説明

軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤

【課題】軟体動物駆除剤、なかでも特にリン酸鉄と穀物粉を含有する製剤の改良にあたり、その喫食性を更に向上させて駆除効力を増強させうる駆除効力増強剤の提供。
【課題の解決手段】ソルビン酸又はソルビン酸塩から選ばれることを特徴とする軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。軟体動物駆除剤としては、リン酸鉄と穀物粉を含有する製剤が好ましく、前記ソルビン酸又はソルビン酸塩としてはソルビン酸カリウムが好ましい。また、前記穀物粉は少なくとも小麦粉とトウモロコシ粉を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ナメクジ、カタツムリ、マイマイ等の腹足類に属する軟体動物は、野菜や花弁植物に被害をもたらしたり、人に不快感を与えることから防除の対象にあげられてきた。そのための駆除剤としては、脱水作用によるメタアルデヒドが代表的で、現在でも広く汎用されているが、その駆除効果は必ずしも満足のいくものではない。また、人畜に対する毒性が高いうえ、腹足類が薬剤を摂食後、醜い粘性の徘徊痕を残したり、摂食後に降雨等で水分が補給されると回復するケースがあるなどの問題を有している。
【0003】
かかる状況を背景として、メタアルデヒドと作用性の異なる代替薬剤の検討も行われ、例えば、特許第3710379号公報(特許文献1)や特開2010−1263号公報(特許文献2)ではリン酸鉄を含む軟体動物駆除剤が開示されている。
リン酸鉄は、自然環境下の土壌中に存在する化合物で人畜に対する安全性が高く、米国やEUでは有機栽培認定薬剤として認められている。しかも、その作用性は食毒であり、摂食した腹足類は、粘性の徘徊痕を残すことなく隠れた生息場所に戻って死亡し、また、駆除効果は湿気の影響を受けないので、特に農薬や園芸用分野で実用性の高い軟体動物駆除剤として実用化に至っている。
このように、リン酸鉄は優れた軟体動物駆除剤を提供するものであるが、リン酸鉄自体には腹足類に対する誘引性がなく、喫食性の更なる向上は残された改良点の一つであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3710379号公報
【特許文献2】特開2010−1263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軟体動物駆除剤、なかでも特にリン酸鉄と穀物粉を含有する製剤の改良にあたり、それらの喫食性を更に向上させて駆除効力を増強させうる駆除効力増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)ソルビン酸又はソルビン酸塩から選ばれることを特徴とする、軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
(2)前記軟体動物駆除剤が、リン酸鉄と穀物粉を含有する製剤である(1)に記載の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
(3)前記ソルビン酸又はソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウムである(1)又は(2)に記載の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
(4)前記穀物粉が、少なくとも小麦粉とトウモロコシ粉を含む(2)又は(3)に記載の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤は、軟体動物駆除剤、なかでも特にリン酸鉄と穀物粉を含有する製剤において、それらの喫食性を更に向上させて駆除効力を増強させうるので、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる軟体動物駆除剤の有効成分としては、リン酸鉄やメタアルデヒド等があげられるが、安全性や使い易さ等を考慮してリン酸鉄が好ましい。リン酸鉄には、リン酸第一鉄[Fe3(PO42]とリン酸第二鉄[Fe(PO4)]があるが、本発明ではリン酸第二鉄が好適に用いられる。軟体動物駆除剤中のリン酸第二鉄の含有量は、0.5〜5.0質量%程度が適当であり、0.5質量%未満であると駆除効果が不足し、一方、5.0質量%を超えると製剤の物性上支障を生じることがあるので好ましくない。
リン酸鉄は、自然環境下の土壌中に存在する化合物で、人畜に対する安全性が高く、人のみならず、犬、ネコ等のペット類やミミズ等、ナメクジ、カタツムリ等以外には害を及ぼさないというメリットを有する。しかも、腹足類に対する駆除効果は遅効的な食毒作用によるため、摂食した腹足類は隠れた生息場所に戻って死亡し、従って、メタアルデヒドの場合に見られるような、粘性の徘徊痕を残したり、摂食後に降雨等で水分が補給されると回復するといった問題を生じない。
一方、メタアルデヒドを用いる場合、軟体動物駆除剤中の含有量は1.0〜10質量%程度が適当である。
【0009】
前記軟体動物駆除剤は、有効成分に加え、例えば穀物粉で代表される食餌並びに誘引基材を含有する。かかる穀物粉には、小麦粉、トウモロコシ粉、米粉、オート麦粉、大豆粉、米糠などがあげられるがこれらに限定されない。
ナメクジやカタツムリに対する喫食試験によれば、有効成分としてリン酸鉄を用いた場合には、小麦粉とトウモロコシ粉が良好な結果を与えることが認められた。従って、リン酸鉄との組合わせでは、少なくとも小麦粉とトウモロコシ粉を含み、喫食性に悪影響を来たさない限りにおいて他の基材が適宜混合された穀物粉を使用するのが好ましい。
【0010】
本発明は、このような軟体動物駆除剤において、ソルビン酸又はソルビン酸塩から選ばれる駆除効力増強剤を配合し、その喫食性を一層向上させて駆除効力を増強させたことに特徴を有する。
即ち、ソルビン酸又はソルビン酸塩は、防カビ剤もしくは保存剤としては公知で広く使用されているが、本発明者らは、軟体動物駆除剤、なかでも特にリン酸鉄と穀物粉を含有する製剤と組合わせた場合に、特異的にその喫食性を向上させ駆除効力を増強させうることを知見し、この新規な技術思想に基づいて本発明を完成させたものである。
ソルビン酸又はソルビン酸塩としては、ソルビン酸以外に、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸アンモニウム、ソルビン酸カルシウム等を例示できるが、駆除効力増強作用や入手性、製造適用性等を考慮するとソルビン酸カリウムが好適であり、軟体動物駆除剤全体量に対して0.05〜2.0質量%程度配合すれば十分な効果を得ることができる。
なお、ソルビン酸又はソルビン酸塩以外の保存剤、例えば、イソチアゾリン系保存剤、ポリリジン、ブロモニトロアルコール系化合物につき、リン酸鉄との組合わせ試験を行ったが、駆除効果の増強作用は殆ど観察されなかった。
【0011】
本発明の軟体動物駆除剤には、本発明の趣旨を妨げない限りにおいて、他の成分を適宜配合してもよい。
かかる成分としては、リン酸鉄以外の鉄化合物、銅、亜鉛、アルミニウム及びこれらの混合物からなる群から選ばれる金属化合物、エチレンジアミンコハク酸、その塩、もしくはその金属錯体からなる群から選ばれる添加物などがあげられる。
また、澱粉、糖類、野菜、果実、魚介類、骨粉、酵母、脂肪、寒天、ゼラチン等の各種原料や加工品の粉状もしくは顆粒体などを含む食餌成分、水を含む溶剤、pH調整剤、防水剤、バインダー、分散剤、苦味剤、着色剤、香料、更にはソルビン酸又はソルビン酸塩以外の保存剤なども必要に応じて添加することができる。
【0012】
本発明の軟体動物駆除剤は、通常ペレット状もしくは顆粒状のものが使い易く、その調製にあたっては、従来公知の製造方法を任意に採用できる。例えば、有効成分と穀物粉及び他の成分の粉状混合物に、ソルビン酸又はソルビン酸塩を含む水溶液あるいはアルコール液を加えて混合し、ペレット状もしくは顆粒状に加工後乾燥させてもよいし、あるいは、有効成分と穀物粉等から予め製したペレット状もしくは顆粒状中間体の表面にソルビン酸又はソルビン酸塩が担持されるように、その水溶液あるいはアルコール液とペレット状もしくは顆粒状中間体を必要ならば他の穀物粉や他の成分の一部と共に混合・乾燥するようにしても構わない。
【0013】
本発明の軟体動物駆除剤は、台所等の屋内、玄関、ベランダ、庭先等の屋外で腹足類が出没する場所に、ペレット状もしくは顆粒状のまま散布してもよいし、あるいはプラスチック容器に収納して用いる形態を採用することもできる。
こうして得られた軟体動物駆除剤は、ソルビン酸又はソルビン酸塩から選ばれる駆除効力増強剤を配合したことにより、ナメクジ、カタツムリ、マイマイ等の腹足類に対する喫食性が顕著に向上し極めて優れた駆除効力を奏する。なかでも特に、有効成分としてリン酸鉄を用いた場合には、人のみならず、犬、ネコ等のペット類やミミズ等に害を及ぼさず、しかも、腹足類に対する駆除効果は遅効的な食毒作用によるため、摂食した腹足類は隠れた生息場所に戻って死亡し、従って、メタアルデヒドの場合に見られるような、粘性の徘徊痕を残したり、摂食後に降雨等で水分が補給されて回復するといった問題を生じないので極めて実用性が高いものである。
【0014】
次に具体的な実施例に基づき、本発明の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
リン酸第二鉄を1.0質量%、穀物粉97.8質量%(小麦粉、トウモロコシ粉など)、及び澱粉を1.0質量%含む粉状混合物に適量の水を加えて混合し、ペレット状に加工後乾燥させた。このペレットに、ソルビン酸カリウムとしての担持量が0.2質量%となるようにその水溶液を添加し、混合後乾燥して本発明で用いる軟体動物駆除剤を調製した。
この軟体動物駆除剤の約3gをプラスチック容器に入れて、ナメクジがよく出没する台所の窓際に置いて使用したところ、1日後にペレットに齧られた形跡が認められた後は、ほぼ1ケ月にわたってナメクジを殆ど見かけなくなった。周囲を粘性の徘徊痕で汚すことがなく、また、ネコが誤食する心配もなかったので、市販のメタアルデヒド製剤と較べると非常に使い易く、実用性の高いものであった。
【実施例2】
【0016】
実施例1に準じて、表1に示す各種軟体動物駆除剤を調製し、その2.0gを直径3cmのプラスチック容器に入れて、下記のナメクジ駆除効力試験を実施した。
[ナメクジ駆除効力試験]
φ12cm、高さ11cmのプラスチック容器内に各サンプルを設置した。設置直後と設置1週間後に、含水脱脂綿と実験動物用飼料、チャコウラナメクジをプラスチック容器内に入れてフタをし、5日後の致死個体数を観察した。
結果を併せて表1に示す。
【0017】
【表1】



【0018】
試験の結果、本発明で用いる軟体動物駆除剤は、ソルビン酸又はソルビン酸塩から選ばれる駆除効力増強剤を配合したことにより、ナメクジに対する喫食性が向上し、更にカビの発生を抑えた効果も加わり、極めて優れた駆除効力を安定して奏することが確認された。
なお、メタアルデヒド製剤の場合(実施例6)、ソルビン酸塩を添加する効果はそれほど大きくなく、従って、ソルビン酸又はソルビン酸塩の駆除効力増強作用は、リン酸鉄含有の軟体動物駆除剤においてより特徴的であった。
これに対し、駆除効力増強剤を配合しない比較例1及び比較例2では、保存中のカビの発生が避けられず、この影響もあって特に2週間後の致死率が低下した。また、比較例3乃至比較例5のように、ソルビン酸又はソルビン酸塩以外の保存剤では、カビの発生は抑えられるものの、喫食性の向上に基づく駆除効果の増強は殆ど観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、軟体動物防除分野のみならず、広範囲な分野で須らく利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビン酸又はソルビン酸塩から選ばれることを特徴とする、軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
【請求項2】
前記軟体動物駆除剤が、リン酸鉄と穀物粉を含有する製剤であることを特徴とする請求項1に記載の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
【請求項3】
前記ソルビン酸又はソルビン酸塩が、ソルビン酸カリウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。
【請求項4】
前記穀物粉が、少なくとも小麦粉とトウモロコシ粉を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の軟体動物駆除剤の駆除効力増強剤。

【公開番号】特開2012−31099(P2012−31099A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172071(P2010−172071)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】