説明

転用するための回収作業を容易にしたシールドマシン

【課題】シールドマシンにおけるできるだけ多くの部分を分解せずにシールドトンネルから引き出し、転用作業を容易にする。
【解決手段】
本発明のシールドマシンは、外殻部(スキンプレート11,21)と、着脱可能な態様で外殻部に収容された内殻部(カッター内周部12d、カッター駆動部15、エレクター装置24)と、既設シールドトンネルの半径方向に移動可能なグリッパー43を備え、グリッパー43を既設シールドトンネルの内面に当接させることで反力を得るグリッパーユニット40と、内殻部とグリッパーユニット40の間に介在し、伸縮によって内殻部及びグリッパーユニット40を近接方向又は離隔方向に移動させる牽引ジャッキ51と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転用するための回収作業を容易にしたシールドマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
シールドマシンはシールドトンネルを構築するための掘削機である。このシールドマシンの製作には日数を要し、シールドマシンは高価であることから、使用済みのシールドマシンを回収し、転用することが行われている。シールドマシンの回収に際しては、できるだけ大きな単位で分割した方が、転用先でのシールドマシン制作にかかる工数を削減でき、コスト削減効果が大きい。しかしながら、シールドマシンは回収に適した構造になっておらず、有価部品である駆動部、エレクター、スクリューコンベア等を部品毎に切断して解体することが一般的であった。
【0003】
特許文献1には、解体に適するように改良されたシールドマシンが開示されている。すなわち、この特許文献1には、外筒体と内筒体とからなる二重筒状のシールドマシンであって、内筒体を外筒体から引き抜いて回収するようにしたものが開示されている。このシールドマシンでは、シールドトンネル内に敷設された軌条に内筒体を載せ、後方側から適宜な引っ張り手段で引っ張ることで内筒体を回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−133468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献に記載されたシールドマシンにおいて、引っ張り手段として広く普及しているワイヤーを用いた場合、牽引時にワイヤーが切断されてしまうおそれがあった。また、引き抜いた内筒体を軌条の上を走行させているため、急カーブの区間では内筒体がシールドトンネルの内壁面に接触して引き出せなくなるおそれもあった。さらに、スクリューコンベアは、内筒体から分離された状態で運搬されるため、坑内での分離作業と転用先での組み立て作業が必要となり、制作にかかる工数が増えてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、シールドマシンにおけるできるだけ多くの部分を、分解せずにシールドトンネルから引き出して転用作業の容易化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明のシールドマシンは、外殻部と、着脱可能な態様で前記外殻部に収容された内殻部と、既設シールドトンネルの半径方向に移動可能なグリッパーを備え、前記グリッパーを前記既設シールドトンネルの内面に当接させることで反力を得るグリッパーユニットと、前記内殻部と前記グリッパーユニットの間に介在し、伸縮によって前記内殻部及び前記グリッパーユニットを近接方向又は離隔方向に移動させる牽引ジャッキと、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明のシールドマシンでは、まず内殻部を外殻部から分離し、牽引ジャッキを伸長させた状態でグリッパーを既設シールドトンネルの内面に当接させる。これにより、グリッパーユニットが固定される。次に、グリッパーユニットの固定状態を維持したままで牽引ジャッキを動作させ、内殻部をグリッパーユニット側に引き寄せる。その後、グリッパーの当接状態を解除して牽引ジャッキを動作させ、グリッパーを発進立坑側に移動させる。これらの工程を繰り返し行うことで、内殻部の分解を最小限に留めた状態で内殻部を発進立坑まで引き出すことができる。その結果、引き出した内殻部分を他のシールドマシンに転用する際に、その作業の容易化が図れる。
【0009】
前述のシールドマシンにおいて、前記内殻部が前記掘進方向側の端部に取り付けられるとともに前記グリッパーユニットをスライド可能な状態で支持するスライド支持部が前記掘進方向とは反対側の端部に設けられ、かつ、前記既設シールドトンネル内を走行可能に構成された後方台車を備えていることが好ましい。この場合、既設シールドトンネル内を走行可能な後方台車を介して内殻部とグリッパーユニットが取り付けられるので、走行抵抗が低減されて内殻部の引き出しが容易に行える。
【0010】
前述のシールドマシンにおいて、前記牽引ジャッキの一端を前記スライド支持部に、前記牽引ジャッキの他端を前記グリッパーユニットにそれぞれ接続した場合には、簡単な構成で牽引ジャッキの伸縮をグリッパーユニットや後方台車に作用させることができる。
【0011】
前述のシールドマシンにおいて、前記後方台車に、前記内殻部が首振り可能な状態で取り付けられている場合には、シールドトンネルのカーブ部分に倣って内殻部と後方台車との角度が変わるので、このカーブ部分を円滑に進行することができる。
【0012】
前述のシールドマシンにおいて、前記グリッパーが前記掘進方向に並ぶ複数のサブグリッパーを備え、前記複数のサブグリッパーのそれぞれについて前記既設シールドトンネルの半径方向に対する移動量が個別に設定可能な場合には、シールドトンネルのカーブ部分に倣ってサブグリッパーの移動量が定まるため、カーブ部分であっても必要な反力を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シールドマシンにおけるできるだけ多くの部分を、分解せずにシールドトンネルから引き出すことができ、転用作業の容易化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】シールドマシンの断面図である。
【図2】内殻部が外殻部から取り外された状態を説明する図である。
【図3】左側半部が図1のA矢視図、右側半部が図1のB矢視図である。
【図4】図1のC矢視図である。
【図5】シールドマシンの屈曲状態を説明する図であり、(a)は立坑に向かって左方向に曲がった状態を、(b)は同じく右方向に曲がった状態をそれぞれ示す。
【図6】グリッパーユニットを説明する図である。
【図7】内殻部の回収動作に伴うグリッパーユニットの動作を説明する図であり、(a)はグリッパーが装置の中心側に移動した状態を、(b)はグリッパーがトンネル内面を押圧している状態をそれぞれ示す。
【図8】(a)〜(e)は内殻部の回収動作を時系列で説明する図である。
【図9】シールドトンネル内のカーブ部分を、内殻部や後方台車、グリッパーユニットが移動している様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、シールドマシンの構成について説明する。図1に示すシールドマシンは、前胴部10と、後胴部20と、後方台車30と、グリッパーユニット40とを有している。なお、以下の説明では、シールドマシンの掘進方向を前方と、掘進方向とは反対の発進立坑側を後方ともいう。
【0016】
前胴部10はシールドマシンの前側に位置する部分であり、後胴部20はシールドマシンの後側に位置する部分である。後胴部20の前端部分は前胴部10の後端部分の内側に嵌めあわされており、前胴部10と後胴部20とが屈曲可能な状態で取り付けられる。
【0017】
前胴部10の外周部分には外殻部としての円筒状スキンプレート11が設けられ、前胴部10の前端部分には、カッター部12が設けられている。このカッター部12は、多数のカッタービットが設けられた円盤状部材12aと、この円盤状部材12aを支持するアーム部材12bとを有している。円盤状部材12aは、外周側に位置するリング状のカッター外周部12cと、カッター外周部12cの内側空間に嵌る円盤状のカッター内周部12dとを有している。これらのカッター外周部12cとカッター内周部12dは、溶接やボルト止め等の接合手段によって一体化されており、一体化された状態で地盤の掘削が行われる。
【0018】
図2に示すように、掘削の完了後、カッター外周部12cとカッター内周部12dは、溶接部分を切断したり、ボルトを取り外したりすることで、互いに分離される。そして、カッター内周部12dは、後方台車30やグリッパーユニット40等とともに一体で発進立坑側に引き戻され、回収される。一方、カッター外周部12cは、分解された状態で搬出される。なお、掘削完了後の回収作業については後述する。
【0019】
図1に示すように、前胴部10が有するスキンプレート11の内面に沿って前胴中殻部13が取り付けられている。図3に示すように、前胴中殻部13は、鋼製のリング状部材であり、スキンプレート11の全周に亘って設けられている。本実施形態の前胴中殻部13は、半径方向に積層された2層構造になっている。すなわち、外周側に位置する外周側前胴中殻部13aと内周側に位置する内周側前胴中殻部13bとを有している。そして、図1にも示すように、内周側前胴中殻部13bには複数の中折れジャッキ14が後方側に向けて取り付けられている。
【0020】
前胴中殻部13の内周側空間には、カッター部12を回転駆動させるカッター駆動部15が設けられている。図1及び図3に示すように、カッター駆動部15は、複数のカッター駆動モータ15aを有しており、アーム部材12bを介して回転力を伝達し、円盤状部材12aを回転駆動させる。このアーム部材12bは、カッター内周部12dの裏面から後方に向けて突設された板状部材であり、円盤状部材12aをカッター駆動部15に取り付けるために設けられている。
【0021】
図3に示すように、カッター駆動部15の下側半部における外周面には、外側に向けて複数の搬送用ローラ16が設けられている。本実施形態では、時計の3時と9時の方向に1個ずつ、5時と7時の方向に4個ずつの合計10個の搬送用ローラ16が設けられている。これらの搬送用ローラ16は、半径方向に移動可能に取り付けられている。すなわち、ローラジャッキ16aの伸縮によって進退可能な状態で取り付けられている。そして、地盤の掘削時においてはローラジャッキ16aが収縮されて、車輪16bが収納された状態となる。なお、図3は車輪部分の収納状態を示している。後述する回収時においては、ローラジャッキ16aが伸長されて、車輪16bが既設シールドトンネルTの内面に接した状態になる。このローラジャッキ16aの伸縮量は、車輪16bがシールドトンネルTの内面に接するように適宜調整される。そして、シールドトンネルTの内面に対する損傷を抑制するため、車輪16bをウレタンゴム等の弾性素材によって作製している。
【0022】
図1に示すように、後胴部20の外周部分にも外殻部としての円筒状スキンプレート21が設けられ、後胴部20の前端部分には後胴中殻部22が設けられている。図4に示すように、この後胴中殻部22は、鋼製のリング状部材であり、スキンプレート21の全周に亘って設けられている。そして、後胴中殻部22は複数の小室に区画され、各小室にはシールドジャッキ23が収容されている。これらのシールドジャッキ23は、既設のシールドトンネルTから反力を得て、収縮状態から伸長することでシールドマシンを推進させる。
【0023】
図1に示すように、後胴中殻部22の内周側空間には、エレクター装置24が設けられている。このエレクター装置24は、シールドトンネルTを組み立てるためのセグメントを把持し、所定の角度位置まで移送するための機構である。エレクター装置24には様々な種類があるが、例示したエレクター装置24は、図4に示すように、リング状の支持フレーム24aと、回転フレーム24bと、駆動モータ24cと、把持機構24dとを有している。そして、支持フレーム24aは回転フレーム24bを回転可能な状態で支持するリンク状フレームとして構成されている。回転フレーム24bは略U字状部材によって作製され、支持フレーム24aの内周部分に回転可能な状態で支持されている。駆動モータ24cは、支持フレーム24aに複数設けられており、回転フレーム24bを回転させるための動力を発生する。把持機構24dは、セグメントを把持するための機構である。
【0024】
図1に示すように、中折れジャッキ14の後端部は支持フレーム24aに取り付けられている。すなわち、カッター駆動部15とエレクター装置24とは、複数の中折れジャッキ14によって取り付けられている。そして、各中折れジャッキ14の伸縮量を調整することにより、カッター駆動部15とエレクター装置24との間の屈曲状態を調整することができる。例えば、図5(a),(b)に示すように、引き戻し方向(図中上方向)に向かって左右に屈曲させることができる。また、上下方向に屈曲させることもできる。
【0025】
図1及び図5に示すように、支持フレーム24aの下側半部には複数の搬送用ローラ25が設けられている。この搬送用ローラ25は、カッター駆動部15に設けられた搬送用ローラ16と同様に、時計の3時、9時、5時、7時の方向に複数設けられている。また、この搬送用ローラ25も、ローラジャッキ25aとウレタン製の車輪25bとを有しており、ローラジャッキ25aの伸縮によって車輪25bを進退可能に支持している。
【0026】
図1に示すように、エレクター装置24から後方側に向けて連結フレーム26が設けられている。この連結フレーム26は、後方台車30と連結するための部分である。本実施形態では、連結フレーム26の後端部と後方台車30のそれぞれにピン結合部PJを設け、互いに回転可能な状態で取り付けている。これにより、図5に示すように、エレクター装置24と後方台車30とが左右に首振り可能な状態で連結される。
【0027】
また、カッター駆動部15の下端から後方側の斜め上方に向けてスクリューコンベアSCが配置されている。このスクリューコンベアSCは、掘削された土砂を後方に向けて搬出するための装置である。例示したシールドマシンでは、このスクリューコンベアSCと、カッター部12のカッター内周部12dと、カッター駆動部15と、エレクター装置24とが内殻部を構成し、着脱可能な態様で前胴部10の外殻部や後胴部20の外殻部(すなわちスキンプレート11,21)に収容されている。そして、この内殻部は、掘削完了後において一体的に回収されることになる(後述する)。
【0028】
次に、後方台車30及びグリッパーユニット40について説明する。図1や図5に示す後方台車30は、前胴部10や後胴部20に牽引される台車であり、操作盤などの必要な設備が搭載される。この後方台車30の底部には、シールドトンネルTの内面に接する搬送用ローラ31が設けられている。この搬送用ローラ31は、カッター駆動部15に設けられた搬送用ローラ16と同様に構成されている。すなわち、ローラジャッキ31aが伸縮することにより、ウレタン製の車輪31bがシールドトンネルTの内面に倣って走行するようになっている。
【0029】
前述したように、後方台車30の前端部にはピン結合部PJが設けられており、連結フレーム26とピン結合されている。一方、後方台車30の後端部にはスライド支持部32が後方へ向けて突設されている。図1に示すように、スライド支持部32は、グリッパーユニット40を前後方向に移動可能な状態で支持する部材であり、例えば矩形枠状に組み立てた鋼製フレームによって構成される。
【0030】
図6に示すように、グリッパーユニット40は、摺動フレーム41と、グリッパー固定フレーム42と、グリッパー43とを有している。摺動フレーム41は、スライド支持部32に対して摺動する部分であり、本実施形態ではスライド支持部32を外周側から囲む角筒部材によって作製されている。グリッパー固定フレーム42は、グリッパー43と摺動フレーム41との間に設けられる筒状部材である。本実施形態のグリッパー固定フレーム42は、断面が8角形状の筒体によって作製されている。
【0031】
そして、摺動フレーム41の上面と下面のそれぞれに設けられた連結部材44を介して、グリッパー固定フレーム42に摺動フレーム41が取り付けられている。連結部材44におけるグリッパー固定フレーム42の固定部は回転軸によって構成されている。そして、上側の連結部材44が有する固定部と下側の連結部材44が有する固定部は同軸上に配置されている。このため、図5に示すように、グリッパー固定フレーム42は、連結部材44の固定部を中心に回動可能な状態に取り付けられる。
【0032】
図6に示すように、グリッパー43は、グリッパー固定フレーム42の上面、下面、及び、左右両側面のそれぞれに外側へ向けて突設されている。すなわち、各グリッパー43は90度間隔で設けられている。このグリッパー43は、グリッパージャッキ43aとグリッパーシュー43bとを備えている。
【0033】
グリッパージャッキ43aは、伸縮によってグリッパーシュー43bを進退方向に移動させる部分である。すなわち、収縮状態のグリッパージャッキ43aを伸長させることで、グリッパーシュー43bはシールドトンネルTの内面側に移動される。反対に、伸長状態のグリッパージャッキ43aを収縮させることで、グリッパーシュー43bはグリッパー固定フレーム42側に移動される。
【0034】
グリッパーシュー43bは、シールドトンネルTに当接し、シールドトンネルTの掘削後に内殻部を回収する際において、グリッパー43がずれないように滑り止めとして機能する部材である。すなわち、グリッパーシュー43bをシールドトンネルTの内面に当接させた状態で、グリッパージャッキ43aによってグリッパーシュー43bをシールドトンネル側にさらに押圧することで、グリッパーユニット40がシールドトンネルTに固定される。
【0035】
また、グリッパーシュー43bをシールドトンネルTの内面に当接させた状態からグリッパージャッキ43aを収縮させると、グリッパーシュー43bがこの内面から離隔され、両者の間に空間を形成できる。これにより、グリッパーユニット40を、シールドトンネルTの内部で移動させることができる。なお、シールドトンネルTの構築時においては、セグメントの通る空間を確保する必要がある。このため、グリッパー固定フレーム42の下面に取り付けられているグリッパー43(下部グリッパー43U)を着脱可能に構成し、シールドトンネルTの構築時に取り外すことでセグメントの通る空間を確保するようにしてもよい。
【0036】
図1に示すように、各グリッパー43は、掘進方向に並ぶ複数のサブグリッパー43cを備えている。これらのサブグリッパー43cのそれぞれは、グリッパージャッキ43aとグリッパーシュー43bの組で構成されており、グリッパーシュー43bの移動量(すなわちシールドトンネルTの半径方向の移動量)を個別に設定できる。これにより、シールドトンネルTのカーブ部分に倣ってサブグリッパー43cの移動量が定まり、カーブ部分であっても必要な反力を容易に得られるようになる。
【0037】
スライド支持部32の内側には、牽引ジャッキ51が設けられている。この牽引ジャッキ51は、内殻部とグリッパーユニット40の間に介在し、伸縮によって内殻部とグリッパーユニット40とを近接方向又は離隔方向に移動させる部材である。本実施形態では、図6に示すように、左右一対の牽引ジャッキ51が設けられている。そして、図1に示すように、この牽引ジャッキ51の前端がグリッパーユニット40の摺動フレーム41に接続され、後端がスライド支持部32に接続されている。このため、牽引ジャッキ51の伸縮状態に応じてグリッパーユニット40はスライド支持部32上を移動する。例えば、牽引ジャッキ51が収縮状態にあるとき、グリッパーユニット40は、スライド支持部32における後端部分に位置する。反対に牽引ジャッキ51が伸長状態にあるとき、グリッパーユニット40は、スライド支持部32における前端部分(すなわち後方台車30側の端部)に位置する。
【0038】
次に、以上の構成を有するシールドマシンによる作業について説明する。このシールドマシンは、シールドトンネルTの構築を完了した後の回収作業に特徴を有している。このため、シールドマシンの回収作業について説明する。
【0039】
まず、図1を参照する。シールドトンネルTが構築されたならば、後胴中殻部22を分解して搬出する。その後、外周側前胴中殻部13aと内周側前胴中殻部13bとを分離する。外周側前胴中殻部13aと内周側前胴中殻部13bとの分離は、例えば固定ボルトを取り外すことで行われる。さらに、円盤状部材12aのカッター外周部12cとカッター内周部12dを分離する。この分離作業は、バーナーによる切断や固定ボルトを取り外すことで行われる。その結果、シールドマシンの内殻部(カッター内周部12d,カッター駆動部15,エレクター装置24,スクリューコンベアSC)が外殻部(各スキンプレート11,21)から分離され、後方台車30及びグリッパーユニット40と共に移動可能な状態になる。
【0040】
その後、牽引ジャッキ51を収縮させたままグリッパージャッキ43aを伸長させる。これにより、図7(a),(b)に示すように、シールドトンネルTの内面から離れた位置にあったグリッパーシュー43bが、シールドトンネルTの内面に当接され、グリッパージャッキ43aからの押圧によってグリッパーユニット40がシールドトンネルTに固定される。グリッパーユニット40が固定されたならば、牽引ジャッキ51を伸長させる。これにより、図2に示すように、内殻部が後方台車30と共に、後方側(発進立坑側)へ移動される。
【0041】
以降は、牽引ジャッキ51による内殻部等の移動とグリッパージャッキ43aの移動とを交互に繰り返す。例えば、図8(a)に示すように、グリッパージャッキ43aを収縮させた状態で牽引ジャッキ51を収縮させることにより、内殻部等の位置はそのままで、グリッパーユニット40をスライド支持部32の後端まで移動させることができる。そして、図8(b)に示すように、この状態からグリッパージャッキ43aを伸長させることで、グリッパーユニット40をシールドトンネルTに固定することができる。さらに、図8(c)に示すように、グリッパーユニット40を固定した状態で牽引ジャッキ51を伸長させることで、内殻部等が後方側へ移動される。内殻部等が移動されたならば、図8(d)に示すようにグリッパージャッキ43aを収縮させ、図8(e)に示すように、牽引ジャッキ51を収縮させる。
【0042】
なお、シールドトンネルTのカーブ部分においては、図9に示すように、後方台車30と内殻部とがピン結合部PJによって首振り可能な状態で連結されているので、シールドトンネルTの曲率にあわせて屈曲する。ここで、カーブ部分の曲率はシールドマシンで掘削可能な曲率である。内殻部等の回収時においては進行方向が逆転するだけであるため、内殻部等はこのカーブ部分を確実に通過することができる。
【0043】
さらに、グリッパーユニット40において、各グリッパー43が掘進方向に並ぶ複数のサブグリッパー43cを備えているので、シールドトンネルTの内面に倣って各サブグリッパー43cのグリッパージャッキ43aの伸長量が調整される。その結果、カーブ部分であっても、グリッパーユニット40をシールドトンネルT内に、確実に固定することができる。加えて、摺動フレーム41とグリッパー固定フレーム42とが回転可能に取り付けられているので、この点でも固定を確実に行うことができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のシールドマシンによれば、内殻部よりも後方側に後方台車30とグリッパーユニット40と牽引ジャッキ51とを設け、これらの機構によって内殻部を発進立坑まで移動させることができる。すなわち、カッター外周部12cを除いたカッター部12の大半、カッター駆動部15、エレクター装置24、及び、スクリューコンベアSCを解体することなくそのままの状態で発進立坑まで移動させることができる。これにより、内殻部や後方台車30等を他のシールドマシンに転用する際に、その作業の容易化が図れる。
【0045】
また、既設シールドトンネルT内を走行可能な後方台車30を介して内殻部とグリッパーユニット40が取り付けられているので、走行抵抗が低減されて内殻部の引き出しが容易に行える。
【0046】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0047】
前述のシールドマシンでは、スライド支持部32に牽引ジャッキ51を配置し、内殻部とグリッパーユニット40とを移動させていたが、牽引ジャッキ51の配置箇所はスライド支持部32に限定されない。内殻部とグリッパーユニット40とを移動させることができれば、他の位置に配置してもよい。要するに、牽引ジャッキ51は、内殻部とグリッパーユニット40との間に介在していればよい。
【0048】
前述のシールドマシンでは、スライド支持部32を設けた後方台車30を介して、グリッパーユニット40と内殻部とを連結していた。ここで、操作盤等が内殻部と一体に設けられているような小型のシールドマシンの場合には、内殻部の後端にスライド支持部32を設け、グリッパーユニット40や牽引ジャッキ51を取り付けてもよい。
【0049】
前述のシールドマシンでは、内殻部の連結フレーム26と後方台車30とをピン結合部PJによって首振り可能な状態で連結したが、首振り可能な状態で連結できれば他の連結機構を用いてもよい。
【0050】
前述のシールドマシンは、カーブ部分があるシールドトンネルTを構築するものを例示したが、直線状のシールドトンネルTであれば、ピン結合部PJ等の首振り結合部は不要である。また、グリッパー43に関し、複数のサブグリッパー43cに分割されている構成を例示したが、直線状のシールドトンネルTであれば、サブグリッパー43cに分割しなくてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…前胴部,11…円筒状スキンプレート,12…カッター部,12a…円盤状部材,12b…アーム部材,12c…カッター外周部,12d…カッター内周部,13…前胴中殻部,13a…外周側前胴中殻部,13b…内周側前胴中殻部,14…中折れジャッキ,15…カッター駆動部,15a…カッター駆動モータ,16…搬送用ローラ,16a…ローラジャッキ,16b…車輪,20…後胴部,21…円筒状スキンプレート,22…後胴中殻部,23…シールドジャッキ,24…エレクター装置,24a…支持フレーム,24b…回転フレーム,24c…駆動モータ,24d…把持機構,25…搬送用ローラ,25a…ローラジャッキ,25b…ウレタン製の車輪,30…後方台車,31…搬送用ローラ,31a…ローラジャッキ,31b…車輪,40…グリッパーユニット,41…摺動フレーム,42…グリッパー固定フレーム,43…グリッパー,43U…下部グリッパー,43a…グリッパージャッキ,43b…グリッパーシュー,43c…サブグリッパー,44…連結部材,51…牽引ジャッキ,PJ…ピン結合部,SC…スクリューコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻部と、
着脱可能な態様で前記外殻部に収容された内殻部と、
既設シールドトンネルの半径方向に移動可能なグリッパーを備え、前記グリッパーを前記既設シールドトンネルの内面に当接させることで反力を得るグリッパーユニットと、
前記内殻部と前記グリッパーユニットの間に介在し、伸縮によって前記内殻部及び前記グリッパーユニットを近接方向又は離隔方向に移動させる牽引ジャッキと、
を備えたことを特徴とするシールドマシン。
【請求項2】
前記内殻部が前記掘進方向側の端部に取り付けられるとともに前記グリッパーユニットをスライド可能な状態で支持するスライド支持部が前記掘進方向とは反対側の端部に設けられ、かつ、前記既設シールドトンネル内を走行可能に構成された後方台車を備えたことを特徴とする請求項1に記載のシールドマシン。
【請求項3】
前記牽引ジャッキの一端を前記スライド支持部に、前記牽引ジャッキの他端を前記グリッパーユニットにそれぞれ接続したことを特徴とする請求項2に記載のシールドマシン。
【請求項4】
前記後方台車には、前記内殻部が首振り可能な状態で取り付けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載のシールドマシン。
【請求項5】
前記グリッパーは、前記掘進方向に並ぶ複数のサブグリッパーを備え、
前記複数のサブグリッパーのそれぞれは、前記既設シールドトンネルの半径方向に対する移動量が個別に設定可能であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のシールドマシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate