説明

転写性に優れた樹脂組成物を用いたマイクロ部品

通常の射出成形の温度及び圧力以下でスタンパの微細加工又は、金型形状を精密に転写することができる樹脂組成物及び該組成物を用いたマイクロ部品の提供を目的とする。ポリプロピレン系樹脂と一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体とを含有していることを特徴とする。 ここで、ポリマーブロックXは、ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロックであり、ポリマーブロックYは、共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロメカニカルスイッチング素子、マイクロ光学、マイクロ流体、マイクロ化学反応装置の機能素子、血液流動性測定装置の毛細管モデル、マイクロバイオリアクター、マイクロウェルアレイチップ、マイクロ注射器、マイクロ樹脂製ピペットチップ、その他の化学、生化学、生物工学、生物学の分野におけるマイクロ部品(以下、「マイクロ部品」という。)及びその応用品に適した樹脂組成物に関するものであり、特に、これらマイクロ部品を射出成形法により製造するのに好適な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロウェルアレイチップ等の微小の凹部を必要とするマイクロ部品は、従来、シリコン単結晶製であり、エッチング法により微細な凸凹パターン形状を形成している。
このような方法では材料費が高く、かつ製作時間が長いという問題がある。
また、不良品の発生率も高く、形成した微細な凸凹パターン形状のばらつきに起因する試験精度の低下のおそれがある。
更に、これらのマイクロ部品の単価が高いので、試験完了後洗浄して再使用する必要があり、洗浄不良による試験精度の低下のおそれもある。
【0003】
また、細胞レベルの検査及び解析の際には、図3の顕微鏡拡大写真に示すようなマイクロウエルアレイチップの特定マイクロウエル(マイクロウエル径約10μm、マイクロウエル間ピッチ20μm)に収容された直径約10μmのリンパ球を1個ずつ吸引し、当該リンパ球を別の容器に注入するのにキャピラリーとしてピペットチップが必要となる。
リンパ球1個の体積は、約1ピコリットル(pl)であり、このような微少容量、微小径の細胞や試験液のキャピラリー(ピペットチップ)としては容量が数10ピコリットルレベルのものが必要であり、従来次のようなものがある。
【0004】
細胞1個の採取が可能な内径約15μmレベルのノズルとして、ガラス製キャピラリーが既存技術としてある。
しかし、次のような問題があった。
ガラス製キャピラリーは剛性に欠けるので、手作業のマイクロマニピュレーションによる細胞操作では問題にならないが、機械的に高速で細胞回収を行う場合、キャピラリー(特にノズル先端部)が振れて静止しにくく、精密な細胞回収作業などが出来ない。
ガラス製キャピラリーは強度的に不十分で、細胞チップ(例えば、マイクロウエルアレイチップ)と接触・衝突した際、細胞チップの材質にかかわらず破損する。
細胞採取ノズルを機械に装着して自動的に連続細胞採取を行う場合、ノズルの穴はノズルの中心部に高精度で位置していることが必要である。
ガラス製キャピラリーではそのような高精度に形状を作ることは非常に困難である。
ヒトの生体物質を扱うピペットチップ等の細胞採取ノズルは、その廃棄にあたっては医療廃棄物として慎重な取り扱いが求められる。
ガラス製キャピラリーは、容易に破損しやすく、また、破損したキャピラリーは危険である。
【0005】
同様に、細胞1個の採取が可能な内径約15μmレベルのノズルとして、人工ルビー製ノズルが既存技術としてある。
しかし、この場合にも次のような問題があった。
人工ルビー製ノズルは最終的な表面仕上げに高度技術者による手作業が必要で、1本5〜10万円程度と高価格である上、大量生産は困難である。
細胞採取ノズルはヒトの生体物質を扱うことになるが、その場合、バイオハザード(生物汚染)や回収試料の汚染を防ぐため、消毒滅菌したノズルを無菌状態で供給し、試料ごとに交換することが望ましく低コストで大量生産可能なノズルの開発が必要である。
ヒトの生体物質を扱う細胞採取ノズルは、その廃棄にあたっては医療廃棄物として慎重な取り扱いが求められる。
人工ルビー製ノズルは、高強度で処分出来ない上に、先端が細く危険性も高い。
【0006】
そこで、マイクロ部品を射出成形法で製造することができれば、一定品質のマイクロ部品を短時間に大量生産することができ、製造コストを安価に抑えることができ、マイクロ部品の使い捨てが可能になり、洗浄不良による試験精度の低下のおそれがない。
【0007】
このような射出成形法の長所に着目して各種の試みがなされている。
微細な凹凸が必要なマイクロ部品を製造する場合に従来は、金型キャビティ内に微細な凸凹パターン形状を有するスタンパを取り付け、溶融樹脂を高温高圧で射出し、冷却固化させて取り出すものであり、取り出された樹脂プレート表面に、スタンパに形成された微細加工が転写される。
ここで使用されているスタンパは、シリコン製マスターないしニッケル電鋳マスターであり、射出される樹脂は一般的な熱可塑性樹脂、具体的にはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体又は高流動性ポリカーボネートである。
一般的には、スタンパの微細加工の最深部まで精密転写させるために、流動特性の良い樹脂を用い、射出時の温度及び圧力を極めて高く設定している。
【0008】
しかし、従来、射出成形法で転写できる製品形状の凹凸限度は、0.2〜0.3mmであり、MI20(g/10分)の材料を用い、射出圧は200〜250MPa必要とされている。
実開昭53−35584号公報により、内径0.60〜2.00mmの細管は公知であり、現在では0.20mmまで成形できるようになっている。
特開平1−143647号公報にマイクロピペットを開示するが、ガラス製であり、上記のような技術的課題が内在していた。
【0009】
【特許文献1】実開昭53−35584号公報
【特許文献2】特開平1−143647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
射出成形法は、一定の品質のものを安価に提供することができるという特徴があるが、金型を使用する関係上、使用する樹脂の離型性や流動特性が良いことなど、使用する樹脂に制限がある。
また、高価なシリコン製のスタンパは破損しやすいため、低い射出圧で、射出成形できれば、シリコン製スタンパの破損防止により量産性が良いという射出成形法の長所を生かすことができる。
一方、ニッケル電鋳マスターは破損のおそれがないが、その製造工程が複雑で長期間を要し、製作コストが極めて高く、成形品の単価を押し上げる原因となる。
本発明は、通常の射出成形の温度及び圧力以下で成型でき、スタンパの微細加工(微細な凸凹パターン形状)を精密に転写することができ、また、微小物質ないし微少容量を採取又は分注する樹脂製ピペットチップ等の微細孔を有するマイクロ部品を射出成形できる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体とを含有し、転写性に優れていることを特徴とする。
但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである。
ここで、転写性に優れているとは、マイクロウエルアレイチップ等においては微細加工されたスタンパの凹凸形状を射出成形にて精密転写することができ、ピペットチップ等の微細孔部品においては、スタンパの凹凸形状又は金型形状を精密に転写できることをいう。
ここで、ポリマーブロックXは、ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロックであり、ポリマーブロックYは、共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである。ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリマー又は、エチレン、ブテンー1、ヘキセンー1などのα−オレフィンを含むランダムコポリマーを用いることができる。
ポリマーブロックXとして、ビニル芳香族モノマー(例えばスチレン)、エチレン又はメタクリレート(例えばメチルメタクリレート)等の重合したポリマーがある。
なお、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体には、(X−Y)nにおいてn=1〜5の範囲にあるものや、X−Y−X、Y−X−Y等が含まれる。
【0012】
水素添加誘導体のポリマーブロックXとしては、ポリスチレン系とポリオレフィン系のものがあり、ポリスチレン系のものは、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンのうちから選択された1種又は2種以上のビニル芳香族化合物をモノマー単位として構成されるポリマーブロックが上げられる。
また、ポリオレフィン系のものは、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンの共重合体がある。
更に非共役ジエンが共役重合されていても良い。
前記オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等である。
前記非共役ジエンとしては、例えば、1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボネル、5−ブチリデン−2−ノルボネル、2−イソプロペニル−5−ネルボルネン等がある。
共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体等が挙げられる。
【0013】
ポリマーブロックYの水素添加前のものとして、2−ブテン−1,4−ジイル基及びビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基をモノマー単位として構成されるポリブタジエンや、また2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基及び1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基をモノマー単位として構成されるポリイソプレンが挙げられる。
更に水素添加前のポリマーブロックYとして、イソプレン単位及びブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるイソプレン/ブタジエン共重合体で、イソプレン単位が2−メチルー2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基及び1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選ばれるすくなくとも1種の基であり、ブタジエン単位が2−ブテン−1,4−ジイル基及び/又はビニルエチレン基であるものが挙げられる。
ブタジエン単位とイソプレン単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパブロック状のいずれの形態になっても良い。
【0014】
また、ポリマーブロックYの水素添加前のものとして、ビニル芳香族化合物単位及びブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるビニル芳香族化合物/ブタジエン共重合体で、ビニル芳香族化合物単位が、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンのうちから選択された1種のモノマー単位であり、ブタジエン単位が、2−ブテン1,4−ジイル基及び/又はビニルエチレン基である共重合体が挙げられる。ビニル芳香族化合物単位とブタジエン単位の配置は、ランダム状、ブロック状上、テーパブロック状のいずれの形態になっても良い。
上記のようなポリマーブロックYにおける水素添加の状態は、部分水素添加であっても、また完全水素添加であっても良い。
【0015】
本発明に係る樹脂組成物においては、水素添加誘導体のポリマーブロックXがポリスチレンであり、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合、3,4結合及び/又は1,4結合のポリイソプレンであると原材料を入手しやすい。
スチレン成分はポリプロピレン系樹脂等との相溶性が低いので、その割合が高くなるとポリプロピレンとの混合に時間を要するので、スチレン成分の多い水素添加誘導体を用いるときはマスターバッチ化し、予め十分に混合しておくのが良い。
【0016】
水素添加誘導体のポリマーブロックXがポリスチレンであり、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合及び/又は1,4結合のポリブタジエンである場合も原材料が入手しやすい。
【0017】
ここで、相溶について以下説明する。
ポリマーブロックXがポリプロピレン系樹脂に相溶しないとき、ポリマーブロックXはその慣性半径程度のサイズを有するミクロドメインを形成し、このようなミクロドメインは透過型電子顕微鏡で観察したり、小角X線散乱により孤立ドメインの散乱パターンを測定・解析したりすることにより確認することができる。
またこの場合、ポリマーブロックXのガラス転移温度はポリプロピレン系樹脂の混合によりほとんど変化せず、これを示差走査熱量測定(DSC)や動的粘弾性測定などにより確認することができる。
ポリマーブロックYがポリプロピレン系樹脂に相溶するときは、ポリマーブロックYのガラス転移温度およびポリプロピレンのガラス転移温度が変化して、これらの間の温度に新たなガラス転移温度が現れる。
このようなガラス転移温度の変化は、動的粘弾性測定などにより確認することができる。仮に、X−Yブロックコポリマーの何れのポリマーブロックにもポリプロピレン系樹脂が相溶しないと、形態的にはX−Yブロックコポリマー相(ポリマーブロックXの相とポリマーブロックYの相からなるミクロドメイン構造を形成している)とポリプロピレン系樹脂相に分離するが、ポリマーブロックYにポリプロピレン系樹脂が相溶する場合は、ポリマーブロックXのミクロドメイン同士の間隔が広がったり、ポリマーブロックXのミクロドメインがポリプロピレン系樹脂中に均一に分散したりするようになる。
このようなポリマーブロックYがポリプロピレン系樹脂に相溶する場合の形態的変化は、透過型電子顕微鏡によりミクロドメインの相互位置を観察したり、小角X線散乱によりミクロドメイン間距離を解析したりすることにより確認することができる。
【0018】
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂用造核剤を添加しても良く、核化効果によって物性や透明性を向上させる金属塩型(リン酸金属塩、カルボン酸金属塩)と、ネットワーク形成によって透明性を付与するベンジリデンソルビトール型がある。
ベンジリデンソルビトール型はベンズアルデヒドとソルビトールの縮合物で、水酸基をもっている。
一般にランダムコポリマーはホモポリマーよりも透明性が高いので、透明性が要求されるときは、ランダムコポリマーにベンジリデンソルビトール型造核剤を添加したものを用いるのが良い。
これにより、透明性の高いマイクロ部品を得ることができる。
【0019】
本発明に係る樹脂組成物が適用されるマイクロ部品は、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μmの範囲に属するように、スタンパの微細加工が精密転写される。
ここで、接円とは、凹部形状の場合には内壁に少なくとも3点以上で接する最大内接円をいい、凸部形状の場合には外壁の少なくとも3点以上で接する最小外接円をいう。
凹部としてマイクロウェルを例示することができ、凸部としてマイクロ針を例示することができる。
【0020】
スタンパとしてシリコン製スタンパを用いて成形したマイクロ部品は樹脂組成物の転写性が良いので、通常のポリプロピレン系樹脂の射出条件及びそれ以下で成形することができ、シリコン製スタンパが破損するおそれがなく、これを長期にわたりを使用して射出成形することができる。
【0021】
本発明に係る樹脂組成物は医療用マイクロ部品にも適用でき、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μm範囲に属するように、スタンパの微細加工が射出成形にて精密転写される。
シリコン製スタンパはニッケル電鋳製スタンパに比べて安価かつ短期間に製造することができ、本発明に係る樹脂組成物は離型性が良いため離型剤の塗布が不要であり、成形品の表面に離型剤が残らず、医療用マイクロ部品の成形に好適である。
【0022】
本発明に係る樹脂組成物はマイクロウェルアレイチップにも適用でき、シリコン製スタンパを金型内に取り付けて、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μmの範囲に属するように、スタンパの微細加工が射出成形にて精密転写される。
マイクロウェルアレイチップは、そのウェルにリンパ球等を入れるものであり、表面に離型剤が残っておらず、生体適合性に優れている。
【0023】
本発明に係るマイクロ部品はその裏面に透明プレートを接着剤で接着することで、例えば、マイクロウェルの位置検出用プレートとして使用できる。
樹脂組成物に含まれているスチレンブロックが接着剤、特にシアノアクリレート系接着剤と接着する性質を利用することにより、透明プレートの表面にマイクロウェルアレイチップの裏面を接着したマイクロウェルの位置検出プレートとすると、従来の光学読み取り装置に適合し、かつ、各マイクロウェルの位置を正確に検出することができるプレートを得ることができる。
【0024】
本発明に係る樹脂組成物は転写性に優れ、成形時の溶融した状態の射出圧を低くして射出成形でき、、生体物質、有機物、無機物のいずれかを採取又は分注することができる樹脂製ピペットチップに適用できる。
転写性の優れた樹脂組成物を用い、射出圧を低くできたことにより、微小又は微量の生体物質、有機物、無機物等を採取又は分注することができるピペットチップを得ることができる。
ここで生体物質は、細胞、タンパク質、核酸、細胞組織、又は菌体等をいい、細胞の例としてはリンパ球、タンパク質の例としては免疫グロブリンG、核酸の例としてはDNA溶液、菌体の例としては酵母サッカロミセス等が挙げられる。
また、有機物質としてはグリセリン、無機物としてはリン酸緩衝液等各種物質を対象にできる。
【0025】
樹脂製ピペットチップの容量は、数10ピコリットル〜数10ナノリットルのレベルで、先端開口部の内径は、数μm〜数10μmレベルであっても良い。
この場合に、中央部にノズル穴を有し、先端部が錐形状のパイプ形状であるのがよい。
ここで、パイプ形状とはキャピラリーとして孔状の中空部を有するとの意味であり、外形円形状のパイプのみならず、各種異形形状のパイプが含まれる。
なお、ここで容量が数10ピコリットル〜数10ナノリットルのレベルとは、ピペットチップの先端部付近に形成する内径錐形状の採取又は分注に直接寄与する部分の容量をいう。
従って、錐形状の部分の容積であることから数10ピコリットル〜数10ナノリットルのレベルとは概ね10ピコリットル以上、90ナノリットル以下をいう。
同様に先端開口部の内径が、数μm〜数10μmレベルとは、チップ先端部の内径が除変していることから概ね1μm以上90μm以下をいう。
また、錐形状としたのは円錐形に限らず、三角あるいはそれ以上の多角の角錐形を含む趣旨である。
先端を錘形状にすることにより、例えば、図3に示したマイクロウエルアレイにおいて、隣のウエルに干渉することなく、目的のウエルのみから採取できる。
【0026】
樹脂製ピペットチップは、中央部にノズル穴を有し、先端部が錐形状のパイプ形状とした場合に、射出成形におけるキャビティ部をパイプ中心軸を分割線とする4分割型にすると、金型の放電加工においてノズル先端(チップ先端部)の錐形状部の精度がでやすい。
樹脂製ピペットチップを射出成形するには、孔となる部分に針状の中子を入れ、外型を分割するのがよい。この場合に、最小限2分割型になるが、2分割では、ピペットチップ先端部等の微細部分を寸法精度良く放電加工するのが困難になる。
その理由は、金型と電極との間における放電金属溶出でコーナーにダレが生じるからである。
従って、金型を数多く分割すれば放電加工がしやすくなるが、分割数が多いと成形時の型合わせが大変で4分割がよい。
なお、ピペットチップの先端部に相当する部分にシリコン製のスタンパを取り付けて金型精度の向上を図っても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂のほかに一定組成の水素添加誘導体を含んでいるから、通常のポリプロピレン系樹脂の射出条件相当以下である、金型温度50℃、樹脂温度240℃、射出圧力40〜70MPaで、スタンパの微細加工、あるいは金型形状を精密転写できる。
そして、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μmの範囲に属する微細加工の転写が可能になる。
ポリプロピレン系樹脂に対する水素添加誘導体の添加量が多ければ、ホモポリマーとランダムコポリマーの転写性能に相違はないが、水素添加誘導体の添加量が少ない場合にはランダムコポリマーの方が転写性能は高い。
【0028】
水素添加誘導体のポリマーブロックXとしてポリスチレンを用い、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合、3,4結合及び/又は1,4結合のポリイソプレンを用い、あるいは水素添加誘導体のポリマーブロックXとしてポリスチレンを用い、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合及び/又は1,4結合のポリブタジエンを用いると、市場で簡単に入手することができ、精密転写された安価なマイクロ部品を得ることができる。
【0029】
本発明に係る樹脂製ピペットチップは、先端部が錐形状であるから高速移送させても振れがほとんど見られず、安定したキャピラリーとなる。
ガラス製キャピラリーは細胞チップに触れるだけでも破損したのに対して本樹脂製ピペットチップはそれらとの衝突に耐えうる強度を有しており問題とならない。
また、人工ルビー製ノズルでは硬すぎて、逆に、細胞を保持しているチップを破損する恐れが高かったが、本樹脂製ピペットチップはチップに衝突しても全く相手を損傷することがない。
樹脂製ピペットチップは射出成形が可能で高精度に形状を制御して大量生産することが容易であり、樹脂製であることから高圧加熱滅菌後は燃焼、溶解処分が容易である。
ヒトの生体物質を扱う場合にバイオハザード(生物汚染)や回収試料の汚染を防ぐため、消毒滅菌したピペットチップを無菌状態で供給し、試料ごとに交換することが望ましく、低コストで大量生産可能な本樹脂製ピペットチップは、それに対応可能である。
【0030】
本発明においては、転写性に優れた樹脂組成物を用いたことにより射出成形により、容量が数10ピコリットル〜数10ナノリットルのレベルで、先端開口部の内径が、数μm〜数10μmレベルの樹脂製ピペットチップが、低コストで大量的に生産できる。
また、本発明における樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂の結晶化を妨げず、かつ、これに相溶する水素添加誘導体が混合されるので、融点の低下が認められず、耐熱性に優れ、加熱による滅菌消毒も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
[図1]実施例1の試験条件及び結果を示す。
[図2]実施例2の試験条件及び結果を示す。
[図3]転写性が良好な拡大写真を示す。
[図4]ウェルとウェルの間に発生した非連続なウェルドラインの写真を示す。
[図5]ウェルとウェルの間に発生した連続するウェルドラインの写真を示す。
[図6]マイクロウェルアレイチップの拡大断面写真を示す。
[図7]マイクロウェルの位置検出用プレートの分解斜視図を示す。
[図8]実施例3の試験条件及び結果を示す。
[図9]実施例4の試験条件及び結果を示す。
[図10]本発明に係る樹脂製ピペットチップの例を示す。
[図11]樹脂製ピペットチップの断面図を示す。
[図12]ノズル先端部の拡大断面図を示す。
[図13]樹脂製ピペットチップの射出成形用型構造例を示す。
[図14]入れ子型のA−A線断面図を示す。
[図15]キャビティ斜視図を示す。
[図16]入れ子型の分割構造を示す。
[図17]射出成形祖形材例を示す。
[図18]射出成形性の評価結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0032】
ベース樹脂がホモPPである樹脂組成物への水素添加誘導体(エラストマー)配合効果
本発明の実施例1として、ポリプロピレンのホモポリマー(以下、「ホモPP」という。)をベース樹脂とした場合に、異なる配合量で水素添加誘導体を添加してなる樹脂組成物を調製し、肉厚1mmのマイクロウェルアレイチップを成形し、各成形品の転写性及び成形性を評価した。各成分のホモPPと水素添加誘導体の配合割合は、100:0、70:30、60:40、50:50である。
ホモPPは、射出成形用の三井住友ポリオレフィン株式会社製の三井住友ポリプロPPグレード、J−105F(CASNo:9003−07−0)を用いた。
このホモPPの物性は、MFR8.0g/10min、密度0.91g/cm、引張降伏強さ410kg/cm、曲げ弾性率24300kg/cm、ロックウエル硬度116Rである。
水素添加誘導体は、A:株式会社クラレ製ハイブラー7311Sで、水添ポリスチレン・ビニルーポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体で、スチレン含有率12重量%のものである。
射出成形機の金型キャビティに取り付けるスタンパは、シリコンプレートの表面をエッチングしたものであり、直径10μmで高さ13μmの突起がピッチ25μmで形成された微細な凸凹パターン形状を有している。
予めホモPPと水素添加誘導体とを上記配合割合で混合し、この混合物を射出成形機のホッパに投入し、金型温度50度、シリンダー温度240℃、射出圧力40MPaで成形した。
試験結果を図1に示す。
図1(表)において、表中、h−PPとはベース部材としてホモPPを用いたことを示し、
成形品のマイクロウェルアレイチップの表面には、スタンパと反対の微細な凸凹パターン形状が転写されていて、転写性はデジタルHDマイクロスコープVH−7000(株式会社キーエンス製)で成形面(転写面)を写真に撮って、以下の基準による視覚評価を行った。
○:ウェルドラインがないもの(図3参照)、△:ウェルドラインがあって、つながっていないもの(図4参照)、×:ウェルドラインがあって、つながっているもの(図5参照)である。
なお、参考として図6にマイクロウエル部分の拡大断面写真を示し、直径10μmで深さ13μmである。
成形性の評価は、○:シリコン製スタンパとの離型性が良好で自動で連続生産が可能なもの、×:シリコン製スタンパとの離型性が劣りスタンパ側に一部樹脂が残る場合があり、自動で連続生産ができないものである。
試験番号1に示すように、ホモPPのみでは良好な転写性が得られなかった。
ホモPPに水素添加誘導体を配合したものでは試験番号2から転写性が若干改善され、試験番号3及び4では転写性が良好であった。
離型性については試験番号1〜4の全てで良好であった。
なお、水素添加誘導体の配合割合50%のものを用いて、転写性の限界を調査した結果、
凹部形状では内接円直径:0.3μmで、深さ:0.3μmのものまで、コーナーダレもなく、精密に転写できた。
一方、凸部形状は外接円直径:0.3μmで、深さ:0.3μmのものまで転写はできたが、エッジ部にややダレが生じた。
【実施例2】
【0033】
ベース樹脂がランダムPPである樹脂組成物への水素添加誘導体(エラストマー)配合効果
本発明の実施例2として、ポリプロピレンのランダムコポリマー(以下、「ランダムPP」という。)をベース樹脂とした場合に、異なる配合量で水素添加誘導体を添加してなる樹脂組成物を調製し、肉厚1mmのマイクロウェルアレイチップを成形し、各成形品の転写性及び成形性を評価した。
各成分のランダムPPと水素添加誘導体の配合割合は、100:0〜20:80である。
ランダムPPは、射出成形用の出光石油化学株式会社製のJ−3021GRを用いた。
このランダムPPの物性は、MFR33g/10min、密度0.9g/cm、引張弾性率1000MPa、曲げ弾性率1000MPa、ロックウェル硬度76Rである。
水素添加誘導体は、A:前記の株式会社クラレ製ハイブラー7311S(水添ポリスチレン・ビニルーポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体で、スチレン含有率12重量%)、B:JSR株式会社製ダイナロン1321P(水添ポリスチレンブタジエン、スチレン成分10%)、C:クラレ株式会社製ハイブラー7125(水添ポリスチレン・ビニルーポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体、スチレン成分20%)、D:クラレ株式会社製HG664(分子末端に一級水酸基を有する水添ポリスチレン・ビニルーポリイソプレン・ポリスチレン、スチレン成分30%)を用いた。
射出成形機の金型キャビティに取り付けるスタンパとしては、厚さ1mmのシリコンプレートをエッチングして、直径10μmで高さ13μmの円柱状突起を25μmピッチで設けたもの(転写したものは試験番号5〜21)と、直径10μmで高さ13μmの円柱状突起を15μmピッチで形成されたもの(転写したものは試験番号22及び23)2種を使用した。
予めランダムPPと水素添加誘導体とを上記配合割合で混合し、この混合物を射出成形機のホッパに投入し、金型温度50度、シリンダー温度240℃、射出圧力40MPaで成形した。
試験結果を図2に示す。
図2の表中、r−PPとはランダムPPを意味する。
評価方法は実施例1と同様である。
試験番号5から16において、試験番号5のランダムPPのみでは良好な転写性が得られなかった。
試験番号6のランダムPPに水素添加誘導体を5重量%配合したものも良好な転写性が得られなかった。
しかし、試験番号7に示すように、ランダムPPに水素添加誘導体を10重量%配合したものから転写性が若干改善され、試験番号16までは転写性が良好であった。
但し、試験番号14のものは離型性が悪く、射出成形が困難であった。
また、試験番号15及び16に示すように、他の水素添加誘導体B、Cに関しては、40重量%配合のものは転写性及び成形性が良好であった。
試験番号17〜21に係る水素添加誘導体Dに係るものは、ランダムPPに水素添加誘導体を30重量%配合したもの(試験番号20)から転写性が若干改善され、試験番号21で転写性が良好となった。
試験番号17〜19のものは離型性が悪く、射出成形が困難であった。
しかし、試験番号20〜21のものは離型性が良かった。
試験番号22及び23は、ピッチを15μmに設定したものであり、水素添加誘導体Aを配合しなかったものは転写性が不良であったが、水素添加誘導体Aを50重量%配合のものは転写性及び成形性が良好であった。
【実施例3】
【0034】
結晶ホモPP主剤の樹脂組成物への造核剤配合効果
本発明の実施例3として、高結晶ポリプロピレンのホモポリマーを主剤とした場合に、異なる配合量で造核剤を添加してなる樹脂組成物をペレット状に混練して調製し、該ペレット組成物から肉厚1mmのマイクロウェルアレイチップ射出成形品を作製し、各成形品の透明度評価としてのヘーズ値を測定した。
各成分の配合量は、ホモPP100重量部に対して、水素添加誘導体50重量部および金属石鹸0.3重量部の各配合量を固定したものに、造核剤を0〜1.0重量部に亘る範囲で配合した。
本実施例では、ホモPPとして射出成形用の三井住友ポリオレフィン株式会社製の三井住友ポリプロPPグレード,J−105F(CAS No.:9003−07−0)を用いた。
このホモPPは、物性がMFR8.0g/10min、密度0.91g/cm、引張降伏強さ410kg/cm、曲げ弾性率24300kg/cm、ロックウェル硬度116Rである。
また、本実施例で用いた造核剤は、大日精化工業株式会社製7B5697Nマスターバッチ(主剤のJ−105F90重量%に対してミリケナンドカンパニ社製ミラード3988を10重量%とからなるものを使用)でD−ソルビトールからなるものであり、金属石鹸は日本油脂社製MC−2でステアリン酸カルシウムからなるものを用いた。
本実施例で用いた水素添加誘導体は、株式会社クラレ製ハイブラー7311Sで水添ポリスチレン・ビニル−ポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体で、スチレン含有率12重量%のものである。
まず、それぞれの配合物を16mmセグメント式2軸押出機(河辺製作所製)により、スクリュー回転数250rpm、シリンダー温度200℃の条件で溶融混練し、混合物のペレット組成物を作製した。
このペレット組成物を、射出成形機(川口鉄工社製、KM180)により、シリンダー温度220℃で板状に成形した。
このとき、肉厚が1.0mmの成形品を得た。
各評価方法としては、まずヘーズ値は、直読ヘーズコンピュータ(スガ試験機社製)を用い、測定温度20℃にて、各板状の射出成形品についてそれぞれ測定した。
結果を図8の線図に示す。
図8の結果から明らかなように、造核剤の配合は主剤のホモPP100重量部に対して0.6重量部までの配合量であれば、肉厚1.0mmの成形品の場合も若干のヘーズ値の低下が見られるが、0.6重量部を超えた配合量とすると、逆にヘーズ値が増大していた。
従って、主に水素添加誘導体配合によるPP成形品へ透明性改善効果を阻害しないためには、主剤のホモPP100重量部に対して造核剤の配合は0.6重量部以下とするのが良い。
【実施例4】
【0035】
ランダムPP主剤の樹脂組成物への造核剤配合効果
本発明の実施例4として、ポリプロピレンのランダムコポリマーを主剤とした場合に、単なる配合量で造核剤を添加してなる樹脂組成物をペレット状に混練して調製し、該ペレット組成物から肉厚1.0mmのマイクロウェルアレイチップを作製し、各成形品の透明度評価としてのヘーズ値を測定した。
各成分の配合量は、ランダムPP100重量部に対して、水素添加誘導体50重量部および金属石鹸0.3重量部の各配合量を固定したものに、造核剤を0〜0.6重量部に亘る範囲で配合した。
本実施例では、ランダムコポリマーとして、出光石油化学株式会社製J−3021GRを用いた。
このランダムPPの物性は、MFR33g/10min、密度0.9g/cm、引張弾性率1000MPa、曲げ弾性率1000MPa、ロックウェル硬度76R、というものである。
本実施例で用いた各成分は、主剤のランダムPP以外はすべて実施例3で用いたものと同じ素材であり、ペレット組成物および射出成形品の作製も、ヘーズ値測定も、実施例3で用いた方法と同様に行った。ヘーズ値の測定結果は図9に示す。
図9の結果から明らかなように、肉厚1.0mmのマイクロウェルアレイチップの場合も造核剤の配合に伴ってヘーズ値の低下が見られ、ランダムPPを主剤とした場合には、造核剤の配合はマイクロウェルアレイチップへの透明性付与効果を有することが判った。
しかしながら、主剤のランダムPP100重量部に対して造核剤0.6重量部を配合量とした場合に、いずれの成形品においてもヘーズ値の上昇が見られ始めたことからランダムPPを主剤として樹脂組成物を構成する場合には、造核剤の配合は0.6重量部を上限とすることが望ましい。
【実施例5】
【0036】
マイクロウェルの位置検出プレート
実施例5は、マイクロウェルの位置検出プレートを示したものであり、75mm×25mm×1mmのガラス製プレート2の表面に、20.32mm×20.32mm×肉厚1mmで、中央に13.93×4.63mmのウェル領域3を有するマイクロウェルアレイチップ1の裏面を、シアノアクリレートで接着したものである。
図7に示すマイクロウェルアレイチップ1は、試験番号23のものであり、ランダムPPに水素添加誘導体を50重量%添加したものである。
ウェル領域の微細な凸凹パターン形状(ウェルとその間の隔壁とが縦横に規則的に配列した形状)は、ピッチ15μmで直径10μmのウェルを縦横30×30個配置したクラスターを、ウェル領域の長手方向に30個、短手方向に10個配置したものであり、ウェルの総数は約25万個である。
通常のポリプロピレン製射出成形品はシアノアクリレートその他の接着剤で接着しないが、試験番号23のチップは、水素添加誘導体(特にポリスチレン)を含んでいるから、接着剤でガラス製プレートに接着することができる。
マイクロウェルアレイチップのウェルにリンパ球等の細胞又は生体組織等をいれ、光学読取機器に図中の矢印に示す方向に移動させて、生体反応発現因子の位置を読み取る。
【実施例6】
【0037】
樹脂製ピペットチップ
図10に示す樹脂製ピペットチップ10は、図示を省略するが、キャピラリーホルダー等に装着し、生体物質、有機物、無機物を採取あるいは分注する際に使用される。
樹脂製ピペットチップは、ホルダーに装着する本体部11の先端が逆円錐形状の円錐部12になっている。
本体部11はパイプ形状になっていて、先端のノズル開口部13に連通する孔14を有している。
その断面図を図11に示し、先端部の拡大図を図12に示す。
ピペットチップの先端側は円錐部12を形成し、細孔14aとなっている。
細孔14aは、先端開口部に向けて徐々に小さくなっていて、先端開口部の直径D2は対象とする物質の大きさに合わせて選定する。
図10〜図12に示した実施例は、リンパ球を対象とした例で、本体部11の外径:3mm、全長L1:約15mm、円錐部12の長さL2:約3mm、孔14の直径D1:1mm、D2=10μm〜15μmレベル、D3=30μm〜35μmである。
本発明にて直接採取又は分注に使用する部分は、円錐部の細孔14aであり、この容量をピペットチップの容量とする。
容量は数10ピコリットル〜数10ナノリットルの範囲で設定できるが、本実施例では、容量約10ナノリットルである。
【0038】
次に、射出成形例について説明する。
図13に、型構造例を示し、斜線部分が、樹脂の充填部を示す。
祖形材20に対するランナー部22、スプルー部23を形成している。
樹脂製ピペットチップ10の祖形材20の形状をキャビティとする入れ子型32をキャビティ型31に取り付ける。
入れ子型32は、A−A線断面図を図14に示し、斜視図を図15に示し、その分解図を図16に示すように、32a、32b、32c、32dからなる4分割になっている。図15には分割線をsで示す。
4分割にすると、キャビティ部34の形状を放電加工する際に、円錐部12に相当する部分、特に、ノズル開口部側壁13aの形状を精度良く加工できる。
図13に示すように、可動型41側には細孔14aを形成する中子ピン42を出し入れ可能に設けられている。
なお、製品取り出し用の押しピン等の表示は省略してある。
このような金型を用いて、図17に例を示すような、祖形材20を得る。
祖形材においては、フランジ部21を形成して、ピペットチップ10の成型性を確保し、祖形材からフランジ部21を切り取り、製品化した。
【0039】
ポリプロピレン樹脂として、ホモPP(図18の表中、ホモポリプロピレン:三井住友ポリオレフィン樹脂株式会社製J−105F)と、ランダムPP(図18の表中、ランダムコポリマー:射出成形用の出光石油化学株式会社製のJ−3021GR、MFR33g/10min、密度0.9g/cm、引張弾性率1000MPa、曲げ弾性率1000MPa、ロックウエル硬度76R)の2種類を用い、水素添加誘導体(株式会社クラレ製ハイブラー7311S、水添ポリスチレン・ビニルーポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体で、スチレン含有率12重量%)とを各種配合割合を変えて、実施例として図10〜図12に示した仕様のピペットチップでフランジ付きを射出圧15MPaで連続射出成形した評価結果を図18の表に示す。
なお、射出圧は溶融樹脂射出中の圧力をゲージ測定した値である。従来は200MPa以上は必要であったが、今回の試験で射出圧が20〜30MPa以下のレベルで可能なことも確認できた。
表中、射出成形の評価は、「◎」:転写性及び成形性(離型性)に優れているレベル、「○」:金型の転写性がよく製品として全く問題がないレベル、「△」:製品形状に部分的に転写不良が発生しているレベル、「×」:製品として使用するには問題があるレベルをいう。
これにより、水素添加誘導体の配合割合は5%以上必要で、70%を越えると形状の安定性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂のほかに一定組成の水素添加誘導体を含んでいるから、通常のポリプロピレン系樹脂の射出条件相当以下で、スタンパの微細加工、あるいは金型形状を精密転写できるので、マイクロメカニカルスイッチング素子、マイクロ光学、マイクロ流体、マイクロ化学反応装置の機能素子、血液流動性測定装置の毛細管モデル、マイクロバイオリアクター、マイクロウェルアレイチップ、マイクロ注射器、マイクロ樹脂製ピペットチップ、その他の化学、生化学、生物工学、生物学の分野におけるマイクロ部品に適用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂と、一般式X−Yで表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体とを含有し、転写性に優れていることを特徴とする樹脂組成物。
(但し、X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロックである。)
【請求項2】
前記水素添加誘導体のポリマーブロックXがポリスチレンであり、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合、3,4結合及び/又は1,4結合のポリイソプレンであることを特徴とする請求の範囲1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素添加誘導体のポリマーブロックXがポリスチレンであり、ポリマーブロックYの水素添加前のものが1,2結合及び/又は1,4結合のポリブタジエンであることを特徴とする請求の範囲1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、ポリプロピレン系樹脂用造核剤を添加したことを特徴とする請求の範囲1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求の範囲1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて得られる、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μmの範囲に属するように、スタンパの微細加工が射出成形にて精密転写されたことを特徴とするマイクロ部品。
【請求項6】
請求項5記載のスタンパとしてシリコン製スタンパを用いたことを特徴とするマイクロ部品。
【請求項7】
請求の範囲1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて得られる、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μmの範囲に属するように、シリコン製スタンパの微細加工が射出成形にて精密転写されたことを特徴とする医療用マイクロ部品。
【請求項8】
請求の範囲1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて得られる、成形面に複数の凹部及び/又は凸部を有し、該凹部深さないし凸部突出長さが0.3〜200μmの範囲で、凹部開口幅ないし凸部突出幅又は凹部ないし凸部の接円直径が0.3〜100μmの範囲に属するように、シリコン製スタンパの微細加工が射出成形にて精密転写されたことを特徴とする、マイクロウェルアレイチップ。
【請求項9】
請求の範囲5〜8のいずれかに記載のマイクロ部品の裏面と透明プレートの表面とを接着剤で接着したことを特徴とするマイクロウェルの位置検出用プレート。
【請求項10】
請求の範囲1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて射出成形され、生体物質、有機物、無機物のいずれかを採取又は分注することができることを特徴とする樹脂製ピペットチップ。
【請求項11】
生体物質は、細胞、タンパク質、核酸、細胞組織又は菌体のいずれかであることを特徴とする請求の範囲10記載の樹脂製ピペットチップ。
【請求項12】
容量が数10ピコリットル〜数10ナノリットルのレベルであることを特徴とする請求の範囲10又は11に記載の樹脂製ピペットチップ。
【請求項13】
先端開口部の内径が、数μm〜数10μmレベルであることを特徴とする請求の範囲10〜12のいずれかに記載の樹脂製ピペットチップ。
【請求項14】
中央部にノズル穴を有し、先端部が錐形状のパイプ形状であることを特徴とする請求の範囲10〜13のいずれかに記載の樹脂製ピペットチップ。
【請求項15】
射出成形におけるキャビティ部が中心軸を分割線とする4分割金型であることを特徴とする請求の範囲10〜14のいずれかに記載の樹脂製ピペットチップ。

【国際公開番号】WO2005/059025
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516352(P2005−516352)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018877
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【特許番号】特許第3867126号(P3867126)
【特許公報発行日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000107066)株式会社リッチェル (77)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】