説明

転がり軸受のシール部材及び転がり軸受

【課題】 軸受の負荷容量を低下させることなく、シール部材のシールリップが摺接する内輪軌道面の軸方向の許容移動寸法を大きく取ることができる連続鋳造設備用の円筒ころ軸受を提供する。
【解決手段】 外輪11と内輪12との間に複数の円筒ころ13が周方向に転動可能に配設されるとともに、外輪11の軸方向端部にシール部材20が装着され、且つ連続鋳造設備のロールの回転支持部に用いられる円筒ころ軸受10であって、シール部材20のシールリップ22を、該シール部材20の装着位置に対して、内輪12の軸方向端面から離間する側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、連続鋳造設備におけるスラブ搬送用杵型ロールの回転支持部に用いられる円筒ころ軸受等の転がり軸受に装着されるシール部材及び該シール部材を備えた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の転がり軸受としては、例えば、図4に示す連続鋳造設備用の円筒ころ軸受が知られている。
この円筒ころ軸受は、連続鋳造設備におけるスラブ搬送用杵型ロールの自由端側を回転可能に支持するためのものであり、外輪(軌道輪)1と内輪(軌道輪)2との間に転動体としての複数の円筒ころ3が周方向に転動可能に配設され、外輪1の外周面に形成された凸球面部1aに、内周面に凸球面部1aに対応する凹球面部4aを有する調芯輪4が外嵌されて、調芯機能が付与されている。
外輪1の軸方向の両端部内周面には、それぞれシール装着溝5が形成されており、該シール装着溝5には、シール部材6の外径部が装着され、該シール部材6の内径側のシールリップ6aは、軸受回転時に内輪2の外周面(軌道面)に摺接するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の円筒ころ軸受においては、一般に、シール部材6の外径側装着部の軸方向幅内にシール部材6全体が配置されており、内径側のシールリップ6aはシール部材6の軸方向外側を向く端面と略同一位置に配置されている。
ところで、連続鋳造設備に用いられる円筒ころ軸受では、スラブの熱によるロールの軸方向への伸縮により、内輪2に対して、軸方向に移動可能な軌道面の軸方向寸法である許容移動寸法Hを設定しておくことが必要である。この許容移動寸法Hとは、シール部材6のシールリップ6a位置から内輪2の軌道面と軸方向端面との間の面取り部2aまでの寸法である。
【0004】
しかしながら、上記従来の円筒ころ軸受においては、シール部材6の内径側のシールリップ6aが、該シール部材6の軸方向外側を向く端面と略同一位置に配置されているため、前記許容移動寸法Hを大きく取るには、内輪2の軸方向長さを長くするか、円筒ころ3の軸方向長さを短くせざるを得ない。
この場合、内輪2の軸方向長さを長くすると、軸受幅寸法が長くなって、軸受ひいては設備の大型化を招く原因になり、円筒ころ3の軸方向長さを短くすると、軸受の負荷容量が低下してしまうという問題が生じる。
【0005】
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、軸受の負荷容量を低下させることなく、シール部材のシールリップが配置される側の軌道輪の軸方向の許容移動寸法を大きく取ることができる転がり軸受のシール部材及び転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、転がり軸受の一対の軌道輪うちの一方の軌道輪の軸方向端部に装着されたシール部材であって、
装着位置に対して、前記一対の軌道輪のうちの他方の軌道輪の軸方向端面から離間する側にシールリップを配置したことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、一対の軌道輪間に複数の転動体が周方向に転動可能に配設され、前記一対の軌道輪うちの一方の軌道輪の軸方向端部にシール部材が装着された転がり軸受であって、
前記シール部材のシールリップを、該シール部材の装着位置に対して、前記一対の軌道輪のうちの他方の軌道輪の軸方向端面から離間する側に配置したことを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記転動体が、ころであることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項2又は3において、調芯機能を備えたことを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項2〜4のいずれか一項において、連続鋳造設備のロールの回転支持部に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一対の軌道輪のうちの一方の軌道輪の軸方向端部に装着されたシール部材のシールリップを、該シール部材の装着位置に対して、他方の軌道輪の軸方向端面から離間する側に配置しているので、転動体の軸方向寸法を短くすることなく、シールリップの位置と他方の軌道輪の軸方向端面との寸法を長くすることができる。これにより、軸受の負荷容量を低下させることなく、シール部材のシールリップが配置される側の軌道輪である他方の軌道輪の軸方向の許容移動寸法を大きく取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の一例である円筒ころ軸受を説明するための要部断面図、図2及び図3は本発明の他の実施の形態である円筒ころ軸受を説明するための要部断面図である。なお、この実施の形態では、転がり軸受として、連続鋳造設備におけるスラブ搬送用杵型ロールの自由端側を回転可能に支持する円筒ころ軸受を例に採る。
【0010】
本発明の実施の形態の一例である円筒ころ軸受10は、外輪(軌道輪)11の軌道面111aと内輪(軌道輪)12の軌道面12aとの間に転動体としての複数の円筒ころ13が周方向に転動可能に配設されており、外輪11の軌道面11aの軸方向の両端側には、それぞれ鍔部14が設けられている。
また、外輪11の外周面には、調芯座としての凸球面部15が形成されており、この凸球面部15に、内周面に該凸球面部15に対応する凹球面部16を有する調芯輪17が外嵌されて、調芯機能が付与されている。この調芯機能により、ロールの撓み等による軸心ずれを吸収することができる。
【0011】
外輪11の両鍔部14の軸方向の外側内周面には、それぞれシール装着溝18が形成されており、該シール装着溝18には、シール部材20の外径部が装着されている。
シール部材20は、例えば、芯金にゴム等の弾性材が一体に成形されたものであり、弾性材の内径側にシールリップ22が設けられ、該シールリップ22が、軸受回転時に内輪12の軌道面12aに摺接するようになっている。また、内輪12の軌道面12aと軸方向端面との間には、面取り部23が形成されている。
【0012】
ここで、この実施の形態では、シール部材20の内径側のシールリップ22を、該シール部材20の軸方向外側を向く端面より軸方向内側、即ち、内輪12の軸方向端面から離間する側に配置している。これにより、円筒ころ13の軸方向長さを短くすることなく、シールリップ22の位置から内輪12の軌道面12aの面取り部23までの寸法を長くすることができる。
【0013】
このように、この実施の形態では、シール部材20の内径側のシールリップ22を、該シール部材20の軸方向外側を向く端面より軸方向内側に配置しているので、円筒ころ13の軸方向長さを短くすることなく、シールリップ22の位置から内輪12の軌道面12aの面取り部23までの寸法を長くすることができ、この結果、軸受の負荷容量を低下させることなく、内輪12の軌道面12aの軸方向の許容移動寸法Hを大きく取ることができる。
【0014】
また、許容移動寸法Hを従来より大きく取る必要がない場合は、その分、軸受幅寸法を短くすることができるので、軸受のコンパクト化を図ることができる。
なお、本発明の一対の軌道輪、シール部材、シールリップ及び転動体等の構成は上記実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0015】
例えば、上記実施の形態では、軸受の軸方向中心位置に対して、軸方向の両方向の移動に対応するために、外輪11の軸方向の両端部にそれぞれシール部材20を装着した場合を例示したが、これに限定されず、軸方向の一方向(図2の左方向)だけの許容移動寸法Hを要求(構造上の要求)された場合には、図2に示すように、外輪11の軸方向の一端部(図2の右端部)のみにシール部材20を装着するようにしてもよい。この場合、円筒ころ13は、左端側の鍔部14の必要な軸方向幅を確保しつつ、軸受の軸方向中心位置より左端側にオフセットして配置されている。
【0016】
また、上記実施の形態では、外輪11と内輪12との軸方向寸法を略同一とした場合を例示したが、前記許容移動寸法Hが不足する場合には、図3に示すように、外輪11の軸方向寸法より内輪12の軸方向寸法を長くして、該許容移動寸法Hをさらに大きく取るようにしてもよい。
さらに、上記実施の形態では、転動体として円筒ころ13を用いた円筒ころ軸受10に本発明を適用した場合を例示したが、これに代えて、転動体として針状ころを用いた針状ころ軸受に本発明を適用してもよい。
【0017】
さらに、上記実施の形態では、シール部材20の外径部を外輪11側に装着した場合を例示したが、これに代えて、シール部材の内径部を内輪側に装着して、外径側にシールリップを配置するようにしてもよい。
さらに、上記実施の形態では、連続鋳造設備に用いられる円筒ころ軸受に本発明を適用した場合を例示したが、これに代えて、例えば、中大型電動機や製紙機械等の回転支持部に用いられる円筒ころ軸受等の転がり軸受に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の一例である円筒ころ軸受を説明するための要部断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態である円筒ころ軸受を説明するための要部断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態である円筒ころ軸受を説明するための要部断面図である。
【図4】従来の円筒ころ軸受を説明するための要部断面図である。
【符号の説明】
【0019】
10 円筒ころ軸受(転がり軸受)
11 外輪(軌道輪)
12 内輪(軌道輪)
13 円筒ころ(転動体)
17 調芯輪
20 シール部材
22 シールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の一対の軌道輪うちの一方の軌道輪の軸方向端部に装着されたシール部材であって、
装着位置に対して、前記一対の軌道輪のうちの他方の軌道輪の軸方向端面から離間する側にシールリップを配置したことを特徴とする転がり軸受のシール部材。
【請求項2】
一対の軌道輪間に複数の転動体が周方向に転動可能に配設され、前記一対の軌道輪うちの一方の軌道輪の軸方向端部にシール部材が装着された転がり軸受であって、
前記シール部材のシールリップを、該シール部材の装着位置に対して、前記一対の軌道輪のうちの他方の軌道輪の軸方向端面から離間する側に配置したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
前記転動体が、ころであることを特徴とする請求項2に記載した転がり軸受。
【請求項4】
調芯機能を備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載した転がり軸受。
【請求項5】
連続鋳造設備のロールの回転支持部に用いられることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載した転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−32668(P2007−32668A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215565(P2005−215565)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】