説明

軟磁性フェライト粒子およびその製造方法

【課題】 数μmから数十μm程度の大きさの軟磁性フェライト粒子は、レーザーコピーで使用されるキャリア粉、電波吸収体や圧粉磁芯といった用途に需要がある。しかしこの大きさの軟磁性フェライトは、粉砕法で作製するには小さすぎ、成長法で作製するには大きすぎる。また、粉体の形状も一定にできなかった。
【解決手段】 材料となるフェライトと塩化鉄を混合し、900℃以上1300℃以下で焼成することで、フェライトが液相の塩化鉄中で結晶成長し、数十μmの大きさの八面体の粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波吸収体の原料もしくは圧粉磁芯となる軟磁性粉末及びその製造方法に関するものである
【背景技術】
【0002】
一般に、微粒子の製造法は、微粒子の生成過程から分類すると、細分化と成長法とに分けられる。細分化法は、粗粒子の機械的粉砕によって微粒子を得る方法であるが、平均粒子径が1μm以下の微粒子を効率よく得ることは困難である。一方、成長法は、ガスや溶液状態での化学反応により、イオンもしくは原子もしくは分子から核生成と成長により微粒子を得る方法であり、粒子径1μm以下の微粒子を効率よく得ることができ、また粒度分布の制御も可能である。
【特許文献1】特開2006−193364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者らの検討によると、例えば、特許文献1には基本形状が10〜18面体のマグネタイトの開示があるが、湿式酸化での成長法であり、粒子径は、0.05〜1μm程度である。例えば、圧粉磁芯の用途では、1μm以下の粒度では圧粉形成体を得るために良好な圧縮性を有することが出来ない。
【0004】
また通常、数μmから数十μmと言われる粒径は、大きさでは1〜50μmである。この程度の大きさの軟磁性フェライト粒子を製造するためには、成長法では粒径が大きいため製造が困難である。また、細分化法では、機械的粉砕による負荷が粒子にかかるため、歪が発生して残留磁化と保磁力が高くなり、軟磁性体としての特性が満足出来ない。また、形状が歪であり、成形性や充填性に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、塩化鉄(III)を原料に所定量添加し、焼成を施す事で、粒子形状が正八面体となるフェライト粒子を得ることができ、樹脂との密着性に優れた、さらには良好な圧縮性を有する軟磁性フェライト粒子とその製造方法を知見し、本発明を完成したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明はフェライト粒子を焼成する際に塩化鉄を加えることで、液相中でフェライトが成長し、細分化法や成長法で作製しにくい1〜50μmの大きさのフェライト粒子を得ることができる。また、液相中での焼成のため、フェライト粒子の単結晶成長が促され、上記の粒度範囲の大きさであって8面体結晶粒子を有するフェライト粒子を得ることができる。
【0007】
以下、本発明に係る軟磁性フェライト粒子の製造方法について、詳細に説明する。
1.原料
本発明に係る軟磁性フェライトの原料として、Fe34で表記されるマグネタイト、または、一般式(MxFe3-x)O4(但し、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、0<x<3)で表記されるソフトフェライトが好適に利用できる。
【0008】
ソフトフェライトにおけるM元素の原料として、2価の金属であるFe、Mg、Mn、
Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niが利用できる。そして、これら2価の金属を任意に組み合わせたものが好適に使用できる。例えば、MnであればMnCO3、Mn34等が使用でき、MgであればMgO、Mg(OH)2、MgCO3が好適に使用できる。
塩化鉄としては、FeCl3が好適に使用できる。
【0009】
SiOは上記のソフトフェライトに対して0.1質量%以上の分量が含まれていることが望ましい。混合量が少なければ、液相中でフェライトが成長し、細分化法や成長法で作製しにくい大きさのフェライト粒子を得ることができない。また、液相中での焼成のため、フェライト粒子の単結晶成長が見られず、目的の8面体結晶粒子を有するフェライト粒子を得ることができない。
【0010】
[原料混合]
所定量に秤量・混合した鉄酸化物と塩化鉄の原料混合物を振動ミルなどの粉砕機にて粉砕し造粒物を得る。当該造粒物は、平均粒径5μm以下であることが望ましく、より好ましくは1μm以下がよい。粒径を微細化することは、フェライト化反応の進行に好ましいからである。
【0011】
〔焼成〕
次に、この造粒物を900℃〜1300℃の温度で1〜24時間保持して本焼成を行い、焼成物を得る。焼成温度に関しては、先の還元剤の調整によりフェライト化に必要な還元雰囲気に到達できる。工業化時に十分な生産性を確保できる反応速度を得る観点からは、900℃以上の温度が好ましい。一方、当該焼成温度が、1300℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結が起こらず、粉体の形態で焼成物を得ることが出来る。当該観点から、焼成温度は900〜1300℃の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは、950〜1250℃の範囲が好ましい。
【0012】
この時の焼成雰囲気としては、酸素濃度が0.1容量%未満、好ましくは0.01%以下の不活性ガス中の雰囲気下で行う事が良い。焼成雰囲気の酸素濃度が0.1%容量以下であれば、ヘマタイト相の生成が阻止でき、磁気特性を向上させることができる。またフェライトの組成によっては、適宜、仮焼成工程を加えても良い。当該仮焼工程の雰囲気としては、上記本焼成と同様の条件でも良いし、500℃以下であれば空気中でも良い。
【0013】
〔粉砕〕
得られた焼成物を例えばハンマーミル解粒等で粗粉砕する。次に、振動ミルなどの粉砕機にて微粉砕する。粉砕方法の形態としては、連続式でもバッチ式でも良い。振動ミルに用いるメディアの材質としては、鉄系のクロム鋼や酸化物系のジルコニア、チタニア、アルミナなどが利用できる。メディアの粒径としては、12mm、9mmなどが一般的に用いられるが、細かく破砕したいので、6mm以下のメディアを用いるのが好ましい。
【0014】
〔熱処理〕
次に、焼成物の熱処理を雰囲気炉にて行う。この処理の目的は、当該焼成物が前工程での機械的処理により受けた負荷に起因する磁化低下を回復させるためである。当該雰囲気炉としては、外部の酸素などの影響の低い、密閉型のバッチ式炉が良い。雰囲気としては、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気が好ましい。温度としては、250℃〜500℃が好ましい。より好ましくは300〜400℃が好ましく、処理時間としては、30分間〜60分間が好ましい。温度は、300℃以上あれば、磁化低下を回復させるのに十分なであり、400℃以下であれば、熱処理中の粒子の焼結を回避出来、不活性雰囲気中の不純物などの影響を受け難くなる。
【0015】
〔分級〕
得られた焼成品を、例えば気流分級機で1次分級して、割れや欠けのある非多面体形状粒子および微粒子を除去し、さらに振動ふるいまたは超音波ふるいにて粒度をそろえることが望ましい。
【0016】
〔X線分析〕
X線回折装置としては、Ultima4型(Rigaku(株)製)を用いた。X線の線源はCuの管球を使い、電圧40kV、電流は40mAの条件である。測定角度は15≦2θ(°)≦90の範囲であり、測定速度は3°/分で行った。また、被測定サンプルは、ガラス製サンプルホルダーに1mmの層厚で膜状に形成することにより作製した。
【0017】
〔粒度分布〕
軟磁性フェライト粒子の粒度分布は、マイクロトラック(日機装株式会社製、Model:9320−X100)を用いて測定した。得られた粒度分布より、体積率50%までの積算粒径を算出した。尚、本発明において平均粒径をD50と記載する場合がある。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に基き本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0019】
〔実施例1〕
原料として、平均粒子径D50が約1μmに微粉砕されたFe23粉と塩化鉄(III)を用意した。ここで、Fe23粉に対する、塩化鉄(III)の量は10.0重量%とした。また還元剤としてカーボンブラックを用いた。カーボンブラックはFe23に対して1.2重量%である。これらの材料(Fe原料粉や塩化鉄や還元剤)を、ボールミルにて粉砕、混合した。
【0020】
混合物を、窒素雰囲気下1200℃で5hr焼成し、フェライト化させて焼成物を得た。得られた焼成物をメディア径6mm、メディア充填率80%のボールミル(中央化工機社製)にて10分間粉砕した。得られた粉砕物をローラー式管状炉(RH炉)にて処理温度300℃窒素中で30分間の熱処理を施すことにより、実施例1に係るフェライト粉を得た。
【0021】
〔比較例〕
塩化鉄(III)の配合量を1.0重量%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0022】
[結果]
図1に実施例(図1(a))および比較例(図1(b))のSEM写真を示す。実施例は形状がおよそ10μm程度で粒のそろった八面体の粒子であった。一方、比較例は、およそ1μm程度のいびつな形状の粒子であった。図2は図1をさらに拡大したSEM写真である。実施例(図2(a))は整った八面体形状であることがよくわかる。
【0023】
図3には、実施例(図3(b))および比較例(図3(a))のX線回折の結果を示す。縦軸は反射強度(cps)であり、横軸は2θの角度を示す。なお、図3(b)には、各ピークに面指数を示し、また比較例(図3(a))のピーク値をひし形で示した。
【0024】
実施例と比較例は最初に添加した塩化鉄の量が異なる。しかし、塩化鉄自体は1200℃の焼成工程で昇華し、最終的に得られるフェライトには残留していない。つまり、実施例と比較例はほぼ同じ組成である。図3のX線回折には面指数を示したが、実施例および比較例共に、同じ面指数の場所にピークを有するのはこのためである。
【0025】
一方、実施例と比較例を比べると、ほとんどの面からの反射強度は比較例の方が実施例より高くなっているが、(200)面だけは実施例の方が強度が高い。つまり、この(200)面の強度の違いが、図1および図2で示した実施例と比較例の形状の違いを示すものと考えられる。
【0026】
より注意深い観察によると、(311)面と(422)面といった結晶軸に対する斜め方向の面が実施例は比較例より抑制されている。特に(200)面からの強度/(311)面からの強度の比を比べると、実施例は20%より明らかに大きく、比較例は20%より明らかに小さい。従って、図1および図2のような八面体のフェライト粒子は、(200)面からの強度/(311)面からの強度の比が20%以上であるという特徴を有する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、1〜50μmの粒度範囲のフェライト粒子を得ることがでるだけでなく、8面体結晶粒子を得ることができる。これはフェライトの単結晶であるので、樹脂との密着性に優れた粒子を得ることができる。また、このフェライト粒子は、純粋な単結晶であるがゆえに、これまでバルクのフェライトに対して行われた性能改善の手法をそのまま適用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例と比較例のSEM写真である。
【図2】実施例と比較例のSEM写真である。
【図3】実施例と比較例のX線回折の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(MxFe3-x)O4(但し、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であり、0≦x<3)で表わされるフェライトとFeCl3を混合する工程と、
前記混合物を900℃乃至1300℃で焼成する工程と、
前記焼成物を粉砕する工程と、
前記粉砕物を熱処理する工程とを有する軟磁性フェライト粒子の製造方法。
【請求項2】
一般式(MxFe3-x)O4(但し、Mは、Mg、Mn、Ca、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であり、0≦x<3)で表わされるソフトフェライトであって、
X線回折による(311)面と(200)面の強度比が0.2以上である軟磁性フェライト粒子。
【請求項3】
D50による平均粒径が10乃至30μmである請求項2に記載されたソフトフェライト粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−76989(P2010−76989A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249151(P2008−249151)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】