説明

軟磁性合金素体およびそれを用いた電子部品

【課題】高透磁率であって容易に品質確認することができる合金素体およびそれを用いた電子部品を提供すること。
【解決手段】Fe−Cr−Si系軟磁性合金からなる複数の金属粒子11と、前記金属粒子11の表面に形成された酸化被膜12と、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜12を介しての結合部22と、を備え、L*a*b*表色系で表現される色彩色差測定においてa*(D65)が−3〜5であり、b*(D65)が−8〜0であり、好ましくはL*(D65)が22〜35である、粒子成形体1からなる軟磁性合金素体、および該素体を有する電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル・インダクタ等において主にコアとして用いることができる軟磁性合金素体およびそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、チョークコイル、トランス等といったコイル部品(所謂、インダクタンス部品)は、軟磁性合金素体と、前記軟磁性合金素体の内部または表面に形成された導線とを有している。軟磁性合金素体の材質としてNi−Cu−Zn系フェライト等のフェライトが一般に用いられている。
【0003】
近年、この種のコイル部品には大電流化(定格電流の高値化を意味する)が求められており、該要求を満足するために、磁性体として軟磁性粉末を含有させた複合樹脂を用いたメタルコンポジットインダクタなどがすでに上市されている。これらインダクタは、複合磁性材(複合磁性粉末)で巻き線コイルをインサートした状態で高圧成形して、所定形状を呈している。
【0004】
特許文献1によれば、焼成型コアと複合樹脂を組み合わせ、内部にコイルをインサートさせる小型薄型インダクタ構造が提案されている。具体的には、磁気飽和の高い金属磁性材を含有させた粉末状の材料を事前に圧縮成形しコアを形成させ、そこにコイルをインサートしその上部に複合磁性材を外装させて所定形状を形成させている。このほか、同様の金属磁性材の造粒粉末で直接コイルをインサートさせる構造、つまりメタルコンポジットインダクタの製品も上市されている。
【0005】
特許文献2には、積層タイプのコイル部品における磁性体部の作製方法として、Fe−Cr−Si合金粒子群の他にガラス成分を含む磁性体ペーストにより形成された磁性体層と導体パターンを積層して窒素雰囲気中(還元性雰囲気中)で焼成した後に、該焼成物に熱硬化性樹脂を含浸させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−34102号公報
【特許文献2】特開2007−27354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術によるインダクタでは高透磁率と高絶縁抵抗を両立することができず、コアや外装部に外部電極を直接的にとり付けることができない。そのため、外部電極の形成をフレームなどに頼ることになり、大電流化と小型化との両立の点で設計上の限界がある。これを解決するため、本発明者は熱処理型金属磁性粉コアに空芯コイルをインサートし外装部に磁性粉末複合材を被せるインダクタ構造を提案してきた。ここで熱処理型金属磁性コアとしてFe−Cr−Si系合金を用い、これを大気中にて所定のピーク温度および熱処理時間で処理することにより、コア内部の金属粉体間に金属酸化物層を生成させコアを形成させることとした。しかし、こうしたコアの磁気特性は温度、時間条件により極大値をとり、熱処理ごとにダミーコアでの特性確認評価が必要であることが本発明者の試行により判明した。
【0008】
これらのことを考慮し、本発明は、高透磁率であって容易に品質確認することができる合金素体およびそれを用いた電子部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
本発明は、所定の金属粒子が所定の態様で成形されてなる粒子成形体からなる軟磁性合金素体とそれを用いた電子部品に関するものである。粒子成形体は、Fe−Cr−Si系軟磁性合金からなる複数の金属粒子と、前記金属粒子の表面に形成された酸化被膜と、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部と、を備える。そして、前記粒子成形体のL*a*b*表色系で表現される色彩色差測定においてa*(D65)が−3〜5であり、b*(D65)が−8〜0であり、好ましくは、前記測定においてL*(D65)が22〜35である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高透磁率の合金素体が提供される。熱処理後の粒子成形体の色彩により高透磁率の材料が得られたと判断することができ、製造工程における良品判定が容易になる。すなわち、電子部品としての最終的な製品の形態で特性評価を行ったり、ダミーコアを形成してそれに巻き線を施して特性評価を行ったりする必要がなく、合金素体の良品判定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の軟磁性合金素体の微細構造を模式的に表す断面図である。
【図2】粒子成形体を得る際の熱処理温度と、得られた粒子成形体の透磁率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
本発明によれば、軟磁性合金素体は所定の金属粒子が成形されてなる粒子成形体からなる。本発明において、軟磁性合金素体はコイル・インダクタ等の電子部品における磁路の役割を担う物品であり、典型的にはコイル部品におけるコアなどの形態をとる。
【0013】
図1は本発明の軟磁性合金素体の微細構造を模式的に表す断面図である。本発明において、粒子成形体1は、微視的には、もともとは独立していた多数の金属粒子11どうしが結合してなる集合体として把握される。個々の金属粒子11はその周囲の概ね全体にわたって酸化被膜12が形成されていて、この酸化被膜12により粒子成形体1の絶縁性が確保される。隣接する金属粒子11どうしは、主として、それぞれの金属粒子11の周囲にある酸化被膜12を介して結合することにより、一定の形状を有する粒子成形体1を構成している。部分的には、隣接する金属粒子11の金属部分どうしの結合部21が存在していてもよい。従来の軟磁性合金素体においては、硬化した有機樹脂のマトリクス中に独立した磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものや、硬化したガラス成分のマトリクス中に独立した磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものが用いられていた。本発明では、粒子成形体1には有機樹脂からなるマトリクスもガラス成分からなるマトリクスも、実質的に存在しないことが好ましい。
【0014】
本発明によれば、粒子成形体1についての色彩色差について特徴がある。色彩色差については、JISZ8729に定められるL*a*b*表色系で表現される色彩色差測定により定量化される。測定装置は市販されており、例えば、色彩色差計 CR-300 (KONICA
MINOLTA製)などを用いることができ、その場合に、例えば、測定ヘッド照射径φ11mmを選択することができる。こういった測定装置を用いて、測定サンプルの表面の70〜80mm2程度の面積について測定を行い、a*(D65)、b*(D65)、L*(D65)を求める。この測定におけるa*(D65)は数値が大きいほど赤味が強く数値が小さいほど緑味が強い。この測定におけるb*(D65)は数値が大きいほど黄味が強く数値が小さいほど青味が強い。L*(D65)は数値が大きいほど明るく数値が小さいほど暗くなる。
【0015】
本発明では、上記のようにして測定されるa*(D65)が−3〜5であり、b*(D65)が−8〜0であり、好ましくは、L*(D65)が22〜35である。本発明者は多数の実験結果からこれらの範囲において高い透磁率の軟磁性合金素体が得られることを見いだした。好適態様においては、c*が3.6〜8.0である。ここで、c*はa*(D65)の二乗とb*(D65)の二乗との和の平方根である。
【0016】
個々の金属粒子11の概ね全体にわたって形成されている酸化被膜12は、粒子成形体1を形成する前の原料粒子の段階で形成されていてもよい。あるいは、酸化被膜が存在しないか極めて少ない原料粒子を用いて、成形過程において酸化被膜を生成させてもよい。酸化被膜12の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍程度の撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識することができる。酸化被膜12の存在により軟磁性合金素体全体としての絶縁性が担保される。
【0017】
粒子成形体1においては粒子どうしの結合部は主として酸化被膜12を介しての結合部22である。酸化被膜12を介しての結合部22の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。酸化被膜12を介しての結合部22の存在により、機械的強度と絶縁性の向上が図られる。
【0018】
本発明によれば、粒子成形体1全体にわたり、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12を介して結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。好適には、粒子成形体1に含まれる金属粒子11の数と同数またはそれ以上の、酸化被膜12を介しての結合部22が存在する。また、部分的には、酸化被膜12を介しての結合ではなく、酸化被膜が存在しない部分における金属粒子11どうしの結合部21が存在していてもよい。「酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部」とは、隣接する金属粒子11がそれらの金属部分にて直接に接触している部分のことを意味し、例えば、厳密な意味での金属結合や、金属部分どうしが直接に接触して原子の交換が見られない態様や、それらの中間的な態様をも含む概念である。さらに、隣接する金属粒子11が、酸化被膜12を介しての結合部も、金属粒子11どうしの結合部もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態が部分的にあってもよい。
【0019】
酸化被膜12どうしの結合部22を生じさせるためには、例えば、粒子成形体1の製造の際に酸素が存在する雰囲気下(例、空気中)で後述する所定の温度にて熱処理を加えることなどが挙げられる。
【0020】
上述の金属粒子どうしの結合部21の存在を確認するためには、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11どうしが同一相を保ちつつ結合点を有することを視認することなどが挙げられる。金属粒子どうしの結合部21の存在により透磁率のさらなる向上が図られる。
【0021】
金属粒子どうしの結合部21を生成させるためには、例えば、原料粒子として酸化被膜が少ない粒子を用いたり、粒子成形体1を製造するための熱処理において温度や酸素分圧を後述するように調節したり、原料粒子から粒子成形体1を得る際の成形密度を調節することなどが挙げられる。
【0022】
個々の金属粒子11は特定の軟磁性合金から主として構成される。本発明では、金属粒子11はFe−Cr−Si系軟磁性合金からなる。
Fe−Cr−Si系軟磁性合金におけるSiの含有率は、好ましくは0.5〜7.0wt%であり、より好ましくは、2.0〜5.0wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であることに基づいている。
【0023】
Fe−Cr−Si系軟磁性合金におけるクロムの含有率は、好ましくは2.0〜15wt%であり、より好ましくは、3.0〜6.0wt%である。クロムの存在により、原料粒子の物性である熱処理前の磁気特性は下がるが、熱処理時の過剰な酸化が抑制される。よって、Crが多い場合は、熱処理による透磁率の上昇効果が増し、熱処理後の比抵抗が下がる。これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0024】
Fe−Cr−Si系軟磁性合金において、SiおよびCr以外の残部は不可避不純物を除いて、鉄であることが好ましい。Fe、SiおよびCr以外に含まれていてもよい金属としてはマンガン、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅などが挙げられる。
【0025】
粒子成形体1における各々の金属粒子11を構成する合金の化学組成は、例えば、粒子成形体1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出することができる。
【0026】
なお、上述した酸化被膜12におけるCrとFeのモル比(Cr/Fe)は好ましくは1.0〜5.0である。酸化被膜12の化学組成についても合金ついての場合と同様に例えば、粒子成形体1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出することができる。
【0027】
個々の原料粒子のサイズは最終的に得られる軟磁性合金素体における粒子成形体1を構成する金属粒子のサイズと実質的に等しくなる。原料粒子のサイズとしては、透磁率と粒内渦電流損を考慮すると、d50が好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは2〜20μmであり、さらに好ましくは3〜13μmである。原料粒子のd50はレーザー回折・散乱による測定装置により測定することができる。
【0028】
原料粒子としてはアトマイズ法で製造される粒子などを挙げることができる。上述のとおり、粒子成形体1における酸化被膜12を介しての結合部22の形成にあたっては、原料粒子の段階においては金属であった部分が熱処理によって酸化されることが好ましい。そのため、原料粒子には酸化被膜が存在してもよいが過剰には存在しない方がよい。原料粒子の酸化被膜を低減させる手段として、原料粒子を還元雰囲気での熱処理に供したり、酸による表面酸化層の除去などの化学処理等に供することなどが挙げられる。
【0029】
上述したような原料粒子は合金粒子製造の公知の方法を採用してもよいし、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF20−F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiAlなどとして市販されているものを用いることもできる。
【0030】
原料粒子から成形体を得る方法については特に限定なく、粒子成形体製造における公知の手段を適宜取り入れることができる。以下、典型的な製造例として、原料粒子を非加熱条件下で成形した後に加熱処理に供する方法を説明する。
【0031】
原料粒子を非加熱条件下で成形する際には、バインダとして有機樹脂を加えることが好ましい。有機樹脂としては熱分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニル樹脂などからなるものを用いることが、熱処理後にバインダが残りにくくなる点で好ましい。成形の際には、公知の潤滑剤を加えてもよい。潤滑剤としては、有機酸塩などが挙げられ、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。潤滑剤の量は原料粒子100重量部に対して好ましくは0〜1.5重量部であり、より好ましくは0.1〜1.0重量部である。潤滑剤の量がゼロとは、潤滑剤を使用しないことを意味する。原料粒子に対して任意的にバインダ及び/又は潤滑剤を加えて攪拌した後に、所望の形状に成形する。成形の際には圧力をかけることなどが挙げられ、好ましくは成形後の見かけ密度が5.5〜7.0g/cmとなるように加圧される。
【0032】
熱処理の好ましい態様について説明する。
熱処理は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。より具体的には、加熱中の酸素濃度は好ましくは1%以上であり、これにより、酸化被膜を介しての結合部22および金属粒子どうしの結合部21が両方とも生成しやすくなる。酸素濃度の上限は特に定められるものではないが、製造コスト等を考慮して空気中の酸素濃度(約21%)を挙げることができる。加熱温度については、好ましくは600℃以上であり、酸化を適度に抑制して金属粒子どうしの結合部の存在を維持して透磁率を高める観点からは好ましくは900℃以下である。加熱温度はより好ましくは700〜800℃である。加熱時間は好ましくは0.5〜3時間である。
【0033】
得られた粒子成形体1には、その内部に空隙30が存在していてもよい。粒子成形体1の内部に存在する空隙30の少なくとも一部には高分子樹脂(図示せず)が含浸されていてもよい。高分子樹脂の含浸に際しては、例えば、液体状態の高分子樹脂や高分子樹脂の溶液などといった、高分子樹脂の液状物に粒子成形体1を浸漬して製造系の圧力を下げたり、上述の高分子樹脂の液状物を粒子成形体1に塗布して表面近傍の空隙30に染みこませるなどの手段が挙げられる。粒子成形体1の空隙30に高分子樹脂が含浸されてなることにより、強度の増加や吸湿性の抑制という利点がある。高分子樹脂としては、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの有機樹脂や、シリコーン樹脂などを特に限定なく挙げることができる。
【0034】
本発明の軟磁性合金素体を用いた電子部品の別の製造方法として、電子部品が積層インダクタである場合の製造方法を例示する。まず、ドクターブレードやダイコータ等の塗工機を用いて、予め用意した磁性体ペースト(スラリー)を、樹脂等からなるベースフィルムの表面に塗工する。これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥してグリーンシートを得る。上記磁性体ペーストは、金属粒子11と、典型的には、バインダとしての高分子樹脂と、溶剤とを含む。
【0035】
磁性体ペーストには、好適にはバインダとしての高分子樹脂が含まれる。高分子樹脂の種類は特に限定はなく、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。磁性体ペーストの溶剤の種類は特に限定はなく、例えば、ブチルカルビトール等のグリコールエーテルなどを用いることができる。磁性体ペーストにおける軟磁性合金粒子、高分子樹脂、溶剤などの配合比率などは適宜調節することができ、それによって、磁性体ペーストの粘度などを設定することも可能である。
【0036】
磁性体ペーストを塗工および乾燥してグリーンシートを得るための具体的な方法は従来技術を適宜援用することができる。グリーンシートを圧延してもよい。圧延には、カレンダーロールや、ロールプレスなどを用いることができる。圧延は、例えば、1800kgf以上、好ましくは、2000kgf以上、より好ましくは2000〜8000kgfの荷重をかけて、例えば、60℃以上、好ましくは60〜90℃にて行われる。
【0037】
次いで、打ち抜き加工機やレーザー加工機等の穿孔機を用いて、グリーンシートに穿孔を行ってスルーホール(貫通孔)を所定配列で形成する。スルーホールの配列については、各シートを積層したときに、導体を充填したスルーホールと導体パターンとでコイルが形成されるように設定される。コイルを形成するためのスルーホールの配列および導体パターンの形状については、従来技術を適宜援用することができる。
【0038】
スルーホールに充填するため、および、導体パターンの印刷のために、好ましくは導体ペーストが使用される。導体ペーストには導体粒子と、典型的にはバインダとしての高分子樹脂と溶剤とが含まれる。
【0039】
導体粒子としては、銀粒子などを用いることができる。導体粒子の粒子径は、体積基準において、d50が好ましくは1〜10μmである。導体粒子のd50は、レーザー回折散乱法を利用した粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラック)を用いて測定される。
【0040】
導体ペーストには、好適にはバインダとしての高分子樹脂が含まれる。高分子樹脂の種類は特に限定はなく、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。導体ペーストの溶剤の種類は特に限定はなく、例えば、ブチルカルビトール等のグリコールエーテルなどを用いることができる。導体ペーストにおける導体粒子、高分子樹脂、溶剤などの配合比率などは適宜調節することができ、それによって、導体ペーストの粘度などを設定することも可能である。
【0041】
次いで、スクリーン印刷機やグラビア印刷機等の印刷機を用いて、導体ペーストをグリーンシートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥して、コイル等に対応する導体パターンを形成する。印刷の際に、上述のスルーホールにも導体ペーストの一部が充填される。その結果、スルーホールに充填された導体ペーストと、印刷された導体パターンとがコイル等の形状を構成することになる。
【0042】
印刷後のグリーンシートを、吸着搬送機とプレス機を用いて、所定の順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製する。続いて、ダイシング機やレーザー加工機等の切断機を用いて、積層体を部品本体サイズに切断して加熱処理前チップを作製する。
【0043】
焼成炉等の加熱装置を用いて、大気等の酸化性雰囲気中で、加熱処理前チップを加熱処理する。この加熱処理は、通常は、脱バインダプロセスと酸化被膜形成プロセスとを含み、脱バインダプロセスは、バインダとして用いた高分子樹脂が消失する程度の温度、例えば、約300℃、約1hrの条件が挙げられ、酸化物膜形成プロセスは、例えば、約750℃、約2hrの条件が挙げられる。
【0044】
加熱処理前チップにあっては、個々の金属粒子11どうしの間に、多数の微細間隙が存在し、通常、該微細間隙は溶剤とバインダとの混合物で満たされている。これらは脱バインダプロセスにおいて消失し、脱バインダプロセスが完了した後は、該微細間隙はポアに変わる。また、加熱処理前チップにおいて、導体粒子どうしの間にも多数の微細隙間が存在する。この微細間隙は溶剤とバインダとの混合物で満たされている。これらも脱バインダプロセスにおいて消失する。
【0045】
脱バインダプロセスに続く酸化被膜形成プロセスでは、合金粒子11が密集して粒子成形体1ができ、典型的には、その際に、合金粒子11それぞれの表面にある酸化被膜12を介しての結合部22が形成され、それら結合部22の少なくとも一部は結晶性の酸化物からなり、好ましくは連続的に格子結合している。このとき、導体粒子が焼結してコイル等の導線が形成される。これにより積層インダクタが得られる。
【0046】
通常は、加熱処理の後に外部端子を形成する。ディップ塗布機やローラ塗布機等の塗布機を用いて、予め用意した導体ペーストを部品本体の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉等の加熱装置を用いて、例えば、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行うことにより、外部端子が形成される。外部端子用の導体ペーストは、上述した導体パターンの印刷用のペーストや、それに類似したペーストを適宜用いることができる。
【0047】
このようにして得られる粒子成形体1からなる軟磁性合金素体を種々の電子部品の構成要素として用いることができる。例えば、本発明の軟磁性合金素体をコアとして用いてその周囲に絶縁被覆導線を巻くことなどによりコイル部品等の電子部品を形成してもよい。その他、本発明の軟磁性合金素体を用いて、その内部または表面に導線を形成することによって種々の電子部品を得ることができる。上述した積層インダクタもまた電子部品の一態様である。電子部品は表面実装タイプやスルーホール実装タイプなど各種の実装形態のものであってよく、それら実装形態の電子部品を構成する手段を含めて、軟磁性合金素体から電子部品を得る手段については、電子部品の分野における公知の製造手法を適宜取り入れることができる。なお、導線としては、螺旋状のコイルに限らず、渦巻き状のコイル、ミアンダ(蛇行)状の導線、あるいは直線状の導線等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
(原料粒子)
Fe−Cr−Si系の市販の合金粉末を原料粒子として用いた。合金粉末の組成はエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出した。合金粉末のd50は体積基準の粒子径分布の指標であり、レーザー回折・散乱による測定装置により測定した。市販の合金粉末をそのまま原料粒子として用いた。
【0049】
(粒子成形体の製造)
これら原料粒子100重量部を、熱分解温度が300℃であるPVAバインダ1.5重量部とともに撹拌混合して、造粒した。その後、見かけ密度が6.3g/cmになるようにプレス加工してT型コアの形状を構成し、21%の酸素濃度である酸化雰囲気中、所定温度にて2時間熱処理を行った。この熱処理により、バインダが脱脂され粒子成形体が得られた。得られた粒子成形体について、3000倍に拡大したSEM観察像において、隣接する金属粒子の表面に形成されている酸化被膜が同一相であることを視認した。
【0050】
(電子部品の製造)
上記粒子成形体をコアとするコイル部品を製造した。粒子成形体からなるコアのつば部に焼成型電極ペーストを塗布し、大気中650℃で焼成して電極を形成し、電子部品としてのコイル部品を得た。
【0051】
(粒子成形体の色彩色差測定)
粒子成形体の表面の色彩色差測定の測定方法は以下のとおりである。
・測定装置:色彩色差計 CR-300 (KONICA MINOLTA製)
・測定ヘッド照射径:φ11mm
・測定サンプル面積:70〜80mm2
【0052】
図2は粒子成形体を得る際の熱処理温度と、得られた粒子成形体の透磁率との関係を示すグラフである。ここで用いた材料は、Crを4.5wt%、Siを3.5wt%含有し、残部がFeからなり、d50が10μmであるFe−Cr−Si系軟磁性合金粒子である。図2にプロットされた8つの試料について、a*(D65)、b*(D65)およびL*(D65)の値は以下のとおりである。試料番号は熱処理温度が低い方から順に1、2、・・・とナンバリングした。
・試料番号1:a*(D65)は6.32、 b*(D65)は9.74、 L*(D65)は33.07
・試料番号2:a*(D65)は3.65、 b*(D65)は−2.33、L*(D65)は26.79
・試料番号3:a*(D65)は1.48、 b*(D65)は−6.46、L*(D65)は28.14
・試料番号4:a*(D65)は0.13、 b*(D65)は−5.92、L*(D65)は30.66
・試料番号5:a*(D65)は3.37、 b*(D65)は−6.50、L*(D65)は24.00
・試料番号6:a*(D65)は0.37、 b*(D65)は1.37、 L*(D65)は39.00
・試料番号7:a*(D65)は−0.17、b*(D65)は2.88、 L*(D65)は43.67
・試料番号8:a*(D65)は3.68、 b*(D65)は5.30、 L*(D65)は38.43
【0053】
さらに多くの試料を作製して、粒子成形体の表面の色彩色差測定結果と透磁率との関係を調査した。下記表1にまとめたように、d50が10μmであるFe−Cr−Si系軟磁性合金粒子について、熱処理温度を種々変えるなどの手段により、様々なa*(D65)、b*(D65)およびL*(D65)を有する試料を作製して、透磁率との関係をまとめた。表中、c*は、a*(D65)の二乗とb*(D65)の二乗との和の平方根である。表中の試料番号は、上記図2の説明の試料番号とは異なる。本発明の実施例に相当するものについては、試料番号に*を付した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、透磁率はa*(D65)とb*(D65)の値とよく相関していることが明らかになった。
【符号の説明】
【0056】
1:粒子成形体、11:金属粒子、12:酸化被膜、21:金属粒子どうしの結合部、22:酸化被膜を介しての結合部、30:空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Cr−Si系軟磁性合金からなる複数の金属粒子と、前記金属粒子の表面に形成された酸化被膜と、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部と、を備え、L*a*b*表色系で表現される色彩色差測定においてa*(D65)が−3〜5であり、b*(D65)が−8〜0である、粒子成形体からなる軟磁性合金素体。
【請求項2】
前記粒子成形体のL*a*b*表色系で表現される色彩色差測定においてL*(D65)が22〜35である請求項1記載の軟磁性合金素体。
【請求項3】
請求項1または2記載の軟磁性合金素体を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−77618(P2013−77618A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215185(P2011−215185)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】