説明

転炉スラグを用いた酸性緩和工法

【課題】
従来,スギ,ヒノキに代表される人工林では,間伐,枝打ち等の森林整備によって,立木密度を低下させることで森林内照度を確保すれば森林の機能が回復するとされてきた。しかし,過密に植栽された人工林内は低照度によって維持されている期間が長いことから土壌の酸性化の進行が顕著となって植生の回復していない箇所が多くなっている。また,酸性硫酸塩土壌等の特殊土壌であることから土壌pHが著しく低下して強酸性となっている箇所においても,そのまま放置した状態で土壌環境の改善が望めない。
【解決手段】
土壌pHの著しい低下により強酸性土壌となっている対象地に対して,鋼を作る際に発生する転炉スラグと有機質資材等を混合した客土を植生基材吹付機で対象面に吹き付けることによって,土壌pHが著しく低下して機能不全となっている土壌構造の改善を目的とした転炉スラグを用いた酸性緩和工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,間伐,枝打ち等の森林整備が遅れることで土壌の酸性化が進行して土壌養分が流亡,団粒化が損なわれて土砂流出防止等の公益的機能が維持できなくなったスギ,ヒノキ等の人工林や酸性硫酸塩土壌等の特殊土壌であることから強酸性となって土壌pHの著しい低下を起こしている対象地に対して,鋼を作る際に発生する転炉スラグと有機質資材等を混合した客土を植生基材吹付機で対象面に吹き付ける手法や播き出す手法,油圧ショベルで混合する手法によって,土壌pHが著しく低下して機能不全となっている土壌構造の改善することを可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にスギ,ヒノキに代表される人工林では,間伐,枝打ち等の森林整備事業によって,立木密度を低下させることで森林内照度を確保すれば森林の機能が回復するとされてきた。しかし,過密に植栽された人工林内は低照度によって維持されている期間が長いことから土壌の酸性化の進行が顕著となっている。
また,酸性硫酸塩土壌等の特殊土壌によって土壌pHが著しく低下して強酸性となっている箇所においても,そのまま放置した状態で土壌環境の改善が望めない状態となっている。その対処法として,無機物である石灰岩砕石,鉱滓スラグ,貝殻類およびコンクリート廃材等を用いて酸性緩和をする方法とアルカリ資材に有機質資材を混合した酸遮断層を設けて酸性緩和してきた経緯がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11− 61119号公報の発明
【特許文献2】特開2000−265470号公報の発明
【特許文献3】特開2000−282034号公報の発明
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが,上記の従来工法の無機質である石灰岩砕石,鉱滓スラグ,貝殻類およびコンクリート廃材等を酸性緩和に単体で用いる手法では,アルカリ無機物の粒径を酸性緩和の効果の過度の発現を緩和するために調整しなければならず,アルカリ資材単独で用いることから,粒径を大きくしないと固化してしまい土壌水分の浸透が著しく悪くなることも問題となっていた。
また,アルカリ資材に有機物資材を混合して酸性遮断層を作る方法も考案されているものの,植栽木の土壌に酸性の緩衝機能がないことから,緩衝酸性土壌の影響を遮断層で緩衝できずに植栽木が枯死することが問題となっている。
【0005】
そこで,本発明は,未整備の森林や酸性硫酸塩土壌でpHが4.4を下回る環境であることから養分を持つ力である陽イオン交換容量(CEC)が著しく低下し,アルミニウム等の有害な塩基分が流れ出し,土壌構造が単粒化してしまう土壌環境に対して有機質資材であるバーク堆肥に強アルカリ資材である転炉スラグ,肥料,ゼオライト等を混合した植生基盤を吹き付け,播き出し,油圧ショベルで混合することで,植物が成長する土壌環境となると伴に酸性緩和も行える植生基盤を造成できるようにしたものである。
【0006】
また、間伐,枝打ち等の森林整備が遅れることで土壌の酸性化が進行して土壌養分が流亡,団粒化が損なわれて土砂流出防止等の公益的機能が維持できなくなったスギ,ヒノキ等の人工林や酸性硫酸塩土壌等の特殊土壌であることから土壌pHの著しい低下して強酸性土壌となっている対象地に対し,鋼を作る際に発生する転炉スラグと有機質資材を混合した客土を植生基材吹付機で対象面に吹き付けることによって,土壌pHが著しく低下して機能不全となっている土壌構造を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は,転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,土壌の酸性を緩和するように転炉スラグと種子,バーク系基材,肥料,ゼオライトを混合した客土を酸性緩和基盤材とし、当該酸性緩和基盤材をハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機等の吹付機や人力による播き出し,油圧ショベルによる混合して対象地に残置させることによって酸性土壌の構造を回復できるようにするものである。
【0008】
本発明の第2は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,有機質資材であるバーク堆肥,転炉スラグ,肥料,ゼオライト等の植生基盤をハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機などの客土吹付機中で混合して客土を作成し,当該客土吹付機によって対象地への吹き付けを行うようにするものである。
【0009】
本発明の第3は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,有機質資材であるバーク堆肥,転炉スラグ,肥料,ゼオライト等の植生基盤を当該対象面へ播き出すことを行うようにするものである。
【0010】
本発明の第4は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,有機質資材であるバーク堆肥,転炉スラグ,肥料,ゼオライト等の植生基盤を当該対象面へ油圧ショベルによって混合することを行うようにするものである。
【0011】
本発明の第5は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,有機質資材であるバーク堆肥は,pH(H2O)で5.5〜7.5,電気伝導度が0.9mS/cm以下となるものを用い,土壌の酸性を緩和する素材についてはpH(H2O)で11.0以上,粒径φ=2〜5mmのものを利活用するものである。
【0012】
本発明の第6は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,対象地の土壌化学性の分析値を用いて陽イオン交換容量に占めるCa,Mg,K等の塩基量の過不足量に見合った施肥設計を利活用して導入する植物に適合した培地を作るようにするものである。
【0013】
本発明の第7は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,森林および強酸性土壌のpHを上昇させる緩衝資材としての転炉スラグは,粒径φ=2〜5mmのものを利活用するために転炉スラグを用いるものである。
【0014】
本発明の第8は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,客土に混合する肥料については,強酸性の対象地の土壌の化学性の分析値を用いて陽イオン交換容量に占めるCa,Mg,K等の塩基量の過不足量に見合った施肥設計を利活用するものである。
【0015】
本発明の第9は,第1の発明に係る転炉スラグを用いた酸性緩和工法において,対象地の土壌分析結果から,Ca,Mg,K等の塩基類を吸着する機能である陽イオン交換容量が低い場合には,陽イオン交換容量を高めるゼオライト系資材を混合するようにするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記の構成であることから,次の効果がある。すなわち,バーク堆肥及び転炉スラグを混合したものと肥料,ゼオライトを混合した客土を用いることにより,酸性化が進行して機能不全となっている土壌の改良ができ,植生が成育し易い環境へと移行することが期待できる。
また,この土壌効果の発現によって,対象となる森林および強酸性土壌が降雨等の外的ストレスによって流亡し難い環境とすることが可能となる。基材の対象面への残置については吹き付け,播き出し,油圧ショベルによる混合が実施可能であり,通常の土木工事で利活用されている機械の利用が可能である。
【0017】
また,本発明にあっては,土壌の塩基飽和度を有機質資材であるバーク堆肥に転炉スラグの混合量を可変することにより変更できることから,対象地周辺の植生環境に見合った土壌環境とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施工程を示す概略説明図である。
【図2】本発明の酸性緩和基盤材を対象面に播き出す模式図である。
【図3】本発明の酸性緩和基盤材を対象面で油圧ショベル等の建設機械を用いて混合する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)土壌の団粒化を維持できる土壌環境では,土壌pHが5〜6となるのに比較すると,現在の間伐や枝打ち等の森林整備が遅れている森林土壌や酸性硫酸塩土壌等の酸性化し易い土壌環境ではpHが4.4以下となってしまい,有機物及び有機物由来の塩類等が流亡して土壌構造が単粒化して砂質化してしまっていることを確認したことにある。このような環境では,植生の成育が著しく阻害されることから,降雨等の外的ストレスに対しても非常に弱くなっている。
(2)有機物資材であるバーク系堆肥は,樹皮や廃材等を1〜2年程度養生した後に製品化されるので,初期の段階ではpHが8程度のアルカリ性となる。
しかし,このような資材単独では,単粒化した土壌粒子を結びつける機能が低いことから強アルカリとなる転炉スラグを用いることによって,土壌の団粒化を図る。
(3)バーク系資材および転炉スラグは,降雨が連続すると流亡してしまうことが懸念される。このように導入した客土が流亡しないようにするために酢酸ビニール系粘結剤や中性の無機系固化剤を酢酸ビニール系では,1m3に対して1kg,無機系固化剤では10〜20kg添加することで問題を解決している。
(4)粒径がφ=10mm以上やφ=2mm以下の転炉スラグでは,基材の混合時に吹き付け機内で詰まるので,粒径についてはφ=2〜5mm程度のものを用いることで解決している。
【実施例】
【0020】
次に,本発明の実施例を説明する。図1において,1は酸性緩和基盤材,2は種子にバーク堆肥と転炉スラグを混合撹拌してなる客土であり,これを酸性緩和基盤材1として用いる。3は種子であり,市販の草本,木本種子,対象地周辺で植物から直接採取したもの及び対象地周辺の土地で休眠しているものを用いる。
4はバーク堆肥であり,C/N比で35以下,有機質含有量70%以上の資材を用いることとし,具体的にはバーク堆肥単独及び見分解の草本,木本のチップ等を用いる。pH(H2O)で5.5〜7.5,電気伝導度が0.9mS/cm以下の値のものを利活用する。5は転炉スラグであり,pH(H2O)で11.0以上の値のものを利活用する。
【0021】
6は客土を吹付機12に搬送するベルトコンベア,7〜9は客土1に加えて吹付材を作るための部材である。すなわち,客土を硬化させるために酢酸ビニール系粘結剤又は無機質系中性固化剤等を可とし,粘結剤8を用水9と混合した7を得る。
10は発電機,11はコンプレッサ,12は湿式の緑化基盤材の吹付機であり,ハイドロシーダー又はモルタル吹付機を用いるものとする。13は揚水ポンプ,14は水槽,15は配電盤,16は基盤材1を強酸性土壌面Gに吹き付ける噴射ノズルを示す。図3で17は油圧ショベルを示す。
【0022】
「具体的な施工例における施工順序」
(1) 種子3にバーク堆肥4と転炉スラグ5を混合撹拌してなる客土2を酸性緩和基盤材1とする。
(2) 酸性緩和基盤材の補強材として利用する粘結剤8を用水9と混合して混合物7を得る。
(3) 酸性緩和しようとする目的の強酸性土壌面Gに酸性緩和基盤材1を湿式の緑化基盤材の吹付機12を使って吹き付ける。
(4) 強酸性土壌面Gの目的に応じて厚さ1.0〜5.0cm程度に吹き付けて酸性緩和基盤Aを形成する。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は,荒廃した森林および酸性硫酸塩土壌であることから強酸性土壌となって植生の侵入が起こらない箇所に対して,転炉スラグを投与することによって緩効的に持続的なアルカリ供給を行うこと行い,自然復元することが期待できる。
【符号の説明】
【0024】
1……酸性緩和基盤材
2……客土
3……種子
4……バーク系の有機質資材
5……転炉スラグ
6……コンベア
7……混合物
8……粘結剤
9……用水
10……発電機
11……コンプレッサ
12……基盤材の吹付機
13……水汲み上げポンプ
14……水槽
15……配電盤
16……噴射ノズル
17……油圧ショベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌の酸性を緩和するように転炉スラグと種子,バーク系の有機質資材を含有した客土を酸性緩和基盤材とし、当該酸性緩和基盤材をハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機等の吹付機や人力による播き出し,油圧ショベルによる混合して対象地に残置させることによって酸性土壌の構造を回復できるようにすることを特徴とする転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項2】
転炉スラグは,バーク系の有機質資材に対して容量換算で5〜90%配合したものを用いることとし,配合された酸性緩和基盤を吹付機内で混合して客土を作成し,当該対象面への吹き付けを行うようにする請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項3】
転炉スラグは,バーク系の有機質資材に対して容量換算で5〜90%配合したものを用いることとし,配合された酸性緩和基盤を人力によって播き出して,当該対象面へ供給する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項4】
転炉スラグは,バーク系の有機質資材に対して容量換算で5〜90%配合したものを用いることとし,配合された酸性緩和基盤を油圧ショベルで対象土壌と混合しながら,当該対象面へ供給する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項5】
バーク系の有機質資材のバーク堆肥は,C/N比で35以下,有機物含有量70%以上の資材を用いることとし,pH(H2O)で5.5〜7.5,電気伝導度が0.9mS/cm以下の値のものを利活用する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項6】
森林および強酸性土壌のpHを上昇させる緩衝資材としての転炉スラグは,pH(H2O)で11.0以上のものを利活用する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項7】
森林および強酸性土壌のpHを上昇させる緩衝資材としての転炉スラグは,粒径φ=2〜5mmのものを利活用する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項8】
客土に肥料を配合して,強酸性の対象地の土壌の化学性の分析値を用いて陽イオン交換容量に占めるCa,Mg,K等の塩基量の過不足量に見合った施肥設計を利活用する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。
【請求項9】
対象地の土壌分析結果から,Ca,Mg,K等の塩基類を吸着する機能である陽イオン交換容量が低い場合には,客土に陽イオン交換容量を高めるゼオライト系資材を配合する請求項1記載の転炉スラグを用いた酸性緩和工法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−99061(P2011−99061A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255459(P2009−255459)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】