説明

軟化時に側面がへたらない熱湯軟化式マウスピース。

【課題】従来の熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピースはマウスピース頬側部分に熱湯軟化時にへたり現象を防止する為、かなりの厚み(1.5mm以上)を付与していたが完成後分厚くなり装着感が悪かった。
【解決手段】熱湯軟化式マウスピース本体頬側部分側面に熱湯で軟化されないフロントスタビライザー(可撤性シール)2を設けることにより、マウスピース上顎頬側部分の肉厚を1mm以下にしてもへたり現象が出現しない為、装着感が良いマウスピースの提供が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピースは熱湯で軟化後、箸などで取り出し、上顎歯列に装着・咬合させることで、歯列の形状と咬合関係を記録させる方式なので、熱湯軟化時にマウスピース側面にへたり現象が生じることを防ぐ為、マウスピース側面(上顎頬側部分)に少なくても1.5mm以上(最厚部)の肉厚を確保しておく必要があった。
【0003】
このようにして、成型された従来の熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピースを熱湯で軟化後、箸などで取り出し、上顎歯列に装着・咬合させることで完成させると、上顎頬側部分が分厚くなり装着感が悪いという欠点があった。特に上顎頬側部分の前歯部分が分厚くなり唇が痛いというような欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピースでありながら、完成後は、上顎頬側部分が分厚くなく装着感が良く、しかも唇も痛くないというマウスピースの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を連成するために研究を行った結果、熱可塑性弾性樹脂を用いた熱湯軟化式マウスピースの頬側部分側面に熱湯で軟化されないフロントスタビライザー(可撤性シール)を設けることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
従来の熱可塑性弾性樹脂を用いた熱湯軟化式マウスピースを熱湯で軟化すると、マウスピースを構成している咬合面部分・頬側部分側面・口蓋側部分側面のすべてが同時に軟化されるので、頬側部分側面を少なくても1.5mm以上の肉厚にしておかないと、へたり現象が生じ頬側部分側面が内側に垂れてしまい口腔内に挿入することが難しい。
【0007】
従来の熱可塑性弾性樹脂を用いた熱湯軟化式マウスピース頬側部分側面の厚さを1.5mm以下にしても、熱湯で軟化されない、しかも口腔内に挿入した時に大きく変形しないシール状のフロントスタビライザー(可撤性シール)を設け、従来通りの方法でマウスピースを作成すると、頬側部分側面のへたり現象が阻止されるので口腔内に容易に挿入することが可能である。
【0008】
このようにして作成されたマウスピースから、フロントスタビライザー(可撤性シール)を取り外し完成させると、マウスピース頬側部分側面の肉厚を薄くすることが出来る。熱湯で軟化されないフロントスタビライザー(可撤性シール)とマウスピース頬側部分側面との接着具合は、マウスピースを熱湯に浸した時に剥離してはならず、マウスピースが常温で硬化した時には簡単に剥離することができなければならない。
【0009】
このように側面の厚さを薄くした熱可塑性弾性樹脂を用いた熱湯軟化式マウスピースは、90℃以上の高温の湯で短時間軟化(1分以内)する場合に比べ、70℃程度の湯で長時間軟化(2分程度)したほうが、へたり現象が生じにくい。
【発明の効果】
【0010】
このようにして完成されたマウスピースは、完成時にマウスピース頬側部分側面を薄くすることができるので、装着感が良く、しかも唇も痛くない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を参照して説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0012】
図1は本発明に係るフロントスタビライザー(可撤性シール)2付き熱湯軟化式マウスピースの全体を示す上部平面図、図2は斜視図、図3は分解図である。
【0013】
フロントスタビライザー(可撤性シール)2を除くマウスピース本体部分は、一般的な熱湯軟化式マウスピースに使用されているエチレン−ビニル−アセテート共重合体等の材質が好ましい。フロントスタビライザー(可撤性シール)2は薄い紙状のシール(1mm以下)であり、熱湯で軟化されない性状であり、且つマウスピースを熱湯に浸したときに剥離してはならず、マウスピースの完成後に簡単に剥がせることが条件となり、軟化したマウスピースを口腔内に挿入したり咬合した時に伸びたり大きく変形してはならない。紙又は樹脂を含有した合成紙を用いる場合は、簡単に洗い流せる性状で毒性の低い接着剤を用い、ポリエチレン樹脂やPET樹脂等のプラスティックを主原料とするシールを用いる場合は、マウスピース下部と圧接すると気密性による接着力が生じるので接着剤は使用してもしなくても良い。
【0014】
図1、図2、図3に示すマウスピース本体部分1は上顎歯列を覆うように中空の略馬蹄形をなし、この形状及び熱湯軟化時の性状及び硬化後の性状は従来の熱可塑性マウスピースと基本的に同一である。
【0015】
さらに、フロントスタビライザー(可撤性シール)2を作成するには、抜き型を用いた公知の作成方法があり、完成後のマウスピース本体部分に貼付ければ良い。
【0016】
図4は図2A−Aの断面図であり、マウスピース本体頬側部分側面1aに貼りついたフロントスタビライザー(可撤性シール)2が存在する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
さらに発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を参照して説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
図5は第2発明におけるフロントスタビライザー(可撤性シール)2付き熱湯軟化式マウスピースの全体を示す上部平面図、図6は斜視図、図7は分解図である。
【0019】
フロントスタビライザー(可撤性シール)2を除くマウスピース本体部分1及び本体内側部分3は、一般的なエチレン−ビニル−アセテート共重合体等の材質が好ましい。
【0020】
フロントスタビライザー(可撤性シール)2は薄い紙状のシール(1mm以下)であり、熱湯で軟化されない性状であり、且つマウスピースを熱湯に浸したときに剥離してはならず、マウスピースの完成後に簡単に剥がせることが条件となり、軟化したマウスピースを口腔内に挿入したり咬合した時に伸びたり大きく変形してはならない。紙叉は樹脂を含有した合成紙を用いる場合は、簡単に洗い流せる性状で毒性の低い接着剤を用い、ポリエチレン樹脂やPET樹脂等のプラスティックを主原料とするシールを用いる場合は、マウスピース下部と圧接すると気密性による接着力が生じるので接着剤は使用してもしなくても良い。
【0021】
マウスピース本体部分1は上顎歯列を覆うように中空の略馬蹄形をなし、この形状及び熱湯軟化時の性状及び硬化後の性状は従来の熱可塑性マウスピースと基本的に同一であるが、本体内側部分3は熱湯軟化時にマウスピース本体部分1より流動性が高くなければならない。
【0022】
さらに、フロントスタビライザー(可撤性シール)2を作成するには、抜き型を用いた公知の作成方法があり、完成後のマウスピース本体部分に貼付ければ良い。
【0023】
図8は図6B−Bの断面図であり、マウスピース本体頬側部分側面1aに貼りついたフロントスタビライザー(可撤性シール)2が存在する。
【0024】
図9は第3発明における変色により示温する温度管理用示温材4であり、マウスピース軟化用容器に張り付けるか、浮かべるか、マウスピース本体に張り付けることで、おおよその軟化適正湯温を確認することができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。図1、図2、図3に示すマウスピース本体部分1は熱湯軟化時にマウスピース全体が同一の流動性を示すマウスピースであり、材料は東ソー株式会社のウルトラセンを使用し、フロントスタビライザー(可撤性シール)2には厚み0.04mmのあらかじめ片面に接着剤が塗布してある合成紙を使用した。
【0026】
製品1の各部のサイズ及び重量
マウスピース本体部分1、
縱58mm×横69mm×高さ23mmの中空の略馬蹄形を呈し咬合面の厚み2.5mm、重量6.5g
マウスピース頬側部分側面1aの肉厚0.8mm
フロントスタビライザー(可撤性シール)2、
縱10mm×横70mmの中心部分にV字の切れ込みを持つ長方形を呈したシール、厚み0.04mm、
【0027】
製造方法は、マウスピース本体部分1は金型をもちいた射出成型法を用い、フロントスタビライザー(可撤性シール)2は金属製の抜型を用いプレス加工法で作成し、完成したマウスピース本体頬側部分側面1aにフロントスタビライザー(可撤性シール)2を貼付けた。
【0028】
(1)マウスピース本体頬側部分側面1aのへたり防止確認試験
製品1のマウスピースと製品1のマウスピースからフロントスタビライザー(可撤性シール)2を取り外した製品それぞれ10検体を70℃の熱湯に2分間浸し、マウスピース本体頬側部分側面1aが内側へどの程度へたるかを試験し、2mm以上傾かないものを合格とした。
【0029】
合格は○不合格は×で表記した

製品1はすべて合格であり、コントロール群の製品1からフロントスタビライザー(可撤性シール)2を取り外した製品はすべて不合格であることから、製品1のマウスピース本体頬側部分側面1aのへたり防止確認試験は合格と判定した。
【0030】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。図6におけるマウスピースは、マウスピース本体部分1に熱湯で軟化した時に、より流動性の高い本体内側部分3を有する多層型マウスピースで、材料は共に東ソー株式会社のウルトラセンを使用し、フロントスタビライザー(可撤性シール)2には厚み0.04mmのあらかじめ片面に接着剤が塗布してある合成紙を使用した。
【0031】
製品2の各部のサイズ及び重量
マウスピース本体部分1、
縱58mm×横69mm×高さ23mmの中空の略馬蹄形を呈し咬合面の厚み2.5mm、重量6.5g
マウスピース本体頬側部分側面1aの肉厚0.8mm
マウスピース本体内側部分3、
縦47mm×横63mm×高さ15mmの略馬蹄形の実体、重量3.2g
フロントスタビライザー(可撤性シール)2、
縱10mm×横70mmの中心部分にV字の切れ込みを持つ長方形を呈したシール、厚み0.04mm、
【0032】
マウスピース本体部分1は製品1と同様に作成し、本体内側部分3を金型で成型し、表面を加熱溶解後、接着圧接し、フロントスタビライザー(可撤性シール)2を製品1と同様に貼付けた。
【0033】
(1)マウスピース本体頬側部分側面1aのへたり防止確認試験
製品2のマウスピースと製品2のマウスピースからフロントスタビライザー(可撤性シール)2を取り外した製品それぞれ10検体を70℃の熱湯に2分間浸し、マウスピース本体頬側部分側面1aが内側へどの程度へたるかを試験し、2mm以上傾かないものを合格とした。
【0034】
合格は○不合格は×で表記した

製品2はすべて合格であり、コントロール群の製品2からフロントスタビライザー(可撤性シール)2を取り外した製品はすべて不合格であることから、製品2のマウスピース本体頬側部分側面1aのへたり防止確認試験は合格と判定した。
【0035】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。図9における温度管理用示温材は、常温で赤色を呈するが70℃以上になると半分が黒色に変色し示温し、片面に接着剤が塗布してある日油技研工業株式会社の温度管理用示温材4を使用した。
【0036】
温度管理用示温材4、
縦5mm横10mm厚さ0.3mm
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明におけるマウスピースは、歯科医院で作成するオーダーメイドマウスピースでなく、大量且つ廉価に供給できる熱可塑性弾性樹脂を用いたマウスピースでありながら、頬側部分外側を薄くすることができるので、装着感が良く、しかも唇も痛くない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明に係わるマウスピースの一実施形態の上部平面図
【図2】図2はその斜視図
【図3】図3はその分解図
【図4】図4は図2における矢印A−Aの断面図
【図5】図5は第2発明に係わるマウスピースの一実施形態の上部平面図
【図6】図6はその斜視図
【図7】図7はその分解図
【図8】図8は図6における矢印B−Bの断面図
【図9】温度管理用示温材
【符号の説明】
【0039】
1 マウスピース本体部分
1a マウスピース本体頬側部分側面
2 フロントスタビライザー(可撤性シール)
3 マウスピース本体内側部分
4 温度管理用示温材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱湯軟化式マウスピースであって、マウスピース側面に、熱湯軟化時にマウスピース側面のへたりを防止するフロントスタビライザー(可撤性シール)を設けたマウスピース。
【請求項2】
請求項1のマウスピースであって、熱湯軟化した時に、マウスピース本体部分より流動性の高い本体内側部分を有する熱湯軟化式マウスピースの、マウスピース側面に、熱湯軟化時にマウスピース側面のへたりを防止するフロントスタビライザー(可撤性シール)を設けたマウスピース。
【請求項3】
請求項1のマウスピースであって、熱湯軟化する湯の温度を簡易測定できる温度管理用示温材を付属品としたマウスピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−75644(P2010−75644A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273572(P2008−273572)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(508040337)