説明

転がり軸受

【課題】導電性グリースの改良により、高速用途でも、導電性能を発揮すること。
【解決手段】各試験結果を油膜パラメータΛで整理することで、試験軸受以外の軸受の各条件に適応することが可能となる。本発明に係る導電性グリースを用いることで、特にΛが大きな(実施例では、Λ=22,6まで)領域で、従来の導電性グリース以上に導電性能を向上させることが可能となることが当該グラフより判断できる。Λは、回転数が大きいほど、荷重が小さいほど、温度が低い(潤滑油粘度が高い)ほど、大きくなるものであり、即ち、本発明の用途となる高速回転の分野で効果があるといえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機、コピー機用途以上の高速回転で使用される機器に於ける、静電気対策、コンタミ対策、及び電波ノイズ対策を改良した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性グリースを封入した転がり軸受は、以下の用途に使用されている。
【0003】
(1)静電気対策(防爆用途)
石油精製工場、石油製品生産工場、塗装工場等では、油類が気化し、その蒸気や温度によっては、わずかな静電気による火花でも、爆発や引火する危険性がある。その様な危険環境に使用される機器回転部分に使用する静電気対策転がり軸受。その他、防爆モータ、防爆カメラ等の用途。
【0004】
(2)静電気対策(コンタミ対策)
半導体製造プラントのクリーン工程や液晶ガラス基盤搬送コンベア等において、静電気によるコンタミ対策が必要な用途に用いられる転がり軸受。
【0005】
(3)電波ノイズ対策
電動機等の電波ノイズ対策が必要な機械の転がり軸受。
【0006】
ところで、従来の導電性グリース封入軸受は、コピー機やプリンターの画質向上を目的に使用されることが多く、その使用環境は、回転数:30〜300min−1と非常に低速の用途であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、比較的高速の領域300〜50000min−1で通常の導電性軸受を使用した場合、回転数が高くなる程、玉とレース面間の油膜が厚くなり、導電性能か悪くなる問題点があった。
【0008】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、導電性グリースの改良により、高速用途でも、導電性能を発揮することができる、転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受は、高速回転でも導電性能が高い導電性グリースを封入した転がり軸受に於いて、
前記導電性グリースの組成は、
導電剤:カーボンブラックを10〜20%配合したもの
基油:PAO、鉱油、ポリαオレフィン、エステル油、エーテル油、ポリグリコール油、フッ素油、これらの混合油等であり、但し、軸受使用環境、必要性能で使い分ける
増ちょう剤:リチウム石けんあるいはウレア化合物を2〜10%配合したもの、但し、フッ素油等は、カーボンブラックがそのまま増ちょう剤の役目となる場合もある
添加剤:Zn−DTP、Mo−DTP、Ni−DTC、Mo−DTC等、単独あるいは混合で1〜5%配合したもの
であることを特徴とする。
【0010】
好適には、前記転がり軸受の軸受形式は、
深溝玉軸受(オープン、接触シール、非接触シール)、
薄肉軸受、
止め輪付き軸受、
断熱ブッシュ付き軸受、及び
フランジ付き軸受、の何れかである。
【0011】
また、好適には、玉数を増加させるあるいは軸受に予圧をかけることで、玉とレース面の接触数を増やし、更なる導電性を向上した。
【0012】
さらに、好適には、軸受シールを3枚以上とした重複シールとした。
【0013】
さらに、好適には、防錆軸受として、SUS材を軸受の材料として用い、又は、内輪や外輪に無電解ニッケルメッキ等のメッキ耐食処理を施した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高速回転で玉とレース面との間の油膜が厚くなる条件でも、導電性グリース中のカーボンブラックのストラクチャー構造が途切れず、導電性能を維持できるグリースを用いている。また、金属添加剤配合により、導電性に有害なレース面や玉の表面の絶縁膜(酸化膜)の生成を抑制したグリースを用いている。
【0015】
従って、高速回転で使用される機器の静電気対策、コンタミ対策、電波ノイズ対策が可能となる。
【0016】
その結果、石油精製工場、石油製品生産工場、塗装工場等の危険環境に於いて、軸受の外周部位に発生した静電気を逃がすことができ、防爆対策となる。
【0017】
また、半導体製造プラントのクリーン環境や液晶ガラス基盤搬送コンベア等における静電気によるコンタミ対策も可能となる。
【0018】
さらに、電動機等の電波ノイズ対策としても、適応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る転がり軸受を図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(第1実施の形態)
本実施の形態に係る転がり軸受は、高速回転でも導電性能が高い導電性グリースを封入した転がり軸受に於いて、
前記導電性グリースの組成は、
導電剤:カーボンブラックを10〜20%配合したもの
基油:PAO、鉱油、ポリαオレフィン、エステル油、エーテル油、ポリグリコール油、フッ素油、これらの混合油等であり、但し、軸受使用環境、必要性能で使い分ける
増ちょう剤:リチウム石けんあるいはウレア化合物を2〜10%配合したもの、但し、フッ素油等は、カーボンブラックがそのまま増ちょう剤の役目となる場合もある
添加剤:Zn−DTP、Mo−DTP、Ni−DTC、Mo−DTC等、単独あるいは混合で1〜5%配合したもの、である。
【0021】
本実施の形態によれば、高速回転で玉とレース面との間の油膜が厚くなる条件でも、導電性グリース中のカーボンブラックのストラクチャー構造が途切れず、導電性能を維持できるグリースを用いている。また、金属添加剤配合により、導電性に有害なレース面や玉の表面の絶縁膜(酸化膜)の生成を抑制したグリースを用いている。
【0022】
従って、高速回転で使用される機器の静電気対策、コンタミ対策、電波ノイズ対策が可能となる。その結果、石油精製工場、石油製品生産工場、塗装工場等の危険環境に於いて、軸受の外周部位に発生した静電気を逃がすことができ、防爆対策となる。また、半導体製造プラントのクリーン環境や液晶ガラス基盤搬送コンベア等における静電気によるコンタミ対策も可能となる。さらに、電動機等の電波ノイズ対策としても、適応できる。
【0023】
また、好適には、前記転がり軸受の軸受形式は、深溝玉軸受(オープン、接触シール、非接触シール)、薄肉軸受、止め輪付き軸受、断熱ブッシュ付き軸受、及び、フランジ付き軸受の何れかである。
【0024】
さらに、好適には、玉数を増加させるあるいは軸受に予圧をかけることで、玉とレース面の接触数を増やし、更なる導電性を向上した。
【0025】
さらに、好適には、防錆軸受として、SUS材を軸受の材料として用い、又は、内輪や外輪に無電解ニッケルメッキ等のメッキ耐食処理を施した。
【0026】
(第1実施の形態に対応する実施例)
第1実施の形態に対応する実施例を以下に示す。
【0027】
試験軸受は、内径φ30、外径φ42、幅4を用い、温度40℃、ラジアル荷重15kgfの条件で実施した。
【0028】
各試験結果を油膜パラメータΛで整理することで、試験軸受以外の軸受の各条件に適応することが可能となる。
【0029】
油膜パラメータは、
【数1】

で表される式であり、hは、軸受の回転数、荷重、温度、潤滑油の粘度により定まる。
【0030】
本発明に係る導電性グリースを用いることで、特にΛが大きな(実施例では、Λ=22,6まで)領域で、従来の導電性グリース以上に導電性能を向上させることが可能となることが図1より判断できる。なお、図1は、本発明の第1実施の形態に係り、軸受内外輪間抵抗値と油膜パラメータとの関係を示すグラフである。
【0031】
Λは、回転数が大きいほど、荷重が小さいほど、温度が低い(潤滑油粘度が高い)ほど、大きくなるものであり、即ち、本発明の用途となる高速回転の分野で効果があるといえる。
【0032】
実使用上問題とならない導電性能を100kΩより低いこととした場合、100kQ未満を満たすΛは、図1から、Λ=14以下の条件となる。
【0033】
このΛを満たす様、他の軸受に適応した例を、表1に示す。
【表1】

例えば、軸受6206を、40°C、ラジアル荷重50kgfで使用した場合、最大4800min−1の使用回転数まで、導電性100kΩ未満を満たすことができることを表す。
【0034】
実施例:
評価軸受:内径φ30、外径φ42、幅4
評価条件:常温、ラジアル荷重15kgf
評価軸受仕様:
通常グリース:リチウム系汎用グリース
従来の導電性グリース:カーポンプラック5%
本発明に係る導電性グリース:カーボンブラック18%、増ちょう剤Li3%、添加剤Mo−DTPI%
【表2】

評価結果:軸受の内外輪間の抵抗値を測定する。結果を表2に示す。
【0035】
(第2実施の形態)
図2(a)は、本発明の第2実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。本実施の形態では、大略的には、軸受シールは、3枚以上とした重複シールとしてある。これにより、導電性グリースの漏れが少なくなり、導電性能が更に向上する。
【0036】
図2(a)に於いて、外輪1と内輪2との間に、玉3が転動自在に介装してあり、玉3は、保持器4により所定間隔に維持するようになっている。
【0037】
外・内輪1,2の両側の端部には、外部シール部材11が装着してある。外部シール部材11は、外輪1側に固定してあり、鉄製シールであるが、ゴム製シールであってもよい。
【0038】
外部シール11の内方には、内部シール部材12が装着してある。内部シール部材12は、外輪1側に固定してあり、鉄製シールとすることで、導電性効果が得られる。
【0039】
図2(b)は、本発明の第2実施の形態の変形例に係る転がり軸受の断面図であり、(c)は、(b)に示した内部シール部材の側面図である。
【0040】
図2(b)(c)に於いて、外・内輪1,2の両側の端部には、外部シール部材11が装着してある。外部シール部材11は、外輪1側に固定してあり、鉄製シールであるが、ゴム製シールであってもよい。
【0041】
外部シール11の内方には、内部シール部材13が装着してある。内部シール部材13は、内輪2側に固定してあり、図2(c)に示すように、鉄製C形シールである。
【0042】
以上から、シール機能の強化が可能になる。また、内部シール部材12と内部シール部材13(C形シール)は、導通材とし、導電性グリースを介して内輪2あるいは外輪1と導通を持たせる。これにより、導電性能の向上が可能が可能になる。
【0043】
さらに、シール機能が強化するため、導電性グリース封入量も増加でき、導電性効果が向上し、また、高速での軸受耐久性も向上する。
【0044】
さらに、シール機能が強化するため、高速でも外部へのグリース飛散を少なくできる。
【0045】
本実施の形態は、一例であり、シール枚数は、3枚以上で可能である。また、内部シール部材12と内部シール部材13(C形シール)は、自由に組み合わせが可能である。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施の形態に係り、軸受内外輪間抵抗値と油膜パラメータとの関係を示すグラフである。
【図2】(a)は、本発明の第2実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。(b)は、本発明の第2実施の形態の変形例に係る転がり軸受の断面図であり、(c)は、(b)に示した内部シール部材の側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 外輪
2 内輪
3 玉
4 保持器
11 外部シール部材
12,13 内部シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転でも導電性能が高い導電性グリースを封入した転がり軸受に於いて、
前記導電性グリースの組成は、
導電剤:カーボンブラックを10〜20%配合したもの
基油:PAO、鉱油、ポリαオレフィン、エステル油、エーテル油、ポリグリコール油、フッ素油、これらの混合油等であり、但し、軸受使用環境、必要性能で使い分ける
増ちょう剤:リチウム石けんあるいはウレア化合物を2〜10%配合したもの、但し、フッ素油等は、カーボンブラックがそのまま増ちょう剤の役目となる場合もある
添加剤:Zn−DTP、Mo−DTP、Ni−DTC、Mo−DTC等、単独あるいは混合で1〜5%配合したもの
であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記転がり軸受の軸受形式は、
深溝玉軸受(オープン、接触シール、非接触シール)、
薄肉軸受、
止め輪付き軸受、
断熱ブッシュ付き軸受、及び
フランジ付き軸受、の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
玉数を増加させるあるいは軸受に予圧をかけることで、玉とレース面の接触数を増やし、更なる導電性を向上させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
軸受シールを3枚以上とした重複シールとしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
防錆軸受として、SUS材を軸受の材料として用い、又は、内輪や外輪に無電解ニッケルメッキ等のメッキ耐食処理を施したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−132382(P2007−132382A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323868(P2005−323868)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】