説明

転がり軸受用保持器の耐久試験方法及び装置

【課題】大きな荷重を必要とせず確実に保持器を破断させることのできる、転がり軸受用保持器の耐久試験方法及び装置を提供する。
【解決手段】外輪3と内輪7との間に介装される多数の転動体4を周方向に転動可能に保持する転がり軸受用保持器の耐久試験装置において、前記外輪3に嵌合するハウジング5と、前記内輪7に嵌合する軸9と、該軸9を駆動する駆動手段と、前記ハウジング5にモーメント荷重を負荷するモーメント荷重負荷手段18と、前記ハウジング5にラジアル荷重を負荷するラジアル荷重負荷手段29とを備えたことを特徴とする耐久試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受内で転動体を保持するのに用いられる保持器の耐久試験方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受の保持器の耐久性を評価するには、保持器にスラスト荷重を加えながら軸受を回転させて保持器を疲労させる試験方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、他には、保持器にラジアル荷重を加えながら軸受を回転させて保持器を疲労させる試験方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−254866号公報
【非特許文献1】NTN TECHNICAL REVIEW No.65 (1996) (NTN株式会社、1996年、第73〜第77ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の方法では、保持器を完全に破断させようとするにはスラスト荷重又はラジアル荷重を極めて大きくする必要がる。そして、スラスト荷重又はラジアル荷重を極めて大きくすると試験中に軸受全体が高温になり、軸受が早期に焼き付く恐れがあるという問題がある。
【0004】
本発明の目的は、上記問題を解決することにあり、一方向の大きな荷重を必要とせず確実に保持器を破断させることのできる、転がり軸受用保持器の耐久試験方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 外輪と内輪との間に介装される多数の転動体を周方向に転動可能に保持する転がり軸受用保持器の耐久試験方法において、前記内輪に嵌合した軸を回転させるとともに、前記外輪に嵌合したハウジングにモーメント荷重とラジアル荷重とを加えて前記保持器の耐久性を評価することを特徴とする耐久試験方法。
(2) 外輪と内輪との間に介装される多数の転動体を周方向に転動可能に保持する転がり軸受用保持器の耐久試験装置において、前記外輪に嵌合するハウジングと、前記内輪に嵌合する軸と、該軸を駆動する駆動手段と、前記ハウジングにモーメント荷重を負荷するモーメント荷重負荷手段と、前記ハウジングにラジアル荷重を負荷するラジアル荷重負荷手段とを備えたことを特徴とする耐久試験装置。
【0006】
本発明によれば、外輪に嵌合したハウジングにモーメント荷重とラジアル荷重の2種類の異なる方向の荷重を同時に加えるので、それぞれの荷重を大きくしなくても転動体と保持器との公転速度差が効率よく発生し、一方向の荷重だけを加える場合に比べて軸受全体に係る負荷が小さくなる。また、従来のようにスラスト荷重を用いるよりもモーメント荷重を用いる方が、小さい荷重で保持器に負荷を効率よくかつ容易に与えることができる。したがって、耐久試験中に軸受が高温になって焼き付くことがない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐久試験の際に、外輪に嵌合したハウジングにモーメント荷重とラジアル荷重の2種類の荷重を同時に加えるので、保持器を破断させるのに、従来の一方向の荷重だけを加える場合のような極めて大きな負荷を必要としない。したがって、保持器の耐久試験の際に軸受が高温にならず、保持器破断前に軸受が焼き付くことがなく、確実な破断確認を実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1は本発明を実施する転がり軸受用保持器の耐久試験装置の構成図である。
【0009】
この装置は、耐久試験をされる保持器を内蔵した試験用軸受1の外輪3に嵌合するハウジング5と、試験用軸受1の内輪7に一端が嵌合する軸9と、この軸9の他端に嵌合して軸9を回転駆動するのに用いられるプーリ11と、軸9を回転可能に支持し軸受支持部材13を介して支持壁15に固定される軸受17とを備えている。プーリ11は図示しないモータにより回転される。
【0010】
支持壁15には、試験用軸受1が嵌合したハウジング5に軸方向からモーメント荷重を負荷するモーメント荷重負荷装置18が設けられている。モーメント荷重負荷装置18は、ハウジング5に軸方向から当接するロッド19と、該ロッド19をハウジング5に向けて所定の負荷で押圧する圧縮コイルばね21と、圧縮コイルばね21の圧縮状態を調節する止め輪23a,23bとナット25とからなる。ナット25は軸19に固着され、軸19は支持壁15と螺合している。そして、ナット25の締め付け加減で押圧力を調整するようになっている。
【0011】
また、基台27には試験用軸受1が嵌合したハウジング5にラジアル荷重を負荷するラジアル荷重負荷装置29が設けられている。ラジアル荷重負荷装置29は、ハウジング5に周方向から当接するロッド31と、該ロッド31をハウジング5に向けて所定の負荷で押圧する圧縮コイルばね33と、圧縮コイルばね33の圧縮状態を調節する止め輪35a,35bとナット37とからなる。ナット37は軸31に固着され、軸31は基台27と螺合している。そして、ナット37の締め付け加減で押圧力を調整するようになっている。
【0012】
モーメント荷重及びラジアル荷重を負荷することにより、荷重が負荷された側の図中下側の軸受回転面S1は軸心Oに対してわずかに傾く。ここで、荷重としてモーメント荷重が用いられるので、小さな荷重でも所要の負荷を与えることができる。なお、荷重が負荷されていない側の図中上側の軸受回転面S2は軸心Oとほぼ直交状態を維持している。この結果、図中L1とL2とで表す転動体4の軌道半径に差が生じ、転動体4と保持器(図示せず)との公転速度差が発生し、転動体4と保持器とが衝突を引き起こし、保持器が疲労する。このため、軸受1が高温となるような大きなモーメント荷重を必要とせず軸受1を焼き付かせることなく保持器の耐久性を評価することができる。
【0013】
保持器の耐久試験を行うには、まず、軸9に軸受内輪7を嵌合させハウジング5に軸受外輪1を嵌合させる。次に、モーメント荷重負荷装置18により、所定の曲げモーメント荷重をハウジング5を介して軸受1に加え、かつラジアル荷重負荷装置29により、所定のラジアル荷重をハウジング5を介して軸受1に加える。最後に、図示しないモータを駆動してプーリ11を介して軸9を回転させる。そして、保持器が破断するまでの時間を測定することにより、モーメント荷重、ラジアル荷重を参照して保持器の評価を行う。
【0014】
なお、上記実施形態は、圧縮コイルばね21,33により負荷荷重を発生する構成であるが、これに代えて、空気圧シリンダ、油圧シリンダ、おもり等を用いて負荷荷重を発生する構成であってもよい。
【0015】
実施例1
上記構成の試験装置を用いて、保持器の破断試験を行った。試験条件は以下の通りである。
試験軸受:日本精工株式会社製 玉軸受6202J1
内径:15mm 外径:35mm 幅:11mm
玉径:15/64インチ 玉数:8個
モーメント荷重:35.3kN−mm
ラジアル荷重:0.98kN
軸回転数:10000回転/分
【0016】
試験の結果、試験開始から250時間経過時に保持器が破断されたことが確認できた。そして、保持器の破断時まで、軸受は高温にならず焼き付けを起こすことなく軸を良好に回転支持していた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明実施形態の保持器耐久試験装置の構成図である。
【符号の説明】
【0018】
1 軸受
3 軸受外輪
4 転動体
5 ハウジング
7 軸受内輪
9 軸
11 プーリ
13 軸受支持部材
15 支持壁
17 軸受
18 モーメント荷重負荷装置
19,31 ロッド
21,33 圧縮コイルばね
23a,23b,35a,35b 止め輪
25,37 ナット
27 基台
29 ラジアル荷重負荷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に介装される多数の転動体を周方向に転動可能に保持する転がり軸受用保持器の耐久試験方法において、前記内輪に嵌合した軸を回転させるとともに、前記外輪に嵌合したハウジングにモーメント荷重とラジアル荷重とを加えて前記保持器の耐久性を評価することを特徴とする耐久試験方法。
【請求項2】
外輪と内輪との間に介装される多数の転動体を周方向に転動可能に保持する転がり軸受用保持器の耐久試験装置において、前記外輪に嵌合するハウジングと、前記内輪に嵌合する軸と、該軸を駆動する駆動手段と、前記ハウジングにモーメント荷重を負荷するモーメント荷重負荷手段と、前記ハウジングにラジアル荷重を負荷するラジアル荷重負荷手段とを備えたことを特徴とする耐久試験装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−192679(P2007−192679A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11410(P2006−11410)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】