説明

軟カプセル皮膜組成物

【課題】 非動物性原料を主原料としたカプセル皮膜組成物において、皮膜シート表面のべとつきを抑制し、ロータリーダイ式充填機等の工場生産における連続製造に耐え得る皮膜シート強度を与え、接着性の高い良好な軟カプセル剤の生産を可能とする軟カプセル皮膜組成物を提供すること。
【解決手段】 軟カプセル皮膜組成物であって、加工デンプンとネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムと可塑剤と水との混合からなり、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの混合使用、ならびにその加工デンプンにデキストリンを配合するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品など幅広い分野で応用される軟カプセル剤のための皮膜組成物に係り、特に非動物性由来の軟カプセル皮膜組成物として、ジェランガムとデンプンを用いた軟カプセル皮膜組成物及びそれを用いた軟カプセル剤製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟カプセル剤の製法の1つであるロータリーダイ式充填法は、図1に示されるように、皮膜組成物の溶液をカプセル充填機の両側にある冷却した回転ドラムに展延することによりシート状とし、その皮膜シートを回転する円筒金型(ダイロール)の間に送り、これと連動するポンプのピストンで内容物を圧入し、両金型の圧切によってカプセルを成形する。このとき、セグメントにより皮膜シートは適温に熱せられ、圧力とヒートシールによって接着され軟カプセル剤となる。
【0003】
この方式による成形に供される皮膜組成物に求められる性質は、皮膜シートの成形から充填までの連続工程に耐え得る機械的強度とヒートシールのためのゾル−ゲル熱可逆性、または圧着による接着性である。従来は、軟カプセル皮膜組成物としてこれらの特性を高度なレベルで兼ね備えたゼラチンが用いられていた。
【0004】
一方、近年、BSE問題や宗教上の理由またはアレルギー等の懸念から、主にウシ、ブタ等の骨、皮を原料とするゼラチンに代わる非動物性の軟カプセル皮膜組成物が求められるようになってきた。そのゼラチンの代替としては、寒天や、特許文献1に示されるようなカラギーナン等の海藻多糖類を用いた軟カプセル皮膜組成物がある。また、特許文献2〜6にみられるように微生物が産生する多糖類であるジェランガムを使用した軟カプセル皮膜組成物も提案されてきている。
【特許文献1】特表2003−504326
【特許文献2】特開平6−329833
【特許文献3】特開2005−170929
【特許文献4】特開2007−153851
【特許文献5】特開2005−281687
【特許文献6】特開2007−153889
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海藻由来であるカラギーナン以外のゲル形成作用を有する多糖類として注目されているジェランガムを用いた軟カプセル皮膜組成物及びその軟カプセル剤製造においては、以下の課題が残されている。
【0006】
従来の特許文献2〜6では、デンプン、可塑剤と共に、ネイティブ型ジェランガム単独、またはネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの混合物、あるいはネイティブ型ジェランガムと寒天、カラギーナン等、他の天然高分子ゲル化剤との併用により軟カプセル皮膜組成物となしているが、一般にネイティブ型ジェランガムを主なゲル化剤として利用したデンプンからなる皮膜シートは、そのシートの回転ドラムに接しない表面が回転ドラムに接した裏面と比較してべとつきが多く、先に記した既存の軟カプセル剤製造装置として広く利用されているロータリーダイ式充填機による製造を試みると、そのべとついた皮膜シートの表面が回転するダイロールに付着してカプセル封入できない、または辛うじて封入されても接着が弱く、且つ連続的な成形ができにくいということが問題となっている。ロータリーダイ式充填機は、ネイティブ型ジェランガムを利用した皮膜シートとは逆の、皮膜裏面の方のべとつきが多いゼラチン皮膜からなる軟カプセル剤の充填成形に適うように装置設計されており、ネイティブ型ジェランガムを使用した軟カプセル剤を、設備の大幅な改造等をせずに既存のロータリーダイ式充填機の活用により製造していく上で、この点は重大な問題となり得る。
【0007】
尚、ネイティブ型ジェランガムとデンプンからなる皮膜シートがこのような性質を示す理由としては、以下のことが考えられる。すなわち、ネイティブ型ジェランガムを使用した皮膜シートのゲル化温度はゼラチン等と比較するとかなり高いために、ロータリーダイ式充填機の回転ドラム上で皮膜シートを形成する際に、皮膜シートの表面付近では、室温下での急激な空気冷却によってゲル化が進んだところとやや遅れたところが生じ、シートのゲル化状態が不均一で不十分となりべとついたゲルとなる。一方回転ドラムに接した皮膜の内側の面(裏面)では、空気冷却の影響も表面よりは少なくドラムからの加熱もあり、ゲルはゆっくりと均一にゲル化し、しっかりしたべとつきの少ないシート面を形成するようになると考えられる。
【0008】
ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガム及びデンプンからなる皮膜シートの場合においても、処方によっては、皮膜強度が連続製造に耐え得る機械的強度を有するまでに至らず、カプセル充填工程の途中で破断してしまう場合や、あるいは圧着時の接着強度が低く、良好な接着性を得ることができないという不都合が生じる場合もある。
【0009】
また、ジェランガムは、ゼラチンや他の植物性多糖類のゲル化剤と比較して粘度が高いゲル化剤であり、ジェランガムを用いた軟カプセル皮膜組成物の製造において、これとデンプンを混合して加熱溶解し皮膜組成物を調製する際に非常に高粘度となり、カプセル製造時の操作性(組成物を互いに均一に混合させる均一混合操作性)が非常に悪くなると共に所望の濃度が得られにくいことが挙げられる。殊に軟カプセル剤製造時には、皮膜強度の点から固形分濃度を高くする必要があるが、濃度を高くすると組成物溶液の粘度が高くなり、従って操作性が悪くなり、更には工業的規模での生産の際には機械設備の大掛かりな変更が必要となるなどの課題を抱えている。
【0010】
さらに、デンプン系素材を使用したカプセル皮膜は吸湿性があるために、カプセル同士が癒着する現象、いわゆるブロッキングが発生し易いことも課題となっている。尚ブロッキングは従来からのゼラチンを主原料としたカプセル皮膜でも度々見られる現象であり、この問題の解決も強く望まれている。
【0011】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、非動物性原料由来のジェランガムを用いた軟カプセル皮膜組成物であって、ロータリーダイ式充填機等既存の軟カプセル充填製造装置利用を含む工業的軟カプセル剤生産において、皮膜シート表面のべとつき性を削減し、皮膜シートの機械強度を高めて破断等が生じ難くさせ、圧着により良好な接着性を有する軟カプセル剤を安定的に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来の特許文献2〜6の例に見られるような、軟カプセル用皮膜シート調製のみの例やロータリーダイ式充填製造例がある場合にあっても前記に示したような課題を有すると推測される例とは異なり、それらの課題を解決し非動物性由来の軟カプセル剤を工業的規模で生産することを目指すものであって、前記課題を解決する手段として以下の構成を採用した。すなわち、本発明の軟カプセル皮膜組成物は、加工デンプンとネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムと可塑剤と水との混合によってなる。前記加工デンプンは、デンプン誘導体、デンプン分解物、デキストリン、及び物理変性デンプンからなる群から選ばれる1種類以上で、その加工デンプンの軟カプセル皮膜組成物への配合量は乾燥前の皮膜液段階で20〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%であり、その加工デンプンの配合量のうち少なくとも20%以上、より好ましくは40%以上がデキストリンである軟カプセル皮膜組成物であることを特徴とする。
【0013】
ここで使用する加工デンプンとは、物理的、化学的または酵素的な加工処理を施したデンプンを指し、未加工(未変性または未改質ともいう)のデンプンは含まない。未加工デンプンは、加工デンプンと比較して分子量が大きい場合が多く、カプセル皮膜組成物に配合した場合、溶解性が低く加熱溶解操作後も溶解が不十分で溶け残る場合が有り、これが皮膜シート中に残存して皮膜シートの性状を低下させる。また溶解時の皮膜組成物溶液の粘度も高く操作性が悪くなる。さらに未加工のデンプンは、溶解糊液化後に白濁化、離水、ゲル化といったいわゆる老化現象を生じさせ易く、これによりカプセル皮膜シートの安定性を損なう可能性もある。そのほかに、未加工デンプンは一般に加熱溶解後の透明性が低くいため、それを用いたカプセル皮膜の不透明性が高くなる要因となり得る。一方、加工デンプンは、加工方法が多様なことから種類も豊富であり、その中から機能的に適したものを選択することにより、未加工デンプンよりも分子量が比較的小さく、溶解性、低粘性、安定性、低湿性、透明性といった点でより優れた素材の選択が可能となる。このような理由にて本発明では加工デンプンを使用する。
【0014】
デキストリンは、デンプンと比較して分子量が比較的小さく、これを用いた本発明のジェランガムとの組成物からなる皮膜シートは、乾燥性が高く、また低吸湿性であることが鋭意研究により判明した。このものを皮膜組成物中の加工デンプンのひとつとして加えることにより、皮膜シートのべとつきが抑制され、良好なカプセル接着が可能となる。また、得られた軟カプセルも低吸湿性でブロッキングも抑制される。デキストリン類は一般にデンプンよりも低粘度であり、軟カプセル皮膜組成物の加熱溶解時の粘度も低くすることができ、それにより加熱溶解時の操作性も向上する。さらにデキストリン類を溶解した水溶液は一般に透明性が高く、軟カプセル剤の透明性も上がることが期待される。
【0015】
デキストリンの加工デンプンへの適した配合量は、少なくとも20%以上、より好ましくは40%以上である。デキストリンを加えない加工デンプンのみの場合と比較して、軟カプセル皮膜組成物に処方された加工デンプンにデキストリンを加えていくと、加工デンプン中に占めるデキストリンの割合が20%となるあたりからカプセル皮膜シートのべとつきが低下し、皮膜シート強度、カプセルの接着性も改善されてくる。更にデキストリンの割合が40%を超えると、皮膜シートのべとつき、シート強度、カプセル接着性、及びブロッキング抑制の点においていずれも良好な状態となることが判明した。また軟カプセル皮膜組成物の加熱溶解時の粘度もデキストリンの増加と共に低下し、その操作性も向上した。
【0016】
上記の配合量で配合されたデキストリンを含む加工デンプンを乾燥前の皮膜液段階で20〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%の範囲で軟カプセル皮膜組成物に配合することにより、皮膜シートの接着性が向上し良好なカプセル成形が可能と成る。
【0017】
このようなデキストリンは、酵素変性デキストリン、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、及び高度分岐環状デキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。
【0018】
デンプンの分解の程度を表す指標としてDE値:固形分中のグルコースに換算した直接還元糖の百分率があり、デキストリンの分子量の大きさをあらわす場合に用いられることがある。このDE値が大きいほどデンプンの分解が進み、分子量は小さくなる。本発明で用いられるデキストリンにおいてDE値は、好ましくは10以下のものがよい。DE値が10より大きいものを多く使用した場合は、得られる皮膜シートの強度低下が生じる場合がある。
【0019】
前記のジェランガムの配合量は、ネイティブ型ジェランガムの配合量が1.5〜6重量%で、脱アシル型ジェランガムの配合量が0.04〜3重量%であり、その際ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が10:9〜99:1、より好ましくは2:1〜30:1であるように混合して使用する。特に、軟らかく弾力性に富んだ軟カプセル皮膜とするには、硬くて脆いゲルを形成する脱アシル型ジェランガムよりも、軟らかく伸びのあるゲルを形成するネイティブ型ジェランガムを多く使用する必要がある。
【0020】
このような配合量範囲でネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムを混合使用することにより、軟カプセル皮膜組成物は高い機械的強度と弾力性を得て、ロータリーダイ式充填機による製造の際の連続的な工程においても破断等が生じないものとなる。また、ネイティブ型ジェランガムを含有したデンプン素材中心の皮膜シートは、他の天然高分子系ゲル化剤、例えばゼラチンやカラギーナンを用いたものとは異なり、そのシートの表面のべとつきが裏面と比較して多くなる傾向があり、其れゆえ前述のようにロータリーダイ式充填の場合、皮膜シートがカプセル充填時にダイロールに付着して成形できないことの要因となる。このとき、ネイティブ型ジェランガムに脱アシル型ジェランガムを加えて混合しデンプンからなる軟カプセル皮膜シートとすると、脱アシル型ジェランガムはネイティブ型ジェランガムと比較してべとつきの少ないゲルを形成する性質があることから、シート表面のべとつきが抑制されるようになる。またこの添加によりネイティブ型ジェランガムのみでは軟らかく伸びるだけであったシートの物性に弾力性が加わるようになる。このように、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの混合使用は、皮膜シートのべとつきの抑制と弾力性の向上に有効である。
【0021】
本発明において、前記の可塑剤とは、グリセリン、糖アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、単糖類及び二糖類からなる群から選ばれる1種類以上であり、この可塑剤を加えることにより、皮膜シートに柔軟性を付与し、低温下におけるカプセルの対衝撃耐性も向上するようになる。
【0022】
本発明の軟カプセル皮膜組成物の溶液をロータリーダイ式充填機等の回転ドラム上に展延することにより皮膜シートに成形する工程において、回転ドラムを30〜80℃に加熱することにより、皮膜シートに機械的強度と圧着のための接着力を付加され、十分強度を有する軟カプセル剤が製造され得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の、加工デンプンとネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムと可塑剤と水との混合からなる軟カプセル皮膜組成物は、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの混合使用、ならびにその加工デンプン中に占めるデキストリンの割合を少なくとも20%以上、より好ましくは40%以上となるように配合することにより、皮膜シート表面のべとつきを抑制し、ロータリーダイ式充填機等の工場生産における連続製造に耐え得る皮膜シート強度を与え、接着性の高い良好な軟カプセル剤の生産を可能とする。
【0024】
また、低吸湿で乾燥の早いデキストリンを使用することにより、乾燥後のカプセルのブロッキングの抑制も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の軟カプセル皮膜組成物は、医薬品、医薬部外品、食品、健康食品、化粧品等に利用される軟カプセル剤の皮膜に用いられるものであり、加工デンプンと、ネイティブ型ジェランガムと、脱アシル型ジェランガムと、可塑剤と、水とが所定の混合比で混合されたものである。
【0026】
ジェランガムは、Pseudomonas elodeaという微生物が菌体外に産出するヘテロ多糖類で、1−3結合したグルコース、1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4つの糖が反復ユニットとなって直線状に結合している。そのうち、多糖を構成する前述の糖類にアシル基が結合していないものを脱アシル型ジェランガムといい、一般に硬くて脆いゲルを形成する性質がある。一方、反復ユニット中、1−3結合したグルコースにアセチル基とグリセリル基とが結合しているものをネイティブ型ジェランガムと呼び、軟らかく伸びのあるゲルを形成する性質がある。該ネイティブ型ジェランガムとしては、商品名で「ケルコゲル(登録商標)HT」、「ケルコゲルLT100」、該脱アシル型ジェランガムとしては、商品名で「ケルコゲル」、「ケルコゲルF」等がある(いずれもCPケルコ社製)。
【0027】
上記の加工デンプンとしては、デンプン誘導体、デンプン分解物、デキストリン、及び物理変性デンプンからなる群から選ばれる1種類以上のものである。そのうちデンプン誘導体は、コーンスターチ、タピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯デンプン、米デンプン、小麦デンプン、サゴデンプン等の未加工デンプンに対し、酸化処理、酸処理、アセチル化、エーテル化、エステル化、リン酸架橋、アジピン酸架橋等のうち少なくとも一つの化学的加工処理を行ったもので、例えばヒドロキシプロピル化タピオカデンプン、酸化処理ヒドロキシプロピル化タピオカデンプン、ヒドロキシプロピル化コーンスターチ、及び酸処理ヒドロキシプロピル化コーンスターチ等が挙げられる。デンプン分解物は、デンプンを酸処理、または酸化処理にて分解したもので、例えば酸化処理ワキシーコーンスターチ、酸処理タピオカデンプン等が挙げられる。
【0028】
デキストリンとしては、デンプンを酵素により分解して製造した酵素変性デキストリン、酸焙焼により製造された白色デキストリン及び黄色デキストリン、無酸又はアルカリ条件下で焙焼することにより得られたブリティッシュガム、さらにはデンプンを酵素変性させる際にブランチングエンザイムを用いることにより得られる高度分岐環状デキストリン等がある。これらのうち、酵素変性デキストリンが幅広く生産され、DE値の異なるものも入手し易い。
【0029】
そのほかに物理変性デンプンとしては、アルファー化や湿熱処理したデンプンが挙げられる。
【0030】
可塑剤としては、グリセリン、ソルビトールのような糖アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブドウ糖、フルクトースのような単糖類及びトレハロース、シュクロースのような二糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種類である。本発明の軟カプセル皮膜組成物への可塑剤の配合量としては、10〜25重量%が好ましい。
【0031】
また、本発明の軟カプセル皮膜組成物への水の配合量は30〜60重量%で、より好ましくは、35〜55重量%である。
【0032】
更に本発明の軟カプセル皮膜組成物には、場合によりその他の成分として、リン酸ナトリウム等のpH調整剤、クエン酸三ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤、乳酸カルシウム、塩化カリウム等のゲル化促進剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤、甘味料、香料、防腐剤、着色剤等を適宜加えることも可能である。
【0033】
本発明の軟カプセル皮膜組成物の溶液は、ロータリーダイ式充填機等の回転ドラム上に展延することにより皮膜シートに成形する工程において、回転ドラムを30〜80℃に加熱することにより、皮膜シートに機械的強度と圧着のための接着力が付加され、十分強度を有する軟カプセルが成形され得る。カプセル充填の際の金型による内容物の密封は、二枚の皮膜シートをセグメントにより加熱してヒートシールするか、圧着、またはそれらの併用により行われるが、耐熱性の弱い薬物などを内容物とした場合の加熱からの保護という点からは、セグメント温度は低いことが望ましい。本発明においては、後のロータリーダイ式カプセル充填機による実施例に示されるように、室温にても充填密封が可能であり、そのような場合にも十分に適応でき得る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0035】
(比較例1〜3及び実施例1〜4)
表1〜2に示した比較例1〜3及び実施例1〜4に示す処方に基づき、各成分をビーカーに量り取り、良く攪拌した後、沸騰水浴上で15分毎に良く攪拌しながら2時間加熱して溶解する。その後、2時間、90〜95℃で保温し、脱気操作を行なう。この溶液を厚さ0.6mmに調整した薄層クロマトグラフ用のアプリケータに入れ、予め約70℃に加熱しておいたステンレス板上に展延する。ゲル化後、適当な大きさに裁断し、内容物として中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いて平板法により軟カプセル剤を成形し、各処方における、加熱溶解時での混合組成物の粘度・操作性(均一混合操作性)、調製時の皮膜シートのべとつき及び強度、作成した軟カプセル剤の接着性、及びそのカプセルを乾燥後ガラス瓶に詰めて保存した際のブロッキングを評価した。
【0036】
比較例1は、デンプンとして加工デンプンと未加工デンプンであるワキシーコーンスターチを配合した軟カプセル皮膜組成物例で、比較例2は、加工デンプンのみの処方例であり、いずれも処方中にデキストリンを含まない。結果は、いずれも粘度が非常に高くなり操作性が不良であり、皮膜シートはやや弱く、そのシート表面のべとつきも多く、出来上がったカプセルの接着性も弱い。またブロッキングも認められた。そのうえ比較例1では、皮膜シート中に未溶解物が散在し、シートが不均一で透明性も他のものより劣っていた。比較例3はカプセル皮膜組成物に含まれる加工デンプン中のデキストリンの割合が11.2%で、20%に達していない例であるが、粘度は比較例1、2よりは低下するがまだ高く操作性がやや不良となり、皮膜シート表面のべとつきもやや多く、出来上がったカプセルの接着性も弱い。またブロッキングも生じている。
【0037】
これに対し、実施例1〜3はカプセル皮膜組成物に含まれる加工デンプン中のデキストリンの割合を22.2%〜60.5%の間で増加させた軟カプセル剤例で、デキストリンの割合が増加するにつれて粘度が低下して操作性が向上し、皮膜シートの強度があがり、調製時のシート表面のべとつきも顕著に少なくなり、カプセルの接着性も良好となった。さらに比較例とは異なりデキストリンの割合が20%を超えたことによりブロッキングも抑えられていた(デキストリンはDE:4〜7の間の酵素変性デキストリンを使用)。実施例4は、軟カプセル皮膜組成物に含まれる加工デンプン中のデキストリンとしてDE:4〜9の酵素変性デキストリンを使用し、その割合を92.4%まで高めたものであるが、この場合にも非常に透明で良好なカプセル皮膜シート及び軟カプセル剤が得られた。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
(比較例4〜5及び実施例5〜6)
表3に示した比較例4〜5及び実施例5〜6の処方に基づき、先の実施例1〜4に示した方法と同様に軟カプセル用皮膜シートならびに軟カプセル剤の調製と評価を行った。ここでは、軟カプセル皮膜組成物に用いた加工デンプンの配合量の割合について比較検討した。比較例4は、加工デンプンの配合割合が15重量%と少ないため、皮膜シートが弱く、また皮膜シート表面のべとつきもやや多く、出来上がったカプセルの接着性も弱い。またブロッキングも生じている。一方、加工デンプンの配合割合が22重量%まで増加した実施例5では、比較例4と比較してシート強度が上がり、表面のべとつきも抑制されカプセル接着も良好となった。加工デンプンの配合割合が48重量%まで多くなった実施例6は、皮膜組成物の粘度が高くなり操作性がやや不良となるが、シート強度等その他の項目は良好であった。しかしながら、加工デンプンの配合割合が50重量%を超えて55重量%と更に高くなると(比較例5)、加熱溶解時の軟カプセル皮膜組成物の粘度が非常に高くなり均一な皮膜組成物とならず、流動性も低いためシートが形成されなかった。
【0041】
【表3】

【0042】
(比較例6〜7及び実施例7〜8)
表4に示した比較例6〜7及び実施例7〜8の処方に基づき、先の実施例1〜4に示した方法と同様に軟カプセル用皮膜シートならびに軟カプセル剤の調製と評価を行った。ここでは、軟カプセル皮膜組成物に用いたネイティブ型ジェランガムの配合量について比較検討した。比較例6は、ネイティブ型ジェランガムの配合量が1.2重量%と少ないため、ゲル化が不十分で皮膜シートが弱く、また皮膜シート表面のべとつきもやや多く、出来上がったカプセルの接着性も若干弱い。またブロッキングも一部に生じている。一方、ネイティブ型ジェランガムの配合量が1.5重量%まで増加した実施例7では、比較例6と比較してシート強度が上がり、表面のべとつきも抑制されカプセル接着性も改善された。ネイティブ型ジェランガムの配合量が6重量%まで増加した実施例8は、皮膜組成物の粘度が高くなり操作性がやや不良となるが、シート強度、シート表面のべとつき等その他の項目は良好であった。しかしながら、ネイティブ型ジェランガムの配合量が7重量%と更に多くなると(比較例7)、加熱溶解時の軟カプセル皮膜組成物の粘度が非常に高くなり均一な皮膜組成物とならず、流動性も低いためシートが形成されなかった。
【0043】
【表4】

【0044】
(比較例8〜9及び実施例9〜10)
表5に示した比較例8〜9及び実施例9〜10の処方に基づき、先の実施例1〜4に示した方法と同様に軟カプセル用皮膜シートならびに軟カプセル剤の調製と評価を行った。ここでは、軟カプセル皮膜組成物に用いた脱アシル型ジェランガムの配合量について比較検討した。比較例8は、脱アシル型ジェランガムを含まない処方で、皮膜シートの伸びはあるが縮みが少なくやや弱い。またカプセルの接着性等他の項目も、脱アシル型ジェランガムを0.04重量%配合した実施例9と比較して全般に悪い。一方、脱アシル型ジェランガムの配合量が3.0重量%まで増加した実施例10では、ゲル化剤の総量が6.8重量%と高くなったことから皮膜組成物の粘度が高くなり操作性がやや不良となるが、シート強度、シート表面のべとつき等その他の項目は良好であった。しかしながら、脱アシル型ジェランガムの配合量が3.4重量%と更に多くなると(比較例9)、加熱溶解時の操作性不良と共にシート中に一部未溶解物が点在し、また実施例10と比較して皮膜シートがやや脆くなった。
【0045】
【表5】

【0046】
(比較例10〜11及び実施例11〜14)
表6〜7に示した比較例10〜11及び実施例11〜14の処方に基づき、先の実施例1〜4に示した方法と同様に軟カプセル用皮膜シートならびに軟カプセル剤の調製と評価を行った。ここでは、軟カプセル皮膜組成物に用いたネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の割合について比較検討した。尚、表6〜7中においては、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の割合を、脱アシル型ジェランガム比率:軟カプセル皮膜組成物中のネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの総配合量に対する脱アシル型ジェランガム配合量の割合%で表した。
【0047】
比較例10は、脱アシル型ジェランガム比率が0.25%と少ないため、皮膜シートの伸びはあるが縮みが少なくやや弱い。また皮膜シート表面のべとつきもやや多く、ブロッキングも一部に生じている。一方、脱アシル型ジェランガム比率が1.0%(ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が99:1)まで増加した実施例11では、比較例10と比較してシート強度及び伸縮性が上がり、表面のべとつき及びカプセルのブロキングも改善された。脱アシル型ジェランガム比率が3.3%(ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が30:1)、33.3%(ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が2:1)、45.7%(ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が10:9)の実施例12〜14においては、良好な軟カプセル剤が得られている。さらに脱アシル型ジェランガム比率が高くなり50.0%(ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が10:10)となった比較例11では、硬く脆い性質の脱アシル型ジェランガムの配合量が増したことにより、皮膜シートに脆さが生じ、またカプセルの接着性もやや弱くなった。
【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
(実施例15〜17)
表8に示した実施例15〜17の処方に基づき、先の実施例1〜4に示した方法と同様に軟カプセル用皮膜シートならびに軟カプセル剤の調製と評価を行った。実施例15〜17では、酵素変性デキストリンと、酸化処理ワキシーコーンスターチ、酸処理ヒドロキシプロピル化コーンスターチといった他の加工デンプンとの混合使用により、皮膜強度がより強化され、皮膜シート調製時のシート表面のべとつきが低減された、カプセル接着性が高い軟カプセル剤が得られた。
【0051】
【表8】

【0052】
(実施例18、19)
表9に示した実施例18、19の処方(デキストリンはDE:4の酵素変性デキストリンを使用し、カプセル皮膜組成物に含まれる加工デンプン中のデキストリンの割合は63.1%)にて皮膜液80kgを調製し、ロータリーダイ式カプセル充填機にて軟カプセル剤を2時間の間、安定的に連続充填製造した。
【0053】
【表9】

【0054】
ロータリーダイ式カプセル充填機は、図1にロータリーダイ式カプセル充填機10として示され、その使用方法は下記のとおりである。
【0055】
ロータリーダイ式カプセル充填機10は、タンク11から供給される軟カプセル皮膜組成物溶液を左右のキャスティング装置12により左右の回転ドラム13上に展延して左右の皮膜シートAを得る。左右の皮膜シートAは、潤滑ローラー14、デフレクトロール15を経由して左右の回転する円筒金型(ダイロール)16に送られる。左右の皮膜シートAは、左右の金型16の上部に配置されている楔状のセグメント17に摺接して左右の金型16の間に送り込まれ、金型16と連動するポンプ18のピストン18Aが圧送する内容物Bが左右の金型16に挟まれて互いに会合する左右の皮膜シートAの間に圧入される。左右の皮膜シートAは、左右の金型16の凹部16Aによりくぼみを付与されるとともに、凹部16Aの周辺によりくぼみの周囲を圧着される。左右の皮膜シートAのくぼみが完全に閉じられる直前に、内容物Bがそのくぼみに圧入される。左右の皮膜シートAはそのくぼみに内容物Bを圧入された後に、左右の金型16における凹部16Aの周辺によってそのくぼみを完全に閉じられてカプセルCの形状となり、左右の金型16の厚切りによりカプセルCの打ち抜きが行なわれる。
【0056】
本発明のカプセル製造時には、内容物として、実施例18は中鎖脂肪酸トリグリセリドを、実施例19は米サラダ油を用いて、この充填機を下記の操作条件a〜cにて操作した。
a:皮膜シートA(厚さ0.7mm)を生成する回転ドラム13を、30〜80℃、より好適には35〜70℃に加熱し、b:左右の皮膜シートAを左右の金型16の間に送り込むセグメント17を加熱せずに常温(28℃)とし、c:左右の金型16は左右の皮膜シートAをヒートシールせずに圧着にてカプセル化した。
【0057】
製造した軟カプセルについては、製造時の皮膜シートの強度、べとつきや、乾燥後のカプセルの良球率、平均硬度、平均接着厚さ、長期安定性、ブロッキング等を評価した。
カプセルの良球率:2時間連続生産のうち、一部(6280カプセル)について乾燥して得た検体より検査サンプルを抜き取る。検査サンプル(1200検体)中のうち不良球(変形、皮泡、シート不良、漏れ球、気泡等を有するカプセルを示す)を除いたカプセル(良球)数の割合。
カプセルの平均硬度:木屋式硬度計((株)藤原製作所製)にてサンプル(20検体)に力をかけていき、破裂する際の力(kg)を測定し、その平均値を算出する。
カプセルの平均接着厚さ:サンプル(5検体)の中央部にて、皮膜の接着面に対して垂直に切断し、その切断面の皮膜接着面の厚さを測定し、その平均値を算出する。
カプセルの長期安定性:40℃の恒温槽中で16週間保管した後にカプセルの外観(変形、変色、液漏れの有無)を観察することにより評価する。
カプセルのブロッキング:カプセルを乾燥後ガラス瓶に詰め、長期保存後カプセルどうしの接着し易さを評価した。
【0058】
工業的製法として標準的なロータリーダイ式充填においても、皮膜混合組成物の粘度は低く、操作性(均一混合操作性)も良好であり、製造時に皮膜シートのダイロールへの付着、低シート強度によるシートの切断等の問題点は認められず、軟カプセル剤の連続充填が達成された。得られた軟カプセルは、実施例18では、平均硬度:15.1kg、平均接着厚さ:0.35mm、実施例19では、平均硬度:15.4kg、平均接着厚さ:0.36mmと、それぞれ良好な性能を示し、またブロッキングも抑えられた高品質の軟カプセル剤であった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1はロータリーダイ式カプセル充填機を示す模式図である。
【符号の説明】
【0060】
10 ロータリーダイ式カプセル充填機
13 回転ドラム
16 金型
17 セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工デンプンとネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムと可塑剤及び水からなる軟カプセル皮膜組成物。
【請求項2】
前記加工デンプンがデンプン誘導体、デンプン分解物、デキストリン、及び物理変性デンプンからなる群から選ばれる1種類以上である請求項1に記載の軟カプセル皮膜組成物。
【請求項3】
前記デキストリンが、酵素変性デキストリン、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、及び高度分岐環状デキストリンからなる群から選ばれる1種類以上である請求項1又は2に記載の軟カプセル皮膜組成物。
【請求項4】
乾燥前の皮膜液段階で前記加工デンプンの配合量が20〜50重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の軟カプセル皮膜組成物。
【請求項5】
前記加工デンプンの配合量のうち少なくとも20%以上がデキストリンである請求項1〜4のいずれかに記載の軟カプセル皮膜組成物。
【請求項6】
乾燥前の皮膜液段階で前記ネイティブ型ジェランガムの配合量が1.5〜6重量%で、脱アシル型ジェランガムの配合量が0.04〜3重量%であり、その時ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの配合量の比が、10:9〜99:1である請求項1〜5のいずれかに記載の軟カプセル皮膜組成物。
【請求項7】
前記可塑剤がグリセリン、糖アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、単糖類及び二糖類からなる群から選ばれる1種類以上である請求項1〜6のいずれかに記載の軟カプセル皮膜組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の皮膜組成物の溶液を回転ドラム上に展延することにより皮膜シートに成形する工程において、回転ドラムを30〜80℃に加熱することにより、皮膜シートに機械的強度と圧着のための接着力を付加させる軟カプセル剤製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−40716(P2009−40716A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207004(P2007−207004)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(591235603)財団法人応用生化学研究所 (2)
【出願人】(391010976)富士カプセル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】