転写フィルムおよび転写方法
【課題】インク受容層におけるインクの受容を妨げることなく、インクジェット法により打滴されたインクの減少を抑制してインク受容層に供給することができる転写フィルムおよび転写方法を提供することにある。
【解決手段】打滴面5を有すると共に打滴面5からインクを浸透させるための空隙を有し、空隙におけるインクの浸透が促進するようにインクが有する極性と同極性に帯電したインク浸透層1と、インク浸透層1を通過したインクを受容するインク受容層2と、インク受容層2を挟んでインク浸透層1の反対側に位置し、インク浸透層1およびインク受容層2を支持すると共にインク受容層2およびインク浸透層1を保護する支持体4並びに保護層3とを積層させる。
【解決手段】打滴面5を有すると共に打滴面5からインクを浸透させるための空隙を有し、空隙におけるインクの浸透が促進するようにインクが有する極性と同極性に帯電したインク浸透層1と、インク浸透層1を通過したインクを受容するインク受容層2と、インク受容層2を挟んでインク浸透層1の反対側に位置し、インク浸透層1およびインク受容層2を支持すると共にインク受容層2およびインク浸透層1を保護する支持体4並びに保護層3とを積層させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転写フィルムおよび転写方法に係り、特に、インクジェット法により印字された印字画像を被印字物に転写する転写フィルムおよび転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式は、簡便な機構で高速に印字できることから広く普及し、紙だけでなく、布または織物などの様々な被印字物に対する印字が試みられている。近年では、インク保持能が無く、付着し難いCD、DVDの表面、または樹脂成形品表面などの被印字物に対してもインクジェット法により印字することが求められている。
このような、インク受容能が低い被印字物に印字を行うために、例えば、特許文献1には、インク受容層と接着層とを積層したフィルムが開示されている。このフィルムを接着層を介して被印字物に接着することで被印字物の表面にインク受容層を形成し、被印字物表面のインク受容層に対してインクジェット法でインクを打滴することで、インク受容能が低い被印字物に印字画像を形成することができる。しかしながら、被印字物にインク受容層を形成した後で印字を行うため、印字を行う際には被印字物の形状に応じてインクの打滴方向または被印字物の搬送などを複雑に対応させる必要がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献2および3には、インク受容層に印字した後で被印字物に接着することで、印字画像を被印字物に転写する転写フィルムが開示されている。
特許文献2に開示された転写フィルムは、インク受容層に熱可塑性樹脂を添加したもので、インクジェット法によりインク受容層に印字した転写フィルムを熱可塑性樹脂により被印字物に熱接着することで、印字画像が被印字物に転写される。
また、特許文献3に開示された転写フィルムでは、インク受容層上に熱可塑性樹脂からなるインク浸透層が設けられており、インクジェット法により打滴されたインクがインク浸透層を浸透してインク受容層で受容された後で、インク浸透層の熱可塑性樹脂により転写フィルムが被印字物に熱接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−321442号公報
【特許文献2】特開2000−233567号公報
【特許文献3】特開2002−370347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェットにより印字することで画像形成した転写フィルムを、被印字物に熱転写し、被印字物上に良好な画像を形成するには、転写フィルムを熱転写した後の層構成が、被印字物、インク浸透層(熱接着層、及び、光散乱層)、インク受容層、保護層から構成され、インク中の色材がインク浸透層に留まらずにインク受容層にのみ捕獲されることが必要である。
しかしながら、特許文献2および3の転写フィルムでは、インク受容層の構成に関する詳細な記述が無く、通常の方法でインク受容層を構成する場合、色材をインク受容層に到達させて層内に留めることは困難である。また、特許文献3の転写フィルムでは、インク浸透層において熱可塑性樹脂により密な皮膜が形成されるため、インクジェット法により打滴されたインクがインク受容層まで到達し難いといった問題もあった。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、インク受容層におけるインクの受容を妨げることなく、インクジェット法により打滴されたインクを効率的にインク受容層に供給することができる転写フィルムおよび転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る転写フィルムは、インクジェット法により打滴面に打滴されたインクを浸透させて内部に印字画像を受容し、被印字物に前記打滴面の接着機能により接着されることで内部に受容された印字画像を被印字物に転写する転写フィルムであって、前記打滴面を有すると共に前記打滴面からインクを浸透させるための空隙を有し、前記空隙におけるインクの浸透が促進するようにインクが有する極性と同極性に帯電した素材からなるインク浸透層と、前記インク浸透層を通過したインクを受容するインク受容層と、前記インク受容層を挟んで前記インク浸透層の反対側に位置し、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持すると共に前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する支持・保護層とを積層して備えたものである。
【0008】
ここで、インク中でアニオンに乖離する水性酸性染料あるいはアニオン界面活性剤で荷電された顔料等のアニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、アニオン荷電調節剤で荷電された粒子、アニオン極性基を有する水性ポリマーで構成され、アニオン性の前記インク浸透層を備えることが好ましい。
また、前記インク受容層は、インクの受容量を高めるようにインクが有する極性と逆極性に荷電した粒子、荷電調節剤を含む、あるいは逆極性の官能基を有する水性ポリマーから構成されるのが好ましい。また、アニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、カチオン性の固定剤を含む前記インク受容層を備えることができる。
【0009】
また、前記空隙は、0.1μm以上の大きさに形成されることができる。また、前記インク浸透層は、3μmから10μmの厚さを有することもできる。
また、前記支持・保護層は、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持する支持体と、前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する保護層とを前記インク受容層に前記保護層を当接して構成され、前記支持体が被印字物に接着された後に剥離されることで、前記保護層が被印字物との間で前記インク受容層および前記インク浸透層を挟んで保護してもよい。
【0010】
また、前記インク受容層は、粒子間でインクを保持するための複数のインク受容粒子を含むことができる。
また、前記インク浸透層は、被印字物に熱接着するための複数の熱可塑性樹脂粒子を含み、前記空隙は、前記複数の熱可塑性樹脂粒子の間隙により形成されるのが好ましい。また、前記複数の熱可塑性粒子は、光を散乱させる光散乱粒子を含有することができる。また、インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に光を散乱させる光散乱粒子をインクジェット法で打滴することで、前記インク受容層で受容された印字画像と対向する前記インク浸透層の一部分のみに前記光散乱粒子を位置させることもできる。
また、インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に色材を含有しない浸透液をインクジェット法で打滴することで、前記浸透液により前記インク浸透層から前記インク受容層にインクを押し出すのが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る転写方法は、上記のいずれかに記載の転写フィルムを被印字物に転写する転写方法であって、一定方向に移動する前記転写フィルムの前記打滴面にインクジェット法によりインクを順次打適し、打滴されたインクが有する極性と同極性に帯電した素材から構成される前記インク浸透層にインクが浸透し、前記インク浸透層を通過したインクを前記インク受容層が順次受容し、印字画像が前記インク受容層に受容された前記転写フィルムの前記打滴面を被印字物に当接し、前記転写フィルムを熱接着して被印字物に印字画像を転写するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インク浸透層がインクを浸透させるための空隙を形成し且つ被印字物に熱接着するための複数の熱可塑性樹脂を有すると共にインクが有する極性と同極性に帯電しているため、インク受容層におけるインクの受容を妨げることなく、インクジェット法により打滴されたインクを効率的にインク受容層に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る転写フィルムを示す断面図である。
【図2】転写フィルムのインク浸透層を示す断面図である。
【図3】転写フィルムのインク受容層を示す断面図である。
【図4】実施の形態1に係る転写フィルムを用いて印字画像を転写する印字転写装置の構成を示す図である。
【図5】実施の形態1で用いられた他の印字転写装置の構成を示す図である。
【図6】実施の形態2に係る転写フィルムを示す断面図である。
【図7】実施の形態2に係る転写フィルムを用いて印字画像を転写する印字転写装置の構成を示す図である。
【図8】実施の形態2に係る転写フィルムを用いて印字画像が転写された被印字物を示す断面図である。
【図9】印字画像が転写された被印字物を示し、(a)は実施の形態1に係る転写フィルムを用いて、(b)は実施の形態2に係る転写フィルムを用いてそれぞれ印字画像が転写された被印字物である。
【図10】実施の形態3に係る転写フィルムを示す断面図である。
【図11】転写フィルムを用いて印字画像を転写するさらに他の印字転写装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0015】
実施の形態1
図1に、本発明の実施形態1に係る転写フィルムの構成を示す。転写フィルムは、インクジェット法により打滴されたインクを浸透させるインク浸透層1と、インク浸透層1を通過したインクを受容して留めるインク受容層2と、インク受容層2に受容された印字画像を保護する保護層3と、これらの層を支持するフィルム状の支持体4とを厚さ方向に積層して構成される。
インク浸透層1は、インクジェット法によりインクが打滴される打滴面5を有し、打滴面5に打滴されたインクを浸透させるための空隙を有する。また、インク浸透層1は、被印字物Pに熱接着するための熱可塑性樹脂を含む。インク受容層2は、インク浸透層1の打滴面5とは反対側の面に当接して配置される。
保護層3は、インク受容層2と当接し、転写フィルムがインク浸透層1を介して被印字物Pに熱接着された際には被印字物Pとの間でインク浸透層1およびインク受容層2を挟んで保護する。保護層3には、水性ポリエステルおよび水性アクリル等の樹脂、あるいは、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン樹脂等の剥離性を有する樹脂が利用できる。
支持体4は、保護層3と当接し、転写フィルムを被印字物Pに熱接着する時の加熱温度に対して耐熱性を有する樹脂をフィルム状に加工したもので、例えば、150℃の熱に対する耐熱性を有するPET(polyethylene terephthalate)およびPEN(polyethylene naphthalate)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。なお、支持体4は、転写フィルムが被印字物Pに熱接着された後で、保護層3と支持体4との間または保護層3の途中から剥離されるものである。
【0016】
図2にインク浸透層1の構成を示す。インク浸透層1の空隙は、層全体に分散して存在する複数の熱可塑性樹脂粒子6の間隙Lにより形成される。熱可塑性樹脂粒子6の各間隙Lが厚さ方向に連続することでインク浸透層1を貫通する空隙が形成され、この空隙を介して打滴面5に打滴されたインクがインク浸透層1を通過してインク受容層2に供給される。
このため、熱可塑性樹脂粒子6の間隙L(粒子間距離)は、インクの浸透を妨げないように、粒子サイズおよび粒子分布を選択し、0.1μm以上に調整されている。熱可塑性樹脂粒子6の粒子サイズとしては、インクの浸透を妨げず且つインクがフィルムと平行方向に拡散しないように0.1μmから10μmであることが好ましい。また、熱可塑性樹脂粒子6は、転写フィルムが被印字物Pに熱接着されるまでの間に、室温などの環境温度で軟化または皮膜化してインクの浸透性を妨げないように、軟化温度が100℃から150℃のものが好ましく、例えば、スチレン、アクリルおよびブタジエンなどのスチレン共重合対系樹脂、ポリオレフィ系樹脂、ポリメタクリル酸及びその誘導体からなる樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリアミド系樹脂などを利用することができる。
【0017】
インク浸透層1は、空隙におけるインクの浸透が促進するように、インクが有する極性と同極性に帯電されている。例えば、空隙を形成する熱可塑性樹脂粒子6をインク中の色材が有する極性と同極性の荷電調節剤で分散させることで、インク浸透層1をインクと同極性に帯電させることができる。
このような荷電調節剤としては、インクが酸性染料などのアニオン性の色材を含む場合、あるいはアニオン性の界面活性剤で荷電された顔料分散物を有するインクには、アニオン性の極性を有する荷電調節剤が使用される。すなわち、アニオン性の荷電調節剤は、水中で解離した時に陰イオンとなるものが使用され、例えば、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが使用される。具体的に、カルボン酸系の荷電調節剤としては石鹸の主成分である脂肪酸塩やコール酸塩が、スルホン酸系の荷電調節剤としては直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、またはアルキルポリオキシエチレン硫酸塩が、リン酸構造を持つ荷電調節剤としてはモノアルキルリン酸塩などが利用できる。
一方、インクがアルカリ性染料などのカチオン性の色材を含む場合には、カチオン性の荷電調節剤が使用される。すなわち、カチオン性の荷電調節剤は、水中で解離した時に陽イオンとなるものが使用され、例えば、親水基としてテトラアルキルアンモニウムを持つものが使用される。具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、またはアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが利用できる。
【0018】
また、インク浸透層1は、光を散乱させるための光散乱粒子7を含有することが出来る。被印字物Pに転写した後の転写フィルムの画像は、被印字物Pの光学反射率に依存した画像が観察される。例えば被印字物Pが透明あるいは黒色の場合、被印字物Pの表面では光散乱が起こらず、転写フィルムに形成された画像をコントラスト高く観察することが出来ない。そこで、インク浸透層1に光散乱粒子7による光散乱機能を付与することでこれらの問題を解決し、どのような特性の被印字物Pであっても下地が白くコントラストのある画像を観察することが出来る。
光散乱粒子7は、その表面でインク中の色材を付着してインクの浸透を妨げないように、熱可塑性樹脂粒子6の内部に分散して含有されている。光散乱粒子7としては、被印字物Pに熱接着した後のバインダー樹脂との屈折率が0.1以上あるものが好ましく、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、アルミナなどの白色無機顔料、あるいは、ポリカーボネイト、アクリルなどの有機樹脂微粒子を用いることができる。これら屈折率の高い微粒子を屈折率の低い熱可塑性樹脂に分散し、粉砕等の公知の方法で粒子化することが出来る。
さらに、インク浸透層1には、被印字物Pへの接着力を向上させるためのタッキファイヤ粒子8が分散して含まれている。タッキファイヤ粒子8としては、ロジン、ロジンエステル、脂環族系樹脂、フェノール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂などが利用できる。なお、タッキファイヤは、粒子としてインク浸透層1に分散させずに、熱可塑性樹脂粒子6の内部に含有させることもできる。タッキファイヤを熱転写時に熱可塑性樹脂内に取り込ませることで、被印字物との間の接着力を強化させることが出来る。
【0019】
図3にインク受容層2の構成を示す。インク受容層2は、インクに不溶な複数のインク受容粒子9がバインダーで固定されて形成されており、インク受容粒子9の各間隙においてインクが受容される。ここで、インク受容粒子9は、インク中の色材をインク受容粒子9間に固定するための固定剤と凝集を起こさないものが選択でき、例えば非極性あるいは低極性のものが選択される。
インク受容粒子9としては、ポリオレフィン、アクリル、ポリスチレン、ポリエステル等の高分子微粒子、あるいは、炭酸カルシウム、カオリン、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機微粒子が利用できる。また、インク受容粒子9を固定するバインダーとしては、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、水性ポリエステル、水性アクリル樹脂などの水溶性ポリマーを利用することができる。
インク中の色材を保持することになるインク受容層2自身に光学散乱能があると、色材の発色強度が低下することになりコントラストのない画像になる。インク受容層2は光散乱が無く透明であることが望ましい。
インク受容粒子9は、光散乱および光吸収を抑制してインク受容層2を透明にするために、無色で粒子サイズが可視光の波長より小さいもの、あるいは、無色でインク受容粒子9を固定するバインダーとの屈折率差が0.1以下のものを使用するのが好ましい。インク受容粒子9とバインダーとの屈折率差が0.1以下の組み合わせとしては、例えば、インク受容粒子9にシリカを、バインダーにPVAをそれぞれ用いることができる。
【0020】
インク受容層2は、インク受容粒子9の粒子表面に色材を固定して移動させないことが望ましい。このため、インク受容粒子9の表面はインクが有する極性と逆極性になるような処理が行われることが望ましい。例えば、インク中の色材が有する極性とは逆極性の固定剤を含ませてインク受容層2を形成することで、インク受容層2をインクと逆極性に帯電させることができる。このような固定剤としては、インクがアニオン性の色材を含む場合には、カチオン性の極性を有するジシアンジアミド、ジエチレントリアミン、ジメチルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等の第1級〜4級アンモニウム基を有するものなどが利用できる。一方、インクがカチオン性の色材を含む場合には、アニオン性の固定剤、例えば、水溶性、あるいは水分散性高分子に、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが使用できる。具体的には、動植物油脂脂肪酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のソーダ塩、カリウム塩等が使用できる。
【0021】
次に、図1に示した転写フィルムの製造方法の一例を説明する。
厚さ20μmのPETフィルムからなる支持体4上に、保護層3として水分散ポリオレフィンを塗布する。水分散ポリオレフィンは、乾燥後の厚さが0.3μmから5μmとなるように塗布される。例えば、0.5μmサイズのポリエチレン粒子を分散させた分散液に界面活性剤を添加したものを塗布することができる。また、ワックス粒子、シリコンワックスなどを塗布液に添加することで、支持体4と保護層3の離型性を高めることもできる。
【0022】
次に、保護層3の上にインク受容層2として水分散シリカ液の塗布を行う。水分散シリカ液は、気相形成法で作成された粒径0.05μm程度のコロイダルシリカ粒子を、シリカ粒子の体積に対して1%から30%のバインダー樹脂とインクを固定するための固定剤である4級アンモニウム基を含むカチオンポリマーとを含む溶液に分散させたものが利用できる。
ここで、シリカ粒子に対するバインダー樹脂の比率を1%から30%に設定することで、インク受容層2の30%以上に空隙を生成することができ、印字画像に必要なインク量を受容することが可能となる。また、インク受容層2は、所望のインク量を受容するために、乾燥後の厚さが5μm程度以上になるのが好ましく、例えばリバースロールコートまたはバーコートなどにより10μmから20μmの厚さに塗布される。なお、バインダーとしてPVAとホウ酸の架橋反応などを利用し、少ないバインダー量で塗膜の強度を高めることもできる。
【0023】
次に、インク受容層2の上にインク浸透層1の形成を行う。熱可塑性樹脂としてポリエチレンを主成分とするポリオレフィン系樹脂を用いることが出来る。軟化点が100℃〜150℃になる樹脂粒子を用いることで室温保存時は粒子のままであり、加熱転写時に軟化して被印字物Pとの間の接着力を発現する。光散乱能の付与のために懸濁重合法または湿式造粒法などにより熱可塑性樹脂に光散乱粒子7を分散させる。例えば、湿式造粒法では、熱可塑性樹脂の融液に光散乱粒子7を分散混練してペレット状にする。このペレットを気相粉砕または湿式造粒(ボールミルなど)などにより約1μのサイズに粒子化する。得られた熱可塑性樹脂粒子6及び光散乱粒子7を含む熱可塑性樹脂粒子6aをインク中の色材と同極性の荷電調節剤を含む溶液で分散させ、水性バインダーを加えることで塗布液が作成される。水性バインダーは上述した荷電調節剤で凝集しない樹脂が使用できる。室温で被膜形成するポリオレフィン樹脂分散粒子、ポリビニルアルコール等が使用できる。塗布乾燥後のインク浸透層1における熱可塑性樹脂粒子6および熱可塑性樹脂粒子6aの粒子間にインクが浸透できる間隔が確保できるよう、塗布液における熱可塑性樹脂粒子6、熱可塑性樹脂粒子6a、および水性バインダー等の濃度が調整される。また、塗布液には、タッキファイヤとしてロジンエステルを熱可塑性樹脂粒子6の体積に対して2%から30%添加される。このようにして作成された塗布液は、乾燥後の厚さが3μmから10μmとなるようにインク受容層の上に塗布される。ここで、インク浸透層1は、インク中の色材を捕獲してインクの浸透を妨げないように薄く形成されるのが好ましく、例えばインク受容層の厚さに対して1/3以下の厚さで形成される。
【0024】
このようにして製造された転写フィルムを用いてインクジェット法により印字が行われ、その印字画像が被印字物Pに転写される。なお、インク浸透層1、インク受容層2、および保護層3をそれぞれ形成する際に、下の層が乾燥した後で上の層の塗布液を塗布する場合には、乾燥させた下の層を界面活性剤処理、プラズマ処理、またはコロナ処理などで濡れ性を向上させた後で上の層の塗布液を塗布することが好ましい。また、下の層が乾燥する上の層の塗布液を塗布する場合には、高粘度化した塗液を塗布することが好ましい。
【0025】
次に、印字画像を被印字物Pに転写する転写方法を説明する。
図4に、転写フィルムに印字画像を印字すると共にその印字画像を被印字物Pに転写する印字転写装置を示す。この印字転写装置において、転写フィルムは、インク浸透層1の打滴面5がインクジェットヘッドに対向するように搬送され、印字・乾燥された後に、打滴面5が被印字物Pに当接するように搬送される。
印字転写装置は、打滴量演算部21を有し、この打滴量演算部21に駆動部22を介してインクジェットヘッド23が接続されている。また、転写フィルムの搬送方向に対して。インクジェットヘッド23の下流側には、加熱乾燥装置24、加熱ローラ25、および剥離ローラ26が順次配置されている。
【0026】
まず、打滴量演算部21が、転写フィルムに打滴すべきインクの量の演算を行い、駆動部22は、打滴量演算部21で演算されたインク量に応じた電圧をインクジェットヘッド23に印加する。インクジェットヘッド23は、打滴面5が対向するように搬送された転写フィルムに対し、駆動部22により印加された電圧に応じたインク量を順次打滴する。
【0027】
インクジェットヘッド23から転写フィルムの打滴面5に打滴されたインクは、インク浸透層1に形成された空隙を浸透する。ここで、インクが浸透する空隙は、熱可塑性樹脂が皮膜化することなく0.1μm以上の大きさに形成されているため、インクの浸透を阻害せずに打滴面5に打滴されたインクを順次浸透させることができる。また、空隙は、0.1μmから10μmのサイズの熱可塑性樹脂粒子6により形成されているため、インクをフィルムと平行方向に拡散させずに浸透させることができる。さらに、インク浸透層1を構成する素材は、インクが有する極性と同極性に帯電しており、空隙におけるインクの凝集を起こさせることなくインク受容層へのインク浸透を促進させることが出来る。また、光散乱粒子7を熱可塑性樹脂粒子6の中に含有することで、インクの色材が光散乱粒子7に吸着するのを抑制することができる。
続いて、インク浸透層1を通過したインクは、インク受容層2で順次受容される。インク受容層2では、インク受容粒子9の間隙によりインクが受容される。この時、インク受容層2は、インクが有する極性と逆極性に帯電しているため、インク受容粒子9の間隙におけるインクの固定能を向上させることができる。
【0028】
このようにして、インク受容層2に受容されたインクは、加熱乾燥装置24により乾燥される。加熱乾燥装置24としては、赤外線ランプまたは熱風などにより乾燥させるものが利用できる。インクが乾燥された転写フィルムは、インク浸透層1の打滴面5と被印字物Pとが当接するように搬送され、加熱ローラ25により、打滴面5が被印字物Pに当接された状態で押圧されると共に、インク浸透層1の熱可塑性樹脂粒子6およびタッキファイヤ粒子8が軟化する温度で加熱される。これにより、転写フィルムがインク浸透層1を介して被印字物Pに熱接着される。また、熱可塑性樹脂粒子6が軟化されることで、熱可塑性樹脂粒子6の中に含有された光散乱粒子7はインク浸透層1内に分散される。続いて、転写フィルムは被印字物Pに接着された状態で搬送され、剥離ローラ26により転写フィルムの支持体4が保護層3と支持体4の界面あるいは保護層3の中間で剥離される。これにより、転写フィルムの保護層3が被印字物Pとの間で印字画像を挟んで保護した状態となり、被印字物Pへの印字画像の転写が完了する。
【0029】
このように、本実施の形態に係る転写フィルムは、複数の熱可塑性樹脂粒子6がインク浸透層1において空隙を形成することで、インクを妨げることなく浸透させる浸透能と被印字物Pへの熱接着能とを両立させることができる。さらに、インク浸透層1をインクが有する極性と同極性に帯電させることで空隙におけるインクの浸透を促進し、インクジェット法により打滴されたインク色材量を減少させることなくインク受容層2に供給することができる。また、印字画像を受容したインク受容層2と被印字物Pとの間、すなわち保護層3側からみて印字画像の下側に光散乱粒子7が存在するため、印字画像と同じ層に光散乱粒子7が存在するのと比較して、印字画像の色材の発色を向上させることができる。
【0030】
なお、図5に示すように、印字転写装置は、被印字物Pの搬送方向に対して、インクジェットヘッド23の下流側に、浸透液を転写フィルムに打滴するためのインクジェットヘッド27を備えてもよい。ここで、浸透液は、インクの色材を溶解または分散させるために用いた溶媒または分散媒を主成分とするものであり、例えば、インクの主溶剤に、インク浸透層1への濡れ性を向上させるための界面活性剤を添加したものが使用できる。また、浸透液は、乾燥性を制御するためにエチレングリコール、グリセリンなどの高沸点溶剤を添加することもできる。
インクジェットヘッド23によりインクが打滴された転写フィルムの打滴面5の同じ位置に、インクジェットヘッド27により色材を含有しない浸透液が打滴される。この時、浸透液は、インク浸透層1の液体保持能と同程度の量を打滴するのが好ましい。打滴面5に打滴された浸透液は、インク浸透層1の空隙を浸透していき、インク浸透層1に残存するインクをインク受容層2に押し出す。これにより、インクジェット法で打滴されたインクがインク浸透層1に残存することなくインク受容層2で受容されるため、転写フィルムが被印字物Pに転写された際には所望の印字画像を得ることができる。
【0031】
なお、インク浸透層1において、熱可塑性樹脂粒子6のみで被印字物Pへの接着が可能な場合にはタッキファイヤ−粒子8を使用しなくてもよく、また被印字物Pに転写された印字画像において被印字物表面が十分な光散乱能を有する場合には光散乱粒子7を使用しなくてもよい。
【0032】
実施の形態2
図6に実施の形態2に係る転写フィルムFの構成を示す。この転写フィルムFは、図1に示した実施の形態1の転写フィルムFにおいてインク浸透層1の代わりに、光散乱粒子7を含有しないインク浸透層31を備えたものである。
【0033】
このような転写フィルムFに対して、図7に示す印字転写装置を用いて被印字物Pへの印字画像Sの転写を行う。この印字転写装置は、被印字物Pの搬送方向に対して、インクジェットヘッド23の下流側に、光散乱粒子32を含んだ光散乱処理液を転写フィルムFに打滴するインクジェットヘッド33を備える。
インクジェットヘッド23によりインクが打滴された転写フィルムFの打滴面5の同じ位置に、インクジェットヘッド33により光散乱処理液が打滴される。ここで、光散乱粒子32は、インク浸透層31内に留まってインク受容層2まで到達しないように、インク浸透層31の空隙の大きさと同等あるいはそれ以上の粒子サイズを有する。また、インクジェットヘッド33は、光散乱処理液に光散乱粒子32が均等に含まれるような打滴サイズで打滴を行う。例えば、光散乱粒子32の粒子サイズが0.1μmである場合には、10μm以上の打滴サイズで光散乱処理液を打滴することができる。これにより、インク受容層2で受容された印字画像Sと対向するインク浸透層31の一部分のみに光散乱粒子32を位置させることができる。このため、転写フィルムFが被印字物Pに転写された際には、図8に示すように、保護層3側からみて印字画像Sの下側にのみ光散乱粒子32が存在し、印字画像Sが存在しない部分の下側には光散乱粒子32は存在しない印字が可能になる。
【0034】
図9(a)に示すように、実施の形態1に係る転写フィルムFに印字された印字画像Sを被印字物Pに転写した場合には、転写フィルムFが接着された部分において、印字画像Sの下側だけでなく、印字画像Sが存在しない部分についても光散乱粒子7が存在するため白色として反映される。これに対して、図9(b)に示すように、実施の形態2に係る転写フィルムFに印字された印字画像Sを被印字物Pに転写した場合には、印字画像Sの下側のみに光散乱粒子32を存在させることができ、印字画像Sの色材の発色を向上させると共に印字画像Sが存在しない部分については被印字物Pの色をそのまま反映させることができる。
【0035】
実施の形態3
図10に実施の形態3に係る転写フィルムの構成を示す。この転写フィルムFは、図1に示した実施の形態1に係る転写フィルムにおいて、保護層3と支持体4に代えて支持・保護層41を備えたものである。この支持・保護層41は、インク浸透層1およびインク受容層2を支持すると共に転写フィルムが被印字物Pに接着された際には被印字物Pとの間でインク受容層2およびインク浸透層1を挟んで保護するものである。
印字転写装置のインクジェットヘッド23により転写フィルムの打滴面5にインクが打滴された後、転写フィルムがインク浸透層1を介して被印字物Pに熱接着されることで、被印字物Pへの印字画像の転写が完了する。すなわち、転写フィルムが被印字物Pに接着された後、支持・保護層41は、剥離ローラで剥離されずに、そのまま被印字物Pとの間で印字画像を挟んで保護する。
このような転写フィルムの構成とすることにより、転写フィルムの製造または被印字物Pに印字画像を転写する際に要する労力を低減することができる。
なお、実施の形態2に係る転写フィルムについても、同様にして、保護層3と支持体4に代えて支持・保護層41を備えることができる。
【0036】
なお、実施の形態1〜3に係る転写フィルムを被印字物Pに転写する際には、被印字物Pに印字画像を転写した結果をフィードバックすることによりインクの打滴量を順次補正することもできる。
【0037】
このような転写方法を行う印字転写装置の一例を図11に示す。この印字転写装置は、被印字物Pの搬送方向に対し、剥離ローラ26の下流側に計測装置51を配置し、計測装置51に印字結果計測値入力部52を接続すると共にこの印字結果計測値入力部52を打滴量演算部21に接続したものである。
計測装置51は、被印字物Pの表側に配置された光学センサ53から得られる光学特性を測定するものである。また、被印字物Pが透明な材質からなる場合には、被印字物Pの裏側にも光学センサ54を配置し、計測装置51は表側および裏側からそれぞれ得られる光学特性をそれぞれ計測する。計測装置51で得られた計測値は、印字結果計測値入力部52に入力され、被印字物Pに印字画像を転写した結果がフィードバックされる。打滴量演算部21は、印字結果計測値入力部52から入力された計測値に基づいて、目標の発色を実現するように補正したインクの打滴量を被印字物Pの各領域について求める。このようにして補正されたインクの打滴量に応じて駆動部22がインクジェットヘッド23を駆動し、転写フィルムへの印字が行われる。
【0038】
このように、被印字物Pに印字画像を転写した結果をフィードバックして補正されたインクの打滴量に基づき再び転写フィルムに印字するため、初期のインクの打滴量が悪い場合、あるいは、インクおよび転写フィルムなどの物性が変化した場合であっても、発色の変動を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,31 インク浸透層、2 インク受容層、3 保護層、4 支持体、5 打滴面、6, 熱可塑性樹脂粒子、6a 光散乱粒子含有熱可塑性樹脂粒子、7 光散乱粒子、8 タッキファイヤ粒子、9 インク受容粒子、21 打滴量演算部、22 駆動部、23,27,33 インクジェットヘッド、24 加熱乾燥装置、25 加熱ローラ、26 剥離ローラ、32 光散乱粒子、41 支持・保護層、51 計測装置、52 印字結果計測値入力部、53,54 光学センサ、P 被印字物、F 転写フィルム、S 印字画像。
【技術分野】
【0001】
この発明は、転写フィルムおよび転写方法に係り、特に、インクジェット法により印字された印字画像を被印字物に転写する転写フィルムおよび転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式は、簡便な機構で高速に印字できることから広く普及し、紙だけでなく、布または織物などの様々な被印字物に対する印字が試みられている。近年では、インク保持能が無く、付着し難いCD、DVDの表面、または樹脂成形品表面などの被印字物に対してもインクジェット法により印字することが求められている。
このような、インク受容能が低い被印字物に印字を行うために、例えば、特許文献1には、インク受容層と接着層とを積層したフィルムが開示されている。このフィルムを接着層を介して被印字物に接着することで被印字物の表面にインク受容層を形成し、被印字物表面のインク受容層に対してインクジェット法でインクを打滴することで、インク受容能が低い被印字物に印字画像を形成することができる。しかしながら、被印字物にインク受容層を形成した後で印字を行うため、印字を行う際には被印字物の形状に応じてインクの打滴方向または被印字物の搬送などを複雑に対応させる必要がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献2および3には、インク受容層に印字した後で被印字物に接着することで、印字画像を被印字物に転写する転写フィルムが開示されている。
特許文献2に開示された転写フィルムは、インク受容層に熱可塑性樹脂を添加したもので、インクジェット法によりインク受容層に印字した転写フィルムを熱可塑性樹脂により被印字物に熱接着することで、印字画像が被印字物に転写される。
また、特許文献3に開示された転写フィルムでは、インク受容層上に熱可塑性樹脂からなるインク浸透層が設けられており、インクジェット法により打滴されたインクがインク浸透層を浸透してインク受容層で受容された後で、インク浸透層の熱可塑性樹脂により転写フィルムが被印字物に熱接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−321442号公報
【特許文献2】特開2000−233567号公報
【特許文献3】特開2002−370347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェットにより印字することで画像形成した転写フィルムを、被印字物に熱転写し、被印字物上に良好な画像を形成するには、転写フィルムを熱転写した後の層構成が、被印字物、インク浸透層(熱接着層、及び、光散乱層)、インク受容層、保護層から構成され、インク中の色材がインク浸透層に留まらずにインク受容層にのみ捕獲されることが必要である。
しかしながら、特許文献2および3の転写フィルムでは、インク受容層の構成に関する詳細な記述が無く、通常の方法でインク受容層を構成する場合、色材をインク受容層に到達させて層内に留めることは困難である。また、特許文献3の転写フィルムでは、インク浸透層において熱可塑性樹脂により密な皮膜が形成されるため、インクジェット法により打滴されたインクがインク受容層まで到達し難いといった問題もあった。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、インク受容層におけるインクの受容を妨げることなく、インクジェット法により打滴されたインクを効率的にインク受容層に供給することができる転写フィルムおよび転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る転写フィルムは、インクジェット法により打滴面に打滴されたインクを浸透させて内部に印字画像を受容し、被印字物に前記打滴面の接着機能により接着されることで内部に受容された印字画像を被印字物に転写する転写フィルムであって、前記打滴面を有すると共に前記打滴面からインクを浸透させるための空隙を有し、前記空隙におけるインクの浸透が促進するようにインクが有する極性と同極性に帯電した素材からなるインク浸透層と、前記インク浸透層を通過したインクを受容するインク受容層と、前記インク受容層を挟んで前記インク浸透層の反対側に位置し、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持すると共に前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する支持・保護層とを積層して備えたものである。
【0008】
ここで、インク中でアニオンに乖離する水性酸性染料あるいはアニオン界面活性剤で荷電された顔料等のアニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、アニオン荷電調節剤で荷電された粒子、アニオン極性基を有する水性ポリマーで構成され、アニオン性の前記インク浸透層を備えることが好ましい。
また、前記インク受容層は、インクの受容量を高めるようにインクが有する極性と逆極性に荷電した粒子、荷電調節剤を含む、あるいは逆極性の官能基を有する水性ポリマーから構成されるのが好ましい。また、アニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、カチオン性の固定剤を含む前記インク受容層を備えることができる。
【0009】
また、前記空隙は、0.1μm以上の大きさに形成されることができる。また、前記インク浸透層は、3μmから10μmの厚さを有することもできる。
また、前記支持・保護層は、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持する支持体と、前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する保護層とを前記インク受容層に前記保護層を当接して構成され、前記支持体が被印字物に接着された後に剥離されることで、前記保護層が被印字物との間で前記インク受容層および前記インク浸透層を挟んで保護してもよい。
【0010】
また、前記インク受容層は、粒子間でインクを保持するための複数のインク受容粒子を含むことができる。
また、前記インク浸透層は、被印字物に熱接着するための複数の熱可塑性樹脂粒子を含み、前記空隙は、前記複数の熱可塑性樹脂粒子の間隙により形成されるのが好ましい。また、前記複数の熱可塑性粒子は、光を散乱させる光散乱粒子を含有することができる。また、インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に光を散乱させる光散乱粒子をインクジェット法で打滴することで、前記インク受容層で受容された印字画像と対向する前記インク浸透層の一部分のみに前記光散乱粒子を位置させることもできる。
また、インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に色材を含有しない浸透液をインクジェット法で打滴することで、前記浸透液により前記インク浸透層から前記インク受容層にインクを押し出すのが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る転写方法は、上記のいずれかに記載の転写フィルムを被印字物に転写する転写方法であって、一定方向に移動する前記転写フィルムの前記打滴面にインクジェット法によりインクを順次打適し、打滴されたインクが有する極性と同極性に帯電した素材から構成される前記インク浸透層にインクが浸透し、前記インク浸透層を通過したインクを前記インク受容層が順次受容し、印字画像が前記インク受容層に受容された前記転写フィルムの前記打滴面を被印字物に当接し、前記転写フィルムを熱接着して被印字物に印字画像を転写するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インク浸透層がインクを浸透させるための空隙を形成し且つ被印字物に熱接着するための複数の熱可塑性樹脂を有すると共にインクが有する極性と同極性に帯電しているため、インク受容層におけるインクの受容を妨げることなく、インクジェット法により打滴されたインクを効率的にインク受容層に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る転写フィルムを示す断面図である。
【図2】転写フィルムのインク浸透層を示す断面図である。
【図3】転写フィルムのインク受容層を示す断面図である。
【図4】実施の形態1に係る転写フィルムを用いて印字画像を転写する印字転写装置の構成を示す図である。
【図5】実施の形態1で用いられた他の印字転写装置の構成を示す図である。
【図6】実施の形態2に係る転写フィルムを示す断面図である。
【図7】実施の形態2に係る転写フィルムを用いて印字画像を転写する印字転写装置の構成を示す図である。
【図8】実施の形態2に係る転写フィルムを用いて印字画像が転写された被印字物を示す断面図である。
【図9】印字画像が転写された被印字物を示し、(a)は実施の形態1に係る転写フィルムを用いて、(b)は実施の形態2に係る転写フィルムを用いてそれぞれ印字画像が転写された被印字物である。
【図10】実施の形態3に係る転写フィルムを示す断面図である。
【図11】転写フィルムを用いて印字画像を転写するさらに他の印字転写装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0015】
実施の形態1
図1に、本発明の実施形態1に係る転写フィルムの構成を示す。転写フィルムは、インクジェット法により打滴されたインクを浸透させるインク浸透層1と、インク浸透層1を通過したインクを受容して留めるインク受容層2と、インク受容層2に受容された印字画像を保護する保護層3と、これらの層を支持するフィルム状の支持体4とを厚さ方向に積層して構成される。
インク浸透層1は、インクジェット法によりインクが打滴される打滴面5を有し、打滴面5に打滴されたインクを浸透させるための空隙を有する。また、インク浸透層1は、被印字物Pに熱接着するための熱可塑性樹脂を含む。インク受容層2は、インク浸透層1の打滴面5とは反対側の面に当接して配置される。
保護層3は、インク受容層2と当接し、転写フィルムがインク浸透層1を介して被印字物Pに熱接着された際には被印字物Pとの間でインク浸透層1およびインク受容層2を挟んで保護する。保護層3には、水性ポリエステルおよび水性アクリル等の樹脂、あるいは、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン樹脂等の剥離性を有する樹脂が利用できる。
支持体4は、保護層3と当接し、転写フィルムを被印字物Pに熱接着する時の加熱温度に対して耐熱性を有する樹脂をフィルム状に加工したもので、例えば、150℃の熱に対する耐熱性を有するPET(polyethylene terephthalate)およびPEN(polyethylene naphthalate)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。なお、支持体4は、転写フィルムが被印字物Pに熱接着された後で、保護層3と支持体4との間または保護層3の途中から剥離されるものである。
【0016】
図2にインク浸透層1の構成を示す。インク浸透層1の空隙は、層全体に分散して存在する複数の熱可塑性樹脂粒子6の間隙Lにより形成される。熱可塑性樹脂粒子6の各間隙Lが厚さ方向に連続することでインク浸透層1を貫通する空隙が形成され、この空隙を介して打滴面5に打滴されたインクがインク浸透層1を通過してインク受容層2に供給される。
このため、熱可塑性樹脂粒子6の間隙L(粒子間距離)は、インクの浸透を妨げないように、粒子サイズおよび粒子分布を選択し、0.1μm以上に調整されている。熱可塑性樹脂粒子6の粒子サイズとしては、インクの浸透を妨げず且つインクがフィルムと平行方向に拡散しないように0.1μmから10μmであることが好ましい。また、熱可塑性樹脂粒子6は、転写フィルムが被印字物Pに熱接着されるまでの間に、室温などの環境温度で軟化または皮膜化してインクの浸透性を妨げないように、軟化温度が100℃から150℃のものが好ましく、例えば、スチレン、アクリルおよびブタジエンなどのスチレン共重合対系樹脂、ポリオレフィ系樹脂、ポリメタクリル酸及びその誘導体からなる樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリアミド系樹脂などを利用することができる。
【0017】
インク浸透層1は、空隙におけるインクの浸透が促進するように、インクが有する極性と同極性に帯電されている。例えば、空隙を形成する熱可塑性樹脂粒子6をインク中の色材が有する極性と同極性の荷電調節剤で分散させることで、インク浸透層1をインクと同極性に帯電させることができる。
このような荷電調節剤としては、インクが酸性染料などのアニオン性の色材を含む場合、あるいはアニオン性の界面活性剤で荷電された顔料分散物を有するインクには、アニオン性の極性を有する荷電調節剤が使用される。すなわち、アニオン性の荷電調節剤は、水中で解離した時に陰イオンとなるものが使用され、例えば、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが使用される。具体的に、カルボン酸系の荷電調節剤としては石鹸の主成分である脂肪酸塩やコール酸塩が、スルホン酸系の荷電調節剤としては直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、またはアルキルポリオキシエチレン硫酸塩が、リン酸構造を持つ荷電調節剤としてはモノアルキルリン酸塩などが利用できる。
一方、インクがアルカリ性染料などのカチオン性の色材を含む場合には、カチオン性の荷電調節剤が使用される。すなわち、カチオン性の荷電調節剤は、水中で解離した時に陽イオンとなるものが使用され、例えば、親水基としてテトラアルキルアンモニウムを持つものが使用される。具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、またはアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが利用できる。
【0018】
また、インク浸透層1は、光を散乱させるための光散乱粒子7を含有することが出来る。被印字物Pに転写した後の転写フィルムの画像は、被印字物Pの光学反射率に依存した画像が観察される。例えば被印字物Pが透明あるいは黒色の場合、被印字物Pの表面では光散乱が起こらず、転写フィルムに形成された画像をコントラスト高く観察することが出来ない。そこで、インク浸透層1に光散乱粒子7による光散乱機能を付与することでこれらの問題を解決し、どのような特性の被印字物Pであっても下地が白くコントラストのある画像を観察することが出来る。
光散乱粒子7は、その表面でインク中の色材を付着してインクの浸透を妨げないように、熱可塑性樹脂粒子6の内部に分散して含有されている。光散乱粒子7としては、被印字物Pに熱接着した後のバインダー樹脂との屈折率が0.1以上あるものが好ましく、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、アルミナなどの白色無機顔料、あるいは、ポリカーボネイト、アクリルなどの有機樹脂微粒子を用いることができる。これら屈折率の高い微粒子を屈折率の低い熱可塑性樹脂に分散し、粉砕等の公知の方法で粒子化することが出来る。
さらに、インク浸透層1には、被印字物Pへの接着力を向上させるためのタッキファイヤ粒子8が分散して含まれている。タッキファイヤ粒子8としては、ロジン、ロジンエステル、脂環族系樹脂、フェノール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂などが利用できる。なお、タッキファイヤは、粒子としてインク浸透層1に分散させずに、熱可塑性樹脂粒子6の内部に含有させることもできる。タッキファイヤを熱転写時に熱可塑性樹脂内に取り込ませることで、被印字物との間の接着力を強化させることが出来る。
【0019】
図3にインク受容層2の構成を示す。インク受容層2は、インクに不溶な複数のインク受容粒子9がバインダーで固定されて形成されており、インク受容粒子9の各間隙においてインクが受容される。ここで、インク受容粒子9は、インク中の色材をインク受容粒子9間に固定するための固定剤と凝集を起こさないものが選択でき、例えば非極性あるいは低極性のものが選択される。
インク受容粒子9としては、ポリオレフィン、アクリル、ポリスチレン、ポリエステル等の高分子微粒子、あるいは、炭酸カルシウム、カオリン、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機微粒子が利用できる。また、インク受容粒子9を固定するバインダーとしては、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、水性ポリエステル、水性アクリル樹脂などの水溶性ポリマーを利用することができる。
インク中の色材を保持することになるインク受容層2自身に光学散乱能があると、色材の発色強度が低下することになりコントラストのない画像になる。インク受容層2は光散乱が無く透明であることが望ましい。
インク受容粒子9は、光散乱および光吸収を抑制してインク受容層2を透明にするために、無色で粒子サイズが可視光の波長より小さいもの、あるいは、無色でインク受容粒子9を固定するバインダーとの屈折率差が0.1以下のものを使用するのが好ましい。インク受容粒子9とバインダーとの屈折率差が0.1以下の組み合わせとしては、例えば、インク受容粒子9にシリカを、バインダーにPVAをそれぞれ用いることができる。
【0020】
インク受容層2は、インク受容粒子9の粒子表面に色材を固定して移動させないことが望ましい。このため、インク受容粒子9の表面はインクが有する極性と逆極性になるような処理が行われることが望ましい。例えば、インク中の色材が有する極性とは逆極性の固定剤を含ませてインク受容層2を形成することで、インク受容層2をインクと逆極性に帯電させることができる。このような固定剤としては、インクがアニオン性の色材を含む場合には、カチオン性の極性を有するジシアンジアミド、ジエチレントリアミン、ジメチルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等の第1級〜4級アンモニウム基を有するものなどが利用できる。一方、インクがカチオン性の色材を含む場合には、アニオン性の固定剤、例えば、水溶性、あるいは水分散性高分子に、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが使用できる。具体的には、動植物油脂脂肪酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のソーダ塩、カリウム塩等が使用できる。
【0021】
次に、図1に示した転写フィルムの製造方法の一例を説明する。
厚さ20μmのPETフィルムからなる支持体4上に、保護層3として水分散ポリオレフィンを塗布する。水分散ポリオレフィンは、乾燥後の厚さが0.3μmから5μmとなるように塗布される。例えば、0.5μmサイズのポリエチレン粒子を分散させた分散液に界面活性剤を添加したものを塗布することができる。また、ワックス粒子、シリコンワックスなどを塗布液に添加することで、支持体4と保護層3の離型性を高めることもできる。
【0022】
次に、保護層3の上にインク受容層2として水分散シリカ液の塗布を行う。水分散シリカ液は、気相形成法で作成された粒径0.05μm程度のコロイダルシリカ粒子を、シリカ粒子の体積に対して1%から30%のバインダー樹脂とインクを固定するための固定剤である4級アンモニウム基を含むカチオンポリマーとを含む溶液に分散させたものが利用できる。
ここで、シリカ粒子に対するバインダー樹脂の比率を1%から30%に設定することで、インク受容層2の30%以上に空隙を生成することができ、印字画像に必要なインク量を受容することが可能となる。また、インク受容層2は、所望のインク量を受容するために、乾燥後の厚さが5μm程度以上になるのが好ましく、例えばリバースロールコートまたはバーコートなどにより10μmから20μmの厚さに塗布される。なお、バインダーとしてPVAとホウ酸の架橋反応などを利用し、少ないバインダー量で塗膜の強度を高めることもできる。
【0023】
次に、インク受容層2の上にインク浸透層1の形成を行う。熱可塑性樹脂としてポリエチレンを主成分とするポリオレフィン系樹脂を用いることが出来る。軟化点が100℃〜150℃になる樹脂粒子を用いることで室温保存時は粒子のままであり、加熱転写時に軟化して被印字物Pとの間の接着力を発現する。光散乱能の付与のために懸濁重合法または湿式造粒法などにより熱可塑性樹脂に光散乱粒子7を分散させる。例えば、湿式造粒法では、熱可塑性樹脂の融液に光散乱粒子7を分散混練してペレット状にする。このペレットを気相粉砕または湿式造粒(ボールミルなど)などにより約1μのサイズに粒子化する。得られた熱可塑性樹脂粒子6及び光散乱粒子7を含む熱可塑性樹脂粒子6aをインク中の色材と同極性の荷電調節剤を含む溶液で分散させ、水性バインダーを加えることで塗布液が作成される。水性バインダーは上述した荷電調節剤で凝集しない樹脂が使用できる。室温で被膜形成するポリオレフィン樹脂分散粒子、ポリビニルアルコール等が使用できる。塗布乾燥後のインク浸透層1における熱可塑性樹脂粒子6および熱可塑性樹脂粒子6aの粒子間にインクが浸透できる間隔が確保できるよう、塗布液における熱可塑性樹脂粒子6、熱可塑性樹脂粒子6a、および水性バインダー等の濃度が調整される。また、塗布液には、タッキファイヤとしてロジンエステルを熱可塑性樹脂粒子6の体積に対して2%から30%添加される。このようにして作成された塗布液は、乾燥後の厚さが3μmから10μmとなるようにインク受容層の上に塗布される。ここで、インク浸透層1は、インク中の色材を捕獲してインクの浸透を妨げないように薄く形成されるのが好ましく、例えばインク受容層の厚さに対して1/3以下の厚さで形成される。
【0024】
このようにして製造された転写フィルムを用いてインクジェット法により印字が行われ、その印字画像が被印字物Pに転写される。なお、インク浸透層1、インク受容層2、および保護層3をそれぞれ形成する際に、下の層が乾燥した後で上の層の塗布液を塗布する場合には、乾燥させた下の層を界面活性剤処理、プラズマ処理、またはコロナ処理などで濡れ性を向上させた後で上の層の塗布液を塗布することが好ましい。また、下の層が乾燥する上の層の塗布液を塗布する場合には、高粘度化した塗液を塗布することが好ましい。
【0025】
次に、印字画像を被印字物Pに転写する転写方法を説明する。
図4に、転写フィルムに印字画像を印字すると共にその印字画像を被印字物Pに転写する印字転写装置を示す。この印字転写装置において、転写フィルムは、インク浸透層1の打滴面5がインクジェットヘッドに対向するように搬送され、印字・乾燥された後に、打滴面5が被印字物Pに当接するように搬送される。
印字転写装置は、打滴量演算部21を有し、この打滴量演算部21に駆動部22を介してインクジェットヘッド23が接続されている。また、転写フィルムの搬送方向に対して。インクジェットヘッド23の下流側には、加熱乾燥装置24、加熱ローラ25、および剥離ローラ26が順次配置されている。
【0026】
まず、打滴量演算部21が、転写フィルムに打滴すべきインクの量の演算を行い、駆動部22は、打滴量演算部21で演算されたインク量に応じた電圧をインクジェットヘッド23に印加する。インクジェットヘッド23は、打滴面5が対向するように搬送された転写フィルムに対し、駆動部22により印加された電圧に応じたインク量を順次打滴する。
【0027】
インクジェットヘッド23から転写フィルムの打滴面5に打滴されたインクは、インク浸透層1に形成された空隙を浸透する。ここで、インクが浸透する空隙は、熱可塑性樹脂が皮膜化することなく0.1μm以上の大きさに形成されているため、インクの浸透を阻害せずに打滴面5に打滴されたインクを順次浸透させることができる。また、空隙は、0.1μmから10μmのサイズの熱可塑性樹脂粒子6により形成されているため、インクをフィルムと平行方向に拡散させずに浸透させることができる。さらに、インク浸透層1を構成する素材は、インクが有する極性と同極性に帯電しており、空隙におけるインクの凝集を起こさせることなくインク受容層へのインク浸透を促進させることが出来る。また、光散乱粒子7を熱可塑性樹脂粒子6の中に含有することで、インクの色材が光散乱粒子7に吸着するのを抑制することができる。
続いて、インク浸透層1を通過したインクは、インク受容層2で順次受容される。インク受容層2では、インク受容粒子9の間隙によりインクが受容される。この時、インク受容層2は、インクが有する極性と逆極性に帯電しているため、インク受容粒子9の間隙におけるインクの固定能を向上させることができる。
【0028】
このようにして、インク受容層2に受容されたインクは、加熱乾燥装置24により乾燥される。加熱乾燥装置24としては、赤外線ランプまたは熱風などにより乾燥させるものが利用できる。インクが乾燥された転写フィルムは、インク浸透層1の打滴面5と被印字物Pとが当接するように搬送され、加熱ローラ25により、打滴面5が被印字物Pに当接された状態で押圧されると共に、インク浸透層1の熱可塑性樹脂粒子6およびタッキファイヤ粒子8が軟化する温度で加熱される。これにより、転写フィルムがインク浸透層1を介して被印字物Pに熱接着される。また、熱可塑性樹脂粒子6が軟化されることで、熱可塑性樹脂粒子6の中に含有された光散乱粒子7はインク浸透層1内に分散される。続いて、転写フィルムは被印字物Pに接着された状態で搬送され、剥離ローラ26により転写フィルムの支持体4が保護層3と支持体4の界面あるいは保護層3の中間で剥離される。これにより、転写フィルムの保護層3が被印字物Pとの間で印字画像を挟んで保護した状態となり、被印字物Pへの印字画像の転写が完了する。
【0029】
このように、本実施の形態に係る転写フィルムは、複数の熱可塑性樹脂粒子6がインク浸透層1において空隙を形成することで、インクを妨げることなく浸透させる浸透能と被印字物Pへの熱接着能とを両立させることができる。さらに、インク浸透層1をインクが有する極性と同極性に帯電させることで空隙におけるインクの浸透を促進し、インクジェット法により打滴されたインク色材量を減少させることなくインク受容層2に供給することができる。また、印字画像を受容したインク受容層2と被印字物Pとの間、すなわち保護層3側からみて印字画像の下側に光散乱粒子7が存在するため、印字画像と同じ層に光散乱粒子7が存在するのと比較して、印字画像の色材の発色を向上させることができる。
【0030】
なお、図5に示すように、印字転写装置は、被印字物Pの搬送方向に対して、インクジェットヘッド23の下流側に、浸透液を転写フィルムに打滴するためのインクジェットヘッド27を備えてもよい。ここで、浸透液は、インクの色材を溶解または分散させるために用いた溶媒または分散媒を主成分とするものであり、例えば、インクの主溶剤に、インク浸透層1への濡れ性を向上させるための界面活性剤を添加したものが使用できる。また、浸透液は、乾燥性を制御するためにエチレングリコール、グリセリンなどの高沸点溶剤を添加することもできる。
インクジェットヘッド23によりインクが打滴された転写フィルムの打滴面5の同じ位置に、インクジェットヘッド27により色材を含有しない浸透液が打滴される。この時、浸透液は、インク浸透層1の液体保持能と同程度の量を打滴するのが好ましい。打滴面5に打滴された浸透液は、インク浸透層1の空隙を浸透していき、インク浸透層1に残存するインクをインク受容層2に押し出す。これにより、インクジェット法で打滴されたインクがインク浸透層1に残存することなくインク受容層2で受容されるため、転写フィルムが被印字物Pに転写された際には所望の印字画像を得ることができる。
【0031】
なお、インク浸透層1において、熱可塑性樹脂粒子6のみで被印字物Pへの接着が可能な場合にはタッキファイヤ−粒子8を使用しなくてもよく、また被印字物Pに転写された印字画像において被印字物表面が十分な光散乱能を有する場合には光散乱粒子7を使用しなくてもよい。
【0032】
実施の形態2
図6に実施の形態2に係る転写フィルムFの構成を示す。この転写フィルムFは、図1に示した実施の形態1の転写フィルムFにおいてインク浸透層1の代わりに、光散乱粒子7を含有しないインク浸透層31を備えたものである。
【0033】
このような転写フィルムFに対して、図7に示す印字転写装置を用いて被印字物Pへの印字画像Sの転写を行う。この印字転写装置は、被印字物Pの搬送方向に対して、インクジェットヘッド23の下流側に、光散乱粒子32を含んだ光散乱処理液を転写フィルムFに打滴するインクジェットヘッド33を備える。
インクジェットヘッド23によりインクが打滴された転写フィルムFの打滴面5の同じ位置に、インクジェットヘッド33により光散乱処理液が打滴される。ここで、光散乱粒子32は、インク浸透層31内に留まってインク受容層2まで到達しないように、インク浸透層31の空隙の大きさと同等あるいはそれ以上の粒子サイズを有する。また、インクジェットヘッド33は、光散乱処理液に光散乱粒子32が均等に含まれるような打滴サイズで打滴を行う。例えば、光散乱粒子32の粒子サイズが0.1μmである場合には、10μm以上の打滴サイズで光散乱処理液を打滴することができる。これにより、インク受容層2で受容された印字画像Sと対向するインク浸透層31の一部分のみに光散乱粒子32を位置させることができる。このため、転写フィルムFが被印字物Pに転写された際には、図8に示すように、保護層3側からみて印字画像Sの下側にのみ光散乱粒子32が存在し、印字画像Sが存在しない部分の下側には光散乱粒子32は存在しない印字が可能になる。
【0034】
図9(a)に示すように、実施の形態1に係る転写フィルムFに印字された印字画像Sを被印字物Pに転写した場合には、転写フィルムFが接着された部分において、印字画像Sの下側だけでなく、印字画像Sが存在しない部分についても光散乱粒子7が存在するため白色として反映される。これに対して、図9(b)に示すように、実施の形態2に係る転写フィルムFに印字された印字画像Sを被印字物Pに転写した場合には、印字画像Sの下側のみに光散乱粒子32を存在させることができ、印字画像Sの色材の発色を向上させると共に印字画像Sが存在しない部分については被印字物Pの色をそのまま反映させることができる。
【0035】
実施の形態3
図10に実施の形態3に係る転写フィルムの構成を示す。この転写フィルムFは、図1に示した実施の形態1に係る転写フィルムにおいて、保護層3と支持体4に代えて支持・保護層41を備えたものである。この支持・保護層41は、インク浸透層1およびインク受容層2を支持すると共に転写フィルムが被印字物Pに接着された際には被印字物Pとの間でインク受容層2およびインク浸透層1を挟んで保護するものである。
印字転写装置のインクジェットヘッド23により転写フィルムの打滴面5にインクが打滴された後、転写フィルムがインク浸透層1を介して被印字物Pに熱接着されることで、被印字物Pへの印字画像の転写が完了する。すなわち、転写フィルムが被印字物Pに接着された後、支持・保護層41は、剥離ローラで剥離されずに、そのまま被印字物Pとの間で印字画像を挟んで保護する。
このような転写フィルムの構成とすることにより、転写フィルムの製造または被印字物Pに印字画像を転写する際に要する労力を低減することができる。
なお、実施の形態2に係る転写フィルムについても、同様にして、保護層3と支持体4に代えて支持・保護層41を備えることができる。
【0036】
なお、実施の形態1〜3に係る転写フィルムを被印字物Pに転写する際には、被印字物Pに印字画像を転写した結果をフィードバックすることによりインクの打滴量を順次補正することもできる。
【0037】
このような転写方法を行う印字転写装置の一例を図11に示す。この印字転写装置は、被印字物Pの搬送方向に対し、剥離ローラ26の下流側に計測装置51を配置し、計測装置51に印字結果計測値入力部52を接続すると共にこの印字結果計測値入力部52を打滴量演算部21に接続したものである。
計測装置51は、被印字物Pの表側に配置された光学センサ53から得られる光学特性を測定するものである。また、被印字物Pが透明な材質からなる場合には、被印字物Pの裏側にも光学センサ54を配置し、計測装置51は表側および裏側からそれぞれ得られる光学特性をそれぞれ計測する。計測装置51で得られた計測値は、印字結果計測値入力部52に入力され、被印字物Pに印字画像を転写した結果がフィードバックされる。打滴量演算部21は、印字結果計測値入力部52から入力された計測値に基づいて、目標の発色を実現するように補正したインクの打滴量を被印字物Pの各領域について求める。このようにして補正されたインクの打滴量に応じて駆動部22がインクジェットヘッド23を駆動し、転写フィルムへの印字が行われる。
【0038】
このように、被印字物Pに印字画像を転写した結果をフィードバックして補正されたインクの打滴量に基づき再び転写フィルムに印字するため、初期のインクの打滴量が悪い場合、あるいは、インクおよび転写フィルムなどの物性が変化した場合であっても、発色の変動を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,31 インク浸透層、2 インク受容層、3 保護層、4 支持体、5 打滴面、6, 熱可塑性樹脂粒子、6a 光散乱粒子含有熱可塑性樹脂粒子、7 光散乱粒子、8 タッキファイヤ粒子、9 インク受容粒子、21 打滴量演算部、22 駆動部、23,27,33 インクジェットヘッド、24 加熱乾燥装置、25 加熱ローラ、26 剥離ローラ、32 光散乱粒子、41 支持・保護層、51 計測装置、52 印字結果計測値入力部、53,54 光学センサ、P 被印字物、F 転写フィルム、S 印字画像。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により打滴面に打滴されたインクを浸透させて内部に印字画像を受容し、被印字物に前記打滴面を介して接着されることで内部に受容された印字画像を被印字物に転写する転写フィルムであって、
前記打滴面を有すると共に前記打滴面からインクを浸透させるための空隙を有し、前記空隙におけるインクの浸透が促進するようにインクが有する極性と同極性に荷電されたインク浸透層と、
前記インク浸透層を通過したインクを受容するインク受容層と、
前記インク受容層を挟んで前記インク浸透層の反対側に位置し、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持すると共に前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する支持・保護層とを積層して備えたことを特徴とする転写フィルム。
【請求項2】
アニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、
アニオン性の荷電調節剤を含む前記インク浸透層を備えた請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項3】
前記インク受容層は、インクの受容量を高めるようにインク中の色材が有する極性と逆極性に荷電された素材から構成される請求項1または2に記載の転写フィルム。
【請求項4】
アニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、
カチオン性の固定剤を含む前記インク受容層を備えた請求項3に記載の転写フィルム。
【請求項5】
前記空隙は、0.1μm以上の大きさに形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項6】
前記インク浸透層は、3μmから10μmの厚さを有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項7】
前記支持・保護層は、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持する支持体と、前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する保護層とを前記インク受容層に前記保護層を当接して構成され、
前記支持体が被印字物に接着された後に剥離されることで、前記保護層が被印字物との間で前記インク受容層および前記インク浸透層を挟んで保護する請求項1〜6のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項8】
前記インク受容層は、粒子間でインクを保持するための複数のインク受容粒子を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項9】
前記インク浸透層は、被印字物に熱接着するための複数の熱可塑性樹脂粒子を含み、
前記空隙は、前記複数の熱可塑性樹脂粒子の間隙により形成される請求項1〜8のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項10】
前記複数の熱可塑性粒子は、光を散乱させる光散乱粒子を含有する請求項9に記載の転写フィルム。
【請求項11】
インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に光を散乱させる光散乱粒子をインクジェット法で打滴することで、前記インク受容層で受容された印字画像と対向する前記インク浸透層の一部分のみに前記光散乱粒子が位置する請求項1〜9のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項12】
インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に色材を含有しない浸透液をインクジェット法で打滴することで、前記浸透液により前記インク浸透層から前記インク受容層にインクが押し出された請求項1〜11のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の転写フィルムを被印字物に転写する転写方法であって、
一定方向に移動する前記転写フィルムの前記打滴面にインクジェット法によりインクを順次打適し、
打滴されたインクが有する極性と同極性に荷電された前記インク浸透層にインクが浸透し、
前記インク浸透層を通過したインクを前記インク受容層が順次受容し、
印字画像が前記インク受容層に受容された前記転写フィルムの前記打滴面を被印字物に当接し、
前記転写フィルムを熱接着して被印字物に印字画像を転写することを特徴とする転写方法。
【請求項1】
インクジェット法により打滴面に打滴されたインクを浸透させて内部に印字画像を受容し、被印字物に前記打滴面を介して接着されることで内部に受容された印字画像を被印字物に転写する転写フィルムであって、
前記打滴面を有すると共に前記打滴面からインクを浸透させるための空隙を有し、前記空隙におけるインクの浸透が促進するようにインクが有する極性と同極性に荷電されたインク浸透層と、
前記インク浸透層を通過したインクを受容するインク受容層と、
前記インク受容層を挟んで前記インク浸透層の反対側に位置し、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持すると共に前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する支持・保護層とを積層して備えたことを特徴とする転写フィルム。
【請求項2】
アニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、
アニオン性の荷電調節剤を含む前記インク浸透層を備えた請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項3】
前記インク受容層は、インクの受容量を高めるようにインク中の色材が有する極性と逆極性に荷電された素材から構成される請求項1または2に記載の転写フィルム。
【請求項4】
アニオン性の色材を含むインクを前記打滴面に打滴するために、
カチオン性の固定剤を含む前記インク受容層を備えた請求項3に記載の転写フィルム。
【請求項5】
前記空隙は、0.1μm以上の大きさに形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項6】
前記インク浸透層は、3μmから10μmの厚さを有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項7】
前記支持・保護層は、前記インク浸透層および前記インク受容層を支持する支持体と、前記インク受容層および前記インク浸透層を保護する保護層とを前記インク受容層に前記保護層を当接して構成され、
前記支持体が被印字物に接着された後に剥離されることで、前記保護層が被印字物との間で前記インク受容層および前記インク浸透層を挟んで保護する請求項1〜6のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項8】
前記インク受容層は、粒子間でインクを保持するための複数のインク受容粒子を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項9】
前記インク浸透層は、被印字物に熱接着するための複数の熱可塑性樹脂粒子を含み、
前記空隙は、前記複数の熱可塑性樹脂粒子の間隙により形成される請求項1〜8のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項10】
前記複数の熱可塑性粒子は、光を散乱させる光散乱粒子を含有する請求項9に記載の転写フィルム。
【請求項11】
インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に光を散乱させる光散乱粒子をインクジェット法で打滴することで、前記インク受容層で受容された印字画像と対向する前記インク浸透層の一部分のみに前記光散乱粒子が位置する請求項1〜9のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項12】
インクが打滴された前記打滴面の同じ位置に色材を含有しない浸透液をインクジェット法で打滴することで、前記浸透液により前記インク浸透層から前記インク受容層にインクが押し出された請求項1〜11のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の転写フィルムを被印字物に転写する転写方法であって、
一定方向に移動する前記転写フィルムの前記打滴面にインクジェット法によりインクを順次打適し、
打滴されたインクが有する極性と同極性に荷電された前記インク浸透層にインクが浸透し、
前記インク浸透層を通過したインクを前記インク受容層が順次受容し、
印字画像が前記インク受容層に受容された前記転写フィルムの前記打滴面を被印字物に当接し、
前記転写フィルムを熱接着して被印字物に印字画像を転写することを特徴とする転写方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−39791(P2013−39791A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179511(P2011−179511)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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