説明

転写用基板、転写方法、および有機電界発光素子の製造方法

【課題】転写用基板側の転写層を、不純物を混入させることなく被転写基板側に熱転写することが可能な転写用基板を提供する。
【解決手段】支持基板11と、支持基板11上に形成された光熱変換層12と、光熱変換層12上に形成された有機材料で構成された転写層14とを備えた転写用基板1において、光熱変換層12と転写層14との間に、光熱変換層12を構成する材料の拡散を防止する拡散防止層13を設けた。拡散防止層13はシリコンの窒化物またはシリコンの酸化物からなる。光熱変換層12は金属材料を用いて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写用基板、転写方法、および有機電界発光素子の製造方法に関し、特には有機材料層のパターン形成に好適に用いられる転写用基板、およびこの転写基板を用いた転写方法および有機電界発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)を利用した有機電界発光素子は、下部電極と上部電極との間に、正孔輸送層や発光層を積層させた有機層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。
【0003】
このような有機電界発光素子を用いたフルカラーの表示装置は、R(赤)、G(緑)、B(青)の各色の有機電界発光素子を基板上に配列形成してなる。このような表示装置の製造においては、少なくとも各色に発光する有機発光材料からなる発光層を、発光素子毎にパターン形成する必要がある。発光層のパターン形成は、例えばシートに開口パターンを設けてなるマスクを介して発光材料を蒸着または塗布するシャドーマスキング法、さらにはインクジェット法によって行われている。
【0004】
ところが、シャドーマスキング法によるパターン形成では、マスクに形成する開口パターンのさらなる微細化加工が困難であること、およびマスクの撓みや延びによって発光素子領域への位置精度の高いパターン形成が困難であること等から、さらなる有機電界発光素子の微細化および高集積化が困難となっている。また、開口パターンが形成されたマスクの接触により、先に形成された有機層を主体とした機能層に破壊が生じ易く、製造歩留まりを低下させる要因になっている。
【0005】
また、インクジェット法によるパターン形成は、そのパターニング精度の限界から、発光素子の微細化および高集積化、および基板の大型化が困難となっている。
【0006】
そこで、有機材料で構成された発光層やその他の機能層の新たなパターン形成方法として、エネルギー源(熱源)を用いた転写方法(すなわち熱転写法)が提案されている。熱転写法を用いた表示装置の製造は、例えば次のように行う。先ず、表示装置の基板(以下、装置基板と称する)上に下部電極を形成しておく。一方、別の支持基板上に、光熱変換を行うための光吸収層を介して、発光層(転写層)を成膜した構成の転写用基板を用意する。光吸収層としては、例えば色素やカーボンのような顔料、さらにはニッケル、チタンのような金属が用いられる。そして、発光層と下部電極とを対向させる状態で、装置基板と転写用基板とを配置し、転写用基板側からレーザ光を照射することにより、装置基板の下部電極上に発光層を熱転写させる。この際、レーザ光をスポット照射しながら走査することにより、下部電極上の所定領域のみに発光層が熱転写される(以上下記特許文献1参照)。
【0007】
また、熱転写法においては、工程中や工程間に、酸素や水分の付着汚染による発光層の消光を防止することを目的として、発光層の上部に性能向上層を設けた構成が提案されている。性能向上層は、アルカリ金属等の金属材料や有機化学還元剤を含み、熱蒸発法、電子ビーム蒸発法などにより、発光層の上部に形成される(下記特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2002−110350号公報(0007,0081段落参照)
【特許文献2】特開2004−247309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の転写用基板を用いた転写方法では、熱転写の際、光熱変換用の光吸収層の少なくとも一部が転写層に混入してしまうことが分かった。このように転写層中に光吸収層が混入してしまうことは、発光効率や輝度寿命の低下に繋がると考えられる。これは、熱転写法によって形成された発光層の上部に、性能向上層を設けた場合であっても同様である。
【0010】
そこで本発明は、転写用基板側に形成した転写層を、不純物を混入させることなく被転写基板側に熱転写することが可能な転写用基板を提供すること、さらには不純物の混入なく転写層を被転写基板側に熱転写可能な転写方法、および熱転写によって不純物の混入のない発光層を形成可能でこれにより発光効率および輝度寿命を高く維持できる有機電界発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するための本発明の転写用基板は、支持基板上に、光熱変換層、および有機材料からなる転写層がこの順に形成されており、さらには光熱変換層と転写層との間に、当該光熱変換層を構成する材料の拡散を防止する拡散防止層が設けられていることを特徴としている。
ここで、材料の拡散とは、材料の少なくとも一部が、当初の領域を越えて存在することを意味し、材料が広がった範囲や広がった材料の量は問わない。
【0012】
このような構成の転写用基板では、光熱変換層と転写層との間に、光熱変換層を構成する材料の拡散を防止する拡散防止層を設けたことにより、光熱変換層から転写層側への材料の拡散が防止される。
【0013】
また本発明の転写方法は、上述した転写用基板を用いた転写方法であり、被転写基板に対して転写層を向けた状態で転写用基板を対向配置し、転写用基板における支持基板側から光を照射することにより、光熱変換層を構成する材料の転写層側への拡散を防止しつつ、光熱変換層で光を熱変換することにより、転写層を被転写基板側に熱転写することを特徴とする。
【0014】
さらに本発明の有機電界発光素子の製造方法は、基板上に下部電極をパターン形成した後、前記下部電極上に少なくとも発光層を含む有機層を成膜し、次に有機層を介して前記下部電極上に積層する状態で上部電極を形成する有機電界発光素子の製造方法において、下部電極上に発光層を形成するに際して、上述した転写方法を行うことを特徴としている。この場合、転写用基板の転写層を、発光材料を含む有機材料で構成されたものとする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、光熱変換層から転写層側への材料の拡散を拡散防止層によって防止できるため、不純物を混入させることなく転写層を被転写基板側に熱転写することが可能になる。これにより、有機電界発光素子の製造においては、この熱転写によって不純物の混入のない発光層を形成可能となり、発光効率および輝度寿命が高く維持された有機電界発光素子を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の各実施形態においては、基板上に赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の有機電界発光素子を配列してなるフルカラー表示の表示装置を製造する場合に用いる転写用基板と、この転写用基板を用いた転写方法を含む表示装置の製造方法を説明する。
【0017】
<転写用基板>
図1は、実施形態の転写用基板1の構成を説明するための断面構成図である。この図に示す転写用基板1は、例えば有機電界発光素子の発光層を形成するためのものであり、支持基板11上に、光熱変換層12、拡散防止層13、および転写層14をこの順に形成してなる。
【0018】
このうち支持基板11は、この転写用基板1を用いて行う転写において照射される所定波長の光hrを透過する材料からなる。例えば、この光hrとして、固体レーザ光原からの波長800nm程度のレーザ光を用いる場合には、ガラス基板を支持基板11として用いて良い。
【0019】
光熱変換層12は、上記光hrを熱に変換する光熱変換効率が高く、かつ融点が高い材料を用いて構成される。例えば、光hrとして、先の波長800nm程度のレーザ光を用いる場合には、クロム(Cr)やモリブデン(Mo)等の低反射率な高融点金属からなる光熱変換層12が好ましく用いられる。またこの光熱変換層12は、必要十分な光熱変換効率が得られるような膜厚に調整されていることとし、例えばモリブデン(Mo)膜を光熱変換層12として構成する場合、膜厚200nm程度で用いられることとする。このような光熱変換層12は、例えばスパッタ成膜法によって形成される。尚、光熱変換層12としては、上述した金属材料に限定されることはなく、光吸収材料として顔料を含有する膜やカーボンからなる膜であっても良い。
【0020】
そして本発明に特徴的である拡散防止層13は、光熱変換層12を構成する材料の拡散を防止するための層として設けられている。このような拡散防止層13は、熱伝導性に優れ、安定な材料で構成することが好ましい。例えばシリコンの窒化物、またはシリコンの酸化物で構成される。具体的には、酸化シリコン膜(SiO2)、窒化シリコン膜(SiNx)、酸窒化シリコン膜(SiONx)などである。特に、窒化シリコン膜(SiNx)は、緻密な膜構成での成膜が可能であると共に、この拡散防止層13の影響による転写層14や光熱変換層12の酸化も防止できるため好ましい。また拡散防止層13は、窒化チタン(TiN)や酸窒化チタン(TiON)などの金属の酸化膜または窒化膜、さらには有機材料で構成されていても良い。有機材料を用いる場合には、例えば十分に架橋が進んだポリイミドなど、耐熱性の良好な材料が用いられることとする。
【0021】
また、以上の材料からなる拡散防止層13は、これらの材料膜の積層体であっても良い。
【0022】
転写層14は、この転写用基板1を用いた熱転写によって形成する発光層の構成材料を含む有機材料層であり、例えば各色の発光性ゲスト材料とホスト材料とで構成されている。このうち発光性ゲスト材料は、蛍光性のものでも燐光性のものでもよい。またホスト材料は、正孔輸送性のホスト材料、電子輸送性のホスト材料、および両電荷輸送性のホスト材料のうち少なくとも1種であることとする。
【0023】
例えば、この転写用基板1が、青色の発光層を形成するための転写用基板1bである場合、転写層14として青色の発光材料を含む青色転写層14bが設けられている。この青色転写層14bは、例えば電子輸送性のホスト材料であるADN(anthracene dinaphtyl)に、青色発光性のゲスト材料である4,4’≡ビス[2≡{4≡(N,N≡ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%で混合した材料によって構成され、30nm程度の膜厚で蒸着成膜されていることとする。
【0024】
また、この転写用基板1が、緑色の発光層を形成するための転写用基板1gである場合、転写層14として緑色の発光材料を含む緑色転写層14gが設けられている。この緑色
転写層14gは、例えば上記ADNに、緑色発光性のゲスト材料であるクマリン6を5重量%で混合した材料によって構成され、30nm程度の膜厚で蒸着成膜されていることとする。
【0025】
同様に、この転写用基板1が、赤色の発光層を形成するための転写用基板1rである場合、転写層14として赤色の発光材料を含む赤色転写層14rが設けられている。この赤色転写層14rは、例えば上記ADN、赤色発光性のゲスト材料である2,6≡ビス[(4’≡メトキシジフェニルアミノ)スチリル]≡1,5≡ジシアノナフタレン(BSN)を30重量%で混合した材料によって構成され、30nm程度の膜厚で蒸着成膜されていることとする。
【0026】
<表示装置の製造方法>
図2〜図4は、上述した構成の転写用基板1(1b,1g,1r)を用いた転写方法、およびこの転写方法を用いた有機電界発光素子の製造方法を含む表示装置の製造方法を示す断面工程図である。以下、これらの断面工程図に基づいて、工程手順を説明する。
【0027】
先ず、図2(1)に示すように、有機電界発光素子が配列形成される装置基板21を用意する。この基板21は、ガラス、シリコン、プラスチック基板、さらにはTFT(thin film transistor)が形成されたTFT基板などからなる。特にここで作製する表示装置が装置基板21側から発光を取り出す透過型である場合には、この装置基板21は光透過性を有する材料で構成されることとする。
【0028】
次に、この装置基板21上に、陽極または陰極として用いられる下部電極23をパターン形成する。
【0029】
この下部電極23は、ここで作製する表示装置の駆動方式によって適する形状にパターンニングされていることとする。例えば、この表示装置の駆動方式が単純マトリックス方式である場合には、この下部電極23は例えばストライプ状に形成される。また、表示装置の駆動方式が画素毎にTFTを備えたアクティブマトリックス方式である場合には、下部電極23は複数配列された各画素に対応させてパターン形成され、同様に各画素に設けられたTFTに対して、これらのTFTを覆う層間絶縁膜に形成されたコンタクトホール(図示省略)を介してそれぞれが接続される状態で形成されることとする。
【0030】
またこの下部電極23は、ここで作製する表示装置の光取り出し方式によってそれぞれ適する材質が選択して用いられることとする。すなわち、この表示装置が装置基板21と反対側から発光光を取り出す上面発光型である場合には、高反射性材料で下部電極23を構成する。一方、この表示装置が、装置基板21側から発光光を取り出す透過型または両面発光型である場合には、光透明性材料で下部電極23を構成する。
【0031】
例えばここでは、表示装置が上面発光型であり、下部電極23を陽極として用いることとする。この場合、下部電極10は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、プラチナ(Pt)さらには金(Au)のように、反射率の高い導電性材料、及びその合金で構成される。
【0032】
尚、表示装置が上面発光型であるが、下部電極23を陰極として用いる場合には、下部電極23は仕事関数が小さな導電性材料を用いて構成される。このような導電性材料としては、例えば、Li、Mg、Ca等の活性な金属とAg、Al、In等の金属との合金、或いはこれらを積層した構造を使用できる。また、機能層4との間に例えば、Li、Mg、Ca等の活性な金属とフッ素、臭素等のハロゲンや酸素等との化合物層を薄く挿入した構造としても良い。
【0033】
これに対して、表示装置が透過型、または両面発光型であり下部電極23を陽極として用いる場合には、ITO(Indium−Tin−Oxide)やIZO(Inidium−Zinc−Oxide)のように、透過率の高い導電性材料で下部電極23を構成する。
【0034】
尚、ここで作製する表示装置の駆動方式としてアクティブマトリックス方式を採用する場合には、有機電界発光素子の開口率を確保するために、表示装置を上面発光型とすることが望ましい。
【0035】
次に、以上のような下部電極23(ここでは陽極)を形成した後、これらの下部電極23の周縁を覆う状態で、絶縁膜25をパターン形成する。これにより、この絶縁膜25に形成された窓から下部電極23を露出させた部分を、各有機電界発光素子が設けられる画素領域とする。この絶縁膜25は、例えばポリイミドやフォトレジスト等の有機絶縁材料や、酸化シリコンのような無機絶縁材料を用いて構成さることとする。
【0036】
その後、下部電極23および絶縁膜25を覆う共通層として、正孔注入層27を形成する。このような正孔注入層27は、一般的な正孔注入材料を用いて構成され、一例としてm−MTDATA〔4,4,4 -tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine〕を25nmの膜厚で蒸着成膜する。
【0037】
次に、正孔注入層27を覆う共通層として、正孔輸送層29を形成する。このような正孔輸送層29は、一般的な正孔輸送材料を用いて構成され、一例としてα−NPD[4,4-bis(N-1-naphthyl-N-phenylamino)biphenyl]を30nmの膜厚で蒸着成膜する。尚、正孔輸送層29を構成する一般的な正孔輸送材料としては、例えばベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体などがいられる。
【0038】
また以上の正孔注入層27および正孔輸送層29は、それぞれを複数層からなる積層構造として形成しても良い。
【0039】
以上までの工程は、通常の有機電界発光素子を用いた表示装置の作製と同様に行って良い。そして、次の工程では、以上のようにして形成した正孔輸送層29上に、熱転写法によって各色の発光層を形成する工程を行うが、この工程において、図1を用いて説明した転写用基板1を用いるところが本実施形態に特徴的な工程となる。
【0040】
すなわち、先ず、図2(2)に示すように、先に説明した構成の転写用基板1を用意する。ここでは先ず、転写層14として青色の発光層を形成するための青色転写層14bが設けられた転写用基板1bを用意する。
【0041】
そして、この転写用基板1bを、正孔輸送層29が形成された装置基板21に対向配置させる。この際、青色転写層14bと正孔輸送層29とが向き合うように、転写用基板1bと装置基板21とを配置する。また、装置基板21と転写用基板1bとを密着させ、装置基板21側の最上層を構成する正孔輸送層29と、転写用基板1b側の最上層を構成する青色転写層14bとを接触させても良い。このようにした場合であっても、装置基板21側の絶縁膜25上に転写用基板1bが支持された状態となり、下部電極23上の正孔輸送層29の部分に青色転写層14bが接触することはない。
【0042】
次に、このような状態で装置基板21に対向配置された転写用基板1bの支持基板11側から、例えば波長800nmのレーザ光hrを照射する。この際、青色発光素子の形成領域に対応する部分に、レーザ光hrを選択的にスポット照射する。
【0043】
これにより、光熱変換層12にレーザ光hrを吸収させて熱変換する共に、拡散防止層13によって光熱変換層12を構成する材料の転写層14b側への拡散を防止しつつ、変換された熱を利用して青色転写層14bを装置基板21側の下部電極23b上方に熱転写させる。そして、装置基板21上に成膜された正孔輸送層29上に、青色転写層14bを位置精度良好に熱転写させてなる青色発光層31bをパターン形成する。
【0044】
このような熱転写においては、例えばレーザ光hrの照射エネルギーにより、転写用基板1b側の青色転写層14bを構成する各材料の濃度勾配を調整する。具体的には、照射エネルギーを高めに設定することにより、青色転写層14bを構成する各材料が略均一に混ざり合った混合層として青色発光層31bを形成する。
【0045】
またここでは、青色発光素子の形成部分(画素領域)において絶縁膜25から露出している下部電極23上が、青色発光層31bによって完全に覆われるように、レーザ光hr照射に行うことが重要である。
【0046】
そして、以上のような熱転写の工程を繰り返し行うことで、順次、緑色発光層および赤色発光層を形成する.
【0047】
すなわち、図3(3)に示すように、例えば先に説明した構成の転写用基板1のうち、転写層14として緑色の発光層を形成するための緑色転写層14gが設けられた転写用基板1gを用意する。
【0048】
そして、この転写用基板1gを、正孔輸送層29が形成された装置基板21に対向配置させ、転写用基板1g側から緑色発光素子の形成領域に対応する部分に、レーザhrを選択的にスポット照射する。
【0049】
これにより、装置基板21の下部電極23上に正孔輸送層29を介して選択的に緑色転写層14gを熱転写させてなる緑色発光層31gをパターン形成する。このような熱転写は、図2(2)を用いて説明した青色発光層31bのパターン形成と同様に、拡散防止層13によって光熱変換層12を構成する材料の転写層14g側への拡散を防止しつつ、緑色転写層14gを構成する各材料が、略均一に混ざり合わせた状態で緑色発光層31gが形成されるように行われることとする。
【0050】
また、図3(4)に示すように、例えば先に説明した構成の転写用基板1のうち、転写層14として赤色の発光層を形成するための赤色転写層14rが設けられた転写用基板1rを用意する。
【0051】
そして、この転写用基板1rを、正孔輸送層29が形成された装置基板21に対向配置させ、転写用基板1r側から赤色発光素子の形成領域に対応する部分に、レーザhrを選択的にスポット照射する。
【0052】
これにより、装置基板21の下部電極23上に正孔輸送層29を介して選択的に赤色転写層14rを熱転写させてなる赤色発光層31rをパターン形成する。このような熱転写は、図2(2)を用いて説明した青色発光層31bのパターン形成と同様に、拡散防止層13によって光熱変換層12を構成する材料の転写層14r側への拡散を防止しつつ、赤色転写層14rを構成する各材料が、略均一に混ざり合わせた状態で赤色発光層31rが形成されるように行われることとする。
【0053】
尚、以上の図2(2)〜図3(4)を用いて説明した各熱転写の工程は、特に決められた順番はなく、どの色の発光層31b,31g,31rから順に熱転写しても良い。
【0054】
また、繰り返し行われる熱転写の工程は、大気圧中でも可能であるが、真空中で行うことが望ましい。真空中で熱転写を行うことにより、より低エネルギーでのレーザを使用した転写が可能になり、転写される発光層に与えられる熱的な悪影響を軽減することが出来る。さらに、熱転写の工程を真空中で行うことにより、基板同士の密着性が高まり、転写のパターン精度が良好になり、望ましい。しかも、全プロセスを連続して真空中で行うようにすることで、素子の劣化を防ぐことが可能である。
【0055】
また、以上説明したレーザhrを選択的にスポット照射する工程においては、レーザ照射装置におけるレーザヘッドの駆動部分が精密なアライメント機構を備えている場合には、下部電極23に沿って、レーザhrを適正なスポット径において転写用基板1(1b,1g,1r)上に照射すればよい。この場合、装置基板21と転写用基板1(1b,1g,1r)との位置合わせを厳密に行う必要はない。一方、レーザヘッドの駆動部分が精密なアライメント機構を備えていない場合には、転写用基板側にレーザhrが照射される領域を制限する遮光膜を形成しておく必要がある。具体的には、転写用基板1(1b,1g,1r)の裏面に、レーザを反射する高反射金属層に開口部を設けた遮光膜を設ける。また、この上に低反射性金属を成膜しても良い。この場合、装置基板21と転写用基板1(1b,1g,1r)との位置合わせを正確に行う必要が生じる。
【0056】
以上の後、図4(5)に示すように、各色発光層31b,31g,31rが形成された装置基板21上の全面を覆う状態で、蒸着成膜法により電子輸送層33を成膜する。この電子輸送層33は、装置基板21上の全面に共通層として蒸着成膜される。このような電子輸送層33は、一般的な電子輸送材料を用いて構成され、一例として8≡ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3 )を20nm程度の膜厚で蒸着してなる。
【0057】
以上までで成膜した正孔注入層27、正孔輸送層29、各色発光層31b,31g,31r、および電子輸送層33によって、有機層35が構成される。
【0058】
次に、蒸着成膜法により、電子輸送層33上に電子注入層37を成膜する。この電子注入層37は、装置基板21上の全面に共通層として蒸着成膜される。このような電子注入層37は、一般的な電子注入材料を用いて構成され、一例としてLiFを真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で形成してなる。
【0059】
次に、電子注入層37上に、上部電極39を形成する。この上部電極39は、下部電極23が陽極である場合には陰極として用いられ、下部電極23が陰極である場合には陽極として用いられる。また、ここで作製する表示装置が単純マトリックス方式である場合には、例えば下部電極23のストライプと交差するストライプ状に上部電極39が形成される。また、この表示装置が、アクティブマトリックス方式である場合には、この上部電極39は、装置基板21上の一面を覆う状態で成膜されたベタ膜状に形成され、各画素に共通の電極として用いられることとする。この場合、下部電極23と同一層で補助電極(図示省略)を形成し、この補助電極に対して上部電極39を接続させることで、上部電極39の電圧降下を防止する構成とすることができる。
【0060】
そして、下部電極23と上部電極39との積層部において、各色発光層31b,31g,31rをそれぞれ含む有機層35等が狭持された各部分に、各有機電界発光素子、すなわち青色発光素子41b、緑色発光素子41g、および赤色発光素子41rがそれぞれ形成される。
【0061】
またこの上部電極39は、ここで作製する表示装置の光取り出し方式によってそれぞれ適する材質が選択して用いられることとする。すなわち、この表示装置が装置基板21と反対側から発光光を取り出す上面発光型または両面発光型である場合には、光透過性材料または半透過性材料で上部電極39を構成する。一方、この表示装置が、装置基板21側から発光光を取り出す透過型である場合には、高反射性材料で上部電極39を構成する。
【0062】
ここでは、表示装置が上面発光型であり、下部電極23を陽極として用いるため、上部電極39は陰極として用いられることになる。この場合、上部電極39は、有機層35に対して電子を効率的に注入できるように、下部電極23の形成工程で例示した仕事関数の小さい材料のうちから光透過性の良好な材料を用いて形成されることとする。
【0063】
このため例えば、真空蒸着法により10nmの膜厚で形成されたMgAgからなる共通の陰極として、上部電極39を形成する。この際、下地に対して影響を及ぼすことのない程度に、成膜粒子のエネルギーが小さい成膜方法、例えば蒸着法やCVD(chemical vapor deposition)法によって、上部電極39の成膜を行うこととする。
【0064】
また、表示装置が上面発光型である場合、上部電極39を半透過性として構成することにより、上部電極39と下部電極23との間で共振器構造を構成することで取り出し光の強度が高められるように設計されることが好ましい。
【0065】
尚、表示装置が透過型であり、上部電極39を陰極として用いる場合には、仕事関数が小さくかつ反射率の高い導電性材料で上部電極39を構成する。さらに表示装置が透過型であり、上部電極39を陽極として用いる場合には、反射率の高い導電性材料で上部電極39を構成する。
【0066】
以上のようにして各色の発光素子41b,41g,41rを形成した後には、図4(6)に示すように、上部電極39を覆う状態で、保護膜43を成膜する。この保護膜43は、有機層35への水分の到達防止を目的とし、透過水性,吸水性の低い材料を用いて十分な膜厚で形成されることとする。さらに、ここで作製する表示装置が上面発光型である場合には、この保護膜43は各色発光層31b,31g,31rで発生した光を透過する材料からなり、例えば80%程度の透過率が確保されていることとする。
【0067】
このような保護膜43は、絶縁性材料で構成されていて良い。保護膜43を絶縁性材料で構成する場合には、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-x Nx )さらにはアモルファスカーボン(α−C)等を好適に用いることができる。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜43となる。
【0068】
例えば、アモルファス窒化シリコンからなる保護膜43を形成する場合には、CVD法によって2〜3μmの膜厚に形成されることとする。ただし、この際、有機層35の劣化による輝度の低下を防止するため成膜温度を常温に設定し、さらに、保護膜43の剥がれを防止するために膜のストレスを最小になる条件で成膜することが望ましい。
【0069】
また、ここで作製する表示装置がアクティブマトリックス方式であって、装置基板21上の一面を覆う共通電極として上部電極39が設けられている場合には、保護膜43は、導電性材料を用いて構成されても良い。保護膜43を導電性材料で構成する場合には、ITOやIXOのような透明導電性材料が用いられる。
【0070】
尚、以上のような各色発光層31b,31g,31rを覆う各層33〜43は、マスクを用いることなくベタ膜状に形成される。また、これらの各層33〜43の形成は、望ましくは大気に暴露されることなく同一の成膜装置内において連続して行われることが好ましく、これにより大気中の水分による有機層35の劣化を防止する。
【0071】
そして、以上のように保護膜43が形成された装置基板21に対して、保護膜43側に接着用の樹脂材料(図示省略)を介して保護基板45を貼り合わせる。接着用の樹脂材料としては、例えば紫外線硬化樹脂が用いられる。また保護基板45としては例えばガラス基板が用いられる。ただし、ここで作製する表示装置が上面発光型である場合には、接着用の樹脂材料および保護基板45は、光透過性を有する材料で構成されることが必須となる。
【0072】
以上により、装置基板21上に各色発光素子41b,41g,41rを配列形成してなるフルカラーの表示装置47を完成させる。
【0073】
以上説明した製造方法では、例えば図2(2)他を用いて説明したように、光熱変換層12と転写層14との間に、光熱変換層12を構成する材料の拡散を防止する拡散防止層13を設けた転写用基板1を用い、この転写用基板1における転写層14を各色発光層31b,31g,31rとして装置基板21上に熱転写させている。これにより、光熱変換層12から転写層14側への材料の拡散が防止される。このため、各色発光層31b,31g,31rは、光熱変換層12に起因した酸化や汚染から保護された清浄な層として形成される。
【0074】
これにより、不純物の混入や汚染のない発光層31b,31g、31rを形成可能となる。そしてこのようにして形成された各色発光素子41b,41g,41rは、次の実施例で示すように、拡散防止層13が設けられていない従来の転写用基板を用いた転写方法によって発光層を形成した有機電界発光素子と比較して、高い発光効率が得られると共に、駆動電圧が低くなり、かつ輝度寿命が長くなることが確認された。
【0075】
したがって、以上説明した実施形態によれば、熱転写法によって位置精度良好に各色発光層31b,31g,31rをパターン形成することが可能であり、しかも、従来の転写用基板を用いて発光層を形成した場合と比較して、発光効率および輝度寿命が高く維持された各色発光素子41b,41g,41rを得ることが可能になる。
【0076】
尚、以上の実施形態では、主に下部電極23を陽極、上部電極39を陰極とした場合を説明した。しかしながら、本発明は、下部電極23が陰極であり、上部電極39が陽極である場合にも適用可能である。このような場合には、下部電極23と上部電極39との間の各層25〜37は、逆の積層順となる。
【0077】
さらに、以上実施形態に基づいて説明した本発明は、上述した共通層を分離した素子においても、また、例えば特開2003−272860に示されるように、発光層を有する有機層のユニット(発光ユニット)を積層してなるタンデム型の有機EL素子においても有効であり、同様の効果を得ることができる。
【0078】
また本発明の転写用基板は、有機層のパターン形成に広く用いることが可能であり、例えば有機半導体トランジスタなどの有機半導体素子の製造における有機半導体層の形成にも適用可能である。この場合、図1を用いて説明した転写用基板1における転写層14を有機半導体材料からなる層として形成する。そして、このような転写用基板1を用いた熱転写により、位置制度良好にかつ不純物の混入や汚染を防止して有機半導体層をパターン形成することが可能になる。これにより、素子特性に優れた有機半導体素子を得ることが可能になる。
【実施例】
【0079】
次に、本発明の具体的な実施例、およびこれらの実施例に対する比較例として、フルカラー表示装置を構成する各色発光の有機電界発光素子の製造手順を、図1〜図3および最後に示した表1を参照して説明する。またその後、これらの評価結果を説明する。
【0080】
<実施例1>
表示装置を構成する青色発光素子41bを、下記(1)〜(4)の手順で作製した。
【0081】
(1)次のようにして転写用基板1bを作製した。先ず、ガラス基板(支持基板)11の上に、厚さ200nmのモリブデン(Mo)からなる光熱変換層12を通常のスパッタリング法により成膜した。次に、光熱変換層12上に、窒化シリコン(SiNX)からなる拡散防止層13を100nmの膜厚でCVD法によって成膜した。そして拡散防止層13上に、ADNからなるホスト材料に、DPAVBiからなる青色発光性のゲスト材料を2.5重量%の割合で混合した青色転写層14bを、真空蒸着により成膜した。
【0082】
(2)一方、素子作製用の装置基板となるガラス装置21の上に、銀合金層であるAPC(Ag-Pd-Cu)層(膜厚120nm)、ITOからなる透明導電層(膜厚10nm)をこの順に形成した2層構造の下部電極23を陽極として形成した。次に下部電極23の周縁を覆う状態で酸化シリコンの絶縁膜25をスパッタリング法により約2μmの厚さで成膜し、リソグラフィー法により下部電極23を露出させ、画素領域とした。その表面の上に、正孔注入層27として、m−MTDATAを25nmの膜厚で蒸着した。次に、正孔輸送層29として、α−NPDを30nmの膜厚で蒸着した。
【0083】
(3)次に、成膜された有機層同士が向き合う状態で、(1)において作製した転写用基板1bを素子作製用の装置基板21の上に配置し、真空中で密着させた。両基板は、絶縁膜25の厚さによって、約2μmの小さな間隙が維持されていた。この状態で、素子作製用の装置基板21の青色画素領域に相対する配置において、転写用基板1bの裏側から波長800nmのレーザ光を照射することにより、転写用基板1bから青色転写層14bを熱転写させ、青色発光層31bを形成した。レーザ光線のスポットサイズは、300μm×10μmとした。レーザ光線は、該光線の長手寸法に対して直交する方向において走査した。エネルギー密度は、2.6E-3mJ/μm2とした。
【0084】
(4)青色発光層31bを転写形成した後、電子輸送層33を成膜した。電子輸送層33として、8≡ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3 )を20nm程度の膜厚で蒸着成膜した。続いて、電子注入層37として、LiFを約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で蒸着成膜した。次いで、上部電極39となる陰極としてMgAgを10nmの膜厚で蒸着成膜し、青色発光素子41bを得た。
【0085】
<実施例2>
実施例1(1)の転写用基板1bの作製工程において、光熱変換層12上に、酸化シリコン(SiO2)からなる拡散防止層13を100nmの膜厚でCVD法によって成膜し、その上に青色転写層14bを成膜した事以外は、実施例1と同様にして青色発光素子41bを作製した。
【0086】
<比較例1>
実施例1(1)の転写用基板1bの作製工程において、光熱変換層12上に、拡散防止層13を成膜せず、青色転写層14bを直接成膜したこと以外は、実施例1と同様にして青色発光素子41bを作製した。
【0087】
<実施例3>
実施例1(1)の転写用基板1bの作製手順において、転写層の材料構成を換えたこと以外は、実施例1と同様の手順で緑色発光素子41gを作製した。
【0088】
つまり、(1)転写用基板1gの作製においては、ガラス基板11の上に成膜した光熱変換層12上に窒化シリコン(SiNX)からなる拡散防止層13を100nmの膜厚でCVD法によって成膜し、その上に、ADNからなるホスト材料に、クマリン6からなる緑色発光性のゲスト材料を5重量%の割合で混合した緑色転写層14gを、真空蒸着により成膜した。
【0089】
その後、上記で作製した転写用基板を用い、実施例1の(2)(3)(4)と同様の手順を行い、緑色発光素子41gを作製した。
【0090】
<比較例2>
実施例3(1)における転写用基板1gの作製工程において、光熱変換層12上に、拡散防止層13を形成せず、緑色転写層14gを直接成膜したこと以外は、実施例4と同様にして緑色発光素子41gを作製した。
【0091】
<実施例4>
実施例1(1)の転写用基板1bの作製手順において、転写層の材料構成を換えたこと以外は、実施例1と同様の手順で赤色発光素子41rを作製した。
【0092】
つまり、(1)転写用基板1rの作製においては、ガラス基板11の上に成膜した光熱変換層12上に窒化シリコン(SiNX)からなる拡散防止層13を100nmの膜厚でCVD法によって成膜し、その上にADNからなるホスト材料に、BSNからなる赤色発光性のゲスト材料を30重量%の割合で混合した赤色転写層14rを、真空蒸着により成膜した。
【0093】
その後、上記で作製した転写用基板を用い、実施例1の(2)(3)(4)と同様の手順を行い、赤色発光素子41rを作製した。
【0094】
<比較例3>
実施例4(1)の転写用基板1rの作製工程において、光熱変換層12上に、拡散防止層13を成膜せず、光熱変換層12上に赤色転写層14rを直接成膜したこと以外は、実施例1と同様にして赤色発光素子41rを作製した。
【0095】
≪評価結果≫
以上のような実施例1〜4および比較例1〜3については、それぞれの例と同様の工程で各発光層を転写形成した状態において、二次イオン質量分析(SIMS)による発光層への光熱変換層(Mo)の拡散の有無を調べた。この結果、比較例1〜3では、発光層の領域において光熱変換層を構成する元素(Mo)が検出され、光熱変換層の発光層側(転写層側)への拡散が確認された。これに対して実施例1〜4では、発光層の領域において光熱変換層を構成する元素(Mo)の拡散は確認されなかった。これにより、光熱変換層と転写層との間に、拡散防止層を設けることによる光熱変換層の拡散防止の効果が確認された。
【0096】
また、以上のようにして作製した各色の有機電界発光素子について、40mA/cm2の定電流密度を印加した状態で、分光放射輝度計を用いて色度および発光効率を測定した。さらに、同じ発光性のゲスト材料を用いた素子同士が同輝度で発光するように電流印加を設定した状態で、駆動電圧を測定し、また寿命試験を行って100時間経過後の相対輝度の減少率を測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
先ず、実施例1、2および比較例1で作製した青色発光素子の評価結果を比較すると、拡散防止層13を備えた転写用基板1bを用いて作製された実施例1、2の青色発光素子においては、拡散防止層を設けていない転写用基板を用いて作製された比較例1の青色発光素子と比較して、発光効率を2倍以上に大幅に上昇させる効果と、駆動電圧を低下させる効果、さらには輝度減少率を小さく抑える効果が得られていることが確認された。また、これらの青色発光素子においては、同程度の色度が得られていることが確認された。
【0099】
さらに、実施例1と実施例2の素子を比較すると、実施例1に示したSiNXを酸化保護層として用いた素子の方が、実施例2に示したSiO2を酸化保護層として用いた素子と比較して寿命が向上する効果が見られた。これは、SiO2でもMo(その表面上で生成されたMoOX)からの材料拡散や酸化を防ぐ効果はあるが、SiNxを用いた素子の方がその効果がより顕著であることを示していると考えられる。
【0100】
また、実施例3および比較例2で作製した緑色発光素子の評価結果を比較した場合であっても、SiNxからなる拡散防止層13を備えた転写用基板1gを用いて作製された実施例3の緑色発光素子は、拡散防止層を設けていない転写用基板を用いて作製された比較例2の緑色発光素子と比較して、発光色を変化させずに、発光効率、駆動電圧、輝度減少率の全てにおいて良好な特性が得られることが確認された。そして特に、これらの緑色発光素子における緑色発光性のゲスト材料として用いたクマリン6は、電荷輸送性が小さく、このようなゲスト材料を用いた発光層を転写する際に拡散防止層を備えた転写用基板を用いることで、特に発光効率を上昇させる効果が顕著であることが確認された。
【0101】
さらに、実施例4および比較例3で作製した赤色発光素子の評価結果を比較した場合であっても、SiNxからなる拡散防止層13を備えた転写用基板1rを用いて作製された実施例4の赤色発光素子は、拡散防止層を設けていない転写用基板を用いて作製された比較例3の赤色発光素子と比較して、発光色を変化させずに、発光効率、駆動電圧、輝度減少率の全てにおいて良好な特性が得られることが確認された。
【0102】
そして以上の結果から、本発明に従って、熱転写法により各色発光層31b,31g,31rを形成することで、有機電界発光素子を用いたフルカラーの表示装置において、各色に発光する有機電界発光素子41b,41g,41rの特性を良好に維持することが可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施形態の転写用基板の構成を示す断面図である。
【図2】実施形態の表示装置の製造方法を示す断面工程図(その1)である。
【図3】実施形態の表示装置の製造方法を示す断面工程図(その2)である。
【図4】実施形態の表示装置の製造方法を示す断面工程図(その2)である。
【符号の説明】
【0104】
1,1b,1g,1r…転写用基板、11…支持基板、12…光熱変換層、13…拡散防止層、14,14b,14g,14r…転写層、21…装置基板(基板)、23…下部電極、31b,31g,31r…発光層、35…有機層、39…上部電極、41b…青色発光素子(有機電界発光素子),41g…緑色発光素子(有機電界発光素子),41r…赤色発光素子(有機電界発光素子)、hr…光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に、光熱変換層、および有機材料からなる転写層がこの順に形成された転写用基板において、
前記光熱変換層と前記転写層との間に、当該光熱変換層を構成する材料の拡散を防止する拡散防止層が設けられている
ことを特徴とする転写用基板。
【請求項2】
請求項1記載の転写用基板において、
前記拡散防止層がシリコンの窒化物またはシリコンの酸化物からなる
ことを特徴とする転写用基板。
【請求項3】
請求項1記載の転写用基板において、
前記光熱変換層は金属材料を用いて構成されている
ことを特徴とする転写用基板。
【請求項4】
請求項1記載の転写用基板において、
前記転写層は、発光材料を含有する
ことを特徴とする転写用基板。
【請求項5】
支持基板上に、光熱変換層、拡散防止層、および有機材料からなる転写層をこの順に形成してなる転写用基板を、被転写基板に対して当該転写層を向けた状態で対向配置し、
前記支持基板側から光を照射することにより、前記光熱変換層を構成する材料の前記転写層側への拡散を防止しつつ、当該光熱変換層において前記光を熱変換することにより当該転写層を前記被転写基板側に熱転写する
ことを特徴とする転写方法。
【請求項6】
基板上に下部電極をパターン形成した後、前記下部電極上に少なくとも発光層を含む有機層を成膜し、次に有機層を介して前記下部電極上に積層する状態で上部電極を形成する有機電界発光素子の製造方法において、
基板上に下部電極をパターン形成した後、
支持基板上に光熱変換層、拡散防止層、および発光材料を含む有機材料で構成された転写層をこの順に形成してなる転写用基板を、前記基板に対して当該転写層を向けた状態で対向配置し、
前記支持基板側から光を照射することにより、前記光熱変換層を構成する材料の前記転写層側への拡散を防止しつつ、当該光熱変換層において前記光を熱変換することにより当該転写層を前記下部電極上に熱転写して前記発光層を形成する
ことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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