説明

転座遺伝子の検出方法

【課題】転座パートナーが複数種類存在する場合であっても、転座パートナーの種類に関わらず、全ての転座遺伝子を簡便に検出することができる、転座遺伝子の検出方法を提供すること。
【解決手段】転座遺伝子の検出方法は、切断点を境界として2種類の異なる遺伝子が融合した転座遺伝子の検出方法であって、正常型遺伝子において切断点に対応する位置よりも上流に存在する第1の領域を増幅する定量的核酸増幅法と、正常型遺伝子において切断点に対応する位置よりも下流に存在する第2の領域の増幅する定量的核酸増幅法とを被検試料から抽出した遺伝子又はその転写物に対して行い、前記第1及び第2の領域の存在比率を測定する工程を含む。この存在比率が、正常型遺伝子における存在比率と異なることが転座遺伝子の存在を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転座遺伝子の検出方法に関する。本発明の方法は、転座パートナーが複数存在することが知られている転座遺伝子の検出に有用である。
【背景技術】
【0002】
転座遺伝子の検出法はFluorescence in situ hybridization(FISH)法が主に用いられているが操作が煩雑でコストが高い。近年ではエキソンアレイや次世代シーケンサーで網羅的に転座を検出する方法も開発されているが、FISH以上に操作が煩雑で高コストな実験法である。安価で簡便な検出法の開発が期待されている。
【0003】
受容体型チロシンキナーゼである未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase(ALK))は、リガンドとの相互作用によりJAK/STAT、Ras/MAPK、PI3K経路を活性化させ、細胞の増殖に寄与する。癌ではしばしばALKの遺伝子異常が報告されている。特に、遺伝子変異と染色体転座は癌原性が高く重要である。ALKの変異は神経芽腫で報告されている(非特許文献1〜4)。一部の変異はALKの恒常的な活性化を引き起こし、癌細胞の増殖に関与する。また、ALK転座については1994年に初めて非ホジキンリンパ腫においてNPM-ALKが発見された(非特許文献5)。それ以降、ALKの様々な転座パートナーが報告されている。2007年には初めてリンパ腫以外の癌、肺癌においてEML4との転座遺伝子EML4-ALKが報告された(非特許文献6)。これらのALK転座遺伝子はリガンド非依存的にホモダイマーを形成することにより恒常的に活性化する。EML4-ALKを導入したトランスジェニックマウスは生後二週間で腫瘍を形成することから、極めて癌原性が高いと考えられる(非特許文献7)。
【0004】
近年、チロシンキナーゼを標的とした癌の分子標的薬が注目されており、様々な臨床試験が行われている。ALKに対する阻害剤の研究開発も進行中であり、臨床試験が進められているものもある。前述したトランスジェニックマウスにALK阻害剤を投与すると、腫瘍が速やかに消失したことからALK転座症例の肺癌治療においてALK阻害剤が有効であると考えられる。これらのことからALK転座の有無を検出することは、ALK阻害剤の投与を決定するうえで非常に重要である。
【0005】
従来から、転座遺伝子の検出方法として、PCR等の核酸増幅法を用いる方法が知られている。この方法は、転座遺伝子の切断点(2種の遺伝子が結合している境界部位)の上流側にフォワード側プライマーを設定し、下流側にリバース側プライマーを設定し、これらのプライマーを用いて切断点を跨がる領域を増幅させる方法である。
【0006】
しかしながら、この方法では、転座パートナーが複数種類存在する場合(例えば、ALK遺伝子の転座では、転座パートナーが11種類知られている)、それぞれの転座パートナーごとにプライマーを設定する必要があり、不便である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】George RE et al. Nature. 455: 975-978, 2008.
【非特許文献2】Chen Y et al. Nature. 455: 971-974, 2008.
【非特許文献3】Janoueix-Lerosey I et al. Nature. 455: 967-970, 2008.
【非特許文献4】Mosse YP et al. Nature. 455: 930-935, 2008.
【非特許文献5】Morris SW et al. Science. 263: 1281-1284, 1994
【非特許文献6】Soda M et al. Nature. 448: 561-566, 2007.
【非特許文献7】Soda M et al. Proc Natl Acad Sci USA. 105: 19893-19897, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、転座パートナーが複数種類存在する場合であっても、転座パートナーの種類に関わらず、全ての転座遺伝子を簡便に検出することができる、転座遺伝子の検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、正常型遺伝子において、切断点よりも上流側の領域と下流側の領域のそれぞれを定量的核酸増幅法により増幅させ、測定されたそれぞれの領域の存在比率を求めると、被験試料から抽出された遺伝子が転座を有さない場合(正常型の場合)には、切断点よりも上流側の領域も下流側の領域も増幅するが、転座を有する場合には、転座パートナーの種類に関係なく、一方の領域が増幅されないので、各領域の存在比率が正常型の場合と異なり、これを利用して転座パートナーの種類に関わらず転座遺伝子を検出できることに想到し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、切断点を境界として2種類の異なる遺伝子が融合した転座遺伝子の検出方法であって、正常型遺伝子において切断点に対応する位置よりも上流に存在する第1の領域を増幅する定量的核酸増幅法と、正常型遺伝子において切断点に対応する位置よりも下流に存在する第2の領域の増幅する定量的核酸増幅法とを被検試料から抽出した遺伝子又はその転写物に対して行い、前記第1及び第2の領域の存在比率を測定する工程を含み、該存在比率が、正常型遺伝子における存在比率と異なることが転座遺伝子の存在を示す、転座遺伝子の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、転座パートナーが複数種類存在する場合であっても、転座パートナーの種類に関わらず、全ての転座遺伝子を簡便に検出することができる、転座遺伝子の検出方法が初めて提供された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の方法の原理を、ALK遺伝子を例として説明するための図である。
【図2】下記実施例において、プラスミドに対して本発明の方法を行った測定結果を示す図である。
【図3】下記実施例において、細胞株に対して本発明の方法を行った測定結果を示す図である。
【図4】下記実施例において、臨床検体に対して本発明の方法を行った測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記の通り、本発明は、転座が起き得ることが知られている遺伝子の切断点の上流側に位置する領域と下流側に位置する領域とを、それぞれ増幅する定量的核酸増幅法を、被検試料から抽出した遺伝子又はその転写物に対して行う。核酸増幅法の鋳型となる遺伝子が正常型である場合には、切断点の上流側も下流側も増幅が起きる。一方、核酸増幅法の鋳型となる遺伝子が転座遺伝子である場合には、転座パートナーがどのような遺伝子であっても、上流側及び下流側の領域のいずれか一方の増幅が起きない。従って、上記定量的核酸増幅法によりそれぞれ測定された各領域の存在量の比率を計算すると、被検試料中に転座遺伝子が含まれる場合には、正常型遺伝子だけしか含まれない場合とは異なる値になる。従って、この比率に基づき、転座遺伝子を検出することができる。なお、例えば転座遺伝子が癌と関連している場合、被検試料中に正常型遺伝子を有する正常細胞と、転座遺伝子を有する癌細胞が混在している場合には、被検試料中の転座遺伝子の存在量に依存して上記比率が異なってくるので、上記比率に基づいて、被検試料中の転座遺伝子の割合(すなわち、転座遺伝子数/(正常型遺伝子数+転座遺伝子数))を求めることもできる。このように被検試料中の転座遺伝子を定量する場合であっても、定量により転座遺伝子が必然的に検出されるので、それは検出方法でもあるから当然本願発明の範囲に含まれる。
【0014】
本願発明の原理をALK遺伝子を例として図1に基づき説明する。図1は、正常型のALK遺伝子の遺伝子地図を模式的に示すものである。図1に示すように、ALKは膜貫通タンパク質であり、ALK遺伝子は、上流側から細胞外領域(extracellular domain)、膜貫通領域(transmembrane domain)、細胞内領域(cytoplasmic domain)を有する。そして、膜貫通領域内に「切断点」が存在する。「切断点」は、転座が起きる場合に、正常型遺伝子の一部と、他の遺伝子(転座パートナー)とが連結される境界部位を意味する。正常型遺伝子には転座が存在しないので、「切断」は生じていないが、正常型遺伝子についても、転座が起きる場合に2種類の遺伝子の境界となる部位を「切断点」と便宜的に呼んでいる。図1に示すALK遺伝子では、膜貫通領域内に切断点が存在し、転座が起きた場合には、切断点よりも下流は正常型であるが、切断点よりも上流側にALK遺伝子以外の他の遺伝子(転座パートナー)が連結される。ALK遺伝子では、11種類以上の転座パートナーが知られている。なお、正常型のALK遺伝子の塩基配列は、GenBank Accession No. NM_004304.3に記載されており、これを配列番号1に示す。配列番号1中、主な切断点は、4079nt(5'末端から数えて4079番目の塩基、以下同様)と4080ntの間の位置に存在する。
【0015】
本発明の方法では、図1に示すように、正常なALK遺伝子において、切断点の上流側に位置する領域(両方向矢印で示される5'側増幅領域(5R)、請求項1中の「第1の領域」))と、切断点の下流側に位置する領域(両方向矢印で示される3'側増幅領域(3R)、請求項1中の「第2の領域」))とをそれぞれ定量的核酸増幅法により増幅する。そうすると、核酸増幅法の鋳型となる遺伝子が正常型である場合には、5'側増幅領域も3'側増幅領域も共に増幅が起きる。一方、鋳型となる遺伝子が転座遺伝子である場合には、転座パートナーの種類に関係なく、5'側増幅領域の増幅が起きない。このため、定量的核酸増幅法により定量された、各領域の存在量の比率をとれば、被検試料中に転座遺伝子が含まれる場合には、正常型遺伝子しか含まれない場合と比べて上記比率が異なってくる。従って、この比率に基づき転座遺伝子の検出を行うことができる。そして、上記比率は、被検試料中に含まれる転座遺伝子の割合が多くなるほど、正常型遺伝子しか含まれない場合と比べて上記比率がより大きく異なってくるので、上記比率に基づき転座遺伝子の定量も可能である。
【0016】
なお、転座ALK遺伝子のほとんどは、切断点が4079ntと4080ntの間に存在するが、中にはE14;ins11del49A20(GenBank Accession No. AB374363.1、切断点は4128ntと4129ntの間))やE14;del12A20(Gen Bank Accession No. AB462412.1、切断点は4091ntと4092ntの間))のように、4079ntと4080nt以外の位置に切断点が存在するものも少数知られている。このように転座パートナーによって切断点が異なるものが知られている場合であっても、前記第1の領域を、最も上流に位置する切断点よりも上流に設定し、前記第2の領域を、最も下流に位置する切断点よりも下流に設定することにより、上記した本発明の方法を行うことができる。従って、本発明の方法は、複数種類の転座パートナーと結合した複数種類の転座遺伝子であって、切断点が異なるものが知られている場合にも適用可能であり、このような場合も本発明の範囲に包含される。
【0017】
本発明の方法を適用できる転座遺伝子は、切断点が存在する転座遺伝子であれば特に限定されず、とりわけ、複数種類の転座パートナーと結合した複数種類の転座遺伝子の存在が知られている遺伝子に適用した場合に威力を発揮する。このような、複数種類の転座パートナーと結合した複数種類の転座遺伝子の存在が知られている遺伝子の例としては、上記した転座ALK遺伝子の他、白血病遺伝子(ABR-ABL、PML−RARA、E2A−PBX1、MLL−AF4、MLL−AF9、AML1−ETO、TEL−AML1、CBFB−MYH11、SIL−TAL等)、肉腫遺伝子(EWS−Fli1、EWS−ERG、EWS−ETV1、EWS−E1AF、EWS−FEV、EWS−WT1、EWS−CHN、TAF2N−CHIN、TLS−CHOP等)、肺癌遺伝子(EML4−ALK等)及び前立腺癌(TMPRSS2−ERG等)を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の方法に供される被検試料としては、転座遺伝子の存在が疑われる組織や、血液等の体液又はその成分(白血球、リンパ球等)等である。
【0019】
定量的核酸増幅法としては、TaqManプローブ(商品名)法、クエンチング(quenching)プローブ法(QP法(商品名))、MGB法(商品名)等種々のものが広く知られており、これらの公知の定量的核酸増幅法のいずれをも採用することができる。公知の定量的核酸増幅法のうち、上記したTaqManプローブ(商品名)法、QP法(商品名)、MGB法(商品名)等は、そのためのキットが市販されているので、これらの市販のキットを用いて容易に実施することができる。
【0020】
下記実施例では、これらのうち、QP法(商品名)を用いている。QP法(商品名)は、3'末端がシトシンであるプローブの3'末端にBODIPYと呼ばれる蛍光色素を結合したクエンチングプローブ(Qプローブ)を用いる。このクエンチングプローブが、鋳型DNAとハイブリダイズすると、3'末端の蛍光標識シトシンがグアニンと対合する。蛍光標識シトシンは、プローブがフリーの状態では蛍光を発するが、鋳型DNAとハイブリダイズして蛍光標識シトシンがグアニンと対合すると蛍光が消光する。鋳型DNAとハイブリダイズしたQプローブは、鋳型の相補鎖が伸長してくると、鋳型DNAから離脱してフリーとなり再び蛍光を発する。このため、十分量のQプローブの存在下でPCRを行うと、増幅が起きる場合には、アニーリング工程において、Qプローブが消光する。そして、消光の程度は、鋳型となるDNAの量が多いほど大きくなるので、アニーリング工程における消光の程度を測定することにより増幅をモニターすることができる。そして、この消光の程度は、鋳型DNAが一定量以上にまで増幅した時に急激に大きくなるので、PCRの何サイクル目でこの消光が検出されるようになるかに基づいて、増幅前の被検試料中の鋳型核酸の量を定量することができる。なお、QP法(商品名)を行うためのキットは、株式会社J-Bio21から市販されているので、これを用いて容易に行うことができる。
【0021】
なお、定量的核酸増幅法は、被検試料中に含まれるゲノミック遺伝子に対して行うこともできるし、その転写物(mRNA)に対して行うこともできる。なお、転写物に対して行う場合には、mRNAからcDNAを調製し、このcDNAをPCRに付すのが通常である。
【0022】
本発明の方法において、5'側増幅領域(第1の領域)と、3'側増幅領域(第2の領域)との増幅効率をほぼ等しくすることにより、測定の精度が高まるので好ましい。すなわち、増幅効率が等しい場合には、上記存在比率が1になるが、できるだけこの比率が1に近い方が好ましく、すなわち、0.9〜1.1の範囲内が好ましく、0.95〜1.05の範囲内がさらに好ましい。
【0023】
本願発明者は、鋭意研究の結果、ALK遺伝子にQP法を適用した場合において、上記比率がほぼ1(下記実施例に具体的に記載するように0.95〜0.99)となる、好ましいプライマー及びプローブの組合せを見出した。すなわち、5’側増幅領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の2696nt〜2721ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、5'側増幅領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の2847nt〜2822ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、5'側増幅領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号1に示される塩基配列の2786nt〜2815ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、3'側増幅領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の4127nt〜4152ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、3'側増幅領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の4282nt〜4258ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、3'側増幅領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号1に示される塩基配列の4192nt〜4221ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドである。
【0024】
より好ましくは、下記実施例に具体的に記載されるように、5'側増幅領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号2で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、5'側増幅領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号3で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、5'側増幅領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号4で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、3'側増幅領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号5で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、3'側増幅領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号6で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、3'側増幅領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号7で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドである。
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
1. 操作方法
1-1. RNA抽出
検体からRNAの抽出を行う。抽出キットとしてRNeasy Mini kit +QIAShreddar(キアゲン社)を用いた。操作はキアゲン社のマニュアルにしたがったが、組織切片からのRNAを抽出する場合は、QIAShreddarの代わりにTissueLyserを用いてジルコニアビーズにより組織切片の破砕を行ってからRNAを抽出した。
【0027】
1-2. cDNA合成
cDNA合成はM-MLV(ライフテクノロジーズ社)を用いた。各試薬の組成は次の通りである。
【0028】
【表1】

【0029】
1. マイクロチューブに、1μgのRNAにRandom primersとdNTP mixを加えて、Distilled Waterで15μLに調整する。
2. 反応液の入ったマイクロチューブをサーマルサイクラーにセットし、65℃で5分間インキュベートする。
3. 5分間氷冷後、M-MLV 5×Reaction Buffer、DTT、RNase OUT、M-MLV RTを加えて、Distilled Waterで25μLに調整する。
4. 反応液の入ったマイクロチューブをサーマルサイクラーにセットし、25℃で10分間、37℃で50分間、70℃で15分間インキュベートする。反応後は4℃で保持する。
5. cDNA合成産物はDistilled Waterで2倍希釈した後、次の工程に用いる。保存は-80℃で行う。
【0030】
1-3. QP法
1. 3’側のPCRとして、1反応チューブ25μLあたり下記表の試薬、および鋳型cDNAを混合する。
【0031】
【表2】


2. また、5’側のPCRとして、1反応チューブ25μLあたり下記表の試薬、および鋳型cDNAを混合する。
【0032】
【表3】

【0033】
なお、プライマーの配列は表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
3. 反応液が入ったマイクロチューブをリアルタイムPCR装置にセットし、下記の条件で反応を行う。
【0036】
【表5】

【0037】
結果の解析は、各サイクルの蛍光強度変化率を算出する(Kurata S et al. Nucleic Acids Research. 29: e34, 2001.)。蛍光強度変化率は下記の式を用いて計算を行う。

蛍光強度変化率 = [1 - (F64, n/F95,n)/(F64, base/F95, base)]×100

例えばF64,nは、nサイクル目の64℃(アニーリング&エクステンション)における蛍光値を示す。F95,baseは、指数関数的に増幅する直前のサイクル数、すなわちベースラインのサイクルにおける95℃の蛍光値を示している。
なお、上記した解析はJ-bio21社提供の解析ソフトを用いて行う。
【0038】
5. 最終的に得られたCt値の比、あるいは差をALK遺伝子の3’側と5’側の発現相違として評価する。
【0039】
2. 結果
2-1. 実施例1
コントロールプラスミドの測定結果を示した。コントロールプラスミドはALKの全長を発現しているSK-N-DZ株よりクローニングベクターpCR2.1-TOPOを用いて作製した。10、102、103、104、105、106コピーに希釈したプラスミドをn=5で測定した。
【0040】
結果を図2に示した。3’と5’の検量線の傾き、切片共にほぼ同等であった。Ct値の変動係数は、10コピーで10%前後のバラツキが認められたが、100コピー以上では1%前後であり、安定した結果が得られた。また、Ct値の比(Ct5’/Ct3’)は0.950-0.993とほぼ1であった(表6)。
【0041】
【表6】

以上の結果から、ALK遺伝子における転座の切断点より3’側と5’側でほぼ同等の増幅効率を示す定量系が構築できたと考えられた。
【0042】
2-2. 実施例2
細胞株の測定結果を示した。陽性コントロールとしてH2228(EML4-ALK転座陽性株)、SK-N-DZ(ALK高発現株)、陰性コントロールとしてHCC827、HL60を用いた。測定はn=2で行った。
【0043】
結果を図3に示した。ALKを発現していないHCC827とHL60は増幅が認められなかった。一方、EML4-ALK転座を有しているH2228では3’側のみ増幅が認められたが、5’側は増幅が認められなかった。また、全長のALKを発現しているSK-N-DZは3’も5’も同様の増幅曲線が得られた。これらのことから本発明は、ALK全長の発現とALK転座の発現を区別できることが示された。
【0044】
2-3. 実施例3
100件の肺癌組織検体を本発明で測定した。神奈川がん臨床研究・情報機構より分与頂いた臨床検体をn=2で測定した。実施例1より10コピーのプラスミドではバラツキが考慮されたので、3’のPCRにおいて100コピーのプラスミドのCt値をカットオフ値とし、これより高い検体は陰性とした。
【0045】
測定した結果、19件が3’のCt値が38サイクル未満であった。すべてのCt値、Ct5’/Ct3’比を図4に示した。#94の検体がCt5’/Ct3’比が最も高く、1.221であり3’のPCRの方が5’に比べて7.2サイクルも立ち上がりが早かった。この検体はEML4-ALKを発現していることが確認された。 また、#56の検体もCt5’/Ct3’比が1.173とやや高く転座が疑われた。これらのことから本発明は、臨床検体においてALK転座の有無を検出できることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断点を境界として2種類の異なる遺伝子が連結された転座遺伝子の検出方法であって、正常型遺伝子において切断点よりも上流に存在する第1の領域を増幅する定量的核酸増幅法と、正常型遺伝子において切断点よりも下流に存在する第2の領域の増幅する定量的核酸増幅法とを被検試料から抽出した遺伝子又はその転写物に対して行い、前記第1及び第2の領域の存在比率を測定する工程を含み、該存在比率が、正常型遺伝子における存在比率と異なることが転座遺伝子の存在を示す、転座遺伝子の検出方法。
【請求項2】
前記転座遺伝子は、複数種類の転座パートナーと結合した複数種類の転座遺伝子の存在が知られている遺伝子である請求項1記載の方法。
【請求項3】
複数種類の転座パートナーと結合した複数種類の転座遺伝子であって、切断点が異なるものが知られており、前記第1の領域は、最も上流に位置する切断点よりも上流に存在し、前記第2の領域は、最も下流に位置する切断点よりも下流に存在する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
正常型遺伝子のみを鋳型として行った場合に、前記第1及び第2の領域の存在比率が0.9〜1.1の範囲内となる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記転座遺伝子は、未分化リンパ腫キナーゼ遺伝子の転座遺伝子である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記定量的核酸増幅法がクエンチングプローブ法である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記定量的核酸増幅法がクエンチングプローブ法であり、前記第1の領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の2696nt〜2721ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、前記第1の領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の2847nt〜2822ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、前記第1の領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号1に示される塩基配列の2786nt〜2815ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、前記第2の領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の4127nt〜4152ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、前記第2の領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号1に示される塩基配列の4282nt〜4258ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドであり、前記第2の領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号1に示される塩基配列の4192nt〜4221ntの領域にハイブリダイズする18塩基以上のサイズのオリゴヌクレオチドである請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記第1の領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号2で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、前記第1の領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号3で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、前記第1の領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号4で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、前記第2の領域の増幅に用いられるフォワード側プライマーが、配列番号5で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、前記第2の領域の増幅に用いられるリバース側プライマーが、配列番号6で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドであり、前記第2の領域の測定に用いられるQプローブが、配列番号7で表される塩基配列から成るオリゴヌクレオチドである、請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−100626(P2012−100626A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254082(P2010−254082)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(390037006)株式会社エスアールエル (29)
【Fターム(参考)】