説明

転がり軸受用保持器及びその製造方法、転がり軸受

【課題】ポケット内周面の表面に固体潤滑剤膜を成膜した保持器よりも耐摩耗性を維持できる保持器、並びに前記保持器を備え耐久性に優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】耐摩耗性を付与するための添加剤を含有する樹脂組成物からなり、かつ、保持器内部における前記添加剤の濃度が、ポケット内周面において最も高い転がり軸受用保持器、並びに前記保持器を備える転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器及びその製造方法、並びに前記保持器を備える転がり軸受に関し、より詳細にはポケット内周面の耐摩耗性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受用の保持器として、小型軽量化や低コスト化等の要求に対応すべく、樹脂製の保持器が広く用いられるようになってきている。このような樹脂製保持器においては、その機械的強度を向上させたり、寸法安定性を付与するために、ガラス繊維等の繊維状補強材を樹脂に配合した樹脂組成物を射出成形法によって成形して得られる。
【0003】
また、転動体との摺接面であるポケット内周面の表面に、固体潤滑剤膜を成膜して耐摩耗性を向上させた保持器も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−87986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポケット内周面の表面に固体潤滑剤膜を成膜した保持器では、固体潤滑剤膜の強度や、固体潤滑剤膜とポケット内周面との接合力等から、耐久性に問題がある。
【0006】
そこで本発明は、ポケット内周面の表面に固体潤滑剤膜を成膜した保持器よりも耐摩耗性を維持できる保持器、並びに前記保持器を備え耐久性に優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は下記の転がり軸受用保持器及びその製造方法、転がり軸受を提供する。
(1) 転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器であって、耐摩耗性を付与するための添加剤を含有する樹脂組成物からなり、かつ、保持器内部における前記添加剤の濃度が、ポケット内周面において最も高いことを特徴とする転がり軸受用保持器。
(2)前記添加剤が磁性材料と共にマイクロカプセルに内包されていることを特徴とする上記(1)記載の転がり軸受用保持器。
(3)転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器の製造方法であって、耐摩耗性を付与するための添加剤と、磁性材料とを内包するマイクロカプセルを樹脂に配合してなる樹脂組成物を、成形用金型のポケット内周面と対向する位置に磁気発生手段を配置して成形することを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。
(4)内輪と、外輪との間に、複数の転動体を上記(1)または(2)記載の転がり軸受用保持器により転動自在に保持してなることを子特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転がり軸受は、保持器のポケット内周面の表層内部に耐摩耗性を付与する添加剤が最も高濃度で局在しているため、高速回転時にも転動体との摩耗が少なく、保持器の寿命が延び、耐久性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
本発明の転がり軸受は、後述される保持器を備える限り、その種類や構成、構造に制限はない。例えば、図1に示すような玉軸受1を例示することができる。図示される玉軸受1は、内輪10と外輪11との間に、保持器12により複数の玉13を転動自在に保持するとともに、潤滑のためのグリースGを充填し、シール14で密封したものである。尚、グリースGにも制限はなく、公知のグリースを封止することができるが、耐熱性を考慮するとウレア系グリースが好ましい。
【0011】
保持器12としては、例えば図2に示す冠型保持器とすることができる。図示される冠型保持器では、円環状の基部20に、玉(図示せず)を保持するためのポケット21が等間隔で形成されている。また、ポケット21の上端両側には弾性片22が形成されており、ポケット全体として円弧状を呈している。
【0012】
本発明では、図3に模式的に示すように、保持器12のポケット21の内周面21aの表層内部に、耐摩耗性を付与するための添加剤Ad(以下「摩耗防止剤」)が最も高濃度で局在している。
【0013】
摩耗防止剤としては固体潤滑剤が好適であり、四フッ化エチレン、二硫化モリブデン、フッ化カーボン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素等が挙げられる。また、これら固体潤滑剤は複数種を組み合わせてもよい。
【0014】
摩耗防止剤を内周面21aの表層内部に局在化させるためには、摩耗防止剤と、酸化鉄粒子等の磁性材料とをマイクロカプセル化し、保持器112を形成する樹脂組成物に添加した成形材料を調製し、図4に模式的に示すように、ポケット形成部分に磁石30を配置した成形用金型31を用いて成形すればよい。成形方法としては、生産性から射出成形が好ましい。成形中に、摩耗防止剤と磁性材料とを含むマイクロカプセル25が、磁石30によりポケット21の内周面21aに引き寄せられ、内周面21aの表層内部にマイクロカプセル25が局在化する。従って、マイクロカプセル25における磁性材料の含有量は、成形中にマイクロカプセル25を磁石30に引き寄せることができれば制限はなく、磁石30の磁力に応じて適宜設定される。
【0015】
尚、マイクロカプセル25を製造方法には制限がなく、例えば、摩耗防止剤と磁性材料とを分散させた分散液を用いてコアセルベーション法や界面重合法等の公知の方法により、容易に得ることができる。得られるマイクロカプセルの粒径にも制限はなく、数十〜数百μmが適当である。
【0016】
また、マイクロカプセル25には、摩耗防止剤と磁性材料の他に、所望の添加剤を添加することができるが、相対的に摩耗防止剤及び磁性材料の量が減り、ポケット21の内周面21aの表層内部における摩耗防止剤が少なくなり、保持器12の耐摩耗性が低下するようなる。
【0017】
樹脂組成物には制限がなく、ベース樹脂に繊維状補強材を配合したものが一般的である。ベース樹脂としては、例えば、46ナイロンや66ナイロン等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレートやポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。また、繊維状補強材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、あるいは各種ウィスカ等が挙げられるが、ベース樹脂との接着性を高めるために、シランカップリング剤で表面処理することが好ましい。
【0018】
また、樹脂組成物には所望により種々の添加剤を添加することができ、例えば、光による劣化を防止するために、ヨウ化化合物等の熱安定剤、アミン化合物やフェノール化合物等の酸化防止剤、光安定化剤を添加できる。更には、着色剤や帯電防止剤、離型剤、流動性改良剤、結晶化促進剤等を添加してもよい。これらの添加剤は、ポケット21の内周面21aの表層内部を除いて保持器全体に存在し、それぞれの添加剤の効果が十分に発現する。
【実施例】
【0019】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0020】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
表1に示すように、実施例ではガラス繊維を30質量%含有するポリイミド樹脂に、表記の摩耗防止剤と磁性材料とを含有するマイクロカプセルを全体の10質量%配合して成形材料を調製し、ポケット内周面に対面するように磁石を配置して射出成形して日本精工(株)製6210玉軸受(外径90mm、内径50mm、幅20mm)用の冠型保持器を成形した。マイクロカプセルは、摩耗防止剤と磁性粒子との混合物をポリスチレンで被覆したものを用いた。
【0021】
比較のために、表1に示すように、比較例1ではガラス繊維を10質量%含有するポリイミド樹脂を同形状の冠型保持器に成形し、更にそのポケット内周面に二硫化モリブデン薄膜を成膜した。また、比較例2では、ガラス繊維を10質量%含有するポリイミド樹脂に更に全体の20質量%の割合で炭素繊維を配合して同形状の冠型保持器を成形した。また、比較例3では、ガラス繊維を10質量%含有するポリイミド樹脂に、更に全体の20質量%の割合でチタン酸ウィスカを配合して同形状の冠型保持器を成形した。
【0022】
各冠型保持器を用いて上記日本精工(株)製6210玉軸受を組み立て、ウレアグリースを軸受空間の30体積%占めるように充填し、耐熱ゴムシールで封止して試験軸受を作製した。そして、試験軸受を用いて下記に示す(1)耐摩耗性試験及び(2)焼付き耐久試験を行った。
(1)耐摩耗性試験
試験軸受をアキシアル荷重980N、回転数15000min−1で10時間連続回転させ、試験後に分解して保持器のポケット内周面の摩耗深さを測定した。結果を表1に示す。
(2)焼付き耐久試験
試験軸受をアキシアル荷重980N、回転数15000min−1で連続回転させ、軸受温度の上昇とモータ電流値(トルク)上昇を起こした時点で焼付き発生とみなし、それまでの時間(焼付き寿命)を計測した。本試験における焼付き寿命は保持器の破損に起因するものであり、保持器が摩耗して潤滑性に悪影響を及ぼしたり、保持器変形により軸受内部と接触するなどして異常発熱が起こったことが原因と見られる。結果を表1に、比較例1の焼付き寿命に対する相対値にて示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、本発明に従い、摩耗防止剤を含むマイクロカプセルがホケット内周面の表粗内部に局在する実施例の保持器は摩耗が格段に少なく、これを組み込んだ軸受も耐久性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の転がり軸受の一例(玉軸受)を示す断面図である。
【図2】保持器の一例(冠型保持器)を示す斜視図である。
【図3】図2に示す保持器のポケット周辺部の断面を模式的に示す図である、
【図4】図2に示す保持器の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
20 基部
21 ポケット
21a 内周面
22 弾性片
25 マイクロカプセル
30 磁石
31 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器であって、
耐摩耗性を付与するための添加剤を含有する樹脂組成物からなり、かつ、保持器内部における前記添加剤の濃度が、ポケット内周面において最も高いことを特徴とする転がり軸受用保持器。
【請求項2】
前記添加剤が磁性材料と共にマイクロカプセルに内包されていることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
【請求項3】
転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器の製造方法であって、
耐摩耗性を付与するための添加剤と、磁性材料とを内包するマイクロカプセルを樹脂に配合してなる樹脂組成物を、成形用金型のポケット内周面と対向する位置に磁気発生手段を配置して成形することを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。
【請求項4】
内輪と、外輪との間に、複数の転動体を請求項1または2記載の転がり軸受用保持器により転動自在に保持してなることを子特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−53971(P2010−53971A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220284(P2008−220284)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】