説明

転写材セット及び該転写材セットを用いた転写方法

【課題】 特定機能層を、耐久性を確保した上で被着体表面に密着させることを可能とする転写材セット、及び該転写材セットを用いた転写方法を提供する。
【解決手段】 第1基材フィルムの表面に接着層を積層してなる第1転写材と、第2基材フィルムの表面に特定機能を発揮するための機能性層を積層してなる第2転写材と、よりなり、前記第1基材フィルムの厚みが50μm以下であり、前記接着層の厚みが50μm以下であり、前記第2基材フィルムの厚みが12μm以上125μm以下であること、を特徴とする転写材セットとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の転写材よりなる転写材セット及びこの転写材セットを用いた転写方法に関する発明であって、具体的には、表面に微細な凹凸を有する面に転写するに際して、容易に転写層が剥離離脱しないように微細凹凸面に対して確実に嵌入しこれに密着することを容易に可能とする転写材セット及びこれを用いた転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に各種電子機器が発展するのに伴い、それらの電子機器から発せられる電磁波が身体に対し何らかの障害を引き起こすのではないか、と問題視される傾向が増えている。そこでその対応策として電磁波シールドフィルムが開発され、また提案されている。
【0003】
電磁波シールドフィルムの構成を簡単に説明すると、基材となるプラスチックフィルムの表面に、例えばメッキ等の手法により金属層をメッシュ状に積層した構成を有しているがここで金属層としては例えば銅などの導電性金属が広く用いられている。なお、メッシュ状とは、具体的には平面視で「田」の字状に金属層の筋が直交しており、また断面視で金属層による筋の部分が凸状となっている状態を指すものであり、また金属層による筋の間隔は略均等であるもの、を指すものであり、ここではそのような状態を想定して説明する。
【0004】
電磁波シールドフィルムには、例えば昨今普及しているプラズマテレビの前面板に貼着することで、そこから生じる有害な電磁波を防御する、といった利用がなされている。またその外にも、例えばガラスの透視性をコントロールして室内が外から見えにくくするようにするために用いたり、暑い日射や熱の流入を遮るために用いたりすることも可能であり、さらにはガラスに貼着することでガラスが破損したときの破片飛散を防止する、ということにも用いられたりする。
【0005】
このように、今や電磁波シールドフィルムはガラス面等の透明な面に対して貼着することで広く用いられる物品となっていると言っても過言ではない。
【0006】
しかしこのような利用をされるに伴い、電磁波シールドフィルムに特定な機能を付与することが望まれるようになってきた。
【0007】
例えば、電磁波シールドフィルムを窓に貼着することで、貼着後は効果的に電磁波を遮蔽できていたものの、電磁波シールドフィルムに傷が生じたり、また物品や人体などが接触することにより、電磁波を遮蔽する由来である金属層が剥離、脱落してしまい、時間が経過するにともない電磁波の遮蔽効果が低下する、という現象が生じる事がある。
【0008】
このような現象を防止又は抑制するために、必要に応じて電磁波シールドフィルムの表面にハードコート層を積層することが考えられるが、その為の手法として、ハードコート層を所望の箇所に転写できる転写材や転写箔を利用することが挙げられる。
【0009】
例えば特許文献1に記載されたハードコート転写箔では、剥離性基材シート/硬質ハードコート層/軟質ハードコート層、という構成となっているが、このようにすることでハードコート層を積層することを所望する樹脂成形品において成型状態が急な絞り込みの箇所においては硬質ハードコート層部分にクラックが生じるが、その下層は軟質ハードコート層が存在しており、これは急な絞り込みの箇所であってもクラックを生じない、換言すれば急な絞り込み形状に追随することが可能なので、結果としてハードコート層にクラックが生じていない、即ちハードコート性という特定の機能を確実に付与できる、とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−130199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしこのようなハードコート転写箔を前述の電磁波シールドフィルム表面に対し用いてハードコート層を転写しようとしても所望の通りには転写できず、問題である。この点に関し図2を参照しつつ説明をする。
【0012】
特許文献1に記載のハードコート層の最表面に、その厚みが25μmとなるように接着層を積層し、それを用いて電磁波シールドフィルム表面にハードコート層を転写することを考えてみる。
【0013】
電磁波シールドフィルム34表面にメッシュ状に設けられた金属層の筋は、具体的には製造メーカーにより、また目的に応じて種々の大きさが存在するが、ここでは側面視で高さが20μm、筋の平面視幅も同様に20μmであるものとする。
【0014】
電磁波シールドフィルム34表面の、メッシュ状金属層が設けられている側に対し接着層面33を接するようにハードコート転写箔30を貼着し、次いで基材フィルム31側から高圧力で圧力をかけると同時に220℃の熱を加える。そして最後に基材フィルム31を剥離して、機能性層32を接着層33を介して電磁波シールドフィルム34に転写、積層する熱転写作業を終了する。
【0015】
この作業を完了した後に、電磁波シールドフィルム表面にハードコート層が所望の通り貼着されているかどうかを観察すると、殆どの箇所で接着層がメッシュの間、即ち「田」の文字の空白部分、に所望の通りに嵌入していないことがわかった。つまり、接着層がメッシュ状金属層と、露出している基材フィルム表面部分と、双方に対し美麗に密着していない状態であることがわかった。そしてこの状態のままで実際にハードコート層を積層した電磁波シールドフィルムとして利用しようとしても、ハードコート層と電磁波シールドフィルムとの接着性を仲介する接着層が、電磁波シールドフィルムに対し密着していない以上、時間が経過するにともないハードコート層が剥離・脱落することは明白であり、即ちせっかくハードコート性という特定機能性を有する層を転写により積層しても、容易にこれが剥離・脱落することでその効果は継続しない、ということになってしまい、また事実そのようになってしまう。
【0016】
その理由として次のようなことが考えられる。
まず一般的に耐久性が要求される接着層を用いる場合、ガラス転移温度(Tg)の高い熱可塑性樹脂を使用するのが一般的である。熱可塑性樹脂による接着層を有効に利用するには、転写時に与える熱により一度溶融し、これが後に固化することでその効果を発現するものであるが、当然、Tgが高くなるに従い、熱転写時に要する熱量は増加する。しかし熱量が増加すると、基材フィルムのTgをも超えてしまう事態も生じることが考えられ、実際に接着層の樹脂のTgが基材フィルムのTgを超えてしまうと、熱転写を実行しようとしても基材フィルムが破壊されてしまい、実用に供することができなくなる。また、この場合の熱量を与えるという行為についても、実際には接着層に直接熱量を与えるのではなく、基材フィルムと、その表面に積層されているハードコート層を通じて与えられるものであり、その結果十分な熱量が転写層に届かないことが考えられる。
【0017】
そして十分な熱量が接着層に届かない状態で強引に熱転写を実行しても、本来であれば接着層が一度溶融し、溶融した接着層が「田」の文字の空白部分にしっかりと流れ込み、そしてその状態で固化することが望ましいものであるところ、十分な熱量が届かないため接着層の溶融も不十分であり、また不十分な状態で固化がなされるため、結果として接着層が十分にその効果を発揮できる状態には至らない、と考えられるのである。
【0018】
一方、接着層に用いる樹脂のTgを低いものを選択することも可能であるが、この場合、仮に上記同様の作業により接着層が密着した状態に至ったとしても、Tgが低いために所望する耐久性を得ることは困難である。即ちTgの低い樹脂を接着層として用いることは好ましくない、と言える。
【0019】
そして先に述べたようなハードコート層の電磁波シールドフィルムへの転写において接着層の望ましいTgは80℃以上であることが一般的であるが、この温度以上のTgを有する樹脂を接着層として用いると先に述べた追従性が不十分故に接着層が密着しない、という問題が生じ、またTgが80℃以下であると、耐久性に問題がある、という状態となってしまう。
【0020】
以上は、その表面がメッシュ状である電磁波シールドフィルムに対し転写をする、という観点からの説明であるが、それ以外にも、例えば電磁波シールドフィルム以外の何らかの機能性フィルムであって、表面がメッシュ状以外の形状、例えばその表面が一様に微細な凹凸を規則的に、又はランダムに設けてなる機能性フィルムの表面に対し何らかの特定機能層を転写法により積層しようとする場合、常に同様の問題が生じることが考えられるのであり、同様の場合において常に問題の解決が求められるところであった。
【0021】
そこで本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、Tgが80℃以上の樹脂を接着層として用いると同時に、被着体の表面におけるメッシュ部分や凹凸部分に対して十分に追従させることを可能とすることで、特定機能層の耐久性を確保した上で被着体表面に密着させることを可能とする転写材セット、及び該転写材セットを用いた転写方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、第1基材フィルムの表面に熱可塑性樹脂による接着層を積層してなる第1転写材と、第2基材フィルムの表面に特定機能を発揮するための機能性層を積層してなる第2転写材と、よりなり、前記第1基材フィルムの厚みが50μm以下であり、前記接着層の厚みが50μm以下であり、前記第2基材フィルムの厚みが12μm以上125μm以下であること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の転写材セットであって、前記接着層のガラス転移温度Tgが80℃以上であること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の転写材セットであって、前記接着層が、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、又はポリアミド樹脂のいずれかもしくは複数を混合したものであること、を特徴とする。
【0025】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の転写材セットであって、前記機能性層が、ハードコート性、反射防止性、防指紋性、防汚性、帯電防止性、防眩性、または耐候性のいずれかもしくは複数であること、を特徴とする。
【0026】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の転写材セットであって、平面視で略メッシュ状に金属を積層してなり、かつ前記メッシュ状金属層の側面視深さが1μm以上50μm以下である面が転写対象表面であること、を特徴とする。
【0027】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の転写材セットであって、表面に微細凹凸形状を有し、かつ前記微細凹凸形状の側面視深さが1μm以上50μm以下である面が転写対象表面であること、を特徴とする。
【0028】
本願発明の請求項7に記載の転写法に関する発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載された転写材セットを用いてなる転写法であって、特定機能を付与する転写対象表面に対し、前記第1転写材を用いて前記接着層を転写した後、前記転写層の表面に対し前記第2転写材を用いて前記機能性層を積層してなること、を特徴とする。
【0029】
本願発明の請求項8に記載の転写法に関する発明は、請求項7に記載の転写法であって、前記転写対象表面が、平面視で略メッシュ状に金属を積層してなり、かつ前記メッシュ状金属層の側面視深さが1μm以上50μm以下であること、を特徴とする。
【0030】
本願発明の請求項9に記載の転写法に関する発明は、請求項7に記載の転写法であって、前記転写対象表面に微細凹凸形状を有し、かつ前記微細凹凸形状の側面視深さが1μm以上50μm以下である面が転写対象表面であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、従来のハードコート転写箔においては、被着物の表面に略断面視で凹凸状の積層体がある場合にはハードコート層を被着物に密着させられなかったところ、本願発明に係る転写材セットであれば、二段階に分けて転写を行うこととしたので、まず最初に確実に接着層を密着、積層した後に、露出した接着層の表面に例えばハードコートや反射防止などの特定機能を付与するための機能性層を積層する、という構成とした。よって、従来の転写材では困難であったメッシュ状表面や微細凹凸表面を有する被着体表面に対し、本願発明に係る転写材セットであれば所望する特定機能層を最終的には確実に密着、積層させることが容易に可能となる。また本願発明に係る転写材セットを用いた転写方法を用いれば、所望する機能性層を所望する被着体表面に確実に、かつ耐久性を有した状態で積層させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施の形態に係る転写材セットを用いた転写工程を説明するための概念図である。
【図2】従来の転写材を用いた転写工程を説明するための概念図である。
【図3】実施例1を実施した後の密着状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2を実施した後の密着状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1を実施した後の密着状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例2を実施した後の密着状態を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0034】
(実施の形態1)
本願発明に係る転写材セットについて第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る転写材セットは2つの転写材を一組として使用することを想定しているものであり、以下の説明においてはそれぞれ第1転写材、第2転写材、と称する。
【0035】
第1転写材は第1基材フィルムの表面に接着層を積層してなり、第2転写材は第2基材フィルムの表面に特定機能を発揮するための機能性層を積層してる構成を有している。
【0036】
以下、第1転写材から順次説明をしていく。
第1転写材の基材フィルム(第1基材フィルム)として、これは転写材に用いられる従来公知の種類のものであってよく、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のような公知のプラスチックフィルムであって、かつ転写材の支持体として好適に従来より用いられているものであればよい。第1基材フィルムの厚みは50μm以下のものであることが好ましく、本実施の形態においては厚みが25μmのPETフィルムであるものとする。厚みが50μm以下であることが好ましい理由は後述する。
【0037】
第1基材フィルムの表面に積層されている接着層は、本実施の形態にあっては熱可塑性樹脂であることが望ましく、より具体的には、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、又はポリアミド樹脂といった樹脂のいずれかもしくは複数を混合したものであること、を利用することが好適である。そして本実施の形態においてはアクリル系樹脂を用いることとする。アクリル系樹脂による接着層の厚みは50μm以下であることが好ましい。
【0038】
また接着層のTgは80℃以上であることが好ましい。つまり最終的に転写工程が完了した後の転写層に対し高耐久性が求められる場合、接着層はある程度の硬質を有する必要があり、ある程度の硬質を呈するためには接着層のTgにある程度の高さが必要なものとなるからである。これらの材料が好ましいこと、厚み、及びTgに関しては後述する。接着層の積層方法についても特段制限するものではなく従来公知の一般的な方法であればよい。本実施の形態においてはウェットコーティングと称される手法であるものとする。
【0039】
次に第2転写材につき説明をする。
第2転写材の基材フィルム(第2基材フィルム)として、これも第1基材フィルム同様転写材に用いられる従来公知の種類のものであってよく、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のような公知のプラスチックフィルムであって、かつ転写材の支持体として好適に従来より用いられているものであればよい。好ましくは第2基材フィルムの厚みは12μm以上125μm以下のものであることが好ましく、本実施の形態においては厚みが50μmのPETフィルムであるものとする。厚みの範囲が上記の通りである理由は後述する。
【0040】
第2基材フィルムの表面に積層されてる機能性層とは、例えば耐擦傷性を付与するためのハードコート性や、外光反射を防止するための反射防止性を発現するための層であり、これも従来公知のものであればよい。例えばハードコート性を付与することを目的とするのであれば、機能性層としては活性エネルギー線硬化性組成物、例えば(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物であって、例えばジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びアルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、などが挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリレートは単独で用いてもまたは2種類以上混合して用いてもよい。
【0041】
機能性層の目的、例えば反射防止性や機能性を付与するのであれば、それらを付与できる従来公知の材料を用いればよい。当然、この機能性層とは単一のものである必要はなく、1層でハードコート性と反射防止性とを付与させることが可能な材料を用いれば良いし、又はハードコート性を呈するハードコート層と、反射防止性を呈する反射防止層と、をそれぞれ別途積層することとしても構わない。これらの層の積層方法については従来周知の手法であって構わないし、層の厚みについては機能性層が所望の機能を十分に発揮することが可能なだけの最低限の厚みを有していればよい。
【0042】
本実施の形態では、機能性層はハードコート性を付与する為の層であり(以下「ハードコート層」とする。)、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物により構成されるものとする。なおハードコート層の積層方法としては特に限定されないが例えば、流延法、ローラーコート法、バーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法、ダイレクトグラビア法、キスグラビアリバース法、スリットリバース法が挙げられる。厚みとしては1〜10μm、であるものとする。なお先に述べたように、本実施の形態に係る機能性層が呈する機能はハードコートに限定されるものではなく、例えば防指紋性、防汚性、帯電防止性、防眩性、耐候性などであっても構わないことを断っておく。
【0043】
なお、以上説明した第1転写材及び第2転写材において、第1基材フィルム及び第2基材フィルムは剥離性を有したものであるとよいが、場合によってはそれぞれの基材フィルムに接着層や機能性層を積層する前に剥離性を付与するための剥離層を設けてあっても構わないが、ここではこれ以上の詳述は省略する。
【0044】
本願発明においては、以上説明した第1転写材及び第2転写材からなる転写材セットを用いて機能性層を被着物表面に対し積層するのであるが、機能性層をハードコート層とし、また被着体を先に例示した電磁波シールドフィルムとして、積層方法につき図面を参照しつつ説明をする。
【0045】
以下の説明及び図1において、第1転写材10は、厚みが25μmのPETフィルムを第1基材フィルム1とし、その表面に、厚みが25μmであるアクリル樹脂による接着層2が積層されており、接着層2のTgは100℃であるものとする。第2転写材20は、厚みが50μmのPETフィルムを第2基材フィルム3とし、その表面に厚みが30μmの活性エネルギー線硬化性組成物によるハードコート層4が積層されているものとする。電磁波シールドフィルム5は、その表面にメッシュ状の金属層が設けられており、金属層の筋の平面視における幅及び側面視における凸状の高さは、いずれも20μmであるものとする。
【0046】
尚、以下の説明において転写対象となる平面にはメッシュ状金属層が設けられているものとしているが、本実施の形態にかかる転写材セットはメッシュ状金属層のみならず、その表面に微細凹凸が一面に規則的又はランダムに設けられている場合であっても同様に作用することを予め断っておく。
【0047】
まず最初に、電磁波シールドフィルム5の金属層積層面側に、第1転写材10の接着層2側を接してこれを配置する。次いで第1転写材10の第1基材フィルム1側から加熱すると同時に加圧する。即ち熱転写工程を行う。この際の加圧の度合いについては高圧であり、また加熱する温度は220℃とする。
【0048】
熱転写工程が終了すると、電磁波シールドフィルム5に貼着した第1転写材10の第1基材フィルム1のみを剥離する。このようにして電磁波シールドフィルム5のメッシュ状面に対し接着層2が嵌入した状態で積層される。
【0049】
この状態のまま、次に電磁波シールドフィルム5表面の接着層2に対し、第2転写材20のハードコート層4側を接してこれを配置する。次いで第2転写材20の第2基材フィルム3側から加熱すると同時に加圧する。即ち、再び熱転写工程を行う。この熱転写も先のものと同様であり、高熱高圧により実施されるものとする。
【0050】
熱転写工程が終了すると、電磁波シールドフィルム5表面の接着層2に貼着した状態の第2転写材20の第2基材フィルム3のみを剥離するのであるが、例えばこの第2基材フィルム3を全体の保護フィルムとしておき、実際に使用する直前になって初めて剥離する、という用い方をしても構わない。
【0051】
このようにして、最終的には電磁波シールドフィルム表面に接着層を介してハードコート層が積層された状態が完成するのである。
【0052】
以上の工程を踏まえて、さらに本実施の形態に係る転写材セットにつき説明をする。
本実施の形態において第1基材フィルムの厚みは50μm以下のものであることが好ましいとしたが、これは上述した熱転写工程を実行するにあたり、第1転写材に対し第1基材フィルム側から与える高熱による熱量が十分に接着層に届く必要があり、つまり第1基材フィルムが必要以上に厚いものであれば、第1基材フィルム側から高熱を与えてもそれが接着層に届く頃には接着層が必要とする熱量に至らないことが想定されるからである。ここで想定した事例では接着層のTgは100℃であり、つまり熱転写の加熱時において接着層に100℃の熱量が到達しなければならないのであるが、これが確実に到達するために第1基材フィルムは必要以上に厚いものであってはならないと言える。
【0053】
一方で、第1基材フィルムの厚みにかかわらず接着層に対し必要な熱量を与えるならば、さらに高温度により高熱を第1基材フィルム側から与えることになるが、そうすると今度は第1基材フィルムが高熱・高温度故に溶融等の破損が生じることもまた自然に想到するところである。
【0054】
つまり第1基材フィルムが高分子樹脂フィルムである以上、必要以上に高熱・高温度での熱転写工程を行うことが出来ないのは自明と言えることであり、一方それならば基材としてガラス板等を用いるのであれば、実際の転写工程における自由度が著しく失われるのもまた自明のことと言える。
【0055】
そして同様の理由により、第1基材フィルム表面に接着層以外の層、例えばハードコート層などの機能性層を積層することが好ましくない、といえるのである。これは先に述べた通り、仮に第1基材フィルムと接着層以外にハードコート層等の機能性層を積層した状態であれば、それがそのまま確実に接着層が被着物表面に嵌着するのであればよいが、接着層のTgが高いものであるが故に、一気に転写作業を行うことは出来ないのである。
【0056】
そして発明者が鋭意研究を重ねた結果、通常の熱転写を行う際の高圧高温度に耐えうるものであり、なおかつ接着層のTgが高いものであっても必要十分な熱量を伝播することが可能な第1基材フィルムの厚みとして50μmが上限であることを見いだしたものであり、故に本実施の形態では第1基材フィルムの厚みは50μm以下であることが好ましい、としているのである。
【0057】
ちなみに、これ以下の薄さのPETフィルムとして、25μmのものが広く流通することより、ここでの説明では第1基材フィルムの厚みを25μmとしているのであるが、かならずしもこの厚みに限定するものではないことを述べておく。
【0058】
また接着層の厚みについても、もはや先述したと同様、与えられた熱量を十分に消化してしっかり、一度溶融してメッシュ状面の中に嵌入・嵌着しなければならない、という目的を達するための好適な厚みが30μm以下であることを発明者が見いだしたものであり、また実際に流通する電磁波シールドフィルムにあってはメッシュを形成する金属層の側面視凸部の高さがだいたい30μm以下であることより、本実施の形態において接着層の厚みを30μm以下としているのである。当然、凸部の高さが30μmを超えるようであれば、接着層の機能を発揮するためにはかかる凸部全部が覆われなければならないので、これに応じて接着層の厚みを調整すればよい。ただし調整するに際して、確実に熱転写時にこれが溶融しなければならない点には十分配慮が必要であることは言うまでもない。
【0059】
このような理由により、本実施の形態においては第1転写材を用いて電磁波シールドフィルム表面に確実に即ち空隙を生じることなく接着層が接着されるのである。
【0060】
また第2転写材については、もはや接着層までが確実に積層された電磁波シールドフィルムに対し特定機能を付与するための機能性層の転写を行うだけでよいので、特段その厚みに厳しい制限を課する必要はないが、一般的にどのような機能性層であってもこれを積層する第2基材フィルムの厚みは、機能性層の積層時において第2基材フィルムが破損しないためには12μm以上の厚みが必要であり、また熱転写を行うに際して確実に熱が機能性層に届くための厚みの上限が125μmであるため、本実施の形態にあってはその厚みは12μm以上125μm以下であることが好ましいとしているのである。
【0061】
なお、機能性層については、その機能が十分に発揮される厚みを有していれば良く、また被着物との関係を考慮した厚みとすればよく、特段の制限を課するものではないことを断っておく。
【0062】
本実施の形態に係る転写材セットを用いて上記の転写方法を実行することにより、例えば電磁波シールドフィルムのように、その表面に微細な凸部を有したメッシュ状の表面に対しであっても、高硬度、即ちTgの高い樹脂による接着層を確実に嵌入・嵌着させ、即ち耐久性の高い、層間密着力を確実に長期間維持できる接着層を得る事が出来、またかかる接着層の上に別途転写材を用いてハードコートなどの所望する特定機能層を積層することで、最終的に一枚の転写材では困難な被着物表面に対してであっても、層間密着力を確保できた転写を実行することが可能となるのである。
【0063】
尚、メッシュ状以外の形状、即ち微細凹凸が設けられた平面に対しても同様に確実に転写を実行することが出来るのであるが、ここでは詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0064】
さらに本願発明を説明するために、以下のように転写材セット及び転写材を作成し、それぞれの転写後の状態について調べた。
【0065】
(実施例1)
第1転写材を次のように構成した。
PETフィルム(厚み25μm)/アクリル樹脂(厚み25μm)
第2転写材を次のように構成した。
PETフィルム(厚み50μm)/活性エネルギー線硬化性組成物(厚み5μm)
そしてこれら2枚の転写材からなる転写材セットを用いて、電磁波シールドフィルム表面にハードコート層を転写した。
【0066】
(実施例2)
第1転写材を次のように構成した。
PETフィルム(厚み25μm)/アクリル樹脂(厚み30μm)
第2転写材を次のように構成した。
PETフィルム(厚み50μm)/活性エネルギー線硬化性組成物層(厚み5μm)
そしてこれら2枚の転写材からなる転写材セットを用いて、電磁波シールドフィルム表面にハードコート層を転写した。
【0067】
(比較例1)
転写材を次のように構成した。
PETフィルム(厚み50μm)/活性エネルギー線硬化性組成物層(厚み5μm)/アクリル樹脂(厚み25μm)
この転写材を用いて、電磁波シールドフィルム表面にハードコート層を転写した。
【0068】
(比較例2)
転写材を次のように構成した。
PETフィルム(厚み50μm)/活性エネルギー線硬化性組成物層(厚み5μm)/アクリル樹脂(厚み30μm)
この転写材を用いて、電磁波シールドフィルム表面にハードコート層を転写した。
【0069】
ここで被着物として用いた電磁波シールドフィルムは、表面に銅線によるメッシュ状凸部が形成されており、該凸部の略高さは20μmであるものを用いた。
またここで行った転写はすべて同一条件の熱転写であり、加熱温度は260℃、圧力はきわめて高圧、であるものとした。
【0070】
転写後の状態を顕微鏡で観察した。その写真を図3〜図6に示す。
【0071】
実施例1及び実施例2による転写結果は、図3及び図4に見られるように、特に何の問題もなくメッシュ状の凹部に嵌入していることがわかる。
【0072】
一方、比較例1及び比較例2による転写結果は、図5及び図6に見られるように、メッシュ状の凹部の中央付近に泡状の空間が生じていることがわかる。そしてこの空間が層間密着力を低下させる原因となるのである。
【0073】
このように、実施例による転写工程後の転写物は密着性が良好であり、一方比較例による転写工程後の転写物は密着性が好適ではない、ということが明白にわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本願発明に係る転写材セットであれば、従来の転写材では確実に層間密着力を確保することができなかった表面に微細な凹凸を有する被着体に対してであっても、確実に所望する機能性層を転写することが出来るので、例えば電磁波シールドフィルム表面にハードコート層を転写する、等の行為に対し特に有用である。
【符号の説明】
【0075】
10 第1転写材
1 第1基材フィルム
2 接着層
20 第2転写材
3 第2基材フィルム
4 機能性層
5 電磁波シールドフィルム
30 従来の転写材
31 基材フィルム
32 機能性層
33 接着層
34 電磁波シールドフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材フィルムの表面に熱可塑性樹脂による接着層を積層してなる第1転写材と、
第2基材フィルムの表面に特定機能を発揮するための機能性層を積層してなる第2転写材と、
よりなり、
前記第1基材フィルムの厚みが50μm以下であり、
前記接着層の厚みが50μm以下であり、
前記第2基材フィルムの厚みが12μm以上125μm以下であること、
を特徴とする、転写材セット。
【請求項2】
請求項1に記載の転写材セットであって、
前記接着層のガラス転移温度Tgが80℃以上であること、
を特徴とする、転写材セット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の転写材セットであって、
前記接着層が、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、又はポリアミド樹脂のいずれかもしくは複数を混合したものであること、
を特徴とする、転写材セット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の転写材セットであって、
前記機能性層が、ハードコート性、反射防止性、防指紋性、防汚性、帯電防止性、防眩性、または耐候性のいずれかもしくは複数であること、
を特徴とする、転写材セット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の転写材セットであって、
平面視で略メッシュ状に金属を積層してなり、かつ前記メッシュ状金属層の側面視深さが1μm以上50μm以下である面が転写対象表面であること、
を特徴とする、転写材セット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の転写材セットであって、
表面に微細凹凸形状を有し、かつ前記微細凹凸形状の側面視深さが1μm以上50μm以下である面が転写対象表面であること、
を特徴とする、転写材セット。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載された転写材セットを用いてなる転写法であって、
特定機能を付与する転写対象表面に対し、
前記第1転写材を用いて前記接着層を転写した後、
前記転写層の表面に対し前記第2転写材を用いて前記機能性層を積層してなること、
を特徴とする、転写法。
【請求項8】
請求項7に記載の転写法であって、
前記転写対象表面が、平面視で略メッシュ状に金属を積層してなり、かつ前記メッシュ状金属層の側面視深さが1μm以上50μm以下であること、
を特徴とする、転写法。
【請求項9】
請求項7に記載の転写法であって、
前記転写対象表面に微細凹凸形状を有し、かつ前記微細凹凸形状の側面視深さが1μm以上50μm以下である面が転写対象表面であること、
を特徴とする、転写法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−6344(P2012−6344A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146607(P2010−146607)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】