説明

転写物、被転写体及び転写方法

【課題】天然繊維又は再生繊維等の天然素材を含む布に対しても分散染料が良好に転写され、しかも天然繊維又は再生繊維等の布の風合いを維持しつつ図柄の繊細性・堅牢性に優れた転写物(転写プリント製品)を提供し、また、かかる転写物の作製に適した被転写体及び転写方法を提供する。
【解決手段】転写物は、天然素材を含む布体1の表面に合成繊維を主に含む布2が接着又は融着され、該合成繊維を主に含む布2に分散染料3による画像が昇華転写してある。転写方法は、天然素材を含む布体1に合成繊維を主に含む布2を重ねて接着又は融着する工程と、分散染料3による画像を形成した転写シート4を前記接着又は融着した合成繊維を主に含む布2に重ねて加圧及び加熱し、該合成繊維を主に含む布2に転写シート4の分散染料3を昇華転写する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物繊維等の天然素材を含む布体に染料による画像が転写形成された転写物、該転写物の作製に用いる被転写体及び転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、布に染料で図柄を堅牢・精細に描く方法として、スクリーン法、ローラーロータリースクリーン法、グラビア法、転写法などが工業的に実施されている。しかし、これらの方法には、1)色数に限界がある、2)製版作成費が高価となる、3)資材面での損失・無駄が増加する、4)染料による水質汚染が発生する等の問題が指摘されている。
【0003】
これらの問題を解決する新たな染色法として、コンピュータで画像処理を行い、インクジェット方式で転写シート(転写紙)に染料画像を作成し、転写シート上の染料画像を加熱・加圧により布へ転写する無製版昇華転写プリントが開発され、工業的に実施されている。しかし、昇華転写プリントで使用される分散染料はプリントできる布の種類が限定され、主にポリエステル等の合繊(合成繊維)素材の布に限られる。例えば、絹100%の生地に分散染料を昇華転写した場合、水洗いにより色が滲んで消滅(色落ち)する。
【0004】
一方、綿、絹、レーヨン等の天然繊維・再生繊維等の天然素材を含む布に分散染料の画像を転写するために、天然繊維・再生繊維等の布の表面にワックス類とポリエステル樹脂等との混合物又はアクリル系の樹脂等を塗布等して下地層を形成し、その下地層に転写シートから染料画像を昇華転写する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−268682号公報
【特許文献2】特開2005−29900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載された昇華転写法による転写プリント物は、合成樹脂系の下地層によって天然繊維又は再生繊維等の布の優れた風合い(手触り、通気性)等が損なわれると共に、昇華した分散染料が下地層の表面に留まり、内部に浸透しないため、分散染料による画像(図柄)の繊細性及び堅牢性が劣るという問題がある。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、分散染料の昇華転写が不可能であった天然繊維又は再生繊維等の天然素材を含む布に対しても分散染料が良好に転写され、しかも天然繊維又は再生繊維等の布の風合いを維持しつつ図柄の繊細性・堅牢性に優れた転写物(転写プリント製品)を提供し、また、かかる転写物の作製に適した被転写体及び転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る転写物は、天然素材を含む布体に、染料による画像が転写形成された転写物であって、前記布体の表面に合成繊維を主に含む布が接着又は融着され、該合成繊維を主に含む布に分散染料による画像が昇華転写してあることを特徴とする。
本発明においては、転写された分散染料は、天然素材を含む布体の表面に接着又は融着されている布の内部の合成繊維に浸み込み、染料落ちしないため堅牢性に優れ、分散染料による画像の繊細性も維持される。また、天然素材を含む布体と合成繊維が主体の布との布同士を接着又は融着しているので、元の天然繊維又は再生繊維等の布の風合いを維持することが可能となる。
【0009】
本発明に係る被転写体は、天然素材を含む布体の表面に合成繊維を主に含む布が接着又は融着されていることを特徴とする。
本発明においては、天然素材を含む布体の表面に接着又は融着されている布の内部の合成繊維に分散染料を転写して浸み込ませて保持することができる。
【0010】
本発明に係る転写方法は、天然素材を含む布体に、染料による画像を形成した転写シートを重ねて該転写シートの染料を転写する転写方法であって、前記布体に合成繊維を主に含む布を重ねて接着又は融着する工程と、分散染料による画像を形成した転写シートを前記接着又は融着した合成繊維を主に含む布に重ねて加圧及び加熱し、該合成繊維を主に含む布に前記転写シートの分散染料を昇華転写する工程とを有することを特徴とする
【0011】
本発明においては、天然素材を含む布体に合成繊維を主に含む布を重ねて接着又は融着した後、分散染料による画像を形成した転写シートを前記接着又は融着した合成繊維を主に含む布に重ねて加圧及び加熱し、合成繊維に前記転写シートの分散染料を昇華転写する。その結果、転写された分散染料は、天然素材を含む布体の表面に接着又は融着されている布の内部の合成繊維に浸み込むので、染料落ちがなく堅牢性に優れ、画像の繊細性も維持され、また、布同士を接着又は融着しているので、元の天然繊維又は再生繊維等の布の風合いが維持された転写物を作製することができる。
【0012】
本発明に係る転写方法は、前記合成繊維は、ポリエステル系、アクリル系又はポリアミド系の繊維であることを特徴とする。
本発明においては、ポリエステル系、アクリル系又はポリアミド系の繊維は分散染料を昇華転写する合成繊維として特に優れている。
【0013】
本発明に係る転写方法は、前記天然素材を含む布体は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、もしくは、これら繊維の混紡繊維もしくは交繊繊維、又はこれら繊維と合成繊維との混紡繊維もしくは交繊繊維で構成された布体であることを特徴とする。
本発明においては、天然素材を含む布体として、天然素材のみを含む(天然素材100%の)天然繊維の他に、天然素材を化学的に処理して繊維化した再生繊維及び半合成繊維、天然繊維と再生繊維又は半合成繊維とを混紡した混紡繊維もしくは天然繊維と再生繊維又は半合成繊維との交繊繊維が使用でき、さらに、これら天然繊維、再生繊維又は半合成繊維と合成繊維とを混紡した混紡繊維、もしくは天然繊維、再生繊維又は半合成繊維と合成繊維との交繊繊維が使用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る転写物によれば、天然繊維又は再生繊維等の天然素材を含む布に対しても分散染料が良好に転写され、天然繊維又は再生繊維等の布の風合いを維持しつつ図柄の繊細性・堅牢性に優れた転写物(転写プリント製品)が提供される。
【0015】
本発明に係る被転写体及び転写方法によれば、本発明に係る転写物の作製に適した被転写体及び転写方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る転写プリント物の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る転写プリント方法を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る転写物、被転写体、及び転写方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る転写プリント物の構成を模式的に示す断面図、図2は本発明に係る転写プリント方法を模式的に示す断面図である。
【0018】
本発明に係る転写物は、天然素材を含む布体1の表面に合成繊維を主に含む布2が接着又は融着され、該合成繊維を主に含む布2に分散染料3による画像が昇華転写してある。布2に転写された分散染料3は布2の内部の合成繊維に浸み込んでいる。
【0019】
天然素材を含む布体1は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、もしくは、これら繊維の混紡繊維もしくは交繊繊維、又はこれら繊維と合成繊維との混紡繊維もしくは交繊繊維等で構成されている。
天然繊維には、綿、麻等の植物繊維と、絹、獣毛(例えば羊毛)等の動物繊維とがある。再生繊維には、セルロース系のレーヨン、精製セルロース繊維系のリヨセル等がある。レーヨンには、ポリノジック、ビスコース、キュプラレーヨン等の種類がある。半合成繊維には、セルロース系のアセテート、たんぱく質系のプロミックス等がある。
【0020】
布体1及び布2に含まれる合成繊維には、ポリエステル系、アクリル系又はポリアミド系の繊維等がある。ポリアミド系繊維の代表的な繊維はナイロン(ナイロンはデュポン社の登録商標)である。
【0021】
布2は、例えば、衣料製品の縫製加工時に表素材の裏地として使用される接着芯地が好適に使用できる。具体的には加工糸芯地がポリエステル100%で接着樹脂加工が施された接着芯地が好ましい。布体1の風合いを維持するために、布2の生地の厚さは、例えば50μm程度と極力薄いことが好ましい。尚、接着芯地には、大きく分けて、加工糸芯地と不織布芯地との2種類があるが、何れを使用してもよい。
【0022】
本発明に係る被転写体は、天然素材を含む布体1の表面に合成繊維を主に含む布2が接着又は融着されている構成である。即ち、上記転写物において、布2に分散染料3による画像が転写される前のものである。
【0023】
次に、本発明に係る転写方法は、天然素材を含む布体1に合成繊維を主に含む布2を重ねて接着又は融着する工程(工程1)と、分散染料3による画像を形成した転写シート4を前記接着又は融着した合成繊維を主に含む布2に重ねて加圧及び加熱し、該合成繊維を主に含む布2に転写シート4の分散染料3を昇華転写する工程(工程2)とを有する。図2の(A)が工程1を示し、(B)が工程2を示している。
【0024】
転写シート4は、ベース紙5上にインクジェット等により描いた図柄を表す分散染料3を保持するインク層6が形成された構造を有し、例えば厚さ:0.16〜0.8mmの油性分散インク使用紙、水性分散インク使用紙である。
【0025】
工程1及び工程2では、ローラー型プレス機、平型プレス機等が使用される。本実施の形態では、ローラー型プレス機を使用した。工程1では、布体1に布2を重ね、布2が高温に維持されたローラー7の外周に接するように布体1及び2に張力を加えながら案内ローラ8,9で案内し、各ローラー7,8,9が同期して回転することで、布体1に布2を接着又は融着する。同様に、工程2では、布体1に接着又は融着した布2にインク層6が接するように転写シート4を布体1及び2に重ね、転写シート4がローラー7の外周に接するように張力を加えながら案内ローラ8,9で案内し、各ローラー7,8,9が同期して回転することで、インク層6中の分散染料3を布2に転写する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
布体1は、綿100%のデニム生地である。
布2は、バイリーンクリエイト(株)製の接着芯地である。品番:MP−116、加工糸芯地:ポリエステル100%、糸番手:16デニール、接着樹脂:ミクロパウダーシステム、厚み(接着樹脂込み):0.134mm、規格:112cm幅×50m巻。特長は、極薄表素材対応芯地であり、薄い表生地に対して接着樹脂のシミ出しや樹脂光りの発生が少なく、透明感があり、ソフトな風合いである。
工程1では、株式会社ハシマ製のローラー型プレス機(品番:HSP−1600RS)を使用し、綿100%のデニム生地に上記接着芯地を重ね、加熱・加圧により接着した。接着条件:ローラー温度130℃、線圧力12N/m、ゲージ圧力0.3MPa、時間10秒(接着芯地の各部分がローラー7に接する時間)。接着後の引っ張り試験結果:幅1cm×長さ5cmにカットした試験片の長さ方向の一端部を剥がし、デンシロンという試験機にて、布体1と布2とを反対向きに引っ張り、引っ張り強度として600gが計測された。一般的な基準値400gをクリアし、良好な接着性である。
【0027】
工程2では、株式会社ハシマ製のローラー型プレス機(品番:HSP−1600RS)を使用し、綿100%のデニム生地に接着した接着芯地に分散染料3のインク層6を接着芯地側に向けて転写シート4を重ね、加熱・加圧により分散染料3を昇華転写した。転写条件:ローラー温度200℃、ゲージ圧力0.48MPa、転写時間:30秒(転写シート4の各部分がローラー7に接する時間)。
布体1の生地の風合いが維持され、水洗いしても色落ちなく、プリント(図柄)の繊細さ及び堅牢性も問題なく転写された。
【0028】
(実施例2)布体1を綿100%天竺編み生地に変更し、実施例1と同じ条件で実施した。
(実施例3)布体1をレーヨン100%天竺編み生地に変更し、実施例1と同じ条件で実施した。
(実施例4)布体1を絹100%生地に変更し、実施例1と同じ条件で実施した。
(実施例5)布体1を羊毛100%生地に変更し、実施例1と同じ条件で実施した。
上記実施例2−5においても、生地の風合いと、プリント(図柄)の繊細さ及び堅牢性とも問題なく転写された。
【0029】
上記の実施の形態では、合成繊維を主に含む布2に接着芯地を使用したが、接着芯地以外の薄い合成繊維の布を使用してもよい。この場合、合成繊維の布を溶融温度付近まで加熱し、布自体を溶融して布体1に融着することが可能である。また、布2は合成繊維100%ではなく、合成繊維に天然素材を一部(例えば5%)含む混紡繊維等を使用してもよい。
【0030】
以上の結果より、本発明を採用することで、従来から分散染料の昇華転写が困難とされてきた天然繊維等の天然素材を含む布に対して分散染料の昇華転写を可能とし、かつ、生地の風合い、堅牢性の低下もなく、鮮明・繊細・精密なプリントデザインの転写物(転写捺染物)が得られる。
【符号の説明】
【0031】
1 布体
2 布
3 分散染料
4 転写シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然素材を含む布体に、染料による画像が転写形成された転写物であって、
前記布体の表面に合成繊維を主に含む布が接着又は融着され、
該合成繊維を主に含む布に分散染料による画像が昇華転写してあることを特徴とする転写物。
【請求項2】
天然素材を含む布体の表面に合成繊維を主に含む布が接着又は融着されていることを特徴とする被転写体。
【請求項3】
天然素材を含む布体に、染料による画像を形成した転写シートを重ねて該転写シートの染料を転写する転写方法であって、
前記布体に合成繊維を主に含む布を重ねて接着又は融着する工程と、
分散染料による画像を形成した転写シートを前記接着又は融着した合成繊維を主に含む布に重ねて加圧及び加熱し、該合成繊維を主に含む布に前記転写シートの分散染料を昇華転写する工程とを有することを特徴とする転写方法。
【請求項4】
前記合成繊維は、ポリエステル系、アクリル系又はポリアミド系の繊維であることを特徴とする請求項3に記載の転写方法。
【請求項5】
前記天然素材を含む布体は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、もしくは、これら繊維の混紡繊維もしくは交繊繊維、又はこれら繊維と合成繊維との混紡繊維もしくは交繊繊維で構成された布体であることを特徴とする請求項3又は4に記載の転写方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−7130(P2013−7130A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139661(P2011−139661)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【特許番号】特許第4914526号(P4914526)
【特許公報発行日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【出願人】(507139616)株式会社 武菱 (1)
【復代理人】
【識別番号】100120651
【弁理士】
【氏名又は名称】大堀 民夫
【Fターム(参考)】