説明

転がり軸受装置および連続鋳造機用のロール装置

【課題】リングに大きな転倒モーメント等、複雑な荷重がかかった場合においても、リングが環状溝から外れる可能性が殆どない転がり軸受装置およびそのような転がり軸受装置を備える連続鋳造機用のロール装置を提供すること。
【解決手段】ロール21のリング取付溝64に、第1および第2の円弧状の部材80,81からなる略環状のリング40を取り付ける。リング40は、第2内周面75と、第2内周面75よりも径方向の内方に突出する突出部84を有する。リング40の突出部84を、ロール21のリング取付溝64に収容する。リング40の外周面にある雄ねじ部79に雌ねじ部材42の内周面にある雌ねじ部を螺合して、リング40に雌ねじ部材42を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関し、特に、連続鋳造機の駆動ロールや従動ロールや、圧延機の圧延ロールで使用されれば好適な転がり軸受装置等に関する。
【0002】
また、本発明は、特に、ラジアル荷重、アキシアル荷重およびモーメント荷重の全てが作用する状況下で使用されれば好適な転がり軸受装置に関する。
【0003】
また、本発明は、転がり軸受装置を備える連続鋳造機用のロール装置に関する。
【背景技術】
【0004】
従来、転がり軸受装置としては、特開平11−325062号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0005】
この転がり軸受装置は、外輪、内輪、複数の円筒ころ、環状のスペーサ、リングおよび止め輪を備える。
【0006】
上記外輪は、軌道面および軌道面の軸方向の片側に環状溝を有する一方、内輪は、軌道面を有する。上記複数の円筒ころは、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に周方向に間隔をおいて配置されている。
【0007】
上記リングは、上記環状溝に嵌入されている。上記リングは、4つの円弧状の部材(各円弧状の部材の周方向の長さは、弧度法で略π/2ラジアン)が相俟って構成されている。上記リングの径方向の寸法は、上記環状溝の深さよりも大きくなっている。上記リングは、上記環状溝よりも径方向の内方に突出している。
【0008】
上記スペーサは、外輪の軸方向において上記円筒ころと上記リングとの間に配置されている。上記スペーサは、上記円筒ころの軸方向の端面および上記リングの軸方向の端面の両方に当接している。
【0009】
上記リングの内周面は、環状の止め輪取付溝を有している。この止め輪取付溝は、リングの軸方向の中央部に位置し、リングの周方向に延在している。上記止め輪は、上記リングの上記止め輪取付溝に嵌入されている。
【0010】
上記リングは、上記スペーサを介して円筒ころから伝わるアキシアル荷重を負荷する役割を果たしている。また、上記止め輪は、上記リングを径方向の外方に押圧することによって、上記リングが上記環状溝から離脱することを防止する役割を果たしている。
【特許文献1】特開平11−325062号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
連続鋳造機の駆動ロールおよび従動ロールに使用されている転がり軸受装置において、リングが外れると、ロールが軸方向に移動可能になるが、このロールの移動は、転がり軸受装置内部にスラブ冷却水やスケールが混入することによる転がり軸受装置の早期破損や、転がり軸受装置の軸端からのロール冷却水漏れ等を引き起こす。したがって、リングの環状溝からの外れは、上記早期破損等が原因となる緊急操業停止という重大な事態を招く。したがって、リングの環状溝からの外れは、決して起こってはならず、リングの環状溝からの外れは、絶対に阻止されなければならない。
【0012】
このような背景において、スラブが上記連続鋳造機用のロール上を移動することに起因して、ロール等が傾く等して、大きな転倒モーメントがリングに作用すると、リングがその転倒モーメントによって傾き、リングが環状溝から外れやすくなる。
【0013】
そこで、本発明の課題は、リングに大きな転倒モーメント等、複雑な荷重がかかった場合においても、リングが環状溝から外れる可能性が殆どない転がり軸受装置を提供することにある。
【0014】
また、本発明の課題は、大きな転倒モーメント等複雑な荷重が、アキシアル荷重負荷用のリングに作用した場合であっても、リングが環状溝から外れる可能性が殆どない連続鋳造機用のロール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明の転がり軸受装置は、
内周面を有するハウジングと、
外周面を有する軸部材と、
上記ハウジングの上記内周面に嵌合する外周面と、軌道面とを有する第1軌道部材と、
上記軸部材の上記外周面に嵌合する内周面と、軌道面とを有する第2軌道部材と、
上記第1軌道部材の上記軌道面と上記第2軌道部材の上記軌道面との間に配置された複数の転動体と
を備え、
上記ハウジングおよび上記軸部材のうちの一方の部材は、その一方の部材の周面に環状溝を有し、
複数の円弧状の部材を、上記一方の部材の上記周面における軸方向の略同じ位置に軸方向に重ならないように配置してなり、かつ、上記環状溝に収容された略環状の突出部と、上記ハウジングおよび上記軸部材のうちの他方の部材に径方向に対向する略環状の面とを有し、かつ、軸方向の一方の側の端面が、上記第1軌道部材または上記第2軌道部材の軸方向の端面と当接している一方、上記突出部の上記軸方向の上記一方の側と反対側の端面が、上記環状溝の上記軸方向の端面と当接している略環状のリングと
を備え、
上記略環状の面は、ねじ部を有し、
上記ねじ部に螺合しているねじ部を有する周面を有する環状のねじ部材を備えることを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、略環状のリングのねじ部に螺合するように、環状のねじ部材を配置するから、上記リングに転倒モーメント等の複雑な荷重が作用して、上記リングが移動をしようとしても、上記リングが、上記ねじ部材から、径方向にハウジングまたは軸部材の方への力を受けるから、上記リングが殆ど移動することがない。したがって、上記略環状のリングが、上記ハウジングおよび上記軸部材のうちの一方の部材の環状溝から外れる可能性を格段に小さくすることができる。
【0017】
また、一実施形態では、
上記略環状のリングは、上記一方の部材の上記周面における上記環状溝につながる部分に当接することにより上記一方の部材の上記周面に固定された略環状の径方向位置決め面を有する。
【0018】
上記実施形態によれば、上記径方向位置決め面で、リングの径方向の位置決めを行うことができる。
【0019】
また、上記実施形態によれば、上記リングの径方向位置決め面が、突出部に対し上記第1軌道部材または上記第2軌道部材側とは反対側に位置しているから、リングに上記第1軌道部材または第2軌道部材から転倒モーメントが作用しても、その転倒モーメントを、径方向位置決め面が上記一方の部材から受ける垂直抗力によって打ち消すことができて、リングが殆ど傾くことがない。したがって、リングが環状溝から外れる可能性を大幅に低減できる。
【0020】
また、一実施形態では、
上記突出部の上記環状溝の底に対向する面は、上記環状溝の底に対して間隔をおいて位置するか、または、上記突出部と上記環状溝との接触面圧は、上記一方の部材の上記周面と上記径方向位置決め面との接触面圧よりも低い。
【0021】
上記実施形態によれば、上記突出部の上記環状溝の底に対向する面は、上記環状溝の底に対して間隔をおいて位置するか、または、上記突出部と上記環状溝との接触面圧は、上記一方の部材の周面と上記径方向位置決め面との接触面圧よりも低くなっているから、径方向位置決め面が軸部材またはハウジングから受ける垂直抗力が大きくなる。したがって、第1または第2軌道部材からの転倒モーメントを打ち消す能力を大きくすることができて、リングの第1または第2軌道部材からの転倒モーメントに起因する傾きを更に抑制することができる。
【0022】
また、一実施形態では、
上記ねじ部材の少なくとも一部は、上記径方向位置決め面に径方向に重なっている。
【0023】
上記実施形態によれば、上記ねじ部材の少なくとも一部は、上記径方向位置決め面に径方向に重なっているから、上記径方向位置決め面がその径方向位置決め面が当接している周面部分を締め付ける力を大きくできる。したがって、リングの傾きを更に抑制することができる。
【0024】
尚、径方向位置決め面がその径方向位置決め面が締まり嵌めされている周面部分を締め付ける力を大きくするために、ねじ部材の軸方向において半分以上を占める領域が、上記径方向位置決め面に径方向に重なっていることが好ましい。
【0025】
また、一実施形態では、
上記ねじ部材が、上記略環状のリングに対して相対回転することを防止する回動防止部材を備える。
【0026】
上記実施形態によれば、上記回動防止部材で、上記ねじ部材が、上記略環状のリングに対して相対回転することを防止できる。したがって、上記ねじ部材がリングに対して緩むことがなく、上記ねじ部材が、リングから外れることを防止できる。
【0027】
また、本発明の連続鋳造機用のロール装置は、本発明の転がり軸受装置を備え、上記軸部材は、スラブを搬送するロールであることを特徴としている。
【0028】
本発明によれば、アキシアル荷重負荷用のリングを環状溝に嵌入する構造を有する転がり軸受装置において、上記リングが上記環状溝から外れることを格段に抑制できるから、転がり軸受装置の信頼性を高くでき、転がり軸受装置の寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の転がり軸受装置によれば、略環状のリングのねじ部に螺合するように、環状のねじ部材を配置しているから、上記リングに転倒モーメント等の複雑な荷重が作用して、上記リングが移動をしようとしても、上記リングが、上記ねじ部材から、径方向にハウジングまたは軸部材の方への力を受けるから、上記リングが殆ど移動することがない。したがって、上記略環状のリングが、上記ハウジングおよび上記軸部材のうちの一方の部材の環状溝から外れる可能性を格段に小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0031】
図1は、連続鋳造機のスラブ鋳造部分を示す拡大模式図である。
【0032】
この連続鋳造機は、レードルおよびタレット(図示せず)と、タンディシュ1と、モールド2と、複数のセグメント3とを備え、各セグメント3は、モータ等を有して自ら回動できる本発明の一実施形態の駆動ロールを有する駆動ロール装置4と、自ら回動できない本発明の一実施形態の連続鋳造機用従動ロール(以下、従動ロールという)を有する従動ロール装置5とを有する。上記駆動ロール装置4は、所定数従動ロール装置5の代わりに配設される。
【0033】
上記レードルは、タレットにより支持されるようになっている。溶鋼は、上記レードルからノズル8を通してタンディシュ1に注がれるようになっており、その後、モールド2において所定形状(帯状)のスラブに成形されるとともに表面を冷却されるようになっている。その後、スラブは、スラブの両側にその軸線がスラブの表面と平行となるように隔設された駆動ロール装置4および従動ロール装置5によって鋳造、案内及び搬送され、徐々に冷却されるようになっている。
【0034】
図2は、上記従動ロール装置5の構造を示す模式図である。
【0035】
図2に示すように、上記従動ロール装置5は、軸部材としての一体型のロール21と、ハウジングとしての第1軸箱26と、第2軸箱27と、上記一体型のロール21を第1軸箱26に対して回転自在に支承する転がり軸受と、上記一体型のロール21を第2軸箱27に対して回転自在に支承する転がり軸受とを備える。上記一体型のロール21は、軸方向の中央部に位置する大径部29と、大径部の軸方向の一方の側に位置する第1小径部と、大径部の軸方向の他方の側に位置する第2小径部とからなっている。
【0036】
上記第1軸箱26は、ロール21の上記第1小径部を覆うように配置され、第2軸箱27は、ロール21の上記第2小径部を覆うように配置されている。
【0037】
図3は、上記第2軸箱27および第2軸箱27の内部を示す軸方向の模式断面図であり、従動ロール装置5の一部をなす転がり軸受装置の軸方向の模式断面図である。
【0038】
この転がり軸受装置は、軸部材の一例としての上記ロール21と、ハウジングの一例としての上記第2軸箱27および蓋28と、調心輪31と、外輪33と、内輪35と、環状のスペーサ36と、複数の円筒ころ37と、2分割リング40と、ねじ部材としての雌ねじ部材42と、回動防止部材の一例としてのAWワッシャ45とを備える。上記調心輪31および外輪33は、第1軌道部材を構成し、内輪35および環状のスペーサ36は、第2軌道部材を構成する。
【0039】
上記ロール21の第2小径部30は、第1円筒外周面60と、第2円筒外周面62とを有し、第1円筒外周面60の外径は、第2円筒外周面62の外径よりも大きくなっている。上記第1円筒外周面60は、径方向に広がる段部67を介して第2円筒外周面62に連なっている。上記第2小径部30は、環状溝としてのリング取付溝64を有する。上記リング取付溝64は、ロール21の周方向に延在している。上記リング取付溝64の軸方向の一端部および他端部の両方は、第2円筒外周面62につながっている。
【0040】
上記第2軸箱27は、セグメント(図1参照)3に固定されている。上記蓋28は、第2軸箱27の軸方向の外方に取り付けられている。上記第2軸箱27は、その内周面に周方向に延在する環状かつ略円筒状の調心輪取付溝50を有する。上記調心輪31は、円筒状の外周面および球面状の内周面を有する。上記調心輪31の円筒状の外周面は、上記調心輪取付溝50に内嵌されて固定されている。
【0041】
上記調心輪31は、調心輪取り付け溝50に内嵌されて固定されている。上記調心輪31は、第2軸箱27に対して移動できない状態になっている。
【0042】
上記外輪33は、球面状の外周面を有すると共に、円筒軌道面51を有する。上記外輪33の球面状の外周面は、調心輪31の球面状の内周面に嵌合している。スラブの移動等によって、上記ロール21が第2軸箱27に対して傾いた際、調心輪31の球面状の内周面と、外輪33の球面状の外周面との間で、調心を行うようになっている。
【0043】
上記内輪35は、第2小径部30の第2円筒外周面62に外嵌されて固定されている。上記内輪35は、円筒軌道面52を有する。上記内輪35の軸方向の第1円筒外周面60側の端面は、上記段部67に当接している。
【0044】
上記環状のスペーサ36は、円板状の形状を有している。上記環状のスペーサ36は、軸方向の第1端面および第2端面を有し、これらの端面の夫々は、スペーサ36の径方向に広がっている。上記環状のスペーサ36は、第2円筒外周面62に外嵌されて固定されている。上記環状のスペーサ36は、内輪35の軸方向の第1円筒外周面60側とは反対側に配置されている。上記環状のスペーサ36の上記第1端面は、内輪35の軸方向のスペーサ36側の端面に当接している。
【0045】
上記スペーサ36の円筒外周面の外径は、内輪35の円筒軌道面52の外径よりも大きくなっている。上記スペーサ36は、内輪35の円筒軌道面52の軸方向の一方の側において内輪35に対する円筒ころ37軸方向の移動を阻止する鍔輪としての役割を果たしている。
【0046】
上記複数の円筒ころ37は、外輪33の円筒軌道面51と、内輪35の円筒軌道面52との間に、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0047】
上記2分割リング40(詳細は、図4で説明)は、軸方向の断面において略L字状の形状を有している。上記2分割リング40は、その径方向の内方かつ軸方向の内輪35側に、後述する略環状の突出部84を有し、その突出部84は、第2小径部30のリング取付溝64に収容されている。上記2分割リング40は、略環状の部材であって(以下の図4参照)、その外周面(実際には、完全に環状ではないが、実施形態においては、大雑把に外周面と表現する)は、雄ねじ部79を有している。
【0048】
図3に示すように、上記2分割リング40は、第1内周面(実際には、完全に環状ではないが、実施形態においては、大雑把に内周面と表現する)73と、円筒状の第2内周面75(実際には、完全に環状ではないが、実施形態においては、大雑把に内周面と表現する)とを有する。上記第1内周面73の最大内径は、第2内周面75の内径よりも小さくなっている。上記第1内周面73は、略軸ロール21の径方向に広がる段部74を介して第2内周面75に連なっている。上記リング取付溝64は、軸方向の断面において略断面矩形状の形状を有し、リング取付溝64の軸方向の両側の側面は、略ロール21の径方向に広がっている。上記2分割リング40のスペーサ36側の軸方向の端面88は、スペーサ36の2分割リング40側の上記第2端面に当接している。また、上記2分割リング40の段部74は、略断面矩形状のリング取付溝64の軸方向の円筒ころ37側とは反対側の側面に当接している。
【0049】
上記第2内周面75は、ロール21の第2円筒外周面62におけるリング取付溝64の軸方向の円筒ころ37側とは反対側の端部につながる部分に当接して固定されている。上記2分割リング40は、第2内周面75によりロール21に対する径方向の位置決めを行っている。上記第2内周面75は、径方向位置決め面を構成している。
【0050】
上記2分割リング40をリング取付溝64に固定している状態、すなわち、第2内周面75をロール21の第2円筒外周面62の一部に当接して固定している2分割リング40の固定状態において、第1内周面73は、リング取付溝64の底面に対して径方向に間隔をおいて位置している。また、上記2分割リング40の固定状態において、突出部84の円筒ころ37側の端面は、リング取付溝64の側面に対して軸方向に微少な間隔をおいて位置している。
【0051】
上記雌ねじ部材42は、断面L字状の形状を有する。上記雌ねじ部材42は、第1内周面90と、第2内周面91とを有する。上記第1内周面90は、径方向に延在する段部92を介して第2内周面91に連なっている。上記第1内周面90の内径は、第2内周面91の内径よりも大きくなっている。上記第2内周面92は、第2小径部30の第2円筒外周面62に対して間隔をおいて径方向に対向している。上記第1内周面90は、第2内周面91よりもスペーサ36側に位置している。上記第1内周面90は、雌ねじ部を有している。上記第1内周面の雌ねじ部を、2分割リング40の外周面の雄ねじ部79に螺合することにより、雌ねじ部材42を、2分割リング40に螺合している。
【0052】
上記AWワッシャ45は、環状の部材である。上記AWワッシャ45の内周は、周方向の一箇所において、径方向の内方に突出する矩形の第1突出部98(図3で図示せず)を有する一方、AWワッシャ45の外周は、周方向に等間隔に径方向の外方に突出する19個の第2突出部99を有している。
【0053】
図3に示すように、上記AWワッシャ45の本体部(AWワッシャ45において第1,2突出部以外の部分)は、スペーサ36の軸方向の円筒ころ37側とは反対側の上記第2端面と、雌ねじ部材42の軸方向のスペーサ36側の端面とで挟持されている。上記AWワッシャ45の本体部がスペーサ36の上記第2端面と雌ねじ部材42の軸方向のスペーサ36側の端面とで挟持されている状態で、雌ねじ部材42の段部92は、2分割リング40の軸方向の円筒ころ37側とは反対側の端面に対して間隔をおいて軸方向に対向している。
【0054】
尚、上記スペーサ36の軸方向の両端面、および、2分割リング40の軸方向の内輪35側の端面88(図3参照)は、研磨またはラップ仕上げされている。このようにして、スペーサ36の軸方向の両端面および2分割リング40の上記端面88の表面粗さを小さくして、スペーサ36と2分割リング40との摩擦を小さくし、2分割リング40が、スペーサ36から過度なモーメント荷重を受けた場合、2分割リング40がスペーサ36に対して周方向に相対移動するようにしている。このようにして、上記内輪35およびスペーサ36の互いの当接面に、また、スペーサ36および2分割リング40の互いの当接面に、摩擦に起因する損傷が起こりにくいようにしている。
【0055】
また、詳述しないが、47および49は、シール部材である。上記シール部材47,49の夫々は、第2軸箱27または蓋28に固定される一方、ロール21に対して周方向に摺動できる構成になっている。上記シール部材47は、円筒ころ37の軸方向の一方の側で、第2軸箱27とロール21との間をシールし、シール部材49は、円筒ころ37の軸方向の他方の側で、蓋28とロール21との間をシールしている。
【0056】
図4は、図3のAA線断面図であり、雌ねじ部材42の軸方向のスペーサ36側の端面を通過する平面における切断面である。
【0057】
図4に示すように、上記2分割リング40は、2つの円弧状の部材、すなわち、第1の円弧状の部材80および第2の円弧状の部材81(各円弧状の部材の周方向の長さは、弧度法で略πラジアンかつπラジアン以下)が相俟って構成されている。上記第1の円弧状の部材80と、第2の円弧状の部材81との部材は、二つの合わせ部67および68で、夫々の周方向の端部を突き合わせている。
【0058】
上記第1および第2の円弧状の部材80,81は、環状部材を、ワイヤカットで2つの部材に切断することにより同時に形成されている。上記第1および第2の円弧状の部材80,81をワイヤカットで形成し、切断面の切削幅を狭くしている。そして、第1および第2円弧状の部材80,81で、2分割リング40を構成した時、第1円弧状の部材80と、第2円弧状の部材81との合わせ部67および68の周方向の隙間が、格段に小さくなるようにし、詳しくは、0.1〜0.2mm程度になるようにし、リング取付溝64へ2分割リング40を取り付けた際、2分割リング40がロール21の周方向に移動しないようにしている。
【0059】
上記第1の円弧状の部材80の外周面は、周方向の略中央の一箇所において、軸方向に開口する断面略矩形状の切欠き94を有する一方、雌ねじ部材42の外周面は、周方向に略等間隔に、軸方向に開口する4つの断面略矩形状の切欠き82を有する。
【0060】
この実施形態では、以下のように、雌ねじ部材42の2分割リング40に対する回り止めを行っている。すなわち、先ず、上記AWワッシャ45の軸方向に延在するように折れ曲がっている第1突出部98を、2分割リング40の切欠き94に収容する。次に、2分割リング40の外周側から雌ねじ部材42を所定距離軸方向に螺合する。その後、AWワッシャ45の19個の第2突出部99のうちで周方向の位相が雌ねじ部材42の切欠き82の位相と一致している一つの第2突出部(図4に99aで示す)を、折り曲げて、雌ねじ部材42の切欠き82に収容する。このようにして、2分割リング40と、雌ねじ部材42とを、AWワッシャ45を介して互いに相対回転不可にしている。
【0061】
図3に示すように、上記雌ねじ部材42が、2分割リング40に所定距離ねじ込まれ、2分割リング40に対して相対回転不可になっている状態で、雌ねじ部材42の第1内周面90は、2分割リング40の第2内周面75の全面に径方向に重なっている。
【0062】
上記実施形態の転がり軸受装置によれば、略環状の2分割リング40の外周面側に、2分割リング40の雄ねじ部79に螺合するように、環状の雌ねじ部材42を配置しているから、2分割リング40に転倒モーメント等の複雑な荷重が作用して、2分割リング40が移動をしようとしても、2分割リング40が雌ねじ部材42から、径方向にロール21の方への力を受けるから、2分割リング40が殆ど移動することがない。したがって、上記2分割リング40が、ロール21の環状溝64から外れる可能性を格段に小さくすることができる。
【0063】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、径方向位置決め面としての2分割リング40の第2内周面75で、2分割リング40の径方向の位置決めを行うことができる。
【0064】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、リング取付溝64の底に対向する面である上記2分割リング40の突出部84の第1内周面73が、そのリング取付溝64の底に対して間隔をおいて位置しているから、径方向位置決め面である第2内周面75がロール21の外周面から受ける垂直抗力が大きくなる。したがって、上記スペーサ36からの転倒モーメントを打ち消す能力を大きくすることができて、2分割リング40のスペーサ36からの転倒モーメントに起因する傾きを更に抑制することができる。
【0065】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、上記雌ねじ部材42が、2分割リング40に所定距離ねじ込まれ、2分割リング40に対して相対回転不可になっている状態で、雌ねじ部材42の第1内周面90は、2分割リング40の第2内周面75の全面に径方向に重なっているから、径方向位置決め面である第2内周面75がその第2内周面75が当接している周面部分を締め付ける力を大きくできる。したがって、2分割リング40の傾きを更に抑制することができる。
【0066】
また、上記実施形態の転がり軸受装置によれば、回動防止部材であるAWワッシャ45で、雌ねじ部材42が、2分割リング40に対して相対回転することを防止できる。したがって、上記雌ねじ部材42が2分割リング40に対して緩むことがなく、雌ねじ部材42が、2分割リング40から外れることを防止できる。
【0067】
また、上記実施形態の従動ロール装置5によれば、アキシアル荷重負荷用の2分割リング40の突出部84をリング取付溝64に嵌入する構造を有する転がり軸受装置において、2分割リング40がリング取付溝64から外れることがないから、転がり軸受装置の信頼性を高くすることができ、転がり軸受装置の寿命を長くすることができる。
【0068】
尚、上記実施形態の転がり軸受装置では、上記2分割リング40を、軸部材であるロール21の外周面にあるリング取付溝64に取り付けると共に、雌ねじ部材42を、2分割リング40の外周面にある雄ねじ部79に螺合する構成であったが、この発明では、N(Nは、3以上の自然数)分割リングを、軸部材であるロールの外周面にあるリング取付溝に取り付けると共に、雌ねじ部材を、N分割リングの外周面にある雄ねじ部に螺合する構成であっても良い。
【0069】
また、上記実施形態の転がり軸受では、ハウジングである第2軸箱27に調心輪31を内嵌し、更に、調心輪31の球面状の内周面に、外輪33の球面状の外周面を内嵌させる構成であったが、この発明の転がり軸受装置は、調心輪を有しない構成であり、ハウジングの内周面に外輪の外周面が直接内嵌される構成であっても良い。例えば、この発明の転がり軸受装置は、自動調心ころ軸受や、調心機能を有さない円筒ころ軸受等であっても良い。
【0070】
また、上記実施形態の転がり軸受では、内輪35の軸方向において、内輪35と2分割リング40との間に、環状のスペーサ36が配置されていたが、この発明では、スペーサと内輪が軸方向に逆配置で、内輪が略環状のリングに直接接触する構成であっても良い。尚、この場合においても、内輪の軸方向の端面は、通常研磨処理されているから、略環状のリングの内輪側の軸方向の端面を研磨処理またはラップ仕上することにより、内輪および2分割リングの互いの当接面に、摩擦に起因する損傷が起こりにくくなることは言うまでもない。
【0071】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、上記突出部84のリング取付溝64の底に対向する面である第1内周面73は、リング取付溝64の底に対して間隔をおいて位置していたが、この発明では、突出部と環状のリング取付溝との接触面圧が、径方向位置決め面(第2内周面)と、この径方向位置決め面が締まり嵌めされている周面(第2円筒外周面)との接触面圧よりも低い条件下において、突出部の先端(第1内周面)が、環状のリング取付溝の溝底に接触していても良い。
【0072】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、雌ねじ部材45を2分割リング40に所定距離軸方向に締め込んだ時点で、AWワッシャ45の19の第2突出部99と、雌ねじ部材42の4つの切欠き82とで、周方向の位相が一致するものが一組であった。しかしながら、この発明では、雌ねじ部材を2分割リングに所定距離軸方向に締め込んだ時点で、AWワッシャの複数の第2突出部と、雌ねじ部材の複数の切欠きとで、周方向の位相が一致するものが2組以上あっても良いことは言うまでもなく、2分割リングと、雌ねじ部材とが互いに相対回転不可である状態で、AWワッシャの2個以上の第2突出部が、雌ねじ部材の切欠きに収容されていても良いことは、言うまでもない。
【0073】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、AWワッシャ45が、径方向の内方に突出する第1突出部98を1つ有すると共に、径方向の外方に突出する第2突出部99を19有していたが、この発明では、径方向の内方に突出する第1突出部の数が、1以外の如何なる数であっても良いことは言うまでもなく、径方向の外方に突出する第2突出部の数が、19以外の如何なる数であっても良いことも言うまでもない。尚、AWワッシャにおいて、略環状のリングの切欠きに収容される第1突出部の数が、リングの切欠きの数と一致するか、または、リングの切欠きの数よりも少ないことが、必須の条件であることは言うまでもない。
【0074】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、2分割リング40に対する雌ねじ部材42の回り止めを、AWワッシャ45で行ったが、この発明では、略環状のリングに対するねじ部材の回り止めを行わなくても良い。また、この発明では、略環状のリングに対するねじ部材の回り止めを、キー係合や、かしめや、ピン止め等、AWワッシャを用いる方法以外の方法で、行っても良い。
【0075】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、上記2分割リング40を、軸部材であるロール21の外周面にあるリング取付溝64に取り付けると共に、雌ねじ部材42を、2分割リング40の外周面にある雄ねじ部79に螺合する構成であったが、この発明では、M(Mは、2以上の自然数)分割リングを、ハウジングの内周面にあるリング取付溝に取り付けると共に、M分割リングの内周面にある雌ねじ部に、ねじ部材としての雄ねじ部材の外周面にある雄ねじ部を螺合する構成であっても良い。
【0076】
また、上記実施形態の転がり軸受装置では、上記雌ねじ部材42が、径方向位置決め面である第2内周面75の全面に径方向に重なっていた。この発明では、上記実施形態のように、ねじ部材が、径方向位置決め面の軸方向の半分よりも大きい領域に、径方向に重なっていれば好ましい。
【0077】
また、上記実施形態の連続鋳造機用のロール装置は、従動ロール装置5であったが、本発明の転がり軸受装置を有する本発明の連続鋳造機用のロール装置は、駆動ロール装置であっても良い。
【0078】
また、上記実施形態の従動ロール装置5や上記変形例の駆動ロール装置は、本発明の転がり軸受装置を一つのみ有していても、二つ有していてもどちらでも良い。ただし、一方の転がり軸受装置を、上記実施形態としたときに、他方の転がり軸受装置は、ロールの伸縮を許容するよう、円筒ころ軸受を用いる際は、内輪あるいは外輪のいずれか一方のつばを無くし、自動調心ころ軸受などアキシアル荷重を受ける軸受を用いる際は、外輪が軸箱に対して摺動するよう構成する必要がある。上記実施形態の従動ロール装置5は、ロール21を一つのみ有する構成であるから、転がり軸受装置を二つ有している場合、二つの転がり軸受の両方において軸部材がロール21である一方、一方の転がり軸受装置のハウジングが、第1軸箱26になり、他方の転がり軸受装置のハウジングが、第2軸箱27になる。
【0079】
また、上記実施形態の従動ロール装置5は、軸部材に相当するロール21を一つしか有していなかったが、この発明の連続鋳造機用のロールは、軸部材に相当するロールをN(Nは、2以上の自然数)個有していても良く、N個のロールを、略一直線上に配置してなる構造を有していても良い。そして、連続鋳造機用のロール装置が、1以上かつ2N以下の本発明の転がり軸受装置を有していても良い(本発明の転がり軸受装置の一部とならないロール装置が存在しても良い)。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】連続鋳造機のスラブ鋳造部分を示す拡大模式図である。
【図2】上記スラブ鋳造部分が有する従動ロール装置の構造を示す模式図である。
【図3】上記従動ロール装置の一部をなす転がり軸受装置の軸方向の模式断面図である。
【図4】図3のAA線断面図である。
【符号の説明】
【0081】
5 従動ロール
21 ロール
27 第1軸箱
31 調心輪
33 外輪
35 内輪
36 スペーサ
37 円筒ころ
40 リング
42 雌ねじ部材
45 AWワッシャ
64 リング取付溝
79 雄ねじ部
80,81 円弧状の部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面を有するハウジングと、
外周面を有する軸部材と、
上記ハウジングの上記内周面に嵌合する外周面と、軌道面とを有する第1軌道部材と、
上記軸部材の上記外周面に嵌合する内周面と、軌道面とを有する第2軌道部材と、
上記第1軌道部材の上記軌道面と上記第2軌道部材の上記軌道面との間に配置された複数の転動体と
を備え、
上記ハウジングおよび上記軸部材のうちの一方の部材は、その一方の部材の周面に環状溝を有し、
複数の円弧状の部材を、上記一方の部材の上記周面における軸方向の略同じ位置に軸方向に重ならないように配置してなり、かつ、上記環状溝に収容された略環状の突出部と、上記ハウジングおよび上記軸部材のうちの他方の部材に径方向に対向する略環状の面とを有し、かつ、軸方向の一方の側の端面が、上記第1軌道部材または上記第2軌道部材の軸方向の端面と当接している一方、上記突出部の上記軸方向の上記一方の側と反対側の端面が、上記環状溝の上記軸方向の端面と当接している略環状のリングと
を備え、
上記略環状の面は、ねじ部を有し、
上記ねじ部に螺合しているねじ部を有する周面を有する環状のねじ部材を備えることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受装置において、
上記略環状のリングは、上記一方の部材の上記周面における上記環状溝につながる部分に当接することにより上記一方の部材の上記周面に固定された略環状の径方向位置決め面を有することを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項2に記載の転がり軸受装置において、
上記突出部の上記環状溝の底に対向する面は、上記環状溝の底に対して間隔をおいて位置するか、または、上記突出部と上記環状溝との接触面圧は、上記一方の部材の上記周面と上記径方向位置決め面との接触面圧よりも低いことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の転がり軸受装置において、
上記ねじ部材の少なくとも一部は、上記径方向位置決め面に径方向に重なっていることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の転がり軸受装置において、
上記ねじ部材が、上記略環状のリングに対して相対回転することを防止する回動防止部材を備えることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の転がり軸受装置を備え、上記軸部材は、スラブを搬送するロールであることを特徴とする連続鋳造機用のロール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−287765(P2009−287765A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144414(P2008−144414)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】