転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法
【課題】屋内外問わず異常発生検出可能であって計測領域が広く、計測精度も高く、また省電力性および携帯性にも優れ、緊急時の対応性も十分なものが得られる異常発生検出方式を提供すること。
【解決手段】転倒検出装置4は、検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる装置であって、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサ1Aと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサ1Bと、3軸加速度センサ1Aおよび3軸角速度センサ1Bによる各センサ信号を処理する信号処理手段2と、信号処理手段2により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段3とを備えてなる構成である。
【解決手段】転倒検出装置4は、検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる装置であって、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサ1Aと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサ1Bと、3軸加速度センサ1Aおよび3軸角速度センサ1Bによる各センサ信号を処理する信号処理手段2と、信号処理手段2により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段3とを備えてなる構成である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法に係り、特に高齢者等の検出対象者における転倒を精度よく検知し、携帯型電話機等の携帯型情報端末を介して転倒を通報・送信することにより、高齢者等の安全・安心な屋外活動を可能とする情報通信システムの確立のための、転倒検出装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、全国的に高齢化が進んでおり、また、出生率を高齢者の死亡率が上回ることで、人口の減少も加速している。かかる社会状況の中、高齢者だけで生活している独居老人の数は年々増加し、周囲の人に知られることなく亡くなっていく孤独死の事例が増え、社会問題となっている。
【0003】
このような問題を解決するために、ユビキタスネットワークを用いた情報の伝達手法は有効であると考えられている。つまり高齢者の状況について、通常であれば傍に付き添っていなくては得られないような情報を、観測データという形でネットワークを通して確認することができるからである。しかし、プライバシーや精神的負担を考慮すれば、日常生活の中で、高齢者にとって違和感のない状態で計測できる手法が最適であると考えられる。つまり、常時身体に装着したり携帯するにあたって、不便・違和感を感じないような構造・形態・サイズ・仕様であることが望ましい。
【0004】
これまでも、高齢者の日常生活における挙動をモニタリングするシステムは、数多く開発されてきた。しかしその多くは、特定位置(トイレ・風呂等)に設置したドアスイッチの監視や、赤外線による室内の動態モニタ)や、ガス・水道・電気の使用状況などによる非リアルタイムでのモニタリングであり、計測領域・計測範囲・計測精度は限定されたものである。また、センサを身体の複数個所に装着するなどの計測方法も報告されているが、実用機として開発されたものの報告は、まだ少ない状態である。
【0005】
装着式の計測方法として一般的には、押しボタン式の通報装置が簡易で使用しやすく、よく採用されている。これは、高齢者等の監視対象者に常時装着してもらい、何らかの異常発生を認識・認知した場合には自身の手によって押しボタンを操作してもらうことで、異常の情報が通常電話回線を介して監視側に伝達されるという方式である。
【0006】
なお特許文献1には、これら従前の状況を踏まえ、監視対象者が立位・座位・臥位等の姿勢の場合や、転倒・落下等の重大事故に遭遇した状態であっても、その身体の動作を検出可能とすることを目的とした技術が開示されている。これは、対象者に取り付けられた端末装置から送信された程度情報を受信する受信部と、受信した程度情報に基づいて端末装置の程度が変化したときの「高度差」を計測する高度差計測部と、計測した高度差に基づいて対象者の動作姿勢を判断する判断部と、判断した動作姿勢を示す動作姿勢情報を出力する出力部とを備えた情報処理装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−246741号公報「生体姿勢監視システム及び生体姿勢監視システムの制御方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的に普及している上記押しボタン方式は、携帯性や省電力性には問題がないものの、通報の中継点となる中継機は屋内に設置されるものであるために、計測領域が限定される。また、計測精度が低いという問題もある。しかも異常発生情報の発信は監視対象者の自発的な操作行為に依存しているため、突然意識を失って転倒する場合や不慮の外力を受けて転倒する場合など、監視対象者が操作できない場合には、その異常発生情報が伝達され得ず、緊急時の対応性は不十分である。
【0009】
また特許文献開示技術は、加速度センサと角速度センサを組み合わせて用い、監視対象者への装着ポイントの移動量や高度差を解析することによって、詳細に対象者の姿勢分析を行う技術である。これはGPSと連動する構成であるため、計測領域や計測精度の点では特に問題がないものの、解析に必要なプログラム・データ両メモリの容量は大きくなり、使用するマイクロプロセッサと周辺回路には相応のスペースを要する。したがって、省電力性が低く運転コストが高くなるとともに、装置の小型化には限界があるため携帯性が低く、導入しにくい。
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、押しボタン方式と異なり屋内外問わず異常発生検出可能であって計測領域が広く、かつ計測精度も高く、また上記文献開示技術と異なり省電力性および携帯性に優れていて導入しやすく、しかも緊急時の対応性も十分なものが得られる、異常発生検出方式を提供することである。
【0011】
特に、解析に必要となるプログラム・データ両メモリの容量抑制が可能で、使用するマイクロプロセッサと周辺回路そのもののダウンサイジングも可能となり、装置に組み込む際に小型化・省電力化が可能な、異常発生検出方式を提供することである。
【0012】
また、本発明が解決しようとする課題は、携帯型電話機など広く普及している情報端末やネットワークシステムを利用することによって、異常発生を管理者側にリアルタイムで通報可能な、かつ高齢者等検出対象者の生活・行動範囲を拡大することの可能な、緊急時の通報・通信システムを確立、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は上記課題について検討した結果、高齢者等の異常発生情報検出対象者の姿勢の状態、特に転倒発生の有無を、3軸加速度センサと3軸角速度センサにより、転倒の際に発生する角速度とその後に発生する重力加速度の軸の遷移を確認することで検知可能であることを見出し、それに基づいて課題解決手段たる本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0014】
〈1〉 検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる転倒検出装置であって、該装置は、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる、転倒検出装置。
〈2〉 前記信号処理手段においては、前記3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度の検知と、前記3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移の検知とに基づき、検出対象者における転倒発生が判断されることを特徴とする、〈1〉に記載の転倒検出装置。
〈3〉 検出対象者自身により操作可能な入力手段を備え、該入力手段による入力に係る信号を前記通信手段を介して外部に対して送信可能に構成されていることを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載の転倒検出装置。
〈4〉 前記通信手段はBluetooth、ZigBee、Xbee、無線LANまたはその他の無線通信方式により外部の中継機との間で無線通信可能な無線回路であることを特徴とする、〈1〉ないし〈3〉のいずれかに記載の転倒検出装置。
【0015】
〈5〉 前記転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機との組み合わせによって、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、〈1〉ないし〈4〉のいずれかに記載の転倒検出装置。
〈6〉 前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末と、屋外においても使用可能な携帯型電話機その他の携帯型情報端末を用い、これら二つを屋内−屋外で引き継ぎ可能に構成し、それにより屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、〈5〉に記載の転倒検出装置。
〈7〉 〈1〉ないし〈6〉のいずれかに記載の転倒検出装置と、該転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機とからなり、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、転倒検出ユニット。
〈8〉 前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末か、または屋外使用も可能な携帯型情報端末の少なくともいずれか一方が用いられることを特徴とする、〈7〉に記載の転倒検出ユニット。
【0016】
〈9〉 〈7〉または〈8〉に記載の転倒検出ユニットと、ネットワークシステムを介して該転倒検出ユニットと接続可能なサーバとからなる転倒検出システムであって、該サーバは、該転倒検出ユニットの中継機から送信された転倒の情報を蓄積するとともに転倒発生時における転倒発生の情報発信を行い、かかる構成により検出対象者の屋内外全域における行動を可能とすることを特徴とする、転倒検出システム。
〈10〉 前記中継機からの情報に基づき、検出対象者の転倒発生地点を判別可能であることを特徴とする、〈9〉に記載の転倒検出システム。
〈11〉 前記ネットワークシステムを介して前記サーバに接続される転倒検出サービス利用者側端末が含まれることを特徴とする、〈9〉または〈10〉に記載の転倒検出システム。
〈12〉 検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる転倒検出装置を、検出対象者に携帯もしくは装着させ、該3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度が検知され、かつ該3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移が検知された場合に、検出対象者における転倒発生として検出する、転倒検出方法。
【0017】
つまり本発明は、加速度(3軸)と角速度(3軸)の計6軸を計測することによって対象者の転倒を検出することを基礎とし、それにより、かかる検出手法を組み込んだ端末と携帯型電話機等の中継機との間を無線通信(BluetoothやZigBee等を含む)によってデータ通信させ、中継機からはインターネットを介して家族や対処する関連施設へ情報を送信するシステムの構築を可能とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法は上述のように構成されるため、これによれば、押しボタン方式と異なって計測領域が広くなり、屋内外問わずあらゆる範囲に亘って異常発生検出が可能となる。また、押しボタン方式と異なって高い計測精度を得られる。そして、上記文献開示技術と異って省電力性および携帯性の優れた方式を提供することができるため、導入しやすい。しかも緊急時の対応性も十分である。従来の方式は、これらの利点の一部のみしか備えていなかったが、本発明はこれら全ての利点を備えており、有用性が極めて高い。
【0019】
特に本発明の転倒検出装置等は、角速度(トリガ)と加速度(姿勢検知)により機能分担して転倒を検出するという方式に基づくものであるため、解析に必要となるプログラム・データ両メモリの容量抑制が可能で、使用するマイクロプロセッサと周辺回路そのもののダウンサイジングも可能となる。したがって、装置に組み込む際に小型化・省電力化が可能である。このことは、上述の優れた携帯性を実現することになる。つまり本発明の転倒検出装置は、高齢者等の検出対象者に、日常生活の中で常時身体に装着したり携帯してもらいやすい。
【0020】
また本発明の転倒検出装置によれば、従来の押しボタン方式のように検出対象者自身による異常情報発信操作は不要であるため、たとえば検出対象者が突然意識喪失した場合や、不慮の外力を受けて転倒が発生した場合であっても、その情報が自動的に検出され、通信される。また逆に、たとえば横臥姿勢の最中に寝返りを打った時のように決して異常な状態ではない場合に、誤ってこれを異常と判断してしまうことも、本発明の方式によれば回避できる。
【0021】
なお、本発明の転出検討措置には、これを装着・携帯する検出対象者自身が操作できる入力手段をも併せて設ける構成とすることもできる。かかる構成の場合は、自動的な異常動作検出態勢が常時とられている上に、検出対象者自身の認知・判断に基づく異常通報も随時可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、携帯型電話機やインターネットなど広く普及している情報端末やネットワークシステムにより、異常発生を、家族や対処する関連施設等の管理者側にリアルタイムで通報することができる。すなわち、既存の通信システムが屋内のみの使用を主として前提としていたところ、本発明の転倒検出システム等では、通信範囲・検出領域を拡大できるため、高齢者等検出対象者の安全・安心な屋外活動が可能となる。したがって高齢者等検出対象者は、その生活・行動範囲を拡大することが可能となり、実用性が高く、かつ人間性を重視した日常生活見守りシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。
【図1−2】入力手段を備えた本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。
【図1−3】入力手段を備えた本発明転倒検出装置の別の構成を示す概念図である。
【図2】本発明転倒検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明転倒検出装置による転倒検出推移を示す説明図である。
【図4A】本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との関係を示す概念図である。
【図4B】本発明に係る中継機の例を示す説明図である。
【図4−2】本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との別の関係を示す概念図である。
【図5】本発明転倒検出システムの基本構成を示す概念図である。
【図6】本発明転倒検出システムの構成例を示す説明図である。
【0024】
【図7】実施例において、転倒発生時の角速度および重力加速度出力変化計測結果を示すグラフである。
【図8(a)】実施例において、伏臥での転倒した場合における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図8(b)】実施例において、仰臥での転倒した場合における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図9(a)】実施例において、立位から転倒の挙動における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図9(b)】実施例において、図9(a)のグラフを平滑化処理したグラフである。
【図10(a)】実施例において、横方向に転倒した場合における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図10(b)】実施例において、図10(a)のグラフを平滑化処理したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置4は、検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる装置であって、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサ1Aと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサ1Bと、3軸加速度センサ1Aおよび3軸角速度センサ1Bによる各センサ信号を処理する信号処理手段2と、信号処理手段2により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段3とを備えてなることを、基本的な構成とする。
【0026】
かかる構成により、検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる本転倒検出装置4では、検出対象者が歩行等の運動を行うと、3軸加速度センサ1Aによってその歩行等の運動に基づき加速度が検知され、一方、3軸角速度センサ1Bによってその歩行等の運動に基づき角速度が検知される。このようにして3軸加速度センサ1Aおよび3軸角速度センサ1Bによって得られた各センサ信号は、信号処理手段2によって所定の処理がなされて、それにより一定の処理信号が得られる。当該処理信号は、通信手段3によって外部に対して送信され得る。
【0027】
つまり本装置4によれば、検出対象者の動作は2つのセンサ1A、1Bによって常に自動的に検知されて各センサ信号が得られ、各センサ信号が信号処理手段2により処理されてなる処理信号が、ある特定のものである場合に、これを検出対象者における特定の運動(動作)によるものと判断されて、通信手段3による外部送信がなされるものとすることができる。
【0028】
本発明は上述のとおり、検出対象者の歩行等の運動のうち、特に「転倒」に着目してなされた。転倒が、2つのセンサ1A、1Bにより検知された各センサ信号に基づき、どのように判断されるかについては、別の図を用いて後述する。
【0029】
図1−2は、入力手段を備えた本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置14は、図1に示した構成に加え、検出対象者自身により操作可能な入力手段10を備えており、入力手段10による入力に係る信号を記通信手段13を介して外部に対して送信可能に構成されていることを、特徴的な構成とする。入力手段10としては適宜形態・仕様のスイッチを用いることができるが、従来の押しボタン方式の装置に用いられているような押しボタンを用いることが、操作の簡単さの点で望ましい。
【0030】
したがって本転出検討措置14では、自動的な異常動作検出態勢が常時とられている上に、検出対象者自身が入力手段10を押す等の操作を実行することによって、自身の認知・判断に基づく異常通報を随時実施することもできる。これは、検出対象者に意識があり、しかも自身による異常発生の判断を行えて、入力操作も可能である場合、有用である。
【0031】
図1−3は、入力手段を備えた本発明転倒検出装置の別の構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置143では、信号処理手段123を中心としてこれに入力手段103、送信手段133が接続されている構成である。本構成例によれば、たとえば、スイッチ等の入力手段103による入力信号を、マイクロプロセッサ等の信号処理手段123で処理し、各種データの送受信が行われる(これには、送信手段133による送信処理も含まれる)、という方式が可能である。
【0032】
なお、ここに述べたように本発明検出装置の送信手段は、信号(情報)を送信するのみならず受信も可能な、送受信手段として構成することも範囲内である。
【0033】
図2は、3軸角速度センサや3軸加速度センサを用いた本発明転倒検出装置の構成例を示すブロック図である。また、
図3は、本発明転倒検出装置による転倒検出推移を示す説明図である。なお図3は、後述する実施例における推測図でもある。これらに図示するように本転倒検出装置の3軸角速度センサおよび3軸加速度センサにおける計測軸は、下記のとおりである。
角速度3軸:Pitch,Yaw,Roll軸の角速度計測
加速度3軸:X,Y,Z方向の加速度計測
【0034】
図2に示すように、本発明転倒検出装置の加速度センサおよび角速度センサによって計測されるX,Y,Z、Pitch,Yaw,Roll各軸のセンサ信号は、信号処理手段たるマイクロコンピュータあるいはマイクロプロセッサに送られ、ここで信号処理される。そして、信号処理手段においては、3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度の検知と、3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間で発生する遷移(軸間での遷移)の検知がなされることに基づいて、検出対象者における転倒発生が判断されるように、信号処理手段は構成されるものとすることができる。
【0035】
かかる構成の本転倒検出装置における転倒検出方法の要点を説明する。図3に示すとおり本転倒検出装置では、3軸角速度センサの1軸以上において閾値以上の角速度が検知され、かつ、3軸加速度センサにおいて検知される重力加速度が3軸のいずれかの軸間で遷移したことを示すものである場合、これら検知されて信号処理手段に送られるセンサ信号は、信号処理手段における所定の演算処理によって処理され、「検出対象者において転倒が発生した」との判断がなされ、転倒検出過程が完了する。そして、転倒検出を通報する信号が、たとえばBluetooth・Zigbee・Xbee・無線LAN等を用いた通信手段によって、外部へと送信される。
【0036】
なお、かかる転倒発生判断の条件をさらに精密にし、一定時間以上かつ閾値以上の角速度の発生と変化量、それに重力加速度検知軸の移動の発生がともに検知された場合に、「転倒発生検出」とすることもできる。かかる構成とすることで、転倒検出の計測精度をより高めることができる。かかる構成の場合は、本転倒検出装置では、3軸角速度センサの1軸以上において一定時間以上かつ閾値以上の角速度が検知され、さらに、3軸加速度センサにおいて検知される重力加速度が3軸のいずれかの軸間で遷移したことを示すものである場合、これら検知されて信号処理手段に送られるセンサ信号は、信号処理手段における所定の演算処理によって処理され、転倒検出過程が完了する。そして、転倒検出を通報する信号が、たとえばBluetooth・Zigbee・Xbee・無線LAN等を用いた通信手段によって、外部へと送信される。
【0037】
転倒検出方法の詳細について、図3に示す例を用いてさらに説明するなお図中のグラフでは、時間経過は左方向である。転倒検出装置14は、検出対象者Hに携帯もしくは装着される。転倒発生前の正常な立位の状態では、重力加速度の影響を受けているのはZ軸であり、したがって3軸加速度センサではZ軸のみ重力加速度−1Gの出力が検知されていて、他の2軸は0Gである。なお、3軸角速度センサにおいては、いずれの軸においても角速度の出力は0degree/secである。
【0038】
検出対象者Hにおいて、図中の弧状矢印により示す転倒が発生すると、転倒検出装置14は検出対象者Hと運動をともにする。その動きによって、pitch軸に閾値以上の角速度の出力が発生し、3軸角速度センサにより検知される。一方、転倒検出装置14は検出対象者Hと一緒にX軸を下にして倒れるため、X軸は重力加速度の影響を受け、−1Gの出力が発生し、3軸加速度センサではX軸において重力加速度−1Gの出力が検知される。
【0039】
それと同時に、これまで−1Gを出力していたZ軸の出力は0Gへと遷移する。このように転倒発生により、3軸加速度センサにおいて閾値以上の角速度の出力が検知され、それとともに、3軸加速度センサの計測軸間で重力加速度を検知している軸間の出力の遷移が発生することにより、これらのセンサ信号を受けた信号処理手段は検出対象者Hにおける「転倒発生」と判断し、転倒検出の過程が完了する。そして、転倒検出を通報する信号が、たとえばBluetooth・Zigbee・Xbee・無線LAN等を用いた通信手段によって、外部へと送信される。
【0040】
なお、角速度計測における閾値は、実際の転倒発生において計測される角速度のデータに基づき、予め設定することができる。また、各センサにおける出力の検知・非検知判断にも、当然ながら、適切な閾値を設けることによって、転倒発生判断が過敏にならないよう、かつ鈍くもならないような感度とすることができる。
【0041】
また、図3において、本転倒検出装置14は別途の入力手段を備えた構成とすることができるため、転倒検出推移として述べた上述の過程とは独立して、検出対象者H自身が該装置14の入力手段を操作した場合は、それに係る転倒発生(または特定の動作発生)を通報する信号もが、通信手段によって、外部へと送信される。なお図中、符号「15」で示されるものは、追って図4等にて説明する中継機であり、転倒検出装置14からの送信を受信・中継するための端末である。
【0042】
上述した信号処理手段による転倒発生判断の条件はさらに精密に規定することもできる。つまり角速度について、単に閾値以上の出力の検知だけでなく、その出力が一定時間以上継続すること、さらには時間経過における出力変化(変化量)が一定の値以上であること、を転倒発生判断の条件としてもよい。かかる構成とすることによって、転倒検出の計測精度をより高めることができる。
【0043】
本転倒検出装置における通信手段には、Bluetooth、ZigBee、Xbee、無線LAN、またはその他の無線通信方式を、好適に採用することができる。有線通信手段を用いるよりも、装置本体の構造も簡素化でき、また信号線等の付属物も不要であるため、検出対象者が携帯・装着するのに便利であり、それとともに、後述する中継機の選択範囲も広がり、適用領域を拡大するのにも便利だからである。
【0044】
そして本転倒検出装置においては、これらの無線通信方式により外部の中継機との間で無線通信可能な無線回路を、通信手段として用いることができる。したがって通信手段から発信される信号は無線通信により外部へ送信される。
【0045】
図4Aは、本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との関係を示す概念図である。
また図4Bは、本発明に係る中継機の例を示す説明図である。図4Aに示すように本転倒検出装置44は、本装置44からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機45Pとの組み合わせによって、屋内外全域における転倒検出を通報可能なものとして構成することができる。図において中継機は45Pの符号にて一つのみを示しているが、これは一例であり、二以上の中継機を設ける構成としてもよい。なお、通信手段としては上述の無線通信方式が採用される。また、図は、検出対象者の操作による別途の入力手段の設けられていない構成を示すが、もちろん入力手段を設けた構成としてもよい。以降の他の図においても、同様である。また図4Bに示すように中継機には、パーソナルコンピュータ(図ではパソコン)や携帯型電話機(図では携帯電話)、Android端末、無線LAN機器を搭載した情報機器、アクセスポイント、基地局など、本装置34をネットワークシステムへと接続するための中継を行うことのできるものを、特に限定なく広く含むものとする。
【0046】
かかる構成により本転倒検出装置44によれば、本装置44の通信手段43から適宜の無線通信方式によって送信される転倒検出の信号は、中継機45Pにより受信される。図示しないが、後述するように、中継機45Pにより一旦受信された転倒検出の信号はさらに、適宜のネットワークシステムを介することによって、当該ネットワークシステムに接続した、あるいは接続可能な所定のサーバや端末装置へと送信・伝達されるものとすることができる。
【0047】
図4−2は、本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との別の関係を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置44は、中継機45Pを屋内にて使用するものとして位置付け、一方、中継機45Qを屋外においても使用可能なものとして位置付け、これら二つの中継機45P、45Qを屋内−屋外で引き継ぎ可能な仕様とし、それにより屋内外全域における転倒検出を通報可能な転倒検出装置として構成することができる。
【0048】
各中継機45P、45Qは、図4の説明と同様に、少なくともいずれか一方が二つ以上設けられる構成とすることを、本発明は排除しない。しかしながら、屋内用として一つ、屋外用として一つ、計二つの中継機が設けられていれば、安定した通報経路を確保することができる。
【0049】
かかる構成により本転倒検出装置44によれば、本装置44の通信手段43から適宜の無線通信方式によって送信される転倒検出の信号は、屋内においては、中継機45Pにより受信される。また屋外においては、中継機45Qにより受信される。そしていずれの中継機においても、一旦受信された転倒検出の信号はさらに、適宜のネットワークシステムを介することによって、当該ネットワークシステムに接続した、あるいは接続可能な所定のサーバや端末装置へと送信・伝達されるものとすることができる。したがって、検出対象者が屋内外を問わず本転倒検出装置44を装着・携帯している限り、転倒(異常動作)が発生した場合に、屋内外全域において、検出対象者もまた管理者・関係者も、本装置44による転倒検出およびその通信、通報の効果を得ることができる。
【0050】
中継機45Pを屋内用として構成する場合、セットトップボックス(STB)等の情報端末をこれに充てることができる。また、中継機45Qを屋外用として構成する場合、スマートフォンを含む携帯型電話機か、あるいはその他の携帯型情報端末(PDAなど)をこれに充てることができる。かかる構成により、検出対象者が転倒検出装置44と、中継機45Qとしての携帯型情報端末とを携帯もしくは装着している限り、検出対象者もまた関係者も、屋内外全域における本発明の効果を、問題なく得ることができる。
【0051】
なお、無線通信手段として無線LANを用いる場合は、中継機としては無線LANルータなどの無線LAN通信機器が用いられるが、以降の説明では、屋内用の中継機の例としてSTBを主として説明する。
【0052】
図4、図4−2において、転倒検出装置44と中継機45P等により屋内外全域における転倒検出通報可能な機能単位を、特に、転倒検出ユニット46P等として把握することもできる。つまり本発明は、転倒検出装置44と中継機45P等とを機能的に関連する一組として、高齢者等の検出対象者およびその管理者・関係者に対して提供するものとすることができる。
【0053】
図4−2に示すように、転倒検出装置44と中継機45Pによる転倒検出ユニット46P、転倒検出装置44と中継機45Qによる転倒検出ユニット46Q、転倒検出装置44と中継機45Pおよび45Qによる転倒検出ユニット46R、いずれのパターンであっても、本転倒検出ユニットに該当する。また上述のように、中継機としては、屋内用としてSTBやタブレットPC等の情報端末、主として屋外用として携帯型電話機その他の携帯型情報端末を、それぞれ用いることができる。
【0054】
図5は、本発明転倒検出システムの基本構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出システム510は、転倒検出装置54ならびに一または二以上の中継機55からなる転倒検出ユニット56と、ネットワークシステム58を介して転倒検出ユニット56と接続可能なサーバ57とからなるシステムであって、サーバ57は、転倒検出ユニット56の中継機55から送信された転倒の情報を蓄積するとともに、転倒発生時における転倒発生の情報発信を行うものとして構成されていることを、基本とする。
【0055】
かかる構成により本転倒検出システム510においては、転倒検出装置54から送信された転倒検出の信号は、中継機55により一旦受信され、それからネットワークシステム58を介して、これに接続されたサーバ57に伝達される、あるいはこれに接続可能なサーバ57に対して伝達可能である。そしてサーバ57において、送信された転倒検出の信号(情報)が蓄積され、また新たに、転倒発生時における転倒発生の情報発信がサーバ57もしくはこれと接続されている情報処理用の端末装置からなされる。
【0056】
図において本転倒検出システム510には、ネットワークシステム58を介してサーバ57に接続される、または接続可能な転倒検出サービス利用者側端末59を含めることができる。転倒検出サービス利用社側端末59は、検出対象者の管理者・関係者による使用・操作を想定したものである。かかる構成により、サーバ57から発信される転倒発生の情報は、転倒検出サービス利用者側端末59において受信することができ、検出対象者における転倒発生の管理者・関係者側への通報が完遂される。
【0057】
図6は、本発明転倒検出システムの構成例を示す説明図である。図示するように本システム610は、転倒検出装置64、中継機65Pならびに65Qと、ネットワークシステム68を介して中継機65P等と接続可能なサーバ67とからなるシステムであって、サーバ67は、中継機65P等から送信された転倒の情報を蓄積するとともに、転倒発生時における転倒発生の情報発信を行うものとして構成される。ここで、中継機65Pとしては屋外でも使用可能なスマートフォン等の携帯型情報端末を、また中継機65Qとしては屋内で使用可能なSTB等の情報端末を、それぞれ用いるものとすることができる。さらに本システム610には、ネットワークシステム68を介してサーバ67に接続される転倒検出サービス利用者側端末69を含めることができる。
【0058】
かかる構成により本転倒検出システム610によれば、検出対象者が転倒検出装置64および中継機65Qを常時携帯・装着している限り、該装置64から送信された転倒検出の信号は、屋内の場合には中継機65Qにより、また屋外の場合には中継機65Pにより一旦受信され、それからネットワークシステム68を介して、サーバ67に伝達され、サーバ67では、送信された転倒検出の信号(情報)が蓄積され、転倒発生時における転倒発生の情報発信がなされ、転倒検出サービス利用者側端末69ではこれが受信されて、検出対象者における転倒発生の管理者・関係者側への通報が完遂される。
【0059】
なお本転倒検出システム610においては、転倒検出装置64と中継機65P等の組によってネットワークシステム68へ向けて転倒検出通報可能な機能単位を、特に、転倒検出ユニット66P等として把握することもできる。図では、転倒検出装置64と中継機65Pによる転倒検出ユニット66P、転倒検出装置64と中継機65Qによる転倒検出ユニット66Qのいずれも、転倒検出ユニットに該当する。また、図示しないが、転倒検出装置64と中継機65Pおよび65Q双方によるものも、転倒検出ユニットに該当する。
【0060】
本転倒検出システムはまた、中継機のGPS機能を利用すること等によって、中継機からの情報に基づき、検出対象者の転倒発生地点を判別可能なものとして構成することもできる。かかる構成とすることで、特に屋外において検出対象者の転倒が発生した場合に、その地理的位置を特定ないし推測することができ、検出対象者の発見、保護・救助など、異常発生検出後におけるより有効な対応を取ることが可能となる。
【0061】
このように本発明転倒検出システムによれば、携帯型電話機やインターネットなど広く普及している情報端末やネットワークシステムにより、異常発生を、家族や対処する関連施設等の管理者側にリアルタイムで通報することができるため、高齢者等検出対象者は、その生活・行動範囲を拡大することが可能となり、実用性が高く、かつ人間性を重視した日常生活見守りシステムを提供することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明完成過程に係る研究経過および結果の説明をもって、実施例とする。
テーマ 高齢者転倒検出のための姿勢推定手法とその通信システム
<1.姿勢計測について>
本研究では、3軸加速度センサと3軸角速度センサを組み合わせた転倒検出のための転倒検出装置による姿勢のモニタリングを行い、「異常」または「転倒」と識別される姿勢変化の際にのみ緊急通報をスマートフォンへと送信する手法を用いて、高齢者転倒検出のための姿勢推定手法とその通信システム構築について検討した。特に通常生活において、転倒検出装置を用いたことにより得られる効果について検討した。
【0063】
本研究では、緊急時にリアルタイムで察知し、即時通報などの対応ができるシステムの構築を可能とする転倒検出装置を必要とした。また、プライバシーにも配慮し、装着者が所持しても違和感を持たない状態でモニタリングが行なえることを重視した。そこで、ポケットなどに入れて携行できるサイズの筐体に3軸角速度センサと3軸加速度センサ、無線回路を組み込んで転倒検出装置を構成した。
【0064】
転倒検出装置は定期的にサンプリングを行い、転倒したと判断した時に、装着者の姿勢の異常発生を、内部に組み込まれた無線回路を通して中継器であるスマートフォンなどの情報端末へ送信する。情報端末は転倒検出装置の電波が届く範囲であれば、カバンの中にでも入れておくことができる。普段、異常がない際には装着者の情報を送信しないことでプライバシーを守り、緊急の際にはリアルタイムで対応するために、このような手順で計測を行う「見守り」システムを構築した。
【0065】
<2.実験手法について>
転倒検出装置内の機能が正しく転倒を認識するか、実際に計測して評価を行なった。
計測に使用するセンサは、加速度センサのX/Y/Z軸の3軸と、角速度センサのPitch/Roll/Yaw の3軸で構成された慣性センサデバイス(AH−6100LR(エプソントヨコム(株)))を用いた。このセンサを用いて6軸同時の複合計測を行うこととした。センサにより、角速度は±1000degree/sec、加速度は±3Gまでの計測が可能である。上下・左右の直線的な動きは加速度センサが計測し、縦振り・横振り・回転の円弧的な運動は角速度センサが担当して計測し、これらの情報から得られる結果をマイクロコンピュータ(PIC18F2515(日本マイクロチップ(株)))が判断し、総合的な計測結果を出す。結果はBluetooth 通信回路(Zeal−C01(エイディシーテクノロジー(株)))によって、実際の使用では情報端末へ送られることになるデータの解析を行うために、本研究ではノートブックPC(Inspiron910(DELL(株)))で実際に転倒した際のデータ受信し、計測結果の解析と動作の評価を行なった。
【0066】
転倒の判断基準としては、閾値以上の角速度が3軸角速度センサ3軸のうち1軸以上に発生したことが検知された後に、加速度センサの出力を、初期値と比較し、重力加速度を受けている軸が他の軸に移動していることと、もう1軸の出力に変化が発生していることによって、転倒と判断することにした。これは、転倒が発生するとこれまで重力加速度を受けていた加速度センサの軸から、他の軸へと加速度の負荷が移り、それまで負荷を受けていた軸への影響は軽減されることに基づく。
【0067】
しかし、この負荷の遷移は、就寝時等に床に寝転がる際にも発生するため、3軸角速度センサによる角速度計測によって、通常の寝転がりで発生する角速度と閾値を比較することで転倒との識別を行った。以下では、推測されるセンサの出力と、実際に転倒を実測して得られたデータを比較し、相違点に関する原因と検知精度を上げるための検討を行った結果について述べる。また、初期の計測実験において、転倒に要する時間が0.7〜0.8sec以内となることが多く、サンプリング時間は、70Hz以下である15msec(66.6Hz)に設定した。
【0068】
<3.計測結果>
<3−1.転倒検出方法>
正面への転倒が発生した際の、角速度と重力加速度のセンサ出力変化について推測し(前掲図3参照)、3回転倒した計測結果を確認した(図7)。それぞれに対して、加速度センサ・角速度センサの出力波形は繰り返し同様の波形出力が得られる結果となった。図3に示す波形推測では、転倒の動作発生と同時に、pitch軸において、通常の生活動作では発生しない角速度が計測され、それに追随するように−1Gを発生していたZ軸の出力が0Gへと遷移していくと推測した。これに対して図7の計測結果では、角速度が発生した時に−1GだったZ軸の出力は、0Gに遷移した。
【0069】
本計測では、立位→転倒を3回繰り返した状態を計測したが、得られた計測結果から、遷移するZ軸の出力変化に回ごとの大きな変化は見られず、また角速度センサの波形発生と加速度センサZ軸の計測値の遷移の位置関係も、繰り返し発生していることが確認できた。この結果から、Pitch(角速度)に転倒時に発生する波形を計測のトリガとしてサンプリングをして、以降の重力加速度の遷移の確認が行えると判断できた。
【0070】
<3−2.転倒方向による計測結果の違い>
重力加速度変化についても、図3のような計測結果が推測された。立位では重力加速度の影響により、Z軸において−1Gの出力であったものが、立位からうつ伏せへの姿勢変化により0Gへと遷移した。それに伴い、X軸の出力は、最初0Gであったものが重力加速度の影響を受けて−0.8Gへと遷移した(図8(a))。逆に、立位から仰向けの姿勢になった場合は、Z軸出力−1Gが−0.2Gへと遷移した。そしてX軸の出力は0Gから+1.1Gへと遷移した(図8(b))。Y軸側の出力は重力加速度の影響を受けないため、基本的に出力は0G近辺のままであり、変化は発生しないと考えられた。
【0071】
図9(a)は、立位から転倒の挙動を3回繰り返して測定した結果である。これに平滑化処理を施した結果が図9(b)であり、転倒と同時にZ軸に加えられていた重力加速度の負荷がX軸へと遷移し、Z軸は0Gとなることが繰り返し発生していることが確認でき、測定結果は上記推測と一致した。なお、Y軸の出力が転倒ごとに不安定な出力となっているのは、転倒時に装着者の動きが体をかばうような動作などを行ったことで、Y軸の出力が0Gとなる姿勢を維持できなかったためと推測される。
【0072】
図10(a)、図10(b)は、横方向に転倒した場合の計測結果である。立位状態ではZ軸の加速度センサの重力加速度検知は、−1Gであった。しかし、横方向に転倒すると、出力は−0.2Gへと遷移し、Y軸方向の加速度センサ出力は0Gから−0.8Gへと遷移した。これに対してX軸の加速度センサは、重力加速度方向の変化の影響を受けないため、出力は0G近辺のままで大きく変化しなかった。
【0073】
以上の結果から、3軸方向の角速度と加速度を合わせた6軸の計測を行うことで、通常生活を送っている際に発生する転倒を、他の動作と識別し、検知できることが明確に確認できた。また、転倒検出と判断した際に、転倒検出装置は動作の支障なく情報端末であるスマートフォンに対して通報動作していることも確認できた。
【0074】
<4.まとめ>
本研究において開発した、高齢者の転倒を検知するための転倒検出装置について、実際の日常生活の挙動や、転倒の種類別に計測実験を行い、転倒検出装置内部の各センサによる計測の正確さや、転倒の識別方法の有効性について評価した。各種の挙動から検出されたデータを確認した結果、転倒検出装置の計測機能が正確であることと、転倒の検出手法が有効であることが確認できた。転倒検出装置から情報端末への警報の通信についても、支障なく行なわれることが確認できた。
【0075】
本転倒検出装置を用いた計測方法は、胸・腰などのポケットに入れた状態や、胸にペンダントのように下げた状態で計測しても、転倒を検出可能であることが確認できた。このことから、転倒検出装置の装着位置を従来の計測方法よりも自由に設定できることが確認できた。また、インターネットを用いた送信実験の結果、本転倒検出装置による転倒検出は、スマートフォン等の情報端末を中継点にし、インターネットを経由して、転倒した高齢者の救助等の対処を行う管理者側の端末装置等に速やかかつ円滑に伝達できることも、確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法によれば、計測領域、計測精度、省電力性、携帯性および緊急時の対応性の全てにおいて優れた効果が得られるため、導入しやすく、また小型化が可能であるため検出対象者に装着してもらいやすく、したがって実用性が極めて高い。また本発明によれば、携帯型電話機やインターネットなど利用した構成によって、検出対象者における異常発生を家族等の管理者側にリアルタイムで通報可能なシステムを構築できる。
【0077】
しかも、高齢者等検出対象者の安全・安心な屋外活動が可能となり、生活・行動範囲を拡大できるため、実用性が高く、かつ人間性を重視した日常生活見守りシステムを提供することができる。もちろん検出対象者は高齢者だけではなく、身体的にあるいは知的に障害のある者、幼児等にも、本発明を適用することができる。したがって、福祉、介護、医療、警備、情報・通信・ネットワーク技術等の分野を初めとする広い産業分野において、利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0078】
1A、11A、11A3、41A…3軸加速度センサ
1B、11B、11B3、41B…3軸角速度センサ
2、12、123、42…信号処理手段
3、13、133、43…通信手段
4、14、143、44、54、64…転倒検出装置
10、103…入力手段
15、45P、45Q、55、65P、65Q…中継機
46P、46Q、46R、56、66P、66Q…転倒検出ユニット
510、610…転倒検出システム
57、67…サーバ
58、68…ネットワークシステム
59、69…転倒検出サービス利用者側端末
H…検出対象者
【技術分野】
【0001】
本発明は転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法に係り、特に高齢者等の検出対象者における転倒を精度よく検知し、携帯型電話機等の携帯型情報端末を介して転倒を通報・送信することにより、高齢者等の安全・安心な屋外活動を可能とする情報通信システムの確立のための、転倒検出装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、全国的に高齢化が進んでおり、また、出生率を高齢者の死亡率が上回ることで、人口の減少も加速している。かかる社会状況の中、高齢者だけで生活している独居老人の数は年々増加し、周囲の人に知られることなく亡くなっていく孤独死の事例が増え、社会問題となっている。
【0003】
このような問題を解決するために、ユビキタスネットワークを用いた情報の伝達手法は有効であると考えられている。つまり高齢者の状況について、通常であれば傍に付き添っていなくては得られないような情報を、観測データという形でネットワークを通して確認することができるからである。しかし、プライバシーや精神的負担を考慮すれば、日常生活の中で、高齢者にとって違和感のない状態で計測できる手法が最適であると考えられる。つまり、常時身体に装着したり携帯するにあたって、不便・違和感を感じないような構造・形態・サイズ・仕様であることが望ましい。
【0004】
これまでも、高齢者の日常生活における挙動をモニタリングするシステムは、数多く開発されてきた。しかしその多くは、特定位置(トイレ・風呂等)に設置したドアスイッチの監視や、赤外線による室内の動態モニタ)や、ガス・水道・電気の使用状況などによる非リアルタイムでのモニタリングであり、計測領域・計測範囲・計測精度は限定されたものである。また、センサを身体の複数個所に装着するなどの計測方法も報告されているが、実用機として開発されたものの報告は、まだ少ない状態である。
【0005】
装着式の計測方法として一般的には、押しボタン式の通報装置が簡易で使用しやすく、よく採用されている。これは、高齢者等の監視対象者に常時装着してもらい、何らかの異常発生を認識・認知した場合には自身の手によって押しボタンを操作してもらうことで、異常の情報が通常電話回線を介して監視側に伝達されるという方式である。
【0006】
なお特許文献1には、これら従前の状況を踏まえ、監視対象者が立位・座位・臥位等の姿勢の場合や、転倒・落下等の重大事故に遭遇した状態であっても、その身体の動作を検出可能とすることを目的とした技術が開示されている。これは、対象者に取り付けられた端末装置から送信された程度情報を受信する受信部と、受信した程度情報に基づいて端末装置の程度が変化したときの「高度差」を計測する高度差計測部と、計測した高度差に基づいて対象者の動作姿勢を判断する判断部と、判断した動作姿勢を示す動作姿勢情報を出力する出力部とを備えた情報処理装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−246741号公報「生体姿勢監視システム及び生体姿勢監視システムの制御方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的に普及している上記押しボタン方式は、携帯性や省電力性には問題がないものの、通報の中継点となる中継機は屋内に設置されるものであるために、計測領域が限定される。また、計測精度が低いという問題もある。しかも異常発生情報の発信は監視対象者の自発的な操作行為に依存しているため、突然意識を失って転倒する場合や不慮の外力を受けて転倒する場合など、監視対象者が操作できない場合には、その異常発生情報が伝達され得ず、緊急時の対応性は不十分である。
【0009】
また特許文献開示技術は、加速度センサと角速度センサを組み合わせて用い、監視対象者への装着ポイントの移動量や高度差を解析することによって、詳細に対象者の姿勢分析を行う技術である。これはGPSと連動する構成であるため、計測領域や計測精度の点では特に問題がないものの、解析に必要なプログラム・データ両メモリの容量は大きくなり、使用するマイクロプロセッサと周辺回路には相応のスペースを要する。したがって、省電力性が低く運転コストが高くなるとともに、装置の小型化には限界があるため携帯性が低く、導入しにくい。
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、押しボタン方式と異なり屋内外問わず異常発生検出可能であって計測領域が広く、かつ計測精度も高く、また上記文献開示技術と異なり省電力性および携帯性に優れていて導入しやすく、しかも緊急時の対応性も十分なものが得られる、異常発生検出方式を提供することである。
【0011】
特に、解析に必要となるプログラム・データ両メモリの容量抑制が可能で、使用するマイクロプロセッサと周辺回路そのもののダウンサイジングも可能となり、装置に組み込む際に小型化・省電力化が可能な、異常発生検出方式を提供することである。
【0012】
また、本発明が解決しようとする課題は、携帯型電話機など広く普及している情報端末やネットワークシステムを利用することによって、異常発生を管理者側にリアルタイムで通報可能な、かつ高齢者等検出対象者の生活・行動範囲を拡大することの可能な、緊急時の通報・通信システムを確立、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は上記課題について検討した結果、高齢者等の異常発生情報検出対象者の姿勢の状態、特に転倒発生の有無を、3軸加速度センサと3軸角速度センサにより、転倒の際に発生する角速度とその後に発生する重力加速度の軸の遷移を確認することで検知可能であることを見出し、それに基づいて課題解決手段たる本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0014】
〈1〉 検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる転倒検出装置であって、該装置は、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる、転倒検出装置。
〈2〉 前記信号処理手段においては、前記3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度の検知と、前記3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移の検知とに基づき、検出対象者における転倒発生が判断されることを特徴とする、〈1〉に記載の転倒検出装置。
〈3〉 検出対象者自身により操作可能な入力手段を備え、該入力手段による入力に係る信号を前記通信手段を介して外部に対して送信可能に構成されていることを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載の転倒検出装置。
〈4〉 前記通信手段はBluetooth、ZigBee、Xbee、無線LANまたはその他の無線通信方式により外部の中継機との間で無線通信可能な無線回路であることを特徴とする、〈1〉ないし〈3〉のいずれかに記載の転倒検出装置。
【0015】
〈5〉 前記転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機との組み合わせによって、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、〈1〉ないし〈4〉のいずれかに記載の転倒検出装置。
〈6〉 前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末と、屋外においても使用可能な携帯型電話機その他の携帯型情報端末を用い、これら二つを屋内−屋外で引き継ぎ可能に構成し、それにより屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、〈5〉に記載の転倒検出装置。
〈7〉 〈1〉ないし〈6〉のいずれかに記載の転倒検出装置と、該転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機とからなり、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、転倒検出ユニット。
〈8〉 前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末か、または屋外使用も可能な携帯型情報端末の少なくともいずれか一方が用いられることを特徴とする、〈7〉に記載の転倒検出ユニット。
【0016】
〈9〉 〈7〉または〈8〉に記載の転倒検出ユニットと、ネットワークシステムを介して該転倒検出ユニットと接続可能なサーバとからなる転倒検出システムであって、該サーバは、該転倒検出ユニットの中継機から送信された転倒の情報を蓄積するとともに転倒発生時における転倒発生の情報発信を行い、かかる構成により検出対象者の屋内外全域における行動を可能とすることを特徴とする、転倒検出システム。
〈10〉 前記中継機からの情報に基づき、検出対象者の転倒発生地点を判別可能であることを特徴とする、〈9〉に記載の転倒検出システム。
〈11〉 前記ネットワークシステムを介して前記サーバに接続される転倒検出サービス利用者側端末が含まれることを特徴とする、〈9〉または〈10〉に記載の転倒検出システム。
〈12〉 検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる転倒検出装置を、検出対象者に携帯もしくは装着させ、該3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度が検知され、かつ該3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移が検知された場合に、検出対象者における転倒発生として検出する、転倒検出方法。
【0017】
つまり本発明は、加速度(3軸)と角速度(3軸)の計6軸を計測することによって対象者の転倒を検出することを基礎とし、それにより、かかる検出手法を組み込んだ端末と携帯型電話機等の中継機との間を無線通信(BluetoothやZigBee等を含む)によってデータ通信させ、中継機からはインターネットを介して家族や対処する関連施設へ情報を送信するシステムの構築を可能とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法は上述のように構成されるため、これによれば、押しボタン方式と異なって計測領域が広くなり、屋内外問わずあらゆる範囲に亘って異常発生検出が可能となる。また、押しボタン方式と異なって高い計測精度を得られる。そして、上記文献開示技術と異って省電力性および携帯性の優れた方式を提供することができるため、導入しやすい。しかも緊急時の対応性も十分である。従来の方式は、これらの利点の一部のみしか備えていなかったが、本発明はこれら全ての利点を備えており、有用性が極めて高い。
【0019】
特に本発明の転倒検出装置等は、角速度(トリガ)と加速度(姿勢検知)により機能分担して転倒を検出するという方式に基づくものであるため、解析に必要となるプログラム・データ両メモリの容量抑制が可能で、使用するマイクロプロセッサと周辺回路そのもののダウンサイジングも可能となる。したがって、装置に組み込む際に小型化・省電力化が可能である。このことは、上述の優れた携帯性を実現することになる。つまり本発明の転倒検出装置は、高齢者等の検出対象者に、日常生活の中で常時身体に装着したり携帯してもらいやすい。
【0020】
また本発明の転倒検出装置によれば、従来の押しボタン方式のように検出対象者自身による異常情報発信操作は不要であるため、たとえば検出対象者が突然意識喪失した場合や、不慮の外力を受けて転倒が発生した場合であっても、その情報が自動的に検出され、通信される。また逆に、たとえば横臥姿勢の最中に寝返りを打った時のように決して異常な状態ではない場合に、誤ってこれを異常と判断してしまうことも、本発明の方式によれば回避できる。
【0021】
なお、本発明の転出検討措置には、これを装着・携帯する検出対象者自身が操作できる入力手段をも併せて設ける構成とすることもできる。かかる構成の場合は、自動的な異常動作検出態勢が常時とられている上に、検出対象者自身の認知・判断に基づく異常通報も随時可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、携帯型電話機やインターネットなど広く普及している情報端末やネットワークシステムにより、異常発生を、家族や対処する関連施設等の管理者側にリアルタイムで通報することができる。すなわち、既存の通信システムが屋内のみの使用を主として前提としていたところ、本発明の転倒検出システム等では、通信範囲・検出領域を拡大できるため、高齢者等検出対象者の安全・安心な屋外活動が可能となる。したがって高齢者等検出対象者は、その生活・行動範囲を拡大することが可能となり、実用性が高く、かつ人間性を重視した日常生活見守りシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。
【図1−2】入力手段を備えた本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。
【図1−3】入力手段を備えた本発明転倒検出装置の別の構成を示す概念図である。
【図2】本発明転倒検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明転倒検出装置による転倒検出推移を示す説明図である。
【図4A】本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との関係を示す概念図である。
【図4B】本発明に係る中継機の例を示す説明図である。
【図4−2】本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との別の関係を示す概念図である。
【図5】本発明転倒検出システムの基本構成を示す概念図である。
【図6】本発明転倒検出システムの構成例を示す説明図である。
【0024】
【図7】実施例において、転倒発生時の角速度および重力加速度出力変化計測結果を示すグラフである。
【図8(a)】実施例において、伏臥での転倒した場合における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図8(b)】実施例において、仰臥での転倒した場合における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図9(a)】実施例において、立位から転倒の挙動における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図9(b)】実施例において、図9(a)のグラフを平滑化処理したグラフである。
【図10(a)】実施例において、横方向に転倒した場合における重力加速度測定結果を示すグラフである。
【図10(b)】実施例において、図10(a)のグラフを平滑化処理したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置4は、検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる装置であって、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサ1Aと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサ1Bと、3軸加速度センサ1Aおよび3軸角速度センサ1Bによる各センサ信号を処理する信号処理手段2と、信号処理手段2により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段3とを備えてなることを、基本的な構成とする。
【0026】
かかる構成により、検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる本転倒検出装置4では、検出対象者が歩行等の運動を行うと、3軸加速度センサ1Aによってその歩行等の運動に基づき加速度が検知され、一方、3軸角速度センサ1Bによってその歩行等の運動に基づき角速度が検知される。このようにして3軸加速度センサ1Aおよび3軸角速度センサ1Bによって得られた各センサ信号は、信号処理手段2によって所定の処理がなされて、それにより一定の処理信号が得られる。当該処理信号は、通信手段3によって外部に対して送信され得る。
【0027】
つまり本装置4によれば、検出対象者の動作は2つのセンサ1A、1Bによって常に自動的に検知されて各センサ信号が得られ、各センサ信号が信号処理手段2により処理されてなる処理信号が、ある特定のものである場合に、これを検出対象者における特定の運動(動作)によるものと判断されて、通信手段3による外部送信がなされるものとすることができる。
【0028】
本発明は上述のとおり、検出対象者の歩行等の運動のうち、特に「転倒」に着目してなされた。転倒が、2つのセンサ1A、1Bにより検知された各センサ信号に基づき、どのように判断されるかについては、別の図を用いて後述する。
【0029】
図1−2は、入力手段を備えた本発明転倒検出装置の基本構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置14は、図1に示した構成に加え、検出対象者自身により操作可能な入力手段10を備えており、入力手段10による入力に係る信号を記通信手段13を介して外部に対して送信可能に構成されていることを、特徴的な構成とする。入力手段10としては適宜形態・仕様のスイッチを用いることができるが、従来の押しボタン方式の装置に用いられているような押しボタンを用いることが、操作の簡単さの点で望ましい。
【0030】
したがって本転出検討措置14では、自動的な異常動作検出態勢が常時とられている上に、検出対象者自身が入力手段10を押す等の操作を実行することによって、自身の認知・判断に基づく異常通報を随時実施することもできる。これは、検出対象者に意識があり、しかも自身による異常発生の判断を行えて、入力操作も可能である場合、有用である。
【0031】
図1−3は、入力手段を備えた本発明転倒検出装置の別の構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置143では、信号処理手段123を中心としてこれに入力手段103、送信手段133が接続されている構成である。本構成例によれば、たとえば、スイッチ等の入力手段103による入力信号を、マイクロプロセッサ等の信号処理手段123で処理し、各種データの送受信が行われる(これには、送信手段133による送信処理も含まれる)、という方式が可能である。
【0032】
なお、ここに述べたように本発明検出装置の送信手段は、信号(情報)を送信するのみならず受信も可能な、送受信手段として構成することも範囲内である。
【0033】
図2は、3軸角速度センサや3軸加速度センサを用いた本発明転倒検出装置の構成例を示すブロック図である。また、
図3は、本発明転倒検出装置による転倒検出推移を示す説明図である。なお図3は、後述する実施例における推測図でもある。これらに図示するように本転倒検出装置の3軸角速度センサおよび3軸加速度センサにおける計測軸は、下記のとおりである。
角速度3軸:Pitch,Yaw,Roll軸の角速度計測
加速度3軸:X,Y,Z方向の加速度計測
【0034】
図2に示すように、本発明転倒検出装置の加速度センサおよび角速度センサによって計測されるX,Y,Z、Pitch,Yaw,Roll各軸のセンサ信号は、信号処理手段たるマイクロコンピュータあるいはマイクロプロセッサに送られ、ここで信号処理される。そして、信号処理手段においては、3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度の検知と、3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間で発生する遷移(軸間での遷移)の検知がなされることに基づいて、検出対象者における転倒発生が判断されるように、信号処理手段は構成されるものとすることができる。
【0035】
かかる構成の本転倒検出装置における転倒検出方法の要点を説明する。図3に示すとおり本転倒検出装置では、3軸角速度センサの1軸以上において閾値以上の角速度が検知され、かつ、3軸加速度センサにおいて検知される重力加速度が3軸のいずれかの軸間で遷移したことを示すものである場合、これら検知されて信号処理手段に送られるセンサ信号は、信号処理手段における所定の演算処理によって処理され、「検出対象者において転倒が発生した」との判断がなされ、転倒検出過程が完了する。そして、転倒検出を通報する信号が、たとえばBluetooth・Zigbee・Xbee・無線LAN等を用いた通信手段によって、外部へと送信される。
【0036】
なお、かかる転倒発生判断の条件をさらに精密にし、一定時間以上かつ閾値以上の角速度の発生と変化量、それに重力加速度検知軸の移動の発生がともに検知された場合に、「転倒発生検出」とすることもできる。かかる構成とすることで、転倒検出の計測精度をより高めることができる。かかる構成の場合は、本転倒検出装置では、3軸角速度センサの1軸以上において一定時間以上かつ閾値以上の角速度が検知され、さらに、3軸加速度センサにおいて検知される重力加速度が3軸のいずれかの軸間で遷移したことを示すものである場合、これら検知されて信号処理手段に送られるセンサ信号は、信号処理手段における所定の演算処理によって処理され、転倒検出過程が完了する。そして、転倒検出を通報する信号が、たとえばBluetooth・Zigbee・Xbee・無線LAN等を用いた通信手段によって、外部へと送信される。
【0037】
転倒検出方法の詳細について、図3に示す例を用いてさらに説明するなお図中のグラフでは、時間経過は左方向である。転倒検出装置14は、検出対象者Hに携帯もしくは装着される。転倒発生前の正常な立位の状態では、重力加速度の影響を受けているのはZ軸であり、したがって3軸加速度センサではZ軸のみ重力加速度−1Gの出力が検知されていて、他の2軸は0Gである。なお、3軸角速度センサにおいては、いずれの軸においても角速度の出力は0degree/secである。
【0038】
検出対象者Hにおいて、図中の弧状矢印により示す転倒が発生すると、転倒検出装置14は検出対象者Hと運動をともにする。その動きによって、pitch軸に閾値以上の角速度の出力が発生し、3軸角速度センサにより検知される。一方、転倒検出装置14は検出対象者Hと一緒にX軸を下にして倒れるため、X軸は重力加速度の影響を受け、−1Gの出力が発生し、3軸加速度センサではX軸において重力加速度−1Gの出力が検知される。
【0039】
それと同時に、これまで−1Gを出力していたZ軸の出力は0Gへと遷移する。このように転倒発生により、3軸加速度センサにおいて閾値以上の角速度の出力が検知され、それとともに、3軸加速度センサの計測軸間で重力加速度を検知している軸間の出力の遷移が発生することにより、これらのセンサ信号を受けた信号処理手段は検出対象者Hにおける「転倒発生」と判断し、転倒検出の過程が完了する。そして、転倒検出を通報する信号が、たとえばBluetooth・Zigbee・Xbee・無線LAN等を用いた通信手段によって、外部へと送信される。
【0040】
なお、角速度計測における閾値は、実際の転倒発生において計測される角速度のデータに基づき、予め設定することができる。また、各センサにおける出力の検知・非検知判断にも、当然ながら、適切な閾値を設けることによって、転倒発生判断が過敏にならないよう、かつ鈍くもならないような感度とすることができる。
【0041】
また、図3において、本転倒検出装置14は別途の入力手段を備えた構成とすることができるため、転倒検出推移として述べた上述の過程とは独立して、検出対象者H自身が該装置14の入力手段を操作した場合は、それに係る転倒発生(または特定の動作発生)を通報する信号もが、通信手段によって、外部へと送信される。なお図中、符号「15」で示されるものは、追って図4等にて説明する中継機であり、転倒検出装置14からの送信を受信・中継するための端末である。
【0042】
上述した信号処理手段による転倒発生判断の条件はさらに精密に規定することもできる。つまり角速度について、単に閾値以上の出力の検知だけでなく、その出力が一定時間以上継続すること、さらには時間経過における出力変化(変化量)が一定の値以上であること、を転倒発生判断の条件としてもよい。かかる構成とすることによって、転倒検出の計測精度をより高めることができる。
【0043】
本転倒検出装置における通信手段には、Bluetooth、ZigBee、Xbee、無線LAN、またはその他の無線通信方式を、好適に採用することができる。有線通信手段を用いるよりも、装置本体の構造も簡素化でき、また信号線等の付属物も不要であるため、検出対象者が携帯・装着するのに便利であり、それとともに、後述する中継機の選択範囲も広がり、適用領域を拡大するのにも便利だからである。
【0044】
そして本転倒検出装置においては、これらの無線通信方式により外部の中継機との間で無線通信可能な無線回路を、通信手段として用いることができる。したがって通信手段から発信される信号は無線通信により外部へ送信される。
【0045】
図4Aは、本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との関係を示す概念図である。
また図4Bは、本発明に係る中継機の例を示す説明図である。図4Aに示すように本転倒検出装置44は、本装置44からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機45Pとの組み合わせによって、屋内外全域における転倒検出を通報可能なものとして構成することができる。図において中継機は45Pの符号にて一つのみを示しているが、これは一例であり、二以上の中継機を設ける構成としてもよい。なお、通信手段としては上述の無線通信方式が採用される。また、図は、検出対象者の操作による別途の入力手段の設けられていない構成を示すが、もちろん入力手段を設けた構成としてもよい。以降の他の図においても、同様である。また図4Bに示すように中継機には、パーソナルコンピュータ(図ではパソコン)や携帯型電話機(図では携帯電話)、Android端末、無線LAN機器を搭載した情報機器、アクセスポイント、基地局など、本装置34をネットワークシステムへと接続するための中継を行うことのできるものを、特に限定なく広く含むものとする。
【0046】
かかる構成により本転倒検出装置44によれば、本装置44の通信手段43から適宜の無線通信方式によって送信される転倒検出の信号は、中継機45Pにより受信される。図示しないが、後述するように、中継機45Pにより一旦受信された転倒検出の信号はさらに、適宜のネットワークシステムを介することによって、当該ネットワークシステムに接続した、あるいは接続可能な所定のサーバや端末装置へと送信・伝達されるものとすることができる。
【0047】
図4−2は、本発明転倒検出装置およびそれに係る中継機との別の関係を示す概念図である。図示するように本転倒検出装置44は、中継機45Pを屋内にて使用するものとして位置付け、一方、中継機45Qを屋外においても使用可能なものとして位置付け、これら二つの中継機45P、45Qを屋内−屋外で引き継ぎ可能な仕様とし、それにより屋内外全域における転倒検出を通報可能な転倒検出装置として構成することができる。
【0048】
各中継機45P、45Qは、図4の説明と同様に、少なくともいずれか一方が二つ以上設けられる構成とすることを、本発明は排除しない。しかしながら、屋内用として一つ、屋外用として一つ、計二つの中継機が設けられていれば、安定した通報経路を確保することができる。
【0049】
かかる構成により本転倒検出装置44によれば、本装置44の通信手段43から適宜の無線通信方式によって送信される転倒検出の信号は、屋内においては、中継機45Pにより受信される。また屋外においては、中継機45Qにより受信される。そしていずれの中継機においても、一旦受信された転倒検出の信号はさらに、適宜のネットワークシステムを介することによって、当該ネットワークシステムに接続した、あるいは接続可能な所定のサーバや端末装置へと送信・伝達されるものとすることができる。したがって、検出対象者が屋内外を問わず本転倒検出装置44を装着・携帯している限り、転倒(異常動作)が発生した場合に、屋内外全域において、検出対象者もまた管理者・関係者も、本装置44による転倒検出およびその通信、通報の効果を得ることができる。
【0050】
中継機45Pを屋内用として構成する場合、セットトップボックス(STB)等の情報端末をこれに充てることができる。また、中継機45Qを屋外用として構成する場合、スマートフォンを含む携帯型電話機か、あるいはその他の携帯型情報端末(PDAなど)をこれに充てることができる。かかる構成により、検出対象者が転倒検出装置44と、中継機45Qとしての携帯型情報端末とを携帯もしくは装着している限り、検出対象者もまた関係者も、屋内外全域における本発明の効果を、問題なく得ることができる。
【0051】
なお、無線通信手段として無線LANを用いる場合は、中継機としては無線LANルータなどの無線LAN通信機器が用いられるが、以降の説明では、屋内用の中継機の例としてSTBを主として説明する。
【0052】
図4、図4−2において、転倒検出装置44と中継機45P等により屋内外全域における転倒検出通報可能な機能単位を、特に、転倒検出ユニット46P等として把握することもできる。つまり本発明は、転倒検出装置44と中継機45P等とを機能的に関連する一組として、高齢者等の検出対象者およびその管理者・関係者に対して提供するものとすることができる。
【0053】
図4−2に示すように、転倒検出装置44と中継機45Pによる転倒検出ユニット46P、転倒検出装置44と中継機45Qによる転倒検出ユニット46Q、転倒検出装置44と中継機45Pおよび45Qによる転倒検出ユニット46R、いずれのパターンであっても、本転倒検出ユニットに該当する。また上述のように、中継機としては、屋内用としてSTBやタブレットPC等の情報端末、主として屋外用として携帯型電話機その他の携帯型情報端末を、それぞれ用いることができる。
【0054】
図5は、本発明転倒検出システムの基本構成を示す概念図である。図示するように本転倒検出システム510は、転倒検出装置54ならびに一または二以上の中継機55からなる転倒検出ユニット56と、ネットワークシステム58を介して転倒検出ユニット56と接続可能なサーバ57とからなるシステムであって、サーバ57は、転倒検出ユニット56の中継機55から送信された転倒の情報を蓄積するとともに、転倒発生時における転倒発生の情報発信を行うものとして構成されていることを、基本とする。
【0055】
かかる構成により本転倒検出システム510においては、転倒検出装置54から送信された転倒検出の信号は、中継機55により一旦受信され、それからネットワークシステム58を介して、これに接続されたサーバ57に伝達される、あるいはこれに接続可能なサーバ57に対して伝達可能である。そしてサーバ57において、送信された転倒検出の信号(情報)が蓄積され、また新たに、転倒発生時における転倒発生の情報発信がサーバ57もしくはこれと接続されている情報処理用の端末装置からなされる。
【0056】
図において本転倒検出システム510には、ネットワークシステム58を介してサーバ57に接続される、または接続可能な転倒検出サービス利用者側端末59を含めることができる。転倒検出サービス利用社側端末59は、検出対象者の管理者・関係者による使用・操作を想定したものである。かかる構成により、サーバ57から発信される転倒発生の情報は、転倒検出サービス利用者側端末59において受信することができ、検出対象者における転倒発生の管理者・関係者側への通報が完遂される。
【0057】
図6は、本発明転倒検出システムの構成例を示す説明図である。図示するように本システム610は、転倒検出装置64、中継機65Pならびに65Qと、ネットワークシステム68を介して中継機65P等と接続可能なサーバ67とからなるシステムであって、サーバ67は、中継機65P等から送信された転倒の情報を蓄積するとともに、転倒発生時における転倒発生の情報発信を行うものとして構成される。ここで、中継機65Pとしては屋外でも使用可能なスマートフォン等の携帯型情報端末を、また中継機65Qとしては屋内で使用可能なSTB等の情報端末を、それぞれ用いるものとすることができる。さらに本システム610には、ネットワークシステム68を介してサーバ67に接続される転倒検出サービス利用者側端末69を含めることができる。
【0058】
かかる構成により本転倒検出システム610によれば、検出対象者が転倒検出装置64および中継機65Qを常時携帯・装着している限り、該装置64から送信された転倒検出の信号は、屋内の場合には中継機65Qにより、また屋外の場合には中継機65Pにより一旦受信され、それからネットワークシステム68を介して、サーバ67に伝達され、サーバ67では、送信された転倒検出の信号(情報)が蓄積され、転倒発生時における転倒発生の情報発信がなされ、転倒検出サービス利用者側端末69ではこれが受信されて、検出対象者における転倒発生の管理者・関係者側への通報が完遂される。
【0059】
なお本転倒検出システム610においては、転倒検出装置64と中継機65P等の組によってネットワークシステム68へ向けて転倒検出通報可能な機能単位を、特に、転倒検出ユニット66P等として把握することもできる。図では、転倒検出装置64と中継機65Pによる転倒検出ユニット66P、転倒検出装置64と中継機65Qによる転倒検出ユニット66Qのいずれも、転倒検出ユニットに該当する。また、図示しないが、転倒検出装置64と中継機65Pおよび65Q双方によるものも、転倒検出ユニットに該当する。
【0060】
本転倒検出システムはまた、中継機のGPS機能を利用すること等によって、中継機からの情報に基づき、検出対象者の転倒発生地点を判別可能なものとして構成することもできる。かかる構成とすることで、特に屋外において検出対象者の転倒が発生した場合に、その地理的位置を特定ないし推測することができ、検出対象者の発見、保護・救助など、異常発生検出後におけるより有効な対応を取ることが可能となる。
【0061】
このように本発明転倒検出システムによれば、携帯型電話機やインターネットなど広く普及している情報端末やネットワークシステムにより、異常発生を、家族や対処する関連施設等の管理者側にリアルタイムで通報することができるため、高齢者等検出対象者は、その生活・行動範囲を拡大することが可能となり、実用性が高く、かつ人間性を重視した日常生活見守りシステムを提供することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明完成過程に係る研究経過および結果の説明をもって、実施例とする。
テーマ 高齢者転倒検出のための姿勢推定手法とその通信システム
<1.姿勢計測について>
本研究では、3軸加速度センサと3軸角速度センサを組み合わせた転倒検出のための転倒検出装置による姿勢のモニタリングを行い、「異常」または「転倒」と識別される姿勢変化の際にのみ緊急通報をスマートフォンへと送信する手法を用いて、高齢者転倒検出のための姿勢推定手法とその通信システム構築について検討した。特に通常生活において、転倒検出装置を用いたことにより得られる効果について検討した。
【0063】
本研究では、緊急時にリアルタイムで察知し、即時通報などの対応ができるシステムの構築を可能とする転倒検出装置を必要とした。また、プライバシーにも配慮し、装着者が所持しても違和感を持たない状態でモニタリングが行なえることを重視した。そこで、ポケットなどに入れて携行できるサイズの筐体に3軸角速度センサと3軸加速度センサ、無線回路を組み込んで転倒検出装置を構成した。
【0064】
転倒検出装置は定期的にサンプリングを行い、転倒したと判断した時に、装着者の姿勢の異常発生を、内部に組み込まれた無線回路を通して中継器であるスマートフォンなどの情報端末へ送信する。情報端末は転倒検出装置の電波が届く範囲であれば、カバンの中にでも入れておくことができる。普段、異常がない際には装着者の情報を送信しないことでプライバシーを守り、緊急の際にはリアルタイムで対応するために、このような手順で計測を行う「見守り」システムを構築した。
【0065】
<2.実験手法について>
転倒検出装置内の機能が正しく転倒を認識するか、実際に計測して評価を行なった。
計測に使用するセンサは、加速度センサのX/Y/Z軸の3軸と、角速度センサのPitch/Roll/Yaw の3軸で構成された慣性センサデバイス(AH−6100LR(エプソントヨコム(株)))を用いた。このセンサを用いて6軸同時の複合計測を行うこととした。センサにより、角速度は±1000degree/sec、加速度は±3Gまでの計測が可能である。上下・左右の直線的な動きは加速度センサが計測し、縦振り・横振り・回転の円弧的な運動は角速度センサが担当して計測し、これらの情報から得られる結果をマイクロコンピュータ(PIC18F2515(日本マイクロチップ(株)))が判断し、総合的な計測結果を出す。結果はBluetooth 通信回路(Zeal−C01(エイディシーテクノロジー(株)))によって、実際の使用では情報端末へ送られることになるデータの解析を行うために、本研究ではノートブックPC(Inspiron910(DELL(株)))で実際に転倒した際のデータ受信し、計測結果の解析と動作の評価を行なった。
【0066】
転倒の判断基準としては、閾値以上の角速度が3軸角速度センサ3軸のうち1軸以上に発生したことが検知された後に、加速度センサの出力を、初期値と比較し、重力加速度を受けている軸が他の軸に移動していることと、もう1軸の出力に変化が発生していることによって、転倒と判断することにした。これは、転倒が発生するとこれまで重力加速度を受けていた加速度センサの軸から、他の軸へと加速度の負荷が移り、それまで負荷を受けていた軸への影響は軽減されることに基づく。
【0067】
しかし、この負荷の遷移は、就寝時等に床に寝転がる際にも発生するため、3軸角速度センサによる角速度計測によって、通常の寝転がりで発生する角速度と閾値を比較することで転倒との識別を行った。以下では、推測されるセンサの出力と、実際に転倒を実測して得られたデータを比較し、相違点に関する原因と検知精度を上げるための検討を行った結果について述べる。また、初期の計測実験において、転倒に要する時間が0.7〜0.8sec以内となることが多く、サンプリング時間は、70Hz以下である15msec(66.6Hz)に設定した。
【0068】
<3.計測結果>
<3−1.転倒検出方法>
正面への転倒が発生した際の、角速度と重力加速度のセンサ出力変化について推測し(前掲図3参照)、3回転倒した計測結果を確認した(図7)。それぞれに対して、加速度センサ・角速度センサの出力波形は繰り返し同様の波形出力が得られる結果となった。図3に示す波形推測では、転倒の動作発生と同時に、pitch軸において、通常の生活動作では発生しない角速度が計測され、それに追随するように−1Gを発生していたZ軸の出力が0Gへと遷移していくと推測した。これに対して図7の計測結果では、角速度が発生した時に−1GだったZ軸の出力は、0Gに遷移した。
【0069】
本計測では、立位→転倒を3回繰り返した状態を計測したが、得られた計測結果から、遷移するZ軸の出力変化に回ごとの大きな変化は見られず、また角速度センサの波形発生と加速度センサZ軸の計測値の遷移の位置関係も、繰り返し発生していることが確認できた。この結果から、Pitch(角速度)に転倒時に発生する波形を計測のトリガとしてサンプリングをして、以降の重力加速度の遷移の確認が行えると判断できた。
【0070】
<3−2.転倒方向による計測結果の違い>
重力加速度変化についても、図3のような計測結果が推測された。立位では重力加速度の影響により、Z軸において−1Gの出力であったものが、立位からうつ伏せへの姿勢変化により0Gへと遷移した。それに伴い、X軸の出力は、最初0Gであったものが重力加速度の影響を受けて−0.8Gへと遷移した(図8(a))。逆に、立位から仰向けの姿勢になった場合は、Z軸出力−1Gが−0.2Gへと遷移した。そしてX軸の出力は0Gから+1.1Gへと遷移した(図8(b))。Y軸側の出力は重力加速度の影響を受けないため、基本的に出力は0G近辺のままであり、変化は発生しないと考えられた。
【0071】
図9(a)は、立位から転倒の挙動を3回繰り返して測定した結果である。これに平滑化処理を施した結果が図9(b)であり、転倒と同時にZ軸に加えられていた重力加速度の負荷がX軸へと遷移し、Z軸は0Gとなることが繰り返し発生していることが確認でき、測定結果は上記推測と一致した。なお、Y軸の出力が転倒ごとに不安定な出力となっているのは、転倒時に装着者の動きが体をかばうような動作などを行ったことで、Y軸の出力が0Gとなる姿勢を維持できなかったためと推測される。
【0072】
図10(a)、図10(b)は、横方向に転倒した場合の計測結果である。立位状態ではZ軸の加速度センサの重力加速度検知は、−1Gであった。しかし、横方向に転倒すると、出力は−0.2Gへと遷移し、Y軸方向の加速度センサ出力は0Gから−0.8Gへと遷移した。これに対してX軸の加速度センサは、重力加速度方向の変化の影響を受けないため、出力は0G近辺のままで大きく変化しなかった。
【0073】
以上の結果から、3軸方向の角速度と加速度を合わせた6軸の計測を行うことで、通常生活を送っている際に発生する転倒を、他の動作と識別し、検知できることが明確に確認できた。また、転倒検出と判断した際に、転倒検出装置は動作の支障なく情報端末であるスマートフォンに対して通報動作していることも確認できた。
【0074】
<4.まとめ>
本研究において開発した、高齢者の転倒を検知するための転倒検出装置について、実際の日常生活の挙動や、転倒の種類別に計測実験を行い、転倒検出装置内部の各センサによる計測の正確さや、転倒の識別方法の有効性について評価した。各種の挙動から検出されたデータを確認した結果、転倒検出装置の計測機能が正確であることと、転倒の検出手法が有効であることが確認できた。転倒検出装置から情報端末への警報の通信についても、支障なく行なわれることが確認できた。
【0075】
本転倒検出装置を用いた計測方法は、胸・腰などのポケットに入れた状態や、胸にペンダントのように下げた状態で計測しても、転倒を検出可能であることが確認できた。このことから、転倒検出装置の装着位置を従来の計測方法よりも自由に設定できることが確認できた。また、インターネットを用いた送信実験の結果、本転倒検出装置による転倒検出は、スマートフォン等の情報端末を中継点にし、インターネットを経由して、転倒した高齢者の救助等の対処を行う管理者側の端末装置等に速やかかつ円滑に伝達できることも、確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の転倒検出装置、転倒検出ユニット、転倒検出システムおよび転倒検出方法によれば、計測領域、計測精度、省電力性、携帯性および緊急時の対応性の全てにおいて優れた効果が得られるため、導入しやすく、また小型化が可能であるため検出対象者に装着してもらいやすく、したがって実用性が極めて高い。また本発明によれば、携帯型電話機やインターネットなど利用した構成によって、検出対象者における異常発生を家族等の管理者側にリアルタイムで通報可能なシステムを構築できる。
【0077】
しかも、高齢者等検出対象者の安全・安心な屋外活動が可能となり、生活・行動範囲を拡大できるため、実用性が高く、かつ人間性を重視した日常生活見守りシステムを提供することができる。もちろん検出対象者は高齢者だけではなく、身体的にあるいは知的に障害のある者、幼児等にも、本発明を適用することができる。したがって、福祉、介護、医療、警備、情報・通信・ネットワーク技術等の分野を初めとする広い産業分野において、利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0078】
1A、11A、11A3、41A…3軸加速度センサ
1B、11B、11B3、41B…3軸角速度センサ
2、12、123、42…信号処理手段
3、13、133、43…通信手段
4、14、143、44、54、64…転倒検出装置
10、103…入力手段
15、45P、45Q、55、65P、65Q…中継機
46P、46Q、46R、56、66P、66Q…転倒検出ユニット
510、610…転倒検出システム
57、67…サーバ
58、68…ネットワークシステム
59、69…転倒検出サービス利用者側端末
H…検出対象者
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる転倒検出装置であって、該装置は、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる、転倒検出装置。
【請求項2】
前記信号処理手段においては、前記3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度の検知と、前記3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移の検知とに基づき、検出対象者における転倒発生が判断されることを特徴とする、請求項1に記載の転倒検出装置。
【請求項3】
検出対象者自身により操作可能な入力手段を備え、該入力手段による入力に係る信号を前記通信手段を介して外部に対して送信可能に構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の転倒検出装置。
【請求項4】
前記通信手段はBluetooth、ZigBee、Xbee、無線LANまたはその他の無線通信方式により外部の中継機との間で無線通信可能な無線回路であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の転倒検出装置。
【請求項5】
前記転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機との組み合わせによって、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の転倒検出装置。
【請求項6】
前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末と、屋外においても使用可能な携帯型電話機その他の携帯型情報端末を用い、これら二つを屋内−屋外で引き継ぎ可能に構成し、それにより屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、請求項5に記載の転倒検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の転倒検出装置と、該転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機とからなり、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、転倒検出ユニット。
【請求項8】
前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末か、または屋外使用も可能な携帯型情報端末の少なくともいずれか一方が用いられることを特徴とする、請求項7に記載の転倒検出ユニット。
【請求項9】
請求項7または8に記載の転倒検出ユニットと、ネットワークシステムを介して該転倒検出ユニットと接続可能なサーバとからなる転倒検出システムであって、該サーバは、該転倒検出ユニットの中継機から送信された転倒の情報を蓄積するとともに転倒発生時における転倒発生の情報発信を行い、かかる構成により検出対象者の屋内外全域における行動を可能とすることを特徴とする、転倒検出システム。
【請求項10】
前記中継機からの情報に基づき、検出対象者の転倒発生地点を判別可能であることを特徴とする、請求項9に記載の転倒検出システム。
【請求項11】
前記ネットワークシステムを介して前記サーバに接続される転倒検出サービス利用者側端末が含まれることを特徴とする、請求項9または10に記載の転倒検出システム。
【請求項12】
検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる転倒検出装置を、検出対象者に携帯もしくは装着させ、該3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度が検知され、かつ該3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移が検知された場合に、検出対象者における転倒発生として検出する、転倒検出方法。
【請求項1】
検出対象者に携帯もしくは装着されて用いられる転倒検出装置であって、該装置は、検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる、転倒検出装置。
【請求項2】
前記信号処理手段においては、前記3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度の検知と、前記3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移の検知とに基づき、検出対象者における転倒発生が判断されることを特徴とする、請求項1に記載の転倒検出装置。
【請求項3】
検出対象者自身により操作可能な入力手段を備え、該入力手段による入力に係る信号を前記通信手段を介して外部に対して送信可能に構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の転倒検出装置。
【請求項4】
前記通信手段はBluetooth、ZigBee、Xbee、無線LANまたはその他の無線通信方式により外部の中継機との間で無線通信可能な無線回路であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の転倒検出装置。
【請求項5】
前記転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機との組み合わせによって、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の転倒検出装置。
【請求項6】
前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末と、屋外においても使用可能な携帯型電話機その他の携帯型情報端末を用い、これら二つを屋内−屋外で引き継ぎ可能に構成し、それにより屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、請求項5に記載の転倒検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の転倒検出装置と、該転倒検出装置からの通信を受信しかつ送信可能な一または二以上の中継機とからなり、屋内外全域における転倒検出を通報可能であることを特徴とする、転倒検出ユニット。
【請求項8】
前記中継機として、屋内にて使用可能な情報端末か、または屋外使用も可能な携帯型情報端末の少なくともいずれか一方が用いられることを特徴とする、請求項7に記載の転倒検出ユニット。
【請求項9】
請求項7または8に記載の転倒検出ユニットと、ネットワークシステムを介して該転倒検出ユニットと接続可能なサーバとからなる転倒検出システムであって、該サーバは、該転倒検出ユニットの中継機から送信された転倒の情報を蓄積するとともに転倒発生時における転倒発生の情報発信を行い、かかる構成により検出対象者の屋内外全域における行動を可能とすることを特徴とする、転倒検出システム。
【請求項10】
前記中継機からの情報に基づき、検出対象者の転倒発生地点を判別可能であることを特徴とする、請求項9に記載の転倒検出システム。
【請求項11】
前記ネットワークシステムを介して前記サーバに接続される転倒検出サービス利用者側端末が含まれることを特徴とする、請求項9または10に記載の転倒検出システム。
【請求項12】
検出対象者の歩行等の運動に基づき加速度を検知する3軸加速度センサと、検出対象者の歩行等の運動に基づき角速度を検知する3軸角速度センサと、該3軸加速度センサおよび該3軸角速度センサによる各センサ信号を処理する信号処理手段と、該信号処理手段により得られた処理信号を外部に対して送信可能な通信手段とを備えてなる転倒検出装置を、検出対象者に携帯もしくは装着させ、該3軸角速度センサの1軸以上における閾値以上の角速度が検知され、かつ該3軸加速度センサにおける重力加速度の軸間での遷移が検知された場合に、検出対象者における転倒発生として検出する、転倒検出方法。
【図1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図4A】
【図4−2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図3】
【図4B】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図4A】
【図4−2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図3】
【図4B】
【公開番号】特開2013−3815(P2013−3815A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133866(P2011−133866)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】
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