説明

転写用ポリエステルフィルム

【課題】優れた艶消し外観を成形品表面に付与できると共に、表面の光沢度均一性も良好な成形品が得られ、しかも転写用として良好な離型性をも兼備した転写用ポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】艶消し層と支持層とからなる転写用ポリエステルフィルムであって、該艶消し層は平均粒子径が1〜10μmの粒子を5〜20重量%と、融点が70〜140℃のワックスを0.5〜2.0重量%含有し、艶消し層の厚みは含有する粒子の平均粒子径より大きく、かつ、艶消し層に対する支持層の厚み比率が3以上である転写用ポリエステルフィルムにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写用ポリエステルフィルムに関するものである。さらに詳しくは、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等の艶消しシートの成形転写、射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド転写といった樹脂成形時に転写の行われる用途の転写用支持フィルムとして有用な転写用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂等の艶消しシートや、射出成形等による艶消し成形品を得るために用いられる転写用支持フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルムに粒子を添加することで表面に凹凸を形成して艶消しとしたものが用いられており、この転写用ポリエステルフィルムには、転写の後に成形体から剥離する必要があるためにコーティングで離型層を設けることが知られている。
例えば、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等のシート成形では、エマルジョンまたは溶液をポリエステルフィルム上にキャスティングし、固化または硬化の反応を行なった後に支持フィルムであるポリエステルフィルムから剥離する方法が知られている。この場合、ポリエステルフィルムとシート成形体との離型性が重く、剥離スピードの速い場合にはシート成形体が破れたりしてしまうために支持フィルム上の転写面に離型層が塗布されている(特許文献1、2)。
【0003】
また、射出成形と同時に転写をおこなうインモールド転写成形法では、成形転写後に支持フィルムであるポリエステルフィルムを、印刷層を含む成形体から剥離する工程があり、印刷を正確に転写する目的で適度な離型性が求められるために、ポリエステルフィルムに離型層が塗布されている(特許文献3)。
近年、艶消しシートや艶消し成形品には、益々低光沢感で、さらには場所による光沢感の均一性が求められるようになっている。しかしながら、従来知られているコーティング法により離型層が設けられた転写用フィルムでは、上記の要求を同時に満足させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−53750号公報
【特許文献2】特開平5−138668号公報
【特許文献3】特開2010−201858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた艶消し外観を成形品表面に付与できると共に、表面の光沢度均一性も良好な成形品が得られ、しかも転写用として良好な離型性をも兼備した転写用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等の艶消しシートの成形転写、射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド転写などの転写用途においては、従来の艶消し外観を有する転写用フィルムでは表面にコーティングで設けられた離型層により、離型層が厚い場合には転写後の成形品に低光沢感が得られず、逆に薄い場合には転写後の成形品の光沢感にばらつきが発生しやすくなることを究明し、さらに検討を重ねた結果本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、「艶消し層と支持層とからなる転写用ポリエステルフィルムであって、該艶消し層は平均粒子径が1〜10μmの粒子を5〜20重量%と、融点が70〜140℃のワックスを0.5〜2.0重量%含有し、艶消し層の厚みは含有する粒子の平均粒子径より大きく、かつ、艶消し層に対する支持層の厚み比率が3以上である転写用ポリエステルフィルム」により達成される。
【0008】
また本発明の転写用ポリエステルフィルムは、好ましい態様として下記要件の少なくとも1つを具備するものも包含するものである。
a) ワックスが、ポリエチレンワックスであること。
b) 艶消し層の光沢度が5〜30であること。
c) 艶消し層の厚みが2〜20μmであること。
d) フィルム総厚みが12〜100μmであること。
e) 艶消し層と支持層とが共押出し法によって設けられていること。
f) 支持層の艶消し層と接していない側の表面に帯電防止層が塗設されていること。
g) 艶消し層に用いる粒子は、TG−DTA装置により30℃から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温した際の300℃における重量減少率が0〜3%であること。
h) 艶消しシートの成形に用いられること。
i) インモールド転写に用いられること。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、優れた艶消し外観を呈すると共に、転写体と接する面には一切の塗布層を設けずに転写用として十分な離型性が付与されているため、かかるフィルムからなる支持フィルムを用いて転写加工を行なうことにより、優れた艶消し外観を呈すると共に、光沢度均一性も良好な樹脂成形品を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステルフィルム>
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、艶消し層と支持層からなる積層ポリエステルフィルムである。
【0011】
(ポリエステル)
艶消し層および支持層を構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸成分とジオール成分とから合成される結晶性の線状飽和ポリエステルであり、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどが例示される。また、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの全繰返し単位のモル数を基準として80モル%以上、好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であることをいう。かかるポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましく、さらにポリエチレンテレフタレートが力学的物性と経済性のバランスがよいので特に好ましい。なお、艶消し層と支持層を構成するポリエステルは、互いに異なっていても同一であってもよいが、界面接着性の観点から夫々のポリエステルの主たる繰返し単位(主たる成分)が同一であることが好ましい。
【0012】
かかるポリエステルの固有粘度(η)は、0.50〜0.70dl/g(35℃のo−クロロフェノール溶液で測定)の範囲であることが好ましい。固有粘度の下限値は、好ましくは0.55dl/gである。また上限値は、好ましくは0.65dl/gであり、さらに好ましくは0.60dl/gである。固有粘度が下限値に満たない場合には、フィルムに成形が必要な際に破れが発生し易くなる。他方、上限値を超える場合には、溶融粘度が高くなりすぎ、製膜工程での負荷が増大して生産性が低下する。
【0013】
(艶消し層)
本発明にかかる艶消し層は、該層表面の低光沢度を達成するために、平均粒子径が1〜10μm、好ましくは2〜6μmの粒子を、艶消し層の重量を基準として5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%の範囲で含有する必要がある。ここで、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名:S−2400)により、フィルム厚み方向の切断面における粒子を撮影(倍率:2000倍)し、粒子20個の粒子径の平均値で表わされる。
粒子の含有量が下限値に満たない場合には、成形品表面に十分な艶消し外観を付与することができなくなる。他方、粒子の含有量が上限値を超える場合には、著しく製膜性が低下し破れが発生しやすくなり、フィルムの製膜自体が困難となる。
また、平均粒子径が下限値に満たない場合には、光沢度を下げる効果が低下し、光沢度を下げるためにさらに粒子の添加量を増やすと十分な製膜性を得ることができなくなる。他方、平均粒子径が上限値を超える場合には、製膜時に破断を起こす起点となることがある。
【0014】
本発明においては、粒子の種類は特に限定されず、無機粒子、有機粒子いずれであってもよい。具体的には不定形シリカ(コロイドシリカ)、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、アルミナ、カーボンブラック、二酸化チタン、カオリン、合成ゼオライト、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリレート粒子などが例示される。これらの粒子の中で、シリカ、炭酸カルシウムおよび合成ゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。なお、2種以上の異なる粒子を併用してもよく、同じ種類で粒径が異なる粒子の混合物を用いてもよい。また、合成ゼオライトは吸着性、特に水分吸着性を低下させるために、pHが5以上の酸で粒子形状を崩さない程度の酸処理をしたものが好ましく、さらに300℃以上の温度で熱処理したものが好ましい。
【0015】
粒子の形状は特に規定するものではないが、不定形であると粒度分布が広くなり、凝集による粗大突起を引き起こしやすく、製膜時に破断の起点となる可能性がある。したがって粒子の形状は球状もしくは多面状であることが好ましい。
艶消し層中に含有させる上述の粒子は、TG−DTA装置により30℃〜500℃まで昇温速度10℃/分で昇温した際の300℃における重量減少率が0%以上3%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0%以上2.5%以下、特に好ましくは1.5%以上2.0%以下である。重量減少率が上限値を超える場合には、ポリエステルフィルムの製造工程や成形加工工程で発泡を引き起こしたりポリエステルの分子量を低下させたりしてフィルムの製膜性や加工性を低下させる場合があり、特に粒子を多量に含有させた場合にフィルムの製膜性や加工性を著しく低下させることがある。
【0016】
(ワックス)
本発明の艶消し層は、転写工程における離型性および耐熱性の観点から、融点が70〜140℃のワックスを0.5〜2.0重量%含有する必要がある。ワックスの融点が70℃未満の場合には耐熱性が不十分となる。一方、ワックスの性質との関係で融点の上限は制約される。
またワックス含有量が下限値に満たない場合には離型性が不十分となり、転写物との剥離が重くなったり転写後の成形体の光沢度がばらついたりする。一方上限値を超える場合には艶消し層が転写樹脂をはじいてフィルムとの接触面積が減り、転写性および成形体の光沢度均一性が悪くなる。
【0017】
好ましく用いられるワックスとしては、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、パームワックス、ロジン変性ワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス等の植物系ワックス、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウ、セラックワックス等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックスを挙げることができる。なかでも、耐熱性に優れ、かつ取り扱い易いことから、ポリエチレンワックスが好ましい。特に融点が120〜140℃のポリエチレンワックスが好ましい。融点がこの範囲にあるポリエチレンワックスを用いることにより、各種印刷工程や転写工程において熱が加えられても良好な離型性を発現する。
艶消し層にワックスを含有させる方法は特に限定されない。即ち、あらかじめポリエステルとワックスとを溶融混練して得たポリマーを用いる方法、製膜時にポリエステルとワックスとを溶融混合する方法等を使用できる。
【0018】
(艶消し層の厚み)
本発明における艶消し層の厚みは、少なくとも含有する粒子の平均粒子径より大きいことが必要であり、2〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることがさらに好ましい。厚みが平均粒子径以下になると、層厚みを超える粒子の割合が多くなって粒子の脱落が起こりやすくなる。なお、層厚みが20μmを超える場合は不経済である。
【0019】
(艶消し層の光沢度)
本発明の艶消し層は、その表面光沢度が5以上30以下であることが好ましい。ここで光沢度はJIS規格Z8741に準拠し、入射角、受光角ともに60°で測定した値で定義される。また、光沢度の測定にあたり、測定面と反対側のフィルム面を黒い油性マジックで塗ったフィルムサンプルが用いられる。表面光沢度がかかる範囲にあることにより、光沢度の低い艶消しの表面外観を成形品表面に付与することができる。
かかる光沢度の下限値は好ましくは10である。一方、上限値は好ましくは20であり、さらに好ましくは18である。光沢度が下限値に満たない場合には、過剰に粒子を含むことにより溶融粘度が下がって製膜性が低下しやすく、またかかる範囲まで光沢度を低くすることは技術的な困難を伴う。一方、光沢度が上限値を超える場合には、良好な艶消し表面外観を成形品表面に転写することが困難になる場合がある。
【0020】
(支持層)
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、前述の艶消し層に隣接して支持層を有する。かかる支持層を有することにより、艶消し層に大量の粒子を含有させても十分な製膜性が得られる。艶消し層のみの単層フィルムでは、製膜性が低下して製膜中に破断が起きやすくなる。
かかる支持層は粒子を含有してもよいが、その含有量は支持層の重量を基準として2.9重量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.4重量%以下であり、特に好ましくは1.8重量%以下である。支持層中の粒子含有量が2.9重量%を超える場合には、製膜性、帯電防止層が必要な場合の表面抵抗特性が低下することがある。
【0021】
支持層に含有される粒子の種類は、通常フィルムに添加される粒子であれば特に限定されない。無機粒子または有機粒子が例示され、具体的には不定形シリカ(コロイドシリカ)、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、アルミナ、カーボンブラック、二酸化チタン、カオリン、合成ゼオライト、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリレート粒子などが挙げられる。これらの粒子のうち、2種以上の異なる粒子を含有させてもよく、また同じ種類で粒径が異なる粒子の混合物を用いてもよい。
支持層には、本発明の目的を損なわない範囲であればポリエステル以外の他の樹脂、着色剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤等を必要に応じて含有させることもできる。
【0022】
(艶消し層と支持層の厚み比率)
艶消し層の厚みに対する支持層の厚みの比率(支持層の厚み/艶消し層の厚み)は、3以上である必要があり、4以上であることが好ましい。厚み比率が3未満の場合には、フィルム全厚みに占める艶消し層の割合が大きくなりすぎ、延伸時に破断するなどの製膜性に問題が発生しやすくなる。上限値は特に限定されないが、大きくなりすぎると支持層が厚すぎて不経済になるので、10以下、さらに6以下、特に5以下とすることが好ましい。
【0023】
(フィルム総厚み)
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、転写用フィルムとして使用される厚みを有していれば良く、好ましくは12〜100μm、さらに好ましくは25〜75μmである。厚みが12μmを下回ると艶消し層の厚みが小さくなり、優れた艶消し外観を呈すると共に光沢度均一性も良好な樹脂成形品を得ることが難しくなる場合がある。100μmを超えると、不経済である。
【0024】
(帯電防止層)
本発明の転写用ポリエステルフィルムには、インモールド転写等でフィルム上に印刷を施して用いる場合には、支持層の艶消し層と接していない側の表面に帯電防止層を設けることが好ましく、特にインラインコーティング法により塗設されるのが好ましい。帯電防止層の表面抵抗は1×1011Ω/□以下であることが好ましい。かかる帯電防止層を有することにより、インモールド用転写等におけるフィルム取り扱いの際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着が抑制される。
ここで表面抵抗とは、固有抵抗測定器を用いて測定温度23℃、測定湿度60%の条件で印加電圧100Vで1分後の表面固有抵抗値(Ω/□)を意味する。
【0025】
帯電防止層面の表面抵抗は1×1010Ω/□以下であることがさらに好ましい。帯電防止層面の表面抵抗が上限値を超える場合、インモールド転写等において印刷を施したポリエステルフィルム(以下、インモールド転写箔と称することがある)の取り扱いの際に帯電によるインモールド転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着が発生し、生産性の低下につながる。
かかる帯電防止性能を得るためには、帯電防止層中に帯電防止剤を所定量用いること(例えば特開2010−189465号公報記載の帯電防止層)に加え、帯電防止層を設ける支持層表面に一定の平坦性が求められ、支持層中の粒子含有量を2.9重量%以下とすることによって達成される。
【0026】
(その他のフィルム特性)
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、dF10/dSが0.10Kg/mm/伸度%以上、0.30Kg/mm/伸度%以下であることが好ましく、0.15Kg/mm/伸度%以上、0.25Kg/mm/伸度%以下であることがさらに好ましい。ここでdF10/dSとは、フィルムの引張試験における10%伸長時の曲線勾配のことである。このdF10/dSが上限値を超えるとフィルムに成形が必要な場合における成形時の応力が高くなり、破れなどのトラブルの原因となることがある。他方、このdF10/dSが下限値に満たないとフィルムの表面性や耐熱性、寸法安定性が低下することがある。
かかるdF10/dS特性は、後記するフィルム製造方法に記載の延伸温度、延伸倍率および熱固定処理により達成することができる。
【0027】
(フィルム製造方法)
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、例えば次の方法で製造することができる。すなわち艶消し層および支持層を共押出法により積層押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて非晶未延伸フィルムとし、次いで縦方向(以下、機械軸方向、連続製膜方向、長手方向またはMD方向と称することがある)および横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)に延伸する。
縦方向の延伸は、例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で縦方向に2.0〜4.0倍、好ましくは2.5〜3.5倍延伸する。横方向の延伸は、例えば温度60〜140℃、好ましくは90〜135℃で2.0〜4.0倍、好ましくは3.0〜4.0倍延伸する。なお、二軸延伸後の面積倍率は13以下であることが好ましい。また、一方向の延伸は2段以上の多段で行なう方法を用いることもできるが、最終的な延伸倍率は前述の範囲内にあることが好ましい。
【0028】
なお、フィルムの延伸後には熱固定処理を行なうことが好ましい。熱固定処理は、最終延伸温度より高く融点以下の温度範囲で1〜30秒間行なうことが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートフィルムでは150〜250℃の温度、2〜30秒の時間の範囲で選択して熱固定することが好ましい。その際、20%以内の制限収縮もしくは伸長、または定長下で行ない、また2段以上で行なってもよい。
【実施例】
【0029】
実施例をもって、本発明をさらに説明する。なお、実施例中の物性や特性は、下記の方法にて測定または評価した。
【0030】
1.ポリエステルフィルムの艶消し性(光沢度)
JIS規格(Z8741)に準拠し、日本電色工業(株)製の光沢度メーター「VGS−SENSOR」を用いて光沢度を測定した。光沢度の測定にあたり、測定面と反対側のフィルム面を黒い油性マジックで塗ったフィルムサンプルを用いた。入射角、受光角ともに60°にてN=5づつ測定し、その平均値を用いた。さらに以下の基準で艶消し性を判断した。
○:5以上20以下 ・・・艶消し性極めて良好
△:20を超え30以下 ・・・艶消し性良好
×:30を超える ・・・艶消し性不良
【0031】
2.平均粒子径
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名:S−2400)により、フィルム厚み方向の切断面における粒子を撮影(倍率:2000倍)し、得られた写真図から粒子を無作為に20個選択し、粒子径を測定した。粒子径のすべての測定結果(n=20)の平均値を求めて、平均粒子径とした。
【0032】
3.粒子の含有量
ポリエステルは溶解し粒子は溶解させない溶媒を選択し、測定する層をナイフで削り出したものを溶解処理した後、粒子をポリエステル溶液から遠心分離し、粒子の全体重量に対する比率(重量%)をもって粒子の含有量とする。
【0033】
4.フィルムの各層厚み
サンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋した。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧100kvにて観察撮影し、写真から各層の厚みを10点ずつ測定し、それぞれの層について平均厚みを求めた。艶消し層厚みを測定する箇所は、断面画像にて厚み方向に粒子が1つ以上存在する位置を採用し、凹凸の山頂部分から艶消し層と支持層との界面までの長さを10箇所測定した。
【0034】
5.艶消し層に含まれる粒子の加熱後の重量減少
TG−DTA装置(セイコーインスツルメント製、SSC5200)を用い、30℃〜500℃まで昇温速度10℃/分で昇温した際の300℃における粒子の重量減少率(%)より求めた。
【0035】
6.粒子形状
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名:S−2400)により撮影(倍率5000倍)して得た写真図をもとに粒子形状を確認した。かかる測定倍率で粒子形状の確認が難しい場合は20000倍まで測定倍率を上げて確認した。
【0036】
7.固有粘度
固有粘度(単位:dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0037】
8.フィルム製膜性
○:破断なくフィルム製膜ができる
×:破断により安定したフィルム製膜ができない
【0038】
9.帯電防止性(表面抵抗)
サンプルフィルムの帯電防止層表面の表面固有抵抗を、タケダ理研社製・固有抵抗測定器を使用し、測定温度23℃、測定湿度60%の条件で、印加電圧100Vで1分後の表面固有抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0039】
10.成形シートの艶消し性(光沢度)
フィルムの艶消し層表面側に塩ビエマルジョン(日信化学工業(株)製ビニブラン270)を塗工し、120℃で4分乾燥の後、200℃で1分間熱処理をおこなった後に剥離し、塩ビ成形シートを得た。得られた塩ビ成形シートの光沢度を前記(1.)と同様の方法にて測定をおこなった。また、測定面と反対側の面を黒い油性マジックで塗った成形シートサンプルを用いた。
○:5以上20以下 ・・・艶消し性極めて良好
△:20を超え30以下 ・・・艶消し性良好
×:30を超える ・・・艶消し性不良
【0040】
11.光沢度均一性
(10.)にて測定した標準偏差を平均値で除した値を用いて以下の基準でおこなった。
○:0.00以上0.05以下 ・・・均一性極めて良好
△:0.05を超え0.10以下 ・・・均一性良好
×:0.10を超える ・・・均一性不良
【0041】
12.塩ビ成形シートの剥離性
上記(10.)において、乾燥熱処理後にフィルムを剥離する際の剥離性について以下の基準で評価した。
○:問題なく軽い力で剥離できる
△:引っかかりがあるが剥離できる
×:成形シートを変形させないと剥離ができない、または剥離ができない
【0042】
[実施例1〜5]
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.63dl/g)に、艶消し層用には平均粒子径6.0μmの真球状シリカ(300℃における重量減少率2.0%)および融点が130℃のポリエチレンワックスを表に記載の含有量となるよう添加し、支持層用には上記と同じ真球状シリカを2.0重量%添加し、それぞれを280℃に加熱された押出し機に供給押出し、艶消し層/支持層(吐出量4:21)となるような2層フィードブロック装置を用いて合流させ、その積層状態を維持したままダイスよりシートを20℃に維持した回転冷却ドラム上に溶融押出して未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを110℃で縦方向に3.4倍延伸し、25℃に急冷の後、引き続いて105℃で予熱し、140℃で横方向に3.5倍に延伸し、更に230℃で熱固定して2軸延伸ポリエステルフィルム(厚さ50μm)を得た。艶消し層の厚みは8μmであった。
【0043】
[実施例6]
艶消し層に添加する粒子を平均粒子径が1.0μmの真球状シリカ(300℃における重量減少率1.9%)とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0044】
[実施例7]
艶消し層に添加する粒子を平均粒子径が10.0μmの真球状シリカ(300℃における重量減少率2.3%)とし、さらに艶消し層/支持層の吐出量を1:4に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0045】
[実施例8]
艶消し層/支持層の吐出量を6:19に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0046】
[実施例9]
艶消し層に添加するワックスを融点が80℃のカルナウバワックスに変更する以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0047】
[実施例10]
艶消し層に添加する粒子を平均粒子径が6.0μmの真球状合成ゼオライト(300℃における重量減少率1.8%)に変更する以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0048】
[実施例11]
実施例1の方法で縦方向に延伸した後のフィルムについて、艶消し層と接していない側の支持層表面に以下の組成の帯電防止層(4重量%塗布液)をロールコーターで塗布した以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0049】
(帯電防止層の組成)
・フェニル基含有シリコーン(東レ・ダウコーニング社製 商品名「SM8627EX」) 25重量%
・式(I)に示す構造が65モル%/メチルアクリレート20モル%/N−メチロールアクリルアミド15モル%からなる共重合体 55重量%
【化1】

(式(I)中、R、RはそれぞれHであり、Rは炭素数が3のアルキレン基であり、R、Rはそれぞれ炭素数が1の飽和炭化水素基であり、Rは炭素数が3のヒドロキシアルキレン基であり、Yはメチルスルホネートイオンである。)
・オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製 商品名「エポクロスWS−700」) 10重量%
・ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名「ナロアクティーN−70」) 10重量%
【0050】
各実施例で得られたフィルムの評価結果を表にまとめて示す。いずれのフィルムを用いても、光沢度均一性に優れると共に、優れた艶消し外観を呈する成形品が得られ、しかも成形品からフィルムを剥離する際の離型性も良好であり、艶消し外観を呈する樹脂成形品を得るために用いられる転写用支持フィルムとして有用であった。
【0051】
[比較例1〜4]
艶消し層に添加する粒子の量およびワックスの量を表に記載の量とする以外は実施例1と同様にフィルムを製膜した。評価結果を表にあわせて示す。比較例1のフィルムは塩ビをはじいてしまい、得られる塩ビ成形シートの光沢度均一性が悪かった。比較例2のフィルムは剥離性が悪かった。比較例3のフィルムは製膜性が悪く延伸時に破断が多発した。比較例4のフィルムは艶消し性が悪かった(光沢度が高かった)。
【0052】
[比較例5]
艶消し層/支持層の吐出量を3:2に変更した以外は実施例1同様にフィルムを製膜したが、延伸時の破断によりフィルムを採取することができなかった。
【0053】
[比較例6]
艶消し層/支持層の吐出量を3:47に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。評価結果を表に示す。このフィルムは粒子が容易に脱落するため、表に示すとおり塩ビ成形シートの光沢度均一性が悪かった。
【0054】
[比較例7]
艶消し層に添加する粒子を平均粒子径が12.0μmの真球状シリカに変更した以外は実施例1同様にフィルムを製膜したが、延伸時の破断によりフィルムを採取することができなかった。
【0055】
[比較例8]
艶消し層にワックスを添加しない以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た後に、オフラインにて特開平7−53750号公報の実施例1に記載の方法でテトラアルコキシシランの加水分解物を塗布した。得られた塗布フィルムの評価結果を表に示す。この塗布フィルムは部分的に塗布層がはじかれているため、表に示すとおり剥離することはできたが、部分的なはじきによって得られた塩ビシートの光沢度均一性が悪かった。
【0056】
[比較例9]
オフラインで塗布するテトラアルコキシシラン溶液の固形分濃度を1.5%から4.0%に変更した以外は比較例8と同様にして塗布フィルムを得た。このフィルムは表に示すとおり艶消し性が悪かった(光沢度が高かった)。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の転写用ポリエステルフィルムは、優れた艶消し外観を呈すると共に、転写用として十分な離型性を有しているため、かかるフィルムを支持体として塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等の艶消しシートの成形転写、インモールド転写等の成形加工を行なうことにより、優れた艶消し外観を呈すると共に、光沢度均一性も良好な樹脂成形品を高い生産性で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
艶消し層と支持層とからなる転写用ポリエステルフィルムであって、該艶消し層は平均粒子径が1〜10μmの粒子を5〜20重量%と、融点が70〜140℃のワックスを0.5〜2.0重量%含有し、艶消し層の厚みは含有する粒子の平均粒子径より大きく、かつ、艶消し層に対する支持層の厚み比率が3以上である転写用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ワックスが、ポリエチレンワックスである請求項1に記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
艶消し層の光沢度が5〜30である請求項1または2に記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
艶消し層の厚みが2〜20μmである請求項1〜3のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルム総厚みが12〜100μmである請求項1〜4のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
艶消し層と支持層とが共押出し法によって設けられた請求項1〜5のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
支持層の艶消し層と接していない側の表面に帯電防止層が塗設されてなる請求項1〜6のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
艶消し層に用いる粒子は、TG−DTA装置により30℃から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温した際の300℃における重量減少率が0%以上3%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
艶消しシートの成形に用いられる請求項1〜8のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
インモールド転写に用いられる請求項1〜8のいずれかに記載の転写用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2013−56438(P2013−56438A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195178(P2011−195178)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】