説明

転てつ機

【課題】非接触のトルク伝達装置を減速機構の内部に組み込んだ構成を備え、駆動源の駆動力を効率よく利用し得る低コストな転てつ機を提供する。
【解決手段】転てつ機1は、動作桿7と、動作桿7を駆動する駆動源3と、駆動源3の駆動力を減じて動作桿7に伝達する複数段の減速部を有する減速機構13と、複数段の減速部の間に配置されたトルク伝達装置15とを備える。トルク伝達装置15は、回転磁界により生ずる誘導電流を利用した非接触の動力伝達機構であり、すべり回転数が増加するに従って、伝達するトルクが大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転てつ機に関する。
【背景技術】
【0002】
転てつ機は、トングレールを定位と反位の間で転換させるものであり、動作桿及び鎖錠桿、これらの駆動源である駆動モータ、その駆動力を動作桿に伝達する伝達機構、鎖錠桿を鎖錠・解錠するロックピースなどを備えている。
【0003】
転てつ機は、例えばトングレールと基本レールとの間に異物が挟まるなど、転換動作が妨害された場合、駆動モータがロックして焼損したり、急激な停止によって発生する衝撃で伝達機構などが損傷したりする恐れがあったため、例えば特許文献1に開示されているように、駆動モータの動力を伝達する減速機構の内部に、ヒステリシス式トルクリミッタ等のトルク伝達装置を組み込むと有効である。
【0004】
ヒステリシス式トルクリミッタは、内周面をヒステリシス材により覆われた円筒状のハウジングと、永久磁石が外周面上に等間隔で配置されたロータとを含み、永久磁石の磁力によるヒステリシス材の磁化を利用して、ハウジングの回転に従ってロータが回転するように構成された動力伝達機構である。
【0005】
このヒステリシス式トルクリミッタは、特許文献1に記載されているように、所定のトルク伝達性能を備えることによって、減速機構内部への配置が許容され、結果的に、ブレーキ手段を必要とすることなく、転換動作の妨害時の衝撃による破損を回避し得る転てつ機を実現した。
【0006】
しかしながら、ヒステリシス式トルクリミッタは、高価なヒステリシス材を必要とするため、コスト面の課題を抱えており、さらに、次に述べるように、トルク伝達性能についても改善の余地はある。
【0007】
ヒステリシス式トルクリミッタは、文字通り、駆動モータから出力されるトルクを制限する機構であるから、回転数によらずに一定の大きさのトルクしか伝達することができない。これは、駆動力の利用効率の観点からすると好ましくない。
【0008】
しかも、ヒステリシス式トルクリミッタは、駆動モータに供給される電圧の変動に備えて、該供給電圧の最小値を基準とする大きさの伝達トルクとなるように、永久磁石の磁力などのパラメータを制限して構成しなければならない。
【0009】
一般的に、電気転てつ機の供給電圧は、±20(%)程度の範囲で変動する。転てつ機に適用される一般的なモータは誘導モータであり、この誘導モータは、回転中に供給電圧が例えば−20(%)となった場合、出力トルクが0.8倍、つまり0.64倍にまで低下する。このとき、減速機構内部に設けられたヒステリシス式トルクリミッタの伝達トルクが誘導モータの出力トルクを上回ると、誘導モータは、回転軸を拘束されることにより焼損に至ることがある。したがって、これを回避すべく、ヒステリシス式トルクリミッタは、伝達するトルクの大きさを予め制限する必要が、設計上、生じてしまうのである。
【0010】
この点からしても、ヒステリシス式トルクリミッタは、駆動モータの駆動力を効率よく利用できるトルク伝達機構であるとは言いがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−36804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、非接触のトルク伝達装置を減速機構の内部に組み込んだ構成を備え、駆動源の駆動力を効率よく利用し得る低コストな転てつ機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明に係る転てつ機は、動作桿と、前記動作桿を駆動する駆動源と、前記駆動源の駆動力を減じて前記動作桿に伝達する複数段の減速部を有する減速機構と、前記複数段の減速部の間に配置されたトルク伝達装置とを備える。
【0014】
本発明に係る転てつ機の特徴として、前記トルク伝達装置は、回転磁界により生ずる誘導電流を利用した非接触の動力伝達機構であり、すべり回転数が増加するに従って、伝達するトルクが大きくなる。ここで、すべり回転数とは、出力側の回転数と入力側の回転数の差(相対回転数)を意味する。
【0015】
本発明に係る転てつ機によると、複数段の減速部の間に配置されたトルク伝達装置を備えるから、上述した従来技術のように、慣性を減じることによって、転換動作の妨害時の衝撃による破損を回避することができる。
【0016】
そして、本発明に係る転てつ機は、トルク伝達装置が、回転磁界により生ずる誘導電流を利用した非接触の動力伝達機構であるから、ヒステリシス式トルクリミッタとは違って、高価なヒステリシス材を必要とすることがない。
【0017】
また、本発明に係る転てつ機は、すべり回転数の増加により大きなトルクを発生させるから、駆動源への供給電圧の低下時であっても、駆動源に備わる回転軸が拘束されることもない。このため、トルク伝達装置のトルク伝達性能を、上述したように、駆動源の出力トルクの最小値に合わせて制限する必要がない。
【0018】
さらに、本発明に係る転てつ機は、すべり回転数が増加するに従って、伝達するトルクが大きくなるため、ヒステリシス式トルクリミッタとは異なり、回転数によらずに伝達するトルクの大きさが一定に制限されることなく、駆動源の駆動力を効率的に利用することができる。これは、例えば、次のような利点をもたらすことになる。
【0019】
転てつ機の動作桿、及び鎖錠桿は、ロッドやクランクなどの機械的な動力伝達機構を介して、トングレールと接続されている。この機構は、屋外に設置されるために、雨水による錆、小石、泥などのために、可動部分の摩擦力が増加してしまい、結果として、転てつ機の転換動作の負荷が増加することがある。
【0020】
このような過酷な条件下にあっても、本発明に係る転てつ機は、予め、適当な出力の駆動源を備えることによって、すべり回転数が高い状態、つまり、トルク伝達装置の出力軸の回転数(回転速度)が低い状態で大きな転換力を発揮し、望ましい転換動作を実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明によれば、非接触のトルク伝達装置を減速機構の内部に組み込んだ構成を備え、駆動源の駆動力の効率よく利用し得る低コストな転てつ機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る転てつ機を縦断面的に示す図である。
【図2】トルク伝達装置を縦断面的に示す図である。
【図3】トルク伝達装置を平面的に示す図である。
【図4】トルク伝達装置を単体としてみた場合のすべり回転数に対する伝達トルクの大きさを示すグラフである。
【図5】トルク伝達装置を誘導モータと組み合わせてみた場合の出力側の回転数に対する伝達トルクの大きさを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本実施の形態に係る転てつ機を縦断面的に示す図である。転てつ機1は、誘導モータ3を有している。誘導モータ3は、駆動源であって、転てつ機1のケース5に取り付けられている。ケース5内には、動作桿7、鎖錠桿9、ロックピース11、減速機構13、トルクリミッタ15等が設けられている。
【0024】
動作桿7は、図示省略するトングレールを定位及び反位の間で動作させるものであり、図1紙面の表裏方向に延びる概ね棒状の部材である。鎖錠桿9もまた、動作桿7と同様に、図1紙面の表裏方向に延びる概ね棒状の部材であって、トングレールの先端近傍に接続され、トングレールの先端近傍の位置の検出する。ロックピース11は、所定条件に応じて、鎖錠桿9に設けられている切り欠きと係合・離脱し、鎖錠桿9の鎖錠・解錠を行う。これら動作桿7、鎖錠桿9、ロックピース11は既存の転てつ機に設けられていた構成と同様に構成することができる。
【0025】
減速機構13は、誘導モータ3の駆動力を、減速して動作桿7に伝達するものである。減速機構13は、複数段、本例では、三段の減速部を有する。一段目の減速部は、第1ギヤ21と第2ギヤ22とから構成され、二段目の減速部は、第3ギヤ23と第4ギヤ24とから構成され、三段目の減速部は、第5ギヤ25と第6ギヤ26とから構成されている。第1ギヤ21及び第2ギヤ22はそれぞれ、小ベベルギヤ及び大ベベルギヤとなっている。また、第4ギヤ24及び第5ギヤ25は、一体的に回転するように同一の軸部材に支持されている。一方、第2ギヤ22と第3ギヤ23との間には、トルク伝達装置15が設けられており、すなわち、第2ギヤ22及び第3ギヤ23は、別々の軸部材に支持されている。
【0026】
次に、図2及び図3に基づいてトルク伝達装置15の構成を説明する。トルク伝達装置15は、回転磁界により生ずる誘導電流を利用した非接触の動力伝達機構である。図2及び図3はそれぞれ、トルク伝達装置15を縦断面的及び平面的に示す図である。トルク伝達装置15は、略円筒状のハウジング31と、その内部に回転自在に収容された略円柱状のロータ33とを含む。
【0027】
ハウジング31は、磁性体からなり、外周部に大ベベルギヤである第2ギヤ22が設けられている。ハウジング31の上部には、出力軸37が貫通しており、出力軸37の上部には、第3ギヤ23が設けられている。出力軸37の下部すなわちハウジング31の内側部分には、ロータ33が設けられている。
【0028】
ハウジング31の内周面には、複数対の永久磁石35a,35bが、ロータ33の外周面と対向するように設けられている。永久磁石35a,35bは、高い磁気性能を有する希土類磁石などで構成されており、好適な例として、サマリウムコバルト磁石で構成されている。もっとも、永久磁石35a,35bは、設計に応じて、安価なフェライト磁石を用いて構成することもできる。
【0029】
ハウジング31は、第2ギヤ22からの動力を受け、軸Aを中心に方向Rに回転する。これに伴い、永久磁石35a,35bは、ハウジング31内部に回転磁界を生ずる。
【0030】
一方、ロータ33は、外周面上に略平行四辺形状の間隙を有する籠型導体部331と、籠型導体部331の該間隙と内部空間とを埋めるように設けられた磁性体部332とを含む。籠型導体部331は、例えば、安価なアルミニウムからなり、永久磁石35a,35bにより生ずる回転磁界によって誘導電流Id,Iuが流れる。
【0031】
この誘導電流Id,Iuは、籠型導体部331にローレンツ力を作用させる。図3に示されるように、N極の磁石35aによる誘導電流35aの向きと、S極の磁石35bによる誘導電流35bの向きは、正反対であるため、当該部分に作用するローレンツ力の方向も正反対となり、これによりロータ33に回転力が作用する。したがって、ハウジング31が回転すると、これに伴ってロータ33も軸Aを中心に回転し、トルクが伝達されることになる。
【0032】
一方、磁性体部332は、回転磁界による渦電流損を回避すべく、例えばケイ素鋼板からなる。磁性体部332は、ロータ33の中心部において出力軸37と接続されている。
【0033】
このような構成を有するトルク伝達装置15の性能は、図4、及び図5に示されている。
【0034】
まず、図4は、トルク伝達装置15を単体としてみた場合のすべり回転数に対する伝達トルクの大きさを示すグラフである。図中の実線は、本発明に係る転てつ機に備えられるトルク伝達装置15の特性を示し、他方、点線は、上述した従来技術であるヒステリシス式トルクリミッタの特性を示している。
【0035】
また、すべり回転数とは、出力側の回転数と入力側の回転数の差(相対回転数)を意味しており、本実施形態においては、ハウジング31の回転数からロータ33の回転数を差し引いた値となる。これは、言い換えれば、第2ギヤ22と第3ギア23の回転数の差分であり、ヒステリシス式トルクリミッタについても同様である。
【0036】
図4から明確に理解されるように、ヒステリシス式トルクリミッタは、実質的に、すべり回転数によらず、一定の大きさのトルクを伝達する。これは、上述したように、ヒステリシス式トルクリミッタがヒステリシス材の磁化を利用しているためである。
【0037】
これに対して、本発明に係る転てつ機に備えられるトルク伝達装置15は、すべり回転数が増加するほど、大きなトルクを伝達するという特徴を備える。これは、トルク伝達装置15が、回転磁界により生ずる誘導電流を利用しており、回転磁界の回転速度の増加に従ってローレンツ力が増加するためである。
【0038】
図5は、図4に示された特性に基づくものであって、トルク伝達装置を誘導モータと組み合わせてみた場合の出力側の回転数、すなわち第3ギア23の回転数に対する伝達トルクの大きさを示すグラフである。図中の実線は、トルク伝達装置15の特性を示し、他方、点線は、ヒステリシス式トルクリミッタの特性を示している。また、一点鎖線は、参考として、誘導モータ3の回転数に対する出力トルクの変化を示している。
【0039】
図5から明確に理解されるように、ヒステリシス式トルクリミッタは、既に述べた通り、誘導モータ3の出力トルクをカットして、伝達するトルクの大きさを一定値に制限する。しかも、その値は、誘導モータ3の供給電圧の最小値を基準として設定されているため、トルク伝達装置15と比較すると、回転数が低い領域において非常に小さいものとなる。このように、ヒステリシス式トルクリミッタは、誘導モータ3から得られる駆動力を効率よく利用することができない。
【0040】
これに対して、本発明に係る転てつ機に備えられるトルク伝達装置15は、出力側の回転数が低くなるに従って、伝達するトルクが大きくなる。トルク伝達装置15は、誘導モータ3の出力トルクと比較するとわかるように、誘導モータ3から得られる駆動力を効率よく利用している。
【0041】
本発明に係る転てつ機によると、複数段の減速部13の間に配置されたトルク伝達装置15を備えるから、上述した従来技術のように、慣性を減じることによって、転換動作の妨害時の衝撃による破損を回避することができる。
【0042】
そして、本発明に係る転てつ機は、トルク伝達装置15が、回転磁界により生ずる誘導電流を利用した非接触の動力伝達機構であるから、ヒステリシス式トルクリミッタとは違って、高価なヒステリシス材を必要とすることがない。
【0043】
また、本発明に係る転てつ機は、すべり回転数の増加により大きなトルクを発生させるから、誘導モータ3への供給電圧の低下時であっても、駆動源の回転軸が拘束されることもない。このため、トルク伝達装置15のトルク伝達性能を、上述したように、誘導モータ3の出力トルクの最小値に合わせて制限する必要がない。
【0044】
さらに、本発明に係る転てつ機は、すべり回転数が増加するに従って、伝達するトルクが大きくなるため、ヒステリシス式トルクリミッタを備えるものとは異なり、回転数によらずに伝達するトルクの大きさが一定に制限されることなく、誘導モータ3の駆動力を効率的に利用することができる。これは、例えば、次のような利点をもたらすことになる。
【0045】
転てつ機の動作桿7、及び鎖錠桿9は、ロッドやクランクなどの機械的な動力伝達機構を介して、トングレールと接続されている。この機構は、屋外に設置されるために、雨水による錆、小石、泥などのために、可動部分の摩擦力が増加してしまい、結果として、転てつ機の転換動作の負荷が増加することがある。
【0046】
このような過酷な条件下にあっても、本発明に係る転てつ機は、予め、適当な出力の誘導モータ3を備えることによって、すべり回転数が高い状態、つまり、トルク伝達装置15の出力軸37の回転数(回転速度)が低い状態で大きな転換力を発揮し、望ましい転換動作を実現することができる。
【0047】
なお、本発明に係る転てつ機に備えるトルク伝達装置15は、転てつ機の用途に限定されず、例えば、踏切装置の遮断かんの駆動機構にも適用でき、同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0048】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0049】
1 転てつ機
3 誘導モータ
13 減速機構
15 トルク伝達装置
31 ハウジング
33 ロータ
331 籠型導体部
332 磁性体部
35a,35b 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作桿と、
前記動作桿を駆動する駆動源と、
前記駆動源の駆動力を減じて前記動作桿に伝達する複数段の減速部を有する減速機構と、
前記複数段の減速部の間に配置されたトルク伝達装置とを備えた転てつ機において、
前記トルク伝達装置は、回転磁界により生ずる誘導電流を利用した非接触の動力伝達機構であり、すべり回転数が増加するに従って、伝達するトルクが大きくなることを特徴とする、
転てつ機。
【請求項2】
請求項1に記載された転てつ機であって、
前記トルク伝達装置は、ロータと、前記ロータを回転自在に収容するハウジングとを含
んでおり、
前記ハウジングは、前記回転磁界を生ずる複数の永久磁石が内周面に設けられ、
前記ロータは、前記誘導電流を生ずる導体が外周面に設けられた、
転てつ機。
【請求項3】
請求項2に記載された転てつ機であって、
前記導体は、アルミニウムからなる、
転てつ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−56540(P2012−56540A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204637(P2010−204637)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】