説明

転がり軸受装置

【課題】軸受周方向の広い範囲から潤滑油を供給できるようにすることにより潤滑油を軸受全体に万遍なく行き渡らせるととともに、長期にわたり潤滑油を供給できる給油ユニットを備えた転がり軸受装置を提供することである。
【解決手段】給油ユニット13を構成するケーシング24に軸方向に区画された給油タンク38と貯油タンク39が設けられ、給油タンク38に連通されたノズル穴43の穴径が毛細管現象を生起し得る大きさに形成され、ポンプに接続された吸引チューブ54が貯油タンク39に連通され、前記ポンプの吐出口に接続された吐出チューブ55が給油タンク38を貫通し貯油タンク39に連通され、給油タンク38内の吐出チューブ55に吐出開口が設けられ、給油タンク38にノズル穴43を封止するグリース等の潤滑油浸透体が収納された構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機スピンドル等の転がり軸受装置に関し、特に無給電型給油ユニットを備えた転がり軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無給電型給油ユニットを備えた軸受装置は従来から知られている(特許文献1参照)。この場合の軸受装置は、シールリングの内側面に給油ユニットを装着している。前記給油ユニットは、潤滑を溜めたタンク、前記タンクの潤滑を軸受内部に吐出させるマイクロポンプ(以下単にポンプという。)及び前記ポンプを駆動する内部電源(発電機又は電池)により構成される。潤滑油はポンプの吐出口から軸受内部に向けて吐出される。特許文献2に開示された軸受装置も同様の給油ユニットを備えている。
【0003】
前記従来例は、いずれも給油ユニットの内部電源を有するため外部からの給電を必要としない無給電型となっている。また内部電源によって駆動されるポンプとしては、ダイヤフラム型のものが用いられている。このポンプは圧電素子によってダイヤフラムを振動させ、その振動による圧力変化によって潤滑油をタンクから吸引し、吸引した潤滑油を加圧して転動体に向けて吐出させる機能を有する。
【0004】
また、転がり軸受と、これに隣接して位置決め用として軸上に嵌合された内外輪間座と、その内外輪間座の間に組み込まれたグリース溜まり部材とからなる軸受装置も従来から知られている(特許文献3)。前記のグリース溜まり部材は、軸受側へ延び出したすき間形成部を有し、そのすき間形成部と軸受外輪の段差面との間に全周に渡る吐出すき間が形成されている。
【0005】
前記のグリース溜まり部材に封入されたグリースから軸受の温度上昇に伴って潤滑油(基油)が分離され、分離された潤滑油は吐出すき間における毛細管現象によって軸受内部に供給される。この場合はポンプを用いることなく潤滑油を軸受側へ供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−108388号公報
【特許文献2】特開2004−316707号公報
【特許文献3】特開2010−19268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の場合は、給油ユニットに設けられる吐出口の数は、ポンプが小型であることから能力が制限される関係上1個所であり、その1個所から潤滑油が供給される。このため、潤滑油が軸受全体に均等に行き届き難い問題がある。
【0008】
これに対し、特許文献3の場合は、ポンプを用いておらず、毛細管現象等によって軸受の全周に設けた吐出すき間から潤滑油を供給することができるため、軸受全体に万遍なく給油することができる。ただし、長期にわたり潤滑油を供給するためには、グリースの量を増やす必要がある。
【0009】
しかし、グリースの量を増やすと吐出すき間から離れた部分にあるグリースから分離した潤滑油は吐出すき間まで届き難くなる。このため、グリースの量を増やすだけでは長期にわたり潤滑油を供給することはできない問題がある。
【0010】
そこで、この発明は、軸受周方向の広い範囲から潤滑油を供給できるようにすることにより潤滑油を軸受全体に万遍なく行き渡らせるとともに、長期にわたり潤滑油を供給することができる給油ユニットを備えた転がり軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明に係る転がり軸受装置は、転がり軸受、前記転がり軸受の外輪に当接された外輪間座及び前記外輪間座の内径面に設けられた給油ユニットにより構成され、前記給油ユニットは環状のケーシングと、前記ケーシングを周方向2個所のケーシング隔壁によって区画形成されたタンク室及び制御室と、前記タンク室に連通し前記転がり軸受の内部に向けて設けられた複数個所のノズル穴を有するノズル部とにより構成され、前記制御室はポンプとその電源及び前記ポンプを制御する制御部により構成された転がり軸受装置において、前記タンク室は給油タンクと貯油タンクに区画され、前記ノズル穴は複数個所に設けられるとともに前記給油タンクに連通され、前記ポンプに接続された吸引チューブが前記貯油タンクに連通され、前記ポンプに接続された吐出チューブが前記給油タンクを貫通しその先端が貯油タンクに連通され、前記給油タンク内の吐出チューブに吐出開口が設けられた構成としたものである。
【0012】
前記ノズル穴は毛細管現象を生起し得る大きさに形成され、前記給油タンクに前記ノズル穴を封止する潤滑油浸透体が収納され、前記潤滑油浸透体から分離した潤滑油が前記ノズル穴から毛細管現象によってしみ出して転がり軸受に供給される一方、前記ポンプの作用により貯油タンクの潤滑油が吸引チューブと吐出チューブを経て前記給油タンクへ補充され、その余の潤滑油は前記吐出チューブから貯油タンクへ戻され循環する。
【0013】
前記給油タンクと貯油タンクは、前記タンク室を給油タンクが転がり軸受側に配置されるように隔壁により軸方向に区画して設けられた構成を採ることができる。
【0014】
前記給油タンクは前記タンク室によって構成され、前記貯油タンクは前記給油タンクの内部に収納された柔軟な袋状タンクによって構成することができる。
【0015】
前記給油タンク内部の全体に前記潤滑油浸透体を充填し、その潤滑油浸透体によって前記ノズル穴を封止した構成を採ることができる。
【0016】
前記給油タンクのノズル穴の入口部分に小室を設け、その小室に前記潤滑油浸透体を充填しノズル穴を封止した構成を採ることができる。
【0017】
前記貯油タンクに貫通された吐出チューブの先端にグリースの増ちょう剤をろ過するフィルターが装着された構成を採ることができる。
【0018】
前記ポンプの電源は、前記内輪間座と外輪間座の温度差によって発電する熱電素子である構成を採ることができる。
【発明の効果】
【0019】
(1)貯油タンク内の潤滑油が消費されるまで、長期にわたり転がり軸受を無給脂運転することができる。
【0020】
(2)貯油タンクから給油タンクに補充される潤滑油は、グリースなどの潤滑油浸透体に浸透捕捉され、その上で温度変化によって分離したものをノズル穴から毛細管現象によってしみ出させるものであるから、適量な潤滑油を長期にわたり軸受側へ供給することができる。
【0021】
(3)給油タンクから軸受側へ供給された分量に応じた量の潤滑油が貯油タンクから補充され、その余の潤滑油は貯油タンクに戻され循環するので、給油タンクに潤滑油が過剰供給されることがない。
【0022】
(4)潤滑油は、給油タンクに連通されたノズル穴から毛細管現象によって軸受側へしみ出させるものであるから、ノズル穴を周方向の数個所に設けることができ、潤滑油を軸受の周方向に万遍なく供給することができる。
【0023】
(5)吐出チューブの先端に増ちょう剤をろ過するフィルターを設けることにより、貯油タンク内の潤滑油の粘度の上昇を抑えることができ、ポンプに過負荷をかけることを防止することができる。
【0024】
(6)貯油タンクを袋状タンクによって構成した場合、内部の潤滑油を最後まで吸引することができる。また予め潤滑油を充填した他の袋状タンクと交換ができるため、取り扱いが良好である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、実施形態1の転がり軸受装置の一部省略断面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の縮小断面図である。
【図3】図3は、図2の一部拡大断面図である。
【図4】図4は、図2のX2−X2線の一部省略断面図である。
【図5】図5は、制御部のブロック図である。
【図6】図6は、実施形態1の概略説明図である。
【図7】図7は、逆止弁を取り付ける場合の図1の一部拡大断面図である。
【図8】図8は、ポンプの駆動タイミングを示す波形図である。
【図9】図9は、ポンプの駆動タイミングの他の例を示す波形図である。
【図10】図10は、ポンプの駆動タイミングの他の例を示す波形図である。
【図11】図11は、実施形態2の転がり軸受装置の一部省略断面図である。
【図12】図12は、図11のX3−X3線の縮小断面図である。
【図13】図13は、図12のX4−X4線の一部省略断面図である。
【図14】図14は、袋状タンクの他の例を示す一部省略拡大断面図である。
【図15】図15は、実施形態2の概略説明図である。
【図16】図16は、実施形態3の転がり軸受装置の一部省略断面図である。
【図17】図17は、図16のX5−X5線の縮小断面図である。
【図18】図18は、図17のX6−X6線の断面図である。
【図19】図19は、実施形態3の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0027】
図1から図10に示した実施形態1に係る転がり軸受装置10は、転がり軸受11、その軸方向の一端部に突き当てられた位置決め用の間座12及び間座12に組み込まれた給油ユニット13により構成され、工作機スピンドル等の回転軸14とハウジング15の間に組み込んで使用に供される。
【0028】
転がり軸受11(図示の場合は、アンギュラ玉軸受)は、軌道輪である内輪17、外輪18及びこれらの軌道輪の間に介在された所要数の転動体19、その転動体19を一定間隔に保持する保持器20により構成される。図示の場合、外輪18が固定側軌道輪となる。軸受の背面側において内外輪17、18の間にシール部材21が装着される。
【0029】
間座12は、内輪間座22と外輪間座23とからなり、転がり軸受11の正面側に配置される。内輪間座22及び外輪間座23は、それぞれ内輪17及び外輪18の一方の端面に突き当てられる。内輪間座22は回転軸14の外径面に、外輪間座23はハウジング15の内径面にそれぞれ嵌合固定される。
【0030】
前記の給油ユニット13は、外輪間座23の内径面に取り付けられた環状樹脂製のケーシング24とその内部に収納された諸部材とにより構成される。ケーシング24は、外輪間座23の内径面に設けた浅い周溝25に溜めた接着剤によって外輪間座23の内径面に接着固定される。
【0031】
ケーシング24は、内周壁26と外周壁27、転がり軸受11側の内側壁28により三壁面が形成され、外側面が開放されている。その開放面に環状の蓋29が着脱自在に取り付けられる。外周壁27と内側壁28のコーナー部に軸受11側へ突き出した環状のノズル部31が全周にわたり設けられる。ノズル部31は外輪18の内径面の肩部に設けられた段差部32に組み込まれる。
【0032】
ケーシング24の内部は次のように区画されている。即ち、図2に示したように、周方向の2個所において、ケーシング24の内周壁26と外周壁27にわたる径方向のケーシング隔壁33、34が設けられる。ケーシング24はこれらのケーシング隔壁33、34によって半周強の範囲を占めるタンク室35と、残りの範囲の制御室36に区画される。
【0033】
タンク室35は、前記ケーシング隔壁33、34間にわたる周方向のタンク隔壁37(図1参照)によって転がり軸受11の給油タンク38と、蓋29側の貯油タンク39に区画される。タンク室35の内周壁26と外周壁27の対向内面には位置決め段差部40a、40bが設けられ、タンク隔壁37が位置決めされる。
【0034】
前記ノズル部31は、その内径面に転動体19に対向した傾斜面41を有し、その傾斜面41から給油タンク38の外周壁27と内側壁28のコーナー部にわたり軸方向のノズル穴43が設けられ、給油タンク38に連通される。ノズル穴43の穴径は潤滑油が毛細管現象によって通過し得るよう潤滑油の粘度等を考慮し適宜設定される。ノズル穴43は給油タンク38の全長にわたり均等に分散する間隔で複数個所(図2、図4参照)に設けられる。
【0035】
前記の制御室36の内部においては、図2に示したように、一方のケーシング隔壁33に近い部分に自己発電型の電源部45、次に制御部46、他方のケーシング隔壁34に接近した部分にポンプ47が配置される。
【0036】
電源部45は、図3に示したように、ゼーベック素子等の熱電素子48を熱伝導良好な金属(例えば、銅、銅合金)によって形成されたヒートシンク49a、49bによって挟着したものである。ヒートシンク49aの内径面は内周壁26の内径面と同一の曲率半径を持ち、またヒートシンク49bの外径面は外周壁27の外径面と同一の曲率半径を持つように形成される。
【0037】
前記ヒートシンク49aはケーシング24の内周壁26の穴からその内径面に露出し、内輪間座22に回転すき間をおいて対面する。他方のヒートシンク49bは外周壁27の穴からその外径面に露出し、外輪間座23の内径面に密着する。両方のヒートシンク49a、49bは同一体積を持つように形成することが望ましい。
【0038】
熱電素子48の径方向の両面と各ヒートシンク49a、49bの間、ヒートシンク49bの外径面と外輪間座23の内径面の間と、各ヒートシンク49a、49bとケーシング24の内周壁26と外周壁27との境界部分にそれぞれ熱伝導率の高いペースト(例えば、シリコーンを主成分と放熱グリースなど)51を塗布することが熱伝導性を高めるうえで望ましい。
【0039】
運転時においては、転がり軸受11の内輪17が外輪18に対して高温となり、内輪17の熱が内輪間座22に伝導され、内輪間座22から熱放射によりヒートシンク49aが加熱される。これに対し、ヒートシンク49b側は、外輪間座23を介してハウジング15側の相対的に低い温度に維持される。外輪間座23が内輪17の熱の影響を受けないようにするために、ケーシング24を樹脂製にすることは、内輪17及び内輪間座22から外輪間座23に放熱される熱を遮断する上で望ましい。但し、グリースの基油によるケミカルアタックを受けない素材を選定する。
【0040】
前記電源部45によって発電される電力は転がり軸受の温度に依存するため不安定である。これを解消するため、前記の電力は制御部46に搭載されたコンデンサ52(望ましくは、電気二重層キャパシタ)(図5参照)に充電される。その充電された電力がポンプ47の駆動電源となる。ポンプ47は、遠心型、ダイヤフラム型、ギヤポンプ型等のマイクロポンプであり、コンデンサ52に充電された電力は、制御部46上のマイコンよって適宜制御され、ポンプ47に供給される。
【0041】
ポンプ47の吸引・吐出を行うタイミング、即ち駆動タイミングはマイコン53により制御される。図8に示した制御方法は、コンデンサ52の充電電圧が放電電圧Vから一定の設定電圧Vに達した時点でタイミングパルスPを発生させ、ポンプ47を駆動させる方法である。
【0042】
図9に示した制御方法は、コンデンサ52の充電電圧が放電電圧Vから一定の設定電圧Vに達した時点からマイコン53に内蔵されたタイマー機能により所定の遅延時間Tが経過した時点でタイミングパルスPを発生させ、ポンプ47を駆動させる方法である。
【0043】
図10に示した制御方法は、コンデンサ52の充電電圧が放電電圧Vから一定の設定電圧Vに達すると放電させるという空放電のサイクルを繰り返し、その繰り返し数をマイコン53に内蔵されたカウンターによりカウントし、所定数に達した時点でタイミングパルスPを発生させ、ポンプ47を駆動させる方法である。
【0044】
前記いずれの制御方法による場合であっても、タイミングパルスPの発生によりポンプ47の駆動回路のゲートが開かれ、コンデンサ52の放電電流がポンプ47に供給される。これによりポンプ47が間欠的に駆動され、その間欠駆動を一定時間繰り返すことで所定量の潤滑油の吸引・吐出が行われる。この場合、ポンプ47の駆動に必要な十分長い放電時間を得るために、コンデンサ52としては大きい静電容量をもち、蓄電効率の優れた電気二重層キャパシタを用いることが望ましい。
【0045】
前記ポンプ47の吸引口に吸引チューブ54、吐出口に吐出チューブ55が接続される(図1、図4、図6参照)。吸引チューブ54は、ケーシング隔壁34を液密を保持して貫通され貯油タンク39の内部に連通される。吸引チューブ54の先端は、他方のケーシング隔壁33の近傍まで達する。
【0046】
吐出チューブ55はケーシング隔壁34を液密を保持して貫通され、給油タンク38に挿通される。給油タンク38を通過して他方のケーシング隔壁33の近傍において、その先端部がタンク隔壁37を液密を保持して貫通され、貯油タンク39に連通される(図4参照)。貯油タンク39の内部において、吐出チューブ55の先端部は開放のままでもよいが、増ちょう剤などをろ過するフィルター58を装着することが望ましい。
【0047】
前記の吸引チュープ54及び吐出チューブ55には、それぞれ長さ方向に所定の間隔をおいて吸引開口56及び吐出開口57が複数個所に設けられる。貯油タンク39の潤滑油は吸引開口56から吸引され、吐出開口57から給油タンク38に吐出される(図6参照)。
【0048】
実施形態1の軸受装置は以上のようなものであり、次にその作用について説明する。
【0049】
工作機スピンドルを駆動するに際して、転がり軸受装置10の給油タンク38には潤滑油浸透体66(例えば、グリース、多孔質体、図6参照)が封入され、貯油タンク39には潤滑油が充填される。潤滑油浸透体66は給油タンク38の内側からノズル穴43を封止し、潤滑油が直接ノズル穴43から吐出されないようしている。転がり軸受11の内部には予めグリースが封入される。
【0050】
前記の多孔質体としては、焼結金属、フェルトのほか、天然、樹脂製又はゴム製のスポンジがある。潤滑油浸透体66として多孔質体を用いる場合は、これを給油タンク38の内部に潤滑油とともに封入し、多孔質体に潤滑油を浸透させておく。
【0051】
工作機スピンドルの運転が継続され、転がり軸受11の内部のグリースの潤滑油(基油)が減少すると、給油タンク38内に封入されたグリース等の潤滑油浸透体66から温度上昇に伴って分離した潤滑油が毛細管現象によってノズル穴43からしみ出し、軸受11の内部に供給される。潤滑油浸透体66に浸透された潤滑油は、軸受11側へ供給されることにより運転時間の経過とともに次第に減少する。
【0052】
一方、内輪17側の温度が外輪18側の温度より相対的に高温になると、内輪間座22、外輪間座23に対応したヒートシンク49a、49bに温度差が生じ、電源部45である熱電素子48において電力が発生しコンデンサ52に充電される(図5、図7から図10参照)。マイコン53によって制御された電力がコンデンサ52からポンプ47に供給され、ポンプ47が駆動される。また、熱電素子48の電力の一部はマイコン53の駆動電源としてマイコン53に入力される。
【0053】
ポンプ47が駆動されると、図6に示したように、吸引チューブ54の吸引開口56から貯油タンク39内の潤滑油が吸引され、吸引された潤滑油の一部は吐出チューブ55の吐出開口57から給油タンク38内に補充される。補充された潤滑剤は潤滑油浸透体66に浸透・保持され、その後の温度上昇によって分離しノズル穴43の毛細管現象によって軸受11側へしみ出す。
【0054】
軸受11側においては、予め封入されたグリースが回転による遠心力でノズル穴43の出口近傍に付着する。ノズル穴43の内部の潤滑油は転動体19の自転や公転による空気流によりノズル穴43の近傍に付着したグリースに補給され、そのグリースが転動体19や保持器20に接触することで潤滑が行われる。
【0055】
一方、吐出チューブ55に残った潤滑油は、その先端から貯油タンク39に戻り、以後前記のルートで循環する。その循環の途中で給油タンク38への補充を行うことで、長期にわたり軸受11の無給脂運転が可能となる。
【0056】
給油タンク38の内部において吐出チューブ55の吐出開口57からグリースの増ちょう剤が浸入することが考えられるが、浸入した増ちょう剤はフィルター58によってろ過されるので、貯油タンク39内の潤滑油に混入することが避けられる。フィルター58が無い場合は、貯油タンク39の潤滑油の粘度が上昇し、ポンプ47の流路を閉鎖する原因となる。
【0057】
また、図7に示したように、ポンプ47と給油タンク38の間において、吐出チューブ55の途中に逆止弁59を取り付ける場合がある。逆止弁59は弁ケース61の内部に収納した弁体62によって、潤滑油の吐出方向とは逆方向に流路を閉塞するように付勢バネ63を設けている。ポンプ47が停止中は吐出チューブ55端を弁体62によって閉塞し、ポンプ47の駆動時にはその圧力によって付勢バネ63のバネ力に打ち勝って弁体62を後退させ、吐出チューブ55を開放する。
【0058】
前記の逆止弁59は、ポンプ47の停止時に次のようなルートで潤滑油が給油タンク38内へ流出するのを防止する。即ち、給油ユニット13の姿勢によっては、貯油タンク39内の潤滑油が自重又は毛細管現象により、ポンプ47の吸引口、インペラの流路、ポンプケースの流路及びポンプ47の吐出口に至るルートによって、意図しないときに潤滑油が給油タンク38内へ流出することを防止する。
【0059】
なお、図示の場合、回転軸14として横型のものとして示しているが、縦型の場合においても本発明の軸受装置を適用することができる。この点は以下に述べる他の実施形態の場合においても同様である。
[実施形態2]
【0060】
図11から図15に示した実施形態2に係る転がり軸受装置10は、基本的には前記の実施形態1の場合と同様である。相違する部分は、ケーシング24のタンク室35における給油タンク38と貯油タンク39の区画の仕方にある。実施形態1の場合は、タンク隔壁37によって両者を軸方向に区画していたが、この実施形態2においては、このような隔壁を設けることなく、タンク室35をそのまま給油タンク38としている。給油タンク38には前記の潤滑油浸透体66が封入される(図15参照)。
【0061】
貯油タンク39は、軟質プラスチック、ゴム等の柔軟な素材からなる細長い不透水性の袋状タンク64によって構成され、給油タンク38内の潤滑油浸透体66の内部に埋め込まれる。給油タンク38の内容積は貯油タンク39の容積分だけ小さくなる。その袋状タンク64のポンプ47側の端部に吸引チューブ54が差し込まれ(図13参照)、その吸引チューブ54は袋状タンク64の先端部まで延びている。
【0062】
吐出チューブ55は給油タンク38の内部を貫通し、その先端部が袋状タンク64の先端部に差し込まれ、袋状タンク64の内部に開放されている。袋状タンク64の内部において吐出チューブ55の先端に前述のフィルター58又は逆止弁59を装着してもよい。
【0063】
前記吸引チューブ54及び吐出チューブ55にそれぞれ所要間隔で吸引開口56及び吐出開口57を設ける点、その他の構成は実施形態1の場合と同様であるのでその説明を省略する。
【0064】
図14は前記袋状タンク64の潤滑油が減少した場合に、潤滑油を満たした他の同様の袋状タンク64と交換できるようにしたものである。即ち、袋状タンク64の基部(ポンプ47に近い方の端部)、及び先端部の側面にそれぞれ袋状タンク64の内外に貫通した継手67、68を設けている。継手67、68は別部材のものを接着等で固定してもよいが、成形により袋状タンク64の所定位置に一体に設けてもよい。
【0065】
吸引チューブ54は、袋状タンク64の内部において前記継手67の内端部に接続された内部チューブ54aと、外部において同じ継手67の外端部に接続された外部チューブ54bに分けられる。外部チューブ54bは、ケーシング24を液密を保持して貫通し、ポンプ47の吸引口に接続される。内部チューブ54aに前記の吸引開口56が設けられる。吐出チューブ55は、その先端部が前記の継手68に接続され、継手68を経て袋状タンク64に連通される。他の構造は前述の場合と同様である。
【0066】
前記の袋状タンク64を交換する場合は、継手67の部分で外部チューブ54bを外し、さらに継手68の部分で吐出チューブ55を外して袋状タンク64を取り外す。新規の袋状タンクは、外したチューブ54b、55をそれぞれ継手67、68に接続することにより取り付けられる。
【0067】
実施形態2の転がり軸受装置は、以上のようなものであり、その作用は実施形態1の場合と実質的に同様であるが、この場合は柔軟な袋状タンク64を使用しているため、潤滑油を満たした他の同様の袋状タンクと容易に交換することができる。また、袋状タンク64は素材が柔軟であるので、ポンプ47の吸引により容易に変形し、押しつぶされて平たくなるので、内部の潤滑油を最後まで吸引することができる。
[実施形態3]
【0068】
図16から図19に示した実施形態3も基本的な構成は実施形態1と同様である。相違する点は、タンク隔壁37が給油タンク38側に片寄って設けられ、貯油タンク39に比べて給油タンク38の内容積が小さくなっている点、その給油タンク38に連通したノズル穴43の入口部分、即ち給油タンク38の内壁面に小室65が設けられる点、その小室65に前記の潤滑油浸透体66が収納されている点等において相違している。ノズル穴43の入口は前記潤滑油浸透体66によって給油タンク38の内側から封止される。使用時においては、給油タンク38及び貯油タンク39に共に潤滑油が充填される。その他の構成は実施形態1の場合と同様である。
【0069】
給油タンク38においてノズル穴43を封止するのに必要な最小範囲である小室65に潤滑油浸透体66を収納し、給油タンク38のその他の部分には潤滑油を封入している。潤滑油はポンプ47によって加圧されるので、潤滑油浸透体66に対して浸透し易く、また潤滑油浸透体66から分離した潤滑油がノズル穴43側へしみ出し易くなっている。
【0070】
.
ポンプ47が駆動されると、貯油タンク39内の潤滑油が吸引チューブ54によってポンプ47側へ吸引され、吐出チューブ55から給油タンク38内へ補充される。軸受11側へ補充されなかった残りの潤滑油は吐出チューブ55の先端から貯油タンク39内に戻され、以後前記のルートで循環する。
【0071】
給油タンク38内の潤滑油はポンプ47によって加圧され、各ノズル穴43を封止している潤滑油浸透体66に浸透保持される。浸透保持された潤滑油は温度変化によって分離し、ノズル穴43の毛細管現象によってしみ出し軸受11側へ供給される。
【符号の説明】
【0072】
10 転がり軸受装置
11 転がり軸受
12 間座
13 給油ユニット
14 回転軸
15 ハウジング
16 間座
17 内輪
18 外輪
19 転動体
20 保持器
21 シール部材
22 内輪間座
23 外輪間座
24 ケーシング
25 周溝
26 内周壁
27 外周壁
28 内側壁
29 蓋
31 ノズル部
32 段差部
33、34 ケーシング隔壁
35 タンク室
36 制御室
37 タンク隔壁
38 給油タンク
39 貯油タンク
40a、40b 位置決め段差部
41 傾斜面
43 ノズル穴
45 電源部
46 制御部
47 ポンプ
48 熱電素子
49a、49b ヒートシンク
51 ペースト
52 コンデンサ
53 マイコン
54 吸引チューブ
54a 内部チューブ
54b 外部チューブ
55 吐出チューブ
56 吸引開口
57 吐出開口
58 フィルター
59 逆止弁
61 弁ケース
62 弁体
63 付勢バネ
64 袋状タンク
65 小室
66 潤滑油浸透体
67、68 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受、前記転がり軸受の外輪に当接された外輪間座及び前記外輪間座の内径面に設けられた給油ユニットにより構成され、前記給油ユニットはケーシングと、前記ケーシングを区画して形成されたタンク室及び制御室と、前記タンク室に連通し前記転がり軸受に向けて設けられたノズル穴を有するノズル部により構成され、前記制御室はポンプとその電源及び前記ポンプを制御する制御部により構成された転がり軸受装置において、前記タンク室は給油タンクと貯油タンクに区画され、前記ノズル穴は複数個所に設けられるとともに前記給油タンクに連通され、前記ポンプに接続された吸引チューブが前記貯油タンクに連通され、前記ポンプに接続された吐出チューブが前記給油タンクを貫通しその先端が貯油タンクに連通され、前記給油タンク内の吐出チューブに吐出開口が設けられたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記ノズル穴は毛細管現象を生起し得る大きさに形成され、前記給油タンクに前記ノズル穴を封止する潤滑油浸透体が収納され、前記潤滑油浸透体から分離した潤滑油が前記ノズル穴の毛細管現象によってしみ出して転がり軸受へ供給される一方、前記ポンプの作用により貯油タンクの潤滑油が吸引チューブと吐出チューブを経て前記給油タンクへ補充され、その余の潤滑油は前記吐出チューブから貯油タンクへ戻され循環することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記給油タンクと貯油タンクは、前記タンク室を給油タンクが転がり軸受側に配置されるように隔壁により軸方向に区画して設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記給油タンクが前記タンク室によって構成され、前記貯油タンクは前記給油タンクの内部に収納された柔軟な袋状タンクによって構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記袋状タンクが、潤滑油を充填した予備の袋状タンクと交換可能であることを特徴とする請求項4に記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記給油タンク内部の全体に前記潤滑油浸透体を充填し、その潤滑油浸透体によって前記ノズル穴を封止したことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記潤滑油浸透体がグリース又は多孔質体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
前記給油タンクのノズル穴の入口部分に小室を設け、その小室に前記潤滑油浸透体を充填しノズル穴を封止したことを特徴とする請求項6又は7に記載の転がり軸受装置。
【請求項9】
前記ノズル穴は、前記ケーシングの外径壁面から転がり軸受側へ突き出した環状のノズル部の前記給油タンクの範囲において、給油タンクから軸方向に貫通して設けられ、前記ノズル部を受け入れる段差部が前記転がり軸受の外輪肩部に設けられ、前記ノズル穴の先端が前記転がり軸受の内部に達していることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項10】
前記貯油タンクに貫通された吐出チューブの先端にグリースの増ちょう剤をろ過するフィルターが装着されたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項11】
前記ポンプと前記給油タンクの間において前記吐出チューブに逆止弁が設けられたことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項12】
前記制御室には、自己発電型の電源部、コンデンサ及びマイコンを搭載した制御部並びにポンプが設けられ、前記電源部によって発電された電力は、前記マイコンに供給されその駆動電源になるとともに前記コンデンサに蓄電され、コンデンサに蓄電された電力は前記マイコンの制御によりポンプに供給されることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項13】
前記電源部は、前記内輪間座と外輪間座の温度差によって発電する熱電素子であることを特徴とする請求項12に記載の転がり軸受装置。
【請求項14】
前記ポンプの駆動が、前記コンデンサの充電電圧が一定値に達した時点で行われることを特徴とする請求項12又は13に記載の転がり軸受装置。
【請求項15】
前記ポンプの駆動が、前記コンデンサの充電電圧が一定値に達した時点から所定の遅延時間が経過した時点で行われることを特徴とする請求項12又は13に記載の転がり軸受装置。
【請求項16】
前記ポンプの駆動が、前記コンデンサの充電電圧が一定値に達した時点で放電するサイクルを所定回数繰り返した時点で行われることを特徴とする請求項12又は13に記載の転がり軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−104529(P2013−104529A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250672(P2011−250672)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】