説明

転写箔、画像表示体、及び情報媒体

【課題】より高解像度な画像を高品質に作製可能な転写箔を提供する。
【解決手段】本発明の転写箔60は、画像表示体の画像構成要素として被転写基材の表面上に転写されるものであって、転写箔基材50と、転写箔基材50の一方の表面上に剥離層51を介して積層された構造形成層52と、構造形成層52の表面上に形成された光反射層55とを備えている。光反射層55は、画像構成要素の画素間隔と同一の間隔で構造形成層52の表面上にマトリクス状に形成された複数の光反射領域53から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスポートや査証などの冊子またはカード等の個人認証媒体上に個人特定の要である顔画像や指紋を印刷・印字・描画する画像表示体に係わるものであり、特に、正当な所有者の顔や指紋の画像といった個人識別情報を、回折格子または回折格子状に凹凸を設けたセルを組み合わせることにより、偽造および改竄を困難にし、かつ個人認証を実施する審査官が識別しやすくする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パスポートや査証用ステッカー、あるいはカード類といった個人認証に係わる情報記録媒体においては、従来、色々なセキュリティ手法が提案されてきている。例えば、パスポートにおいては、現在使用されているパスポートはいわゆるICAOの規定によれば、目視および光学文字識別方式の両方で読めなければならないとされている(ICAOは、International Civil Aviation Organizationの略)。ICAOの規定によれば、パスポートに使用する材質やセキュリティに関しては各国の自由裁量であり、セキュリティ機能として一般に使われているのは、有機溶剤等で反応する化学反応体、虹彩色のパールチップ、ファイバー(絹もしくは合成繊維、可視もしくは不可視、蛍光もしくは非蛍光)、ホログラムやマイクロ文字の印刷されたフィルムのセキュリティ糸、透かし模様等を盛り込んだ用紙や退色性インキ、蛍光インキ、感熱インキ、光学的に変化するインキ(いわゆるOVIなど)等の各種インキ、細線印刷、レインボー印刷、凹版印刷、ピクセル印刷等の様々な技法を組み込んでセキュリティと美観の同時向上を図っている。
【0003】
また、パスポートの目視確認情報としての顔写真は、従来写真を貼り合わせたものであったが、近年では写真情報をデジタル化し、これをパスポートに再現する傾向にある。パスポートへの画像再現方法としては、昇華性(熱移行性)染料や、顔料を分散させた樹脂型溶融タイプやワックス溶融タイプを用いた転写リボンによる感熱転写記録法、あるいは電子写真法などが検討されている。
【0004】
パスポートへの画像再現方法としては、上記方式以外に、インクジェットプリンターによる記録法や(例えば、特許文献1参照)、CO2もしくはYAGレーザーおよび感熱発色剤を使用したレーザー印字記録法(例えば、特許文献2参照)、さらには基材中に存在する炭素を利用して基材の深さ方向にも印字記録するレーザーエングレービング印字記録法(例えば、特許文献3参照)などがある。
査証用ステッカーにおいても、ステッカー自体を剥がそうとしても綺麗に剥がすことが困難な様に切り込みを一定パターン状に設けたものを使用するなどの工夫がされているものもある。
【0005】
さらに、この種の個人認識データの入った画像表示体としては、画像データに基づいて形成された画像パターンをポリ塩化ビニル等のカード基材上に備えたもの、あるいは上記画像パターンに加えてホログラムや回折格子あるいは多層干渉を用いた光学的薄膜(光学設計によりカラーシフト等の効果を得られる)を用いることによる画像に代表されるいわゆるOVD画像を具備するもの等が知られている(OVDは、Optical Variable Deviceの略)。
【0006】
これらホログラムや回折格子のOVD技術は、高度な製造技術を要し、複製の難しいことから有効な偽造防止手段としてクレジットカード、IDカード、プリペイドカード等のカード類に利用されてきた。さらには、その装飾性の高さから、包装材、書籍、パンフレット、POP等への利用も少なくない。これらOVDを物品に貼着するための手段として、転写箔を用いて転写形成するといった方法が従来から採られている。この種の転写は、支持体上に剥離層、ホログラムや回折格子の画像パターンを形成されているレリーフ層と、公知の薄膜形成手段により形成される反射層、接着層を順次積層してなる構成のものが知られている。これら、転写箔に刻まれたOVDパターン(ホログラムおよび回折格子パターン)は、微少な凹凸パターンをニッケル性のプレス版に複製し、レリーフ層に加熱押圧するという周知の方法により大量複製が行われている。
【0007】
また、上記反射層は屈折率の異なる透明な物質を真空蒸着法等の公知の薄膜形成手段により形成することで(以下透明薄膜層と呼ぶ)、透明ホログラムや透明回折格子形成体となることは、公知の技術である。この場合、レリーフ層と透明薄膜層との間の屈折率差が大きい程、反射率も大きくなることは、光学的見地からも明らかである。但し、ここで一般的には、(レリーフ層の屈折率)<(透明薄膜層の屈折率)の関係がある。
【0008】
この様にして得られたホログラムまたは回折格子構造物は、偽造防止手段としてクレジットカード、キャッシュカード、会員証カード、社員証カード、プリペイドカード、運転免許証等の各種カード類、商品券、ギフト券、株券等の各種紙券類や申込用紙、領収書、複写伝票等の各種帳票類や、パスポート、通帳、年金手帳等の各種冊子類の他、本や手帳などの表紙やパネル等のディスプレイ用途等の一部または全体に貼着して使用されている。尚、本発明で述べている全体とは、概念的な意味であり、柄、パターン等を問わず、スポット状、ストライプ状、格子上に貼着されたものや、定型、不定形の網点状のドットで貼着されたものも含まれる。
【0009】
このようなOVD転写箔は偽造防止効果としては、充分な機能を果たすが、パスポートの様に顔写真などの画像形成後に該画像上にOVD転写層を熱的に転写して形成しているため、偽造技術の発達した現在では何らかの手法により転写層をいったん取り去り、画像データ等の改竄を行った後に改めてOVD転写箔を載せるといったことが行われる可能性もでてきた。
また、顔写真などの画像情報を形成する手段としての昇華転写方式、熱溶融性の転写リボン方式あるいは電子写真方式などのプリンタは、昨今では一般に広く普及している状況を考慮すると、画像形成部を取り除いた後の領域に新たに画像を形成することは、必ずしも困難とは、言い切れなくなりつつある。
【0010】
上記のような問題を解決すべく、顔写真の他に個人を特定する情報を複数個入れる方法が考えられている。顔写真の中に電子透かし情報を入れ、その情報を同一媒体中のICチップに記憶して、電子透かし情報とICチップの情報を照合することで認証する方法がある(例えば、特許文献4参照)。また、顔写真情報の特徴点を数値化して、その値を2次元コード化し、同一媒体中に印字する。2次元コードのデータと顔写真の特徴点を照合することで認証する方法がある(例えば、特許文献5参照)。
【0011】
しかしながら、上記の方式では顔写真やICチップや2次元コードを読み取るための専用のデコーダーが必要であり、読み取り装置およびデコーダーを所有している人以外認証出来ないという問題がある。
他の検証方法として目視情報による認証が可能な顔写真を複数個入れる方法が考えられる。前記方式で設けた顔写真の他に蛍光材料を用いて同じ顔写真を形成する方法がある(例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8参照)。また、パール顔料を溶融型熱転写インクリボン化して顔写真を形成する方法がある(例えば、特許文献9参照)。
【0012】
しかしながら、上記蛍光材料を用いる方法では、紫外線ランプ(ブラックライト)を用いる必要があるため、認証できる場面が限られている。一方、パール顔料による顔写真は、目視による確認は可能であるが、パール顔料の粒子が大きいため、精細な画像の形成が困難なことより、あくまで補助的な認証にしかならないという問題がある。
また、個人情報をホログラム化する方法として、ホログラムリボンを用いた直接熱転写方式が知られている(例えば、特許文献10参照)。しかし、顔写真などの画像情報を形成するためには、ドットを非常に微細にすることで高解像度を得る必要があるため、OVD転写箔の材料の切れ性や転写性が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−226740号公報
【特許文献2】特開昭49−131142号公報
【特許文献3】特開2006−123174号公報
【特許文献4】特開2001−126046号公報
【特許文献5】特開2004−70532号公報
【特許文献6】特開平7−125403号公報
【特許文献7】特開2000−141863号公報
【特許文献8】特開2002−226740号公報
【特許文献9】特開2003−170685号公報
【特許文献10】特開平10−049647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり、より高解像度な画像を高品質に作製可能な転写箔を提供することを目的とする。また、その転写箔を用いて、高セキュリティ性を必要とされるパスポート、査証、あるいは各種のカード類等の個人認証媒体に対して、偽造や改竄あるいは変造に対する予防性能や、万一それらの不正がなされた場合であっても被疑不正品を観察等によって容易に発見できるような視認性の高い発見容易性能などを備える画像表示体及び情報媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、請求項1の発明に係る転写箔は、フィルム状またはシート状に形成された被転写基材の表面上に画像表示体の画像構成要素として転写される転写箔であって、転写箔基材と、該転写箔基材の一方の表面上に剥離層を介して積層された構造形成層と、該構造形成層の表面上に形成された光反射層とを備え、該光反射層が前記画像構成要素の画素間隔と同一の間隔で前記構造形成層の表面上にマトリクス状に形成された複数の光反射領域から形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明に係る転写箔は、請求項1に記載の転写箔において、前記光反射層を前記被転写基材の表面上に接着するための接着層をさらに備えたことを特徴とする。
請求項3の発明に係る転写箔は、請求項1または2に記載の転写箔において、前記光反射領域の形状が図形又は記号であることを特徴とする。
請求項4の発明に係る転写箔は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の転写箔において、前記構造形成層に少なくとも1つの回折格子が形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明に係る転写箔は、請求項4に記載の転写箔において、前記回折格子の空間周波数が少なくとも3種類以上であることを特徴とする。
請求項6の発明に係る画像表示体は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の転写箔を前記被転写基材の表面上に複数転写してなることを特徴とする。
請求項7の発明に係る画像表示体は、請求項5に記載の転写箔を前記被転写基材の表面上に複数転写してなることを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明に係る画像表示体は、請求項6または7に記載の画像表示体において、前記画像表示体により表示される画像が個人情報を含んだ画像であることを特徴とする。
請求項9に記載の画像表示体は、請求項8に記載の画像表示体において、前記個人情報を含んだ画像が顔画像であることを特徴とする。
請求項10に記載の情報媒体は、請求項6〜9のいずれか一項に記載の画像表示体と、前記画像表示体を支持した物品とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、より高解像度な画像を高品質に作製可能な転写箔を提供することが可能となる。また、その転写箔を用いて、高セキュリティ性を必要とされるパスポート、査証、あるいは各種のカード類等の個人認証媒体に対して、偽造や改竄あるいは変造に対する予防性能や、万一それらの不正がなされた場合であっても被疑不正品を観察等すると容易に発見できるような視認性の高い発見容易性能などを備える画像表示体及び情報媒体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る情報媒体の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る転写箔を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る転写箔を被転写基材の表面上に転写して画像表示体を得る方法を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係わらない転写箔を被転写基材の表面上に転写する場合を示す図である。
【図5】図4の転写箔を被転写基材の表面上にうまく転写できない場合を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る転写箔を被転写基材の表面上に転写した場合を示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る情報媒体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る情報媒体の平面図を図1に示す。図1に示される情報媒体100は、個人認証媒体であり、パスポートなどの冊子体である。この情報媒体100は、折り丁1と表紙2とを備え、図1には、開いた状態の冊子体が描かれている。
折り丁1は、1枚以上の紙片11からなる。典型的には、紙片11上には、文字列及び地紋などの画像I2が設けられている。折り丁1は、1枚の紙片11を又は複数枚の紙片11の束を二つ折りにすることによって形成されている。紙片11は、個人情報が記録されるIC(integrated circuit)チップや、このICチップとの非接触での通信を可能とするアンテナなどを内蔵していてもよい。
【0022】
表紙2は、二つ折りされている。表紙2と折り丁1とは、冊子体を閉じた状態で折り丁1が表紙2によって挟まれるように重ね合わされており、それらの折り目の位置で綴じ合わせなどによって一体化されている。
表紙2は、個人情報を含んだ画像を表示する。この個人情報は、個人の認証に利用する個人認証情報を含んでいる。この個人情報は、例えば、生体情報と非生体個人情報とに分類することができる。
【0023】
生体情報は、生体の特徴のうち、その個体に特有なものである。典型的には、生体情報は、光学的手法によって識別可能な特徴である。例えば、生体情報は、顔、指紋、静脈及び虹彩の少なくとも1つの画像又はパターンである。
非生体個人情報は、生体情報以外の個人情報である。例えば、非生体個人情報は、氏名、生年月日、年齢、血液型、性別、国籍、住所、本籍地、電話番号、所属及び身分の少なくとも1つである。非生体個人情報は、タイプ打ちによって入力された文字を含んでいてもよく、署名などの手書きを機械読み取りすることによって入力された文字を含んでいてもよく、それらの双方を含んでいてもよい。
【0024】
表紙2は、画像I1a、I1b、I2及びI3を表示している。画像I1a、I2及びI3は、光の吸収を利用して表示される画像である。具体的には、画像I1a、I2及びI3は、白色光で照明し、肉眼で観察した場合に視認可能な画像である。画像I1a、I2及びI3の1つ以上を省略してもよい。
【0025】
画像I1a、I2及びI3は、例えば、染料及び顔料で構成することができる。この場合、画像I1a、I2及びI3の形成には、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法、インクジェット記録法、電子写真法、又はそれらの2つ以上の組み合わせを利用することができるが、感熱発色剤を含んだ層を形成し、この層にレーザビームで描画することにより画像I1a、I2及びI3を形成することもできる。また、これら方法の組み合わせを利用することができる。画像I2及びI3の少なくとも一部は、ホットスタンプを用いた熱転写記録法によって形成してもよく、印刷法によって形成してもよく、それらの組み合わせを利用して形成してもよい。
【0026】
画像I1bは、ホログラム及び/又は回折格子が表示する画像である。画像I1bは、例えば、サーマルヘッドを用いた熱転写記録と、ホットスタンプ又は熱ロールを用いた熱転写記録とをこの順に行うことにより形成する。
画像I1a及びI1bは、同一人物の顔画像を含んでいる。画像I1aが含んでいる顔画像と、画像I1bが含んでいる顔画像とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。画像I1aが含んでいる顔画像と、画像I1bが含んでいる顔画像とは、寸法が等しくてもよく、異なっていてもよい。また、画像I1a及びI1bの各々は、顔画像の代わりに他の生体情報を含んでいてもよく、顔画像に加えて顔画像以外の生体情報を更に含んでいてもよい。
【0027】
画像I1bは、生体情報の代わりに非生体個人情報を含んでいてもよく、生体情報に加えて非生体個人情報を更に含んでいてもよい。また、画像I1bは、個人情報の代わりに非個人情報を含んでいてもよく、個人情報に加えて非個人情報を更に含んでいてもよい。
画像I2は、非生体個人情報と非個人情報とを含んでいる。画像I2は、例えば、文字、記号、符号及び標章の1つ以上を構成している。
【0028】
画像I3は、地紋である。例えば、画像I3と画像I1a及びI1bの少なくとも一方とを組み合わせると、情報媒体100の改竄をより困難にすることができる。
図2に、本発明の一実施形態に係る転写箔の断面図と平面図を示す。なお、図2(a)は図2(b)のA−A線に沿った断面図を示している。
図2に示される転写箔60は、フィルム状またはシート状に形成された被転写基材の表面上に画像表示体の画像構成要素として転写されるものであって、転写箔基材50、剥離層51、構造形成層52、光反射層55および接着層54を備えている。
【0029】
転写箔基材50は例えばポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン(PE)等のプラスチック材料からなり、フィルム状またはシート状に形成されている。ここで、転写箔基材50の厚さは転写箔60の転写性を向上させるために薄いほうがよく、特に10μm〜15μm程度であることが好ましい。
【0030】
剥離層51は転写箔基材50を容易に剥離するためのものであって、転写箔基材50の一方の表面上に形成されている。この剥離層51の材料としては、転写箔基材50から剥離しやすいものであればよく、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、PET、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂にシリコーンやフッ素系の添加剤を加えたもの、あるいはフッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂などが挙げられる。
また、転写箔60は微小面積のドット毎に転写するため、剥離層51の箔切れ性が無くてはならない。そのため、上記の材料にシリカ等の無機微粒子を加えてもよい。また、上記以外の種類の材料を用いても、剥離層として必要な性能を発揮できれば問題ない。
【0031】
構造形成層52は画像表示体の光屈折構造を形成するためのものであって、転写箔基材50の一方の表面上に剥離層51を介して形成されている。この構造形成層52の材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、PET、ポリプロピレン等の光硬化性樹脂、またはアクリルニトリルスチレン共重合体樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂、またはポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができ、上記の樹脂を所望の構造に賦型して硬化させることで剥離層51の表面上に構造形成層52を形成することができる。
なお、構造形成層52を形成する樹脂の硬化物は全て光透過性であり、屈折率は一般的には1.5程度である。また、構造形成層52の膜厚は、耐熱性、箔切れ性、熱転写性を向上させるために薄いほうがよく、1.5μm以下であることが好ましい。
【0032】
光反射層55は構造形成層52に入射した光を反射するものであって、構造形成層52の表面上に形成されている。また、光反射層55は複数の光反射領域53からなり、これらの光反射領域53は画像構成要素の画素間隔と同一の間隔で構造形成層52の表面上にマトリクス状に形成されている。
【0033】
光反射領域53は透明被膜または金属被膜のいずれであってもよく、光反射領域53が透明被膜からなる場合、構造形成層52と屈折率が異なる誘電体層、誘電体多層膜、もしくは高屈折率材料を透明被膜の材料として用いることが望ましい。特に、屈折率が2.0以上であるZnS、TiO2、PbTiO2、ZrO、ZnTe、PbCrO4等を用いることが好ましい。これは、構造形成層52との屈折率差が小さいと、構造形成層52の凹凸による回折光の視覚効果が弱まってしまうためである。具体的には、構造形成層52と透明被膜の屈折率差は少なくとも0.5以上あると良い。また、透明被膜の膜厚は50nm〜100nm程度であることが好ましい。
【0034】
光反射領域53が金属被膜からなる場合は、クロム、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銀、金、銅の中から選択される単体又はそれらの混合物、合金等を用いることができる。こちらも、膜厚は50nm〜100nmが好ましい。なお、光反射領域53をマトリクス状に形成する方法としては、反射層を設けたい箇所のみに穴を開けたマスクを介して被膜材料を蒸着するなどの方法が挙げられるが、光反射層を全面に設けた後、光反射領域53を設けたい箇所のみにマスク印刷を施し、その後エッチングにてマスク印刷が行われていない領域の被膜を除去するといった方法もある。
【0035】
接着層54は光反射層55を被転写基材の表面上に接着するためのものであって、構造形成層52と光反射層55の表面上に形成されている。なお、接着層54の材料としては、光反射領域33の材料やその他樹脂との密着力、加刷性のあるものであればよく、例えばポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等を挙げることができる。また、熱転写の際の箔切れ性も必要となるので、上記樹脂にシリカ等の無機材料を加えてもよく、接着層54は省略することもできる。
【0036】
転写箔基材50、剥離層51、構造形成層52の屈折率は概ね同一であるか近い値となる一方で、光反射領域53のみ屈折率が大きく異なるのが一般的である。ゆえに、図2(b)に図示する角度から観察すると、光反射領域53を積層している箇所のみ色や輝度等が異なっており、それらがマトリクス状に複数備わっている様子を観察することができる。
【0037】
上記転写箔60を被転写基材の表面上に転写して画像表示体を得る方法を図3に示す。図2に示す転写箔60から図3(b)に示すような画像表示体62を得る場合は、図3(a)に示すように、転写箔60を被転写基材61の表面上に転写箔60の転写箔基材50が上側となるように置き、転写箔60の上面に熱圧15を図中に示す破線の間で加える。その後、熱圧15が加えられていない部分を被転写基材61から引き剥がすと、熱圧15が加えられた部分の転写箔基材50と剥離層51との間で剥離が生じる。これにより、図3(b)に示すように、熱圧15が加えられた箇所16で転写箔60と被転写基材61とが接着層54を介して接着し、熱圧15が加えられた転写箔60のみが被転写基材61の表面上に転写されるため、被転写基材61の表面上の所望位置に転写箔60が転写された画像表示体62を得ることができる。
【0038】
図3に示す転写箔60は接着層54を備えているが、接着層54は前記したように、有っても良く、無くても良い。接着層54が無くても、被転写基材61と構造形成層52との密着性が良好、又は被転写基材61の転写箔60との接触面に転写箔60との密着性が良好となる層が備えて有れば問題ない。これは以降の説明においても同様であるので、転写箔60は接着層54を備えてあるものとして説明する。
【0039】
図4は、本発明の実施形態に係わらない転写箔を被転写基材の表面上に転写する場合を示す図である。図4(a)に示す転写箔60から図4(b)に示すような画像表示体62を得る場合は、図4(a)に示すように、転写箔60を被転写基材61の表面上に転写箔60の転写箔基材50が上側となるように置き、転写箔60の上面に熱圧15を図中に示す破線の間で加える。その後、熱圧15が加えられていない部分を被転写基材61から引き剥がすと、熱圧15が加えられた部分の転写箔基材50と剥離層51との間で剥離が生じる。これにより、図4(b)に示すように、熱圧15が加えられた箇所16で転写箔60と被転写基材61とが接着層54を介して接着し、熱圧15が加えられた転写箔60のみが被転写基材61の表面上に転写されるため、図4(b)に示す画像表示体62を得ることができる。
【0040】
図3(b)及び図4(b)では、被転写基材61の表面上の所望位置に転写箔60が転写された画像表示体62を示しているが、実際には、必ずしも熱圧15を加えた箇所のみで転写箔60が被転写基材61の表面上に転写されるとは限らない。例えば、熱圧15を加えた周辺においても若干の加熱、加圧はされてしまう。故に、熱圧15を加えた周辺においては転写箔60が被転写基材61へ転写される場合もあり、されない場合もある。更に、その熱圧15を加えた周辺においては加熱、加圧が不充分な箇所となり得るため、箔の切れ性が悪くドットの形状が不定となってしまうことによる印字画像の画質の低下という問題が発生する。
【0041】
転写箔60を被転写基材61の表面上にうまく転写できない場合の例を図5(a)及び図5(b)に示す。なお、図5(a)、図5(b)ともに、記号「+」を、ドットを用いて描いた様子を図示してある。
前記したように、実際の転写においては、熱圧15を加えた箇所16と転写箔60が転写されてある箇所が同一となることはなく、図5に示すように、熱圧を加えた箇所16と転写箔が転写されてある箇所17は異なった領域となる。
【0042】
図5(a)の場合、箔の切れ性に起因してドットの形状が不定になってしまった画像表示体62を示している。また、図5(b)に示す画像表示体62の場合、箔の切れ性に起因してドットの形状が不定となってしまう問題は発生していない一方で、熱圧を加えた箇所16に対して転写箔が転写されてある箇所17の面積が大きくなってしまっている。転写箔の構成に用いる材料や各層の厚みによって、熱圧を加えた箇所16よりも広い範囲に剥離を生じさせるだけの熱圧がかかることにより、図5(b)に示す画像表示体62となってしまう。
【0043】
図6は、本発明の一実施形態に係る転写箔を被転写基材の表面上に転写した場合を示す図である。図6において、熱圧を加えた箇所16は図5に示す箇所16と同一である。また、転写箔が転写されてある箇所17も図5に示す箇所17と同一であるが、図6の場合、理想的なドットとして表示することが可能となる。なぜならば、転写箔が転写されたとしても、一般的に、転写箔基材50、剥離層51、構造形成層52、接着層54の屈折率はほぼ同一であるか近い値となるため、光反射領域53を備えていない領域では、接着層54を構造形成層の表面上に積層した段階で構造形成層52の構造は埋め立てられてしまうからである。
【0044】
つまり、本発明によれば、転写箔が転写される箇所に関わらず、すなわち、転写箔の箔切れ性や熱圧に対する応答に大きく左右されることなく、理想的なドットを表示することが可能となる。
一般的に、サーマルヘッド等を用いた熱転写方式を用いて印字を行う場合、ドットの配置はマトリクス状となる。ゆえに、本発明によれば、サーマルヘッド等を用いた熱転写方式を用いて転写箔を転写する場合において、より高解像度な画像を高品質に作製可能な転写箔を提供することが可能となる。前記したように、表示されるドットの形状は転写箔の箔切れ性や熱圧に対する応答に大きく左右されることはないため、転写箔の材料構成に依存することなく、より高解像度な画像を高品質に作製可能な転写箔を提供することが可能となる。
【0045】
本発明によれば、理想的なドットを表示することが可能となる。ゆえに、転写箔が備える光反射領域の形状を図形や記号といった特徴的な形状とすることで、顕微鏡等でしか観察の出来ない隠し画像として機能する。また、目視では確認出来ない程度の微細な図形や記号を描くことは誰もが可能な方法ではなく、専門的な知見・技術を必要とする。ゆえに、転写箔が備える光反射領域の形状を図形や記号といった特徴的な形状とすることで、本転写箔の偽造又は模造は困難となる。
【0046】
本発明の転写箔の構造形成層に回折格子が形成してあることにより、本転写箔を用いて回折光として観察できる画像を表現することが可能となる。本発明の転写箔は、熱転写方式を用いて転写できる。ゆえに、本発明の転写箔と一般的なカラーリボンを併用することによって、通常のインクによる画像と回折光として観察できる画像を同一表面上に容易に作製することが可能となる。
【0047】
構造形成層に良好な光学機能を持つ回折格子を形成するためには、専門的な知見・技術を必要とする。ゆえに、転写箔の構造形成層が回折格子を備えることによって、本転写箔の偽造又は模造は困難となる。
構造形成層に形成してある回折格子の空間周波数が少なくとも三種類以上あることにより、ある一定の角度においてR,G,Bの三種類の色を表現することが可能となる。すなわち、空間周波数が三種類以上あることにより、回折光として観察できるフルカラー画像を表現することが可能となり、より高品質な画像を作製可能な転写箔を提供することが可能となる。
【0048】
本発明の転写箔を用いることにより、前記のように、より高解像度な画像を表現する画像表示体を提供することが可能となる。また、該画像表示体は該転写箔から成るため、偽造又は模造が困難となる。
前記したように画像表示体を作製するときに、各転写箔の構造形成層に形成してある回折格子の空間周波数がそれぞれ異なっている複数の転写箔が三つ以上あることにより、ある一定の角度においてR,G,Bの三種類の色を表現することが可能となる。すなわち、回折格子の空間周波数が異なっている複数の転写箔を三つ以上用いることによって、回折光として観察できるフルカラー画像を表現することが可能となる。
【0049】
ディスプレイや印刷においてフルカラーを表現する場合、R,G,Bを表現する微小面積のドットを規則的に配置する方法を用いる。このとき、R,G,Bの三つのドットで一つの画素に相当することになる。
本発明において複数の転写箔を転写する場合、ある空間周波数のドットを転写した箇所と同一の箇所に異なる空間周波数のドットを重ねて転写することが可能となる。前記したように、R,G,Bの三つのドットで一つの画素に相当するが、本発明の場合、ドット一つ分の面積で一つの画素となる。ゆえに、回折格子の空間周波数がそれぞれ異なっている複数の転写箔を三つ以上用いて画像表示体を作製することにより、より高解像度な画像表示体を提供することが可能となる。
【0050】
以上、パスポートとしての情報媒体100を例示したが、情報媒体100について上述した技術は、他の情報媒体に適用することも可能である。例えば、この技術は、査証及びIDカードなどの各種カードに適用することも可能である。
図7に示す情報媒体300には、人物像からなる印刷層21が形成されている。更に、情報媒体300には、画像表示体62が偽造防止用又は識別用として転写されており、画像表示体62の画像も人物像からなっている。図7に示す情報媒体300の場合、印刷層21の印刷画像と画像表示体62の画像は同一となっている。この場合、印刷層21の印刷画像と画像表示体62の画像が同一であることが本物(実物)であるとすると、仮に印刷層21の印刷画像の情報を改竄したとしても、印刷層21と画像表示体62の情報は同一でなければならないため、画像表示体62も同一の絵柄に改竄する必要があり、偽造又は模造は困難となる。
【0051】
また、印刷層21の印刷画像と画像表示体62の画像を見比べることで真贋判定が可能であるため、個人識別を行う審査官に対してより精度のよい認証が可能となる。また、真贋判定の方法は画像を見比べることであり、比較的簡便な方法であるため、審査官に限らず、誰もが真贋判定を簡易に行うことができる。
図7に示す情報媒体300に含まれる画像表示体62は人物像からなる画像で構成されている。この場合、個人認証媒体の偽造又は模造をより困難とすることができるが、個人認証媒体以外の情報媒体に適用することも可能である。
【0052】
画像表示体を貼り付ける基材の材質は、天然の紙及び合成紙などの紙でなくてもよい。例えば、画像表示体62を貼り付ける基材の材質は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(熱可塑性PET)、ポリ塩化ビニル樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂及びポリスチレン樹脂などの合成樹脂、ガラス、陶器及び磁器などのセラミックス、又は、単体金属及び合金などの金属材料であってもよい。
図7では、情報媒体としてパスポート及びIDカードなどの個人認証媒体を例示したが、情報媒体100及び300について上述した技術は、個人認証媒体以外の情報媒体に適用することも可能である。即ち、上述した技術は、個人認証以外の目的で利用してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…折り丁、2…表紙、11…紙片、I1a、I1b、12、13…画像、15…熱圧、16…熱圧を加えた箇所、17…転写箔が転写されてある箇所、21…印刷層、50…転写箔基材、51…剥離層、52…構造形成層、53…光反射領域、54…接着層、55…光反射層、60…転写箔、61…被転写基材、62…画像表示体、100、300…情報媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状またはシート状に形成された被転写基材の表面上に画像表示体の画像構成要素として転写される転写箔であって、転写箔基材と、該転写箔基材の一方の表面上に剥離層を介して積層された構造形成層と、該構造形成層の表面上に形成された光反射層とを備え、該光反射層が前記画像構成要素の画素間隔と同一の間隔で前記構造形成層の表面上にマトリクス状に形成された複数の光反射領域から形成されていることを特徴とする転写箔。
【請求項2】
前記光反射層を前記被転写基材の表面上に接着するための接着層をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の転写箔。
【請求項3】
前記光反射領域の形状が図形又は記号であることを特徴とする請求項1または2に記載の転写箔。
【請求項4】
前記構造形成層に少なくとも1つの回折格子が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の転写箔。
【請求項5】
前記回折格子の空間周波数が少なくとも3種類以上であることを特徴とする請求項4に記載の転写箔。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の転写箔を前記被転写基材の表面上に複数転写してなることを特徴とする画像表示体。
【請求項7】
請求項5に記載の転写箔を前記被転写基材の表面上に複数転写してなることを特徴とする画像表示体。
【請求項8】
前記画像表示体により表示される画像が個人情報を含んだ画像であることを特徴とする請求項6または7に記載の画像表示体。
【請求項9】
前記個人情報を含んだ画像が顔画像であることを特徴とする請求項8に記載の画像表示体。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の画像表示体と、前記画像表示体を支持した物品とを具備したことを特徴とする情報媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−208438(P2012−208438A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75953(P2011−75953)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】