説明

転炉操業装置及びそれを用いた転炉操業方法

【課題】省エネ効果に優れ、製造コストが良好で、且つ、緊急装置稼働後の環境事故発生が良好に抑制された転炉操業装置及びそれを用いた転炉操業方法を提供する。
【解決手段】転炉操業装置10は、少なくとも1基の転炉11〜11'''と、前記転炉11〜11'''に接続された少なくとも1基の送風管12a、12bと、エアーを前記送風管12a、12bを通して前記転炉11〜11'''へ送り込む少なくとも1基のエアー供給部13a、13bと、前記送風管12a、12bの転炉11〜11'''直前に設けられ、転炉非常傾転時に前記エアー供給部13a、13bの運転が停止した際、前記転炉11〜11'''内の溶湯の逆流を阻止するように送風管12a、12b内の残存エアーの転炉11〜11'''への流量を調整する送風圧力調整弁17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉操業装置及びそれを用いた転炉操業方法に関し、特に、非鉄金属製錬における銅転炉の操業装置及びそれを用いた銅転炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬は複数の工程により行われる。具体的には、まず原料となる鉱石を選鉱する工程、その後、製錬炉で溶解して銅成分が50〜70%程度含まれるマットを分離回収する工程、続いて、該マットを転炉に入れて不純物を除去する工程、不純物を除去した銅を精製炉で還元する工程、さらに、還元した銅に電解精製を行ってその純度を上げる工程を含んでいる。
ここで、上記工程のうち、マットを転炉に入れて不純物を除去する工程で用いられる銅転炉の操業装置は、マットを投入する転炉、及び、該転炉に送風管を介して空気等を送り込む転炉ブロワ等のエアー供給部等を備えている。
【0003】
従来、例えば、銅転炉の操業方法において、転炉を2基と、転炉ブロワを2基と、それらを接続する送風管を1基とを備えた銅転炉の操業装置Aが使用されている。この装置Aでは、送風管を1基しか設けていないため、転炉ブロワは常に100%の能力を発揮した状態で操業されている。従って、転炉ブロワが地震や他の災害の発生等により非常停止した際に、転炉内の溶湯が逆流せず、安全に転炉が非常傾転できる送風管内圧力である60kPaよりも高い115kPaで操業されてきている。このため、非常傾転の際の転炉内の溶湯の逆流を防止するためのエアー(又は窒素等)の緊急供給装置を別途設ける必要がないという特徴を有している。
【0004】
また、銅転炉の別の操業方法において、転炉を1基と、転炉ブロワを1基と、それらを接続する送風管を1基とを備えた銅転炉の操業装置Bでは、外部から転炉ブロワへ入るエアー量を調整するための転炉ブロワ吸込弁を制御することで、必要に応じて転炉に必要な圧力を調整でき、省エネルギー化に効果を有するという特徴がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記装置Aでは、転炉ブロワは常に100%の能力を発揮した状態で操業されているため、通常状態で転炉に必要な送風圧力以上となった場合は、別に設けた放風弁等によりエアーを抜き、送風管内の送風圧力を下げている。このため、エネルギーの損失が過大となる。
【0006】
また、上記装置Bでは、転炉が安全に非常傾転を行うことができる送風圧力よりも送風管内の圧力が小さくなっているため、緊急エアー(又は窒素等)供給装置を別途設ける必要がある。また、このような装置では、停電時に緊急エアー供給後、直ちにエアーの供給を停止しないと、転炉からの漏れガスにより、低所SO2公害を引き起こすという問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明は、省エネ効果に優れ、製造コストが良好で、且つ、緊急装置稼働後の環境事故発生が良好に抑制された転炉操業装置及びそれを用いた転炉操業方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、転炉の非常傾転時に、転炉ブロワが停止した際、送風管の転炉直前に送風圧力調整弁を設けることで、送風管内のエアーの残圧を利用して、転炉内の溶湯の逆流を阻止することができることを見出した。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、少なくとも1基の転炉と、前記転炉に接続された少なくとも1基の送風管と、エアーを前記送風管を通して前記転炉へ送り込む少なくとも1基のエアー供給部と、前記送風管の転炉直前に設けられ、転炉非常傾転時に前記エアー供給部の運転が停止した際、前記転炉内の溶湯の逆流を阻止するように送風管内の残存エアーの転炉への流量を調整する送風圧力調整弁と、を備えた転炉操業装置である。
【0010】
本発明に係る転炉操業装置の一実施形態においては、前記送風圧力調整弁がバタフライ弁、インレットガイド弁、又は、多翼ダンパー弁である。
【0011】
本発明は別の一側面において、転炉非常傾転時の転炉操業方法であって、転炉に送風管を通して送り込むエアーの供給が停止し、前記転炉が非常傾転する際、前記送風管の転炉直前において前記転炉内の溶湯の逆流を阻止するように前記送風管内の残存エアーの前記転炉への流量を調整する転炉操業方法である。
【0012】
本発明に係る転炉操業方法の一実施形態においては、前記転炉内の溶湯の逆流を阻止するように前記送風管内の残存エアーの前記転炉への流量を調整することにより、前記転炉へ送り込むエアーの圧力を60kPa以上に保つ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、省エネ効果に優れ、製造コストが良好で、且つ、緊急装置稼働後の環境事故発生が良好に抑制された転炉操業装置及びそれを用いた転炉操業方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る転炉操業装置の模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る転炉非常傾転時の転炉操業方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の実施形態は例として示すものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0016】
(転炉操業装置の構成)
図1に、本発明の実施形態に係る転炉操業装置10の模式図を示す。
転炉操業装置10は、銅製錬における不純物除去工程で用いられる装置であり、4基の転炉11〜11'''と、転炉11〜11'''に接続された2基の送風管12a、12bと、エアーを送風管12a、12bを通して転炉11〜11'''へ送り込む2基の転炉ブロワ(エアー供給部)13a、13bとを備えている。
【0017】
転炉11〜11'''は、銅製錬の各工程によって生成された、銅成分が50〜75%程度含まれるマットから不純物を除去するための製錬炉である。転炉11〜11'''には、マットの他、ケイ酸及び酸素が投入される。転炉11〜11'''によってマットから不純物を除去し、銅成分が98.5%程度の粗銅(ブリスター)を生成する。本実施形態では、転炉11〜11'''は4基設けられているが、その数は特に限定されない。
【0018】
送風管12aは、一端が後述の転炉ブロワ13aに接続されており、転炉11〜11'''側へ向かう途中で枝分かれして、他端が転炉11〜11'''の全てに接続されている。また、送風管12bは、一端が後述の転炉ブロワ13bに接続されており、転炉11〜11'''側へ向かう途中で枝分かれして、他端が、後述する送風圧力調整弁17の転炉ブロワ13a側の直前において送風管12aに合流するように接続されている。すなわち、転炉操業装置10では、1基の転炉に対して2基の転炉ブロワからエアーが供給される構成となっており、転炉の操業状態に応じて、エアーの供給流量を調整しながら、操業できるように構成されている。転炉ブロワ13a、13bから供給されるエアーは、この送風管12a、12bを通って転炉11〜11'''へ送り込まれる。
【0019】
転炉ブロワ13a、13bは、外部のエアーを所定の圧力で送風管12a、12b内へ送り込む。転炉ブロワ13a、13bには、転炉ブロワ吸込弁14が設けられており、これにより外部から転炉ブロワ13a、13bへ入るエアー量を調整する。
【0020】
送風管12a、12bにおいて、転炉ブロワ13a、13bから後述の送風圧力調整弁17及び電動弁18、18'、18''へ向かう途中に、放風弁15及びサイレンサー16が設けられている。放風弁15は、転炉ブロワ13a、13bによるエアーの供給により送風管12a、12b内の圧力が上昇し過ぎた場合に、その弁を開放して送風管12a、12b内のエアーを排気し、該圧力を下げる。サイレンサー16は、放風弁15の排気口に設けられており、放風弁15によるエアーの排気音を消す。
【0021】
さらに、転炉操業装置10は、送風管12a、12bの転炉11〜11'''直前に設けられ、転炉非常傾転時に転炉ブロワ13a、13bの運転が停止した際、転炉11〜11'''内の溶湯の逆流を阻止するように、送風管12a、12b内の残存エアーを転炉11〜11'''へ送風する流量の調整を行う送風圧力調整弁17を備えている。
ここで、「送風管12a、12bの転炉11〜11'''直前」とは、送風管12a、12bにおける転炉直近のような位置であって、具体的には、転炉11〜11'''の羽口から送風管12a、12b内へ約2〜50m離れた位置をいう。
【0022】
送風圧力調整弁17は、送風管内のエアーの流量を調整できるものであればどのようなものでもよく、例えば、バタフライ弁を用いることができる。バタフライ弁は、円筒形の弁箱の中で円盤状の弁体が回転する構造のバルブであり、流れの方向に対する弁体の角度を変えて流量又は圧力を調整している。その他の送風圧力調整弁17としては、インレットガイド弁、又は、多翼ダンパー弁等も用いることができる。
【0023】
「転炉非常傾転」とは、地震や火災等の災害の発生時等で、停電が発生して転炉ブロワ13a、13bが停止した際に、転炉羽口から送風管12a、12bへの溶体の流入(逆流)を防止するために操業中の転炉11〜11'''を傾転させることをいう。しかしながら、このように転炉ブロワ13a、13bが停止した状態で転炉11〜11'''が傾転すると、転炉11〜11'''の羽口から溶湯が送風管12a、12b内へ逆流するという問題がある。これに対し、本発明は、送風管12a、12bの転炉11〜11'''直前に設けられた送風圧力調整弁17が、送風管12a、12b内の残存エアーの転炉11〜11'''への流量を調整することで、転炉11〜11'''内の溶湯の逆流を阻止している。
【0024】
送風管12aにおいて、送風圧力調整弁17の転炉ブロワ13a側直前には、電動弁18''が設けられている。また、送風管12bにおいて、上述のように送風管12aと合流する位置の直前には、電動弁18'が設けられている。さらに、送風管12aにおいて、転炉11〜11'''と送風圧力調整弁17との間には、電動弁18が設けられている。これらの電動弁18〜18''は、どちらの転炉ブロワを使用するか選択するために用いられている。具体的には、電動弁18は、送風をシャットダウンするためのゲート弁であり、電動弁18'及び18''は、どちらのブロワを使用するかを自動で選択する弁である。各炉の電動弁18'及び18''の合計開度を比較し、少ない方が電動弁18を開けた時に自動的に開くように制御されている。また、合計開度が同じ場合は、優先選択ブロワの弁が開くように制御されている。
【0025】
(転炉操業方法)
次に、本発明の実施形態に係る転炉操業方法について説明する。
−通常操業時−
通常操業時は、転炉11〜11'''を稼働させながら、転炉ブロワ13a、13bから所定の圧力でエアーを送風管12a、12bへ送り込んでいる。このとき、転炉ブロワ13a、13bは100%の能力を発揮した状態でなく、必要に応じて転炉ブロワ吸込弁14を絞ることで、送風管12a、12bへ送り込むエアーの圧力を調整している。これにより、転炉ブロワ13a、13bを稼働させる電動機の仕事量が減少するため、省エネ効果に優れている。
転炉ブロワ13a、13bからのエアーは、送風管12a、12bをそれぞれ通り、途中で合流して転炉11〜11'''へ供給される。また、このとき、送風管12a、12b内の圧力が高すぎる場合等、所望の圧力ではない場合、放風弁15を開いて送風管12a、12b内のエアーを排気することで、所望の圧力に調整している。
このように、通常操業時は、送風管12a、12bには、転炉11〜11'''へ供給されるエアーが常に所定の圧力範囲で存在している。
【0026】
−転炉非常傾転時−
図2に、本発明の実施形態に係る転炉非常傾転時の転炉操業方法のフロー図を示す。地震や火災等の災害時に停電が発生したとき、転炉操業装置10では、転炉ブロワ13a、13bの稼働が突発的に停止すると共に、転炉羽口から送風管12a、12bへの溶体の流入(逆流)を防止するために転炉11〜11'''が非常傾転する。転炉11〜11'''が非常傾転すると、転炉11〜11'''内の溶湯が送風管12a、12b内へ逆流しようとする。溶湯は非常に高温であり、送風管12a、12b内へ逆流すると、送風管12a、12bや種々の弁等に大きな損傷を与えるため、この逆流を送風管12a、12b内の残圧を利用して阻止すべく、送風圧力調整弁17が開いて、送風管12a、12b内の残存エアーの転炉11〜11'''への流量を調整する。
【0027】
このとき、転炉11〜11'''が非常傾転を始めると、転炉11〜11'''の羽口から送風管12a内へ溶湯が逆流しようとするが、上述のように送風圧力調整弁17が開いて、送風管12a、12b内の残圧を利用して送風管12a、12b内の残存エアーを転炉へ送り込む。これにより、転炉11〜11'''からの溶湯の逆流が阻止される。なお、転炉11〜11'''の非常傾転が始まってから、溶湯の上部表面が羽口より下部になるまで、一般的に20秒程度の時間がかかる。このため、この20秒間程度、溶湯の逆流を食い止めることのできる残圧が送風管12a、12b内には必要となる。このように、20秒間程度、溶湯の逆流を食い止めるためには、送風圧力調整弁17から転炉11〜11'''の間の送風管12a内が溶湯の逆流を阻止できる最低圧力未満にならないように送風圧力調整弁17の開度を調整する必要がある。本実施形態では、図2に示すように、転炉へ送り込むエアーの圧力が60kPa(一般的に溶湯の逆流を阻止できる最低圧力)以上となるように送風圧力調整弁17を調整している。
このように、停電時に転炉ブロワ13a、13bが突発的に停止しても、送風圧力調整弁17により送風管12a、12b内の残圧を利用することで溶湯の逆流を阻止しているため、緊急エアー(又は窒素等)供給装置を別途設ける必要がなく、製造コストが良好となる。また、停電時に緊急エアーを供給しないため、転炉からの漏れガスにより、低所SO2公害を引き起こすという問題が生じず、緊急装置稼働後の環境事故発生を良好に抑制することができる。
【0028】
なお、上記「溶湯の逆流を阻止できる最低圧力」は、送風管12a、12bの容量及び転炉11〜11'''の非常傾転に要する時間から経験的に決められる。
例えば、送風管12a、12bの容量が300m3であり、転炉11〜11'''の非常傾転に要する時間が30秒である場合、経験によって、溶湯の逆流を阻止できる最低圧力は60kPaとなる。
【符号の説明】
【0029】
10 転炉操業装置
11、11'、11''、11''' 転炉
12a、12b 送風管
13a、13b 転炉ブロワ(エアー供給部)
17 送風圧力調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1基の転炉と、
前記転炉に接続された少なくとも1基の送風管と、
エアーを前記送風管を通して前記転炉へ送り込む少なくとも1基のエアー供給部と、
前記送風管の転炉直前に設けられ、転炉非常傾転時に前記エアー供給部の運転が停止した際、前記転炉内の溶湯の逆流を阻止するように送風管内の残存エアーの転炉への流量を調整する送風圧力調整弁と、
を備えた転炉操業装置。
【請求項2】
前記送風圧力調整弁がバタフライ弁、インレットガイド弁、又は、多翼ダンパー弁である請求項1に記載の転炉操業装置。
【請求項3】
転炉非常傾転時の転炉操業方法であって、
転炉に送風管を通して送り込むエアーの供給が停止し、前記転炉が非常傾転する際、前記送風管の転炉直前において前記転炉内の溶湯の逆流を阻止するように前記送風管内の残存エアーの前記転炉への流量を調整する転炉操業方法。
【請求項4】
前記転炉内の溶湯の逆流を阻止するように前記送風管内の残存エアーの前記転炉への流量を調整することにより、前記転炉へ送り込むエアーの圧力を60kPa以上に保つ請求項3に記載の転炉操業方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−75149(P2011−75149A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224576(P2009−224576)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】