説明

軟式野球用又はソフトボール用バット

【課題】打球対象ボールと打球面の両弾性復元のタイミングを合わせ易くする。
【解決手段】バット先端側部位の外周面に周溝6を形成し、この周溝6の外周囲を密封する状態で可撓性と気密性を備える打球用筒状体7を外装して打球部2を構成するとともに、打球用筒状体7と周溝6との間の環状空間S1に加圧空気を充満することにより、環状の打球用加圧空気層Aを打球部2に形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟式野球用又はソフトボール用バットに関し、特に、飛距離性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の軟式野球用又はソフトボール用バットとしては、バット先端側部位の外周面に形成した周溝に対し、ポリウレタン等のエラストマー系の弾性部材を嵌装して打球部を形成したものが知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
つまり、この従来のバットは、中空構造の軟式野球ボールやソフトボールなどの打球対象ボールを前記弾性部材の弾性変形を伴いながら打球面で受け止めることで、打球時初期における打球対象ボールの弾性変形量を低量化して飛球中の弾性復元に伴う飛球速度の低下を抑制しながら、弾性部材の性状によって、打球時後期における打球面の弾性復元による押し出し作用、又は、打球対象ボールの弾性復元による跳ね返り作用、或いは、打球面と打球対象ボールの両弾性復元のタイミングが合うときに生じる押し合い作用(すなわち、前記押し出し作用と前記跳ね返り作用とを併せた作用)により打球対象ボールを加速させる。そして、前記押し合い作用により打球対象ボールを加速させるのが打球対象ボールの飛距離の向上に最も効率的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】2004−275742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の如き従来の技術では、打球対象ボールと弾性復元のタイミングがうまく合うように弾性部材の性状を調整するのが難しく、そのため、打球時後期における打球対象ボールと打球面の両弾性復元による前記押し合い作用を期待どおりに得られないのが実情であった。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、上記の如き問題点を効果的且つ効率的に解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、軟式野球用又はソフトボール用バットに係り、その特徴は、
バット先端側部位の外周面に周溝を形成し、この周溝の外周囲を密封する状態で可撓性と気密性を備える打球用筒状体を外装して打球部を構成するとともに、
前記打球用筒状体と前記周溝との間の環状空間に加圧空気を充満することにより、環状の打球用加圧空気層を前記打球部に形成してある点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、バット先端側部位の外周面に形成した周溝の外周囲を前記打球用筒状体で密封するだけのシンプル且つ軽量な構造でバット強度を確保しながら、前記打球部に前記打球用加圧空気層を形成することで打球面の弾性復元の原理を弾性復元のタイミングを調整し易いもの(所謂、空気バネの原理)にすることができて、打球面の弾性復元のタイミングを打球対象ボールに合わせ易くすることができる。
【0009】
しかも、前記打球用加圧空気層を環状に形成してあるから、打球対象ボールの衝突部位(又はその周縁部位)だけでなく、環状の打球用加圧空気層全体の加圧空気を用いる形態で打球対象ボールを弾性的に受け止めて、且つ、環状の打球用加圧空気層全体の加圧空気を用いる形態で打球対象ボールを押し出すことができ、この点で、飛距離性能の向上を効果的且つ効率的に達成することができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な構成であり、その特徴は、
打球時における打球面の凹み状態からの復元速度が打球時における打球対象ボールの凹み状態からの復元速度と同等となるように、前記打球用加圧空気層の空気圧を調整してある点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、打球時における凹み状態からの復元速度が打球対象ボールと打球面とで同等になるから、打球時後期における打球対象ボールと打球面との両弾性復元のタイミングが合うことによる前記押し合い作用を効果的且つ効率的に得ることができて、飛距離性能の向上を一層効果的且つ効率的に達成することができる。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、軟式野球用又はソフトボール用バットに係り、その特徴は、
加圧空気を充満した打球用加圧空気層を打球部に形成し、この打球用加圧空気層の空気圧の変化により打球時における打球面の凹み状態からの復元速度が変化する構造にするとともに、
打球時における打球面の凹み状態からの復元速度が打球時における打球対象ボールの凹み状態からの復元速度と同等となるように、前記打球用加圧空気層の空気圧を設定してある点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、打球時における凹み状態からの復元速度が打球対象ボールと打球面とで同等になるから、打球時後期における打球対象ボールと打球面との両弾性復元のタイミングが合うことによる前記押し合い作用を効果的且つ効率的に得ることができて、飛距離性能の向上を効果的且つ効率的に達成することができる。
【0014】
本発明の第4特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な構成であり、その特徴は、
前記打球用加圧空気層と同じ圧力の加圧空気をバット内部に充満した中空構造にするとともに、このバット内部と前記環状空間とを連通させる連通孔を前記周溝に形成してある点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、バット強度を確保しながらも、環状の打球用加圧空気層全体の加圧空気に加えてバット内部の加圧空気を用いる状態で、且つ、場合によっては打球時における連通孔の通気抵抗も利用する状態で打球対象ボールを弾性的に受け止め、そして、環状の打球用加圧空気層全体の加圧空気に加えてバット内部の加圧空気を用いる状態で、且つ、場合によっては打球時における連通孔の通気抵抗も利用する状態で打球対象ボールを押し出すことができ、この点で、飛距離性能の向上をさらに効果的且つ効率的に達成することができる。
【0016】
本発明の第5特徴構成は、第1、第2、第4特徴構成のいずれかの実施に好適な構成であり、その特徴は、
前記打球用筒状体を密封状態で締付固定する締付部材を前記周溝の両縁部の各々に装着する構造にするとともに、
前記周溝におけるバット手元側の縁部には、前記締付部材の外面と前記縁部に隣接するバット手元側部位の外面との段差を低減する又は解消するための締付部材用の装着段部を形成してある点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、バット中央部に位置するバット手元側の縁部において、前記締付部材の外面と前記縁部に隣接するバット手元側部位の外面との段差を低減する又は解消することができるから、例えば、その段差部分で打球対象ボールを打球した際に飛球方向が不規則に変化する不具合を効果的に抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】軟式用野球バットと軟式野球ボールの一部破断外観図
【図2】バット本体の側面図
【図3】軟式野球用バットの側面断面図
【図4】要部の側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図4は、ゴム製の球状外覆部b1の内部に加圧空気を充満した中空構造の軟式野球ボールBの打球用に使用される中空管状の軟式野球用バットTを示し、この軟式用野球用バットTのバット手元側には、打者が握持するための略小径円筒状のグリップ部1が構成されているとともに、バット先端側には、軟式野球ボールBに衝突させるための大径円筒状の打球部2が構成されている。更に、前記打球部2と前記グリップ部1との間には、打球部2とグリップ部1とを滑らかに接続するテーパー状筒部3が構成されている。
【0020】
また、前記グリップ部1の手元側端部には、略リング状のグリップエンド4が取り付けられている。
【0021】
当該軟式野球用バットTの打球部2は、バット長手方向に延びるFRP製や金属製の中空管状のバット本体5の先端側部位の外周面に、バット周方向に沿って環状の周溝6(凹部の一例)を形成するとともに、この周溝6の外周囲を密封する状態で可撓性と気密性を有する円筒状の打球用筒状体7を外装して構成されている。そして、前記周溝6と前記打球用筒状体7との間の環状空間S1には、加圧空気を充満した打球用加圧空気層Aが形成されている。
【0022】
前記周溝6は、小径管状の溝底面部6aと、バット手元側の縁部6Aから漸次縮径して前記溝底面部6aに至る手元側縮径部6bと、バット先端側の縁部6Bから漸次縮径して前記溝底面部6aに至る先端側縮径部6cとからなる縮径構造に構成されている。
【0023】
前記周溝6の先端側縮径部6cには、バット本体5の内部空間(バット内部)S2と前記環状空間S1とを連通する小孔状の連通孔6dが貫通形成されており、打球時の衝撃に耐え得る強度を確保しながらも、環状の打球用加圧空気層Aの加圧空気に加えてバット本体5の内部空間S2の加圧空気を用いる状態で、且つ、連通孔6dの通気抵抗も利用した状態で、打球時の打球面2aの弾性を効果的且つ効率的に得られるように構成されている。
【0024】
また、バット本体5の手元側端部には、バット本体5の内部空間S2と前記連通孔6dを通じて前記環状空間S1に空気を注入するための空気注入部8が設けられている。
【0025】
前記空気注入部8は、前記バット本体5の手元側端面に貫通形成された取り付け孔8aにゴム製の逆止弁構造のバルブ8bを設けて構成されており、例えば、サッカーボール等に空気を充填するための市販の空気注入具によって、適宜、前記環状空間S1に空気を注入して打球用加圧空気層Aの空気圧を調整できるように構成されている。
【0026】
前記打球用筒状体7は、伸縮性が極めて低くて耐久性に優れたものとして、本例では、織物製のジャケットの内面にラテックスゴムなどを内張りした市販の消防用ホース(ホースの一例)を採用している。
【0027】
当該打球用筒状体7は、一対の金属製(本例では、アルミ合金製)のリング状のカシメ部材9(締付部材の一例)により周溝6の両縁部6A、6Bに対して密封状態に締め付けられる形態で前記バット本体5に装着されている。
【0028】
前記バット本体5における周溝6の手元側縁部6Aには、前記テーパー状筒部3の大径側端の外径寸法Dよりも小径の外径寸法dで形成されたカシメ部材用の環状の装着段部6eが形成されており、これにより、カシメ部材9の装着時においてカシメ部材9の外周面と前記テーパー状筒部3の外周面との段差を効果的に低減する、すなわち、段差が極力生じないようにする。
【0029】
また、周溝6の先端側縁部6Bは、前記装着段部6eと同じ外径寸法dで形成されているとともに、先端側縁部6Bからバット先端部に至る部位は、前記外径寸法d以下の外径寸法で形成されており、打球用筒状体7とカシメ部材9の装着をバット先端側から行えるように構成されている。
【0030】
なお、両縁部6A、6Bには、打球用筒状体7との間にゴムシート10を介装するための環状の溝部6fが形成されている。また、図示しないが、軟式野球バットTの表面には、仕上げ用の塗装が施されている。
【0031】
そして、前記打球用加圧空気層Aの空気圧は、打球時における打球面2aの凹み状態からの復元速度が打球時における打球対象ボールBの凹み状態からの復元速度と同等となる所定値に調整されている。
【0032】
本例では、打球用筒状体7の可撓性が軟式野球ボールBの球状外覆部b1の可撓性と同等であり、且つ、打球用筒状体7の外周囲に特に打球面2aの変形性能に影響を与える部材が存在しないことから、打球用加圧空気層Aの空気圧を打球対象ボールBの空気圧と同一又は略同一に調整することで、打球面2aと打球対象ボールBの凹み状態からの復元速度が同等になるように構成されている。
【0033】
つまり、この軟式用野球バットTは、打球部2への軟式野球ボールBの衝突時には、打球面2aの弾性変形により軟式野球ボールBの弾性変形量を低減し、その後、軟式野球ボールBと打球面2aとの両方の同一タイミング且つ同速度での弾性復元による押し合い作用により軟式野球ボールBを効果的に加速させる。
【0034】
また、打球時における打球用加圧空気層A(環状空間S1)からバット本体5の内部空間S2への通気孔6dを通じた空気移動に対し、連通孔6dにより適度な通気抵抗を付与することで、打球用加圧空気層Aを軟式野球ボールBに対し効果的に弾性反発作用させる。
【0035】
[別実施形態]
次に、別実施形態を列記する。
前述の実施形態では、打球用筒状体7の外周囲に特に打球面2aの変形性能に影響を与える部材を設けない場合を説明したが、例えば、打球用筒状体7の外周囲にエラストマー系の弾性部材などを設ける構成にしてもよい。この場合、打球用筒状体7と弾性部材とによる打球面2aの変形性能を考慮して打球用加圧空気層Aの空気圧を調整すればよい。
【0036】
前述の実施形態では、打球用加圧空気層Aがバット周方向に沿って環状に連通する構成を例に示したが、例えば、バット周方向の一部のみの構成やバット周方向の途中部分に仕切壁を設けて環状に連通していない構成などであってもよい。
【0037】
前述の実施形態では、打球用筒状体7の装着形態として、締付部材9により密封状態で締付固定する場合を例に示したが、例えば、接着剤や両面テープなどにより固定してもよい。
【0038】
前記連通孔6dの形状や位置などの具体的構成は、前述の実施形態で示した小孔状のものに限らず種々の構成変更が可能であり、例えば、バット長手方向に延びるスリット状
の連通孔を周溝6の周方向に分散形成したりするなど、打球時の衝撃力に耐え得る強度を確保できるものであれば、如何なる構成であってもよい。
【0039】
前述の実施形態では、前記カシメ部材9の外周面と前記テーパー状筒部3の外周面との段差を低減する寸法で前記装着段部6eを構成することにより当該段差が僅かに生じる場合を例に示したが、カシメ部材9の外周面とテーパー状筒部3の外周面との段差を解消する寸法で装着段部6eを構成することにより当該段差が全く生じないようにしてもよい。
【0040】
前述の実施形態の改良として、例えば、周溝6の溝底面部6a(或いは、溝底面部6aに加えて手元側縮径部6bや先端側縮径部6c)に対しエラストマー系の弾性部材や気泡構造を有するスポンジ状の弾性部材などを巻装するなど、打球用筒状体7と周溝6との間の環状空間S1に、バット本体5よりも硬度の小さな軟質材を配設してもよい。
【0041】
このようにすれば、打球用筒状体7と周溝6との間の軟質材によって、打球時において打球用筒状体7が周溝6の溝底面部6aに底付き状態(すなわち、打球用筒状体7が溝底面部6aに接触して、それ以上の弾性圧縮変形が全く不能になる状態)となるのを効果的に抑止することができる。
【0042】
なお、前記スポンジ状の弾性部材としては、独立気泡型のものよりも連続気泡型のものが連通孔6dによる打球用空気層Aの空気圧調整の面などから好適であるが、例えば、独立気泡型のものは周溝6の底面部6aにおける連通孔6dから外れた部位のみに配設するなど、連通孔6dからの空気の出入りを阻害しないように独立気泡型のものを単独又は連続気泡型のものと併せて環状空間S1に配設してもよい。
【0043】
本発明は、前述の実施形態で示した軟式野球用バットTに限らず、中空構造のソフトボールを打球するのに使用されるソフトボール用バットにも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
T バット
2 打球部
6 周溝
6d 連通孔
6e 装着段部
7 打球用筒状体
9 締付部材(カシメ部材)
S1 環状空間
S2 バット内部(内部空間)
A 打球用加圧空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バット先端側部位の外周面に周溝を形成し、この周溝の外周囲を密封する状態で可撓性と気密性を備える打球用筒状体を外装して打球部を構成するとともに、
前記打球用筒状体と前記周溝との間の環状空間に加圧空気を充満することにより、環状の打球用加圧空気層を前記打球部に形成してある軟式野球用又はソフトボール用バット。
【請求項2】
打球時における打球面の凹み状態からの復元速度が打球時における打球対象ボールの凹み状態からの復元速度と同等となるように、前記打球用加圧空気層の空気圧を調整してある請求項1記載の軟式野球用又はソフトボール用バット。
【請求項3】
加圧空気を充満した打球用加圧空気層を打球部に形成し、この打球用加圧空気層の空気圧の変化により打球時における打球面の凹み状態からの復元速度が変化する構造にするとともに、
打球時における打球面の凹み状態からの復元速度が打球時における打球対象ボールの凹み状態からの復元速度と同等となるように、前記打球用加圧空気層の空気圧を調整してある軟式野球用又はソフトボール用バット。
【請求項4】
前記打球用加圧空気層と同じ圧力の加圧空気をバット内部に充満した中空構造にするとともに、このバット内部と前記環状空間とを連通させる連通孔を前記周溝に形成してある請求項1又は2記載の軟式野球用又はソフトボール用バット。
【請求項5】
前記打球用筒状体を密封状態で締付固定する締付部材を前記周溝の両縁部の各々に装着する構造にするとともに、
前記周溝におけるバット手元側の縁部には、前記締付部材の外面と前記縁部に隣接するバット手元側部位の外面との段差を低減する又は解消するための締付部材用の装着段部を形成してある請求項1、2、4のいずれか1項に記載の軟式野球用又はソフトボール用バット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−196341(P2012−196341A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63149(P2011−63149)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000108258)ゼット株式会社 (36)