説明

転がり軸受の潤滑装置

【課題】 潤滑油を十分に排油して攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とする転がり軸受の潤滑装置を提供する。
【解決手段】 軸方向に並べて複数の転がり軸受BRを配置し、各転がり軸受BRは、内輪1に軸方向に延びる内輪延長部6を設けると共に、外輪2に隣接し且つ内周面が内輪延長部6に対向する間座7を設け、これら内輪延長部6と間座7とにわたって軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を各転がり軸受内の軸受空間S1に供給すると共に軸受外に排出する給排油機構KUを設ける。各転がり軸受BRのうち、内輪延長部6とは軸方向逆側の内外輪の端面に対し、隣接して配置した転がり軸受BRにおける間座7の端面に、前記隣接する転がり軸受内の軸受空間S1に連通して同軸受内の潤滑油を排出する油溝12を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸を回転自在に支持する転がり軸受の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の冷却と、軸受に対する潤滑油の給排油を行う機構を有する潤滑装置が提案されている(特許文献1)。この潤滑装置では、図9(A)に示すように、内輪端面に接する内輪間座50を設け、外輪端面に接する潤滑油導入部材51を設けている。内輪52のうち前記内輪端面から内輪軌道面に繋がる斜面に円周溝53を設けると共に、前記潤滑油導入部材51にノズル54を設け、このノズル54から前記円周溝53内に軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を吐出するようになっている。同図(A)において、矢印は潤滑油の流れを示す。潤滑油導入部材51に導入された潤滑油を円周溝53内に吐出することで、内輪52を冷却する。潤滑油導入部材51から軸受内に延びる被さり部55と前記斜面との間の隙間から、円周溝53の一部の潤滑油を軸受内に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−240946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9(A)の軸受を立軸に使用する場合、図9(B)に示すように、潤滑油が滞留する高さAよりも排油口の高さBの方が高い。このため、排油を十分に行えない。このとき、排油されない多量の潤滑油が軸受内に浸入する。すると、攪拌抵抗が増加し、軸受内部の温度が上昇して、高速運転が困難な場合がある。
また軸受内に少量の潤滑油を流入させても、流入した潤滑油の排出効率が悪いと、軸受内で潤滑油が飽和し、軸受内に一定量の潤滑油の滞留が発生する。この滞留油が転動体に接触すると、攪拌抵抗が大きくなり、動力損失、昇温の原因となる。
【0005】
図10は、軸受内に潤滑油が滞留するイメージを概略示す断面図であり、図11は、同軸受の外輪間座の平面図である。本件出願人は、図10に示すように、軸方向に並べて複数の転がり軸受を配置し、各転がり軸受は、内輪に軸方向に延びる内輪延長部56を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が内輪延長部56に対向する間座57を設け、これら内輪延長部56と間座57とにわたって給排油機構を設けた転がり軸受の潤滑装置を提案している。前記給排油機構は、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を、各転がり軸受内の軸受空間に供給すると共に軸受外に排出する機構である。
【0006】
軸受内に侵入した潤滑油が滞留する箇所(1),(2)と要因を以下に示す。
(1) 転動体上部
軸受の高速回転時には、潤滑油に対し、転動体58、保持器59が壁となり、排出の抵抗となる。よって、図10の(1)にて表記する転動体上部に潤滑油が滞留する。
(2) 外輪間座上部
・軸受の外輪間座57に径方向に貫通して設けた、潤滑油の排出口57aの断面積が小さく、同図の(2)にて表記する軸受下部に一定量の潤滑油が滞留する。滞留した潤滑油の液面が保持器59、転動体58に干渉すると、軸受内部の攪拌抵抗が増加し、昇温の原因となる。
・排出口57aと、外輪間座57の上部における油受け面の高さが同じであるため、自然排油では排出口57aに潤滑油が流れにくい
・軸受空間を通った潤滑油は、外輪間座57の上面に落ち、図11矢符にて示す回転方向に流れる。同図11に示すように、潤滑油の排出口57aは、外輪間座端面の円周方向の一部に径方向に沿って切欠き形成されている。この排出口57aは、前記回転方向に対し垂直に設けられているため、潤滑油の回収効率が悪く外輪間座上面(軸受下部)に潤滑油が滞留する。
【0007】
この発明の目的は、潤滑油を十分に排油して攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とする転がり軸受の潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の転がり軸受の潤滑装置は、軸方向に並べて複数の転がり軸受を配置し、各転がり軸受は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させ、前記内輪に軸方向に延びる内輪延長部を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が前記内輪延長部に対向する間座を設け、これら内輪延長部と間座とにわたって軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を前記各転がり軸受内の軸受空間に供給すると共に軸受外に排出する給排油機構を設け、各転がり軸受のうち、内輪延長部とは軸方向逆側の内外輪の端面に対し、隣接して配置した転がり軸受における間座の端面に、前記隣接する転がり軸受内の軸受空間に連通して同軸受内の潤滑油を排出する油溝を設けたことを特徴とする。
前記「内輪延長部」は、内輪のうち軸受としての必要な強度を満たす部分に対して、軸方向に延長された部分を指す。
【0009】
この構成によると、給排油機構により軸受内に導入された潤滑油は、軸受を冷却し軸受外に排出される。導入された潤滑油の一部は、転がり軸受内の軸受空間に供給され潤滑に供される。この転がり軸受の潤滑に供された潤滑油の一部は、前記転がり軸受に隣接して配置した転がり軸受における間座の端面の油溝に沿って流れ、軸受外に排出される。このように隣接する軸受の間座の端面に油溝を設けることで、転がり軸受内の軸受空間における、隣接する軸受との境界付近に、潤滑油が滞留することを防止し得る。したがって、潤滑油の滞留した液面が前記転がり軸受の保持器、転動体に干渉することを未然に防止し、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【0010】
前記油溝は、前記転がり軸受における、軸心および転動体中心を含む断面における、内輪延長部とは軸方向逆側の外輪内周面、転動体外周面、保持器外周面を含む仮想の円筒面、および前記間座の端面で形成される断面積よりも大きい断面積を有するものであっても良い。この場合、油溝に一定量の潤滑油が溜まり、軸受内部に潤滑油が滞留することを防ぐことができる。
【0011】
前記間座に、油溝に連通して油溝内の潤滑油を軸受外に排出する排出口を設けても良い。転がり軸受の潤滑に供された潤滑油の一部は、隣接する転がり軸受における間座の端面の油溝に沿って流れ、この油溝から排出口を通って軸受外に排出される。
前記排出口は、油溝の深さ寸法よりも大きい深さ寸法を有するものであっても良い。この場合、油溝を流れる潤滑油は、重力の作用で排出口に流れ易くなり、この排出口から潤滑油を円滑に軸受外に排出することが可能となる。
前記間座に排出口を2個以上設けても良い。この場合、潤滑油を2個以上の排出口からさらに円滑に排出し得る。
【0012】
前記各転がり軸受のうち、間座に隣接する外輪の端面における円周方向の一部に、軸受径方向に貫通する切欠きを設けても良い。軸受の高速回転時に、転動体、保持器が潤滑油を排出する際の抵抗となり得るが、前記切欠きを介して潤滑油の一部を軸受外に排出するため、軸受の高速回転時に、軸受空間における間座に隣接する転動体の片側部分に、潤滑油が滞留することを抑制することができる。これにより、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
前記外輪に切欠きを2個以上設けても良い。この場合、潤滑油の一部を2個以上の切欠きを介してさらに円滑に軸受外に排出することができる。
【0013】
前記間座に、油溝に連通して油溝内の潤滑油を軸受外に排出する排出口を設けると共に、前記間座のうち、油溝と排出口とが連通する交差部に、潤滑油の油溝に沿う流れを規制する壁部を設けても良い。軸受空間から油溝に流入した潤滑油は、軸受の回転方向に流れが生じる。油溝と排出口とが連通する交差部に壁部を設けることで、前記回転方向に流れる潤滑油の流れを規制し、潤滑油を排出口に円滑に導くことができる。
前記壁部を、間座の排出口の周方向長さの中央部に配設しても良い。軸受が逆回転する場合にも、油溝に沿って逆回転方向に流れる潤滑油を前記壁部で規制し、排出口に円滑に導くことができる。
【0014】
前記いずれかの転がり軸受の潤滑装置は、工作機械の主軸の支持に用いられるものであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
この発明の転がり軸受の潤滑装置は、軸方向に並べて複数の転がり軸受を配置し、各転がり軸受は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させ、前記内輪に軸方向に延びる内輪延長部を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が前記内輪延長部に対向する間座を設け、これら内輪延長部と間座とにわたって軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を前記各転がり軸受内の軸受空間に供給すると共に軸受外に排出する給排油機構を設け、各転がり軸受のうち、内輪延長部とは軸方向逆側の内外輪の端面に対し、隣接して配置した転がり軸受における間座の端面に、前記隣接する転がり軸受内の軸受空間に連通して同軸受内の潤滑油を排出する油溝を設けた。このため、潤滑油を十分に排油して攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置における要部の断面図である。
【図2】同転がり軸受の潤滑装置の給排油機構を示す断面図である。
【図3】同給排油機構の要部の拡大断面図である。
【図4】(A)は、同転がり軸受の潤滑装置の要部の水平断面図、(B)は、同転がり軸受の給排油機構の給油口付近を示す間座の要部の正面図、(C)は、同給排油機構の排油口付近を示す間座の要部の正面図である。
【図5】同転がり軸受の潤滑装置の間座の平面図である。
【図6】同転がり軸受の潤滑装置の油溝付近を示す拡大断面図である。
【図7】同転がり軸受の潤滑装置の要部の断面図である。
【図8】いずれかの実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置を、立型の工作機械の主軸の支持に用いた例を概略示す断面図である。
【図9】(A)は、従来例の転がり軸受の潤滑装置の給油側の断面図、(B)は同潤滑装置の排油側の断面図である。
【図10】軸受内に潤滑油が滞留するイメージを概略示す断面図である。
【図11】同軸受の外輪間座の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図7と共に説明する。この実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置は、例えば、立型の工作機械の主軸の支持に用いられる。但し、立型の工作機械の主軸用に限定されるものではなく、横型の工作機械主軸を支持する用途に用いても良い。図1に示すように、転がり軸受の潤滑装置は、軸方向に並べて複数(この例では2つ)配置される転がり軸受BRと、各転がり軸受BRにそれぞれ設けられる給排油機構KUとを含む。
【0018】
図2に示すように、各転がり軸受BRは、内外輪1,2と、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持するリング状の保持器4とを有する。この転がり軸受BRはアンギュラ玉軸受からなり、転動体3として、鋼球やセラミックス球等からなる玉が適用される。
【0019】
内輪1は、内輪本体部5と、内輪延長部6とを有する。内輪本体部5は、軸受としての必要な強度を満たすと共に、例えば、軸受の呼び番号毎に定められる主要寸法である内輪内径寸法および幅寸法に設けられる。但し、これら内輪内径寸法および幅寸法に必ずしも限定されるものではない。内輪本体部5における外周面の中央部に軌道面1aが形成されている。内輪本体部5の外周面のうち、軌道面1aに繋がりこの軌道面1aに対して接触角を成す作用線L1の偏り側に、斜面1bが形成されている。この斜面1bは、軌道面1a側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成されている。内輪本体部5の外周面のうち、軌道面1aに繋がりこの軌道面1aに対して接触角を成す作用線L1の反偏り側に、平坦な外径面1cが形成されている。この内輪本体部5の内輪背面側および内輪正面側に、内輪延長部6が軸方向一方に延びるように一体に設けられる。内輪延長部6は、内輪本体部5よりも軸方向に突出した部分であり、具体的には、例えば、外輪2の端面よりも軸方向に突出する部分である。
【0020】
外輪2の軌道面2aの軸方向両側に、外輪内径面2bと、斜面状のカウンタボア2cとがそれぞれ形成されている。前記外輪内径面2bに保持器4が案内されるように構成されている。
【0021】
給排油機構KUは、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を各転がり軸受BR内の軸受空間S1に供給すると共に軸受外に排出する機構である。転がり軸受の潤滑装置を例えば図2に示す立軸で使用する場合、各転がり軸受BRにおいて軸受空間S1よりも上部に給排油機構KUを配設する。外輪2の軸方向端に隣接して、外輪2とは別体の間座7を設け、この間座7の内周面を、内輪延長部6の外周面に対向させている。これら内輪延長部6と間座7とにわたって給排油機構KUを設けている。
【0022】
給排油機構KUは、内輪円周溝8と、給油路9と、径方向すきまδ1と、排油口10とを有する。これらのうち内周円周溝8は、内輪延長部6の外周面に設けられている。
図2左側に示すように、間座7のうち円周方向の一部に、潤滑油を内輪円周溝8へ向けて吐出する給油口11を有する給油路9が形成されている。図2および図4(B)に示すように、この給油路9は、間座7の外周面から、径方向に貫通する段付きの貫通孔状に形成されている。図3に示すように、軸受空間と内輪円周溝8とを区画する区画壁6aが内輪延長部6に設けられている。(1) 給油路9から供給された潤滑油は、(2) 給油口11から吐出されて内輪円周溝8に当たり、(3) 回転側の軌道輪である内輪1から遠心力を受けて間座7の内周面に当たる。(4) この潤滑油は、内輪延長部6の外周面と間座7の内周面との間の径方向すきまδ1から、転がり軸受内の軸受空間S1に供給される。径方向すきまδ1から軸受内に導入された潤滑油は、斜面1b等を経由して内輪軌道面1aに導かれる。
【0023】
図4(A),(C)に示すように、間座7のうち、前記給油路9とは異なる円周方向位置には、潤滑油を外部に排出する排油口10が形成されている。排油口10は、図2右側に示すように、間座7の外周面から径方向に貫通して内輪円周溝8に連通するように形成されている。図4(A)に示すように、給油路9に対し、排油口10の位相が所定の位相角度α(この例ではα=270度)となるように設けられている。
【0024】
図1に示すように、間座7の端面における径方向中間部には、環状溝から成る油溝12が設けられている。各転がり軸受BRのうち、内輪延長部6とは軸方向逆側の内外輪1,2の端面に対し、隣接して配置した転がり軸受BRにおける間座7の端面に、前記隣接する転がり軸受BR内の軸受空間S1に連通して同軸受内の潤滑油を排出する油溝12が設けられている。またこの例では、図1下側の転がり軸受BRにおける間座7だけでなく、図1上側の転がり軸受BRにおける間座7の端面にも、油溝12が設けられている。油溝12は、転がり軸受BRにおける、内輪延長部6とは軸方向逆側の外輪内周面2b、転動体外周面、保持器外周面を含む仮想の円筒面4a、および間座7の端面7aで形成される断面積よりも大きい断面積を有する。
【0025】
図5に示すように、間座7には、油溝12に連通して油溝内の潤滑油を軸受外に排出する排出口13が設けられている。この例の排出口13は、間座7の端面における円周上の一箇所について、油溝12の一部から半径方向外方に平面視矩形状に切欠き形成されて成る。図1は、図5のB−B線断面図であり、図7は、図5のA−A線断面図である。図7に示すように、排出口13は、油溝12の深さ寸法Daよりも大きい深さ寸法Dbを有し、油溝12の底面12aに段差部を介して排出口13の底面13aが繋がっている。
【0026】
図5に示すように、間座7のうち、油溝12と排出口13とが連通する交差部には、潤滑油の油溝12に沿う流れを規制する壁部14が設けられている。つまり間座7のうち、排出口13が設けられる円周上の一箇所において、前記壁部14は、油溝12を形成する一周面部12bから前記段差部または段差部付近に至る距離半径方向外方に突出するように設けられている。この壁部14を軸受軸心を含む断面で切断して見た断面積は、油溝12の断面積と略同等の断面積としている。また図7に示す、壁部14の円周方向両端における、油溝12と排出口13とが連通する交差部を、軸受軸心を含む断面で切断して見た断面積は、図6に示す油溝12の断面積よりも大きいものとしている。前記壁部14は、間座7の排出口13の周方向長さL2の中央部に配設されている。
【0027】
図7に示すように、間座7に隣接する外輪2の端面における円周方向の一部には、軸受径方向外方に貫通する切欠き2dが設けられている。この切欠き2dは、外輪2の円周方向の一部において、軌道面2aに対して接触角を成す作用線L1の反偏り側のカウンタボア2cを、転動体3のある軌道面付近(少なくとも軌道面2aの転動体3との接触楕円に干渉しない範囲)まで深く切欠き形成している。
【0028】
ラビリンス機構について説明する。
図6に示すように、内輪延長部6および間座7には、例えば、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構15を設けている。このラビリンス機構15は、給油路9および排油口10(図2)に連通し、広部と狭部とが軸方向に連なるものとしている。前記広部は、内輪延長部6における他方側肩部の外周面に設けられる円周溝16と、この円周溝16に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。前記円周溝16は、軸方向に間隔をあけて複数(この例では2つ)配設される。各円周溝16は、内輪延長部6の端面側(図6の上側)に向かうに従って小径となる、換言すると溝が深くなるように傾斜する断面形状に形成されている。前記狭部は、内輪延長部6における前記外周面の突出先端部17と、この突出先端部17に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。
【0029】
各円周溝16が前記のように傾斜する断面形状に形成されているため、給油路9から供給されてラビリンス機構15に浸入した潤滑油は、内輪回転による遠心力により円周溝16の傾斜面に沿って漏れ側とは反対方向に移動する。このようなラビリンス機構15により、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。なお、円周溝16は、3つ以上であっても良いし1つであっても良い。内輪延長部6に円周溝16を設ける構成に代えて、間座7における断面凹形状の前記他方側肩部に、円周溝を設けても良い。また内輪延長部6および間座7にそれぞれ円周溝を設けても良い。
【0030】
作用効果について説明する。
軸受運転時、間座7の給油路9から潤滑油を供給すると、内輪延長部6の外周面の内輪円周溝8に沿って潤滑油が流れる。これにより軸受を冷却する。軸受を冷却した潤滑油は、円周溝8に沿って流れ、排油口10に向かい円滑に排出される。また軸受潤滑のための潤滑油が、径方向すきまδ1を介して転がり軸受内の軸受空間S1に供給される。
この転がり軸受BRの潤滑に供された潤滑油の一部は、前記転がり軸受BRに隣接して配置した転がり軸受BRにおける間座7の端面の油溝12に沿って流れ、この油溝12から排出口13を通って軸受外に排出される。このように隣接する軸受の間座7の端面に油溝12を設けることで、転がり軸受内の軸受空間S1における、隣接する軸受との境界付近に、潤滑油が滞留することを防止し得る。したがって、潤滑油の滞留した液面が前記転がり軸受BRの保持器4、転動体3に干渉することを未然に防止し、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【0031】
油溝12は、転がり軸受BRにおける、軸心および転動体中心を含む断面における、内輪延長部6とは軸方向逆側の外輪内周面2b、転動体外周面、保持器外周面を含む仮想の円筒面4a、および前記間座7の端面7aで形成される断面積よりも大きい断面積を有するため、油溝12に一定量の潤滑油が溜まり、軸受内部に潤滑油が滞留することを防ぐことができる。
前記排出口13は、油溝12の深さ寸法Daよりも大きい深さ寸法Dbを有するため、油溝12を流れる潤滑油は、重力の作用で排出口13に流れ易くなり、この排出口13から潤滑油を円滑に軸受外に排出することが可能となる。
【0032】
軸受の高速回転時に、転動体3、保持器4が潤滑油を排出する際の抵抗となり得るが、各転がり軸受BRのうち、間座7に隣接する外輪2の端面における円周方向の一部に、軸受径方向に貫通する切欠き2dを設けたため、この切欠き2dを介して潤滑油の一部を軸受外に排出することができる。このため、軸受の高速回転時に、軸受空間S1における間座7に隣接する転動体3の片側部分に、潤滑油が滞留することを抑制することができる。これにより、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【0033】
間座7のうち、油溝12と排出口13とが連通する交差部に、潤滑油の油溝12に沿う流れを規制する壁部14を設けたため、軸受の回転方向に流れる潤滑油の流れを前記壁部14で規制し、潤滑油を排出口13に円滑に導くことができる。この壁部14を、間座7の排出口13の周方向長さL2の中央部に配設したため、軸受が図5点線矢印のように逆回転する場合にも、油溝12に沿って逆回転方向に流れる潤滑油を前記壁部14で規制し、排出口13に円滑に導くことができる。
【0034】
他の実施形態について説明する。
以下の説明において、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
間座7に排出口13を2個以上設けても良い。各排出口13は、それぞれ油溝12に連通して油溝内の潤滑油を軸受外に排出可能となっている。この場合、潤滑油を2個以上の排出口13からさらに円滑に排出し得る。
間座7に隣接する外輪2の端面における円周方向複数箇所に、それぞれ切欠き2dを設けても良い。この場合、潤滑油の一部を2個以上の切欠き2dを介してさらに円滑に軸受外に排出することができる。
アンギュラ玉軸受を背面組合せ、正面組合せ、または並列組合せのいずれの組合せにしても良い。またアンギュラ玉軸受を3列以上の組合せにしても良い。
【0035】
図10は、いずれかの実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置を、工作機械の主軸の支持に用いた例を概略示す断面図である。この例では、並列組合せした2列のアンギュラ玉軸受同士を、互いに背面組み合わせとした4列(いわゆるDTBT組合せ)のアンギュラ玉軸受を軸方向に並べてハウジングHsに設置し、これらの軸受により主軸Shを回転自在に支持する。この組合せアンギュラ玉軸受では、2列または3列のアンギュラ玉軸受を組み合わせた構成よりも、ラジアル剛性およびアキシアル剛性を大きくし且つ高速運転可能に構成される。これらの内外輪1,2は内輪押え18および外輪押え19等により主軸ShおよびハウジングHsにそれぞれ固定されている。
【0036】
ハウジングHsには、潤滑油を給排油機構KUに供給する給油経路20と、軸受を冷却した潤滑油である冷却油を排出する冷却油経路21と、軸受内で潤滑に供された潤滑油を排出する排油経路(図示せず)とが設けられている。給油経路20は、各給油路9に繋がると共にハウジングHs外に設置される給油ポンプ22に配管接続されている。この給油ポンプ22を用いて、潤滑油を給油源から給油経路20を介して各給油路9に強制的に圧送し得る。
冷却油経路21は、各排油口10に繋がると共にハウジングHs外に設置される排油ポンプ23に配管接続されている。軸受を冷却した潤滑油は、排油ポンプ23を用いて、排油経路21を介してハウジングHs外に排出し得る。
【0037】
前記排油経路は、各排出口13および各切欠き2dに繋がり、軸受内で潤滑に供された潤滑油を重力および内輪回転による遠心力によりハウジングHs外に排出する。このように軸受内で潤滑に供された潤滑油をポンプ等を用いることなく、重力および遠心力により排出することができるため、軸受内部に過度の潤滑油が流入することがなくなる。
【0038】
以上説明した構成によると、いずれかの実施形態に係る転がり軸受の潤滑装置を、工作機械の主軸Shの支持に用いた場合、各間座7の端面にそれぞれ油溝12を設けたため、転がり軸受内の軸受空間S1における、隣接する軸受との境界付近に、潤滑油が滞留することを防止し得る。また、間座7に隣接する外輪2の端面における円周方向の一部に、軸受径方向に貫通する切欠き2dを設けたため、この切欠き2dを介して潤滑油の一部を軸受外に排出することができる。このため、軸受の高速回転時に、軸受空間S1における間座7に隣接する転動体3の片側部分に、潤滑油が滞留することを抑制することができる。したがって、軸受内部の攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…内輪
2…外輪
1a,2a…軌道面
2d…切欠き
3…転動体
4…保持器
6…内輪延長部
7…間座
12…油溝
13…排出口
14…壁部
BR…転がり軸受
KU…給排油機構
Sh…主軸
S1…軸受空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並べて複数の転がり軸受を配置し、各転がり軸受は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させ、前記内輪に軸方向に延びる内輪延長部を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が前記内輪延長部に対向する間座を設け、これら内輪延長部と間座とにわたって軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を前記各転がり軸受内の軸受空間に供給すると共に軸受外に排出する給排油機構を設け、
各転がり軸受のうち、内輪延長部とは軸方向逆側の内外輪の端面に対し、隣接して配置した転がり軸受における間座の端面に、前記隣接する転がり軸受内の軸受空間に連通して同軸受内の潤滑油を排出する油溝を設けたことを特徴とする転がり軸受の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1において、前記油溝は、前記転がり軸受における、軸心および転動体中心を含む断面における、内輪延長部とは軸方向逆側の外輪内周面、転動体外周面、保持器外周面を含む仮想の円筒面、および前記間座の端面で形成される断面積よりも大きい断面積を有する転がり軸受の潤滑装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記間座に、油溝に連通して油溝内の潤滑油を軸受外に排出する排出口を設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項4】
請求項3において、前記排出口は、油溝の深さ寸法よりも大きい深さ寸法を有する転がり軸受の潤滑装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記間座に排出口を2個以上設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記各転がり軸受のうち、間座に隣接する外輪の端面における円周方向の一部に、軸受径方向に貫通する切欠きを設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項7】
請求項6において、前記外輪に切欠きを2個以上設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記間座に、油溝に連通して油溝内の潤滑油を軸受外に排出する排出口を設けると共に、前記間座のうち、油溝と排出口とが連通する交差部に、潤滑油の油溝に沿う流れを規制する壁部を設けた転がり軸受の潤滑装置。
【請求項9】
請求項8において、前記壁部を、間座の排出口の周方向長さの中央部に配設した転がり軸受の潤滑装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、工作機械の主軸の支持に用いられるものである転がり軸受の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−104520(P2013−104520A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250448(P2011−250448)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】