転がり軸受用グリース組成物、転がり軸受用グリース組成物を用いた軸受装置、軸受装置を備えた情報記録再生装置
【課題】転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、トルク変動が大きくなるのを抑制することができる転がり軸受用グリース組成物、その転がり軸受用グリース組成物を用いた軸受装置、軸受装置を備えた情報記録再生装置を提供する。
【解決手段】基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、前記有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であることを特徴とする転がり軸受用グリース組成物。
【解決手段】基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、前記有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であることを特徴とする転がり軸受用グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用グリース組成物、その転がり軸受用グリース組成物を用いた軸受装置、軸受装置を備えた情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の情報を磁気的または光学的にディスクに記録・再生させるハードディスクなどの情報記録再生装置が知られている。一般的に、この種の情報記録再生装置は、ディスクに信号を記録再生する磁気ヘッドが先端に設けられたスイングアームを有するアクチュエータを備えている。
このアクチュエータは、スイングアームの基端側に設けられた軸受装置に回動可能に支持されている。つまり、この軸受装置を回動させることで、スイングアームを水平面に沿って回動させることができ、スイングアーム先端の磁気ヘッドをディスクの所定位置に移動させることで信号の記録や再生を行うことができる。
ところで、スイングアームを回動させる軸受装置としては、一般的にシャフトとスリーブとの間に2つの転がり軸受を介装したものが知られている。
【0003】
近年、ハードディスクなどの容量増加に伴って、単一記録面内における情報の記録密度が増加しており、これに対応するために、磁気ヘッドの位置制御の精度向上が望まれている。このように、磁気ヘッドの位置制御を高精度化するためには、軸受装置が所定のトルクで安定に回動する必要がある。
そのため、軸受装置の転がり軸受内に封入されるグリース組成物には、低トルク性、アウトガス特性、長寿命などの性能が要求されている。
転がり軸受用のグリース組成物としては、一般的に、鉱油とポリα−オレフィン系合成油の混合物、または、ポリα−オレフィン系合成油からなる基油と、ウレア系化合物からなる増ちょう剤とからなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハードディスクの大容量化、高速化、長寿命化などの要求が高まるにつれて、従来のグリース組成物では対応できなくなってきている。転がり軸受では、転動体(ボール)の摺動面積が小さく、転動体と、これを保持する内輪および外輪とが点接触している。また、転がり軸受の摺動部(転動体と内輪および外輪)には、グリース組成物が十分に潤滑され難いため、ハードディスクを長時間使用することによって、転がり軸受に高い圧や負荷がかかると、摺動部で油膜切れを生じることがあった。油膜切れが生じると、金属同士が直接接触して、摺動部の転送面(転動体と、内輪および外輪とが接触する面)が摩耗したり、その転送面に焼き付きが発生したりするという問題があった。このように、転がり軸受の転送面において摩耗や焼き付きが生じると、軸受装置を所定のトルクで安定に回動することができなくなり、高精度に磁気ヘッドの位置制御を行うことができない。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、トルク変動が大きくなるのを抑制することができる転がり軸受用グリース組成物、その転がり軸受用グリース組成物を用いた軸受装置、軸受装置を備えた情報記録再生装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、前記有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であることを特徴としている。
【0008】
有機モリブデンを0.56〜11.2質量%含有しているので、転がり軸受の摺動部における摩擦を低減することができるとともに、摺動部において金属同士が直接接触する頻度を低減することができる。したがって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、長期間に渡って、軸受装置のトルク変動が大きくなるのを抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る軸受装置は、ベースに立設された円柱状のシャフトと、該シャフトを径方向外側から囲み、かつ前記シャフトと同軸上に配設された円筒状のスリーブと、前記シャフトと前記スリーブとの間に介装され、前記シャフトに固定された内輪、前記スリーブに固定された外輪、および前記内輪と前記外輪との間に転動自在に保持された複数の転動体を有する転がり軸受と、を備え、前記転がり軸受内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されたことを特徴としている。
【0010】
このように構成することにより、摺動部における摩耗や焼き付きを抑制でき、長期間に渡ってトルク変動が大きくなるのを抑制することができる軸受装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明に係る情報記録再生装置は、本発明に係る軸受装置と、前記スリーブに外嵌されて該スリーブと共に前記シャフトの回りを回動自在とされ、ヘッドジンバルアッセンブリを支持するアーム部を有するキャリッジと、磁気記録媒体を一定方向に回転させる回転駆動部と、前記キャリッジを回動させ、前記ヘッドジンバルアッセンブリを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、を備えたことを特徴としている。
【0012】
このように構成することにより、摺動部における摩耗や焼き付きを抑制でき、長期間に渡ってトルク変動が大きくなるのを抑制することができる軸受装置を備えているため、磁気記録媒体に対してヘッドジンバルアセンブリを高精度に位置制御することができる情報記録再生装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物によれば、有機モリブデンを0.56〜11.2質量%含有しているので、転がり軸受の摺動部における摩擦を低減することができるとともに、摺動部において金属同士が直接接触する頻度を低減することができる。したがって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、長期間に渡って、軸受装置のトルク変動が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における情報記録再生装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるピボット軸の断面図である。
【図3】実験例1における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図4】実験例2における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図5】実験例3における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図6】実験例4における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図7】実験例5における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図8】実験例6における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図9】実験例7における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図10】実験例8における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図11】実験例9における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図12】寿命試験後の有機モリブデンの含有量とトルク差の関係を示すグラフである。
【図13】寿命試験前の有機モリブデンの含有量と平均トルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であるものである。
以下、転がり軸受用グリース組成物を「グリース組成物」と省略することもある。
【0017】
基油としては、鉱油、エステル系合成油、合成炭化水素油、ポリグリコール系合成油、フェニルエーテル系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油などが用いられる。
【0018】
合成炭化水素油としては、ポリα−オレフィンが用いられる。
ポリα−オレフィンとしては、例えば、40℃における動粘度が350〜450mm2/sのポリα−オレフィン(PAO HV)と、40℃における動粘度が25〜40mm2/sのポリα−オレフィン(PAO LV)とを、質量比15:85〜30:70で混合したものであり、40℃における動粘度が40〜70mm2/sであるポリα−オレフィン混合物、ポリブテンなどが用いられる。
また、安全性を確保するためには、ポリα−オレフィンとしては、引火点が220℃以上のものを用いることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるポリα−オレフィンは、α−オレフィンを低重合してオリゴマーとし、その末端の二重結合に水素を添加した構造であり、代表的には下記の化学式(1)で表される化合物である。
【0020】
【化1】
【0021】
上記の化学式(1)において、Rはアルキル基、nは1〜6の整数である。
【0022】
ポリブテンは、塩化アルミニウムを触媒として、イソブチレンを主体とする出発原料を重合して合成される。ポリブテンは、そのまま用いても、水素添加して用いてもよい。
【0023】
本発明に係るグリース組成物における基油の含有量は、70〜95質量%であることが好ましく、75〜95質量%であることがより好ましい。
【0024】
増ちょう剤としては、ウレア基(−NH−CO−NH−)を2個以上有するウレア化合物が用いられる。
【0025】
本発明では、ウレア化合物としては、例えば、代表的には下記の化学式(2)〜(7)で表されるジウレア化合物を含み、炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基を有するものが用いられる。
【0026】
【化2】
【0027】
上記の化学式(2)において、R1は炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基である。
【0028】
【化3】
【0029】
上記の化学式(3)において、R2は炭素数6〜12の脂環式炭化水素基である。
【0030】
【化4】
【0031】
上記の化学式(4)において、R1は炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数6〜12の脂環式炭化水素基である。
【0032】
【化5】
【0033】
上記の化学式(5)において、R3は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0034】
【化6】
【0035】
上記の化学式(6)において、R2は炭素数6〜12の脂環式炭化水素基であり、R3は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0036】
【化7】
【0037】
上記の化学式(7)において、R1は炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0038】
これらのジウレア化合物を含むウレア化合物は、芳香族アミン、脂環式アミンおよび脂肪族アミンから選択され、アミン化合物とジイソシアネート化合物を反応させることによって得られる。
【0039】
芳香族アミンとしては、アニリン、炭化水素置換アニリンなどが挙げられる。
脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン、炭化水素置換シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
脂肪族アミンとしては、オクチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミンなどが挙げられる。
【0040】
ジイソシアネート化合物としては、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、3,3´−ジメチルフェニル−4,4´−ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0041】
本発明に係るグリース組成物における増ちょう剤の含有量は、5〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0042】
有機モリブデンとしては、油溶性を有し、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)などが挙げられるが、ココヤシ油モノグリセリドおよび酸化モリブデンとともに、アミド化合物、ココヤシ油およびN,N−ビス(ヒドロキシエチル)を反応させて生成した反応生成物が好ましい。
このような有機モリブデンを含む材料の具体例としては、例えば、MOLYVAN 855(RTヴァンダービルト社製)が挙げられる。
【0043】
本発明に係るグリース組成物における有機モリブデンの含有量は、0.56〜11.2質量%であり、2.24〜11.2質量%であることが好ましい。
言い換えれば、本発明に係るグリース組成物におけるモリブデン(Mo)の含有量は、0.05〜1.0質量%であり、0.2〜1.0質量%であることが好ましい。
グリース組成物における有機モリブデンの含有量が0.56質量%未満では、このグリース組成物を軸受装置の転がり軸受に適用した場合、長時間使用後に発生する軸受装置のトルクの変動幅を低減する効果が得られない。そして、このグリース組成物を封入した転がり軸受を備えた軸受装置を情報記録再生装置に適用した場合、磁気記録媒体に対してヘッドジンバルアセンブリを長時間高精度に位置制御することができない。
一方、グリース組成物における有機モリブデンの含有量が11.2質量%を超えると、このグリース組成物を軸受装置の転がり軸受に適用した場合、使用時の軸受装置のトルクの平均値(平均トルク)が大きくなる。そして、このグリース組成物を封入した転がり軸受を備えた軸受装置を情報記録再生装置に適用した場合、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制することができない。
【0044】
また、本発明に係るグリース組成物には、低トルク性、アウトガス特性、長寿命などの性能を損なわない限り、種々の添加剤を配合することができる。
添加剤としては、鉛原子を含まない酸化防止剤、鉛原子を含まない防錆剤、ゲル化剤、極圧剤、油性剤、錆止め剤、粘度指数向上剤などが用いられる。
【0045】
酸化防止剤としては、フェニルα(β)ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、フェノチアジンなどのアミン系酸化防止剤、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)に代表されるフェノール系酸化防止剤などが用いられる。
防錆剤としては、金属スルホネート、非イオン系、アミン系などのものが用いられる。
【0046】
ゲル化剤としては、ベントン、シリカゲルなどのものが用いられる。
極圧剤としては、硫黄系、リン系、有機モリブデン系などのものが用いられる。
油性剤としては、脂肪酸、動植物油などが用いられる。
錆止め剤としては、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、カルボン酸塩、ソルビタンエステルなどが用いられる。
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどが用いられる。
【0047】
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物によれば、有機モリブデンを0.56〜11.2質量%含有しているので、転がり軸受に適用した場合、その摺動部における摩擦を低減することができるとともに、摺動部において金属同士が直接接触する頻度を低減することができる。したがって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、長期間に渡って、軸受装置のトルク変動が大きくなるのを抑制することができる。
【0048】
次に、本発明に係る軸受装置および情報記録再生装置の実施形態を、図1および図2に基づいて説明する。なお、本実施形態では、軸受装置が情報記録再生装置のピボット軸に用いられている場合について説明する。
【0049】
図1は、本発明に係る情報記録再生装置1の概略構成図である。なお、本実施形態の情報記録再生装置1は、垂直記録層を有するディスク(磁気記録媒体)Dに対して、垂直記録方式で書き込みを行う装置である。
【0050】
図1に示すように、情報記録再生装置1は、キャリッジ11と、キャリッジ11の基端側から光導波路32を介して光束を供給するレーザ光源20と、キャリッジ11の先端側に支持されたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)12と、ヘッドジンバルアセンブリ12をディスク面D1(ディスクDの表面)に平行な水平面内方向にスキャン移動させるアクチュエータ6と、ディスクDを、回転軸L2を中心に回転させるスピンドルモータ7と、情報に応じて変調した電流をヘッドジンバルアセンブリ12のスライダ2に対して供給する制御部5と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0051】
ハウジング9は、アルミニウムなどの金属材料からなる上部開口部を有する箱型形状のものであり、上面視四角形状の底部9aと、底部9aの周縁において底部9aに対して鉛直方向に立設する周壁(不図示)とで構成されている。そして、周壁に囲まれた内側には、上述した各構成品を収容する凹部が形成される。なお、図1においては、説明を分かりやすくするため、ハウジング9の周囲を取り囲む周壁を省略している。
【0052】
また、このハウジング9には、ハウジング9の開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。底部9aの略中心には、上記スピンドルモータ7が取り付けられており、該スピンドルモータ7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定されている。
【0053】
ディスクDの外側で、底部9aの一つの隅角部には、上述したアクチュエータ6が取り付けられている。このアクチュエータ6には、ピボット軸(軸受装置)10を中心に水平面内で回転軸L1を中心に回動可能なキャリッジ11が取り付けられている。このキャリッジ11は、基端部から先端部に向けて(ディスクD方向に向けて)延設されたアーム部14と、アーム部14を、基端部を介して片持ち状に支持する基部15とが、削り出し加工などにより一体形成されたものである。基部15は、略直方体形状に形成されたものであり、ピボット軸10まわりを回動可能に支持されている。つまり、基部15はピボット軸10を介してアクチュエータ6に連結されており、このピボット軸10がキャリッジ11の回転中心となっている。
【0054】
アーム部14は、基部15におけるアクチュエータ6が取り付けられた側面15aと反対側の側面(隅角部の反対側の側面)15bにおいて、基部15の上面の面方向(水平面内方向)と平行に延出する平板状のものであり、基部15の高さ方向(垂直方向)に沿って3枚延出している。具体的には、アーム部14は、基端部から先端部に向かうにつれ先細るテーパ形状に形成されており、各アーム部14,14間に、ディスクDが挟み込まれるように配置されている。つまり、アーム部14とディスクDとが、交互に配置可能に構成されており、アクチュエータ6の駆動によってアーム部14がディスクDの表面に平行な方向(水平面内方向)に移動可能になっている。なお、キャリッジ11及びヘッドジンバルアセンブリ12は、ディスクDの回転停止時にアクチュエータ6の駆動によって、ディスクD上から退避するようになっている。
【0055】
ヘッドジンバルアセンブリ12は、アーム部14の先端に連接されており、サスペンション3と、サスペンション3の先端に取り付けられたスライダ2とを備えている。また、ヘッドジンバルアセンブリ12は、図示しない近接場光発生素子を有するスライダ2に、レーザ光源20からの光束を導いて近接場光(スポット光)を発生させ、該近接場光を利用してディスクDに各種情報を記録再生させるものである。なお、近接場光発生素子は、例えば、光学的微小開口や、ナノメートルサイズに形成された突起部などにより構成されている。
【0056】
図2に示すように、ピボット軸10は、略円柱状に形成されたシャフト41と、シャフト41の外周面41aに対して所定間隔離間して配される略円筒状のスリーブ43と、シャフト41とスリーブ43との間に介装される第一転がり軸受51と、シャフト41とスリーブ43との間に、第一転がり軸受51と所定間隔離間して並列して介装される第二転がり軸受52と、を有している。
【0057】
シャフト41は、略円柱形状の棒状部材であり、長手方向(軸方向)の一端側に第一転がり軸受51が装着され、第一転がり軸受51と軸方向に所定間隔を空けて第二転がり軸受52が装着されている。また、シャフト41の一端側の端面には、シャフト41の直径よりも拡径され、第一転がり軸受51と当接されるフランジ部44が形成されている。
【0058】
スリーブ43は、略円筒形状に形成された部材であり、長手方向(軸方向)の一端側に第一転がり軸受51が装着され、他端側に第二転がり軸受52が装着される。また、スリーブ43における第一転がり軸受51と第二転がり軸受52とが配される間には、第一転がり軸受51と第二転がり軸受52との間隔を所定距離に保持するスペーサ部45が径方向内側に突出形成されている。
【0059】
第一転がり軸受51および第二転がり軸受52は、同一形状で形成された軸受である。具体的には、第一転がり軸受51は、内輪51aと、内輪51aに対して同軸に配置される外輪51bと、内輪51aと外輪51bとの間に介装され、所定位置で転動する複数の転動体51cとを有している。同様に、第二転がり軸受52は、内輪52aと、内輪52aに対して同軸に配置される外輪52bと、内輪52aと外輪52bとの間に介装され、所定位置で転動する複数の転動体52cとを有している。なお、転動体51c,52cは、それぞれの内輪と外輪との間で、図示しない保持器により保持されている。
【0060】
ここで、第一転がり軸受51の内輪51aおよび外輪51bには、転動体51cを転動可能に保持する凹陥状の転走面51dが対向するように形成されている。同様に、第二転がり軸受52の内輪52aおよび外輪52bには、転動体52cを転動可能に保持する凹陥状の転走面52dが対向するように形成されている。
【0061】
本発明では、第一転がり軸受51における、内輪51aと外輪51bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されている。これにより、内輪51aおよび外輪51bと、転動体51cとの間に、グリース組成物が介在するようになっている。
また、第二転がり軸受52における、内輪52aと外輪52bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されている。これにより、内輪52aおよび外輪52bと、転動体52cとの間に、グリース組成物が介在するようになっている。
【0062】
本実施形態に係る軸受装置10によれば、第一転がり軸受51における、内輪51aと外輪51bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されているので、第一転がり軸受51において、内輪51aおよび外輪51bと、転動体51cとの間の摩擦を低減することができるとともに、内輪51aおよび外輪51bと、転動体51cとが直接接触する頻度を低減することができる。したがって、第一転がり軸受51の転走面51dにおける摩耗や焼き付きを抑制することができる。また、第二転がり軸受52における、内輪52aと外輪52bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されているので、第二転がり軸受52において、内輪52aおよび外輪52bと、転動体52cとの間の摩擦を低減することができるとともに、内輪52aおよび外輪52bと、転動体52cとが直接接触する頻度を低減することができる。したがって、第二転がり軸受52の転走面52dにおける摩耗や焼き付きを抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態に係る情報記録再生装置1によれば、軸受装置10を備えているので、長期間に渡って、ディスクDに対してヘッドジンバルアセンブリ12を高精度に位置制御することができる。
【0064】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0065】
「実験例1」
(グリース組成物)
グリース組成物(A)として、基油として鉱油とポリα−オレフィンの混合物85質量%と、増ちょう剤としてウレア化合物10質量%と、添加物5質量%未満とを含むグリース組成物(商品名:Nigace W(LF)、日本グリース社製)を準備した。
(寿命試験)
軸受装置の転がり軸受に、グリース組成物(A)を、軸受空間(内輪と外輪の間の空間)の容積の10%となるように封入した。
この軸受装置のシャフトを固定し、ボイスコイル駆動方式と同様な方法により、スリーブを揺動させた。
この寿命試験において、雰囲気温度を80℃とし、スリーブの揺動角度を5〜10°、スリーブの揺動速さを30Hzとし、試験時間を100時間とした。
評価方法として、寿命試験前と後で、軸受装置のトルクを測定した。
トルクの測定方法としては、トルクを検出可能な測定端子を有するロードセルを用いて、この軸受装置のシャフトを軸中心に回転させるとともに、ロードセルの測定端子の先端面を、この回転の接線方向に対して垂直な方向から、軸受装置のスリーブの外周面に所定の力で押圧するように当接させて、測定端子の先端面と、スリーブの外周面との間に生じる摩擦力を検出することにより、軸受装置のトルクを測定した。
結果を図3に示す。
なお、図3は、寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【0066】
「実験例2」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が0.56質量%のグリース組成物(B)を得た。
なお、このMOLYVAN 855は、詳細には有機モリブデンとして、ココヤシモノグリセリドおよび酸化モリブデンとともに、アミド、ココヤシおよびN,N−ビス(ヒドロキシエチル)を反応させて生成した反応生成物90〜93質量%と、石油系油7〜10質量%とから構成されている組成物である。この石油系油は、MOLYVAN 855と、他の物質とを混合する際に、MOLYVAN 855を分散しやすくするためのものであって、グリース組成物の特性に寄与するものではない。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図4に示す。
【0067】
「実験例3」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が1.12質量%のグリース組成物(C)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図5に示す。
【0068】
「実験例4」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が2.24質量%のグリース組成物(D)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図6に示す。
【0069】
「実験例5」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が3.36質量%のグリース組成物(E)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図7に示す。
【0070】
「実験例6」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が4.48質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図8に示す。
【0071】
「実験例7」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が5.60質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図9に示す。
【0072】
「実験例8」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が11.2質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図10に示す。
【0073】
「実験例9」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が22.4質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図11に示す。
【0074】
実験例1〜9の寿命試験の結果から、各実験例におけるトルクの最大値と最小値の差(トルク差)を算出し、有機モリブデンの含有量とトルク差の関係を調べた。
結果を図12に示す。
図12の結果から、グリース組成物における有機モリブデンの含有量を0.56質量%以上とすることにより、有機モリブデンを含まないグリース組成物(A)と比較して、トルク差を低減することができる。すなわち、トルクの変動幅を小さくすることができる。特に、有機モリブデンの含有量を2.24質量%以上とすれば、トルクの変動幅をほぼゼロにすることができる。
【0075】
また、実験例1〜9の寿命試験の結果から、各実験例におけるトルクの平均値(平均トルク)を算出し、有機モリブデンの含有量と平均トルクの関係を調べた。
結果を図13に示す。
図13の結果から、グリース組成物における有機モリブデンの含有量を11.2質量%以下とすることにより、トルクの平均値を、有機モリブデンを含まないグリース組成物(A)と同等の値にすることができる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・情報記録再生装置、10・・・ピボット軸(軸受装置)、11・・・キャリッジ、12・・・ヘッドジンバルアセンブリ、14・・・アーム部、20・・・レーザ光源(光源)、41・・・シャフト、41a・・・外周面、43・・・スリーブ、43a・・・内周面、44・・・フランジ部、45・・・スペーサ部、51・・・第一転がり軸受、51a・・・内輪、51b・・・外輪、51c・・・転動体、51d・・・転走面、51e・・・中央部、52・・・第二転がり軸受、52a・・・内輪、52b・・・外輪、52c・・・転動体、52d・・・転走面、52e・・・中央部、D…ディスク(磁気記録媒体)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用グリース組成物、その転がり軸受用グリース組成物を用いた軸受装置、軸受装置を備えた情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の情報を磁気的または光学的にディスクに記録・再生させるハードディスクなどの情報記録再生装置が知られている。一般的に、この種の情報記録再生装置は、ディスクに信号を記録再生する磁気ヘッドが先端に設けられたスイングアームを有するアクチュエータを備えている。
このアクチュエータは、スイングアームの基端側に設けられた軸受装置に回動可能に支持されている。つまり、この軸受装置を回動させることで、スイングアームを水平面に沿って回動させることができ、スイングアーム先端の磁気ヘッドをディスクの所定位置に移動させることで信号の記録や再生を行うことができる。
ところで、スイングアームを回動させる軸受装置としては、一般的にシャフトとスリーブとの間に2つの転がり軸受を介装したものが知られている。
【0003】
近年、ハードディスクなどの容量増加に伴って、単一記録面内における情報の記録密度が増加しており、これに対応するために、磁気ヘッドの位置制御の精度向上が望まれている。このように、磁気ヘッドの位置制御を高精度化するためには、軸受装置が所定のトルクで安定に回動する必要がある。
そのため、軸受装置の転がり軸受内に封入されるグリース組成物には、低トルク性、アウトガス特性、長寿命などの性能が要求されている。
転がり軸受用のグリース組成物としては、一般的に、鉱油とポリα−オレフィン系合成油の混合物、または、ポリα−オレフィン系合成油からなる基油と、ウレア系化合物からなる増ちょう剤とからなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハードディスクの大容量化、高速化、長寿命化などの要求が高まるにつれて、従来のグリース組成物では対応できなくなってきている。転がり軸受では、転動体(ボール)の摺動面積が小さく、転動体と、これを保持する内輪および外輪とが点接触している。また、転がり軸受の摺動部(転動体と内輪および外輪)には、グリース組成物が十分に潤滑され難いため、ハードディスクを長時間使用することによって、転がり軸受に高い圧や負荷がかかると、摺動部で油膜切れを生じることがあった。油膜切れが生じると、金属同士が直接接触して、摺動部の転送面(転動体と、内輪および外輪とが接触する面)が摩耗したり、その転送面に焼き付きが発生したりするという問題があった。このように、転がり軸受の転送面において摩耗や焼き付きが生じると、軸受装置を所定のトルクで安定に回動することができなくなり、高精度に磁気ヘッドの位置制御を行うことができない。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、トルク変動が大きくなるのを抑制することができる転がり軸受用グリース組成物、その転がり軸受用グリース組成物を用いた軸受装置、軸受装置を備えた情報記録再生装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、前記有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であることを特徴としている。
【0008】
有機モリブデンを0.56〜11.2質量%含有しているので、転がり軸受の摺動部における摩擦を低減することができるとともに、摺動部において金属同士が直接接触する頻度を低減することができる。したがって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、長期間に渡って、軸受装置のトルク変動が大きくなるのを抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る軸受装置は、ベースに立設された円柱状のシャフトと、該シャフトを径方向外側から囲み、かつ前記シャフトと同軸上に配設された円筒状のスリーブと、前記シャフトと前記スリーブとの間に介装され、前記シャフトに固定された内輪、前記スリーブに固定された外輪、および前記内輪と前記外輪との間に転動自在に保持された複数の転動体を有する転がり軸受と、を備え、前記転がり軸受内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されたことを特徴としている。
【0010】
このように構成することにより、摺動部における摩耗や焼き付きを抑制でき、長期間に渡ってトルク変動が大きくなるのを抑制することができる軸受装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明に係る情報記録再生装置は、本発明に係る軸受装置と、前記スリーブに外嵌されて該スリーブと共に前記シャフトの回りを回動自在とされ、ヘッドジンバルアッセンブリを支持するアーム部を有するキャリッジと、磁気記録媒体を一定方向に回転させる回転駆動部と、前記キャリッジを回動させ、前記ヘッドジンバルアッセンブリを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、を備えたことを特徴としている。
【0012】
このように構成することにより、摺動部における摩耗や焼き付きを抑制でき、長期間に渡ってトルク変動が大きくなるのを抑制することができる軸受装置を備えているため、磁気記録媒体に対してヘッドジンバルアセンブリを高精度に位置制御することができる情報記録再生装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物によれば、有機モリブデンを0.56〜11.2質量%含有しているので、転がり軸受の摺動部における摩擦を低減することができるとともに、摺動部において金属同士が直接接触する頻度を低減することができる。したがって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、長期間に渡って、軸受装置のトルク変動が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における情報記録再生装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるピボット軸の断面図である。
【図3】実験例1における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図4】実験例2における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図5】実験例3における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図6】実験例4における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図7】実験例5における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図8】実験例6における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図9】実験例7における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図10】実験例8における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図11】実験例9における寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【図12】寿命試験後の有機モリブデンの含有量とトルク差の関係を示すグラフである。
【図13】寿命試験前の有機モリブデンの含有量と平均トルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であるものである。
以下、転がり軸受用グリース組成物を「グリース組成物」と省略することもある。
【0017】
基油としては、鉱油、エステル系合成油、合成炭化水素油、ポリグリコール系合成油、フェニルエーテル系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油などが用いられる。
【0018】
合成炭化水素油としては、ポリα−オレフィンが用いられる。
ポリα−オレフィンとしては、例えば、40℃における動粘度が350〜450mm2/sのポリα−オレフィン(PAO HV)と、40℃における動粘度が25〜40mm2/sのポリα−オレフィン(PAO LV)とを、質量比15:85〜30:70で混合したものであり、40℃における動粘度が40〜70mm2/sであるポリα−オレフィン混合物、ポリブテンなどが用いられる。
また、安全性を確保するためには、ポリα−オレフィンとしては、引火点が220℃以上のものを用いることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるポリα−オレフィンは、α−オレフィンを低重合してオリゴマーとし、その末端の二重結合に水素を添加した構造であり、代表的には下記の化学式(1)で表される化合物である。
【0020】
【化1】
【0021】
上記の化学式(1)において、Rはアルキル基、nは1〜6の整数である。
【0022】
ポリブテンは、塩化アルミニウムを触媒として、イソブチレンを主体とする出発原料を重合して合成される。ポリブテンは、そのまま用いても、水素添加して用いてもよい。
【0023】
本発明に係るグリース組成物における基油の含有量は、70〜95質量%であることが好ましく、75〜95質量%であることがより好ましい。
【0024】
増ちょう剤としては、ウレア基(−NH−CO−NH−)を2個以上有するウレア化合物が用いられる。
【0025】
本発明では、ウレア化合物としては、例えば、代表的には下記の化学式(2)〜(7)で表されるジウレア化合物を含み、炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基を有するものが用いられる。
【0026】
【化2】
【0027】
上記の化学式(2)において、R1は炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基である。
【0028】
【化3】
【0029】
上記の化学式(3)において、R2は炭素数6〜12の脂環式炭化水素基である。
【0030】
【化4】
【0031】
上記の化学式(4)において、R1は炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数6〜12の脂環式炭化水素基である。
【0032】
【化5】
【0033】
上記の化学式(5)において、R3は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0034】
【化6】
【0035】
上記の化学式(6)において、R2は炭素数6〜12の脂環式炭化水素基であり、R3は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0036】
【化7】
【0037】
上記の化学式(7)において、R1は炭素数8〜22の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0038】
これらのジウレア化合物を含むウレア化合物は、芳香族アミン、脂環式アミンおよび脂肪族アミンから選択され、アミン化合物とジイソシアネート化合物を反応させることによって得られる。
【0039】
芳香族アミンとしては、アニリン、炭化水素置換アニリンなどが挙げられる。
脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン、炭化水素置換シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
脂肪族アミンとしては、オクチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミンなどが挙げられる。
【0040】
ジイソシアネート化合物としては、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、3,3´−ジメチルフェニル−4,4´−ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0041】
本発明に係るグリース組成物における増ちょう剤の含有量は、5〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0042】
有機モリブデンとしては、油溶性を有し、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)などが挙げられるが、ココヤシ油モノグリセリドおよび酸化モリブデンとともに、アミド化合物、ココヤシ油およびN,N−ビス(ヒドロキシエチル)を反応させて生成した反応生成物が好ましい。
このような有機モリブデンを含む材料の具体例としては、例えば、MOLYVAN 855(RTヴァンダービルト社製)が挙げられる。
【0043】
本発明に係るグリース組成物における有機モリブデンの含有量は、0.56〜11.2質量%であり、2.24〜11.2質量%であることが好ましい。
言い換えれば、本発明に係るグリース組成物におけるモリブデン(Mo)の含有量は、0.05〜1.0質量%であり、0.2〜1.0質量%であることが好ましい。
グリース組成物における有機モリブデンの含有量が0.56質量%未満では、このグリース組成物を軸受装置の転がり軸受に適用した場合、長時間使用後に発生する軸受装置のトルクの変動幅を低減する効果が得られない。そして、このグリース組成物を封入した転がり軸受を備えた軸受装置を情報記録再生装置に適用した場合、磁気記録媒体に対してヘッドジンバルアセンブリを長時間高精度に位置制御することができない。
一方、グリース組成物における有機モリブデンの含有量が11.2質量%を超えると、このグリース組成物を軸受装置の転がり軸受に適用した場合、使用時の軸受装置のトルクの平均値(平均トルク)が大きくなる。そして、このグリース組成物を封入した転がり軸受を備えた軸受装置を情報記録再生装置に適用した場合、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制することができない。
【0044】
また、本発明に係るグリース組成物には、低トルク性、アウトガス特性、長寿命などの性能を損なわない限り、種々の添加剤を配合することができる。
添加剤としては、鉛原子を含まない酸化防止剤、鉛原子を含まない防錆剤、ゲル化剤、極圧剤、油性剤、錆止め剤、粘度指数向上剤などが用いられる。
【0045】
酸化防止剤としては、フェニルα(β)ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、フェノチアジンなどのアミン系酸化防止剤、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)に代表されるフェノール系酸化防止剤などが用いられる。
防錆剤としては、金属スルホネート、非イオン系、アミン系などのものが用いられる。
【0046】
ゲル化剤としては、ベントン、シリカゲルなどのものが用いられる。
極圧剤としては、硫黄系、リン系、有機モリブデン系などのものが用いられる。
油性剤としては、脂肪酸、動植物油などが用いられる。
錆止め剤としては、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、カルボン酸塩、ソルビタンエステルなどが用いられる。
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどが用いられる。
【0047】
本発明に係る転がり軸受用グリース組成物によれば、有機モリブデンを0.56〜11.2質量%含有しているので、転がり軸受に適用した場合、その摺動部における摩擦を低減することができるとともに、摺動部において金属同士が直接接触する頻度を低減することができる。したがって、転がり軸受の摺動部における摩耗や焼き付きを抑制し、長期間に渡って、軸受装置のトルク変動が大きくなるのを抑制することができる。
【0048】
次に、本発明に係る軸受装置および情報記録再生装置の実施形態を、図1および図2に基づいて説明する。なお、本実施形態では、軸受装置が情報記録再生装置のピボット軸に用いられている場合について説明する。
【0049】
図1は、本発明に係る情報記録再生装置1の概略構成図である。なお、本実施形態の情報記録再生装置1は、垂直記録層を有するディスク(磁気記録媒体)Dに対して、垂直記録方式で書き込みを行う装置である。
【0050】
図1に示すように、情報記録再生装置1は、キャリッジ11と、キャリッジ11の基端側から光導波路32を介して光束を供給するレーザ光源20と、キャリッジ11の先端側に支持されたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)12と、ヘッドジンバルアセンブリ12をディスク面D1(ディスクDの表面)に平行な水平面内方向にスキャン移動させるアクチュエータ6と、ディスクDを、回転軸L2を中心に回転させるスピンドルモータ7と、情報に応じて変調した電流をヘッドジンバルアセンブリ12のスライダ2に対して供給する制御部5と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0051】
ハウジング9は、アルミニウムなどの金属材料からなる上部開口部を有する箱型形状のものであり、上面視四角形状の底部9aと、底部9aの周縁において底部9aに対して鉛直方向に立設する周壁(不図示)とで構成されている。そして、周壁に囲まれた内側には、上述した各構成品を収容する凹部が形成される。なお、図1においては、説明を分かりやすくするため、ハウジング9の周囲を取り囲む周壁を省略している。
【0052】
また、このハウジング9には、ハウジング9の開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。底部9aの略中心には、上記スピンドルモータ7が取り付けられており、該スピンドルモータ7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定されている。
【0053】
ディスクDの外側で、底部9aの一つの隅角部には、上述したアクチュエータ6が取り付けられている。このアクチュエータ6には、ピボット軸(軸受装置)10を中心に水平面内で回転軸L1を中心に回動可能なキャリッジ11が取り付けられている。このキャリッジ11は、基端部から先端部に向けて(ディスクD方向に向けて)延設されたアーム部14と、アーム部14を、基端部を介して片持ち状に支持する基部15とが、削り出し加工などにより一体形成されたものである。基部15は、略直方体形状に形成されたものであり、ピボット軸10まわりを回動可能に支持されている。つまり、基部15はピボット軸10を介してアクチュエータ6に連結されており、このピボット軸10がキャリッジ11の回転中心となっている。
【0054】
アーム部14は、基部15におけるアクチュエータ6が取り付けられた側面15aと反対側の側面(隅角部の反対側の側面)15bにおいて、基部15の上面の面方向(水平面内方向)と平行に延出する平板状のものであり、基部15の高さ方向(垂直方向)に沿って3枚延出している。具体的には、アーム部14は、基端部から先端部に向かうにつれ先細るテーパ形状に形成されており、各アーム部14,14間に、ディスクDが挟み込まれるように配置されている。つまり、アーム部14とディスクDとが、交互に配置可能に構成されており、アクチュエータ6の駆動によってアーム部14がディスクDの表面に平行な方向(水平面内方向)に移動可能になっている。なお、キャリッジ11及びヘッドジンバルアセンブリ12は、ディスクDの回転停止時にアクチュエータ6の駆動によって、ディスクD上から退避するようになっている。
【0055】
ヘッドジンバルアセンブリ12は、アーム部14の先端に連接されており、サスペンション3と、サスペンション3の先端に取り付けられたスライダ2とを備えている。また、ヘッドジンバルアセンブリ12は、図示しない近接場光発生素子を有するスライダ2に、レーザ光源20からの光束を導いて近接場光(スポット光)を発生させ、該近接場光を利用してディスクDに各種情報を記録再生させるものである。なお、近接場光発生素子は、例えば、光学的微小開口や、ナノメートルサイズに形成された突起部などにより構成されている。
【0056】
図2に示すように、ピボット軸10は、略円柱状に形成されたシャフト41と、シャフト41の外周面41aに対して所定間隔離間して配される略円筒状のスリーブ43と、シャフト41とスリーブ43との間に介装される第一転がり軸受51と、シャフト41とスリーブ43との間に、第一転がり軸受51と所定間隔離間して並列して介装される第二転がり軸受52と、を有している。
【0057】
シャフト41は、略円柱形状の棒状部材であり、長手方向(軸方向)の一端側に第一転がり軸受51が装着され、第一転がり軸受51と軸方向に所定間隔を空けて第二転がり軸受52が装着されている。また、シャフト41の一端側の端面には、シャフト41の直径よりも拡径され、第一転がり軸受51と当接されるフランジ部44が形成されている。
【0058】
スリーブ43は、略円筒形状に形成された部材であり、長手方向(軸方向)の一端側に第一転がり軸受51が装着され、他端側に第二転がり軸受52が装着される。また、スリーブ43における第一転がり軸受51と第二転がり軸受52とが配される間には、第一転がり軸受51と第二転がり軸受52との間隔を所定距離に保持するスペーサ部45が径方向内側に突出形成されている。
【0059】
第一転がり軸受51および第二転がり軸受52は、同一形状で形成された軸受である。具体的には、第一転がり軸受51は、内輪51aと、内輪51aに対して同軸に配置される外輪51bと、内輪51aと外輪51bとの間に介装され、所定位置で転動する複数の転動体51cとを有している。同様に、第二転がり軸受52は、内輪52aと、内輪52aに対して同軸に配置される外輪52bと、内輪52aと外輪52bとの間に介装され、所定位置で転動する複数の転動体52cとを有している。なお、転動体51c,52cは、それぞれの内輪と外輪との間で、図示しない保持器により保持されている。
【0060】
ここで、第一転がり軸受51の内輪51aおよび外輪51bには、転動体51cを転動可能に保持する凹陥状の転走面51dが対向するように形成されている。同様に、第二転がり軸受52の内輪52aおよび外輪52bには、転動体52cを転動可能に保持する凹陥状の転走面52dが対向するように形成されている。
【0061】
本発明では、第一転がり軸受51における、内輪51aと外輪51bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されている。これにより、内輪51aおよび外輪51bと、転動体51cとの間に、グリース組成物が介在するようになっている。
また、第二転がり軸受52における、内輪52aと外輪52bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されている。これにより、内輪52aおよび外輪52bと、転動体52cとの間に、グリース組成物が介在するようになっている。
【0062】
本実施形態に係る軸受装置10によれば、第一転がり軸受51における、内輪51aと外輪51bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されているので、第一転がり軸受51において、内輪51aおよび外輪51bと、転動体51cとの間の摩擦を低減することができるとともに、内輪51aおよび外輪51bと、転動体51cとが直接接触する頻度を低減することができる。したがって、第一転がり軸受51の転走面51dにおける摩耗や焼き付きを抑制することができる。また、第二転がり軸受52における、内輪52aと外輪52bの間の空間内に、本発明に係る転がり軸受用グリース組成物が封入されているので、第二転がり軸受52において、内輪52aおよび外輪52bと、転動体52cとの間の摩擦を低減することができるとともに、内輪52aおよび外輪52bと、転動体52cとが直接接触する頻度を低減することができる。したがって、第二転がり軸受52の転走面52dにおける摩耗や焼き付きを抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態に係る情報記録再生装置1によれば、軸受装置10を備えているので、長期間に渡って、ディスクDに対してヘッドジンバルアセンブリ12を高精度に位置制御することができる。
【0064】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0065】
「実験例1」
(グリース組成物)
グリース組成物(A)として、基油として鉱油とポリα−オレフィンの混合物85質量%と、増ちょう剤としてウレア化合物10質量%と、添加物5質量%未満とを含むグリース組成物(商品名:Nigace W(LF)、日本グリース社製)を準備した。
(寿命試験)
軸受装置の転がり軸受に、グリース組成物(A)を、軸受空間(内輪と外輪の間の空間)の容積の10%となるように封入した。
この軸受装置のシャフトを固定し、ボイスコイル駆動方式と同様な方法により、スリーブを揺動させた。
この寿命試験において、雰囲気温度を80℃とし、スリーブの揺動角度を5〜10°、スリーブの揺動速さを30Hzとし、試験時間を100時間とした。
評価方法として、寿命試験前と後で、軸受装置のトルクを測定した。
トルクの測定方法としては、トルクを検出可能な測定端子を有するロードセルを用いて、この軸受装置のシャフトを軸中心に回転させるとともに、ロードセルの測定端子の先端面を、この回転の接線方向に対して垂直な方向から、軸受装置のスリーブの外周面に所定の力で押圧するように当接させて、測定端子の先端面と、スリーブの外周面との間に生じる摩擦力を検出することにより、軸受装置のトルクを測定した。
結果を図3に示す。
なお、図3は、寿命試験の結果を示し、(a)は試験開始前のトルク波形を示すグラフであり、(b)は寿命試験100時間後のトルク波形を示すグラフである。
【0066】
「実験例2」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が0.56質量%のグリース組成物(B)を得た。
なお、このMOLYVAN 855は、詳細には有機モリブデンとして、ココヤシモノグリセリドおよび酸化モリブデンとともに、アミド、ココヤシおよびN,N−ビス(ヒドロキシエチル)を反応させて生成した反応生成物90〜93質量%と、石油系油7〜10質量%とから構成されている組成物である。この石油系油は、MOLYVAN 855と、他の物質とを混合する際に、MOLYVAN 855を分散しやすくするためのものであって、グリース組成物の特性に寄与するものではない。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図4に示す。
【0067】
「実験例3」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が1.12質量%のグリース組成物(C)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図5に示す。
【0068】
「実験例4」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が2.24質量%のグリース組成物(D)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図6に示す。
【0069】
「実験例5」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が3.36質量%のグリース組成物(E)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図7に示す。
【0070】
「実験例6」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が4.48質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図8に示す。
【0071】
「実験例7」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が5.60質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図9に示す。
【0072】
「実験例8」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が11.2質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図10に示す。
【0073】
「実験例9」
実験例1で調製したグリース組成物(A)に、有機モリブデン(MOLYVAN 855、RTヴァンダービルト社製)を添加し、これらを攪拌、混合して、有機モリブデンの含有量が22.4質量%のグリース組成物(F)を得た。
実験例1と同様にして、寿命試験を行った。
結果を図11に示す。
【0074】
実験例1〜9の寿命試験の結果から、各実験例におけるトルクの最大値と最小値の差(トルク差)を算出し、有機モリブデンの含有量とトルク差の関係を調べた。
結果を図12に示す。
図12の結果から、グリース組成物における有機モリブデンの含有量を0.56質量%以上とすることにより、有機モリブデンを含まないグリース組成物(A)と比較して、トルク差を低減することができる。すなわち、トルクの変動幅を小さくすることができる。特に、有機モリブデンの含有量を2.24質量%以上とすれば、トルクの変動幅をほぼゼロにすることができる。
【0075】
また、実験例1〜9の寿命試験の結果から、各実験例におけるトルクの平均値(平均トルク)を算出し、有機モリブデンの含有量と平均トルクの関係を調べた。
結果を図13に示す。
図13の結果から、グリース組成物における有機モリブデンの含有量を11.2質量%以下とすることにより、トルクの平均値を、有機モリブデンを含まないグリース組成物(A)と同等の値にすることができる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・情報記録再生装置、10・・・ピボット軸(軸受装置)、11・・・キャリッジ、12・・・ヘッドジンバルアセンブリ、14・・・アーム部、20・・・レーザ光源(光源)、41・・・シャフト、41a・・・外周面、43・・・スリーブ、43a・・・内周面、44・・・フランジ部、45・・・スペーサ部、51・・・第一転がり軸受、51a・・・内輪、51b・・・外輪、51c・・・転動体、51d・・・転走面、51e・・・中央部、52・・・第二転がり軸受、52a・・・内輪、52b・・・外輪、52c・・・転動体、52d・・・転走面、52e・・・中央部、D…ディスク(磁気記録媒体)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、前記有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であることを特徴とする転がり軸受用グリース組成物。
【請求項2】
ベースに立設された円柱状のシャフトと、
該シャフトを径方向外側から囲み、かつ前記シャフトと同軸上に配設された円筒状のスリーブと、
前記シャフトと前記スリーブとの間に介装され、前記シャフトに固定された内輪、前記スリーブに固定された外輪、および前記内輪と前記外輪との間に転動自在に保持された複数の転動体を有する転がり軸受と、を備え、
前記転がり軸受内に、請求項1に記載の転がり軸受用グリース組成物が封入されたことを特徴とする軸受装置。
【請求項3】
請求項2に記載の軸受装置と、
前記スリーブに外嵌されて該スリーブと共に前記シャフトの回りを回動自在とされ、ヘッドジンバルアッセンブリを支持するアーム部を有するキャリッジと、
磁気記録媒体を一定方向に回転させる回転駆動部と、
前記キャリッジを回動させ、前記ヘッドジンバルアッセンブリを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、を備えたことを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、有機モリブデンと、を少なくとも含有してなり、前記有機モリブデンの含有量が0.56〜11.2質量%であることを特徴とする転がり軸受用グリース組成物。
【請求項2】
ベースに立設された円柱状のシャフトと、
該シャフトを径方向外側から囲み、かつ前記シャフトと同軸上に配設された円筒状のスリーブと、
前記シャフトと前記スリーブとの間に介装され、前記シャフトに固定された内輪、前記スリーブに固定された外輪、および前記内輪と前記外輪との間に転動自在に保持された複数の転動体を有する転がり軸受と、を備え、
前記転がり軸受内に、請求項1に記載の転がり軸受用グリース組成物が封入されたことを特徴とする軸受装置。
【請求項3】
請求項2に記載の軸受装置と、
前記スリーブに外嵌されて該スリーブと共に前記シャフトの回りを回動自在とされ、ヘッドジンバルアッセンブリを支持するアーム部を有するキャリッジと、
磁気記録媒体を一定方向に回転させる回転駆動部と、
前記キャリッジを回動させ、前記ヘッドジンバルアッセンブリを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、を備えたことを特徴とする情報記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−67173(P2012−67173A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212256(P2010−212256)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(503105088)セイコーインスツルメンツ(タイランド)リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】Seiko Instruments(Thailand)Ltd.
【住所又は居所原語表記】60/83 Moo 19 Nava−Nakorn Industrial Estate Zone 3 Klong Nueng Klong Luang Pathumthani 12120 Thailand
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(503105088)セイコーインスツルメンツ(タイランド)リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】Seiko Instruments(Thailand)Ltd.
【住所又は居所原語表記】60/83 Moo 19 Nava−Nakorn Industrial Estate Zone 3 Klong Nueng Klong Luang Pathumthani 12120 Thailand
【Fターム(参考)】
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