素、ハロゲン系有毒ガスが建物内に拡散することを防止している。
【0005】
しかしながら、上記技術は、加熱膨張体は発熱抵抗体を内在させる必要があるだけでなく、発熱抵抗体に電気を供給する配線と配線に接続される制御部を備えなければならない。このため、開閉する防火扉に備えられる加熱膨張体に発熱抵抗体を備える作業、加熱膨張体に接続される配線、及び配線に接続され火災の有無を判断する制御装置の設置など、施工工数とコストが大きくなる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−207046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、機器と客室を隔てる床又は壁などに備えられる点検蓋に、機器に起因する火災が発生した際に有毒ガスなどが客室内に流入することを防止するための気密性を簡便に付与する点において、改善すべき課題がある。
本発明の目的は、軌条車両が備える点検蓋の気密性を高めるために、点検蓋に備えられる膨張体に接続される配線と、これら配線に接続される制御装置を必要としないで、火災時に点検蓋の気密性を確保できる点検蓋を備える軌条車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明による軌条車両は、客室と機器室とを備え、前記機器室と前記客室とを隔てる隔壁に点検蓋を備えた軌条車両において、前記点検蓋が前記隔壁に対する閉じ状態で対向する前記点検蓋の前記周縁部と前記隔壁との間に、所定の温度以上になると膨張する膨張材が備えられていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明による軌条車両は、台枠の長手方向の両端部に妻構体が立設されるとともに、前記台枠の幅方向の両端部に側構体が立設され、前記妻構体と前記側構体の上端部に屋根構体が載置されることにより構成され、且つ内部に客室が形成される軌条車両であって、前記台枠の下部に機器室が備えられるとともに、前記客室側から前記機器室内の機器を点検できるように、前記点検蓋が回動可能に前記台枠に支持されており、前記点検蓋が閉じられた際に前記台枠に対向する前記点検蓋の周縁部と前記台枠との間に、所定の温度以上になると体積膨張する膨張材が備えられていることを特徴としている。
【0010】
この軌条車両によれば、点検蓋に火災時の熱によって所定の温度以上で自立的に堆積膨張する膨張材が備えられているので、簡便に点検蓋の隔壁や台枠に対して気密性を確保して有毒ガス等が車内に侵入することを防止できる。
【0011】
この軌条車両において、前記膨張材を、前記点検蓋の前記周縁部に取り付けることができる。また、前記点検蓋に断熱材と吸音材とを備え、前記吸音材を保護板によって保持することができ、前記吸音材と前記保護板については、前記点検蓋の前記機器室側に備えることができる。さらに、前記点検蓋は、枠と当該枠の前記機器室側に備えられた耐火塗装板とを有しており、前記断熱材を前記枠と前記耐火塗装板との間に備え、前記吸音材と前記保護板を前記耐火塗装板の前記機器室側に備えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による軌条車両によれば、点検蓋に火災時の熱によって自立的に膨張する熱膨張性シールゴムが備えられるので、先行技術で備えていたように、過熱膨張体である熱膨張性シールゴムに発熱抵抗体と、発熱抵抗体に接続される配線と、配線に接続される制御部とを備えることなく、簡便に点検蓋の気密性を確保して有毒ガス等が車内に侵入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、軌条車両の側面図である。
【図2】図2は、図1に示す軌条車両のA−A断面図である。
【図3】図3は、図2に示す軌条車両の床部に備えられる点検蓋(B部)の平面図である。
【図4】図4は、図3に示す点検蓋のD−D断面図である。
【図5】図5は、図3に示す点検蓋のE−E断面図である。
【図6】図6は、図3に示す点検蓋の火災時のE−E断面図である。
【図7】図7は、客室内に設置された機器室を有す鉄道車両の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面に基づいて、本発明による軌条車両の実施例を説明する。
【0015】
図1は、軌条車両の一例として挙げる跨座型モノレール車両1(以下、モノレール車両1)の側面図である。軌条車両とは、敷設された軌道に案内されて走行する車両であり、鉄道車両、路面電車、モノレール車両、新交通システム用車両であり、本発明では軌条車両の一例として、跨座型モノレール車両1の例を用いて本発明を説明する。
【0016】
図1に示されるモノレール車両1は3両の車両(3両編成)に連結されており、敷設された軌道桁2の上を走行する。モノレール車両1は、軌条桁2に対して、車両の長手方向の両端部に設けられており且つ軌条桁2上を走行する台車(図示なし)によって支持されている。モノレール車両1の屋根上には空調装置4が備えられる。モノレール車両1の台車と、モノレール車両1の床下に備えられる各種機器は、後述する側構体20に接続する形態で備えられるスカート3によって覆われている。
【0017】
図2は、図1に示されるモノレール車両のA−A断面図である。モノレール車両1は、台枠30の幅方向の両端部に側構体20,20を備えるともに、長手方向の両端部に妻構体(図示無し)を備え、側構体20,20及び妻構体の上端部に屋根構体10を載置することによって構成されている。
【0018】
台枠30の下面には、主変換器、変圧器、補助電源装置等の床下機器(図示なし)が搭載される床下機器室Cが、スカート3によって覆われる態様で備えられる。台枠30の上面には床が構成されており、台枠30と床には、車内側から床下機器室C内の機器類を点検可能なように、台枠30と床とを切り欠いて備えられる点検蓋受40(図5、図6参照)と、この点検蓋受40に嵌合する点検蓋100が備えられる。B部は、軌条車両1の床部に備えられる点検蓋100の周囲を示す。
【0019】
図3は、図2に示す点検蓋の周囲(B部)を客室側から見た平面図である。点検蓋100は蝶番130,130を介して台枠30(床)に回動可能に支持されており、点検蓋100は蝶番130を支点として、客室側に開くことができるように構成されている。さらに、点検蓋100には、取手110と鍵120が備えられる。取手110は点検蓋100を開閉する際にのみ立設できる構造であり、点検蓋100を開閉しない時は、点検蓋100の上面に客室側に突出しない様態で格納される。
【0020】
図4は、図3に示す点検蓋のD−D断面図である。点検蓋100は、客室側の面(上面)に配置される枠140と、機器室側の面(下面)に配置される耐火塗装板160とを支え部材145で連結して構成されており、その内部に形成される中空部には断熱材150が装填されている。耐火塗装板160は、火災によって生じる熱が床下機器室Cから車内へ流入することを妨げるために備えられるもので、融点が高く耐熱性に優れるステンレス製平板(厚さ5mm前後)であり、その両面に厚さ2mm程度に耐熱塗料が塗布されている。耐熱塗装板160が点検蓋100の床下機器室C側に備えられているので、床下機器室C内で生じた火炎に点検蓋100が曝されたとしても、点検蓋100が容易に焼け落ちることはない。
【0021】
断熱材150は炭素繊維で構成されており、耐火塗装板160から枠140に熱が伝達することを防ぐとともに、床下機器室Cの火災時に容易に車内の温度が上昇することを防止する。そして、耐火塗装板160の床下機器室C側の面に、平板状の吸音材170が保護板180によって保持されている。吸音材170は、グラスウール、ウレタン等からなり、床下機器室Cに設置される機器から生じる騒音を吸音するために備えられている。吸音材170の吸音性能を阻害しないように、所定の開口率を有すパンチングプレートからなる保護板180が吸音材170の面を保護している。
【0022】
点検蓋100が閉じられた際に、台枠30に備えられる点検蓋受40に対向する点検蓋100の周縁部には、熱膨張性シールゴムのような加熱膨張材190が備えられる。加熱膨張材190の機能は後に詳述する。
【0023】
図5は、図3に示す点検蓋のE−E断面図である。図5に示される点検蓋100は台枠30に備えられる点検蓋受40に載置され、閉鎖された状態を示す。閉鎖された状態の点検蓋100において、点検蓋100を構成する耐熱塗装板160の周縁部と台枠30の点検蓋受40との間に、耐熱塗装板160の周縁部に備えられた加熱膨張材190が位置する。加熱膨張材190の内周側は、吸音材170を保護する保護板180の下面と点検蓋受40との間に置かれている。
【0024】
点検蓋100に備えられる錠120の先端部が点検蓋受40に備えられる鍵穴35に挿入されて固定されている。図示しないが、点検蓋100の車内側の面に設けられる錠120から挿入された鍵を回動することにより、錠120が水平面内で回転し、その先端が台枠30に付属する点検蓋受40に備えられた鍵穴35に挿入される構成をなしている。
【0025】
図6は、床下機器室C内で火災が生じた場合の点検蓋のE−E断面図(図3)である。床下機器室C内で生じた火災によって、点検蓋100及び台枠30が加熱される。このため、点検蓋100と点検蓋受40(台枠30)との間に位置する加熱膨張材190は、点検蓋100及び点検蓋受40から伝熱(熱伝導)により加熱されることによって、所定温度(例えば、120〜150℃)以上に加熱された場合に、4倍程度に体積膨張する。
【0026】
このとき、点検蓋100に備えられる錠120と台枠30に備えられる鍵穴35との間に隙間があれば、図6に示すように、加熱膨張材190の膨張によって、点検蓋100は錠120が鍵穴35の上部に当接するまで押し上げられる。そして、この過程において、膨張した加熱膨張材190によって、点検蓋100と台枠30に備えられる点検蓋受40との間に生じる隙間が閉鎖され、火災に起因する有毒ガスが床下機器室Cから客室内へ侵入するのを防止することができる。
【0027】
加熱膨張材190は、所定の温度以上に過熱された場合、自立的に堆積膨張するので、加熱膨張材に発熱体、及び発熱体に電気を供給するための配線等を配設する必要はない。このため、簡便な構成と最小の艤装工程において、床下機器室で火災が生じた際に、客室内へ火災に伴う有毒ガス等の侵入を抑制することができる。
【0028】
なお、上記の実施例では、台枠30に備えられる床下機器を客室側から点検できるように、台枠30に備えられる点検蓋に関するものであるが、図7に示すように、鉄道車両1の客室内に備えられる機器室5を構成する仕切り壁50に備えられた点検蓋100に、前述した構成を備えることもできる。こうした構造によって、機器室5内で生じる火災に起因する有毒ガス等が客室内へ拡散することを抑制することができる。
【0029】
また、上記の実施例においては、加熱膨張材190は、点検蓋190に備わるとして説明したが、それに限らず、点検蓋190の周縁部が閉じ状態で対向することになる台枠30の開口部側、或いは可能であれば双方の側に備えてもよいことは明らかである。
【符号の説明】
【0030】
1…モノレール車両(跨座型) 2…軌道桁
3…スカート 4…空調装置
5…機器室
10…屋根構体 20…側構体
30…台枠 35…鍵穴
40…点検蓋受 50…仕切り壁
100…点検蓋 110…取手
120…錠 130…蝶番
140…枠 145…支え部材
150…断熱材 160…耐火塗装板
170…吸音材 180…保護板
190…加熱膨張材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
客室と機器室とを備え、前記機器室と前記客室とを隔てる隔壁に点検蓋を備えた軌条車両において、
前記点検蓋が前記隔壁に対する閉じ状態で対向する前記点検蓋の前記周縁部と前記隔壁との間に、所定の温度以上になると膨張する膨張材が備えられていること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項2】
台枠の長手方向の両端部に妻構体が立設されるとともに、前記台枠の幅方向の両端部に側構体が立設され、前記妻構体と前記側構体の上端部に屋根構体が載置されることにより構成され、且つ内部に客室が形成される軌条車両であって、
前記台枠の下部に機器室が備えられるとともに、前記客室側から前記機器室内の機器を点検できるように、前記点検蓋が回動可能に前記台枠に支持されており、
前記点検蓋が閉じられた際に前記台枠に対向する前記点検蓋の周縁部と前記台枠との間に、所定の温度以上になると体積膨張する膨張材が備えられていること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された軌条車両において、
前記膨張材は、前記点検蓋の前記周縁部に取り付けられていること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された軌条車両において、
前記点検蓋に、断熱材と、吸音材が備えられており、
前記吸音材は保護板によって保持されていること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項5】
請求項4に記載される軌条車両において、
前記吸音材と前記保護板は、前記点検蓋の前記機器室側に備えられること、
を特徴とする軌条車両。
【請求項6】
請求項4又は5に記載される軌条車両において、
前記点検蓋は、枠と当該枠の前記機器室側に備えられた耐火塗装板とを有しており、
前記断熱材は、前記枠と前記耐火塗装板との間に備えられており、
前記吸音材と前記保護板は、前記耐火塗装板の前記機器室側に備えられていること、
を特徴とする軌条車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−126355(P2011−126355A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284887(P2009−284887)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】