説明

軟骨及び骨修復に使用するための黒色腫抑制活性因子(MIA)を含有する薬剤学的組成物

【課題】骨形成を誘導することが簡単にできる新規薬剤学的組成物を開発することである。
【解決手段】黒色腫抑制活性因子(MIA)をに骨誘導性蛋白質と組み合わせることにより、間葉幹細胞からの軟骨−/骨形成系列の誘導及び軟骨及び骨形成の促進が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色腫抑制活性因子(MIA)を有利に骨誘導性蛋白質と組み合わせて使用することによる、間葉幹細胞からの軟骨−/骨形成系列の誘導及び軟骨及び骨形成の促進のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
MIAは、最初に悪性黒色腫セルラインHTZ−19の成長を抑制する因子として記載された(Weilbach et al,. Cancer Res. 50(1990) 6981-6986(非特許文献1)) 。この因子のクローニング及び精製の結果、抗腫瘍活性を有する新規の11kD蛋白質が得られた(WO95/03328(特許文献1))。始原軟骨及び軟骨中で、ウシ同族CD−RAP(cartilage derived-retinoic acid-sensitive protein:軟骨誘導−レチノイック酸−感受性蛋白質) が検出された(Dietz, U., and Sandell, L., J. Biolo. Chem. 271 (1996) 3311-3316(非特許文献2))。マウスCD−RAP/MIA遺伝子は、胎児マウス軟骨中に局在しており、トランスクリプトが軟骨肉腫中に検出された(Bosserhoff et al., Developmental Dynamics 208 (1997) 516-525(非特許文献3)) 。これらのデータは、軟骨中のMIAの正常発現を示している。MIAプロモータがlacZの軟骨特異的発現を指令するトランスジェニックマウスから更なるデータが誘導されている(Xie et al., 44th Annual Meeting, Orthopaedic Research Society, March 16-19,1998, New Orleans, Louisiana(非特許文献4))。MIAは悪性黒色腫の悪化マーカーとしても使用できた(Bosserhoff et al., Cancer Research 57( 1977) 3149-3153(非特許文献5); DE 19653358 A1(特許文献2))。
【0003】
骨誘導性蛋白質は、軟骨内骨形成の完全開発カスケードを軟骨細胞及び骨細胞の方向に誘導する蛋白質であり、例えばヘッジホッグ蛋白質(Sonic(Shh), Indian (Ihh), Desert(Dhh); Kinto et al., Kinto et al., FEBS Letters 404 (1997), 319-323(非特許文献6)) 又は骨形態発生蛋白質ファミリー(BMPs)のメンバーである。
【0004】
ヘッジホッグ蛋白質、殊にソニックヘッジホッグ(Shh)は、脳、脊髄、頭蓋顔面構造、四肢、眼、左右体対称性、体節パターニングを包含する複数の臓器系の発生のために責任がある(Hammerschmidt et al., Trends Genet. 13(1997) 14-21(非特許文献7)) 。インデイアンヘッジホッグ(Ihh)は、軟骨発生に1つの役割を演じている(Vortkamp et al., Science 273 (1996) 613-622(非特許文献8); Lanske et al., Science 273 (1996) 663-666(非特許文献9)) 。デザートヘッジホッグ(Dhh)は、雄生殖系列細胞の発生に必要である。ヘッジホッグ、例えば骨発生及び修復におけるShhの関わり合いの更なる証明は、ヒト全前脳症を先導する突然変異により(Roessler et al., Human Molecular Genetics 6 (1997) 1847-1853(非特許文献10); Belloni et al., Nature Genetics 14 (1996) 353(非特許文献11)) 及び繊維芽細胞中のShhの発現の後の異所性骨の誘導及びこの細胞の筋肉中への移植(Nakamura et al., BBRC 237 (1997) 456-469(非特許文献12))により与えられる(Kinto et al., FEBS Letters 404(1997) 319-323(非特許文献13))。
【0005】
骨形態形成蛋白質類(BMPs)は、異所性骨形成により示される骨、軟骨、腱及び他の組織の形成能力のある分子である(Wozney et al., Science 272 (1988) 738-741(非特許文献14))。骨の中のそれらの存在に加えて、これらの蛋白質の独特の誘導活性は、それらが骨修復プロセスの重要な調節剤であり、骨組織の正常維持に必要でありうることを暗示している。いくつかの亜族に分けることができるこのような多くの蛋白質は公知である(Reddi, A.H., Cytokine & Growth Factor Reviews 8(1997) 11-20(非特許文献15)) 。このようなBMP類は、例えばBMP−2〜BMP−14及び成長及び発生因子GDF−1〜GDF−14である。
【0006】
BMP類は、重要な信号化因子であり、骨及び軟骨形成における多段階連続的カスケード、例えばケモタキシス、細胞分裂及び分化を調節する。殊にBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−7は軟骨形成及び骨形成を起こす。
【0007】
骨治癒の促進の場合には限られた成功が達成されているだけである。通常、大きい骨欠損(整形外科的再建術)は、自家移植又は同種異系移植による骨又は骨粉末移植により治療される。加えて、骨破断の全てのケースでは、約5〜10%が治癒の困難、癒合遅延(6ヶ月後のみに治癒)又は治癒なし(9ヶ月後になお非癒合)を示す(Einhorn, T. A., Journal of Bone and Joint Surgery, American Volume 77A (1995) 940-956(非特許文献16)) 。同種異系移植骨及び骨粉末は、ヒトドナーから誘導され、骨組織バンクに貯蔵することができるが、限られている。これは人的材料であるので、ウイルス(例えばHIV、HBV、HCV)及び細菌汚染に関する詳細なスクリーニングが必要である。移植拒否も起こりうる。この物質はドナーに依り品質が変動する。自己の骨の使用は、屡々移植部位で病的状態を伴う(Muschler et al., Clin. Orthop. Rel. Res. (1996) 250-260(非特許文献17)) 。加えて、自己ドナーからはこのような物質の限られた量のみが入手可能である。
【0008】
骨治癒を促進するためのBMP−2及びBMP−7単独の臨床試験が開始されている。最初の結果は、BMP−2又はBMP−7が骨又は骨粉末に対して均等であるように見えることを示している(Boyne, J. Oral Maxillofac. Surg. 53 Suppl. 4 (1995) 92; Kirker-Head et al., Clin. Orthop. 218 (1992) 222(非特許文献18);Johnson et al., Clin. Orthop 277( 1992) 229(非特許文献19)) 。マトリックス1g当たり約2.5〜6.8mgが用いられている。
【0009】
改良され、増強された軟骨修復に関する高い医療的要求が存在する。部分幅、全幅又は間隙欠損でも、急性欠損(例えば自動車又はスポーツ事故)の通常の治療は、切除、創面切除又は非常に希に起こる自己快復の期待である。いくつかの治療法、例えば大きい欠損に対するシリンダーの形の自己骨/軟骨移植を用いるモザイクプラスチックが調査されている。臨床前及び市販前の研究でいくつかの細胞治療法が試みられている。バイオプシイの間に単離された自家軟骨細胞が試験管内で単一層として培養されている(Brittberg et al., N. Engl. J. Med. 331(1994) 889-895(非特許文献20)) 。非分化細胞が、欠損部の上に縫合された骨膜弁の下に開放膝関節手術で注入される。適当なキャリア上で軟骨細胞に分化しうる間葉幹細胞が臨床前研究されている(US−P5486359(特許文献3))。蛋白質又は蛋白質の組み合わせを用いる使用簡単な治療法は未だ存在しない。
【0010】
WO98/30234(特許文献4)は、BMP及びヘッジホッグ蛋白質の組成物を記載している。WO97/21447(特許文献5)は、骨治癒のための骨誘導性骨形態形成蛋白質(例えばBMP−7)及び形態形成蛋白質刺激因子IGF−1の組み合わせを記載している。WO92/09697(特許文献6)は、このような目的のためのBMP及びTGF−βの組み合わせを記載している。単独でも組み合わせでも軟骨を治癒する因子は、WO96/14335(特許文献7)(軟骨誘導形態形成蛋白質)及びWO97/23612(特許文献8)中に記載されている。
【0011】
骨治癒のための因子の更なる組み合わせは、US−P5270300(特許文献9)中に:骨形成因子(TGF−β、TGF−βとEGF、オステオゲニン、BMP、+これらの組み合わせ)及び骨治癒のための血管新生因子(TGF−β、アンギオゲニン、アンギオトロピン、FGF−2、PDGF−a及びこれらの組み合わせ)が;US−P5629009(特許文献10)中に:TGF−β、EGF又は脱ミネラル骨マトリックスから誘導された因子(マトリックスの質量の約10〜90%)がFGF又はPDGFと組み合わせて;Genetics Institute,Inc. によるEP−B0429570(特許文献11)中に:BMP類(蛋白質又はDNA)と種々のタイプのキャリアの組み合わせが記載されている。BMP類とEGF、FGF類、PDGF、TGF−α及びTGF−βとの組み合わせも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO95/03328
【特許文献2】DE 19653358 A1
【特許文献3】US−P5486359
【特許文献4】WO98/30234
【特許文献5】WO97/21447
【特許文献6】WO92/09697
【特許文献7】WO96/14335
【特許文献8】WO97/23612
【特許文献9】US−P5270300
【特許文献10】US−P5629009
【特許文献11】EP−B0429570
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Weilbach et al,. Cancer Res. 50(1990) 6981-6986
【非特許文献2】Dietz, U., and Sandell, L., J. Biolo. Chem. 271 (1996) 3311-3316
【非特許文献3】Bosserhoff et al., Developmental Dynamics 208 (1997) 516-525
【非特許文献4】Xie et al., 44th Annual Meeting, Orthopaedic Research Society, March 16-19,1998, New Orleans, Louisiana
【非特許文献5】Bosserhoff et al., Cancer Research 57(1977) 3149-3153
【非特許文献6】Sonic(Shh), Indian (Ihh), Desert(Dhh); Kinto et al., Kinto et al., FEBS Letters 404 (1997), 319-323
【非特許文献7】Hammerschmidt et al., Trends Genet. 13(1997) 14-21
【非特許文献8】Vortkamp et al., Science 273 (1996) 613-622
【非特許文献9】Lanske et al., Science 273 (1996) 663-666
【非特許文献10】Roessler et al., Human Molecular Genetics 6 (1997) 1847-1853
【非特許文献11】Belloni et al., Nature Genetics 14 (1996) 353
【非特許文献12】Nakamura et al., BBRC 237 (1997) 456-469
【非特許文献13】Kinto et al., FEBS Letters 404(1997) 319-323
【非特許文献14】Wozney et al., Science 272 (1988) 738-741
【非特許文献15】Reddi, A.H., Cytokine & Growth Factor Reviews 8(1997) 11-20
【非特許文献16】Einhorn, T. A., Journal of Bone and Joint Surgery, American Volume 77A (1995) 940-956
【非特許文献17】Muschler et al., Clin. Orthop. Rel. Res. (1996) 250-260
【非特許文献18】Boyne, J. Oral Maxillofac. Surg. 53 Suppl. 4 (1995) 92; Kirker-Head et al., Clin. Orthop. 218 (1992) 222
【非特許文献19】Johnson et al., Clin. Orthop 277( 1992) 229
【非特許文献20】Brittberg et al., N. Engl. J. Med. 331(1994) 889-895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、間葉幹細胞からの軟骨−/骨形成系列の誘導及び軟骨及び骨形成の促進のための新規の方法及び組成物を発明することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、MIAを有利に骨誘導性蛋白質と組み合わせて用いることによる、軟骨−/骨形成系列の改良された誘導法及び軟骨及び増加された骨形成を促進する方法を提供する。
【0016】
更に、本発明は軟骨−/骨形成系列を誘導し、軟骨及び骨形成の促進を誘導するための薬剤学的組成物の製法に関し、ここでは、本発明による黒色腫抑制活性因子(MIA)をこの薬剤学的組成物の主成分として使用する。更に、MIAと骨誘導性蛋白質の組み合わせを主成分として使用することが有利である。骨誘導性蛋白質:MIAの比は1:1〜1:20が有利である。
【発明の効果】
【0017】
意外にも、MIAは、有利に骨誘導性(骨形成性)蛋白質、有利に骨形態形成性蛋白質2、3、4、5又は7又はヘッジホッグ蛋白質と組み合わされて、結果として軟骨及び/又は骨形成をすることが発見された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「骨誘導性蛋白質」とは、有利に軟骨性骨形成を誘導する骨形成性蛋白質と理解される。軟骨細胞は、軟骨性マトリックスに引き続き、骨芽細胞及び骨細胞を生成し、これらは骨組織を生成する。それにより、軟骨−/骨形成系列の初期遺伝子、例えばCbfa1がアップレギュレートされ、これが究極的に軟骨細胞及び骨細胞の形成をもたらす。例えばBMP類又はヘッジホッグ蛋白質によりこのような骨誘導が達成できる。BMP−2、BMP−7又はヘッジホッグ蛋白質(Shh、Ihh又はDhh)が有利である。本発明で有用な骨誘導性蛋白質には、TGF−β、BMP類及びEGFと組み合わされたTGF−βのような蛋白質も包含される。
【0019】
骨形成を誘導することの可能な物質は簡単な方法で試験することができる。この目的のために、例えば多能な間葉細胞、例えばC3H10T1/2細胞を潜在的骨誘導性因子と共に又はそれなしで培養する。対照物及び処置細胞をアルカリホスファターゼ活性に関して測定する。この活性は、適当な比色分析基質、例えば燐酸p−ニトロフェニルを用いて光学的に測定することができる(Nakamura et al., BBRC 237 (1997) 465-469) 。アルカリホスファターゼの増加された活性は、骨誘導として記録される。選択的に、オステオカルシン及びアルカリホスファターゼの適当なプライマーを用いるRT-PCRによっても、オステオカルシン及びアルカリホスファターゼのアップレギュレーシヨンが測定される。
【0020】
軟骨形成を誘導する化合物の能力は、多能な間葉細胞、例えばC3H10T1/2又はプレ−軟骨形成細胞、例えばRCJ3.1C5.18を用いて試験管内で試験することができる。これらの細胞を、3次元的培養で、例えば誘導物質又は誘導物質の混合物を用いるマイクロマス培養で2〜3週間培養させる。軟骨マーカーとしてのII型コラーゲンは、モノクローナル抗体を用いる免疫細胞化学により又はRNA単離の後のノーザンブロットにより立証することができた。アルシアンブルー着色は、プロテオグリカンの存在を証明する。アグリカンの試験のためにRT−PCR反応で特異的プライマーを用いる別の方法もある。
【0021】
本発明のもう一つの有利な態様では、有利に骨形成性蛋白質と組み合わされたMIAを、遺伝子治療法により生体外又は生体内で細胞中へ導入することができる。この方法のために、MIA及び場合によっては骨形成性蛋白質をコードする遺伝子を、有利に同じプロモーターのコントロール下に1ベクター中に又は別のベクター中に導入する。MIA又は骨形成性蛋白質の有効な発現のために、強いプロモータをこのベクター中で使用することが必要である。このようなプロモータは、例えばPGK又はCMVプロモータである。有利に、発現ベクターは、このような強いプロモータ、選択された遺伝子の完全長mRNA、例えばBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−7、Shh、Ihh又はDhh、FGF、HGF、PlGF、VEGF、人工イントロン及びポリ−A−部位よりなる。生体内適用のために、DNAは、有利に骨形成のために凍結乾燥されてコラーゲンスポンジにされるか又は他の適当なキャリア、有利にはヒアルロン酸又はゲルとしての適用のためのコラーゲンと共に、軟骨形成のために適用される。生体外適用のために、軟骨形成性及び骨形成性系列の細胞を、このようなベクターでトランスフェクトさせ、引き続き移植する。
【0022】
本発明による薬剤学的処方物は、例えば組成物のデリバリイ及び/又はサポートのための適当なマトリックスを含有しかつ/又は骨形成のための表面を提供することができる。このマトリックスは、有利に骨誘導性蛋白質との組み合わせでMIAの緩徐な放出を提供することができる。MIAとMIAがイオン性又は疎水性相互作用により可逆的に結合するマトリックスとの組み合わせにより、MIAの緩徐な放出が可能である。この組成物は生体親和性及び/又は生分解可能であるマトリックスを含有するのが有利である。この組成物のための有効なマトリックスは、例えばヒアルロン酸、アルギン酸塩、硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、ポリラクチック−コグリコリド、ポリ酸無水物、コラーゲン又はこれらの組み合わせを含有し、この際、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ヘパリン、コラーゲン及び/又はポリラクチック−コグリコリド又はそれらの誘導体が有利である。
【0023】
局所的骨修復のために、MIA又は骨誘導性蛋白質とのその組合せ物を使用するのが有利である。従って、骨形成のために、形状安定なマトリックスを始原細胞と密に接触して使用するのが有利である。3次元マトリックスに適用されたMIA又は組合せ物は、スポンジに類似しており、欠損中に密に入り込み、例えば骨膜又は骨髄からの細胞を増殖させ、かつ骨細胞に分化することが可能であり、これは有利に生分解性である。このようなスポンジを得るために有利な物質は、例えばコラーゲン、アルギン酸塩、燐酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト及びこれらの組合せ物である。
【0024】
軟骨形成の誘導のためには、MIA又はその軟骨形成性/骨形成性蛋白質との組合せ物が局所的軟骨欠損部に向かうことが重要である。軟骨始原細胞は、軟骨下骨から(全幅欠損で)又は滑膜から(部分幅欠損で)誘導される。この治療は細胞を増殖させ及び分化させることができ、これが結果として新しい軟骨を合成する。周辺領域からの成熟軟骨細胞も刺激することができた。この最後に、この薬剤学的組成物を直接軟骨組織上に又は内に、有利に局所移植又は局所注入により適用するのが有利である。注射器を用いてこれを行うのが好適である。ここでもマトリックスの使用が有利である。しかしながら、このマトリックスは形状安定であるよりもゲル又はペーストのように流動性であるのが有利である。この流動性は、薬剤学的処方物を注射器で適用可能にするのに充分な高さであるのが有利である。
【0025】
用量管理は、当該医師により、本発明の処方物の作用を変更する種々の要因を考慮して決定されうる。処方物の作用を変更することのできる要因には、形成されることが望まれる骨の量、適用部位、損傷の状態、患者の年齢、性別及び食餌、感染症の重症度、投薬の回数及び他の臨床的要因が包含される。用量は骨の再形成時に使用されるマトリックスのタイプに応じて変動することができる。
【0026】
更に本発明は、MIAをこの薬剤の主成分として使用することを特徴とする薬剤の製法に関する。この方法では、1インプラント又は1ボラス注射当たりMIA500μgを使用するのが有利である。有利な1実施形では、この薬剤は付加的に骨誘導性蛋白質を含有する。骨誘導性蛋白質:MIAの質量割合は有利に1:1〜1:20である。従って、過剰量のMIAを使用するのが有利である。この組成物中では、骨誘導性蛋白質約100μg及びMIA約500μgを使用するのが有利である。MIAと骨誘導性蛋白質の全体の量は、マトリックス蛋白質1gに対して200〜800μgの範囲内にあるのが有利である。
【0027】
軟骨適用のために、このような薬剤学的処方物は、ヒアルロニック又はコラーゲンマトリックスをベースとするゲルであるのが有利である。このようなゲルは、有利に注入可能であり、1ボラス注射当たり100μl〜2mlの量で適用される。骨内への適用の場合には、コラーゲンスポンジの使用が有利である。
【0028】
更に、本発明はこの種類の薬剤学的組成物に関する。この種類の薬剤学的組成物は、骨修復、生体内での骨形成、殊に骨欠損を蒙り、従って骨修復並びに軟骨修復を必要としている患者の治療のために適用することができる。
【0029】
本発明のもう一つの目的は、MIA及び場合によっては付加的に骨誘導性蛋白質の発現ベクター又はMIAの発現のためのベクターと骨誘導性蛋白質の発現を可能とするベクターとの組み合わせを含有する薬剤学的組成物、同様にこのような薬剤学的組成物の製造法である。
【0030】
その真の範囲が特許請求の範囲に記載されている本発明の理解を助けるために、次の実施例及び参考文献を示す。本発明の範囲を逸脱することなく、前記の処置の範囲内でその変更が可能であることは明らかである。
【実施例】
【0031】
例1
骨形成性分化の誘導に関する試験管内細胞検定
間葉細胞、例えばC3H10T1/2細胞を96ウエルプレート中に接種する。24時間後に骨誘導性因子、例えばヘッジホッグ又はBMPを単独で又はMIAと組み合わせて添加する(第1表参照)。対照のためには細胞を処置しない。5日後に、対照及び処置細胞をアルカリホスファターゼ活性及び蛋白質含量に関して分析する。アルカリホスファターゼ(AP)活性を、比色基質としての燐酸p−ニトロフェニルを用いて光度測定法で測定する。活性の増加は骨誘導として記録される。ヘッジホッグ0.05μg/mlを適用した。MIAを0.05μ/ml〜50μg/mlの種々の濃度で試験した。
【0032】
単独で適用されたMIAは、アルカリホスファターゼ活性を変えなかった。MIAがヘッジホッグと組み合わせて適用された場合には相乗効果が観察され、結果としてアルカリホスファターゼ活性の2.7倍の増加を生じた。
【0033】
【表1】

【0034】
例2
軟骨マーカーの誘導に関する試験管内検定
ブタの軟骨細胞を大腿顆から単離した。膝手術をした患者の大腿顆からヒト始原軟骨細胞を単離した。この軟骨を刻んで小片にし、コラーゲナーゼ(Roche Diagnostics GmbH, DE) 2mg/nl及びヒアルロニダーゼ(Sigma) 0.1mg/ml及びDナーゼ(Roche Diagnostics GmbH, DE)0.15mg/mlを有する10ml中で37℃で16時間インキュベートした。遠心分離の後にこの軟骨細胞を増殖のためにペトリシャーレに接種した。
【0035】
分化した細胞を検定のために使用した。96ウエルプレート中の各ウエル当たり媒体10μml中の細胞2×10をスポットした。4時間後に媒体200μlを添加した。7日後にこのマイクロマス培養物にインダクターを加えた:BMP−2、ヘッジホッグ、MIA及びこれらの組合せ物。2〜4週間後に、培養物を軟骨マーカーに関して検定した。形態学的に、軟骨細胞は丸い外観を有する。免疫細胞化学は、II型コラーゲン発現を示している。細胞化学的にアルシアンブルーは硫酸化されたプロテオグリカンを証明している。PCRでアグリカン及びSOX9を示すことができた。
【0036】
例3
増殖の誘導に関する試験管内検定
ブタの大腿骨顆から軟骨細胞を単離した。細胞3000を96ウエルプレート中に接種し、3日間培養した。血清不含インキュベーシヨンの24時間後に、MIA、BMP−2、Shh及びこれらの組合せ物を添加した。48時間血清不含誘導時間の最後の16時間の間、BrdUラベリングが存在した。製造者(Roche Diagnostics GmbH) の指示に従って検出ELISAを行った。
【0037】
【表2】

【0038】
MIAは単独及び組み合わせで始原軟骨細胞のDNA合成を刺激する。
【0039】
例4
軟骨形成を研究するための試験管内臓器検定;マウス四肢芽検定
無菌状態下にマイクロ切開鋏及びウオッチマーカーズ鉗子を用いてE12.5〜E15.5マウス胎児(NMRI)から四肢芽を単離する。この四肢芽を、Gibco−BRLからの抗生物質−抗真菌物質を含有するPBS(#15240−039)中ですすぎ、次いで、Gibco−BRLからの血清不含BGJb媒体(#12591-020)中、組織培養シャーレ中で48時間〜144時間培養した。培養24時間の後に、MIA、BMP−2単独を又はMIAとBMPとの種々の組合せ物を加えた。媒体を毎日交換した。この培養の最後に四肢をPBS中ですすぎ、次いで、一晩かかって4%パラホルムアルデヒド中で、パラフィン埋め込み又はWilkinson,D.G. In situ hybridization:practical approach, In: Rickwood D. Hames BD(eds.)により記載されているin situ ハイブリダイゼーシヨンでのホールマウントのための処理をして固定させた。The practical approach series, Oxford Univ. Press, Oxford, New York, Tokyo(1992)。パラフィン区分を石灰化された領域を可視化し、かつ定量化するために、von Kossaで着色し、軟骨形成を評価するためにアルシアンブルーで着色した。加えて、軟骨発生のための遺伝子発現特徴、例えばコラーゲンII、MIA、コラーゲンXを分析するために、in situ RNAハイブリダイゼーシヨンを実施した。
【0040】
例5
軟骨、骨、腱及び靱帯誘導に関するマウス生物学的検定
Sampath and Reddi ラッテ異所着床検定と同様に、近交系C3Hマウス(4月齢)を用いて、マウス異所着床検定を実施した(Sampath and Reddi, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80 (1983) 6591-695; WO 95/16035) 。(a)MIA単独、(b)BMP−2単独及び(c)MIAとBMP−2との組合せ物を、適当な緩衝液、BMP−2用の0.1%トリフルオロ酢酸及びMIA用の100mM燐酸カリウム、150mMNaCl、pH6.0中で適用した。キャリアとしてI型コラーゲンマトリックス及びヒアルロン酸を用いた。任意の好適なキャリア、例えばI型コラーゲンマトリックス、コラーゲン−ヘパリン混合物、ゼラチンカプセル、ヒアルロン酸、アルギン酸塩又は生体親和性、生分解性、安定性及び機械的特性に基づく他の機能的に均等なデバイスが使用できる。
【0041】
インプラントをマウスの殿筋中に筋内配置し、14日間放置した。14日後にマウスを頚部転位により犠牲にした。インプラントを、標準組織学的技術を用いて単離し、処置した(Theory and Practice of Histological Techniques, ed. Bancroft and Stevens, Churchill Livingstone, 1996参照) 。パラフィン区分(4μm)を切断し、von Kossa で着色して可視化し、各インプラント中で誘導された軟骨及び骨組織の量を定量した。ポジチブ(例えばBMP−2)及びネガチブ(例えば模擬デバイス)インプラント対照群を実験インプラントと比較した。
【0042】
誘導された軟骨及び/又は骨の量の評価のために、前記のような軟骨及び骨マーカーに関するRNA in situ ハイブリダイゼーシヨンにより、軟骨マーカー(例えばコラーゲンII、コラーゲンX)及び骨マーカー(例えばコラーゲンI、オステオカルシン)を用いて、遺伝子発現を研究することができる。
【0043】
例6
DNA発現ベクターの軟骨、骨、腱及び靱帯誘導に関するマウス生物学的検定
Sampath and Reddi ラッテ異所着床検定と同様に、非近交系NMRIマウス又は近交系C3Hマウス(2月齢)を用いて、マウス異所着床アッセイを実施した(Sampath and Reddi, Proc. Natl. Acad.Sci. USA 80 (1983) 6591-695; WO 95/16035) 。(a)骨誘導因子単独、(b)MIA単独及び(c)骨誘導因子とMIAとの組み合わせの発現ベクターを、適当な緩衝液、例えばTE−緩衝液中で凍結乾燥させた(Fang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93 (1996) 5753-5758)。任意の好適なキャリア、例えばI型コラーゲンマトリックス、コラーゲン−ヘパリン混合物、ゼラチンカプセル、ヒアルロン酸、アルギン酸塩又は他の生体親和性、生分解性、安定性及び機械的特性に基づき機能的に均等なデバイスを使用することができる。
【0044】
インプラントをマウスの後肢筋中に、7日及び14日間筋内配置した。7日及び14日後に、マウスを頚部転位により犠牲にした。インプラントを、標準組織学的技術を用いて単離し、処置した(Theory and Practice of Histological Techniques, ed. Bancroft and Stevens, Churchill Livingstone, 1996参照)。パラフィン区分(4μm)をトルイジンブルー、アルシアンブルー、von Kossa 、モバット又はヘマトキシリン/エオシン で着色して可視化し、各インプラント中に誘導された腱、靱帯、軟骨及び骨組織の量を定量した。ポジチブ(例えばBMP−2,Shh発現ベクター)及びネガチブ(例えば模擬デバイス)インプラント対照群を実験インプラントと比較した。
【0045】
誘導された軟骨及び/又は骨の量の評価のために、前記のような軟骨及び骨マーカーに関するRNA in situ ハイブリダイゼーシヨンにより遺伝子発現を研究することができる。
【0046】
例7
ウサギ中の非−癒合骨折モデル(とう骨骨計測)
MIA単独及びBMP又はヘッジホッグ蛋白質及び適当なキャリアと組み合わされたMIAの組成物の骨修復に及ぼす能力を評価するために、成体ウサギのとう骨で、長さ1.5cmの非癒合欠損を作った。この動物をキシラジン/ケタミンの静脈注射により麻酔し、無菌状態下に手術を行った。欠損部を、空のまま残すか、適当なキャリアで充填するか又はMIA及びBMP又はこれらのファクター単独各々を含有するキャリアで充填した。動物を自由に運動させ、骨欠損治癒の割合を評価するために、手術後2週目及び4週目にX−線検査をした。この研究の最後に動物を麻酔下で殺し、骨欠損部位を取り出し、von Kossa 及びゴールドナー着色を用いて組織学的検査をし、新たに形成された修復組織を計量しかつ品質の特徴付けをした。
【0047】
例8
全幅関節軟骨修復モデル
単独又はBMP又はヘッジホッグ蛋白質及びキャリアと組み合わせたMIAの軟骨及び骨修復に影響する能力を評価するために、成体ウサギの大腿−膝蓋関節における全幅関節軟骨欠損モデルを用いる。成体ウサギを麻酔し、無菌手術の準備をする。関節軟骨を通り原軟骨下骨層中に入る4×4mmまでの欠損を、膝関節の膝蓋骨溝中に穿孔する。この欠損部を空のまま残すか、適当なキャリアを充填するか又はMIAを単独で又はBMP又はヘッジホッグと組み合わせて含有するキャリアを充填した。動物を4週間自由に運動させる。4週後に、動物を人道的に安楽死させ、関節軟骨/肋軟骨欠損部位を、修復の組織構築、量及び品質に関して組織学的に評価する。
【0048】
例9
部分幅関節軟骨修復モデル
成体ウサギの大腿−膝蓋関節中の部分幅関節軟骨欠損モデルを、単独の又はBMP又はヘッジホッグ蛋白質及びキャリアと組み合わされたMIAの軟骨及び骨修復に影響する能力を評価するために用いる。成体ウサギを麻酔し、無菌手術の準備する。4×4mmの穴を、関節軟骨を通り膝関節の膝蓋骨溝中に穿孔し、原軟骨下骨層を無傷のまま残す。欠損部を空のまま残すか、適当なキャリアを充填するか又は単独又はBMP又はヘッジホッグ蛋白質と組み合わされたMIAを含有するキャリアを充填した。動物を4週間自由に運動させる。4週後に動物を人道的に安楽死させ、関節軟骨欠損部位を修復の組織構築、量及び品質に関して組織学的に評価する。
【0049】
参考文献のリスト

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の新規組成物は、間葉幹細胞からの軟骨−/骨形成系列の誘導及び軟骨及び骨形成の促進のために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色腫抑制活性因子及びヒアルロン酸、アルギン酸塩、硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、ポリラクチック−コグリコリド、ポリ酸無水物、コラーゲン又はこれらの組合せ物より成る群から選択された生体親和性及び/又は生分解性のマトリックスを含有する薬剤学的組成物。
【請求項2】
黒色腫抑制活性因子(MIA)を骨誘導性蛋白質と組み合わせて含有する、薬剤学的組成物。
【請求項3】
骨誘導性蛋白質:MIAの比は1:1〜1:20である、請求項2に記載の薬剤学的組成物。
【請求項4】
骨誘導性蛋白質はBMP−2、BMP−7又はヘッジホッグ蛋白質である、請求項2又は3に記載の薬剤学的組成物。
【請求項5】
組成物は生体親和性マトリックスを含有する、請求項2から4までのいずれか1項に記載の薬剤学的組成物。
【請求項6】
生体親和性マトリックスは、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、コラーゲン、ヘパリン、ポリラクチック−コグリコリド及び/又はポリラクチック−コグリコリド誘導体又はこれらの組合せ物である、請求項1又は5に記載の薬剤学的組成物。
【請求項7】
軟骨−/骨形成系列の改良された誘導及び軟骨及び/又は骨形成の促進のための薬剤学的組成物を製造するための主成分としての、黒色腫抑制活性因子(MIA)の使用。
【請求項8】
組成物は付加的に骨誘導性蛋白質を含有する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
骨誘導性蛋白質はBMP−2、BMP−7又はヘッジホッグ蛋白質である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
骨誘導性蛋白質:MIAの比は1:1〜1:20である、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
黒色腫抑制活性因子(MIA)を生体親和性マトリックスと組み合わせる、請求項8から10までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
生体親和性のマトリックスは、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、コラーゲン、ヘパリン、ポリラクチック−コグリコリド及び/又はポリラクチック−コグリコリド誘導体又はこれらの組合せ物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
軟骨−/骨形成系列の改良された誘導及び軟骨及び/又は骨形成の促進のための薬剤学的組成物の製造のための、黒色腫抑制活性因子(MIA)の発現ベクター又は骨誘導性蛋白質の発現用ベクターと黒色腫抑制活性因子(MIA)の発現能力のあるベクターとの組み合わせの使用。
【請求項14】
軟骨−/骨形成系列の改良された誘導及び軟骨及び/又は骨形成の促進のための薬剤学的組成物の製造のための主成分としての、黒色腫抑制活性因子(MIA)の発現能力のある発現ベクター又は骨誘導性蛋白質の発現能力のあるベクター及び黒色腫抑制活性因子(MIA)の発現能力のあるベクターの使用。
【請求項15】
ヒアルロン酸、アルギン酸塩、硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、ポリラクチック−コグリコリド、ポリ酸無水物、コラーゲン又はこれらの組み合わせ物からなる群から選択された生体親和性マトリックスを含有する、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
骨及び/又は軟骨修復の必要な患者の治療のための黒色腫抑制活性因子(MIA)の使用。
【請求項17】
黒色腫抑制活性因子(MIA)と骨誘導性蛋白質の組み合わせを使用する、請求項16に記載の使用。

【公開番号】特開2011−84574(P2011−84574A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12203(P2011−12203)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【分割の表示】特願2000−595703(P2000−595703)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(504439252)エスシーアイエル テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】Scil Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Fraunhoferstrasse 15, D−82152 Martinsried, Germany
【Fターム(参考)】