説明

転炉の操業方法

【課題】 転炉操業において、粗銅を出湯した後炉内に残る金垢と称される酸化物が多く残った状態でかわを受入れると、金垢中のFe3O4含有量が多いために、生成する転炉からみの流動性が悪くなり、からみが十分に廃滓されないで、炉中に残り、転炉の操業に支障を来たす。
【解決手段】
金垢が残存している非鉄製錬転炉内に製錬炉で生成したかわを装入し、羽口から空気を吹込み、造かん期及び造銅期の吹錬を行う。羽口からSiC粉末を空気とともに吹込み前記金垢と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬炉で生成したかわから銅やニッケルなどを得る転炉の操業方法に関するものであり、さらに詳しく述べるならば、転炉から粗金属を出湯した後炉内に残留する金垢を少なくするための新規なインジェクション製錬による転炉操業法を提供するものである。以下主として銅製錬について説明する。
【0002】
銅製錬においては、硫化鉱を自溶炉及び転炉を用いて製錬し、粗金属を得ている。自溶炉では硫化精鉱と珪石などの溶剤及び補助燃料を吹込み、鉄分を酸化除去したかわ中に銅を濃縮する。かわ及び珪石を転炉に装入して行う製錬は、造かん期と造銅期に分けられ、造かん期における反応は次の式で表わされる。
2FeS + 3O2 + SiO2 →2FeO ・SiO2 + 2SO2
したがって、造かん期からみの主成分は2FeO ・SiO2と表わされるが、高級酸化物であるFe3O4も含有している。造かん期終了後排滓が行われ、造銅期が開始され、造銅期終了後に粗銅が出湯される。ところが、転炉からみが造かん期終了後に完全に排滓されず、一部が炉内に残留する。また、造銅期終了後に粗銅が出湯される際には、転炉からみは炉内に残されている。
【0003】
金垢については、資源素材学会発行「資源・素材・環境技術用語集」(日刊工業新聞社1996年1月30日発行)の第23頁によると、転炉造銅期に発生するスラグが金垢であると定義されている。しかしながら、造かん期終了後の未排滓からみも粗銅出湯後に炉内に残るから、造かん期のからみと造銅期のからみも転炉に残った状態では区別されないから、これらを含めて「金垢」と称しても、上記用語集とは実際上は矛盾していない。
【0004】
ところで、特許文献1:特開2003−253350号公報では、「...生成したカラミを転炉外に排出し、造銅期では、更に3時間吹錬して白カワを粗銅にする。このとき、生成された白カワや造カン期に残留していたカラミ中の鉄分等から床ガラミと称するカラミが生成され、粗銅を転炉外に排出した後転炉内に残留し、滓化が次回の造かん期まで持ち越される。」と説明しているが、この「床ガラミ」も「金垢」と同じものである。また、特許文献2:2005−113179号公報では、「粗銅を転炉から精製炉に移す際に転炉内に残留したFe0-Cu2O-SiO2系スラグの一部が粗銅に混入し、精製炉内に持ち込まれる。便宜上このスラグをドブと称する。」と説明しているが、この「ドブ」も「金垢」と同じものである。
これらの先行技術のうち特許文献1は、床ガラミの量を測定し安定した転炉操業を可能にする方法であり、また、特許文献2はドブを固化・粉砕後、自溶炉と転炉にそれぞれ繰返す方法であるので、金垢量を直接的に少なくする方法ではない。
【0005】
特許文献3:特開2003−253349号公報は、(イ)鉄スクラップ、(ロ)産業廃棄物処理炉から産出される金属鉄を60%以上含有する溶融・固化金属及び/又は金属鉄分を60%以上含有する材料を転炉の造かん期に添加することにより溶体温度を上昇させ、もってかわとからみの分離効率を向上することを提案している。上記(イ)、(ロ)及び/又は(ハ)の添加量は、かわに対して金属鉄換算で20〜100kg/t(カワ)である。この明細書には金垢の記載はないが、かわとからみの相互分離が良好になることから、結果的には金垢量も少なくなると考えられる。
【0006】
銅転炉用インジェクション精錬剤としては、石灰、石灰岩、炭カルなどが知られている(特許文献4:特許4195919号公報)が、金垢を還元する還元剤自体は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−253350号公報
【特許文献2】特開2005−113179号公報
【特許文献3】特開2003−253349号公報
【特許文献4】特許4195919公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】旧「資源と素材」学会誌、2007,12、Vol123,製錬・リサイクリング大特集号「佐賀関製錬所の銅精錬」第627頁左欄及び第2表
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
転炉操業において、粗銅を出湯した後炉内に残る金垢と称される酸化物は次の転炉操業の造かん期において確実に滓化され、転炉からみとして排出されるならば問題はない。しかし、金垢が多く残った状態の転炉にかわを受入れると、金垢中のFe3O4含有量が多いために、生成する転炉からみの流動性が悪くなり、からみが十分に排滓されないで、炉中に残ってしまう。この場合、次の造銅期中炉内に多量に残ったからみにより転炉内溶湯レベルが上昇し、吹錬中のジャンピングにより炉外への溶湯飛散量が多くなる、フォーミング(foaming)と呼ばれる溶湯流出事故が多く発生するなどの理由により、転炉操業に支障を来す。
上述のように直接金垢量の減少を目指す技術はない状況に鑑み、本発明は金垢の流動性を著しく向上することができる非鉄金属製錬転炉操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次の方法に関する。
(1)金垢が残存している非鉄製錬転炉内に製錬炉で生成したかわを装入し、その後羽口から空気を吹込む吹錬を行う転炉の操業方法において、前記羽口からSiC粉末を併せて吹込み前記金垢と接触させることを特徴とする転炉の操業方法。
(2)造かん期の少なくとも一期間に前記SiC粉末を吹込むことを特徴とする(1)記載の方法。
(3)造銅期の少なくとも一期間に前記SiC粉末を吹込む(1)又は(2)記載の方法。
(4)一旦造銅期の吹錬を中断して排滓を行った後、前記SiC粉末を吹込まない吹錬を再開することを特徴とする(3)記載の方法。
(5)SiC粉末が貴金属を含むリサイクル原料である(1)から(4)までの何れか1項記載の方法。
(6)前記製錬炉が自溶炉である(1)〜(5)までの何れか1項記載の方法。
以下本発明を詳しく説明する。
【0011】
本出願人の銅転炉の操業諸元については、非特許文献1:旧「資源と素材」学会誌、2007,12、Vol123,製錬・リサイクリング大特集号「佐賀関製錬所の銅精錬」第627頁左欄及び第2表に紹介されているとおりである。
金垢の主成分FeO、SiO2などであり、高級酸化物であるFe3O4なども含有されている。金垢の量は、本出願人の製錬所の250t転炉では一般に10〜 25tの範囲である。金垢量が10t程度であると、転炉操業への支障は少ないが、25tに達すると、次の転炉操業においてさらに金垢が増え、上記したような種々の支障が生じる。したがって、本発明により、粗銅出湯後の転炉炉内状況を観察し、必要な場合は、次の操業においてSiC粉末を羽口から吹込む。即ち、自溶炉からのかわを転炉に装入すると、かわと金垢が混合状態となり、かかる状況の転炉溶湯内にSiC粉末を羽口から高圧空気とともに吹込むと、金垢溶体とSiC粉末粒子の接触が転炉内の到る所で起こり、金垢がSiC粉末により選択的に還元され流動性は急速に向上し、溶湯上部に分離される転炉からみの量が多くなる。通常SiCは非常に安定な物質であるが、高温のかわ、金垢と接触すると徐々に分解してSiとCを生じ,接触する金垢成分を還元する。
【0012】
SiC粉末の吹込みは造かん期の少なくとも一期間にて行い、金垢を滓化し、転炉からみとともに排出することが好ましい(上記(2)の方法)。吹込み時期は金垢の量に応じて造かん期全体もしくはその一部の期間とする。
SiC粉末吹込み量は金垢が転炉操業を妨げない程度とする。本出願人の製錬所の転炉の場合は一般に50 〜1000kg/回(1操業)である。転炉の容量が多くなる(少なくなる)と金垢の量も多くなる(少なくなる)ので、これに応じて吹込み量を調節する。吹込み量が少ないと金垢減少の効果が少なく、一方多すぎると、金垢成分が泡状になり炉外に溢出るので好ましくない。
SiC粉末を羽口から吹込むためには、SiC粉末のタンクを新たに設置し、タンク内を高圧空気によりSiC粉末流動状態にし、タンクから延びる配管を羽口直前で羽口噴射管に合流させ、高圧空気とともに転炉内に吹込む。
【0013】
本発明の上記(2)の方法によると造かん期の末期に金垢は排滓されるので、造銅期中の金垢量は少なくなる。しかし、造かん期の排滓量が予想よりも少ない場合は、金垢が転炉炉底に残留している可能性が高いので、SiC粉末の吹込みにより金垢を、固体―液体反応により還元する(上記(3)の方法)。この場合は粗銅の出湯を待たずに、一旦排滓を行い、その後SiC粉末を吹込まない造銅期の吹錬を行うことが好ましい(上記(4)の方法)。
【0014】
本発明によるSiC系インジェクション還元剤は金垢の高級酸化物を低級酸化物に還元し流動性を高めるとともに、自身も転炉からみの成分となるので、還元剤は粗銅中に取り込まれ純度を低下させることもない。
SiC(炭化ケイ素)は一般にカーボランダムとして市場で入手することができる。本発明によるSiC粉末を金垢還元剤としては、カーボランダムを勿論使用することができるが、研磨剤などのリサイクル原料が低価格であるので、これを使用することができる(上記(5)の方法)。この場合リサイクル原料のSiC純度は好ましくは98%以上であり、残部は研磨対象物であった金属部品の細かい破片などの不純物である。かかる残部に含まれる貴金属は粗銅中に吸収され、銅製錬の貴金属回収プロセスで回収される。また、SiC粉末の粒径は特に制限はないが、一般に入手できる数μm〜1mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により次のような効果が達成される。
(1)金垢発生量が多くなった場合でも転炉からみが炉外に確実に排出され、炉内に残留する金垢量が少なくなる。このために、金垢が少なくなった分だけかわの装入量が多くなり、生産性向上につながる。
(2)造滓剤を添加することにより金垢を滓化する方法と比較すると、反応が迅速である。このため、転炉吹錬期の必要な時期だけ精錬剤を吹込めばよい。さらに、転炉における主反応である硫化銅から金属銅への酸化は羽口近傍で速やかに進行する気液反応であり、本発明の金垢の還元は徐々に進行する固液反応であるので、これらの反応を同時に進行させても、相互に影響することはほとんどない。
(3)転炉の容量に対して100%近い溶体量で吹錬を行った場合でも、ジャンピングが抑制されるために、飛散する溶湯が転炉フードに成長して鋳付きとなり、遂にはこれが落下して設備破壊、フード損傷などのトラブルをもたらすことが避けられる。また、フォーミングと言われる溶湯流出事故が防止される。
(4)通常の転炉操業を続けている過程で金垢量が次第に増えることがある。この場合は、次の転炉操業の造かん期にSiC粉末を吹込む(上記(2)の方法)。造かん期の開始時点では、装入されたマットと炉底に残存していた金垢のほとんどが一旦は混合され、混合状態になっている。かかる混合溶体にSiC粉末を吹込むと、金垢が急速に還元され、流動性が急激に向上する。造かん期の最後には転炉からみが排出される。目標とする金垢残存量達成後は、造かん期は通常の転炉操業に戻ることもできる。
(5)前掲(4)により目標金垢残存量を達成できない場合は、造銅期にSiC粉末を吹込む上記(3)の方法を行うことができる。したがって、本発明の方法は融通性が高い。(3)の方法は、(a)造かん期及び造銅期にSiC粉末を吹込む;(b)造銅期のみにSiC粉末を吹込む;の二つのパターンがある。上記(a)のパターンは、金垢の還元が2回に分けられるので、反応が穏やかになる。上記(b)のパターンは、造銅期に金垢量が増大した場合に対応できる。
(6)SiC粉末にリサイクル原料を使用すると、この有効活用を達成することができる。
続いて、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来例
本出願人の250ton転炉の通常の操業条件は、かわ装入量が230ton/吹錬(tap to tap、以下同じ)、粗銅出湯量206.2ton/吹錬、造かん期終了後のからみ排出量58.4tonであった。造かん期は第一造かん期と第二造かん期の2回に分けて行われたが両者を合計して平均50分、造銅期は平均240分であった。この操業において,金垢量が多くなった状況では、転炉の炉口から投入する溶剤の珪石を増量したが、SiC粉末を吹込まない吹錬を行ったところ、粗銅を出湯した後転炉内に残存する金垢の量は10 〜25tに達した。金垢量が多くなったときは、次回の操業でかわの装入量を少なくしかつ珪石装入量を多くして造かん期を開始した。
【0017】
実施例
上記従来例の操業において、金垢が25tonに達した転炉操業の次の造かん期に、SiC系研磨剤を廃棄した廃棄物を200kg羽口から4分間吹込んだところ、金垢の量は10tonに減少した。また、スプラッシュ、フォーミングなどの事故は起こらなかった。その後は上記した従来例による通常の操業を行った。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上説明したように、本発明によると、非鉄製錬転炉に粗金属製造工程、特に造銅期後に残存する金垢の量を少なくすることができる。また、本出願人の製錬所の転炉を例にとって、具体的に説明したが、他の製錬所の転炉についても本発明を実施できることはいうまでもない。また、ニッケルの乾式製錬は日本では行なわれていないが、同様に本発明を実施することができる。


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
金垢が残存している非鉄製錬転炉内に製錬炉で生成したかわを装入し、その後羽口から空気を吹込む吹錬を行う転炉の操業方法において、前記羽口からSiC粉末を併せて吹込み前記金垢と接触させることを特徴とする転炉の操業方法。
【請求項2】
造かん期の少なくとも一期間に前記SiC粉末を吹込む請求項1記載の転炉の操業方法。
【請求項3】
造銅期の少なくとも一期間に前記SiC粉末を吹込む請求項1又は2記載の転炉の操業方法。
【請求項4】
一旦造銅期の吹錬を中断して排滓を行った後、前記SiC粉末を吹込まない吹錬を再開することを特徴とする請求項3記載の転炉の操業方法。
【請求項5】
SiC粉末が貴金属を含むリサイクル原料である請求項1から4までの何れか1項記載の転炉の操業方法。
【請求項6】
前記製錬炉が自溶炉である請求項1から5までの何れか1項記載の転炉の操業方法。