説明

転圧車両における散水タンク周りの構造

【課題】散水タンクに高剛性処理を要することなく、かつ美観を損なうことなく、散水タンクをがたつきなく車体に取り付ける。
【解決手段】下部が正面縁板8eに固定され、上部には側縁面13の上方に位置する把持部14を有した手摺り部材9を備え、把持部14の底面部14aは、側縁面13と当接することにより散水タンク4の上方向の移動を規制するストッパを構成し、把持部14の上面部14bは、運転者の肘掛けを構成し、把持部14の側面部14cは、運転者の転落防止壁を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト路面の転圧施工等に使用される転圧車両において、搭載する散水タンク周りの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に転圧車両には散水装置が装備されており、ローラ或いは路面に臨む位置に配置した噴射ノズルから水を噴射させ、ローラ表面へのアスファルト合材等の付着を防止している。搭載する散水タンクの配置例としては、省スペース化を図って運転席の下部スペースを利用する場合が挙げられ、その具体例が特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、同文献の符号を付して説明すると、水タンク3の前面及び後面に左右一対の取り付け溝4、5が形成され、略L字形状のブラケット6、7の一端側をそれぞれ取り付け溝4、5に挿嵌し、他端側を正面板2d、背板2cにボルト締結することで、水タンク3を後部フレーム2に固定する。水タンク3には、前面上部と上面前寄りとにかけて凹部8が形成され、この凹部8に運転席としての座部シート15及び背部シート16を取り付ける。
【特許文献1】特開平11−140814号公報(段落[0017]、[0018]、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では次のような問題が挙げられる。
(1)特許文献1の技術では、車体フレーム2の上縁近傍に位置した取り付け溝4、5に前記ブラケット6、7を挿嵌する構造であるため、水タンク3の固定点が4箇所全てにおいて着座位置よりも低い位置となっている。水タンク3は運転者の背中の支持機能や水の容量確保の点から高さのある部材であることから、特許文献1の技術のように固定点が低い箇所に形成される場合には、水タンク3のがたつきや振動を防止するために水タンク3に高い剛性を要するという問題がある。取り付け溝4、5の形成位置を高くするなどの対策も考えられるが、その場合、ブラケット6、7も上方に位置することになり、このような水タンク3の固定機能のみを有するブラケットを目につきやすい上方で露出させることは美観上好ましいことではない。
【0005】
(2)転圧車両は、例えば縁石の際ぎりぎりにローラを寄せて転圧施工する場合があることから、運転席からの車体側部周りの路面に対する視認性が特に重要であり、なるべく手前まで直視で見下ろせるように運転席は地面から高い位置に形成される。そのため、ほとんどの転圧車両の側部には乗降用のステップが設けられている。前記ステップを介して乗り降りする際の手掛けとして、特許文献1では、水タンク3の両側に形成した肘掛け部9a、9bの内側面に、凹状の溝からなる把手9cを形成している。しかし、この構造では、把手9cが肘掛け部9a、9bの内側面に形成されることから、地面側からは把手9cを視認できず、車両に乗り込む際には把手9cを手探りする必要があったり、車両に不慣れな作業者にとっては把手9cの存在に気づかないことも考えられる。また、溝からなる把手9cでは手の握り状態が中途半端になりやすく、乗降時の体重移動が不安定になりやすいという問題もある。
【0006】
(3)転圧車両では運転席からの車体側部周りの路面に対する視認性が重要であるところ、特許文献1の技術では、水タンク3に一体に形成した肘掛け部9a、9bが運転者の視界を遮りやすいという問題がある。また、前記したように縁石の際ぎりぎりにローラを寄せて転圧施工する場合などには、運転者は運転席の端に腰掛けて身を乗り出すようにしてローラと縁石との間隔を目視で確認しつつ車両を走行させることが多く、肘掛け部9a、9bはそのときの運転者の転落防止の機能も担う。当該機能からすれば、肘掛け部9a、9bの高さは高いほどよいが、そうすると通常運転時における運転者の視認性が低下してしまう。つまり、運転者の転落防止として水タンク3の側壁を利用する構造では、側壁を高くすると視認性が低下し、側壁を低くすると転落防止機能が低下することになってしまう。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために創案されたものであり、散水タンクに高剛性処理を要することなく、かつ美観を損なうことなく、散水タンクをがたつきなく車体に取り付け可能とする転圧車両における散水タンク周りの構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、横方向に沿って形成される着座部と縦方向に沿って形成される背支持部とを有し、前記着座部の両側には散水タンクの側縁面が上方に向けて露出するように形成された散水タンク周りの構造であって、下部が車体フレームに固定され、上部には前記側縁面の上方に位置する把持部を有した手摺り部材を備え、前記把持部の底面部は、前記側縁面と当接することにより散水タンクの上方向の移動を規制するストッパを構成し、前記把持部の上面部は、運転者の肘掛けを構成し、前記把持部の側面部は、運転者の転落防止壁を構成することを特徴とする転圧車両における散水タンク周りの構造とした。
【0009】
この散水タンク周りの構造によれば、次のような効果が奏される。
(1)乗降用の手摺りとして機能する手摺り部材に、散水タンクの固定機能、具体的には散水タンクの上方向への移動規制機能を兼ねさせた構造となるので、散水タンクの固定点(移動規制ポイント)を従来よりも高い位置に持ってきても、美観が損なわれることがない。したがって、固定点を高くできることで、散水タンクに高剛性を要することなく、散水タンクのがたつきや振動を抑制できる。
(2)把持部が側縁面の上方に位置するので、地面側から把持部を容易に視認でき、乗降時の利便性が向上する。また、把持部として、散水タンクとは別部材である手摺り部材に形成したことにより、把持部のレイアウト設計や形状設計に関する自由度が広がり、その分、手の握り具合を良好にすることができ、乗降時の体重移動を安定化させることができる。
【0010】
また、本発明においては、前記把持部は中空閉断面部を有し、運転者がこの中空閉断面部を通して車両の側方を見下ろせるように構成されていることを特徴とする転圧車両における散水タンク周りの構造とした。
【0011】
この散水タンク周りの構造によれば、前記(1)、(2)の効果に加えて、次の効果が奏される。
(3)肘掛けおよび転落防止壁の機能を担う把持部は、本来であれば運転席からの車体側部周りの路面に対する視認性を低下させるところ、車両の側方を見下ろせる中空閉断面部を形成したことで、肘掛けおよび転落防止壁の機能と車両側方の視認性の機能の両立が図れる。また、中空閉断面部を形成することで、把持部の剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、散水タンクに高剛性処理を要することなく、かつ美観を損なうことなく、散水タンクをがたつきなく車体に取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明を適用した転圧車両の外観斜視図、図2ないし図4はそれぞれ本発明に係る散水タンク周りの構造を示す正面図、側面図、分解斜視図である。
【0014】
図1に示した転圧車両1は、アスファルト路面の転圧施工等に使用される車両であり、転圧輪である前ロール2、後ロール3としてそれぞれ鉄輪、タイヤを備えた、いわゆるコンバインド型ローラである。車両の後方上部には、運転席を形成する散水タンク4が搭載される。運転フロア6は地面から高いところに位置しており、車両の側部には、運転フロア6に対する乗降用の乗降ステップ7が形成されている。
【0015】
図2ないし図4、特に見易さの点から図4を参照して説明すると、車両の後方上部における車体フレームは、散水タンク4が載置される矩形状の底板8aと、底板8aから立ち上がり形成される左右一対の側板8b、背板8c、正面板8d、各側板8bの前縁から車幅方向内側に屈曲された一対の正面縁板8eとを有して、上面を開口させた略箱形状を呈しており、この内部空間に散水タンク4の下部が上方から挿嵌される。
【0016】
散水タンク4は、横方向に沿って形成される着座部と縦方向に沿って形成される背支持部とを有する。背支持部の形成方向は鉛直である場合に限られず、傾斜面として形成される場合も含まれる。散水タンク4は、その前面から上面にかけて凹状に形成されており、その凹状空間における底面に前記着座部としての座部シート10が取り付けられるとともに、凹状空間における背面に前記背支持部としての背部シート11が取り付けられる。座部シート10の両側には、散水タンク4の側縁面13が上方に向けて露出するように形成される。側縁面13は略水平状をなす面であって、座部シート10の座面とほぼ同じ高さに位置する。図面では、側縁面13の高さを座部シート10の座面よりも若干低くした場合を示している。
【0017】
散水タンク4は、硬質ポリエチレン等の合成樹脂材料で成形されており、上部には蓋12を有した給水口が形成されている。散水タンク4に対する座部シート10、背部シート11の取り付けは公知の手段を用いているため、ここではその説明を省略する。
【0018】
本実施形態において、車体フレームに対する散水タンク4の固定手段として、散水タンク4の後面側に関しては特許文献1に記載の手段を採用している。すなわち、図3に示すように散水タンク4の後面に左右一対からなる取り付け溝4aを形成し、屈曲形成された帯状板からなるブラケット5の一端側を取り付け溝4aに挿嵌し、他端側を背板8cにボルト締めしている。
【0019】
本発明に係る散水タンク周りの構造は、下部が車体フレーム(正面縁板8e)に固定され、上部には側縁面13の上方に位置する把持部14を有した手摺り部材9を備える。手摺り部材9は、各側縁面13に対応して一対として設けられる。手摺り部材9は、帯状平板の基板部9aと、基板部9aの一面から略直交して立ち上がる壁板部9bと、壁板部9bを隔てて基板部9aと略平行に延設される外板部9cとを有している。基板部9aの一端には、長孔からなる2つのボルト通し孔9dが穿設されており、ボルト15により基板部9aの下部が正面縁板8eに締結固定される。これにより、基板部9a、壁板部9b、外板部9cは後ろ斜め上方に向けて延設される。
【0020】
外板部9cの上端は後方に向けて水平状に屈曲形成されて上面部14bをなす。この上面部14bの下面後端から基板部9aの長手方向中程にかけて、略L字状に屈曲形成された支持板16が掛け渡され、溶接等により固定されている。支持板16の下部の水平面は底面部14aをなす。以上により、上面部14bと支持板16とが把持部14を構成するものであり、基板部9aの上部と上面部14bと支持板16とに囲まれるようにして中空閉断面部17が形成される。なお、手の握り具合を良好にするためには、上面部14b、支持板16の幅寸法を3〜6センチメートル内に設計することが好ましい。
【0021】
また、本実施形態において、手摺り部材9を構成する各板材は鋼板等からなり、防錆性や握り時の触感などを考慮して、全体的にラバーコーティングが施されている。
【0022】
そして、本発明では、把持部14の底面部14aが、側縁面13と当接することにより散水タンク4の上方向の移動を規制するストッパを構成し、把持部14の上面部14bが運転者の肘掛けを構成し、把持部14の側面部14cが運転者の転落防止壁を構成するものである。底面部14aと側縁面13とは密接させてもよいし、若干の隙間を空けて対向させてもよい。
【0023】
本発明によれば、次のような効果が奏される。
(1)乗降用の手摺りとして機能する手摺り部材9に、散水タンク4の固定機能、具体的には散水タンク4の上方向への移動規制機能を兼ねさせた構造となるので、散水タンク4の固定点(移動規制ポイント)を従来よりも高い位置に持ってきても、美観が損なわれることがない。したがって、固定点を高くできることで、散水タンク4に高剛性を要することなく、散水タンク4のがたつきや振動を抑制できる。
【0024】
(2)把持部14が側縁面13の上方に位置するので、地面側から把持部14を容易に視認でき、乗降時の利便性が向上する。また、把持部14として、散水タンク4とは別部材である手摺り部材9に形成したことにより、把持部14のレイアウト設計や形状設計に関する自由度が広がり、その分、手の握り具合を良好にすることができ、乗降時の体重移動を安定化させることができる。
【0025】
(3)肘掛けおよび転落防止壁の機能を担う把持部14は、本来であれば運転席からの車体側部周りの路面に対する視認性を低下させるところ、本発明では、中空閉断面部17を形成したことで、図5に示すように、運転者はこの中空閉断面部17を通して車両の側方を見下ろせることができるようになる。これにより、肘掛けおよび転落防止壁の機能と車両側方の視認性の機能の両立が図れる。また、中空閉断面部17を形成することで、把持部14の剛性を高めることができる。
【0026】
以上、本発明について最適な実施形態を説明した。本発明は図面に記載したものに限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で適宜に設計変更が可能である。発明対象となる転圧車両としては、散水タンクを搭載したものであればその型式は問われないのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を適用した転圧車両の外観斜視図である。
【図2】本発明に係る散水タンク周りの構造を示す正面図である。
【図3】本発明に係る散水タンク周りの構造を示す側面図である。
【図4】本発明に係る散水タンク周りの構造を示す分解斜視図である。
【図5】運転者が中空閉断面部を通して車両の側方を見下ろした状態を示す作用説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 転圧車両
4 散水タンク
6 運転フロア
7 乗降ステップ
9 手摺り部材
10 座部シート(着座部)
11 背部シート(背支持部)
13 側縁面
14 把持部
14a 底面部
14b 上面部
14c 側面部
17 中空閉断面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向に沿って形成される着座部と縦方向に沿って形成される背支持部とを有し、前記着座部の両側には散水タンクの側縁面が上方に向けて露出するように形成された散水タンク周りの構造であって、
下部が車体フレームに固定され、上部には前記側縁面の上方に位置する把持部を有した手摺り部材を備え、
前記把持部の底面部は、前記側縁面と当接することにより散水タンクの上方向の移動を規制するストッパを構成し、
前記把持部の上面部は、運転者の肘掛けを構成し、
前記把持部の側面部は、運転者の転落防止壁を構成することを特徴とする転圧車両における散水タンク周りの構造。
【請求項2】
前記把持部は中空閉断面部を有し、運転者がこの中空閉断面部を通して車両の側方を見下ろせるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の転圧車両における散水タンク周りの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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