説明

軟カプセル皮膜

【課題】良好な流動性、フィルム形成性を有し、優れた皮膜性能が得られる植物性の軟カプセル皮膜及び軟カプセルの製造方法の提供。
【解決手段】(A)カラギーナン、(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉、並びに(C)可塑剤を含有することを特徴とする軟カプセル皮膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟カプセル皮膜及びそれを用いた軟カプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟カプセルは、医薬品、食品、化粧品等の幅広い分野において用いられている。最も汎用されている軟カプセルの皮膜基剤はゼラチンであり、ゼラチンは安価で毒性がなく、優れた機械的強度、皮膜形成能等を示す。
【0003】
一方、昨今の牛海綿状脳症(BSE)の問題や宗教上の理由から、動物由来のゼラチンの代替品が求められており、カプセルにおいても例外ではない。
そこで、植物由来の基剤を用いたカプセル皮膜について様々な研究がなされ、例えば、カラギーナン、コーンシロップ固形分が添加された澱粉オクテニルコハク酸ナトリウム等の化工澱粉、可塑剤及び水を含む膜形成組成物(特許文献1)、カラギーナンとデキストリン類を含むカプセル剤皮組成物(特許文献2、3)、酸分解ワキシコーンスターチ、イオタカラギーナン及び可塑剤を含むソフトカプセル用フィルム形成組成物(特許文献4)、ヒドロキシプロピル化デキストリン、酸化澱粉、ゲル化剤、可塑剤及び水を含む皮膜用組成物(特許文献5)等が報告されている。
【0004】
一般的に、軟カプセル皮膜には、製造時において皮膜溶液の適度な流動性、良好なフィルム形成性、適度なシート強度・伸び・接着性等が要求され、また、カプセル化後において、カプセル同士の付着を防止するブロッキング耐性、弾力性、透明性等が要求される。
しかしながら、このような皮膜性能を総合的に備えた植物性の皮膜は未だ見出されていないのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−529066号公報
【特許文献2】特開2005−176744号公報
【特許文献3】特開2009−173607号公報
【特許文献4】特開2010−180159号公報
【特許文献5】特開2008−88111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の如き従来の実状に鑑みてなされたものであり、良好な流動性、フィルム形成性を有し、優れた皮膜性能が得られる植物性の軟カプセル皮膜及び軟カプセルの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、当該課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、カラギーナンと酸化澱粉又は漂白澱粉を組み合わせれば、皮膜液に適度な流動性があり、フィルム形成性が良好で、優れた皮膜性能が得られることを見出した。さらに、斯かる皮膜液からロータリーダイ式軟カプセル充填機を用いて軟カプセルを製造するに際し、予め皮膜シートを加熱して、ヒートシールすることなく皮膜シートの圧着によりカプセル化することで、より高品質の軟カプセルを長時間継続して製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記1.〜29.に係るものである。
1.(A)カラギーナン、(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉、並びに(C)可塑剤を含有することを特徴とする軟カプセル皮膜。
2.(A)カラギーナンが、イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの混合物である上記1.記載の軟カプセル皮膜。
3.イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中8〜40質量%である上記2.記載の軟カプセル皮膜。
4.イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中10〜30質量%である上記2.記載の軟カプセル皮膜。
5.イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中15〜20質量%である上記2.記載の軟カプセル皮膜。
6.カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.1〜0.8質量%である上記2.〜5.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
7.カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.3〜0.8質量%である上記2.〜5.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
8.カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.4〜0.7質量%である上記2.〜5.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
9.イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が400:1〜10:1である上記2.〜8.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
10.イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が133:1〜10:1である上記2.〜8.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
11.イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が75:1〜21:1である上記2.〜8.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
12.(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量が、固形成分の合計量中60〜90質量%である上記1.〜11.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
13.(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量が、固形成分の合計量中70〜80質量%である上記1.〜11.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
14.さらに、ショ糖、ブドウ糖、マルトース、乳糖及びデキストリンからなる群から選ばれた1種又は2種以上の標準化物質を含む、上記1.〜13.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
15.(A)カラギーナン、(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉、並びに(C)可塑剤を含有する軟カプセル皮膜液を調製する工程と、
前記軟カプセル皮膜液を一対の回転ドラム上に展延することにより一対の皮膜シートを成形する工程と、
前記一対の皮膜シートを一対の回転する金型の間に送る工程と
を含む軟カプセルの製造方法であって、
前記一対の皮膜シートが一対の回転する金型に至るまでの間に、常温よりも高い温度に加熱されることにより、該金型の上部に配置されているセグメントを加熱せずに常温として該皮膜シートを圧着によりカプセル成形することを特徴とする軟カプセルの製造方法。
16.皮膜シートの加熱が、回転ドラムを30〜80℃に加熱することにより行われる上記15.記載の軟カプセルの製造方法。
17.皮膜シートの加熱が、回転ドラムを40〜75℃に加熱することにより行われる上記15.記載の軟カプセルの製造方法。
18.(A)カラギーナンが、イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの混合物である上記15.〜17.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
19.イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中8〜40質量%である上記18.記載の軟カプセルの製造方法。
20.イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中10〜30質量%である上記18.記載の軟カプセルの製造方法。
21.イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中15〜20質量%である上記18.記載の軟カプセルの製造方法。
22.カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.1〜0.8質量%である上記18.〜21.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
23.カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.3〜0.8質量%である上記18.〜21.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
24.カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.4〜0.7質量%である上記18.〜21.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
25.イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が400:1〜10:1である上記18.〜24.のいずれかに記載の軟カプセル皮膜。
26.イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が133:1〜10:1である上記18.〜24.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
27.イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が75:1〜21:1である上記上記18.〜24.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
28.(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量が、固形成分の合計量中60〜90質量%である上記15.〜27.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
29.(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量が、固形成分の合計量中70〜80質量%である上記15.〜27.のいずれかに記載の軟カプセルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動物由来のゼラチンを使用することなく、ブロッキング耐性、弾力性、透明性等の皮膜性能に優れた軟カプセルを安定的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ロータリーダイ式軟カプセル充填機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる(A)カラギーナンは、硫酸基をもつガラクタンの一種であり、紅藻類に存在していることが知られている。カラギーナンは、ゲル化特性や構造の違いにより、主にイオタカラギーナン、カッパカラギーナン、ラムダカラギーナンの3種類に分類できる。なお、日本の食品添加物の規定では、「精製カラギナン」、「加工ユーケマ藻類」、「ユーケマ藻末」の三種類が規定されている(日本食品添加物協会刊、「既存添加物名簿収載品目リスト注解書」(1999)参照)が、これらは精製度が異なるのみで、本質的には全て本発明におけるカラギーナンに含まれる。
本発明においては、ゲル化能の点から、イオタカラギーナン、カッパカラギーナンを用いるのが好ましく、特にイオタカラギーナンとカッパカラギーナンの混合物を用いるのが好ましい。なお、カラギーナンは、それぞれ純粋品でもよいし、標準化物質を含んだものも利用することができる。ここで、標準化物質としては、ショ糖、ブドウ糖、マルトース、乳糖等の糖類及びデキストリンからなる群から選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。好ましくはショ糖、デキストリンである。デキストリンとしては、酸分解デキストリンと酵素分解デキストリンが好ましい。なお、ここにいうデキストリンは、マルトデキストリン(「デキストリンより分解の進んだ」(化学大辞典8、897頁、共立出版社))、環状デキストリンとは、異なる物質である。
また、イオタカラギーナンとカッパカラギーナンを、あらかじめ混合してあるブレンド原料も利用可能である。
【0012】
イオタカラギーナンの含有量は、皮膜強度の点、皮膜溶液の流動性の点から、固形成分の合計量中、8〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、特に15〜20質量%が好ましい。なお、この発明において固形成分とは、皮膜組成の中から、精製水と可塑剤を除いたもののことである。
また、カッパカラギーナンの含有量は、ゲル化強度の点から、固形成分の合計量中、0.1質量%以上が好ましく、更に0.3質量%以上が好ましく、皮膜強度(脆弱性)の観点から0.8質量%以下が好ましい。より好ましくは0.4〜0.7質量%である。
【0013】
また、本発明において、イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比(イオタ:カッパ)は、総合的な観点(皮膜強度の点、皮膜溶液の流動性の点、ゲル化強度の点)から、400:1〜10:1(40:0.1〜8:0.8)が好ましく、133:1〜10:1(40:0.3〜8:0.8)がより好ましく、特に75:1〜21:1(30:0.4〜15:0.7)が好ましい。
【0014】
本発明に用いられる(B)酸化澱粉は、澱粉を酸化剤で酸化処理することにより得られる澱粉である。なお、澱粉を、酸、酸化剤等で熱化学処理して低粘度化した自家変性澱粉も酸化澱粉に含むものとする。
酸化澱粉は、酸化処理以外の化工処理、例えば、酸処理、アルファ化、エーテル化、アセチル化等を行っていないものが好ましい。アセチル化の化工を施した澱粉は検討の結果適当でないことが判明している(後述の試験例13)。
【0015】
また、本発明に用いられる(B)漂白澱粉は、澱粉に対し化学修飾を行うことなく他の色素成分を酸化処理する等によって澱粉の色調を調整した澱粉である。
本発明において、酸化澱粉と漂白澱粉は、それぞれ1種を用いてもよく、酸化澱粉及び漂白澱粉のなかから適宜2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
酸化処理等に供される澱粉の種類に特に限定はなく、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉等の未変性澱粉が挙げられる。これらのうち2種以上の澱粉混合物を酸化処理してもよい。
【0017】
酸化剤としては、特に限定されず、例えば、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩;次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩;亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩等を挙げることができる。
【0018】
酸化澱粉又は漂白澱粉のカルボキシ基含量は、1.1質量%以下が好ましく、特に0.8質量%以下が好ましい。澱粉中のカルボキシ基の定量は厚生労働省告示第485号(平成20年10月1日官報号外216号28〜35ページ)記載の方法
(電子政府のウェブページ=http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000035986〔2010/11/11検索〕に公開されている「別紙」の6〜7頁、「純度試験」の項目中の(2)「カルボキシ基」で参照可能)によって行われる。
【0019】
本発明において、(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量は、皮膜シート強度の点から、固形成分の合計量中90質量%以下、接着強度の面で60質量%以上が好ましく、70〜80質量%がより好ましい。
【0020】
本発明に用いられる(C)可塑剤としては、特に制限されず、例えば、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。なかでも、グリセリンが好ましい。
軟カプセル皮膜における可塑剤は、柔軟性の点から、固形成分の合計量を100質量部として、30〜60質量部、特に40〜50質量部含有するのが好ましい。
【0021】
本発明の軟カプセル皮膜には、必要に応じて、カプセルの皮膜に用いられる各種添加剤、例えば天然色素、合成色素、遮光剤、各種甘味料などの呈味剤、防腐剤、安定化剤、水分活性低下剤、pH調整剤等を配合することができる。
【0022】
また、本発明の軟カプセル皮膜には、必要に応じて、アルギン酸ナトリウム、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ファーセルラン等のカラギーナン以外のゲル化剤;未変性澱粉、化工澱粉、澱粉分解物等の酸化澱粉、漂白澱粉以外の澱粉類を含有させることができるが、皮膜の物性、軟カプセルの品質を考慮して、カラギーナン以外のゲル化剤及び酸化澱粉、漂白澱粉以外の澱粉類の含有量は、それぞれ固形成分の合計量中、1質量%以下、さらに0.5質量%以下、特に0質量%であることが好ましい。
【0023】
軟カプセル皮膜は、常法に従って製造することができる。例えば、カラギーナン、酸化澱粉及び/又は漂白澱粉、可塑剤、さらに必要に応じて各種添加剤を水に攪拌・分散させて、90〜98℃で攪拌・溶解させた後、真空脱泡すればよい。
皮膜液のpH(100倍希釈液、70℃)は、6.0〜8.0が好ましい。
【0024】
斯かる軟カプセル皮膜を所定形状に成形、乾燥することで軟カプセルが得られる。軟カプセルは、例えば、従来用いられている軟カプセルの製法、例えばロータリーダイ式軟カプセル充填機等を用いた打ち抜き法、平板法等により製造することができる。なかでも、工業的生産性の点から、ロータリーダイ式により製造するのが好ましい。
【0025】
ロータリーダイ式軟カプセル充填機は、軟カプセル皮膜液を回転ドラム上に展延することにより成形した皮膜シート2枚を、一対の回転する金型(ダイロール)でカプセル形状に打ち抜く方法で、軟カプセル成形、カプセル内容物の充填が同時に行われる。
【0026】
図1に、本発明で用いられるロータリーダイ式軟カプセル充填機の一例を示す。ロータリーダイ式軟カプセル充填機10は、主に、回転ドラム13、一対の回転する金型(ダイロール)16、セグメント17から構成されている。
先ず、タンク11から軟カプセル皮膜液が供給され、キャスティング装置12により回転ドラム13上に展延されて皮膜シートAが成形される。同様に、一対の皮膜シートAが成形される。
一対の皮膜シートAは、潤滑ローラー14、デフレクトロール15を経由して一対の回転する金型(ダイロール)16の間に送り込まれ、他方、金型(ダイロール)16と連動するポンプ18のピストン18Aが圧送するカプセル内容物Bが、金型(ダイロール)16に挟まれて互いに会合する皮膜シートAの間に圧入される。皮膜シートAは、金型(ダイロール)16の凹部16Aによりくぼみを付与されるとともに、凹部16Aの周辺によりくぼみの周囲を圧着される。皮膜シートAのくぼみが完全に閉じられる直前に、カプセル内容物Bがそのくぼみに圧入される。次いで、凹部16Aの周辺によってそのくぼみが完全に閉じられて軟カプセルの形状となり、金型(ダイロール)16の圧切により軟カプセルCの打ち抜きが行なわれる。
【0027】
通常、軟カプセル皮膜液は、冷却した一対の回転ドラム上に展延することにより一対のシート状とされ、また、カプセル成形時には、一対の回転する金型(ダイロール)16の上部に配置されているセグメント17により前記一対の皮膜シートが接着に必要な温度(通常40℃以上)に熱せられて、ダイロールの圧力とヒートシールによって接着面の完全な軟カプセルとなる。しかし、カプセル化のためのヒートシールの際にカプセル内容物が高温に晒され変性するおそれがあるため、本発明においては、一対の皮膜シートを常温より高い温度、例えば30〜80℃、好ましくは40〜75℃に加熱した後、一対の回転する金型(ダイロール)の間に送り、セグメントを加熱せずに常温(22〜28℃)として、該皮膜シートを圧着によりカプセル成形するのが好ましい。予め皮膜シートを加熱しておくことで、皮膜シートの機械的強度及び圧着時の接着力が向上し、より高品質な軟カプセルが成形できる。また、ヒートシールを回避することで、カプセル内容物を加熱から保護でき、例えば、耐熱性の弱い薬物等もカプセル化できる。
【0028】
皮膜シートの加熱は、例えば、回転ドラムを30〜80℃、好ましくは40〜75℃に加熱する方法、回転ドラム〜金型までの間に赤外線ヒーターや温風を吹き当てる等の加熱装置を備えて加熱する方法により行われる。なお、皮膜シートは、成形から一対の回転金型に至るまでの間に常温より高い温度に加熱されていればよく、回転金型に至った際には、常温まで下がっていてもよい。
【0029】
本発明の軟カプセルは、医薬品、医薬部外品、食品、化粧品等種々の用途に利用することができ、カプセル内容物の組成は用途に応じて適宜決定される。内容物の形態は溶液状、懸濁液状、ペースト状、粉末状、顆粒状等いずれであってもよい。
そして、軟カプセルは、瓶詰め包装、PTP包装、パウチ等の包装形態で包装されて保存され、流通する。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0031】
実施例1〜3について、原料は下記のものを使用した。
イオタカラギーナン:CPケルコ社製の標準化物質(ショ糖)20質量%添加品。※
カッパカラギーナン:三菱商事フードテック社製の100質量%品。
酸化澱粉:松谷化学工業社製「スタビローズ」、カルボキシ基含量0.8質量%以下
グリセリン:阪本薬品工業社製、食品添加物グレード
※各試験例の処方欄に記載の「イオタカラギーナン」の各処方量は、標準化物質を含まない量を記載した。
【0032】
実施例1 平板法による軟カプセルの製造
(1)製法A
表1に示した量(質量部)のゲル化剤、澱粉、グリセリンをそれぞれ水に攪拌・分散させた後、90〜95℃で攪拌しながら溶解させ、真空脱泡した。この皮膜液を、薄層クロマトグラフ用アプリケータを用いてステンレス板上に約1mmの厚さになるように均一に押し広げて、約15℃で2分間冷却した後フィルム状の皮膜シートを得た。(この段階で、下記〔a.皮膜シートの強度の評価〕〔b.皮膜シートの伸びの評価〕を行った。)
得られた皮膜シートを、平板式簡易カプセル装置を用い、型を温めた状態でカプセル化操作を行い、軟カプセルを成形した(試験例1〜6)。(この段階で、〔c.カプセル成形直後の皮膜シートの接着性の評価〕を行った。)
【0033】
さらに、この軟カプセルを、相対湿度20%以下に調整されたデシケータ中に24時間保存し、乾燥軟カプセルを得た。(この段階で、〔d.乾燥後のカプセルの弾力性の評価〕、〔e.乾燥後のカプセルの付着性の評価〕及び〔f.乾燥後のカプセルの透明性の評価〕を行った。)
このテストでは、従来と同様、回転ドラム上では皮膜シートを冷却し、セグメントにおいて加熱を伴う場合を想定したものである。
【0034】
(2)製法B
表1に示した量(質量部)のゲル化剤、澱粉、グリセリンをそれぞれ水に攪拌・分散させた後、90〜95℃で攪拌しながら溶解させ、真空脱泡した。この皮膜液を、薄層クロマトグラフ用アプリケータを用いてステンレス板上に約1mmの厚さになるように均一に押し広げて、約60℃で2分間加温した後フィルム状の皮膜シートを得た。(この段階で、下記〔a.皮膜シートの強度の評価〕〔b.皮膜シートの伸びの評価〕を行った。)
得られた皮膜シートを、平板式簡易カプセル装置を用い、型を温めず常温でカプセル化操作を行い、軟カプセルを成形した(試験例7)。(この段階で、〔c.カプセル成形直後の皮膜シートの接着性の評価〕を行った。)
【0035】
さらに、この軟カプセルを、相対湿度20%以下に調整されたデシケータ中に24時間保存し、乾燥軟カプセルを得た。(この段階で、〔d.乾燥後のカプセルの弾力性の評価〕、〔e.乾燥後のカプセルの付着性の評価〕及び〔f.乾燥後のカプセルの透明性の評価〕を行った。)
このテストでは、回転ドラム上では皮膜シートを加熱し、セグメントにおいては常温で行う場合を想定したものである。
【0036】
〔a.皮膜シートの強度の評価〕
専門パネル5名の感覚により、以下に示す評価基準に従って、皮膜シートの強度を評価した。
5:とても強い
4:強い
3:やや強い
2:弱い
1:とても弱い。
〔b.皮膜シートの伸びの評価〕
専門パネル5名の感覚により、皮膜シートの強度の評価時に同時に、以下に示す評価基準に従って、皮膜シートの伸びを評価した。
5:とても伸びて、弾力性がある
4:伸びて、弾力性がある
3:伸びはあるが、弾力性がやや弱い
2:ほとんど伸びがなく、弾力性が弱い
1:伸びがなく、弾力性がない
【0037】
〔c.カプセル成形直後の皮膜シートの接着性の評価〕
後述する製法Aまたは製法Bによりカプセル化を行い、専門パネル5名で乾燥前のカプセルを指で押しつぶして、以下に示す評価基準に従って、カプセル成形直後の皮膜シートの接着性を評価した。
5:強く押しても内容液が全く漏れ出さないし、24時間静置してもすべてのカプセルに浸出が発生しない
4:強く押しても内容液は漏れ出さないが、24時間静置すると一部のカプセルに浸出が発生する
3:強く押すとごく少量の内容液が漏れてしまう
2:弱く押しても少量の内容液が漏れてしまう
1:弱く押しても内容液が漏れてしまう
【0038】
〔d.乾燥後のカプセルの弾力性の評価〕
専門パネル5名でカプセルを指で押した際の変形を観察し、以下に示す評価基準に従って、カプセルの弾力性を評価した。
5:変形しないか、少し変形してもすぐに元の形に戻る
4:押すと少し変形するが、しばらく置けば元の形に戻る
3:押すと変形し、元の形に戻るのに時間がかかる
2:押すと変形し、殆ど元に戻らない
1:押したら変形したまま元に戻らない
【0039】
〔e.乾燥後のカプセルの付着性の評価〕
専門パネル5名でカプセルをガラス瓶に入れ、逆さにして落下するかどうか観察し、以下に示す評価基準に従って、カプセルの付着性を評価した。
5:ガラス瓶を逆さにするだけで、カプセルがパラパラと落ちる
4:ガラス瓶を逆さにして軽く振ると、カプセルが落ちる
3:ガラス瓶を逆さにして軽くたたくと、カプセルが落ちる
2:ガラス瓶を逆さにしてたたきつけると、ようやくカプセルが落ちる
1:ガラス瓶にカプセルが強固にはりついている
【0040】
〔f.乾燥後のカプセルの透明性の評価〕
専門パネル5名で目視にて、以下に示す評価基準に従って、カプセルの透明性を評価した。
5:ゼラチン皮膜と同等
4:ゼラチン皮膜と殆ど同等
3:ゼラチン皮膜よりやや劣る
2:刷りガラスに近い
1:刷りガラスと同等
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、本発明の軟カプセル皮膜は、皮膜性能に優れ、品質の良好な軟カプセルを得ることができた(試験例1及び2)。一方、酸化澱粉以外の澱粉を用いた試験例3〜6、ゲル化剤としてネイティブジェランガムを用いた試験例7では、皮膜の物性に難があり、カプセル化後の弾力性、付着性に劣った。
【0043】
実施例2 ロータリーダイ式軟カプセル充填機による軟カプセルの製造
(1)表2に示した量(質量部)のカラギーナン、澱粉、グリセリンをそれぞれ水に攪拌・分散させた後、90〜98℃で攪拌しながら溶解させ、真空脱泡した。この皮膜液から、図1に示すロータリーダイ式軟カプセル充填機10を用いて軟カプセルを製造した。先ず、皮膜液をキャスティング装置により、45℃の回転ドラム上に展延して皮膜シートを調製した。この時の皮膜シートの温度は45℃であった。
各皮膜シートの物性(強度、伸び、接着)について、実施例1と同様に評価を行った。
【0044】
(2)次いで、得られた皮膜シート2枚を、それぞれ潤滑ローラー、デフレクトロールを経由して一対の回転する円筒金型の間に送り、セグメントを加熱せず常温のまま(22〜28℃)カプセル化して、軟カプセルを得た(試験例8〜18)。回転金型近くにおける皮膜シートの温度は約29℃であった。軟カプセルの弾力性、付着性、透明性について、実施例1と同様に評価を行った。
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2より、本発明の軟カプセル皮膜は、皮膜性能に優れ、品質の良好な軟カプセルを得ることができた(試験例8)。一方、未変性デンプン等用いた試験例9−11及び16では、皮膜液の粘度が高く、機械的強度が不足し、カプセル化できなかった。また、アセチル化酸化澱粉を用いた試験例13では、皮膜液のpHが低く、カプセル化できなかった。
酸処理ワキシーコーンスターチ等を用いた試験例12,14−15,17−18では、特に皮膜の伸びと接着に難があり、カプセル化後の弾力性、付着性も劣り、軟カプセルの品質としては十分なものではなかった。
【0047】
実施例3
(1)実施例2と同様にして、表3に示す処方で皮膜液を調製し、次いでロータリーダイ式軟カプセル充填機10を用いて皮膜シートを調製した。各皮膜シートの物性(強度、伸び、接着)について、実施例1と同様に評価を行った。
【0048】
(2)得られた皮膜シート2枚から、実施例2と同様にして、120分間連続して軟カプセルを製造した(試験例20〜25)。回転金型近くにおける皮膜シートの温度は約29℃であった。軟カプセルの弾力性、付着性、透明性ついて、実施例1と同様に評価を行った。
結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より、本発明の軟カプセル皮膜は、皮膜性能に優れ、品質の良好な軟カプセルを得ることができた(試験例19−24)。また、120分間連続運転においても、まったく問題が発生せず、軟カプセルを長時間継続して安定製造できることが確認された。
【0051】
実施例4
原料は下記のものを使用した。
イオタカラギーナン:CPケルコ社製の標準化物質(ショ糖)40質量%添加品。※
〃 :MSC社製標準化物質(デキストリン)40質量%添加品。※
カッパカラギーナン:三菱商事フードテック社製の100質量%品。
酸化澱粉:松谷化学工業社製「スタビローズ」、カルボキシ基含量0.8質量%以下
グリセリン:阪本薬品工業社製、食品添加物グレード
※各試験例の処方欄に記載の「イオタカラギーナン」の各処方量は、標準化物質を含まない量を記載した。
(1)実施例1の製法Bと同様にして、表4に示す処方で皮膜液を調製し、フィルム状の皮膜シートを得た。各皮膜シートの物性(強度、伸び)について、実施例1と同様に評価を行った。
【0052】
(2)得られた皮膜シートを、平板式簡易カプセル装置を用い、型を温めず常温でカプセル化操作を行い、軟カプセルを成形した(試験例25〜32)。皮膜シートの接着性、軟カプセルの弾力性、付着性、透明性ついて、実施例1と同様に評価を行った。
結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
表4より、本発明の軟カプセル皮膜は、皮膜性能に優れ、品質の良好な軟カプセルを得ることができた(試験例25,26,31〜32)。一方、未変性デンプンを用いた試験例27では、皮膜液の粘度が高く、機械的強度が不足し、カプセル化できなかった。また、酸処理ワキシーコーンスターチ等を用いた試験例28〜30では、特に皮膜の伸びに難があり、軟カプセルの品質としても十分なものではなかった。
【符号の説明】
【0055】
ロータリーダイ式軟カプセル充填機 10
タンク 11
キャスティング装置 12
回転ドラム 13
潤滑ローラー 14
デフレクトロール 15
一対の回転する金型(ダイロール) 16
金型(ダイロール)の凹部 16A
セグメント 17
ポンプ 18
ピストン 18A
皮膜シート A
カプセル内容物 B
軟カプセル C

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カラギーナン、(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉、並びに(C)可塑剤を含有することを特徴とする軟カプセル皮膜。
【請求項2】
(A)カラギーナンが、イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの混合物である請求項1記載の軟カプセル皮膜。
【請求項3】
イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中8〜40質量%である請求項2記載の軟カプセル皮膜。
【請求項4】
カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.1〜0.8質量%である請求項2記載の軟カプセル皮膜。
【請求項5】
イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が400:1〜10:1である請求項2〜4のいずれか1項記載の軟カプセル皮膜。
【請求項6】
(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量が、固形成分の合計量中60〜90質量%である請求項1〜5のいずれか1項記載の軟カプセル皮膜。
【請求項7】
さらに、ショ糖、ブドウ糖、マルトース、乳糖及びデキストリンからなる群から選ばれた1種又は2種以上の標準化物質を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の軟カプセル皮膜。
【請求項8】
(A)カラギーナン、(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉、並びに(C)可塑剤を含有する軟カプセル皮膜液を調製する工程と、
前記軟カプセル皮膜液を一対の回転ドラム上に展延することにより一対の皮膜シートを成形する工程と、
前記一対の皮膜シートを一対の回転する金型の間に送る工程と
を含む軟カプセルの製造方法であって、
前記一対の皮膜シートが一対の回転する金型に至るまでの間に、常温よりも高い温度に加熱されることにより、該金型の上部に配置されているセグメントを加熱せずに常温として該皮膜シートを圧着によりカプセル成形することを特徴とする軟カプセルの製造方法。
【請求項9】
皮膜シートの加熱が、回転ドラムを30〜80℃に加熱することにより行われる請求項8記載の軟カプセルの製造方法。
【請求項10】
(A)カラギーナンが、イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの混合物である請求項8又は9記載の軟カプセルの製造方法。
【請求項11】
イオタカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中8〜40質量%である請求項10記載の軟カプセルの製造方法。
【請求項12】
カッパカラギーナンの含有量が、固形成分の合計量中0.1〜0.8質量%である請求項10記載の軟カプセルの製造方法。
【請求項13】
イオタカラギーナンとカッパカラギーナンの含有質量比が400:1〜10:1である請求項10〜12のいずれか1項記載の軟カプセルの製造方法。
【請求項14】
(B)酸化澱粉及び/又は漂白澱粉の含有量が、固形成分の合計量中60〜90質量%である請求項8〜13のいずれか1項記載の軟カプセルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40217(P2013−40217A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−260484(P2012−260484)
【出願日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【分割の表示】特願2012−527930(P2012−527930)の分割
【原出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(391010976)富士カプセル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】