説明

軟質化された植物性素材の製造方法

【課題】植物性素材の形状を維持したままの栄養価の高い軟質化された植物性素材の製造方法および該製造方法によって得られる軟質化された植物性素材の提供。
【解決手段】分解酵素の導入にあたり、植物性素材を分解酵素と接触させ、減圧処理を複数回、合計減圧時間が12分未満となるように施すことにより、植物性素材の形状を維持したまま、栄養価の高い軟質化された植物性素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解酵素の導入による軟質化された植物性素材の製造方法に関する。また、該製造方法によって得られる軟質化された植物性素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、咀嚼・嚥下困難者、要介護者、術後初期、中期、後期の患者または高齢者等を対象として、消化吸収、咀嚼・嚥下等を考慮して軟らかく調製されたきざみ食、とろみ食またはミキサー食等が提供されてきた。
これらは料理を包丁等で細かく刻んだり、かたくり粉等でとろみをつけたり、水分を足してミキサーにかけ、ペースト状にしたりしたものであるため、軟らかいが食品として見栄えが悪いという問題があった。
【0003】
この問題を改善し、見栄えの良い食品を製造するために、素材を包丁等で細かくしなくても軟らかくできる、様々な方法が開発されてきた。例えば、生または加熱したニンジンやジャガイモを素材として凍結解凍した後、ペクチン分解酵素を含む液体に浸漬し、減圧下でペクチン分解酵素を素材に導入し、酵素反応させる方法(例えば、特許文献1参照)や、ゴボウやレンコン等を素材として急速冷凍機で凍結した後、同様にペクチン分解酵素またはセルロース分解酵素を導入し、酵素反応させる方法(例えば、特許文献2、3参照)が開発されている。また、分解酵素の導入にあたり、真空包装を用いる方法(例えば、特許文献4参照)等も開発されている。
【0004】
しかし、これらの方法によって、素材は確かに軟らかくなるものの、咀嚼・嚥下困難者、要介護者、術後初期、中期、後期の患者または高齢者等を対象とする食品の製造に用いる食品素材として十分な軟らかさが得られているとは言えなかった。また、これらの方法では、同じ種類の素材に同時に同じ処理をしたにも関わらず、軟らかさにばらつきがあるため、軟質化された素材を安定して大量に製造することは不可能であった。そして、分解酵素を含む液体に素材を浸漬する方法では特に、得られた素材からの離水が多く、栄養素が流出してしまうため、軟質化はされているものの栄養価が低く、水っぽく、味が薄い素材しかできないという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明者らは、素材の軟質化にあたり使用する酵素処理液の量を少量にするとともに、酵素処理液に二糖類を含有したり、含有される分解酵素の量を規定したりすることにより、形状を維持した状態で軟質化され、かつ離水が抑制された、優れた食感を有する軟質化された素材の提供を可能としている(例えば、特許文献5参照)。そして、本発明で開示するように、より良い軟質化された素材を提供するために、分解酵素を素材に導入する条件として減圧処理を複数回行うことを検討したり、離水を防止するための方法等を模索したりしてきた。
【0006】
素材に分解酵素を導入するために、減圧処理を複数回行う方法としては、コマツナ、ホウレンソウ等の植物性組織が柔らかく食用である葉菜類を素材として、酵素処理液に浸漬し、減圧処理を2回以上繰り返す方法が開発されている(例えば、特許文献6参照)。しかし、この方法はジュースやパスタソース等に利用するために、素材を単細胞化するためのものであり、素材の形状を維持したまま、栄養価の高い軟質化された素材を得ることを目的とする本発明とは大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3686912号
【特許文献2】特開2010−51209号公報
【特許文献3】国際公開第2008/029783号パンフレット
【特許文献4】特開2008−11794号公報
【特許文献5】特開2010−115164号公報
【特許文献6】特開2010−130984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は植物性素材の形状を維持したまま、栄養価の高い軟質化された植物性素材の製造方法、さらに、このような軟質化された植物性素材をばらつきなく、安定して大量に製造できる軟質化された植物性素材の製造方法の提供を課題とする。また、該製造方法によって得られる軟質化された植物性素材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、分解酵素の導入にあたり、植物性素材を分解酵素と接触させ、減圧処理を複数回、合計減圧時間が12分未満となるように施すことにより、植物性素材の形状を維持したまま、栄養価の高い軟質化された植物性素材を製造できることを見出した。さらに、分解酵素の失活にあたり、70〜120℃、湿度10〜100%で植物性素材を5〜120分加熱することにより、離水が防止され、植物性素材の形状を維持したまま、栄養価の高い軟質化された植物性素材が製造できることを見出した。
これらの特徴を有する本発明の軟質化された植物性素材の製造方法は、分解酵素を植物性素材に効率よく、ムラなく導入できるため、軟質化された植物性素材をばらつきなく、安定して大量に製造することも可能であった。
【0010】
即ち、本発明は次の(1)〜(13)の軟質化された植物性素材の製造方法、および該製造方法によって得られる軟質化された植物性素材等に関する。
(1)分解酵素の導入により軟質化された植物性素材を製造する方法において、分解酵素の導入にあたり、植物性素材を分解酵素と接触させ、減圧処理を複数回、合計減圧時間が12分未満となるように施すことを特徴とする軟質化された植物性素材の製造方法。
(2)さらに、70〜120℃、湿度10〜100%で植物性素材を5〜120分加熱することにより分解酵素の失活処理を行う上記(1)に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(3)さらに、軟質化された植物性素材を冷凍する上記(1)または(2)に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(4)生鮮、冷凍または加熱された植物性素材を軟質化に用いる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(5)セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、またはペクチナーゼ活性の少なくとも一つ以上の活性を有する分解酵素を用いる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(6)2wt%以上の分解酵素を含む酵素処理液を用いて分解酵素と植物性素材と接触させる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(7)植物性素材の重量に対して、50wt%以下の酵素処理液で処理する上記(6)に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(8)酵素処理液が二糖類を含有する上記(6)または(7)に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(9)二糖類がトレハロースである上記(8)に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(10)軟質化された植物性素材の圧縮応力が「特別用途食品の表示許可等について(食安発第0212001号、厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知、平成21年2月12日)」に記載の「えん下困難者用食品の試験方法」に準拠して測定した場合2.0×104N/m2未満である上記(1)〜(9)のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(11)軟質化された植物性素材の圧縮応力が標準偏差5.0×103N/m2以下である上記(10)に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
(12)軟質化された植物性素材が、その植物性素材本来の栄養素の値を100%とした場合に85%以上の栄養素を保持している上記(1)〜(11)のいずれかに植物性素材の製造方法。
(13)植物性素材本来の色、形状および栄養素を保持したまま、かたさにばらつきなく軟質化された植物性素材が得られる上記(1)〜(12)のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、植物性素材の形状を維持したまま、栄養価の高い軟質化された植物性素材をばらつきなく、安定して大量に製造することが可能となった。本発明によって得られる軟質化された植物性素材は、見栄えが良く、少量でも高栄養で、風味が高いことから、高齢者用軟化食品、術後患者用食品、嚥下食等または離乳食等の製造に用いる食品素材として有効に利用でき、これらの食品を安定かつ大量に製造することも可能となる。また、本発明によって得られる軟質化された植物性素材は、冷凍保存後も植物性素材本来の色、形状と同様の外観を維持しており、離水が少なく、食感がかたくなく、風味の良いもの等であることから、幅広く流通し、利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】軟質化されたニンジンの写真を示した図である(実施例、比較例)。
【図2】軟質化されたジャガイモの写真を示した図である(実施例、比較例)。
【図3】軟質化されたゴボウの写真を示した図である(実施例、比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の「軟質化された植物性素材」とは、食用のニンジン、ジャガイモ、ゴボウ等の植物性素材を、咀嚼・嚥下困難者、要介護者、術後初期、中期、後期の患者または高齢者、乳幼児等が摂取しやすい軟らかさを有するまで軟質化した植物性素材のことをいう。
本発明では、生鮮の植物性素材、これを冷凍した植物性素材、これを乾燥した植物性素材等を軟質化に用いることができる。また、生鮮のものを加熱して缶詰等にした植物性素材や、加熱してから乾燥させた植物性素材も本発明の軟質化に用いることができる。
【0014】
本発明の軟質化に用いるこれらの植物性素材は、食用の植物性素材であればいずれのものであっても良く、例えば、葉茎菜類のブロッコリー、ほうれん草、キャベツ、小松菜、菜の花、白菜、レタス、タマネギ、カリフラワー、インゲン、ヤングコーンまたは筍など、果菜類のピーマン、キュウリ、かぼちゃ、ナス、トマト、ズッキーニまたはパプリカなど、根菜類のニンジン、ダイコン、蓮根、ゴボウなど、豆類のエンドウ、大豆、枝豆、ソラマメなど、イモ類のサツマイモ、ジャガイモ、サトイモなど、果実類のリンゴ、桃、イチゴ、メロン、ブドウ、マンゴー、バナナ、みかんなど、キノコ類(菌類)のシイタケ、マイタケ、エリンギ、シメジ、マッシュルームなどが挙げられる。
【0015】
このような本発明の「軟質化された植物性素材」は、「特別用途食品の表示許可等について(食安発第0212001号、厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知、平成21年2月12日)」に記載の「えん下困難者用食品の試験方法」に準拠して測定した場合に圧縮応力が2.0×104N/m2未満、特に好ましく1.5×104N/m2未満、さらに好ましくは1.0×104N/m2未満となるように軟質化されていることが好ましく、植物性素材本来の色、形状および栄養素を保持したまま、かたさにばらつきがなく軟質化されたものであることが好ましい。
【0016】
ここで、「植物性素材本来の色、形状」を保持しているとは、植物性素材自身または軟質化のためにあく抜き等した植物性素材と同様の色や形を、軟質化された後も有していることをいう。
また、「植物性素材本来の栄養素」を保持しているとは、軟質化のためにあく抜き等した後、98℃で20秒ボイルすることによりブランチング処理した植物性素材と、本発明の軟質化された植物性素材が、いずれの栄養素においても同等量の栄養素を有していることをいう。この「植物性素材本来の栄養素」は、いずれの栄養素とも、同じ植物性素材を同様に処理したものと考えられる「五訂増補日本食品標準成分表(科学技術・学術審議会・資源調査分科会報告書、文部科学省、平成17年1月24日)」に記載の植物性素材が有する栄養素と同等であった。
軟質化された植物性素材が保持している、好ましい栄養素の程度を数値で示す場合には、植物性素材本来の栄養素の値を100%とした場合に、いずれの栄養素も85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の値を示すものであることが好ましい。
また、「かたさにばらつきなく軟質化され」ているとは、同時に軟質化を行った同じ種類の植物性素材が、いずれも同様に軟質化されていることをいう。この「かたさにばらつきなく軟質化され」ていることを、圧縮応力の数値で示す場合には、軟質化された植物性素材において、圧縮応力の標準偏差が1.0×104N/m2未満であれば良く、5.0×103N/m2未満であれば特に「かたさにばらつきなく軟質化され」ていることになる。
【0017】
本発明の「軟質化された植物性素材」は、「軟質化された植物性素材」を製造できる方法であれば、従来知られるいずれの製造方法によっても製造することができるが、その製造にあたり、「植物性素材を分解酵素と接触させ、減圧処理を複数回、合計減圧時間が12分未満となるように施す」ことが好ましい。
「分解酵素」は、植物性素材の軟質化に利用できる「分解酵素」であればいずれのものも用いることができ、このような「分解酵素」として、例えば、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、またはペクチナーゼ活性の少なくとも一つ以上の活性を有する分解酵素等が挙げられる。このような「分解酵素」は市販の物であってもよく、例えば、セルラーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性を有するヘミセルラーゼアマノ90(天野エンザイム社製)や、ペクチナーゼ活性を有するマセロチーム2A(ヤクルト薬品工業社製)等を用いることができる。
【0018】
ここで、「植物性素材を分解酵素と接触させ」るとは、分解酵素を含む酵素処理液に植物性素材を浸漬することなく、分解酵素を含む少量の酵素処理液を植物性素材にまぶす、塗布する等の方法によって「植物性素材を分解酵素と接触させ」ることをいう。これによって植物性素材の表面全体に分解酵素が行き渡ることになる。
酵素処理液は、水、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等に分解酵素を溶解して調製することができる。酵素処理液に含まれる分解酵素は、本発明の「軟質化された植物性素材」が製造できる濃度であればよいが、2wt%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは3.5〜10.0wt%含まれていることが好ましい。
また、分解酵素以外にトレハロース、ショ糖、マルトース、ラクトース等の二糖類を含んでいても良い。酵素処理液に含まれる二糖類は、本発明の「軟質化された植物性素材」の製造において有用な濃度であればよいが、5〜30wt%、より好ましくは20〜25wt%含まれていることが好ましい。
このような酵素処理液は植物性素材との接触において、少量用いれば良く、例えば、植物性素材の重量に対して、50wt%以下の酵素処理液を、より好ましくは5〜25wt%の酵素処理液を用いることが好ましい。
【0019】
「植物性素材を分解酵素と接触させ」た後、酵素処理液に含まれる分解酵素を植物性素材内部に浸透させるために「減圧処理」を行う。
「減圧処理」は、20kPa以下、より好ましくは10kPa以下の減圧下に、分解酵素と接触させた植物性素材を置くことをいい、従来知られているいずれかの方法や機器を用いて行うことができる。このような機器としては、ダイアフラム型ドライ真空ポンプ DAU−100H(アルバック機工社製)等が挙げられる。
本発明においては、この「減圧処理」を合計減圧時間が12分未満となるように、例えば1分間の減圧処理を2〜4回、30秒間の減圧処理を2〜9回といったように、2回以上の複数回繰り返し施すことが重要である。この合計減圧時間は12分未満であれば良く、例えば8分以下、また好ましくは4分以下であっても良い。
【0020】
このようにして植物性素材内部に浸透させた分解酵素を、一定温度に一定時間おくことで酵素反応させ、植物性素材の軟質化を進めることができる。酵素反応の条件は、本発明の「軟質化された植物性素材」の製造において、軟質化に用いる植物性素材に応じ、適した条件であれば良い。例えば、植物性素材がジャガイモやニンジンの場合は4℃で12〜30時間程度、ゴボウの場合は4℃で3〜30時間程度反応させた後、45〜60℃に20〜40分間置く等の条件が挙げられる。
【0021】
本発明の「軟質化された植物性素材」の製造においては、分解酵素の反応を行った後、分解酵素の失活処理を行う。「分解酵素の失活処理」は、本発明の「軟質化された植物性素材」が製造できる方法であれば、従来知られているいずれの方法を用いて行っても良いが、スチームコンベクション等の温度および湿度を調整できる機器を用いて、植物性素材を70〜120℃、湿度10〜100%で5〜120分加熱して行うことが特に好ましい。
この工程で水分除去も同時に行うことができる。この工程で湿度を調整して加熱することにより、植物性素材の表面が乾燥せず、植物性素材の軟質化に影響しない状態で、余分な水分のみを除去することができる。
【0022】
上記のような工程を経て、本発明の「軟質化された植物性素材」を製造することができるが、この軟質化された植物性素材をさらに冷凍したものも、本発明の「軟質化された植物性素材」に含むことができる。
「軟質化された植物性素材」の冷凍にあたり、上記のような工程を経て得られた「軟質化された植物性素材」をブラストフリーザー QXF−006SF5(福島工業社製)等の機器を用いて急速冷凍することが好ましい。
急速冷凍後や、急速冷凍後凍結保存した軟質化された植物性素材の解凍は、軟質化された植物性素材が均一に解凍され、また、保形性を維持できる条件で行うことが好ましい。例えば、70〜80℃、20〜40分を目安として解凍を行うことが好ましい。
【0023】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
<素材・材料>
1.植物性素材
1)ニンジン
約10mmに厚輪切りし、皮むき・へた取りした後、水中に浸漬することによりあく抜きしたニンジンを植物性素材として用いた。
2)ジャガイモ
約10mmに厚輪切りし、皮むきした後、水中に浸漬することによりあく抜きしたジャガイモを植物性素材として用いた。
3)ゴボウ
約5mmに厚斜め切りし、皮むきした後、水中に浸漬することによりあく抜きしたゴボウを植物性素材として用いた。
2.分解酵素
ヘミセルラーゼ:ヘミセルラーゼアマノ90(天野エンザイム社製)
ペクチナーゼ:マセロチーム2A(ヤクルト薬品工業社製)
3.二糖類
トレハロース(林原商事社製)を用いた。
【0025】
<軟質化された植物性素材の製造方法>
1.軟質化されたニンジンの製造方法
製造方法(1)
1)上記1.植物性素材、1)のニンジンを飽和蒸気調理器にて庫内温度120℃・10分間で加熱処理した。
2)酵素処理液(トレハロースおよびヘミセルラーゼ5wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの)を、上記1)のニンジンの重量に対して20wt%となるように加え、減圧下(−0.095MPa)で1分間×4回(合計減圧時間:4分)または2分間×4回(合計減圧時間:8分)で含浸させた。この工程において、形状不良となったニンジンを取り除き、次の工程に用いた。
3)上記2)のニンジンを4℃の冷蔵庫内に16時間収納した後、45℃の恒温室内に30分間収納することで、酵素反応を行った。
4)上記3)のニンジンをスチームコンベクションにて庫内温度70℃・40分間加熱することで酵素失活処理を行い、急速凍結した。
5)上記1)〜4)の工程により、軟質化されたニンジンを製造した。
【0026】
製造方法(2)
上記の製造方法(1)の1)および2)の工程を行った後、上記の製造方法(1)の3)〜5)の工程の代わりに次の3)の工程を行い、軟質化されたニンジンを製造した。
3)上記(1)1)および2)の工程を経たニンジンを4℃の冷蔵庫内に16時間収納した後、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度50%・10分間加熱することで酵素反応、酵素失活処理、水分除去を行い、急速凍結して、軟質化されたニンジンを製造した。
【0027】
2.軟質化されたジャガイモの製造方法
製造方法(1)
1)上記1.植物性素材、2)のジャガイモを飽和蒸気調理器にて庫内温度100℃・20分間で加熱処理した後、50℃まで粗熱取りを行った。
2)酵素処理液(トレハロースおよびヘミセルラーゼ5wt%・ペクチナーゼ5wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの)を、上記1)のジャガイモの重量に対して20wt%となるように加え、減圧下(−0.095MPa)で1分間×4回(合計減圧時間:4分)で含浸させた。この工程において、形状不良となったジャガイモを取り除き、次の工程に用いた。
3)上記2)のジャガイモを4℃の冷蔵庫内に16時間収納した後、45℃の恒温室内に30分間収納することで、酵素反応を行った。
4)上記3)のジャガイモをスチームコンベクションにて庫内温度70℃・40分間加熱することで酵素失活処理を行い、急速凍結した。
5)上記1)〜4)の工程により、軟質化されたジャガイモを製造した。
【0028】
製造方法(2)
上記の製造方法(1)の1)および2)の工程を行った後、上記の製造方法(1)の3)〜5)の工程の代わりに次の3)の工程を行い、軟質化されたジャガイモを製造した。
3)上記(1)1)および2)の工程を経たジャガイモを4℃の冷蔵庫内に16時間収納した後、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度50%・30分間加熱することで酵素反応、酵素失活処理、水分除去を行い、急速凍結して、軟質化されたジャガイモを製造した。
【0029】
3.軟質化されたゴボウの製造方法
製造方法(1)
1)上記1.植物性素材、3)のゴボウを飽和蒸気調理器にて庫内温度120℃・20分間で加熱処理した。
2)酵素処理液(トレハロースおよびヘミセルラーゼ5wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの)を、上記1)のゴボウの重量に対して20wt%となるように加え、減圧下(−0.095MPa)で1分間×4回(合計減圧時間:4分)で含浸させた。この工程において、形状不良となったゴボウを取り除き、次の工程に用いた。
3)上記2)のゴボウを4℃の冷蔵庫内に16時間収納した後、45℃の恒温室内に30分間収納することで、酵素反応を行った。
4)上記3)のゴボウをスチームコンベクションにて庫内温度70℃・40分間加熱することで酵素失活処理を行い、急速凍結した。
5)上記1)〜4)の工程により、軟質化されたゴボウを製造した。
【0030】
製造方法(2)
上記の製造方法(1)の1)および2)の工程を行った後、上記の製造方法(1)の3)〜5)の工程の代わりに次の3)の工程を行い、軟質化されたゴボウを製造した。
3)上記(1)1)および2)の工程を経たゴボウを4℃の冷蔵庫内に16時間収納した後、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度50%・10分間加熱することで酵素反応、酵素失活処理、水分除去を行い、急速凍結して、軟質化されたゴボウを製造した。
【0031】
[実施例1〜8]
実施例1:上記1.(1)の製造方法により軟質化されたニンジンを製造した。
実施例2:冷凍保存(−20℃、約1日)しておいた上記1.植物性素材、1)のニンジンを用い、上記1.(1)の製造方法により軟質化されたニンジンを製造した。
実施例3:酵素処理液の含浸を減圧下(−0.095MPa)で30秒間×4回(合計減圧時間:2分)で含浸させた以外は上記1.(1)の製造方法と同様に行い、軟質化されたニンジンを製造した。
実施例4:上記1.(2)の製造方法により軟質化されたニンジンを製造した。
実施例5:冷凍保存(−20℃、約1日)しておいた上記1.植物性素材、1)のニンジンを用い、上記1.(2)の製造方法により軟質化されたニンジンを製造した。
実施例6:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度20%で加熱した以外は上記1.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたニンジンを製造した。
実施例7:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度70%で加熱した以外は上記1.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたニンジンを製造した。
実施例8:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度100%で加熱した以外は上記1.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたニンジンを製造した。
各実施例における軟質化されたニンジンの製造方法の特徴(一部)を表1にまとめるとともに、軟質化されたニンジンの写真を図1に示した。図1において、1は実施例1において合計減圧時間4分とした場合の軟質化されたニンジンの写真を示し、1※※は同実施例において合計減圧時間8分とした場合の軟質化されたニンジンの写真を示したものである。
【0032】
[実施例9〜16]
実施例9:上記2.(1)の製造方法により軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例10:冷凍保存(−20℃、約1日)しておいた上記1.植物性素材、2)のジャガイモを用い、上記2.(1)の製造方法により軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例11:酵素処理液の含浸を減圧下(−0.095MPa)で30秒間×4回(合計減圧時間:2分)で含浸させた以外は上記2.(1)の製造方法と同様に行い、軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例12:上記2.(2)の製造方法により軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例13:冷凍保存(−20℃、約1日)しておいた上記1.植物性素材、2)のジャガイモを用い、上記2.(2)の製造方法により軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例14:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度20%で加熱した以外は上記2.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例15:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度70%で加熱した以外は上記2.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたジャガイモを製造した。
実施例16:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度100%で加熱した以外は上記2.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたジャガイモを製造した。
各実施例における軟質化されたジャガイモの製造方法の特徴(一部)を表2にまとめるとともに、軟質化されたジャガイモの写真を図2に示した。
【0033】
[実施例17〜24]
実施例17:上記3.(1)の製造方法により軟質化されたゴボウを製造した。
実施例18:冷凍保存(−20℃、約1日)しておいた上記1.植物性素材、3)のゴボウを用い、上記3.(1)の製造方法により軟質化されたゴボウを製造した。
実施例19:酵素処理液の含浸を減圧下(−0.095MPa)で30秒間×4回(合計減圧時間:2分)で含浸させた以外は上記3.(1)の製造方法と同様に行い、軟質化されたゴボウを製造した。
実施例20:上記3.(2)の製造方法により軟質化されたゴボウを製造した。
実施例21:冷凍保存(−20℃、約1日)しておいた上記1.植物性素材、3)のゴボウを用い、上記3.(2)の製造方法により軟質化されたゴボウを製造した。
実施例22:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度20%で加熱した以外は上記3.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたゴボウを製造した。
実施例23:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度70%で加熱した以外は上記3.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたゴボウを製造した。
実施例24:3)の工程において、スチームコンベクションにて庫内温度90℃・湿度100%で加熱した以外は上記3.(2)の製造方法と同様に行い、軟質化されたゴボウを製造した。
各実施例における軟質化されたゴボウの製造方法の特徴(一部)を表3にまとめるとともに、軟質化されたゴボウの写真を図3に示した。
【0034】
[比較例1〜3]
酵素処理液の含浸条件の比較
比較例1:実施例の1.軟質化されたニンジンの製造方法(1)において、酵素処理液を減圧下(−0.095MPa)で2分間×6回(合計減圧時間:12分)で含浸させた以外は同様に行い、ニンジンの軟質化を行った。
比較例2:実施例の2.軟質化されたジャガイモの製造方法(1)において、酵素処理液を減圧下(−0.095MPa)で2分間×6回(合計減圧時間:12分)で含浸させた以外は同様に行い、ジャガイモの軟質化を行った。
比較例3:実施例の3.軟質化されたゴボウの製造方法(1)において、酵素処理液を減圧下(−0.095MPa)で2分間×6回(合計減圧時間:12分)で含浸させた以外は同様に行い、ゴボウの軟質化を行った。
【0035】
[比較例4〜9]
従来技術との比較(1)
比較例4:実施例1.植物性素材、1)のニンジンを用い、「植物組織への酵素急速導入法(特許第3686912号)」に準じて実施した。
即ち、
98℃で20秒ボイルすることによりブランチング処理したニンジンを−15℃で凍結後、40℃に加温した酵素処理液(ヘミセルラーゼ1wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの(ニンジンの重量に対して250wt%となるように使用した))に60分間浸漬し、解凍した後、真空ポンプで5分間減圧(−0.095MPa)した。
このニンジンをスチームコンベクションにて庫内温度70℃・40分間加熱することで酵素の失活処理を行い、急速凍結した。
比較例5:比較例4に対し、ブランチング処理したニンジンの酵素処理前の凍結のみを省略した。
【0036】
比較例6:実施例1.植物性素材、2)のジャガイモを用い、「植物組織への酵素急速導入法(特許第3686912号)」に準じて実施した。
即ち、
98℃で20秒ボイルすることによりブランチング処理したジャガイモを−15℃で凍結後、40℃に加温した酵素処理液(ヘミセルラーゼ1wt%・ペクチナーゼ1wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの(ジャガイモの重量に対して250wt%となるように使用した))に60分間浸漬し、解凍した後、真空ポンプで5分間減圧(−0.095MPa)した。
このジャガイモをスチームコンベクションにて庫内温度70℃・40分間加熱することで酵素の失活処理を行い、急速凍結した。
比較例7:比較例6に対し、ブランチング処理したジャガイモの酵素処理前の凍結のみを省略した。
【0037】
比較例8:実施例1.植物性素材、3)のゴボウを用い、「植物組織への酵素急速導入法(特許第3686912号)」に準じて実施した。
即ち、
98℃で20秒ボイルすることによりブランチング処理したゴボウを−15℃で凍結後、40℃に加温した酵素処理液(ヘミセルラーゼ1wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの(ゴボウの重量に対して250wt%となるように使用し使用した))に60分間浸漬し、解凍した後、真空ポンプで5分間減圧(−0.095MPa)した。
このゴボウをスチームコンベクションにて庫内温度70℃・40分間加熱することで酵素の失活処理を行い、急速凍結した。
比較例9:比較例8に対し、ブランチング処理したゴボウの酵素処理前の凍結のみを省略した。
【0038】
[比較例10〜12]
従来技術との比較(2)
比較例10:ニンジンを植物性素材とし、「冷凍された軟質植物質食材の製造方法(特開2010−51209」に準じて実施した。
即ち、
1)約10mmに厚輪切りし、皮むき・へた取りした後、水中に浸漬することによりあく抜きした。
2)上記1)のニンジンを、その8倍量の水に浸漬して、90℃で30分加熱した。
3)上記2)のニンジンを浸漬水から分離した(打ち上げ)後、水で冷却し、急速冷凍機で、−20℃において、40分冷凍させ、ニンジンの組織内に氷結晶を生成させた。次いで、ニンジンの表面に冷風(−20℃)を48時間当て、冷凍状態での表面の水分を減少させた。これにより、ニンジンの組織内に分解酵素を浸透しやすくした。
4)上記3)のニンジンを解凍し、ニンジンの重量に対して250wt%となる酵素処理液(ヘミセルラーゼ1wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの)に浸漬し、減圧を開始して、20分間、−0.095MPaで減圧を行った。
5)上記4)のニンジンを減圧から解放した後、酵素液から分離(打ち上げ)し、10℃に保った冷蔵庫内に16時間放置した。
6)上記5)のニンジンに対して、その体積の3倍量の水に浸漬し、その状態で、95℃で10分加熱し、酵素を失活させた。
7)上記6)のニンジンを、真空冷却した後、−40℃で、30分の冷凍を行った。
【0039】
比較例11:ジャガイモを植物性素材とし、「冷凍された軟質植物質食材の製造方法(特開2010−51209」に準じて実施した。
即ち、
1)約10mmに厚輪切りし、皮むきした後、水中に浸漬することによりあく抜きした。
2)上記1)のジャガイモを、その8倍量の水に浸漬して、90℃で30分加熱した。
3)上記2)のジャガイモを浸漬水から分離した(打ち上げ)後、水で冷却し、急速冷凍機で、−20℃において、40分冷凍させ、ジャガイモの組織内に氷結晶を生成させた。次いで、ジャガイモの表面に冷風(−20℃)を48時間当て、冷凍状態での表面の水分を減少させた。これにより、ジャガイモの組織内に分解酵素を浸透しやすくした。
4)上記3)のジャガイモを解凍し、ジャガイモの重量に対して250wt%となる酵素処理液(ヘミセルラーゼ1wt%・ペクチナーゼ1wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの)に浸漬し、減圧を開始して、20分間、−0.095MPaで減圧を行った。
5)上記4)のジャガイモを減圧から解放した後、酵素液から分離(打ち上げ)し、10℃に保った冷蔵庫内に16時間放置した。
6)上記5)のジャガイモに対して、その体積の3倍量の水に浸漬し、その状態で、95℃で10分加熱し、酵素を失活させた。
7)上記6)のジャガイモを、真空冷却した後、−40℃で、30分の冷凍を行った。
【0040】
比較例12:ゴボウを植物性素材とし、「冷凍された軟質植物質食材の製造方法(特開2010−51209」に準じて実施した。
即ち、
1)水洗し、皮をむいたゴボウを、長さ方向に、約5mmに厚斜め切りした。
2)上記1)のゴボウを、その8倍量の水に浸漬して、90℃で30分加熱した。
3)上記2)のゴボウを浸漬水から分離した(打ち上げ)後、水で冷却し、急速冷凍機で、−20℃において、40分冷凍させ、ゴボウの組織内に氷結晶を生成させた。次いで、ゴボウの表面に冷風(−20℃)を48時間当て、冷凍状態での表面の水分を減少させた。これにより、ゴボウの組織内に分解酵素を浸透しやすくした。
4)上記3)のゴボウを解凍し、ゴボウの重量に対して250wt%となる酵素処理液(ヘミセルラーゼ1wt%を0.020Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解して調製したもの)に浸漬し、減圧を開始して、20分間、−0.095MPaで減圧を行った。
5)上記4)のゴボウを減圧から解放した後、酵素液から分離(打ち上げ)し、10℃に保った冷蔵庫内に16時間放置した。
6)上記5)のゴボウに対して、その体積の3倍量の水に浸漬し、その状態で、95℃で10分加熱し、酵素を失活させた。
7)上記6)のゴボウを、真空冷却した後、−40℃で、30分の冷凍を行った。
【0041】
比較例13:実施例1.植物性素材、1)のニンジンを90℃で6時間ボイルした。
【0042】
実施例と同様に、各比較例における軟質化されたニンジンの製造方法の特徴(一部)を表1に、軟質化されたジャガイモの製造方法の特徴(一部)を表2に、軟質化されたゴボウの製造方法の特徴(一部)を表3まとめた。また、実施例と同様に、各比較例によって得られた軟質化されたニンジンの写真を図1に、軟質化されたジャガイモの写真を図2に、軟質化されたゴボウの写真を図3にそれぞれ示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
<軟質化された植物性素材の評価>
実施例1〜24において得られた軟質化されたニンジン、ジャガイモおよびゴボウ、比較例1〜13において軟質化を試みたニンジン、ジャガイモおよびゴボウについて、それぞれ解凍(80℃、30分)した後、次の評価項目について調べた。また、下記の<軟質化された植物性素材の冷凍保存試験>において凍結保存した軟質化されたニンジンおよびジャガイモについても同様に解凍し、次の評価項目について調べた。
軟質化されたニンジンについての評価結果を表6および7に、ジャガイモの評価結果を表8および9に、ゴボウの評価結果を表10および11に示した。また、凍結保存した軟質化されたニンジンおよびジャガイモについての評価結果は表12および13に示した。
【0047】
1.破損率
各実施例の工程2)において、軟質化に用いた植物性素材の個数(各50個以上)に対する、酵素処理液を含浸した後に形状不良となって取り除いた植物性素材の個数から割合を求め、破損率として算出した。
【0048】
2.官能評価(n=10)
外観(色合い・形状)、離水、食感(かたさ)、風味の4項目を5段階で評価した。
評価は「軟質化に用いる前のそのまま外観(色合い・形状)を維持しており、食感(かたさ)のみが舌で潰せる程度柔らかくなっている状態の軟質化された植物性素材」を食品素材として使用する理想的なモデルと考えて行い、それぞれの具体的な評価基準を表4に示した。
<5段階評価>
S:理想的なモデルと同等で、食品素材として使用するのに適する状態、
A:理想的なモデルと近く、食品素材として使用するのに適する状態、
B:理想的なモデルには達していないが、食品素材として使用するのに適する状態、
C:理想的なモデルらしさがややあるが、食品素材として使用するのに不適な状態、
D:理想的なモデルらしさがなく、食品素材として使用するのに不適な状態
D:1点、C:2点、B:3点、A:4点、S:5点として数値化し、10人の評価点を合計して求めた平均点について、1.0〜1.4点:D、1.5〜2.4点:C、2.5〜3.4点:B、3.5〜4.4点:A、4.5〜5.0点:Sとしたものを総合的な評価として評価結果に示した。
【0049】
【表4】

【0050】
3.かたさ測定
クリープメータ RE2−33005B((株)山電製)を使用し、測定速度10mm/s、φ20mmプランジャー、温度20±2℃でかたさを測定した。かたさの測定は「特別用途食品の表示許可等について(食安発第0212001号、厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知、平成21年2月12日)」に記載の「えん下困難者用食品の試験方法」に準拠した。各実施例において得られた軟質化された植物性素材(各10個)を測定し、平均値および標準偏差を3段階で評価した。各評価基準は表5に示した。
【0051】
【表5】

【0052】
4.栄養素分析
各軟質化された植物性素材(可食部100gあたり)を用い、水分を常圧加熱乾燥法、たんぱく質をケルダール法、脂質を酸分解法、灰分を直接灰化法により測定し、その数値より炭水化物およびエネルギーを算出した。また、カリウムは原子吸光光度法により測定した。さらに、軟質化されたニンジン(可食部100gあたり)については、高速液体クロマトグラフ法によりβカロチンを測定した。
実施例1.植物性素材、1)〜3)のニンジン、ジャガイモ、ゴボウをそれぞれ98℃で20秒ボイルすることによりブランチング処理した。この植物性素材における各栄養素を「植物性素材本来の栄養素」(基準:100%)として、各軟質化された植物性素材の各栄養素の値と比較することで、各栄養素の保持の割合を調べた。また、参考までに「五訂増補日本食品標準成分表(科学技術・学術審議会・資源調査分科会報告書、文部科学省、平成17年1月24日)」における各栄養素の値を示した。
【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
【表10】

【0058】
【表11】

【0059】
<軟質化された植物性素材の冷凍保存試験>
上記実施例と同様の方法で製造した軟質化された植物性素材について、ブラストフリーザー QXF−006SF5(福島工業社製)を用いて急速冷凍した後、冷凍保存(−20℃)した。一定期間冷凍保存した後、上記の<軟質化された植物性素材の評価>の評価方法および評価基準に従い冷凍保存後の軟質化された植物性素材について評価を行った。
冷凍保存後の軟質化されたニンジン(実施例1(合計減圧時間4分)または4と同様に製造)の評価結果を表12に、冷凍保存後の軟質化されたジャガイモ(実施例9または12と同様に製造)の評価結果を表13に示した。その結果、表12および13に示されるように、冷凍保存後の軟質化された植物性素材はいずれも、官能評価の結果もかたさも製造直後のもの(保存期間0月)と同等であり、食品素材として使用するのに適するものであった。冷凍期間6月のものも、若干の退色が見られたが、色合い・形状が良好な状態(評価:A)であり、食品素材として使用するのに適するものであった。
【0060】
【表12】

【0061】
【表13】

【0062】
以上の評価結果より、本発明の製造方法によって得られる軟質化された植物性素材は、比較例において製造した軟質化された植物性素材と比べて植物性素材本来の色、形状と同様の外観を維持しており、離水が少なく、食感がかたくなく、風味の良いものであるとともに、植物性素材本来の栄養素と同等の栄養素を保持していることが確認された。
本発明では、ニンジン等の硬い植物性素材においても、十分な軟質化が可能であり、例えば、比較例13のように、一般調理よりも過度に煮込んだ条件でも実現できない軟らかさを示す軟質化された植物性素材を、植物性素材本来の外観や栄養素を保持した状態で製造することができる。
さらに、6月間冷凍保存した軟質化された植物性素材であっても、植物性素材本来の色、形状と同様の外観を維持しており、離水が少なく、食感がかたくなく、風味の良いものであった。従って、本発明の製造方法によって得られる軟質化された植物性素材は、咀嚼・嚥下困難者、要介護者、術後初期、中期、後期の患者または高齢者等を対象とする食品の製造において、食品素材として使用するのに適するものであることが確認された。
また、本発明の軟質化された植物性素材の製造において、本発明の製造方法の方が、比較例の製造方法よりも植物性素材を破損する割合(破損率)が低く、植物性素材ごとに軟質化される程度(圧縮応力の標準偏差)が同等であったことから、本発明の製造方法により、軟質化された植物性素材をばらつきなく、安定して大量に製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によって得られる軟質化された植物性素材を食品素材として使用することにより、見栄えが良く、少量でも高栄養で、風味の高い高齢者用軟化食品、術後患者用食品、嚥下食等または離乳食等を安定して大量に提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解酵素の導入により軟質化された植物性素材を製造する方法において、分解酵素の導入にあたり、植物性素材を分解酵素と接触させ、減圧処理を複数回、合計減圧時間が12分未満となるように施すことを特徴とする軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項2】
さらに、70〜120℃、湿度10〜100%で植物性素材を5〜120分加熱することにより分解酵素の失活処理を行う請求項1に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項3】
さらに、軟質化された植物性素材を冷凍する請求項1または2に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項4】
生鮮、冷凍または加熱された植物性素材を軟質化に用いる請求項1〜3のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項5】
セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、またはペクチナーゼ活性の少なくとも一つ以上の活性を有する分解酵素を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項6】
2wt%以上の分解酵素を含む酵素処理液を用いて分解酵素と植物性素材と接触させる請求項1〜5のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項7】
植物性素材の重量に対して、50wt%以下の酵素処理液で処理する請求項6に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項8】
酵素処理液が二糖類を含有する請求項6または7に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項9】
二糖類がトレハロースである請求項8に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項10】
軟質化された植物性素材の圧縮応力が「特別用途食品の表示許可等について(食安発第0212001号、厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知、平成21年2月12日)」に記載の「えん下困難者用食品の試験方法」に準拠して測定した場合2.0×104N/m2未満である請求項1〜9のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項11】
軟質化された植物性素材の圧縮応力が標準偏差5.0×103N/m2以下である請求項10に記載の軟質化された植物性素材の製造方法。
【請求項12】
軟質化された植物性素材が、その植物性素材本来の各栄養素の値を100%とした場合に85%以上の栄養素を保持している請求項1〜11のいずれかに植物性素材の製造方法。
【請求項13】
植物性素材本来の色、形状および栄養素を保持したまま、かたさにばらつきなく軟質化された植物性素材が得られる請求項1〜12のいずれかに記載の軟質化された植物性素材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55191(P2012−55191A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199188(P2010−199188)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】