説明

転がり軸受用部材および転がり軸受

【課題】転がり軸受を廃棄した際に高分子部材から発生する炭酸ガス量を低減し、大気中の炭酸ガス濃度の増加抑制・防止もしくは低減に貢献できる転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受を提供する。
【解決手段】外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、上記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受に用いられる合成樹脂組成物の成形体からなる転がり軸受用部材であり、該部材は、内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれた少なくとも一つの部材であり、上記合成樹脂組成物を構成する高分子母材は、その製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いている。また、シール部材を構成する高分子母材にもバイオマス由来の原料を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受用部材および転がり軸受に関し、特にバイオマス由来の原料を用いて合成された高分子を母材とする合成樹脂組成物の成形体からなる転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受を構成する部材の中でも、特に保持器やシール部材は、合成樹脂組成物や高分子弾性体の成形体として構成される場合が多い。ここで合成樹脂組成物や高分子弾性体は化石資源由来のエンジニアリングプラスチックや合成ゴムが採用されてきた。
【0003】
使用済み転がり軸受を産業廃棄物として処分するときの生物環境を害するおそれに対して、従来、生分解性を有する合成樹脂製保持器や樹脂性シールまたはグリースを適用した軸受が提案されている(特許文献1および特許文献2)。
しかし、生分解性を有する合成樹脂組成物を用いた場合であっても、該合成樹脂組成物を構成する高分子母材が化石資源由来のプラスチック等であると、生分解や燃焼等により最終的に炭酸ガス排出源となり、地球温暖化に悪影響を及ぼすという問題がある。
【特許文献1】特許第3993377号
【特許文献2】特開2004−68913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、転がり軸受を廃棄した際に高分子部材から発生する炭酸ガス量を低減し、大気中の炭酸ガス濃度の増加抑制・防止もしくは低減に貢献できる転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転がり軸受用部材は、外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、上記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受に用いられ、合成樹脂組成物の成形体からなり、該転がり軸受用部材は、内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれた少なくとも一つの部材であり、上記合成樹脂組成物を構成する高分子母材は、その製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いていることを特徴とする。
特に、転がり軸受用部材が保持器であることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の転がり軸受用部材は、外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、シール部材とを備えた転がり軸受に用いられ、高分子弾性体または合成樹脂組成物からなり、該転がり軸受用部材は、上記シール部材であり、上記高分子弾性体または合成樹脂組成物を構成する高分子母材は、その製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いていることを特徴とする。
【0007】
本発明の転がり軸受用部材に用いられる合成樹脂組成物の成形体または高分子弾性体を構成する高分子母材は、少なくとも放射性炭素14(14C)が含まれることを特徴とする。
また、上記高分子母材は、ポリアミド類、ポリエステル類、セルロース誘導体類から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。特に、上記高分子母材は、ポリアミド11、ポリアミド6−10、ポリアミド66、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロースから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0008】
本発明の転がり軸受は、外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備え、上記内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれた少なくとも一つの部材は、製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材の合成樹脂組成物の成形体であることを特徴とする。
また、転がり軸受を構成するシール部材は、製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子を主母材とした高分子弾性体もしくは合成樹脂組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転がり軸受用部材は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いて合成された高分子(以後、バイオプラスチックともいう)を主母材として用いるので、化石資源由来の高分子を用いた場合と比べて、転がり軸受の廃棄・リサイクルの過程で、これら部材から実質的に炭酸ガスを排出しない、または炭酸ガスの排出量を抑制できる、環境負荷の低い保持器および/またはシール等を用いた転がり軸受の提供ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、バイオマスとは、平成18年3月31日に農林水産省で策定されたバイオマス・ニッポン総合戦略に定義されているように、再生可能な生物もしくは植物由来の有機性資源であり、化石資源を除いたものである。このようなバイオマスとしては、廃棄される紙、家畜排泄物、食品廃棄物、建設発生木材、製剤工場残材、黒液(パルプ工場廃液)、下水汚泥、し尿汚泥、稲わら、麦わら、もみ殻、林地残材(間伐材、被害木材等)、飼料作物、でん粉系作物や、蟹や海老等の甲殻類の殻等がある。
【0011】
本発明の転がり軸受用部材は、製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材から得られる合成樹脂組成物の成形体、または高分子弾性体から製造される。
上記高分子母材は、バイオマス由来の原料を少なくともその一部に用いて合成した高分子である。大気中の炭酸ガスを吸収して成長した植物それらを摂取した生物等から原料を抽出・変性し、重合過程を経て高分子材料としたものである。このため廃棄時に燃焼処分や生分解しても特に大気中の炭酸ガス濃度の増加に寄与しない、または従来の化石系原料から合成される高分子と比べて炭酸ガス排出量を抑制できる、カーボンニュートラル(炭素循環に対して中立(害を及ぼさない))と呼ばれる特徴を持つ。
【0012】
転がり軸受の多くは、内外輪および転動体が金属である軸受鋼であるため、その廃棄の場合には、通常、鉄としてリサイクルされる。このリサイクル過程で軸受に含まれる高分子部材は燃焼され、炭酸ガスとして処分される場合が多い。
転がり軸受用部材として用いられている高分子母材の炭素元素に着目した場合、その炭素元素は化石資源由来のものとバイオマス由来のものに区分することができる。高分子母材を構成する全炭素元素に占めるバイオマス由来の炭素元素の比率をバイオマス炭素含有率(以後、バイオカーボン度という)として、式(1)により算出することができる。

バイオカーボン度(%)=(バイオマス由来の炭素元素数/高分子母材の全炭素元素数)×100・・・・・・(1)

本発明で用いる高分子母材としては、バイオカーボン度が0%をこえていれば特に問題はないが、燃焼時の炭酸ガス排出量削減の効果を上げるためには、15%以上のバイオカーボン度が好ましく、この値は高ければ高いほどよい。
【0013】
高分子母材がバイオマス由来の原料から構成されているかどうかは、母材中に含まれる放射性炭素14(以後、14Cともいう)の有無を調べることで判定できる。14Cの半減期は5730年であることから、1千万年以上の歳月を経て生成されるとされる化石資源由来の炭素には14Cが全く含まれない。このことから高分子部材中に14Cが含まれていれば、少なくともバイオマス由来の原料を用いていると判断できる。
【0014】
高分子母材のバイオカーボン度は、加速器質量分析(AMS)法やβ線測定法などによる14Cの濃度測定結果から求めることもできる(例えばASTM D6866)。しかしながら、大気中の14C濃度は変動するため、バイオプラスチックス中に含まれる14C濃度も例えば収穫年毎に変動することから、正確なバイオカーボン度を求めるにはそれらの補正を行なう必要がある。
【0015】
化石資源由来の高分子と比べてバイオプラスチックスは、原料の種類が限られ、また醗酵による変換や化学変換を行なう際の自由度も小さい場合が多いことから、その多くはエステル系またアミド系高分子である。またこのことから得られたバイオプラスチックスは加水分解性や生分解性を有している場合が多く、加えて一般的に強度、靭性、耐熱性や耐劣化性が化石資源由来樹脂と比べて劣る場合が多いため、信頼性が要求される機械部品用途には適用しにくいという問題がある。
【0016】
本発明に使用可能なバイオプラスチックスとしての高分子母材は、その原料の一部または全部がバイオマス由来の原料から構成された、ポリ乳酸(PLA)、ポリ3−ヒドロキシブタン酸[P(3HB)]、ポリアミド11(以下、PA11という)、ポリアミド6−10(以下、PA6−10という)、ポリアミド66(以下、PA66という)などの一部のポリアミド類、ポリブチレンサクシネート(以下、PBSという)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTという)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル類、酢酸セルロース(以下、CAという)、酢酸プロピオン酸セルロース(以下、CAPという)、酢酸酪酸セルロース(以下、CABという)などのセルロース誘導体類などが挙げられ、使用するモノマー成分の一部または全部にバイオマス原料を利用したものであればどのようなものでも使用できる。
例えば、上記に挙げたもの以外にも、3−ヒドロキシブタン酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体P[(3HB)−co−(3HV)]や、PBSに共重合成分としてアジピン酸のモノマーを加えた共重合体(PBSA)、PBSに乳酸モノマーを加えた共重合体(PBSL)、ε−カプロラクトンを加えた共重合体(PBSCL)、カーボネートを加えた共重合体(PBSC)、バイオマスであるポリフェノールやリグニン等から得られるフェノール類を用いたフェノール樹脂や、バイオマス由来のポリオールや有機酸を用いたエポキシ樹脂なども利用できる。さらには靭性向上などの目的で複数のバイオプラスチックス同士や、化石資源由来の高分子とのアロイ化技術も利用できる。
上記のうち、バイオマス由来原料から比較的経済的に合成・重合し易くて、バイオカーボン度も高く、かつ耐生分解性もしくは耐加水分解性に優れ信頼性を確保しやすいことから、PA11、PA6−10、PA66、PTT、またはCA、CAP、CABなどのセルロース誘導体類が好ましい。
【0017】
本発明に使用可能な高分子弾性体としての高分子母材は、天然ゴム、ヒマシ油由来の11−アミノウンデカン酸などから合成されるアミド系熱可塑性エラストマーなどがあり、またはこれらと、化石資源由来の合成ゴムや例えばポリ塩化ビニルなどの合成樹脂とのブレンド品が挙げられる。天然ゴムは、通常耐油性や耐候性に劣るため必要に応じて、15%以上のバイオカーボン度が得られるように化石資源由来の合成ゴムや合成樹脂とブレンドされる。
【0018】
これら上述のバイオマス由来原料を用いた14Cを含む高分子母材に、転がり軸受の用途に応じて、粒状物、板状物、繊維状物等の補強材、熱、紫外線、酸化や加水分解等による劣化を抑制する劣化抑制剤や劣化防止剤、成形性や成形体の柔軟性を向上する為の可塑剤、柔軟剤、帯電防止剤や導電材等の添加剤、分散剤や顔料等を添加することもできる。
また、成形体の耐衝撃を向上するための、例えばゴム変性等の耐衝撃向上手法や、ラジカル発生剤、架橋剤、放射線や電子線等による架橋構造の導入による耐熱性向上手法を用いることもできる。
その他、ガスバリア性や防水性、撥水性、耐熱性、潤滑性、耐油性の向上等を目的に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)やシリカなどの無機物系表面処理や、樹脂コーティングなどの有機物系表面処理を施してもよい。
【0019】
本発明の転がり軸受の一例を図1により説明する。図1はグリース封入深溝玉軸受の断面図である。深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4を保持する保持器5が設けられている。また、外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲にグリース7が封入される。
本発明においては、特に保持器5をバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材の合成樹脂組成物の成形体として、シール部材6をバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材の高分子弾性体もしくは合成樹脂組成物の成形体とすることが好ましく、また、内輪、外輪、転動体は鋼またはセラミックから構成することが好ましい。
【0020】
また、図2に示すように、シール部材6は、上述の高分子弾性体もしくは合成樹脂組成物の成形体と、金属板、プラスチック板、セラミック板等との複合体としてもよい。
【0021】
また、本発明の転がり軸受の潤滑方式は、既知の、例えばグリース潤滑、油潤滑、エアオイル潤滑、固体潤滑等、どのような方法を採用してもよい。またグリース潤滑や油を使った潤滑の場合、それらには、従来から用いられている鉱油等の化石資源由来材だけでなく、生分解性を付与したものやバイオマス由来材を適用したものを用いることもできる。
【0022】
なお、転がり軸受として深溝玉軸受を例示して説明したが、本発明の転がり軸受は、他の種々の転がり軸受やこれらを組込んだ軸受ユニット部品に対して適用できる。例えば、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受に適用できる。
【実施例】
【0023】
以下の各実施例に示す高分子部材を保持器およびシール部材に使用して、図1に示す構成の転がり軸受をそれぞれ製造できる。
【0024】
実施例1
高分子成分を構成する全ての炭素元素が、バイオマス由来材(14Cを含む)よりなる高分子のみを用いた場合を示す(バイオカーボン度100%)。バイオカーボン度が100%であることから、焼却処分時に高分子成分が分解して発生する炭酸ガス量は実質的に皆無である。100%化石資源原料を用いて製造された同高分子を用いた場合と比較すると、その焼却処分時の排出炭酸ガス削減率は100%であり、転がり軸受に用いる高分子部材に用いた場合、炭酸ガス排出量低減の効果が著しく高い。
【0025】
バイオカーボン度100%の高分子として、天然物由来の糖分を経由して醗酵法から得られるL体やD体の乳酸から重合されるPLAやこれらの混合物、ヒマシ油を経由して合成されるウンデシレン酸等から得られる11−アミノウンデカン酸を重合して製造されるPA11、グルコース由来のピルビン酸等を経由して得られるコハク酸と、このようなコハク酸経由で合成される1,4−ブタンジオールから製造されるPBS、バイオマス由来原料で変性処理したセルロース類、セルロース類の糖化過程で得られるフルフラールからアジポニトリル等を経由して得られるヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を重合して得られるPA66、フルフラール経由の前述のヘキサメチレンジアミンとヒマシ油を経由して合成されるセバシン酸を重合して得られるPA6−10が挙げられる。
これらの重合体は成形性があり、保持器およびシール部材を成形することができ、これらはバイオマス由来原料から重合されるため、その原理上高分子母材中に14Cが必ず含まれる。
【0026】
実施例2
高分子成分を構成する炭素元素のうち、その62.5%がバイオマス由来材(14Cを含む)、残りの37.5%が化石資源由来材(14Cを全く含まない)よりなる高分子を用いた場合を示す(バイオカーボン度62.5%)。
化石資源由来の炭素元素量が37.5%であることから、焼却処分時に高分子成分が完全に分解した場合、全て化石資源由来の原料より製造した同高分子と比較すると、発生する炭酸ガス量は37.5%である。
したがって、全て化石資源由来の原料より製造した同高分子を用いた場合と比較すると、その焼却処分時の排出炭酸ガス削減率は62.5%であり、転がり軸受に用いる高分子母材に用いた場合、炭酸ガス排出量低減の効果が非常に高い。
【0027】
バイオカーボン度62.5%の高分子として、バイオマスであるヒマシ油から合成されるセバシン酸と化石資源由来のヘキサメチレンジアミンとを重合して製造されるPA6−10が挙げられる。
この重合体は成形性があり、保持器およびシール部材を成形することができ、これらはバイオマス由来原料から重合されるため、その原理上高分子母材中に14Cが必ず含まれる。
【0028】
実施例3
高分子成分を構成する炭素元素のうち、その50%がバイオマス由来材(14Cを含む)、残りの50%が化石資源由来材(14Cを全く含まない)よりなる高分子を用いた場合を示す(バイオカーボン度50%)。
化石資源由来の炭素元素量が50%であることから、焼却処分時に高分子成分が完全に分解した場合、全て化石資源由来の原料より製造した同高分子と比較すると、発生する炭酸ガス量は50%である。
したがって、全て化石資源由来の原料より製造した同高分子を用いた場合と比較すると、その焼却処分時の排出炭酸ガス削減率は50%であり、転がり軸受に用いる高分子母材に用いた場合、炭酸ガス排出量低減の効果が非常に高い。
【0029】
バイオカーボン度50%の高分子として、コハク酸(もしくはコハク酸ジメチル)、1,4−ブタンジオールのうち、どちらか一方のみが上述のようなバイオマス由来材から製造されるPBS等が挙げられる。
この重合体は成形性があり、保持器およびシール部材を成形することができ、これらはバイオマス由来原料から重合されるため、その原理上高分子母材中に14Cが必ず含まれる。
【0030】
実施例4
高分子成分を構成する炭素元素のうち、その約27%がバイオマス由来材(14Cを含む)、残りの約73%が化石資源由来材(14Cを全く含まない)よりなる高分子を用いた場合を示す(バイオカーボン度27%)。
化石資源由来の炭素元素量が73%であることから、焼却処分時に高分子成分が完全に分解した場合、全て化石資源由来の原料より製造した同高分子と比較すると、発生する炭酸ガス量は73%である。
したがって全て化石資源由来の原料より製造した同高分子を用いた場合と比較すると、その焼却処分時の排出炭酸ガス削減率は27%であり、転がり軸受に用いる高分子部材に用いた場合、炭酸ガス排出量低減の効果が高い。
このような高分子として、バイオマスである澱粉から得られる1,3−プロパンジオールと化石資源由来のテレフタル酸(もしくはテレフタル酸ジメチル)から製造されるPTT等が挙げられる。
この重合体は成形性があり、保持器およびシール部材を成形することができ、これらはバイオマス由来原料から重合されるため、その原理上高分子母材中に14Cが必ず含まれる。
【0031】
実施例5
高分子成分を構成する炭素元素のうち、その約17%がバイオマス由来材(14Cを含む)、残りの約83%が化石資源由来材(14Cを全く含まない)よりなる高分子を用いた場合を示す(バイオカーボン度17%)。
化石資源由来の炭素元素量が83%であることから、焼却処分時に高分子成分が完全に分解した場合、全て化石資源由来の原料より製造した同高分子と比較すると、発生する炭酸ガス量は83%である。
したがって全て化石資源由来の原料より製造した同高分子を用いた場合と比較すると、その焼却処分時の排出炭酸ガス削減率は17%であり、転がり軸受に用いる高分子部材に用いた場合、炭酸ガス排出量低減の効果が高い。
このような高分子として、用いる1,4−ブタンジオールの半分をバイオマスから合成される例えばコハク酸由来物(14Cを含む)、残りの半分を化石資源由来物とし、化石資源由来のテレフタル酸(もしくはテレフタル酸ジメチル)と重合することにより得られるPBT等が挙げられる。
この重合体は成形性があり、保持器およびシール部材を成形することができ、これらはバイオマス由来原料から重合されるため、その原理上高分子母材中に14Cが必ず含まれる。
【0032】
比較例1
化石資源由来の、例えばプロピレンからアクリルニトリル等を経由して得られるヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを重合することにより得られるPA66(化石資源由来の高分子であり、14Cを全く含まない)を用いて保持器を作製し、化石資源由来のNBRゴムを用いたシール部材を製作し、これらを用いて図1に示す構成の転がり軸受を製造する場合を示す。軸受に用いる全ての高分子部材が化石資源由来であるため、バイオカーボン度は0%である。
【0033】
各実施例、比較例で製造される転がり軸受を廃棄する場合、用いた高分子製保持器および高分子製シールは燃焼分解し、炭酸ガスとして大気中に放出される。用いる高分子保持器および高分子シールを化石資源由来の原料から作製した場合を基準(比較例1)とし、全部もしくは一部をバイオマス由来の原料から作製したバイオプラを用いた場合(実施例1〜実施例5)のバイオマス度と炭酸ガス排出率を表1に示す。
排出される炭酸ガスの内、バイオマス由来の炭素(以下、バイオカーボン)からなる炭酸ガス分は、カーボンニュートラルの観点から大気中の炭酸ガスを増加しないため、排出される炭酸ガス量には含まれない。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のバイオマス由来の原料を用いた転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受は、転がり軸受の廃棄・リサイクルの過程で、これら部材から実質的に炭酸ガスを排出しない、または炭酸ガスの排出量を抑制でき、環境負荷の低い転がり軸受を提供できるので、今後の地球温暖化を抑制できる機械、装置に広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】グリース封入深溝玉軸受(シール部材の芯金なし)の断面図である。
【図2】グリース封入深溝玉軸受(シール部材の芯金あり)の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8a、8b 軸方向開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受に用いられる合成樹脂組成物の成形体からなる転がり軸受用部材であって、
該転がり軸受用部材は、前記内輪、前記外輪、前記転動体、および前記保持器から選ばれた少なくとも一つの部材であり、
前記合成樹脂組成物を構成する高分子母材は、その製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いていることを特徴とする転がり軸受用部材。
【請求項2】
前記転がり軸受用部材が保持器であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用部材。
【請求項3】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、シール部材とを備えた転がり軸受に用いられる高分子弾性体または合成樹脂組成物からなる転がり軸受用部材であって、
該転がり軸受用部材は、前記シール部材であり、前記高分子弾性体または合成樹脂組成物を構成する高分子母材は、その製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いていることを特徴とする転がり軸受用部材。
【請求項4】
前記高分子母材は、少なくとも放射性炭素14(14C)が含まれることを特徴とする請求項1または請求項3記載の転がり軸受用部材。
【請求項5】
前記高分子母材は、ポリアミド類、ポリエステル類、セルロース誘導体類から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受用部材。
【請求項6】
前記高分子母材は、ポリアミド11、ポリアミド6−10、ポリアミド66、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロースから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受用部材。
【請求項7】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受であって、
前記内輪、前記外輪、前記転動体、および前記保持器から選ばれた少なくとも一つの部材が請求項1記載の部材であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項8】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、シール部材とを備えた転がり軸受であって、
前記シール部材が請求項3記載の部材であることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate