説明

軟骨治療剤組成物及びその使用方法

本発明は、膝関節や足関節、特に、臨床症状のある大腿骨関節軟骨(外側、内側、滑車
面)欠損部位及び距骨の骨軟骨欠損部位に、臨床的に使用可能にする軟骨治療剤組成物及
びその使用方法に関する。
これは、特に、ヒトや動物等の宿主から分離されて増殖または分化された軟骨の細胞成
分と、これに混合されるトロンビン及びフィブリノゲンを含むフィブリノゲンマトリック
スが混合される構成からなる。
また、トロンビンと軟骨細胞成分及びフィブリノゲンマトリックスの混合物を、軟骨の
欠損部位に注入して固形化させる軟骨治療剤組成物の使用方法を提供する。
これにより、ヒトや動物に手術と関連した負担を減らすとともに、より迅速かつ効果的
に軟骨生成を図ることができ、関節鏡を用いて移植術を行うことができるようにして、よ
り安全かつ簡便に施術するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトや動物の宿主において、膝関節や足関節、特に、臨床症状のある大腿骨
関節軟骨(外側、内側、滑車面)欠損部位及び距骨の骨軟骨欠損部位に、臨床的に移植可
能にする軟骨治療剤組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、脊椎動物の関節をなす軟骨組織は、一度損傷すると、正常に生体内で再生され
ることはない。
【0003】
このような関節の軟骨組織が損傷すると、酷い痛みと共に日常生活に制限を受け、さら
に、慢性化すると、致命的な退行性関節炎を引き起こしたり、正常な生活や職業的な活動
を阻害されたりするようになる。
【0004】
このような関節軟骨損傷を治療するためには、損傷した関節面を磨いて柔らかくする治
療法、或いは、関節面に微細骨折を引き起こし、又は小孔を開ける治療法が用いられてい
る実状である。
【0005】
しかしながら、この治療法では、わずか数週間後に症状が再発してしまい、正常生活へ
の復帰を不可能にし、このような治療のために作られた組織は、繊維性組織であり、正常
な軟骨組織とは質的に全く異なる組織である。
【0006】
しかも、関節の軟骨組織損傷が酷い場合は、軟骨組織の再生が不可能となり、酷い損傷
によって軟骨組織が再生不能状態に陥った場合は、不可避的に関節軟骨を完全に除去し、
金属やプラスチックを用いた人工関節に置き換える方法が用いられた。
【0007】
また、現在までは、このような人工関節置換術が再生不能の軟骨損傷に対する唯一の治
療法として知られている。
【0008】
上記した人工関節置換術は、米国で膝関節にのみ毎年30万例以上が用いられているこ
とが実状である。
【0009】
しかしながら、人工関節軟骨は、器具であり、そのものの寿命が約10年であって永久
使用することができず、費用面では、器具そのものの価格のみでも、1件当たり約500
万ウォンして経済的負担が大きい。
【0010】
さらに、このような人工関節軟骨は、活動量の多い若者に用いるのには合併症の発生頻
度があまりにも高いと報告されており、有用な治療法として認識されていない。
【0011】
最近、損傷した関節軟骨の治療のために、組織工学に基づいた新たな治療法として、自
己由来軟骨細胞移植術が脚光を浴びている。
【0012】
この技術は、ニューヨーク所在のHospital for Joint Diseas
eにおいて初めて研究され、スウェーデン所在のUniversity of Gothe
nburgとSahlgrenska University Hospitalにおいて
発展された。
【0013】
上記した自己由来軟骨細胞移植術は、膝関節軟骨が損傷した患者の軟骨部位のうち、使
用の少ない軟骨を採取した後、軟骨細胞を分離し、前記軟骨細胞を培養して、軟骨欠損部
位を治療するだけの軟骨細胞数を獲得し、培養された軟骨細胞を患者の軟骨欠損部位に移
植して、患者の関節軟骨を復元させる方法である。
【0014】
このような自己由来軟骨細胞移植術は、根本的な関節治療術として、その性能が様々な
臨床結果によって立証されているが、軟骨細胞治療剤移植の際に骨膜を採取しなければな
らず、患部に移植した後、軟骨細胞治療剤を注入する過程が随伴しなければならない。
【0015】
また、骨膜採取の際に膝の多くの切開と、手術部位と骨膜の不完全な密封による軟骨細
胞治療剤の消失、骨膜の関節欠損部位への縫合時間が多くかかるという短所があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の問題点を考慮してなされたもので、その目的は、軟骨治療剤移植の際
に、骨膜の採取、縫合、骨膜と移植部位の不完全な密封、多くの部位の切開による移植術
の困難と、手術所要時間を短縮させることができる軟骨治療剤及びその使用方法を提供す
ることにある。
【0017】
また、軟骨細胞成分と、トロンビンとフィブリノゲンマトリックス成分を混合使用して
固形化することにより、治療剤の損失を最小化し、フィブリノゲンマトリックスと細胞の
相互作用により、さらに完全な軟骨再生の効果と、さらには、手術時間の短縮と、関節鏡
により使用が可能になる軟骨治療剤組成物及びその使用方法を提供することにある。
【0018】
上記目的を達成すべく、本発明に係る軟骨治療剤組成物によれば、宿主から分離されて
増殖又は分化された軟骨の細胞成分と、トロンビンとフィブリノゲンマトリックスとの混
合物とからなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る軟骨治療剤組成物の使用方法によれば、宿主から分離されて増殖又
は分化された軟骨細胞成分を準備するステップと、トロンビンを準備するステップと、フ
ィブリノゲンマトリックスを準備するステップと、軟骨の欠損部位を処理するステップと
、欠損部位に、軟骨細胞成分と、トロンビンとフィブリノゲンマトリックスを混合した後
、注入するステップとを含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
本発明は、組織と臓器を代替するのに寄与する組織工学によるものであり、組織の機能
を向上、維持及び回復させることができる。
【0022】
このような組織工学を用いる本発明は、ヒトや動物の宿主から分離されて増殖又は分化
された軟骨の細胞成分に、トロンビンとフィブリノゲンマトリックスを混合して形成され
る。
【0023】
また、本発明では、組織代替剤として、特定の細胞と成長因子等が含まれてもよい基質
を必要とし、基質としては、細胞外基質(ECM)の構成成分のような生体内成分、基質
代替物である天然高分子等が用いられる。
【0024】
さらに、前記細胞とマトリックスの相互作用は、直接的に細胞の粘着、移動、増殖、分
化、アポトーシスを引き起こす。
【0025】
また、サイトカインと成長因子の活性を調節して、細胞内信号伝達を活性化させ、組織
の早い生成、早い回復の結果をもたらす。
【0026】
一方、本発明に係る軟骨治療剤組成物の使用方法は、先ず、ヒトや動物から分離された
後、増殖又は分化される軟骨細胞成分を準備し、凝固因子として用いられるトロンビンを
準備する。
【0027】
また、上記した軟骨細胞成分及びトロンビンと混合するフィブリノゲンマトリックス、
すなわち、フィブリノゲン、コラーゲン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン(以下、
「GAG」という)、アプロチニン等の成分を準備する。
【0028】
この際、フィブリノゲンが必ず含まれるフィブリノゲンマトリックスは、フィブリノゲ
ンのみを適切な濃度に単独使用するか、又はフィブリノゲンに他のマトリックス成分であ
るコラーゲン、ヒアルロン酸、GAG、アプロチニン等を適量混合して、フィブリノゲン
マトリックスを形成する。
【0029】
さらに、前記アプロチニンの役割は、トロンビンによるフィブリノゲンの分解を抑制し
て、一定の形状に軟骨治療剤(トロンビン、軟骨細胞成分、フィブリノゲンの混合物)を
混合するとき、固形化する軟骨治療剤の形態が長期間維持されるようにする。
【0030】
この際、前記軟骨治療剤を移植する軟骨欠損部位は、先ず、きれいにした後、移植のた
めに、移植部位の内部に直径2〜3mm、深さ3〜5mmの孔を開けて、トロンビンを噴
射する。
【0031】
また、トロンビンが噴射された軟骨欠損部位に、軟骨細胞成分と、トロンビン及びフィ
ブリノゲンマトリックスが混合された軟骨治療剤を欠損部位に注入する。
【0032】
続けて、前記軟骨治療剤が注入された欠損部位の上に、軟骨細胞治療剤の生着と形態維
持のために、高濃度のトロンビンを振り撒く。
【0033】
本発明における前記軟骨細胞成分としては、正常軟骨組織を適当な酵素を用いて細胞に
分離した後、培養液を加えて培養し、最終的に100万個/mL以上の軟骨細胞を含有す
るものを使用する。
【0034】
また、前記フィブリノゲンは、凍結乾燥状態のフィブリノゲンを、DMEM培養液(D
ulbecco's Modified Eagle's Medium)を始めとして、H
am’s F−12、DMEM/F−12、IMDM(Iscove’s Modifie
d Dulbecco's Medium)、McCoy’s 5A Medium、MEM
(Minimum Essential Medium)、α−MEM、RPMI 164
0、Leibovitz’s L−15 Medium、Eagle’s Basal Me
diumのように、一般に使用される細胞培養液で復元させる。
【0035】
そして、前記トロンビンもまた、凍結乾燥状態のトロンビンを、DMEM培養液を始め
として、前記培養液で復元させる。
【0036】
また、前記フィブリノゲンには、コラーゲン、ヒアルロン酸、GAG、アプロチニンか
ら選ばれるいずれか一つ以上が、所定の濃度に混合されて、フィブリノゲンマトリックス
を形成する。
【0037】
この際、前記フィブリノゲンは、血液中に存在する物質であり、出血が生じたとき、ト
ロンビンと反応して、フィブリンの形態に変形し、前記トロンビンに加えられるCaCl
とfactorXIIIにより凝固され、止血作用するものである。
【0038】
また、前記凍結乾燥状態のフィブリノゲンを溶解する場溶液には、10Vol.%以下のウ
シ胎仔血清(FBS:FCS)、calf serum、ウマ血清、ヒト血清を加えても
よく、さらに、微生物の感染を防ぐために、ペニシリンG、ストレプトマイシン等の抗生
剤、及びカナマイシン、アンフォテリシンB、ナイスタチン、ゲンタマイシン等の抗真菌
剤を適量加えてもよい。
【0039】
さらに、前記フィブリノゲンを溶解する培養液は、McCoys 5A、イーグル基礎
培地、グラスゴーの最小必須培地、Ham’s F−12培地、lscove’s mod
ified Dulbecco’s培地、Liebovitz’L−15培地、RPMI
1640培地等、一般に用いられる細胞培養用培地はいずれも使用可能である。
【0040】
本発明によるフィブリノゲンマトリックスの具体的な実施例については、前記フィブリ
ノゲンは、移植部位と患者の状態を考慮して、20〜200mg/mLの濃度範囲におい
て単独で用いられる。
【0041】
前記フィブリノゲンは、高濃度であるときに比較的硬くて稠密なマトリックスを形成す
るものの、分解時間が増加し、使用後に異物感等が感じられることに対して、低濃度であ
るときには、組織での分解は迅速に行われるものの、粗いマトリックスを形成するように
なり、軟骨に代替し難いという短所がある。
【0042】
しかも、前記フィブリノゲンマトリックスは、20〜200mg/mLのフィブリノゲ
ンに、0.01〜20mg/mLのコラーゲン、0.1〜20mg/mLのヒアルロン酸
、又は0.1〜20mg/mLのGAG、1〜3000KIU/mLのアプロチニンを単
独又は複合的に混合して使用する。
【0043】
前記コラーゲン、ヒアルロン酸、GAG、アプロチニンは、宿主内に存在する物質であ
り、限定された濃度以上に含まれても、細胞に及ぼす影響において大差はないが、硬化時
間が増加して手術時間が遅延する結果をもたらすようになる。
【0044】
また、前記アプロチニンは、生体内においてフィブリンの分解を抑制して止血作用を助
ける物質であり、多く添加するほど、フィブリンの分解速度が遅くなるので、濃度を調節
すると、マトリックスの分解速度を調節することができる。
【0045】
一般に、脊椎動物の軟骨は、軟骨細胞と基質からなり、基質の多くは、コラーゲンとヒ
アルロン酸を含むGAGからなり、血管が存在せず、滑液から栄養分を供給される。
【0046】
また、滑液の主成分は、ヒアルロン酸であり、このような成分を混合使用したとき、優
れた軟骨再生能力を示すものである。
【0047】
また、本発明に係る軟骨治療剤には、準備された0.01〜50IU/mLのトロンビ
ンが混合され、軟骨細胞成分とフィブリノゲンマトリックスを混合するとき、トロンビン
がフィブリノゲンをフィブリンに変化させる。
【0048】
この際、前記軟骨治療剤の混合物に投入されるトロンビンの濃度に応じて、軟骨治療剤
の硬化速度を調節することができ、フィブリンマトリックスの物性も調節が可能である。
【0049】
しかも、前記トロンビンが低濃度であるときは、マトリックスが太い繊維質からなり、
細孔のサイズが大きくなって、細胞と生理活性物質を含んで有利であるが、硬化時間が遅
延して、所期の目的を達成し難くなる。
【0050】
また、前記トロンビンが高濃度であるときは、マトリックスが薄い繊維質からなり、細
孔のサイズが小さくなって、細胞の浸透を遮断するとともに、内部成長を容易にするが、
硬化時間が早くなり、組成物を混合するうちに硬化することがあり、作業性が極めて低下
する。
【0051】
このため、前記トロンビンの濃度は、0.01〜50IU/mLが好ましく、このよう
に投入されるトロンビンは、1〜10分間で硬化し、本発明のマトリックスに混合すると
きは、低濃度のトロンビンを、組成物の投入前後には、高濃度のトロンビンを用いること
が好ましい。
【0052】
これにより、軟骨組織の再生に適合した程度の機械的強度及び柔軟性を有するようにな
る。
【0053】
また、軟骨損傷部位に現れ得る様々な立体構造に合わせて、その形態を容易に変形させ
ることができるので、手術の便宜を図るとともに、移植後も、一定の形態を維持しながら
損傷部位に持続的に位置して、一緒に移植された軟骨細胞の体内増殖及び分化を促進する
ことができる。
【0054】
また、本発明において、軟骨細胞移植用組成物が移植される欠損部位は、先ず、軟骨治
療剤を移植すべき軟骨欠損部位をきれいにし、患部の大きさに応じて、移植部位の内部に
、直径2〜3mm、深さが約3〜5mmの孔を0〜5個開けて止血した後、患部の表面に
100〜1000IU/mLの高濃度のトロンビンを振り撒き、軟骨治療剤の接着力を高
くする。
【0055】
この際、前記トロンビンは、軟骨治療剤を、移植すべき軟骨欠損部位と軟骨治療剤が密
接に結合して、軟骨再生の密度を高くするとともに、外部からの衝撃にも耐えるようにす
る役割をする。
【0056】
また、軟骨治療剤組成物を動物やヒトの軟骨欠損部位に注入する。
【0057】
この際、前記軟骨治療剤組成物の注入は、軟骨欠損部位の穿孔部位からゆっくり注入し
、残りの欠損部位を全て充填する順による。
【0058】
また、フィブリノゲンがトロンビンと結合してフィブリンとなる時間は、濃度によって
異なるので、適正時間である約1〜10分内に欠損部位に軟骨治療剤を注入するようにす
る。
【0059】
また、前記欠損部位の軟骨治療剤組成物の移植時は、100〜1000IU/mLの高
濃度のトロンビンを、移植された軟骨細胞成分−トロンビン−フィブリノゲンからなる軟
骨治療剤組成物上に振り撒き、生着と形態維持を助け、これにより、保護膜が形成され、
軟骨が再生される間、軟骨治療剤を保護する。
【0060】
また、前記トロンビンの働きにより、フィブリノゲンがフィブリンに転換しながら、完
全に固まるように、約5分間施術部位を放置する。
[実験例1]
【0061】
軟骨治療剤の移植に用いられる各種のマトリックスの適切な物理的・化学的特性を測定
するために、先ず、市販されている凍結乾燥状態のトロンビンを、2〜10IU/mLの
濃度となるように溶解させる。
【0062】
この際、2〜10IU/mL濃度のトロンビンは、主に用いられるマトリックスである
フィブリノゲンをフィブリンに変形させるために加えるものである。
【0063】
その他に加えられる、コラーゲンは0.01〜20mg/mL、ヒアルロン酸は0.1
〜20mg/mL、GAGは0.1〜20mg/mLの濃度となるように、それぞれのマ
トリックスを準備する。
【0064】
このように準備されたそれぞれのマトリックスを混合して形成される組成物の硬度、強
度、及び曲げ強さを測定した。
【0065】
先ず、20〜200mg/mL濃度のフィブリノゲン1mLと、2〜10IU/mL濃
度のトロンビン1mLとを混合し、それぞれの組成物の硬度、強度を測定した。
【0066】
また、実際の軟骨治療剤と上記した濃度のマトリックスとを混合して形成される組成物
の強度を測定した。
【0067】
その結果、図1に示すように、様々な臨床実験を通じて、軟骨細胞成分−トロンビン−
フィブリノゲン混合物からなる軟骨治療剤組成物を移植するとき、適切な強度は、約16
0〜170g/cmであって、前記測定結果によって、トロンビン2IU/mLであり
、フィブリノゲン20mg/mLであるとき、組成物の強度は166g/cmであり、
トロンビン4IU/mLであり、フィブリノゲンがそれぞれ160、200mg/mLで
あるとき、組成物の強度はそれぞれ170、165g/cmであり、トロンビン8IU
/mLであり、フィブリノゲンがそれぞれ160、200mg/mLであるとき、組成物
の強度はそれぞれ170、166g/cmであり、トロンビン10IU/mLであり、
フィブリノゲンがそれぞれ160、200mg/mLであるとき、組成物の強度はそれぞ
れ171、169g/cmであるという測定値を得た。その結果として、図2に示すよ
うに、移植のためのフィブリノゲンとトロンビンの好適な濃度が得られた。
【0068】
組成物のフイブリノゲン濃度に関しての物性の差は、図2の写真に示されるような性状
を示した(左から右へA:200mg/mL、B:160mg/mL、C:20mg/m
L)。
【0069】
また、ヒアルロン酸、コラーゲン、GAGを加えた軟骨細胞成分−トロンビン−フィブ
リノゲンからなる軟骨治療剤組成物の強度測定結果は、前記適切なフィブリノゲンとトロ
ンビンの濃度に各マトリックス、すなわち、コラーゲン、ヒアルロン酸、GAGを混合し
、それぞれ硬さを測定したとき、前記測定結果よりも約1〜6g/cmの強度が減少し
、約154〜159g/cmの強度測定値が得られた。
【0070】
このような強度の減少は、コラーゲン、ヒアルロン酸、GAGのマトリックス成分量を
調節し、又は混合して用いることにより調節可能である。
【0071】
また、患者の特性によりマトリックスの構成が異なるので、上述したフィブリノゲンと
トロンビンの濃度に、コラーゲン、ヒアルロン酸、GAGのマトリックス成分を混合使用
する。
【0072】
さらには、年取った患者の場合は、コラーゲンやヒアルロン酸を加えるのに対して、酷
い外傷や交通事故による若い患者の場合は、GAGやヒアルロン酸を混合使用する組成物
を用いれば、軟骨生成に効果が得られた。
[実験例2]
【0073】
上記したように投入されたフィブリノゲンとトロンビンが軟骨治療剤として用いるのに
適合した強度である160〜170g/cm程度の強度を示すのに所要される重合時間
(秒)は、表1のとおりである。
【0074】
【表1】

【0075】
すなわち、低濃度のトロンビンでは、遅い重合時間が観察され、約5μm以上の細孔サ
イズを有する薄い繊維質構造を形成し、高濃度のトロンビンでは、早い重合時間が観察さ
れ、1μm以下の小さい細孔サイズの構造を形成するようになる。
【0076】
また、前記トロンビンとフィブリノゲンからなる組成物は、軟骨治療剤として使用可能
な強度である150〜180g/cm程度の強度を維持する時間が2〜7分程度である
ことが分かる。
【実施例1】
【0077】
<関節鏡により軟骨治療剤組成物を注入した場合>
先ず、宿主である動物やヒトから軟骨組織を採取し、組織から細胞を分離した後、培養
して0.3〜0.5mLのDMEM培養液に900万〜1500万個以上の軟骨細胞から
なる軟骨治療剤を調製した。
【0078】
また、医薬品として市販されるフィブリンシーラントを準備した後、凍結乾燥状態のフ
ィブリノゲンの濃度が100〜200mg/mLとなるように、バイアルにDMEM培養
液を入れて溶解させた。
【0079】
また、凍結乾燥状態のトロンビンは、500IU/mLの濃度に溶解させた後、トロン
ビン溶液を軟骨治療剤に1〜10IU/mLの濃度になるように入れた。
【0080】
以上の過程を終えた後、患者の膝を関節鏡を用いて軟骨欠損部位をきれいにして、移植
する準備をした。
【0081】
また、軟骨損傷部位を手術道具を用いてきれいにした後、損傷部位内に手術用ドリルを
用いて、直径3mm、深さ5mmの孔を、欠損部位の大きさに応じて3〜5個を開けた。
【0082】
その後、軟骨と骨の小塊を除去してから止血をし、移植準備を終えた。
【0083】
移植準備を終えた後、軟骨細胞成分と、トロンビン、フィブリノゲンが少なくとも含ま
れるフィブリノゲンマトリックスとを混合して軟骨治療剤を準備した。
【0084】
この際、フィブリノゲンは、トロンビンと反応してフィブリンとなった後、凝固するの
で、5分以内に移植部位に移植しなければならない。
【0085】
続けて、患者の軟骨治療剤組成物の移植部位に予め準備した500IU/mLのトロン
ビン溶液をスプレーチップを用いて振り撒いた後、ガーゼで拭い取った。
【0086】
次いで、軟骨細胞成分と、トロンビン、フィブリノゲンの混合物からなる軟骨治療剤組
成物を、注射器を用いて、予め患部に開けた孔からゆっくり注入した後、全体を注入した

【0087】
また、前記組成物を注入するときは迅速でなければならず、泡が立たないようにし、注
入が終わった途端に500IU/mLの高濃度のトロンビン溶液をスプレーチップで均一
に振り撒く。
【実施例2】
【0088】
<関節鏡下で軟骨細胞成分、トロンビン、フィブリノゲンの混合物からなる組成物にコラ
ーゲンを加えた軟骨治療剤を移植する場合>
上述したように、軟骨細胞成分と、トロンビン、フィブリノゲンとを準備した。
【0089】
また、関節の弾力が不足した患者の場合、弾力性を補強し、軟骨再生に効果を挙げるた
めに、コラーゲンを混合したフィブリノゲンマトリックスを用いて移植することができる

【0090】
前記フィブリノゲンマトリックスは、フィブリノゲンとこれに加えられるコラーゲン、
ヒアルロン酸、GAGからなり、フィブリノゲンとコラーゲンを複合使用するとき、患者
によって異なるが、50歳前後の男性の場合、フィブリノゲンマトリックス濃度の1/1
0〜1/5程度を単独又は混合して用いた。
【0091】
例えば、52歳の男性患者に移植すべきマトリックスの構成は、80〜160mg/m
Lのフィブリノゲン、10〜20mg/mLのコラーゲンの濃度を製造し、フィブリノゲ
ン0.3mLとコラーゲン0.1mLを混合して、移植すべきフィブリノゲンマトリック
スを準備した。
【0092】
また、実施例1と同様に、患部に関節鏡を投入するための孔を開けて関節鏡を入れ、移
植部位をきれいにし、患部に直径3mm、深さ5mmの孔を約4個(患者の病変の大きさ
は約4cm)開けて移植する準備をした。
【0093】
続けて、軟骨細胞成分に1〜10IU/mL濃度のトロンビンを入れた後、軟骨細胞成
分とコラーゲンが混合されたフィブリノゲンマトリックスを混合した軟骨治療剤組成物を
欠損部位に充填した。
【0094】
以降の過程は、実施例1と同様である。
【0095】
この際、前記フィブリノゲンに他の混合物を加えて形成されるフィブリノゲンマトリッ
クスを移植する場合は、患者の状態と年齢により、フィブリノゲンに加えられる混合物が
異なり、患者が年を取れば取るほど、コラーゲンとヒアルロン酸のようなマトリックス成
分を軟骨治療剤と混合して用いることができる。
【0096】
このようにフィブリノゲンマトリックスから軟骨細胞が分化したパターンが図7に示さ
れており、10Vol.%のコラーゲンと10Vol.%のヒアルロン酸が含まれたフィブリノゲ
ンマトリックスでの軟骨細胞の分化パターンが図8に示されている。
【実施例3】
【0097】
<骨膜を用いて軟骨治療剤組成物を注入した場合>
先ず、患者から軟骨細胞を採取して組織から細胞を分離した後、培養して約1200万
個以上の軟骨細胞と、0.4mLのDMEM培養液からなる軟骨治療剤を調製した。
【0098】
次に、医薬品として市販されているフィブリンシーラントを準備した後、凍結乾燥状態
のフィブリノゲンバイアルに、DMEM培養液を入れて、フィブリノゲンの濃度を50〜
80mg/mLの濃度に溶解させた。
【0099】
また、凍結乾燥状態のトロンビンバイアルに、DMEM培養液を加えて500IU/m
Lの濃度に溶解させた。
【0100】
また、軟骨治療剤組成物を移植すべき部位を手術道具を用いて、滑らかにした。
【0101】
以上の過程を終えた後、患者の膝から骨膜を採取した後、移植部位に注意して縫合した

【0102】
縫合後、縫合した骨膜の消失があるかを、シーラントを塗って確認した。
【0103】
次いで、予め製造した軟骨細胞成分に溶解されたトロンビン溶液を1〜10IU/mL
程度の濃度となるように加えた後、よく混ぜた。
【0104】
また、トロンビンが混合された0.4mLの軟骨細胞成分と0.4mLのフィブリノゲ
ン溶液をよく混合して、移植用組成物を形成し、前記組成物を、注射器を用いて図5のよ
うに患部の骨膜内に注入した。
【0105】
この際、前記フィブリノゲンは、トロンビンと反応してフィブリンとなった後、凝固が
起こるので、迅速に進行しなければならない。
【実施例4】
【0106】
<フィブリノゲンに、ヒアルロン酸及びGAGを加えたフィブリノゲンマトリックスとト
ロンビンを加えた細胞成分の混合物からなる組成物を注入した場合>
交通事故に逢って軟骨に損傷を受けた27歳男性の軟骨組織の一部を採取して培養し、
約3×10cells/mLの軟骨細胞を準備した。
【0107】
フィブリノゲンマトリックスの構成としては、フィブリノゲン50〜100mg/mL
の濃度、10mg/mLのヒアルロン酸、5〜10mg/mLのGAGを準備する。
【0108】
交通事故による軟骨損傷により、患者の病変の大きさが4〜8cmであるので、50
〜100mg/mLのフィブリノゲン0.5mL、10mg/mLのヒアルロン酸0.2
mL、5〜10mg/mLのGAG0.2mLを混合した。
【0109】
軟骨治療剤を移植すべき部位をきれいにし、損傷部位の大きさにより、直径3mm、深
さ5mmの孔を2〜5個程度開けた。
【0110】
また、5IU/mLのトロンビンが混合された軟骨細胞成分と、三つの成分が混合され
たフィブリノゲンマトリックスを準備した。
【0111】
続けて、500IU/mLの高濃度トロンビンを、スプレーチップを用いて移植すべき
部位に均一に噴射させた後、軟骨細胞成分0.9mLと、三つの成分が混合されたフィブ
リノゲンマトリックスとを混合した。
【0112】
混合された軟骨細胞成分−フィブリノゲンマトリックス(ヒアルロン酸+GAG)から
なる組成物を移植部位の孔からゆっくり充填した。
【0113】
移植した部位に500IU/mLの高濃度トロンビンをさらに振り撒いた後、約5分間
放置し、硬化が完了すると、移植を終えた。
【0114】
この際、患者が若い場合、軟骨組織の弾力性はよいが、外傷による軟骨部位の滑らかさ
が不足するので、このような点を補完するために、ヒアルロン酸やGAGを用いて、不足
した面は補完し、軟骨再生が容易に行われるようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
このような本発明によると、軟骨治療剤の漏れを防止し、形態を維持するので、手術過
程が簡便であり、生体内基質成分と一緒に移植することにより、より優れた軟骨生成能を
維持することができるという効果がある。
【0116】
また、骨膜の縫合をしない場合、手術時間を短縮することができ、関節鏡を用いて手術
することができるので、手術過程が簡便であり、生体内基質成分と一緒に移植することに
より、より優れた軟骨生成能を維持し、膝切開が不要になるという効果がある。
【0117】
以上、特定の実施例について図示して説明したが、以下の特許請求の範囲により提供さ
れる本発明の精神や分野を逸脱しない限り、本発明が様々に改良及び変化され得ることは
、当業界において通常の知識を有する者であれば、容易に理解されることは言うまでもな
い。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】図1は、本発明に係る軟骨細胞移植用マトリックスにおいて、フィブリノゲンとトロンビンの投入濃度による強度を測定したグラフである。
【図2】図2は、図1により、マトリックスにおいて、フィブリノゲンを、A:200mg/mL、B:160mg/mL、C:20mg/mLで投入したときのマトリックス写真(図面代用)である。
【図3】図3は、本発明によるマトリックスが移植される軟骨欠損部位をきれいにした様子を示す写真(図面代用)である。
【図4】図4は、本発明によるマトリックスを移植部位に移植した様子を示す写真(図面代用)である。
【図5】図5は、本発明の他の実施例による骨膜縫合後、軟骨治療剤組成物の注入状態を示す写真(図面代用)である。
【図6】図6は、本発明の他の実施例により、欠損部位に接合孔を予め形成した後、軟骨治療剤組成物を注入した様子を示す写真(図面代用)である。
【図7】図7は、本発明によるフィブリンマトリックスにおける軟骨細胞分化パターンを示す写真(図面代用)である。
【図8】図8は、本発明の他の実施例により、10Vol.%のコラーゲンと10Vol.%のヒアルロン酸が含まれたフィブリノゲンマトリックスにおいて、軟骨細胞の分化パターンを示す写真(図面代用)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主から分離されて増殖又は分化された軟骨細胞成分と、トロンビン及びフィブリノゲン
を含むフィブリノゲンマトリックスとの混合物からなる軟骨治療剤組成物。
【請求項2】
前記細胞成分が、宿主から分離された正常軟骨組織を、酵素を用いて細胞に分離した後、
培養液を添加し、100万個/mL以上の軟骨細胞を含有するものからなる請求項1に記
載の軟骨治療剤組成物。
【請求項3】
前記トロンビンが、0.01〜50IU/mLのトロンビンが用いられることを特徴とす
る請求項1に記載の軟骨治療剤組成物。
【請求項4】
前記フィブリノゲンマトリックスが、20〜200mg/mLの濃度に加えられるフィブ
リノゲンが用いられることを特徴とする請求項1に記載の軟骨治療剤組成物。
【請求項5】
前記フィブリノゲンマトリックスが、ペニシリンG、ストレプトマイシン等の抗生剤、及
びカナマイシン、アンフォテリシンB、ナイスタチン、ゲンタマイシン等の抗真菌剤等か
ら選ばれるいずれか一つ以上が加えられることを特徴とする請求項1又は4に記載の軟骨
治療剤組成物。
【請求項6】
前記フィブリノゲンマトリックスが、0.01〜20mg/mLコラーゲン、0.1〜2
0mg/mLヒアルロン酸及び0.1〜20mg/mLGAG、1〜300KIU/mL
アプロチニン等から選ばれるいずれか一つ以上がさらに加えられることを特徴とする請求
項1又は4に記載の軟骨治療剤組成物。
【請求項7】
宿主の軟骨から分離されて増殖又は分化された軟骨細胞成分を準備するステップと、
トロンビンを準備するステップと、
フィブリノゲンマトリックスを準備するステップと、
軟骨の欠損部位を処理するステップと、
欠損部位に、軟骨細胞成分と、トロンビンとフィブリノゲンマトリックスを混合した軟
骨治療剤組成物を注入するステップとを含む軟骨治療剤組成物の使用方法。
【請求項8】
軟骨の欠損部位を処理するステップが、欠損部位に所定の直径と深さを有する複数の接合
孔が軟骨欠損部位と一体に形成されることを特徴とする請求項7に記載の軟骨治療剤組成
物の使用方法。
【請求項9】
前記欠損部位に、軟骨細胞成分、トロンビンとフィブリノゲンを混合して注入するステッ
プが、その前後のステップに、100〜1000IU/mLであるトロンビン溶液を、接
合孔を含む軟骨欠損部位に噴射するステップが追加されることを特徴とする請求項7又は
8に記載の軟骨治療剤組成物の使用方法。
【請求項10】
前記フィブリノゲンマトリックスが、0.01〜20mg/mLコラーゲン、0.1〜2
0mg/mLヒアルロン酸及び0.1〜20mg/mLGAG、1〜300KIU/mL
アプロチニン等から選ばれるいずれか一つ以上がさらに加えられることを特徴とする請求
項7に記載の軟骨治療剤組成物の使用方法。
【請求項11】
宿主の軟骨から分離されて増殖又は分化された軟骨細胞成分を準備するステップと、
トロンビンを準備するステップと、
フィブリノゲンマトリックスを準備するステップと、
軟骨の欠損部位を処理するステップと、
骨膜を採取するステップと、
骨膜を欠損部位に縫合するステップと、
骨膜の内側の欠損部位に、軟骨細胞成分、トロンビンとフィブリノゲンマトリックスを混
合した軟骨治療剤組成物を注入するステップとを含む軟骨治療剤組成物の使用方法。
【請求項12】
前記フィブリノゲンマトリックスが、0.01〜20mg/mLコラーゲン、0.1〜2
0mg/mLヒアルロン酸及び0.1〜20mg/mLGAG、1〜3000KIU/m
Lアプロチニン等から選ばれるいずれか一つ以上がさらに加えられることを特徴とする請
求項11に記載の軟骨治療剤組成物の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−513730(P2007−513730A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545227(P2006−545227)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003204
【国際公開番号】WO2005/060987
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506204243)セウォン セロンテック カンパニー リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】SEWON CELLONTECH CO.,LTD.
【Fターム(参考)】