説明

軟磁性膜用Co−Fe系合金、軟磁性膜および垂直磁気記録媒体

【課題】軟磁気特性を高く維持した上で、耐候性に優れた垂直磁気記録媒体等に用いられる軟磁性膜用Co−Fe系合金の提供。
【解決手段】原子比における組成式が((Co100−x−Fe100−Y−Ni100−(a+b+c)−M1−M2−Ti、5≦X≦80、0≦Y≦25、2≦a≦6、2≦b≦10、0.5≦c≦10で表され、残部不可避的不純物からなるCo−Fe系合金。この軟磁性膜用Co−Fe系合金は、組成式のM1元素が(Zr、Hf、Y)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素、組成式のM2元素が(Ta、Nb)から選ばれる1種もしくは2種の元素であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性膜を形成するためのCo−Fe系合金、その軟磁性膜および軟磁性膜を有する垂直磁気記録媒体に関するものである。
背景技術
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。しかしながら、現在広く世の中で使用されている面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、高記録密度化を実現しようとすると、記録ビットが微細化し、記録ヘッドで記録できないほどの高保磁力が要求される。そこで、これらの問題を解決し、記録密度を向上させる手段として垂直磁気記録方式が検討されている。
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜を媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げて行ってもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する記録媒体が開発されている。
【0003】
このような磁気記録媒体の軟磁性膜としては、高い飽和磁束密度を有することが要求されており、飽和磁束密度が大きいCo−Fe合金が好適に利用されている。そして、磁気記録媒体の軟磁性膜としては、軟磁気特性に優れたアモルファス膜が要求されていることから、上記のCo−Fe合金に対してはアモルファス化を促進する元素の添加が必要とされ、一般的にZrやTaなどが採用されている。
そして、上記のような軟磁性膜は、一般的に同一組成のターゲット材を利用したマグネトロンスパッタリングによって形成されている。一方で、このようなCo−Fe系合金のターゲット材では、耐候性に課題を有していることからCo−Fe系合金にAlやCrを添加したターゲット材などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−284741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示される軟磁性膜形成用ターゲット材は、Co−Fe合金にAlやCrを0.2〜5原子%添加することで、一定の耐候性の向上効果が得られるため有効である。しかしながら、本発明者の検討によれば、このAlやCrの添加では、耐候性を十分に得ることができない場合があることを確認した。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、軟磁気特性を高く維持した上で、耐候性に優れた垂直磁気記録媒体等に用いられる軟磁性膜用Co−Fe系合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、垂直磁気記録媒体等に用いられる軟磁性膜を形成するためのCo−Fe系合金について、Co−Fe系合金への添加元素について種々の検討を行った結果、Ti添加およびその好適な添加範囲を見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、原子比における組成式が((Co100−X−Fe100−Y−Ni100−(a+b+C)−M1−M2−Ti、5≦X≦80、0≦Y≦25、2≦a≦6、2≦b≦10、0.5≦c≦10で表され、残部不可避的不純物からなるCo−Fe系合金であって、前記組成式のM1元素が(Zr、Hf、Y)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素、前記組成式のM2元素が(Ta、Nb)から選ばれる1種もしくは2種の元素である軟磁性膜用Co−Fe系合金である。また、本発明の軟磁性膜用Co−Fe系合金は5原子%以下の範囲でBを含むことができる。
【0009】
また、本発明の軟磁性膜用Co−Fe系合金は、スパッタリングターゲット材、あるいは垂直磁気記録媒体の軟磁性膜層に適用できる。また、本発明の軟磁性膜用Co−Fe系合金は、飽和磁化が1.0(T)以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、軟磁気特性を高く維持した上で、耐候性に優れた垂直磁気記録媒体等の軟磁性膜用のCo−Fe系合金を提供でき、垂直磁気記録媒体を製造する上で極めて有効な技術となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の最も重要な特徴は、軟磁性膜用のCo−Fe系合金中に、軟磁気特性を大きく損なうことなく、耐候性の向上を効果的に実現するための最適な元素としてTiを選択し、さらに上記の効果を実現するための最適な添加量を見出した点にある。
【0012】
まず、本発明のベースとなるCo−Fe系合金に関して説明する。
本発明のCo−Fe系合金のベースとなるCo−Fe合金は、((Co100−X−Fe100−Y−Ni)、5≦X≦80、0≦Y≦25で表される組成である。それは、この組成範囲にあるCo−Fe合金は飽和磁化が大きく軟磁性膜として適切であるためである。また、Co−Fe合金の一部は、Niの添加量Yが0≦Y≦25となる範囲で置換可能である。それは、飽和磁化を大きく低減することなく、軟磁気特性の改善に有効なためである。
上記のCo−Fe合金には、M1元素として(Zr、Hf、Y)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を2〜6原子%、およびM2元素として(Ta、Nb)から選ばれる1種もしくは2種の元素を2〜10原子%添加する。それは、M1元素とM2元素とを上記範囲で含有することで、Co−Fe合金の飽和磁化を大きく損なうことなく、スパッタ膜としてのアモルファス化や磁気特性の改善を行えるためである。
【0013】
本発明のCo−Fe系合金では、上述のCo−Fe系合金に耐候性を効果的に向上させる必須元素としてTiを0.5〜10原子%含有する。電位−pH図より、Tiは広いpH範囲で不動態域が存在することが確認されるため、耐候性の向上に有効な添加元素としてTiを選択した。なお、上記の効果は、0.5原子%に満たない場合には、耐候性改善効果が低く、また、10原子%を超える場合には、磁化が低下するため、0.5〜10原子%に制御することが重要である。磁化の低下をより抑制するにはTiの含有量は5原子%以下であることが望ましい。
【0014】
以上の通り、本発明のCo−Fe系合金は、原子比における組成式が((Co100−X−Fe100−Y−Ni100−(a+b+c)−M1−M2−Ti、5≦X≦80、0≦Y≦25、2≦a≦6、2≦b≦10、0.5≦c≦10で表されるCo−Fe系合金であるが、本発明の作用を損なわない範囲で不可避的不純物を含み得る。例えば、上記の組成式で表されるCo−Fe系合金の純度が99.9%以上であればよい。
【0015】
また、本発明のCo−Fe系合金は、さらに、5原子%以下の範囲でBを含むことも可能である。5原子%以下のB添加は、耐候性や磁化を大きく劣化させること無く、合金の機械的性質、特に硬度を改善することが可能となる。
【0016】
上述したCo−Fe系合金の製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法が適用可能である。溶解鋳造法では、鋳造インゴット、もしくは、鋳造インゴットに塑性加工や加圧加工を加えたバルク体とすることで製造可能となる。また、粉末焼結法では、ガスアトマイズ法でCo−Fe系合金の最終組成の合金粉末を製造し原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末をCo−Fe系合金の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
【0017】
また、本発明のCo−Fe系合金は、各種スパッタリング装置の形式に合致したターゲット材に加工して、スパッタリングすることで、耐候性に優れた軟磁性膜を形成可能である。
【実施例1】
【0018】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
まず、表1に示すCo−Fe系合金組成の鋳造インゴットを作製した。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し直径220mm×45mmのインゴットを作製した。作製したインゴットを加工して、直径180mm×厚さ7mmのCo−Fe系合金バルク体を作製した。
バルク体の耐候性評価として、鋳造インゴットから直径10mm×20mmの試料を作製し、50℃の10%塩酸に24時間浸漬し重量の減少率を測定して、バルク体の耐候性を評価した。測定結果を表1に示す。
また、バルク体の磁性評価として、鋳造インゴットから30mm×10mm×5mmの試料を作製し、直流磁気特性測定装置(東英工業製TRF5A)を用いて、外部磁場160k(A/m)時の磁化を測定した。その結果を表2に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表1から、本発明のTiを0.5〜10原子%含有するCo−Fe系合金(試料1)は、Tiを添加しないCo−Fe系合金(試料3)やAlやCrを添加したCo−Fe系合金(試料2)より高い耐候性を有していることが分かる。なお、表2から、本発明の試料1とAlやCrを添加したCo−Fe系合金の試料2とは、バルク体としての磁化が同程度の値を示しており、試料1のCo−Fe系合金は、耐候性の優れたターゲット材あるいは軟磁性膜として有効である。
【実施例2】
【0022】
まず、表3に示すCo−Fe系合金組成の鋳造インゴットを作製した。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し直径200mm×25mmのインゴットを作製した。作製したインゴットを加工して、直径180mm×厚さ7mmのCo−Fe系合金バルク体を作製した。
バルク体の耐候性評価として、鋳造インゴットから直径10mm×20mmの試料を作製し50℃の10%硫酸に24時間浸漬し重量の減少率を測定して、バルク体の耐候性を評価した。測定結果を表3に示す。
また、バルク体の磁性評価として、鋳造インゴットから30mm×10mm×5mmの試料を作製し、直流磁気特性測定装置(東英工業製TRF5A)を用いて、外部磁場160k(A/m)時の磁化を測定した。その結果を表4に示す。
さらに、バルク体の硬度評価として、鋳造インゴットから10mm×10mm×5mmの試料を作製し、ロックウェル硬度計を用いて、Cスケールで硬度を測定した。その結果を表5に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
表3より、本発明のTiを0.5〜10原子%含有するCo−Fe系合金(試料4、5および6)は、AlやCrを添加したCo−Fe系合金(試料7および8)より高い耐候性を有していることが分かる。なお、表4から、本発明の試料4、5および6は、AlやCrを添加したCo−Fe系合金の試料7および8とバルク体としての磁化が同程度の値を示しており、さらに、表5より本発明のTiを0.5〜10原子%含有し、かつ、5原子%以下のBを含有するCo−Fe系合金(試料4)は、硬度が改善されていることがわかる。
【実施例3】
【0027】
まず、表6に示すCo−Fe系合金組成の鋳造インゴットを作製した。なお、鋳造インゴットは、純度99.9%以上の原料を用い真空中の高周波加熱炉で加熱・溶解したのち、鉄製の鋳型に鋳造し直径200mm×25mmのインゴットを作製した。作製したインゴットを加工して、直径180mm×厚さ7mmのCo−Fe系合金ターゲット材を作製した。
【0028】
上記で得られた各ターゲット材を用いてマグネトロンスパッタリング法によって、基板上にCo−Fe系合金薄膜を成膜し、以下の試験評価を行った。なお、いずれもスパッタリング条件はAr圧0.6Pa、投入電力は500Wで行った。
【0029】
(1)耐候性試験
ガラス基板上に膜厚200nmで成膜した各試料を純水中に24時間浸漬した耐候性試験を行い、腐食領域を目視観察した結果を表6に示す。なお、表6では、腐食領域が目視で観察されないものを○、目視で観察されるものを×と表示している。
(2)磁化評価
Siウェハー上に膜厚300nmで成膜した各試料を10×10mmに割り出した後、各試料の飽和磁化評価を行った結果を表6に示す。なお、測定は東英工業(株)製振動試料型磁力計VSM−3を用いて、外部磁場800000(A/m)を印加して測定をした。
(3)硬度評価
アルミ基板上に膜厚4μmの薄膜を成膜した。成膜した各試料を硬度測定した結果を表6に示す。なお、硬度測定は、マイクロビッカースを用いて、25(g)の印加荷重で5点を測定し、その平均値を硬度として表6に示した。
【0030】
【表6】

【0031】
本発明のTiを0.5〜10原子%含有するCo−Fe系合金は、表6からスパッタリングで薄膜としても、耐候性に優れた合金であることが確認される。
産業上の利用可能性
【0032】
本発明の軟磁性膜用Co−Fe系合金は、軟磁気特性を維持した上で、耐候性に優れているため、安定して垂直磁気記録媒体等の軟磁性膜の形成に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子比における組成式が((Co100−x−Fe100−Y−Ni100−(a+b+c)−M1−M2−Ti、5≦X≦80、0≦Y≦25、2≦a≦6、2≦b≦10、0.5≦c≦10で表され、残部不可避的不純物からなるCo−Fe系合金であって、前記組成式のM1元素が(Zr、Hf、Y)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素、前記組成式のM2元素が(Ta、Nb)から選ばれる1種もしくは2種の元素であることを特徴とする軟磁性膜用Co−Fe系合金。
【請求項2】
スパッタリングターゲット材として使用されることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性膜用Co−Fe系合金。
【請求項3】
垂直磁気記録媒体の軟磁性膜層を形成することを特徴とする請求項1に記載の軟磁性膜用Co−Fe系合金。
【請求項4】
飽和磁化が1.0(T)以上であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性膜用Co−Fe系合金。
【請求項5】
スパッタリング成膜により形成された請求項1に記載の軟磁性膜用Co−Fe系合金であることを特徴とする軟磁性膜。
【請求項6】
請求項1に記載の軟磁性膜用Co−Fe系合金からなる膜を磁気記録膜層の下地層として少なくとも1層以上用いたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
スパッタリング成膜により形成された請求項1に記載の軟磁性膜用Co−Fe系合金である軟磁性膜を磁気記録膜層の下地層として少なくとも1層以上用いたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。

【公開番号】特開2011−99166(P2011−99166A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8418(P2011−8418)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【分割の表示】特願2010−510572(P2010−510572)の分割
【原出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】