説明

転圧機械の貯水タンク構造

【課題】貯水タンクが車体の高い位置に設置されている場合であっても、コストアップ等の弊害を生じることなく、ホースから注水した水が給水口から逸れて作業者に降りかかる事態を未然に防止でき、もって水の補給作業を容易に実施できる転圧機械の貯水タンク構造を提供する。
【解決手段】車体上に設置された貯水タンク14の上面14eに給水口25を設け、上面14eの給水口25の周囲に排水溝26を凹設して貯水タンク14の後面14bまで延設し、この排水溝26内に繊維状の吸水シート28を配設して、貯水タンク14への水の補給時に給水口25から逸れた水を吸水シート28に浸透させて撥ね返りを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面の舗装工事に用いられる転圧機械に関し、より詳しくは、転圧ローラへの散水や転圧後の路面への散水に使用する水を貯留する貯水タンクの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に路面の舗装工事を行う場合には、振動ローラ車両やタイヤローラ車両等の転圧機械が用いられている。この種の転圧機械は、車体の前側や後側に車輪を兼ねた転圧ローラを備え、アスファルト混合物等の舗装材を敷きつめた路面を走行しながら、転圧ローラによって舗装材を締め固める(以下、この動作を転圧という)ものである。舗装工事の際には、転圧ローラへの舗装材の付着防止等を目的とした転圧ローラへの水の散水、或いは転圧後の路面の冷却硬化促進を目的とした路面への散水が行われ、これらの用途に使用する多量の水は転圧機械に備えられた貯水タンクに貯留される。
【0003】
貯水タンクに貯留された水は、配管を通じて車体上の所定位置に設置されたノズルに供給されて転圧ローラや路面への散水に供されるため、車体上での貯水タンクの設置場所は、例えばパワートレイン等の機械的な構成に比較して自由度が高い。このため、通常はパワートレイン等のレイアウトを優先して決定し、余ったスペースから貯水タンクの設置位置が決定されており、例えば特許文献1に記載された技術では、車体の後部転圧ローラの直上に貯水タンクが設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−82014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、その図1に示されるように、後部転圧ローラの直上に設置されることで貯水タンクが車体上のかなり上部に位置し、水を補給し難いという弊害が生じている。即ち、貯水タンクに補給される水としては、水道水、河川や池の水等が利用されるが、何れにしても水の補給は、水道蛇口や汲み上げポンプからホースを通じて送られる水を貯水タンクの給水口に流し入れることで実施される。ところが、貯水タンク自体の設置位置が高い上に、給水口は貯水タンクの最上部に設けられるため、作業者にとって給水口は非常に高い位置にあり、特に小柄な作業者では給水口を直接的に目視することが困難、若しくは目視できたとしても給水口にホースの先端が辛うじて届く程度であった。このため、ホースから出た水を給水口にうまく定めることができず、しかも給水口から逸れた水は貯水タンクの表面で撥ね返って作業者に降りかかることになり、作業者にとって水の補給作業は非常に行い難いものである上に、不快感を伴う作業でもあった。
【0006】
尚、給水口への注水を容易化するために、貯水タンクの給水口を拡大したり、給水口を斜め側方に開口させたりする対策もあるが、何れの対策でも、給水口から水が逸れるのを完全に防止することはできない。又、給水口までのアクセス性を向上させるべく、転圧機械の貯水タンクの直下にステップを設ける対策もあるが、ステップの増設はコストアップの要因になる上に、車体側方に突出したステップは転圧機械の取回しを悪化させる可能性もある。従って、従来から抜本的な対策が要望されていた。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、貯水タンクが車体の高い位置に設置されている場合であっても、コストアップ等の弊害を生じることなく、ホース等から注水した水が給水口から逸れて作業者に降りかかる事態を未然に防止でき、もって水の補給作業を容易に実施することができる転圧機械の貯水タンク構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、機体上に設置されて上部に給水口を備えた貯水タンクと、貯水タンクに貯留された水を機体に備えられた転圧ローラ又は路面の少なくとも一方に散水する散水手段とを備えた転圧機械において、貯水タンクの表面に上記給水口を取り囲むように排水溝を凹設すると共に、排水溝を下方に延設して機体のフレームに貫設された排水口を介して機体の下方と連通させ、排水溝の少なくとも給水口の周囲と対応するように貯水タンクに水撥ね防止部材を配設したものである。
【0009】
従って、貯水タンクの給水口にホース等により水を補給する際、給水口を逸れた水は周囲の水撥ね防止部材に衝突してはね返りを防止された後、排水溝内を案内されて排出口から機体下方に排出される。よって、水が給水口を逸れたとしても作業者に降りかかる事態が防止されると共に、必ずしも全ての水を給水口に流し込む必要がなくなることから、水の補給作業を容易に実施可能となる。
【0010】
請求項2の発明は、水撥ね防止部材が、内部に水を浸透させる吸水シートであり、排水溝内に配設されているものである。
従って、給水口を逸れた水は吸水シートに浸透して撥ね返りを防止される。
請求項3の発明は、水撥ね防止部材が、水を透過させながら消勢するメッシュパネルであり、排水溝を覆うように貯水タンクの表面に配設されて排水溝の底面との間に所定の間隙を形成しているものである。
【0011】
従って、給水口を逸れた水はメッシュパネルを透過する際に消勢されて、排水溝の底面での撥ね返りを防止される。
請求項4の発明は、貯水タンクが、機体のフレームに設けられたタンク収容部内に収容されて、その底面及び一側面をタンク収容部内の底面及び一側面に当接させた状態で上部をタンク収容部から上方に突出させ、排水溝が、貯水タンクの給水口の周囲から一側面を経て底面まで延設されると共に、タンク収容部の底面及び一側面で閉塞されることによりタンク収容部の底面に貫設された排水口まで延びる通路を形成し、水撥ね防止部材が、排水溝のタンク収容部から外部に露出した部分に配設されたものである。
【0012】
従って、水撥ね防止部材の下側では、排水溝をタンク収容部の底面及び一側面で閉塞することにより通路として機能させているため、貯水タンクには、型抜きが困難な閉断面形状の通路に代えて、開断面形状で型抜き容易な排水溝を凹設するだけでよくなり、貯水タンクを容易に成形可能となる。
請求項5の発明は、タンク収容部が、機体後部に備えられた後部転圧ローラの上方に位置し、タンク収容部の底面の排水口が、後部転圧ローラの直上で、且つ後部転圧ローラの軸心を挟んで給水口への水の補給時の作業者の立ち位置とは反対側に位置するものである。
【0013】
従って、排水口から排出された水は後部転圧ローラ上に落下し、後部転圧ローラの外周面を伝わって水を補給している作業者の立ち位置とは反対側の路面上に落下する。このため、給水口から逸れた水の作業者への降りかかりが防止されるだけでなく、排水口から排出された水についても作業者の足下を濡らすことがなくなる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように請求項1の発明の転圧機械の貯水タンク構造によれば、貯水タンクの給水口の周囲に水撥ね防止部材を配設し、給水口を逸れた水の撥ね返りを防止して案内溝を経て排出口から機体下方に排出するようにしたため、コストアップ等の弊害を回避した上で、たとえ貯水タンクが機体の高い位置に設置されている場合であっても、ホース等から注水した水が給水口から逸れて作業者に降りかかる事態を未然に防止でき、もって水の補給作業を容易に実施することができる。
【0015】
請求項2の発明の転圧機械の貯水タンク構造によれば、請求項1に加えて、水を浸透させる吸水シートにより水の撥ね返りを確実に防止することができる。
請求項3の発明の転圧機械の貯水タンク構造によれば、請求項1に加えて、水を透過させながら消勢するメッシュパネルにより水の撥ね返りを確実に防止することができる。
請求項4の発明の転圧機械の貯水タンク構造によれば、請求項1に加えて、排水溝をタンク収容部の底面及び一側面で閉塞して通路として機能させることにより、貯水タンクの成形を容易に実施でき、ひいては製造コストを低減することができる。
【0016】
請求項5の発明の転圧機械の貯水タンク構造によれば、請求項4に加えて、排水口から排出された水を転圧ローラの外周面を伝わらせて作業者の足下が濡れるのを防止するようにしたため、水の補給作業を一層快適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態の振動ローラを示す正面図である。
【図2】同じく振動ローラを後方より見た側面図である。
【図3】振動ローラの貯水タンクを示す部分平面図である。
【図4】同じく貯水タンクを示す部分側面図である。
【図5】同じく貯水タンクを示す図2のV−V線断面図である。
【図6】ブラケットによる貯水タンクの固定箇所を示す図4のVI−VI線断面図である。
【図7】第2実施形態の振動ローラの貯水タンクを後方より見た部分側面図である。
【図8】同じく貯水タンクを示す図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】メッシュパネルを示す斜視図である。
【図10】同じくメッシュパネルを示す分解斜視図である。
【図11】貯水タンクへのメッシュパネルの固定箇所を示す図7のXI−XI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、本発明を振動ローラの貯水タンク構造に具体化した第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態の振動ローラを示す正面図、図2は同じく振動ローラを後方より見た側面図である。
振動ローラの車体は、前部転圧ローラ1を備えた前部車体2と後部転圧ローラ3を備えた後部車体4とから構成され、これらの前部車体2と後部車体4とは、センタピン5を介して水平方向に屈曲可能なアーティキュレート式に連結され、相互に屈曲することで車両の旋回を行うようになっている。前部転圧ローラ1はほぼ車幅と対応する長さを有する金属ドラムから構成され、前部車体2から下方に延設された左右一対の支持アーム6により回転可能に支持されている。又、後部転圧ローラ3は左右一対づつ計4本のゴムタイヤから構成され、後部車体4に設けられたアクスル7により回転可能に支持されている。
【0019】
前部車体2にはパワーユニットとしてエンジンや油圧ポンプ等の機器が搭載され、図示はしないが、エンジンの駆動により油圧ポンプから吐出される作動油は、アクスル7に接続された走行用モータ及び前部転圧ローラ1内に設けられた振動用モータに供給される。作動油の供給により走行用モータは前部転圧ローラ1及び後部転圧ローラ3を回転駆動して振動ローラを走行させ、振動用モータは路面の転圧時に前部転圧ローラ1を加振する。
【0020】
後部車体4上の前側位置にはステアリング8を備えた操作台9が設置され、操作台9の後側には座席10が設置されている。座席10に着座した作業者はステアリング8及び足下のアクセルペダルやブレーキペダルの操作により振動ローラを走行させ、舗装作業時には前部1及び後部転圧ローラ3により路面の転圧を行なう。
後部車体4を構成する車体フレーム12は、座席10の直下及びその後側においてボックス状のタンク収容部13を形成し、タンク収容部13は座席10の後側で上方に向けて開口すると共に、その底面13aを後部転圧ローラ3上に位置させている。後に詳述するように、タンク収容部13内には貯水タンク14が設置され、貯水タンク14は、前部及び後部転圧ローラ1,3の近傍に配設されたローラ散水ノズル15(散水手段)が配管及び給水ポンプを介して接続されている。貯水タンク14には水が貯留され、舗装作業時には前部及び後部転圧ローラ1,3への舗装材の付着防止を目的として、貯水タンク14内の水が給水ポンプにより各散水ノズルに供給されてローラ1,3や路面へと散水される。
【0021】
尚、図2中の16は方向指示器及びブレーキランプからなる灯火類である。
次に、本発明の特徴部分である貯水タンク14の構造について述べる。
図3は振動ローラの貯水タンクを示す部分平面図、図4は同じく貯水タンクを示す部分側面図、図5は同じく貯水タンクを示す図2のV−V線断面図、図6はブラケットによる貯水タンクの固定箇所を示す図4のVI−VI線断面図である。
【0022】
図3〜5に示すように、貯水タンク14は基本的にタンク収容部13の開口部と対応する直方体状をなしてタンク収容部13内に配置され、その上部約半分は開口部より上方に突出して座席10の後方に位置している。尚、タンク収容部13内の底面13a及び後面13bには緩衝用のラバー21が接着され、これらのラバー21を介して貯水タンク14の底面14aがタンク収容部13の底面13aに当接し、貯水タンク14の後面14b(一側面)がタンク収容部13の後面13b(一側面)に当接している。タンク収容部13内において貯水タンク14の下部は前方に向けて延設されて延設部14cを形成し、結果として座席10直下のタンク収容部13のデッドスペースが延設部14cによる貯水タンク14の増量に有効利用されている。
【0023】
タンク収容部13内の底面13aには規制片22が左右2枚ずつ間隔をおいて溶接され、これらの規制片22は貯水タンク14の左右両側に当接して左右方向への移動を規制している。又、タンク収容部13内の底面にはブラケット23がボルト23a及びナット23bで固定され、ブラケット23は貯水タンク14の延設部14cに前方から当接してタンク収容部13の後面13bとの間で貯水タンク14の前後方向への移動を規制すると共に、後方に屈曲したブラケット23の上端は延設部14cに上方から当接して浮き上がりを防止している。図4,6に示すように、タンク収容部13の後面13bには一対のブラケット24が左右に間隔をおいてボルト24a及びナット24bで固定され、前方に屈曲したブラケット24の上端は、貯水タンク14の後面14bに凹設された掛止部14dに上方から当接して浮き上がりを防止している。以上の構成により、貯水タンク14はタンク収容部13内に固定されている。
【0024】
貯水タンク14の上面14eには脱着可能なキャップ25aを備えた給水口25が設けられ、図2に示すように、給水口25の左右方向の位置は車体中心に対して左側にオフセットされている。貯水タンク14の上面14eには給水口25を取り囲むように所定深さの排水溝26が凹設され、図5に示すように排水溝26は貯水タンク14の上面14e上で後方に延設され、後面14bを経て底面14aまで延設されている。貯水タンク14の上面14eは後方に下るように若干傾斜しており、これと同角度で排水溝26内の底面26aも傾斜している。貯水タンク14は熱可塑性樹脂を材料としてブロー成形により製作されており、その際に上記給水口25や排水溝26も一体で形成されている。但し、貯水タンク14の製法はこれに限ることはなく、樹脂材料の種類や成形方法を変更したり、鋼板をプレス成型したパーツを溶接接合して製作したりしてもよい。
【0025】
図2,4に示すように、排水溝26の左右幅は、貯水タンク14の上面14e及び後面14bのタンク収容部13から外部に露出した部分では一定幅を保ち、その下側で急激に縮小した後に一定幅で底面14aまで延びている。貯水タンク14の底面14a及びタンク収容部13の底面13aには排水溝26と対応してドレン孔27(排水口)が貫設され、排水溝26はドレン孔27を介して車体下方の後部転圧ローラ3側と連通している。ドレン孔72は、図4に示すように左右方向では後部転圧ローラ3の左内輪の直上に位置し、且つ、図5に示すように前後方向では後部転圧ローラ3の軸心Cよりもオフセット量αだけ前側、換言すれば、軸心Cを挟んで水の補給作業を行うときの作業者の立ち位置とは反対側に位置している。
【0026】
貯水タンク14の上面14eから後面14bに亘る幅広の箇所において、排水溝26内には吸水シート28(水撥ね防止部材)が配設されている。吸水シート28は、図3,4に示すように排水溝26と対応する形状をなすと共に、図5の側面視に示すように貯水タンク14の上面14e及び底面14bと対応して略直角に屈曲し、上部に貫設された係止孔28aを給水口25に嵌め込むことにより排水溝26内に保持されている。吸水シート28の厚みは排水溝26の深さよりも若干薄く、吸水シート28の下端は排水溝26の底面26aとタンク収容部13の後面13bとの間に上方より挿入されている。尚、吸水シート28の固定はこれに限ることはなく、例えば排水溝26の底面26aに接着剤で接着してもよい。
【0027】
結果として、給水口25からドレン孔27までの排水溝26全体の内、タンク収容部13から外部に露出した部分は全て吸水シート28で覆われ、その下側の部分は、タンク収容部13の内面(後面13a及び底面13b)で閉塞されることによりドレン孔27まで延びる通路を形成している。
本実施の形態の吸水シート28は、吸水性に富んだ素材、例えばスポンジで製作されている。但し、吸水シート28の材質はこれに限ることはなく、例えば麻等で織った布、或いは不織布等を用いてもよい。又、以下の説明から明らかなように、吸水シート28の作用は、衝突した水を内部に浸透させて撥ね返りを抑制するものであるため、本実施の形態のようにある程度の厚みを有することが望ましい。
【0028】
次に、以上のように構成した振動ローラの貯水タンク構造による作用を説明する。
上記したように舗装工事の際にはローラ散水ノズル15及び路面散水ノズルからローラ1,3や転圧後の路面への散水を実施するため、工事に先立って貯水タンク14には水が補給される。水の補給はホースからの水を貯水タンク14の給水口25に流し入れることで行われるが、図1から明らかなように、貯水タンク14自体が後部転圧ローラ3上の高い位置に設置されている上に、給水口25は貯水タンク14の最上部に設けられている。このため、従来技術として述べた特許文献1の技術では、ホースから出た水を給水口25にうまく定めることができず、しかも給水口25から逸れた水が作業者に降りかかるという問題を生じた。そこで、従来対策のようにホースからの水が給水口25から逸れることを防止するのではなく、給水口25から逸れた水が作業者に降りかかるのを防止することにより問題解決を図ったものが本実施の形態である。
【0029】
即ち、ホースからの水が給水口25を逸れることはあるものの、逸れた水は給水口25の周囲の吸水シート28に衝突し、スポンジからなる吸水シート28は衝突した水を撥ね返すことなく内部に浸透させる。吸水シート28に浸透した水は排水溝26に案内されながら、底面26aの傾斜に倣って後方に下るように移動した後に下方に移動し、吸水シート28の下端より排水溝26内に滴り落ちる。落ちた水は、タンク収容部13の内面により閉塞された排水溝26内を下方に移動した後に前方に移動し、ドレン孔27を経て下方に排出されて後部転圧ローラ3の左内輪上に落下する。このときの落下位置は軸心Cよりも前側であることから、水は後部転圧ローラ3の外周面を伝わって前方の路面上、即ち水の補給作業を行っている作業者の立ち位置とは反対側の路面上に落下する。
【0030】
このため、給水口25から逸れた水が作業者に水が降りかかる事態を防止できることは勿論、ドレン孔27から排出された水についても作業者の足下を濡らすことはなく、結果として水の補給作業を快適に実施することができる。特に本実施の形態のような振動ローラでは、後部転圧ローラ3の外周面が路面の転圧を目的として矩形断面をなしているため、通常の円弧断面のタイヤと比較して外周面を伝わる水が左右に逸れ難く、水を確実に前方の路面上に案内して上記効果を得ることができる。
【0031】
又、このように給水口25から水が逸れたとしても作業者に影響はないため、必ずしも全ての水を給水口25に流し込む必要がなくなる。従って、給水口25の形状変更やステップ増設等の従来対策を不要とした上で、たとえ貯水タンク14の給水口25が作業者にとって高い位置にある場合であっても、水の補給作業を極めて容易に実施することができる。
【0032】
更に、吸水シート28の下端より下側では、排水溝26をタンク収容部13の後面13a及び底面13bで閉塞することにより通路として機能させている。このため貯水タンク14には、水の案内のために型抜きが困難な閉断面形状の通路を設ける必要がなくなり、これに代えて開断面形状で型抜きが容易な排水溝26を凹設するだけでよい。従って、ブロー成形等の簡易な成形方法で貯水タンク14を成形可能となり、ひいては製造コストを低減できるという利点を有する。
[第2実施形態]
次に、本発明を別の振動ローラの貯水タンク構造に具体化した第2実施形態を説明する。
【0033】
本実施の形態の振動ローラは第1実施形態で述べたものと基本的な構成は同一であり、相違点は貯水タンク14周辺の構造にある。そこで、共通する構成の箇所には同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
図7は本実施形態の振動ローラの貯水タンク14を後方より見た部分側面図、図8は同じく貯水タンクを示す図7のVIII−VIII線断面図である。本実施の形態でも、排水溝26を含めた貯水タンク14の形状やタンク収容部13への設置状態等に関しては第1実施形態と同様であり、相違点は、第1実施形態の吸水シート28に代えて排水溝26にメッシュパネル31(水撥ね防止部材)を配設した点にある。
【0034】
第1実施形態で述べたように、排水溝26は貯水タンク14の上面14e、後面14b、底面14aに亘って形成されており、その排水溝26のタンク収容部18内から外部に露出した部分を覆うようにメッシュパネル31が配設されている。即ち、メッシュパネル31は、図8の側面視に示すように貯水タンク14の上面14e及び底面14bと対応して略直角に屈曲すると共に、図7,8に示すように前端及び左右両端を貯水タンク14の表面に重ね合わせて配設されている。
【0035】
図9はメッシュパネル31を示す斜視図、図10は同じくメッシュパネル31を示す分解斜視図、図11は貯水タンク14へのメッシュパネル31の固定箇所を示す図7のXI−XI線断面図である。メッシュパネル31は、周囲の枠体32と枠体32に張られた網材33とから構成されている。枠体32はPL材(SS400)等の鋼板やステンレス板を素材として、略直角に屈曲した四角枠状にプレス加工されると共に、所定間隔で取付用のビス孔32aが貫設されており、鋼材の場合には腐食防止のためにメッキ処理や塗装処理が施されている。網材33は、ステンレス製の線材を平織りして製作されており、枠体32の内側よりも若干大きな四角状をなして、貯水タンク14の給水口25が挿通される逃げ孔33aが形成されている。網材33は、その周囲を枠体31aの表面に重ね合わせて所定間隔で点付け溶接(溶接箇所を図11にWDで示す)されている。
【0036】
以上のように構成されたメッシュパネル31は、枠体32の前端及び左右両端を貯水タンク14の表面に重ね合わせて配設され、貯水タンク14の給水口25はメッシュパネル31の網材33の逃げ孔33aを介して上方に突出し、そのキャップ25aを外して任意に給水し得る。図11に示すように、貯水タンク14の表面には、枠体32の各ビス孔32aに対応して肉厚部34及びねじ孔35が形成され、枠体32の各ビス孔32aを介してビス36をねじ孔35に螺合させることにより、メッシュパネル31が貯水タンク14の表面に固定されている。
【0037】
結果として、排水溝26のタンク収容部13から外部に露出した部分は給水口25を除いて全てメッシュパネル31の網材33で覆われると共に、排水溝26の底面26aと網材33との間には排水溝26の深さ相当の間隙Lが形成されている。尚、メッシュパネル31の下端は、貯水タンク14の後面14bとタンク収容部13の後面13bとの間に上方より挿入されている。
【0038】
本実施の形態では、排水溝26の底面26aと網材33との間隙Lを20mmに設定し、網材33を構成する各線材の横間隔Lx及び縦間隔Lyを共に1〜3mmの範囲内で設定している。以下の説明から明らかなように、メッシュパネル31の作用は、排水溝26に対して出入りする水を透過させながら消勢するものであり、このような作用が最大限に発揮されるように上記各要件L,Lx,Lyが設定されている。
【0039】
尚、メッシュパネル31の構成は上記に限ることはなく、水の消勢作用と共に、耐腐食性やホースノズルの衝突等に耐え得る強度を有するものであれば、任意に変更可能である。従って、例えば網材33を綾織りとしたり、その材質を合成樹脂材料に変更したり、或いは網材33の素材として、鋼板に千鳥状の切れ目を入れて引き延ばしながら編み目を形成したエキスパンドメタルを使用したりしてもよい。エキスパンドメタルのようにある程度の剛性を有する素材であれば、枠体32を用いることなくエキスパンドメタル自体を直接的に貯水タンクの表面に固定してもよい。又、各要件L,Lx,Lyに関しても、必ずしも上記に限ることはなく任意に変更可能である。
【0040】
次に、以上のように構成した振動ローラの貯水タンク構造による作用を説明する。
本実施の形態も第1実施形態と同じく、給水口25から水が逸れるのを防止せず、逸れた水が作業者に降りかかるのを防止する発想のものであるが、水の降りかかりを防止する原理が相違している。即ち、給水口25を逸れた水は周囲のメッシュパネル31の網材33に衝突し、その無数の編み目を透過して排水溝26内に流入する際に消勢される。このため、編み目を透過した水の大部分は排水溝26の底面26aで撥ね返ることなく、そのまま底面26aの傾斜に倣って後方に下った後に排水溝26内を案内されてドレン孔27まで移動し、その後は第1実施形態で述べたように、後部転圧ローラ3の外周面を伝わって作業者の立ち位置とは反対側の路面上に落下する。
【0041】
一方、メッシュパネル31の網材33を経て排水溝26内に流入した水の一部は底面26aで撥ね返るものの、その勢いが弱い上に、撥ね返って網材33に到達したとしても再び編み目を透過する際に更に消勢されるため、外部に飛散して作業者に降りかかることはない。結果として給水口25から逸れた全ての水は作業者に水が降りかかることも、作業者の足下をぬらすことも一切なく、水の補給作業を快適に実施できると共に、ホースからの水が給水口25を逸れても問題ないことから、水の補給作業を極めて容易に実施することができる。
【0042】
以上で実施の形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば上記各実施の形態では、振動ローラの貯水タンク構造に具体化したが、適用対象はこれに限ることはなく、路面や転圧ローラへの散水のために貯水タンク14を備えた転圧機械であれば任意に変更可能である。よって、例えばタイヤローラやマカダムローラの貯水タンク構造として具体化してもよい。当然ながら、貯水タンク14の搭載位置に関しても上記各実施の形態に限定されるものではなく、例えば前部車体2に貯水タンク14を搭載してもよい。
【0043】
又、上記第1実施形態では貯水タンク14の排水溝26内に吸水シート28を配設し、第2実施形態では排水溝26を覆うようにメッシュパネル31を配設したが、何れの場合も排水溝26は必ずしも必要はなく省略してもよい。例えば第1実施形態では、給水口25を取り囲むように貯水タンク14の表面に吸水シート28を貼着するだけでもよいし、第2実施形態では、貯水タンク14の表面にスペーサを介して間隙を形成した状態でメッシュパネル31を固定するだけでもよい。但し、各実施の形態の説明から明らかなように、排水溝26は吸水シート28に浸透した水やメッシュパネル31の編み目を透過した水を下方に案内することにより、作業者への水の降りかかりをより確実に防止する役割を果たすため、排水溝26を形成した実施の形態が最も望ましい。
【0044】
又、上記各実施の形態では、吸水シート28の下端より滴り落ちた水、或いはメッシュパネル31を経て排水溝26内に流入した水を、排水溝26からドレン孔27を経て後部転圧ローラ3上に排出した後、後部転圧ローラ3の外周面に沿って路面に落下させたが、必ずしもこのように構成する必要はない。例えばドレン孔27から直接的に路面に水を排出してもよいし、排水溝28の形成を吸水シート28やメッシュパネル31の下端までとし、その開口端より水を直接的に路面に排出してもよい。これらの場合には、後部転圧ローラ3による水の案内作用は得られないが、排水溝26により水が下方に案内されるため、作業者に水が降りかかる事態は確実に防止できる。
【符号の説明】
【0045】
1 前部転圧ローラ
3 後部転圧ローラ
12 フレーム
13 タンク収容部
13a,14a 底面
13b,14b 後面(一側面)
14 貯水タンク
15 ローラ散水ノズル(散水手段)
25 給水口
27 ドレン孔(排水口)
28 吸水シート(水撥ね防止部材)
31 メッシュパネル(水撥ね防止部材)
C 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体上に設置されて上部に給水口を備えた貯水タンクと、
上記貯水タンクに貯留された水を上記機体に備えられた転圧ローラ又は路面の少なくとも一方に散水する散水手段と
を備えた転圧機械において、
上記貯水タンクの表面に上記給水口を取り囲むように排水溝を凹設すると共に、該排水溝を下方に延設して上記機体のフレームに貫設された排水口を介して該機体の下方と連通させ、該排水溝の少なくとも上記給水口の周囲と対応するように上記貯水タンクに水撥ね防止部材を配設したことを特徴とする転圧機械の貯水タンク構造。
【請求項2】
上記水撥ね防止部材は、内部に水を浸透させる吸水シートであり、上記排水溝内に配設されていることを特徴とする請求項1記載の転圧機械の貯水タンク構造。
【請求項3】
上記水撥ね防止部材は、水を透過させながら消勢するメッシュパネルであり、上記排水溝を覆うように上記貯水タンクの表面に配設されて該排水溝の底面との間に所定の間隙を形成していることを特徴とする請求項1記載の転圧機械の貯水タンク構造。
【請求項4】
上記貯水タンクは、上記機体のフレームに設けられたタンク収容部内に収容されて、その底面及び一側面を上記タンク収容部内の底面及び一側面に当接させた状態で上部を該タンク収容部から上方に突出させ、
上記排水溝は、上記貯水タンクの給水口の周囲から上記一側面を経て底面まで延設されると共に、上記タンク収容部の底面及び一側面で閉塞されることにより該タンク収容部の底面に貫設された上記排水口まで延びる通路を形成し、
上記水撥ね防止部材は、上記排水溝の上記タンク収容部から外部に露出した部分に配設されたことを特徴とする請求項1記載の転圧機械の貯水タンク構造。
【請求項5】
上記タンク収容部は、上記機体後部に備えられた後部転圧ローラの上方に位置し、
上記タンク収容部の底面の排水口は、上記後部転圧ローラの直上で、且つ該後部転圧ローラの軸心を挟んで上記給水口への水の補給時の作業者の立ち位置とは反対側に位置することを特徴とする請求項4記載の転圧機械の貯水タンク構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−1771(P2011−1771A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146396(P2009−146396)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】