説明

転がり軸受

【課題】耐熱性や長寿命、耐荷重性により優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪と外輪との間に保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、リン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤の少なくとも一種を、それぞれ単独でグリース全量の0.1〜5質量%、合計でグリース全量の10質量%以下の量含有するグリース組成物が充填されていることを特徴とする転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受に関し、特に耐熱性や耐荷重性、耐久性が要求される製鉄用機械や建設用機械等の荷重の係る回転、摺動機構に使用される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の機械技術の進歩に伴い、機械装置は小型軽量化・高速化の傾向が著しい。そのため、例えば、ベルトコンベアやギア等では従来にも増して高温化の傾向にある。また、圧延機のワークロールや建設機械では耐荷重性能や耐久性の要求も依然として強い。更に、最近の省資源化・省力化の要望から、機械装置にはメンテナンスフリー化も進展している。
【0003】
このような点から、製鉄用機械や建設用機械等には耐熱性や長寿命、耐荷重性が強く望まれており、組み込まれる転がり軸受に極圧剤含有グリースを充填することで対応しているのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−51508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、製鉄用機械や建設用機械等では、今後とも耐熱性や長寿命、耐荷重性が要求されるのは必至であり、本発明は耐熱性や長寿命、耐荷重性により優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の転がり軸受を提供する。
(1)内輪と外輪との間に保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、リン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤の少なくともを、それぞれ単独でグリース全量の0.1〜5質量%、合計でグリース全量の10質量%以下の量含有するグリース組成物が充填されていることを特徴とする転がり軸受。
(2)リン−硫黄系極圧剤がチオフォスフェートまたはチオフォスファイトであることを特徴とする上記(1)記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明の転がり軸受は、特定の極圧剤を含有するグリース組成物を充填したことにより、これまでよりも潤滑性能をより長期にわたり維持でき、耐久性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明において転がり軸受の構造には制限がなく、例えば図1に示す玉軸受を例示することができる。図示される玉軸受1は、内輪10と外輪11との間に、保持器12を介して複数の転動体である玉13を転動自在に保持し、更に、内輪10と外輪11と玉13とで形成される軸受内部空間Sに後述されるグリース組成物(図示せず)を充填し、シール14で封止して概略構成される。
【0010】
グリース組成物の基油は、制限されるものでないが、鉱油系潤滑油及び合成潤滑油を好適に使用することができる。鉱油系潤滑油としては、制限されるものではないが、例えば、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱油及びこれらの混合油を使用することができる。合成潤滑油としては、制限されるものではないが、例えば、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油及びフッ素油を使用することができる。具体的には、合成炭化水素油としてはポリα−オレフィン等を、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル等を、エステル油としてはジエステル油、ネオペンチル型ポリオールエステル油またはこれらのコンプレックスエステル油、芳香族エステル油等を、フッ素油としてはパーフルオロエーテル油、フルオロシリコーン油、クロロトリフルオロエチレン油、フルオロフォスファゼン油等を、それぞれ挙げることができる。また、これらの潤滑油は、それぞれ単独でも、複数種を適宜組み合わせて使用してもよい。中でも、高温、高速での潤滑性能及び寿命を考慮すると、合成潤滑油を含むことが好ましく、特にエステル油、エーテル油を含有することが好ましい。また、コスト面からは、鉱油系潤滑油を含有することが好ましい。
【0011】
また、基油は、40℃における動粘度が20〜185mm/sであることが好ましく、24〜132mm/sがより好ましい。40℃における動粘度が20mm/s未満では耐摩耗性が十分ではなく、185mm/sを超えると摺動接触部に基油が入り込み難くなり、スティックスリップ現象を抑制し難くなる。
【0012】
増ちょう剤は、上記基油中にコロイド状に分散し、基油を半固体状または固体状にする物質であれば制限はなく、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウムコンプレックス石けん、ナトリウムコンプレックス石けん、バリウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の金属石けん、ベントナイト、クレイ等の無機化合物、モノウレア化合物、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ウレタン、ナトリウムテレフタレート等の有機化合物等が挙げられ、それぞれ単独で、または適宜組み合わせて使用できる。
【0013】
また、増ちょう剤は、グリース全量の5〜30質量%の割合で基油中に分散される。増ちょう剤量が5質量%未満ではグリース状態を維持することが困難であり、30質量%を超えるとグリース組成物が硬すぎて十分な潤滑性能が得られないおそれがある。
【0014】
上記の増ちょう剤の中でも、金属との親和性が高く、摺動時に保護膜を形成しやすくより良好な摩擦特性を付与することができることから、ウレア化合物が好ましい。特に、ウレア化合物をグリース全量の15〜30質量%配合することにより、前記の保護膜がより一層強固になり、スティックスリップ現象をより抑制することができる。更に、ウレア化合物の中でも下記式で表されるジウレア化合物が好ましい。トリウレア化合物やテトラウレア化合物は高温でのちょう度変化が大きく、せん断安定性も悪く、更には高温で放置されると重合物を生成して硬化しやすい等の欠点がある。
−NHCONH−R−NHCONH−R
【0015】
式中、Rは炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を表す。R,Rはそれぞれ炭化水素基または縮合環炭化水素基を表し、同一でも異なっていてもよく、また炭化水素基は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基の何れでもよく、更に縮合炭化水素基の場合炭素数は9〜19が好ましい。
【0016】
また、上記ジウレア化合物は、基油中で、Rを骨格中に含むジイソシアネート1モルに対して、RまたはRを骨格中に含むモノアミンを合計で2モルの割合で反応させることにより得られる。
【0017】
を骨格中に含むジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、ジメチルジフェニルイソシアネートあるいはこれらのアルキル置換体を好適に使用できる。
【0018】
またはRとして炭化水素基を骨格中に含むモノアミンとしては、アニリン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、トルイジン、ドデシルアニリン、オクタデシルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ナノデシルアミン、エイコデシルアミン、オレイルアミン、リノレイルアミン、リノレニルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、エチルシクロヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ブチルシクロヘキシルアミン、プロピルシクロヘキシルアミン、アミルシクロヘキシルアミン、シクロオクチルアミン、ベンジルアミン、ベンズヒドリルアミン、フェネルアミン、メチルベンジルアミン、ビフェニルアミン、フェニルイソプロピルアミン、フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
【0019】
またはRとして縮合環炭化水素基を骨格中に含むモノアミンとしては、アミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチルインデン等のインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノフェニルナフタレン、アミノベンジルナフタレン、アミノジナフチルアミン、アミノビナフチル、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタレン等のナフタレン系アミン化合物、アミノペンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレン等の縮合二環系アミン化合物、アミノフルオレン、アミノ−9−フェニルフルオレン等のアミノフルオレン系アミン化合物、アミノアントラセン、アミノメチルアントラセン、アミノジメチルアントラセン、アミノフェニルアントラセン、アミノ−9,10−ジヒドロアントラセン等のアントラセン系アミン化合物、アミノフェナントレン、アミノ−1,7−ジメチルフェナントレン、アミノレテン等のフェナントレン系アミン化合物、アミノビフェニレン、アミノ−s−インダセン、アミノ−as−インダセン、アミノアセナフチレン、アミノアセナフテン、アミノフェナレン等の縮合三環系アミン化合物、アミノナフタセン、アミノクリセン、アミノピレン、アミノトリフェニレン、アミノベンゾアントラセン、アミノアセアントリレン、アミノアセアントレン、アミノアセフェナントリレン、アミノアセフェナントレン、アミノフルオランテン、アミノプレイアデン等の縮合四環系アミン化合物、アミノペンタセン、アミノペンタフェン、アミノピセン、アミノペリレン、アミノジベンゾアントラセン、アミノベンゾピレン、アミノコラントレン等の縮合五環系アミン化合物、アミノコロネン、アミノピラントレン、アミノビオラントレン、アミノイソビオラントレン、アミノオバレン等の縮合多環系(六環以上)系アミン化合物等を好適に使用できる。
【0020】
本発明では、グリース組成物にリン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤の少なくとも一方を添加する。添加量は、それぞれグリース全量の0.1〜5質量%であり、1〜4質量%がより好ましい。但し、合計でグリース全量の10質量%以下とし、1〜10質量%とすることが好ましい。リン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤の何れか一方の添加量が0.1質量%未満の場合、十分な極圧作用を付与できない。また、リン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤の合計添加量が10質量%を超えると、効果が飽和するばかりでなく、熱安定性が低下するようになる。
【0021】
リン系極圧剤としては、下記一般式(1)で表されるリン酸エステルを挙げることができる。
【0022】
【化1】

【0023】
一般式(1)において、R1〜R3は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基または炭素数6〜30のアリール基を表し、それぞれ異なっていてもよく、全て同じであってもよい。一般的(1)で表されるリン酸エステルの具体例として、トリブチルホフフェート、エチルジブチルホスフェート、トリヘキシルフォスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリクレジルホスフェート等を挙げることができる。中でも、トリクレジルホスフェートが好ましい。
【0024】
また、リン系極圧剤として、下記の一般式(2)または一般式(3)で表される酸性リン酸エステルも使用できる。
【0025】
【化2】

【0026】
一般式(2)及び一般式(3)において、R4及びR5は炭素数1〜30のアルキル基を表し、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ペンタデシル基、各種オクタデシル基、各種ナデシル基、各種エイコシル基、各種ヘンエイコシル基、各種ドコシル基、各種トリコシル基、各種テトラコシル基、各種ペンタコシル基、各種ヘキサコシル基、各種ペンタコシル基、各種オクタコシル基、各種ノナコシル基、各種トリアコンチル基が挙げられる(各種とは、分岐状または直鎖状を示す)。また、R4及びR5は同一でも異なっていてもよい。中でも、メチル基が好ましい。
【0027】
また、酸性リン酸エステルは、アミン塩でもよい。アミン塩を形成するアミン類としては、下記一般式(4)で表されるものが好ましい。
R6NH3−n ・・・(4)
【0028】
一般式(4)において、R6は炭素数1〜30の分岐状または直鎖状のアルキル基(具体例は上記の通り)を表し、nは1、2または3である。また、R6が複数、即ちジ置換(第2級)アミンやトリ置換(第3級)アミンの場合、複数のR6は同一でも異なっていてもよい。これらの中では、ドデシル基置換第1級アミンが好ましい。
【0029】
リン−硫黄系添加剤としては、リン原子及び硫黄原子を含む化合物であり、チオフォスフェートやチオフォスファイトのように分子中にリン原子と硫黄原子の両方を有する化合物の他に、分子中にリン原子を有する化合物(リン系添加剤)と、分子中に硫黄原子を有する化合物(硫黄系添加剤)とを混合したものを含む。
【0030】
チオフォスフェート類としては、チオリン酸エステルの基本構造を有するもので、例えばトリフェニルフォオロチオネート(TPPT)等が挙げられる。また、チオフォスファイト類としては、一般式「(RS)P;Rはアルキル基」で表される有機トリチオフォスファイトが挙げられ、例えばトリブチルトリチオフォスファイトやトリ(2−エチルヘキシル)チオフォスファイト等が挙げられる。
【0031】
また、グリース組成物には、必要に応じて、その他の各種添加剤を添加してもよい。例えば、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適量添加することができる。
【0032】
グリース組成物は上記の各成分を含有するが、その製造方法には制限がなく、従来のグリースと同様にして調製することができるが、一般的には基油中で増りょう剤を反応させて得られるベースグリースに、リン−硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、更にはその他の添加剤を添加した後、ロールミル等により十分に混練して均一に混合する。また、混練時に加熱してもよい。
【0033】
また、グリース組成物の混和ちょう度は、220〜395が好ましく、265〜350がより好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
表1に示す如く、基油、増ちょう剤並びに極圧剤を配合してロールミルを通すことで試験グリースを得た。尚、何れの試験グリースにも、グリース全量に対し2質量%のアミン系酸化防止剤、1質量%のカルシウムスルフォネート系防錆剤、0.05質量%のベンゾトリアゾール系金属不活性化剤を添加した。そして、各試験グリースに関して、下記に示す焼付き潤滑寿命試験を行った。
【0036】
・焼付き潤滑寿命試験
転がり軸受(日本精工(株)製、型番6305VV)に各試験グリースを3.5g封入し、軸受温度160℃、ラジアル荷重98N、アキシアル荷重1470N、回転数3000min−1の条件で連続回転させた。そして、モータが過負荷となり停止するか、または軸受温度が10℃上昇した時点を焼付き潤滑寿命時間とした。試験結果を表1に示すが、比較例1の焼付き潤滑寿命時間を1とする相対値で示してある。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、本発明に従い、リン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤を、それぞれ単独で、または両極圧剤を含有するグリース組成物を封入することで、高温、高速、高荷重下での耐久性が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】転がり軸受の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
13 玉
14 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、リン−硫黄系極圧剤及びリン系極圧剤の少なくとも一種を、それぞれ単独でグリース全量の0.1〜5質量%、合計でグリース全量の10質量%以下の量含有するグリース組成物が充填されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
リン−硫黄系極圧剤がチオフォスフェートまたはチオフォスファイトであることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2008−144808(P2008−144808A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330747(P2006−330747)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】