説明

軟質熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びその製造方法と使用

【課題】 約45〜80のショアA硬度を有する非常に軟質のTPUであって、(1)容易に離型でき、(2)優れた機械的特性を示し、(3)低温に暴露した後に実質的に硬化しないTPUを提供する。
【解決手段】 A)800〜5000の数平均分子量を有し、(1)(a)エーテル基を有さず、(b)ポリエステルポリオール中のエステル基1個につき平均して少なくとも0.40個の側鎖炭素原子を有する、少なくとも1種の2価アルコールと、(2)最大で12個の炭素原子を有するジカルボン酸1種又はそれ以上との反応生成物である、少なくとも1種の分岐ヒドロキシ末端ポリエステルポリオールと;B)少なくとも1種のジイソシアネート;及びC)60〜400の分子量を有する、少なくとも1種のジオール連鎖延長剤;との、可塑剤の不存在下、0.9:1〜1.1:1のNCO:OHモル比で、A)、B)及びC)を反応させて得た、反応生成物であるポリウレタンエラストマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に離型できる軟質熱可塑性ポリウレタンエラストマー成形組成物に関する、このような熱可塑性ポリウレタンは、低い低温硬化度、良好な機械的性質及び45〜80のショアA硬度を有する点に特徴がある。また、本発明は、このような熱可塑的に加工できるポリウレタンエラストマーの製造及び使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、以前から知られている。TPUは、その高い機械的性質と、安価に熱可塑的に加工できることから、工業的に重要である。種々の化学構成成分を使用することにより、非常に広範囲の機械的性質を得ることができる。TPU、その性質及び用途についての概説は、例えば、Kunststoffe 68 (1978)、819 又はKautschuk、Gummi、Kunststoffe 35 (1982)、568 に記載されている。
【0003】
TPUは、一般的に、直鎖ポリオール(通常、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール)、有機ジイソシアネート及び短鎖ジオール(連鎖伸長剤又は連鎖延長剤)から製造される。また、生成反応を促進するために、触媒も添加し得る。性質を調節するために、構成成分は、比較的広いモル比範囲で変えることができる。1:1〜1:12のポリオール対連鎖伸長剤/延長剤モル比が適切であることが分かっている。このようなモル比を採用することにより、ショアA80〜ショアD75の範囲の硬度を特徴とする生成物が得られる。
【0004】
TPUの硬度は、主として、ハードセグメント(連鎖伸長剤/延長剤とイソシアネート基との反応により形成)のソフトセグメント(ポリオールとイソシアネート基との反応により形成)に対する比により決定される。ハードセグメントの割合が、ショアA80のTPUが製造される点より小さいと、得られる生成物は、粘着性であり、うまく固化せず、射出成形した場合に離型性が悪く、著しい収縮を示す。そのようなTPUでは、経済的に許容できる射出成形サイクル時間が達成できない。
【0005】
加えて、室温より僅かに低い温度での初期ソフトセグメントの結晶化により、多くの場合、硬度が顕著に増す。時間経過と共に又は室温以下への曝露時に生じるこのような硬度の増大により、柔らかく可撓性のあるように設計された部品の有用性及び価値が損なわれる。
【0006】
カナダ特許1257946は、特定のフタレート及びホスフェート可塑剤の使用により、60〜80のショアA硬度を有するTPUが製造できることを教示する。しかしながら、このような可塑化TPUは、後硬化を伴う可塑剤のブリード及び臭気の問題のような不利な特性を有する。このような可塑化TPUが硬質熱可塑性材料と接触すると、応力クラックが発生することがある。
【0007】
米国特許6,218,479は、は、76〜84のショアA硬度範囲における、収縮の少ない軟質ポリウレタン成形用組成物を記載する。この組成物は、ショアA硬度65〜85のTPU(TPU A)とショアA硬度76〜90のTPU(TPU B)とを混合することにより製造される。より硬いTPU Bは、ポリオールとジイソシアネートとを2.0:1〜5.0:1のNCO:OH比で反応させることにより調製され、混合物の収縮が減少し、良好な寸法精度が達成できる。この方法は、実際上、75未満のショアA硬度範囲の非常に小さいショアA値に限定される。
【0008】
米国特許6,538,075では、予め調製されたショアD硬度30〜80のTPUを、押出機の第1区画において、低分子量ジオールの添加により減成して、大きいハードセグメントブロックを形成する。次いで、新しい軟質TPUを、押出機の第2区画において、イソシアネート、ポリオール及び触媒の添加により、製造する。このTPUは、良好な機械的性質及び低下した摩耗性を有する。記載された製造方法は、非常に複雑であり、従って、TPUの性質を制御して維持することは非常に困難である。加えて、射出成型方法におけるTPUの離型性が、特に良好ではない。
【0009】
米国特許6,790,916は、容易に離型できる45〜65のショアA硬度を有するTPUを製造するための3工程方法を記載する。同米国特許に記載された方法では、少なくとも2種の異なる多価アルコールの混合物を1種又はそれ以上のジカルボン酸と反応させて得たポリエステルポリオールに基づくイソシアネート末端プレポリマーから調製されたエステル系TPUが製造される。少なくとも2種のポリエステルポリオールの混合物に基づくイソシアネート末端プレポリマーから製造されたTPUも記載されている。3工程法において混合エステル又はポリオール混合物を使用することは、その複雑さとコストの点から、好ましいことではない。更に、そのようなプレポリマーの粘度は、しばしば、かなり高く、最終TPUの性質を制御することが必然的により困難になる。
【0010】
米国特許5,780,573は、1分子につき2.01〜2.08ヒドロキシル基の官能価及び70J/g又はそれ以下の結晶化エンタルピーを有するポリエステルポリオールに基づくTPUに関する。この特許は、2.01〜2.08の範囲外の官能価では、劣っており、ポリウレタンファイバー及び成形品には適さないTPUしか製造できないことを教示している。
【特許文献1】カナダ特許1257946
【特許文献2】米国特許6,218,479
【特許文献3】米国特許6,538,07
【特許文献4】米国特許6,790,916
【特許文献4】米国特許5,780,573
【非特許文献1】Kunststoffe 68 (1978)、819
【非特許文献2】Kautschuk、Gummi、Kunststoffe 35 (1982)、568
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、約45〜80のショアA硬度を有する非常に軟質のTPUであって、(1)容易に離型でき、(2)優れた機械的特性を示し、(3)低温に暴露した後に実質的に硬化しないTPUを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、約45〜80のショアAの硬度を有する非常に軟質のTPUであって、(1)容易に離型でき、(2)優れた機械的特性を示し、(3)低温に暴露した後に実質的に硬化しないTPUの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的及び当業者には容易に理解できる他の目的は、エーテル基を有さず、ポリエステルポリオール中のエステル基1個につき平均して少なくとも0.40個の側鎖炭素原子を有する、少なくとも1種の2価アルコールを用いて調製された少なくとも1種のポリエステルポリオールを用いてTPUを製造することにより、達成される。
【0014】
本発明は、容易に離型でき、約80までのショアA硬度、好ましくは45〜80のショアA硬度、より好ましくは50〜75のショアA硬度、最も好ましくは55〜75のショアA硬度(DIN 53505に従って測定)を有する熱可塑的に加工できるポリウレタンエラストマーを提供する。また、本発明のTPUは、10MPaを超える引張強さ、好ましくは15MPaを超える引張強さ、より好ましくは20Paを超える引張強さ(ISO 37 に従って測定)、及び低い低温硬化度に特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書で使用する場合、「低温硬化度」は、室温未満の温度に暴露する前の室温(約23℃)でのTPUの硬度値(HV)と、4℃の温度に5日間暴露した後の室温でのTPUの硬度値(HV)との相対差を意味する。この相対差は、以下の式を用いて計算される:
100×(HV−HV)/HV (%)
6%までの相対差が、低い低温硬化度を示す。10%を超える相対差は、高い低温硬化度を示す。本発明のTPUは、6%まで、好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下の相対差に特徴がある。
【0016】
本発明の熱可塑的に加工できるポリウレタンエラストマーは、当業者に既知の任意の方法により製造することができる。しかしながら、本発明の1つの利点は、単段反応により、非常に優れた性質を有するTPUを製造することができることである。
【0017】
単段反応において、約800〜5000の数平均分子量を有する少なくとも1種の分岐ヒドロキシ末端ポリエステルポリオールを、少なくとも1種のジイソシアネート及び約60〜400の分子量を有する少なくとも1種のジオール連鎖伸長剤又は延長剤と、使用した全成分に基づいて0.9:1〜1.1:1、好ましくは1.0:1〜1.05:1のNCO:OH当量比で、触媒の存在下に反応させる。
【0018】
本発明において必要とされるポリエステルポリオールは、分岐していなければならず、また、1個のエステル基につき平均して、少なくとも0.4個、好ましくは少なくとも0.5個、最も好ましくは少なくとも1個の側鎖炭素原子を含まなければならない。このようなポリエステルポリオールは、通例約800〜5000、好ましくは約1000〜4000、最も好ましくは約1500〜4000の数平均分子量を有する。
【0019】
本明細書で使用する場合、「分岐ポリエステルポリオール」は、少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個の炭素原子を有する直鎖に結合した、1個又はそれ以上の炭素原子からなる従属鎖を少なくとも1個有するポリエステルポリオールを意味する。
【0020】
分岐ポリエステルジオール中のエステル基1個あたりの側鎖炭素原子の数は、ポリエステルジオール及びジカルボン酸の式量、側鎖中の炭素原子の理論数並びに分岐ポリエステルジオール中のエステル基の理論数に基づいて、容易に計算することができる。
【0021】
いかなる理論にも拘束されることは望まないが、側鎖炭素原子の役割は2つあると考えられる。第1に、側鎖炭素原子は、ウレタンエステル基間の相互作用を妨害するのに寄与する。これにより、ウレタンハードセグメントのより速い結晶化、従ってより速い硬さの発現が可能になる。第2に、側鎖炭素原子は、冷間硬化又は後硬化の主たる原因と考えられているソフトセグメントの結晶化を制限するのに寄与する。
【0022】
適切なポリエステルポリオールは、例えば、2〜12個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有するジカルボン酸と、エーテル基が存在しない多価アルコールとから、当業者に既知のあらゆる方法によって、調製することができる。適当なジカルボン酸には、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸)又は芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸)が包含される。ジカルボン酸は、個々に、又は混合物(例えばコハク酸、グルタル酸及びアジピン酸の混合物)として、使用することができる。
【0023】
本発明で使用する分岐ポリエステルポリオールの調製において使用するのに適している多価アルコールは、2官能性であり、主鎖からの少なくとも1個のカーボン側鎖を有する、2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するグリコールを包含する。グリコール中には、エーテル結合が存在してはならない。ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールは、本発明の実施に際して使用されるポリエステルポリオールの調製時に使用するのには適していない。適当な2価アルコールには、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3'-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール (2,2'-ジメチル-1,3-プロパンジオール)、プロピレングリコール、及び2,2'-ジエチル-1,3-プロパンジオールが含まれる。多価アルコールは、所望の特性に依存して、個々に又は相互の混合物として使用できる。2価アルコールは、直鎖脂肪族グリコール、例えばブタンジオール及びヘキサンジオールと組み合わせて使用することもできるが、ただし、1分子あたりの側鎖炭素原子の全体の平均数は少なくとも0.4である。
【0024】
好ましいポリエステルジオールには、ネオペンチルグリコールアジペート、1,6-ヘキサンジオール-ネオペンチルグリコールポリアジペート、及び2,2'-ジエチル-1,3-プロパンジオールアジペートが含まれる。ポリエステルジオールは、約800〜5000、好ましくは1000〜4000の数平均分子量Mnを有し、個々に又は相互の混合物として使用することができる。
【0025】
本発明の実施に際して使用するのに適している有機ジイソシアネートには、例えば、Justus Liebigs Annalen der Chemie、562、75-136頁に記載されているような、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、複素環式及び芳香族ジイソシアネートが包含される。
【0026】
適当なジイソシアネートの例には、以下の化合物が包含される:脂肪族ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート、例えば、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1-メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート及び1-メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート並びに対応する異性体混合物、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及び2,2'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート並びに対応する異性体混合物;芳香族ジイソシアネート、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート及び2,2'-ジフェニル-メタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートと4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物、ウレタン変性液体4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'-ジイソシアナト-1,2-ジフェニルエタン及び1,5-ナフチレンジイソシアネート。1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4'-ジフェニル-メタン ジイソシアネート含有量が96wt.%を超えるジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート並びに1,5-ナフチレンジイソシアネートが、好ましく使用される。これらのジイソシアネートは、個々に又は相互の混合物として使用し得る。これらは、(全ジイソシアネートについて計算して)15モル%までのポリイソシアネートと共に使用することもできるが、ポリイソシアネートは、多くても熱可塑的に加工できる製品が生成されるような量で添加されなければならない。トリフェニルメタン-4,4',4''-トリイソシアネート及びポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートは、そのような適当なポリイソシアネートの例である。
【0027】
本発明の実施に際して使用するのに適している連鎖伸長剤又は連鎖延長剤には、場合により少量のジアミンと混合された、約60〜400の分子量を有するジオールが含まれる。2〜14個の炭素原子を有する脂肪族ジオール、例えば1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、並びに特にエチレングリコール及び1,4-ブタンジオールが、特に適している。また、2〜4個の炭素原子を有するグリコールとのテレフタル酸のジエステル、例えば、テレフタル酸ビスエチレングリコール又はテレフタル酸ビス-1,4-ブタンジオール;ヒドロキノンのヒドロキシアルキレンエーテル、例えば、1,4-ジ(β-ヒドロキシエチル)-ヒドロキノン;エトキシル化ビスフェノール、例えば、1,4-ジ(β-ヒドロキシエチル)-ビスフェノールA;(環式)脂肪族ジアミン、例えば、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、N-メチル-プロピレン-1,3-ジアミン及びN,N'-ジメチルエチレンジアミン;並びに芳香族ジアミン、例えば、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、3,5-ジエチル-2,4-トルエンジアミン及び3,5-ジエチル-2,6-トルエンジアミン、並びに第1級モノ-、ジ-、トリ-又はテトラアルキル置換4,4'-ジアミノジフェニルメタンも適している。連鎖伸長剤/延長剤として特に好ましく使用されるのは、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ジ(β-ヒドロキシエチル)-ヒドロキノン及び1,4- ジ(β-ヒドロキシエチル)-ビスフェノールAである。上記連鎖伸長剤/延長剤の混合物も使用できる。加えて、比較的少量(例えば、全連鎖伸長剤/延長剤分子の約0.5当量%未満)のトリオールを添加することもできる。
【0028】
連鎖停止剤又は離型助剤のような常套の一官能性化合物も、少量なら加えることができる。適当な一官能性化合物の例には、アルコール、例えばオクタノール及びステアリルアルコール、並びにアミン、例えばブチルアミン及びステアリルアミンが包含される。
【0029】
TPUを製造するためには、構成成分を、所望により触媒、助剤物質及び/又は添加剤の存在下に、NCO反応性基の合計、特に低分子量ジオール/トリオール及びポリオールの水酸基に対するNCO基の当量比が、0.9:1.0〜1.1:1.0、好ましくは0.95:1.0〜1.10:1.0であるような量で、反応させることができる。
【0030】
本発明の実施に際して使用される適当な触媒には、既知の第3級アミン触媒、例えば、トリエチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N,N'-ジメチルピペラジン、2-(ジメチルアミノエトキシ)エタノール、ジアザビシクロ[2,2,2]-オクタン、並びに、とりわけ有機金属化合物、例えば、チタン酸エステル、鉄化合物又はスズ化合物、例えば、ジ酢酸スズ、ジオクタン酸スズ、ジラウリン酸スズ、及び脂肪族カルボン酸のスズ-ジアルキル塩(例えば、ジブチルスズジアセテート及びジブチルスズジラウレート)が包含される。好ましい触媒は、有機金属化合物、特に、チタン酸エステル、鉄化合物及びスズ化合物である。TPU中の触媒の合計量は、TPU100wt.%に基づいて、通常約0〜5wt.%、好ましくは0〜1wt.%である。
【0031】
TPU成分及び触媒に加えて、助剤物質及び/又は添加剤も加えることができる。記載し得るいくつかの例は、潤滑剤、例えば脂肪酸エステル、その金属石鹸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル-アミド及びシリコーン化合物、ブロック防止剤、禁止剤、加水分解、光、熱及び変色に対する安定剤、難燃剤、染料、顔料、無機及び/又は有機充填剤並びに強化材である。強化材は、特に、繊維強化材、例えば無機繊維(従来技術に従って製造され、サイズ剤を添加されていてもよい)である。助剤物質及び添加剤に関する詳細は、技術文献、例えば、J.H. Saunders 及び K.C. Frischのモノグラフ "High Polymers"、第XVI巻、Polyurethane、part 1 及び 2、Verlag Interscience Publishers 1962 及び 1964、the Taschenbuch fuer Kunststoff-Additive by R. Gaechter and H. Mueller (Hanser Verlag Munich 1990) 又は DE-A 29 01 774 に記載されている。
【0032】
所望によりTPUに配合され得る他の添加剤には、熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート及びアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマーが含まれる。他のエラストマー、例えば、ゴム、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー及び他のTPUも、使用することができる。市販可塑剤、例えば、ホスフェート、フタレート、アジペート、セバケート及びアルキルスルホン酸エステルも、基本的には使用できるが、一般的には好ましいとは見なされていない。
【0033】
本発明のTPUは、ポリオールの連鎖伸長剤/延長剤に対するモル比を調節することにより、80又はそれ以下のショアA硬度、好ましくは45〜80のショアA硬度、より好ましくは50〜75のショアA硬度に調節される。
【0034】
本発明のTPUは、当業者に既知の方法により製造することができる。例えば、TPUは、ポリエステルポリオール及びジイソシアネートを、反応の初期にまず反応させ、次いで、連鎖延長剤を反応混合物に導入して、熱可塑性ポリウレタンを生成する、プレポリマー法により、製造することができる。より好ましい方法は、単段反応法(「ワンショット法」としても知られている)であり、この方法では、ポリエステルポリオール、ジイソシアネート及び連鎖延長剤を同時に導入し、反応させる。
【0035】
本発明のTPUは、不連続法又は連続法のいずれでも製造することができる。最もよく知られているTPUの製造方法は、ベルト・プロセス(例えば、GB-A 1 057 018に記載されている)、及び押出法(DE-A 1 964 834、DE-A 2 059 570 及び米国特許5,795,948に記載されている)である。
【0036】
既知の混合装置、好ましくは高剪断エネルギーで運転される装置が、本発明のTPUの製造に適している。TPUの連続製造法に適した混合装置の例は、共混練機、好ましくは押出機、例えば2軸押出機、及びBussニーダーである。
【0037】
本発明のTPUは、例えば、2軸押出機を用いて、ジイソシアネート、ポリオール及び連鎖伸長剤/延長剤を、押出機の同じ計量口から並行して添加することにより、製造することができる。ポリエステルポリオール及び連鎖伸長剤/延長剤は、予備混合して単一の流れとし、同じ開口から、ジイソシアネート流と並行して、押出機に添加することができる。場合により、ポリエステルポリオール及びジイソシアネートは、押出機の第1区画に添加し、連鎖伸長剤/延長剤は、その後で押出機の第2区画に添加することもできる。また、押出機に導入する前に、ジイソシアネート及びポリエステルポリオールを(例えば、静的ミキサーライン中で)予備反応させてプレポリマーを生成し、その後、押出機内で、連鎖延長することも可能である。
【0038】
本発明のTPUは、非常に軟質(80ショアA未満)であり、良好な機械的性質を有する。射出成形による加工中、成分は非常に急速に固化し、従って、容易に離型できる。本発明のTPUは、さらに、低温においてさえ非常に良好な弾性特性を有する(すなわち、ソフトセグメントの結晶化がない)。このことは、4℃のような室温未満の温度に数日間暴露した後に、低温硬化の増加が小さいことにより、示される。
【0039】
本発明のTPUは、軟質可撓性射出成形物品、例えば、靴底、グリップ(エンド)キャップ、封止要素及びダストキャップ(埃よけ)の製造に有用である。他の熱可塑性樹脂と組み合わせて、心地よい手触り(ハード−ソフトの組み合わせ)を有する製品を得ることができる。
【0040】
押出成形品、例えば、断面材及びホースも、本発明のTPUから製造することができる。
【0041】
本発明を、以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。実施例中、「部」及び「%」は、別途記載がない限り、重量による。
【実施例】
【0042】
TPUを製造する際に使用した成分、それら成分の相対モル量、及び得られたTPUの特性を、下記の表に示す。
【0043】
実施例1〜14
TPUの製造:
表1に示したアルコール及び酸から(190℃で)製造したポリエステルポリオール、160℃に加熱したジイソシアネート、及び1,4-ブタンジオールを、激しく混合し、約15秒後、反応混合物を、被覆金属シート上に注ぎ、120℃で30分間、後状態調節に付した。実施例1〜12及び14では、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)をイソシアネートとして使用した。実施例13では、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を用いた。実施例1〜13では、ジイソシアネート、ポリエステルポリオール及びブタンジオールを同時に導入した。実施例14では、ジイソシアネート及びポリエステルポリオールをまず反応させて、プレポリマーを生成し、次いで、ブタンジオールを添加した。
【0044】
【表1】

【0045】
キャストシートを切断し、粉砕した。粉状物を、射出成形機D60(32-スクリュー)(Mannesmann製)により溶融し、棒状に成形した(金型温度:40℃;棒のサイズ:80×10×4mm)。実施例3を除き、射出時間は25秒であり、冷却時間は25秒であった。実施例3では、射出時間は50秒であり、冷却時間は50秒であった。
【0046】
測定:
TPUの硬度の測定は、DIN 53505 に従って行い、引張試験での測定は、ISO 37 に従って行った。
【0047】
ソフトセグメントの結晶化に起因する低温硬化の程度を評価するために、プラックを、4℃で冷蔵庫中に5日間保存した。冷蔵庫から取り出し、室温で平衡化した後、硬度値を再測定した。室温で記録された硬度に対する硬度の増加率を、低温硬化に対する材料の耐性の指標とした。
【0048】
射出成形加工における固化性は、金型から取り出した直後(0秒後)及び金型からの取り出しから60秒後の標準試験片(4mm厚)についての硬度測定により、特性付けできる(サイクル時間25/25秒)。これら2つの初期値が大きいほど、TPUの固化がより速く、生強度がより高く、より速く離型することができる。
【0049】
本発明に従った単段法により、可塑剤を添加しなくても、簡単な方法で、非常に軟質のTPUが直接得られた。
【0050】
このようなTPUは、非常に優れた機械特性を有し、容易に加工でき、固化速度が高いので、容易に離型できる。低温硬化は起こらなかった。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示したデータから、エーテル基を含む2価アルコールに基づくポリエステルポリオールからは、本発明に従ったTPUが有するような有利な加工特性及び機械的特性を持つTPUを製造できなかったことが理解される。このことは、DEG及びDPGに基づくアジペートからないずれも劣った硬化性能しか有しないTPUが得られた比較例5及び6から分かる。
【0053】
比較例A,B及びC
実施例1〜12においてTPUを製造するのに使用したのと同じ方法により、分子量2250のポリブチレンアジペートポリエステルポリオールを、MDI及びエチレングルコールと反応させた。得られたTPUは、表3に記載した硬度値の比較から明らかなように、高い低温硬化度を示した。ハードセグメントの低い割合にもかかわらず、エステル基1個あたり約0.4個より少ない側鎖炭素原子を有するこのようなポリエステルポリオールを使用すると、可塑剤を使用せずに約75〜80より小さいショアA硬度を有するTPUを製造することが、非常に困難になる。
【0054】
【表3】

【0055】
以上、本発明を、説明の目的で詳細に記載してきたが、そのような詳細な記載は、そのような目的のためだけのものであり、特許請求の範囲により限定される場合を除き、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、当業者なら記載された発明に変更を加えることができることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容易に離型できる熱可塑的に加工できるポリウレタンエラストマーであって、約80までのショアA硬度、10MPaを超える引張強さ及び低い低温硬化度を有し、
A)800〜5000の数平均分子量を有し、
(1)(a)エーテル基を有さず、
(b)ポリエステルポリオール中のエステル基1個につき平均して少なくとも0.40
個の側鎖炭素原子を有する、少なくとも1種の2価アルコールと
(2)最大で12個の炭素原子を有するジカルボン酸1種又はそれ以上との
反応生成物である、少なくとも1種の分岐ヒドロキシ末端ポリエステルポリオールと;
B)少なくとも1種のジイソシアネート;及び
C)60〜400の分子量を有する、少なくとも1種のジオール連鎖延長剤;との、
可塑剤の不存在下、0.9:1〜1.1:1のNCO:OHモル比で、A)、B)及びC)を反応させて得た、反応生成物であるポリウレタンエラストマー。
【請求項2】
45〜75のショアA硬度を有する、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項3】
NCO:OHモル比は約1:1である、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項4】
2価アルコール中に、ポリエステルポリオール中のエステル基1個につき平均して少なくとも0.5個の側鎖炭素原子が存在する、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項5】
2価アルコール中に、ポリエステルポリオール中のエステル基1個につき平均して少なくとも1個の側鎖炭素原子が存在する、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項6】
ジイソシアネートは、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項7】
ジオール連鎖延長剤は、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ジ-(β-ヒドロキシエチル)-ヒドロキノン、1,4-ジ-(β-ヒドロキシエチル)-ビスフェノールA及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項8】
ポリエステルポリオールは、ネオペンチルグリコールとアジピン酸との反応生成物である、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項9】
請求項1に記載のポリウレタンエラストマーの製造方法であって、
A)800〜5000の数平均分子量を有し、
(1)(a)エーテル基を有さず、
(b)ポリエステルポリオール中のエステル基1個につき平均して少なくとも0.40
個の側鎖炭素原子を有する、少なくとも1種の2価アルコールと
(2)最大で12個の炭素原子を有するジカルボン酸1種又はそれ以上との
反応生成物である、少なくとも1種の分岐ヒドロキシ末端ポリエステルポリオールと;
B)少なくとも1種のジイソシアネート;及び
C)60〜400の分子量を有する、少なくとも1種のジオール連鎖延長剤;とを、
可塑剤の不存在下、0.9:1〜1.1:1のNCO:OHモル比で、反応させることを含む製造方法。
【請求項10】
ジイソシアネートは、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ジオール連鎖延長剤は、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-di-(β-ヒドロキシエチル)-ヒドロキノン、1,4-ジ-(β-ヒドロキシエチル)-ビスフェノールA及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
単段階で行われる、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2008−144173(P2008−144173A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−319289(P2007−319289)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(503349707)バイエル・マテリアルサイエンス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (178)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience LLC
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】