説明

軟質ポリプロピレン樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は新規な軟質ポリプロピレン樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は、熱可塑性エラストマーとしての力学的特性を有し、かつ溶融特性に優れ、熱可塑性エラストマー材料として、好適な軟質ポリプロピレン樹脂組成物に関するものである。
[従来の技術]
近年、熱可塑性エラストマーは、ゴムとプラスチックの狭間を埋める新しい材料として、また省エネルギー・省資源タイプのエラストマーとして、特に加硫ゴムの代替として、例えばバンパー、サイドモールなどの自動車部品をはじめ、工業機械部品、電機部品、土木・建材用シート、止水材などに広く使用されている。
このような熱可塑性エラストマーとしては、部分架橋タイプのオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)が、熱可塑性エラストマーとしての優れた力学的特性を有することから、広く用いられている。しかしながら、このTPOを製造するには、一般にポリプロピレンとエチエン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)を、過酸化物の存在下に混練するなど、操作が煩雑で、かつ過酸化物の使用が必要であるため、得られるTPOはコスト高になるのを免れない。
したがって、前記TPOに類似した力学的特性などを有する重合体を重合段階で製造することで、低コスト化を図ることが、これまで種々試みられてきた。例えばプロピレン−ヘキセン共重合体(特開昭49−53983号公報、特公昭62−19444号公報)、弾性ポリプロピレン(特開昭61−179247号公報)などが提案されている。しかしながら、これらの重合体は、いずれも低温特性が不十分であるという欠点を有している。
また、ポリプロピレンの低温特性の改良のために、プロピレン/エチレン−プロピレンの二段重合法がよく知られているが(例えば特開昭57−50804号公報)、この方法では、柔軟性と実用性のある引張強さを兼ね備えた重合体を製造することは困難である。
他方、ポリプロピレンは、工業的にはチーグラー系触媒を用いて製造されているが、この場合、主として結晶性のアイソタクチックポリプロピレンが生成し、約10〜15%のアタクチックポリプロピレンが副生する。このアタクチックポリプロピレンは、数平均分子量(■n)が約10,000程度と低く、その実用的価値が乏しいものであった。
ところで、本発明者らは、先に、マグネシウム、チタン、ハロゲン原子及び電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と、有機アルミニウム化合物とアルコキシ基含有芳香族化合物との組合せから成る触媒系を用いてプロピレンを重合させることにより、高分子量のアタクチックポリプロピレンが容易に得られることを見い出した(特開昭63−243106号公報)。この方法により得られるアタクチックポリプロピレンは、沸騰ヘプタンに可溶性であって、分子量が、通常25,000〜100,000程度と高く、かつ分子量分布も比較的狭いという特徴を有している。このアタクチックポリプロピレンは、ゴム状弾性体としての性質と優れた溶融特性を有しているが、機械的強度が十分ではなく、単独では成形材料としての用途の制限を免れないという問題がある。
[発明が解決しようとする課題]
本発明は、このような事情のもとで、熱可塑性エラストマーとしての良好な力学的特性を有し、かつコスト的に有利であって、例えば自動車分野におけるバンパー、土木・建築分野における建材用シートや止水材などに好適に用いられる熱可塑性エラストマー材料を提供することを目的としてなされたものである。
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の触媒系を用いることにより得られた、特定の分子量と分子量分布を有するアタクチックポリプロピレンと、特定のメルトインデックスを有する結晶性のアイソタクチックポリプロピレンとを、所定の割合で含有して成る軟質ポリプロピレン樹脂組成物が、その目的に適合しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、(A)(イ)マグネシウム、チタン、ハロゲン原子及び電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、(ロ)有機アルミニウム化合物、及び(ハ)一般式

(式中のR1は炭素数1〜20のアルキル基、R2は炭素数1〜10の炭化水素基、水酸基又はニトロ基、mは1〜6の整数、nは0又は1〜(6−m)の整数である)
で表されるアルコキシ基含有芳香族化合物の組み合わせから成る触媒の存在下、プロピレンを重合させることにより得られる、数平均分子量(Mn)が25,000以上で、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが7以下の沸騰ヘプタン可溶性ポリプロピレン10〜90重量%と(B)メルトインデックスが0.1〜4g/10分の沸騰ヘプタン不溶性ポリプロピレン90〜10重量%とから成る軟質ポリプロピレン樹脂組成物を提供するものである。
なお、本発明で用いるアタクチックポリプロピレンに類似している弾性ポリプロピレンが開示されているが(特開昭54−40889号公報)、この弾性ポリプロピレンは、本発明で用いるアタクチックポリプロピレンが通常のポリプロピレン用工業触媒を修飾するだけで容易に製造しうるのに対し、極めて特異な、しかも性能の不十分の触媒を用いることによってのみ製造しうるという問題がある。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーとして、バンパーやシートなどに用いるためには、破断伸び(TB)が400%以上、好ましくは500〜700%、100%伸長後の残留伸び(PS100)が80%以下、好ましくは50〜75%、及び破断時応力(MB)と降伏時応力(MY)との比MB/MYが1.0以上、好ましくは1.5〜3.5の範囲にあることが重要である。これらの力学的特性が前記範囲を逸脱すると本発明の目的が十分に達せられない。
該樹脂においては、(A)成分のアタクチックポリプロピレンとして、沸騰ヘプタンに可溶性であって、数平均分子量(■n)が25,000以上、好ましくは30,000〜60,000の範囲にあり、かつ重量平均分子量(■w)と数平均分子量(■n)との比■w/■nが7以下、好ましくは2〜6の範囲にあるものが用いられる。該■nが25,000未満のものや■w/■n比が7を超えるものでは得られる樹脂における該アタクチックポリプロピレンの力学的特性への寄与効果が十分に発揮されず、得られる樹脂の破断時応力(MB)と降伏時応力(MY)との比が1.0未満になったり、100%伸長後の残留伸び(PS100)が80%を超えたりして、本発明の目的が達せられない。
該(A)成分のアタクチックポリプロピレンはプロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレン単位と40重量%以下、好ましくは30重量%以下の他の炭素数2〜30のα−オレフィン単位とを含有するプロピレン共重合体であってもよい。また、このアタクチックポリプロピレンは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このような(A)成分のアタクチックポリプロピレンは公知の方法(特開昭63−243106号公報)によって製造することができる。具体的には、(イ)マグネシウム、チタン、ハロゲン原子及び電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、(ロ)有機アルミニウム化合物、及び(ハ)一般式

(式中のR1は炭素数1〜20のアルキル基、R2は炭素数1〜10の炭化水素基、水酸基又はニトロ基、mは1〜6の整数,nは0又は1〜(6−m)の整数である)
で表されるアルコキシ基含有芳香族化合物の組み合わせから成る触媒の存在下、プロピレンを重合させることにより、所望のアタクチックポリプロピレンを得ることができる。
前記(イ)固体触媒成分の調製に用いられるマグネシウム化合物としては、例えばマグネシウムジクロリドなどのマグネシウムジハライド、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、マグネシウムのカルボン酸塩、ジエトキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム、アリロキシマグネシウム、アルコキシマグネシウムハライド、アリロキシマグネシウムハライド、エチルブチルマグネシウムなどのアルキルマグネシウム、アルキルマグネシウムハライド、あるいは有機マグネシウム化合物と電子供与体、ハロシラン、アルコキシシラン、シラノール及びアルミニウム化合物などとの反応物などを挙げることができるが、これらの中でマグネシウムハライド、アルコキシマグネシウム、アルキルマグネシウム、アルキルマグネシウムハライドが好適である。また、これらのマグネシウム化合物は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、該チタン化合物としては、例えばテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソプトキシチタン、テトラシクロヘキシロキシチタン、テトラフェノキシチタンなどのテトラアルコキシチタン、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタンなどのテトラハロゲン化チタン、メトキシチタニウムトリクロリド、エトキシチタニウムトリクロリド、プロポキシチタニウムトリクロリド,n−ブトキシチタニウムトリクロリド、エトキシチタニウムトリブロミドなどのトリハロゲン化アルコキシチタン、ジメトキシチタニウムジクロリド、ジエトキシチタニウムジクロリド、ジプロポキシチタニウムジクロリド、ジ−n−プロポキシチタニウムジクロリド、ジエトキシチタニウムジブロミドなどのジハロゲン化ジアルコキシチタン、トリメトキシチタニウムクロリド、トリエトキシチタニウムクロリド、トリプロポキシチタニウムクロリド、トリ−n−ブトキシチタニウムクロリドなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタンなどが挙げられるが、これらの中で高ハロゲン含有チタン化合物、特に四塩化チタンが好適である。これらのチタン化合物はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに該電子供与体は、酸素、窒素、リン、イオウ、ケイ素などを含有する有機化合物であり、基本的にはプロピレンの重合に際し、規則性を向上させるものが用いられる。このような電子供与体としては、例えばエステル類、チオエステル類、アミン類、アミド類、ケトン類、ニトリル類、ホスフィン類、エーテル類、チオエーテル類、酸無水物、酸ハライド類、酸アミド類、アルデヒド類、有機酸類などを挙げることができる。
具体的には、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジベンジルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジプロピルフタレート、ジイソブチルフタレート、メチルエチルフタレート、メチルプロピルフタレート、メチルイソブチルフタレート、エチルプロピルフタレート、エチルイソブチルフタレート、プロピルイソブチルフタレート、ジメチルテレフタレート、ジエチルテレフタレート、ジプロピルテレフタレート、ジイソブチルテレフタレート、メチルエチルテレフタレート、メチルプロピルテレフタレート、メチルイソブチルテレフタレート、エチルプロピルテレフタレート、エチルイソブチルテレフタレート、プロピルイソブチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジエチルイソフタレート、ジプロピルイソフタレート、ジイソブチルイソフタレート、メチルエチルイソフタレート、メチルプロピルイソフタレート、メチルイソブチルイソフタレート、エチルプロピルイソフタレート、エチルイソブチルイソフタレート及びプロピルイソブチルイソフタレートなどの芳香族ジカルボン酸ジエステル、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酢酸エチル、吉草酸エチル、クロロ酢酸メチル、ジクロロ酢酸エチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸エチル、ピバリン酸エチル、マレイン酸ジメチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル、トルイル酸エチル、トルイル酸アミル、アニス酸エチル、エトキシ安息香酸エチル、p−ブトキシ安息香酸エチル、o−クロロ安息香酸エチル及びナフトエ酸エチルなどのモノエステル、r−バレロラクトン、クマリン、フタリド、炭酸エチレンなどの炭素数2〜18のエステル酸、安息香酸、p−オキシ安息香酸などの有機酸類、無水コハク酸、無水安息香酸、無水p−トルイル酸などの酸無水物類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾキノンなどの炭素数3〜15のケトン類、アセトアルデヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ナフチルアルデヒドなどの炭素数2〜15のアルデヒド類、アセチルクロリド、ベンジルクロリド、トルイル酸クロリド、アニス酸クロリドなどの炭素数2〜15の酸ハライド類、メチルエーテル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、t−ブチルエーテル、アミルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、ジフェニルエーテル、エチレングリコールブチルエーテルなどの炭素数2〜20の対称又は非対称エーテル類、酢酸アミド、安息香酸アミド、トルイル酸アミドなどの酸アミド類、トリブチルアミン、N,N′−ジメチルピペラジン、トリベンジルアミン、アニリン、ピリジン、ピコリン、テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン類、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリルなどのニトリル類、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2′−アゾビス(2−エチルプロパン)、2,2′−アゾビス(2−メチルペンタン)、α,α′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボン酸)、(1−フェニルメチル)−アゾジフェニルメタン、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−トリロキシペンタンニトリルなどのアゾ結合に立体障害置換基が結合して成るアゾ化合物などが挙げられ、これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中で、エステル類、エーテル類、ケトン類及び酸無水物が好ましく、特に、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジイソブチルなどの芳香族ジカルボン酸ジエステル、安息香酸、p−メトキシ安息香酸、p−エトキシ安息香酸、トルイル酸などの芳香族モノカルボン酸の炭素数1〜4のアルキルエステルなどが好適である。芳香族ジカルボン酸ジエステルは、触媒活性及び活性持続性を向上させると共に、得られる重合体の立体規則性を増大させるので特に好ましい。
該(イ)固体触媒成分は、公知の方法(特開昭53−43094号公報、特開昭55−135102号公報、特開昭55−135103号公報、特開昭56−18606号公報)、例えば(1)マグネシウム化合物又はマグネシウム化合物と電子供与体との錯化合物を、電子供与体及び所望に応じて用いられる粉砕助剤などの存在下に粉砕して、チタン化合物と反応させる方法、(2)還元能を有しないマグネシウム化合物の液状物と液状チタン化合物とを、電子供与体の存在下において反応させて、固体状のチタン複合体を析出させる方法、(3)前記(1)又は(2)で得られたものにチタン化合物を反応させる方法、(4)前記(1)又は(2)で得られたものに、さらに電子供与体及びチタン化合物を反応させる方法、(5)マグネシウム化合物又はマグネシウム化合物と電子供与体との錯化合物を、電子供与体、チタン化合物及び所望に応じて用いられる粉砕助剤などの存在下で粉砕したのち、ハロゲン又はハロゲン化合物で処理する方法、(6)前記(1)〜(4)で得られた化合物をハロゲン又はハロゲン化合物で処理する方法、などによって調製することができる。
さらに、これら以外の方法(特開昭56−166205号公報、特開昭57−63309号公報、特開昭57−190004号公報、特開昭57−300407号公報、特開昭58−47003号公報)によっても、該(イ)固体触媒成分を調製することができる。
また、周期表II〜IV族に属する元素の酸化物、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの酸化物又は周期表II〜IV族に属する元素の酸化物の少なくとも1種を含む複合酸化物、例えば、シリカアルミナなどに前記マグネシウム化合物を担持させた固形物と電子供与体とチタン化合物とを、溶媒中で、0〜200℃、好ましくは10〜150℃の範囲の温度において2分〜24時間接触させることにより固体触媒成分を調製することができる。
また、該固体触媒成分の調製に当たり、溶媒としてマグネシウム化合物、電子供与体及びチタン化合物に対して不活性な有機溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、あるいは炭素数1〜12の飽和又は不飽和の脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素のモノ及びポリハロゲン化合物などのハロゲン化炭化水素などを使用することができる。
このようにして調製された(イ)固体触媒成分の組成については、通常マグネシウム/チタン原子比が2〜100、ハロゲン/チタン原子比が5〜200、電子供与体/チタンモル比が0.1〜10の範囲にある。
前記触媒において、(ロ)成分として用いられる有機アルミニウム化合物としては、一般式A■R3p3-p…(II)
(式中のR3は炭素数1〜10のアルキル基、Xは塩素、臭素などのハロゲン原子、pは1〜3の数である)
で表される化合物を用いることができる。このようなアルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジイソプロピルアルミニウムモノクロリド、ジイソブチルアルミニウムモノクロリド、ジオクチルアルミニウムモノクロリドなどのジアルキルアルキルモノハライド、エチルアルミニウムセスキクロリドなどのアルキルアルミニウムセスキハライドなどを好適に使用することができる。これらのアルミニウム化合物は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、(ハ)成分として用いられる前記一般式(I)で表されるアルコキシ基含有芳香族化合物としては、例えばm−メトキシトルエン、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、2−メトキシ−4−メチルフェノール、ビニルアニソール、p−(1−プロペニル)アニソール、p−アリルアニソール、1,3−ビス(p−メトキシフェニル)2−1−ベンテン、5−アリル−2−メトキシフェノール、4−アリル−2−メトキシフェノール、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアルコール、メトキシベンジルアルコール、ニトロアニソール、ニトロフェネトールなどのモノアルコキシ化合物、o−ジメトキシベンゼン、m−ジメトキベンゼン、p−ジメトキシベンゼン、3,4−ジメトキシトルエン、2,6−ジメトキシフェノール、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼンなどのジアルコキシ化合物及び1,3,5−トリメトキシベンゼン、5−アリル−1,2,3−トリメトキシベンゼン、5−アリル−1,2,4−トリメトキシベンゼン、1,2,3−トリメトキシ−5−(1−プロペニル)ベンゼン、1,2,4−トリメトキシ−5−(1−プロペニル)ベンゼン、1,2,3−トリメトキシベンゼン、1,2,4−トリメトキシベンセンなどのトリアルコキシ化合物などが挙げられるが、これらの中でジアルコキシ化合物及びトリアルコキシ化合物が好適である。これらアルコキシ基含有化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
各触媒成分の使用量については、通常(イ)成分は、Ti原子に換算して、反応容積1■当たり0.0005〜1mモルとなるように、(ロ)成分は、(ロ)成分/Tiモル比が1〜3000、好ましくは40〜800になるように用いられ、かつ(ハ)成分は(ハ)成分/Tiモル比が0.01〜500、好ましくは1〜300になるように用いられる。
該アタクチックポリプロピレンを製造するには、反応系に前記触媒成分を加え、次いでこの系にプロピレンを導入すればよい。前記(イ)、(ロ)及び(ハ)成分をそれぞれ所定量混合し、接触させたのち、ただちにプロピレンを導入し、重合を開始させることもできるが、接触後0.2〜3時間程度熟成させたのち、プロピレンを導入して重合させてもよい。
この重合形式については、特に制限はなく、溶液重合法、懸濁重合法、気相重合法など、いずれの方式を用いることができるし、また、連続重合法、非連続重合法のいずれも可能である。特に、効率及び品質上の点から溶液連続重合法及び懸濁連続重合法が好ましい。
さらに、該重合反応における反応条件については、プロピレン圧は通常1〜50kg/cm2・G、反応温度は、通常20〜200℃、好ましくは60〜100℃の範囲で適宜選ばれる。重合体の分子量の調節は、公知の手段、例えば重合器中の水素濃度を調製することにより、行うことができる。反応時間は通常10分間ないし10時間程度である。
また、原料のプロピレンは単独で用いてもよいし、所望に応じ、他のα−オレフィンと組み合わせて用いてもよいが、この場合、他のα−オレフィンは全単量体中40重量%以下、好ましくは30重量%以下の割合で含有することが望ましい。該他のα−オレフィンとしては、炭素数2〜30のプロピレン以外のもの、例えばエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキサン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ドデセン−1、テトラデセン−1、オクタデセン−1、4−メチルペンテン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などを用いることができる。これらのα−オレフィンは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このようにして、本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物において(A)成分として用いられる高分子量で、かつ比較的分子量分布の狭いアタクチックポリプロピレンを得ることができる。
本発明の樹脂組成物においては、(B)成分として、メルトインデックス(MI)が0.1〜4g/10分の沸騰ヘプタン不溶性の結晶性アイソタクチックポリプロピレンが用いられる。このメルトインデックスが0.1g/10分未満では溶融特性が低く、射出成形などが困難になるし、4g/10分を超えると機械的性質が不十分となって成形材料として不適となる。
この(B)成分のアイソタクチックポリプロピレンは、アイソタクチックの立体規則性を有するプロピレン単独重合体であってもよいし、該立体規則性を有するプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。この共重合体に用いられる他のα−オレフィンとしては、炭素数2〜8のもの、例えばエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1などが好ましく、中でもエチレン及びブテン−1が好適である。また該共重合体としては、前記の他のα−オレフィン単位を通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下含有するブロック共重合体やランダム共重合体が用いられる。
該(B)成分のアイソタクチックポリプロピレンの好ましいものとしては、プロピレン単独重合体、及びエチレン単位1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%を含有するプロピレンとエチレンとのランダム共重合体又はブロック共重合体が挙げられる。このようなアイソタクチックポリプロピレンの製造方法については特に制限はなく、従来結晶性ポリプロピレンの製造に慣用されている方法の中から任意の方法を選択して用いることができる。
本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物においては、この(B)成分のアイソタクチックポリプロピレンは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記(A)成分のアタクチックポリプロピレンと(B)成分のアイソタクチックポリプロピレンは、(A)成分の含有量が10〜90重量%、好ましくは25〜80重量%で、(B)成分の含有量が90〜10重量%、好ましくは75〜20重量%になるような割合で用いられる。該(A)成分の含有量が10重量%未満では、樹脂の降伏時応力(MY)が大きくなりすぎて、破断時応力(MB)と降伏時応力(MY)との比MB/MYが1.0未満となり、かつ100%伸長後の残留伸びPS100も80%より大きくなって、本発明の目的が達せられないし、一方90重量%を超えると破断時応力(MB)が小さくなりすぎて、該MB/MY比が1.0未満となり、かつ機械的強度が低下し、本発明の目的が達せられない。
本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物には、所望に応じ各種添加剤、補強材、充填剤、例えば耐熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、難燃剤、顔料や染料、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレーなどを、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することができる。さらに、その他の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴムなども必要に応じて配合することもできる。
本発明の軟質ポリプロピレン樹脂の調製方法については特に制限はなく、従来ポリプロピレン組成物に慣用されている方法、例えば所要量の前記(A)成分、(B)成分及び必要に応じて用いられる各種添加成分を、ニーダー、ロール、バンバリミキサーなどの混練機や、一軸又は二軸押出機などを用いて、溶融混練することにより、調製することができる。
このようにして得られた本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物は、通常用いられている成形方法により種々の成形品を得、多様な用途に供することができる。
射出成形による場合、軟質であるという特性や良好な塗装性、成形性、耐キズつき性、耐低温衝撃性により、自動車外装部品に好適に用いられる。具体的には、バンパー、モール、塗装用マッドガード、サイトシールド、スポイラー等である。
中空成形による場合、良好な成形性を利用して、従来のポリプロピレンでは偏肉しがちであった部分、例えばダクトのジャバラ等に好適である。また、深絞り用材料としても好適である。
押出成形による場合、良好な耐衝撃性、耐熱性を利用してエンジンのアンダーカバー用シート等に用いられる。また加工性がよくソフトな感触があることを利用して、自動車内装部品に好適に用いられる。例えば、天井材やトランクルーム内張、インパネ表皮材等である。また加工性、絶縁性を利用しての弱電部品分野における絶縁シートや耐熱性、耐候性、耐摩耗性を利用しての電線ケーブル分野におけるフレキシブルコードやブースターケーブル等にも用いられる。さらには土木、建材分野では防水シート、止水材、目地材としての用途もある。
他の樹脂と積層等を施せば、種々多様な目的を満足させうるシートを得ることもできる。
次に、本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物における(A)成分のアタクチックポリプロピレンの製造方法の1例を第1図にフローチャートで示す。
[実施例]
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
製造例1 HSP−1及びHIPの製造(1)固体触媒成分の調製十分に窒素置換した内容積500mlのガラス製三ッ口フラスコに、精製ヘプタン20ml、Mg(OEt)24g及びフタル酸ジ−n−ブチル1.2gを加え、系内を90℃に保ち、かきまぜながらTiC45mlを滴下したのち、さらにTiC4110mlを追加投入して、110℃に昇温し、2時間反応させ、次いで、80℃の精製ヘプタン100mlで洗浄した。次に、得られた固相部にTiC4115mlを加え、110℃でさらに2時間反応させた。反応終了後、生成物を精製ヘプタン100mlで数回洗浄して、固体触媒成分とした。
(2)プロピレンの重合1■のステンレス製オートクレーブに、n−ヘプタン400ml、トリエチルアルミニウム(A■Et3)1.0m mol、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼン(ADMB)0.025m mol及び前記で得られた固体触媒成分6mgを添加し、プロピレン圧8kg/cm2・G、70℃で2時間重合を行った。次いで、生成したポリマー40g当たりn−ヘプタン4■を加え、攪拌機で2時間、加熱還流したのち、熱ろ過を行い、ろ液からアタクチックポリプロピレンHSP−1を回収した。このHSP−1の■nは37,000で、■w/■n比は4.7であった。
一方、前記熱ろ過の残渣を回収し、アイソタクチックポリプロピレンHIPを得た。このHIPのMIは0.43g/10分であった。
製造例2 HSP−2〜HSP−4の製造製造例1において、ADMBの添加量を変えたこと以外は、製造例1と同様にして、第1表に示す■n及び■w/■n比を有するアタクチックポリプロピレンHSP−2、HSP−3及びHSP−4を製造した。
実施例1製造例で得たHSP−1 50重量部とHIP50重量部との混合物に、酸化防止剤としての2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)2000重量ppmを添加し、これを内容積30mlのラボプラストミルを用いて、195℃で2分間溶融混練し、(回転数70rpm)、軟質ポリプロピレン樹脂組成物を得た。次いで、この混練物のプレス成形品の物性を求めた。その結果を第1表に示す。
実施例2〜4、8、9、比較例3、4実施例1において、HSP−1とHIPの使用量を変えた以外は、実施例1と同様にして実施した。その結果を第1表に示す。
比較例1実施例1において、HSP−1の代わりに、TiC4/ブチルベンゾエート/MgC2とA■Et3とから成る触媒系を用いて得られたHSP−5を用いた以外は、実施例1と同様にして実施した。その結果を第1表に示す。
実施例5〜7実施例1において、HSP−1の代わりにHSP−2、HSP−3、HSP−4をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。その結果を第1表に示す。
比較例2実施例1において、HSP−1の代わりにHSP−6(HSP−1の製造において、重合時に水素を加えたこと以外は、同様な方法で製造したもの)を用いたこと以外は、同様にして実施した。その結果を第1表に示す。




[発明の効果]
本発明によると結晶性のアイソタクチックポリプロピレンに、特定の触媒系を用いることにより得られた高分子量で比較的分子量分布の狭いアタクチックポリプロピレンを所定の割合で配合することにより、該アイソタクチックポリプロピレンの力学的性質や硬度などを容易に改良することができ、架橋処理を施さなくても熱可塑性エラストマーとしての良好な力学的特性を有するコスト的に有利な軟質ポリプロピレン樹脂組成物が得られる。
本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物は、溶融特性にも優れていて、押出成形性のみでなく、射出成形性も良好であり、例えば自動車分野におけるバンパーや土木・建築分野における建材用シートや止水材などの材料として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の軟質ポリプロピレン樹脂組成物における(A)成分のアタクチックポリプロピレンの製造方法の1例のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)(イ)マグネシウム、チタン、ハロゲン原子及び電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、(ロ)有機アルミニウム化合物、及び(ハ)一般式

(式中のR1は炭素数1〜20のアルキル基、R2は炭素数1〜10の炭化水素基、水酸基又はニトロ基、mは1〜6の整数、nは0又は1〜(6−m)の整数である)
で表されるアルコキシ基含有芳香族化合物の組み合わせから成る触媒の存在下、プロピレンを重合させることにより得られる、数平均分子量(Mn)が25,000以上で、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが7以下の沸騰ヘプタン可溶性ポリプロピレン10〜90重量%と(B)メルトインデックスが0.1〜4g/10分の沸騰ヘプタン不溶性ポリプロピレン90〜10重量%とから成る軟質ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】破断伸び(TB)が400%以上、100%伸長後の残留伸び(PS100)が80%以下、及び破断時応力(MB)と降伏時応力(MY)との比MB/MYが1.0以上である請求項1記載の軟質ポリプロピレン樹脂組成物。

【第1図】
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【公告番号】特公平6−23278
【公告日】平成6年(1994)3月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−307519
【出願日】平成1年(1989)11月29日
【公開番号】特開平3−14851
【公開日】平成3年(1991)1月23日
【出願人】(999999999)出光石油化学株式会社
【参考文献】
【文献】特公昭42−22528(JP,B1)